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2026/08/04


リンホフの高級カメラに供給された
ローデンシュトック社のプレミアムモデル
G.Rodenstock HELIGON 90mm F2.8 Linhof用
ヘリゴン(Heligon)はドイツのG.Rodenstock社が市場供給した、大口径レンズ群の名称です。35mm判カメラ用やArriflexシネマ用、X線撮影用としても展開されていましたが、今回取り上げる焦点距離90mmのモデルは、リンホフの中判プレスカメラ用に1950年代初頭から供給されたものです。同カメラのカタログには当初ZeissPlanar 100mm F2.8Schneider Xenotar 100mm F2.8が供給されていましたが、どういうわけか1953年頃のカタログ内からは消えています。理由はわかりませんが、これらの代わりとなる明るい標準レンズとして抜擢されたのがHeligonでした[1,2]
同種の中判レンズで口径比F2.8を持つ製品には5枚構成の設計が多い中、本品は6枚構成のガウスタイプを採用しており、安定感のある描写を特徴としていました。流通品には「Linhof selected」の刻印が見られる個体があり、リンホフ社が自社基準で選別・調整した上で自社製品に組み込んでいたことが伺えます。シャッターにはSynchro-Compurが用いられ、絞り羽根10枚、B1/400秒程度という当時のプレスカメラ用レンズとして実用的な仕様を備えていました。主にリンホフ・スーパーテヒニカ23(6x9)に搭載され、携行性に優れた標準レンズとして活躍しました[2]
Rodenstock HELIGON 90mm F2.8(Linhof Super Techinica 23用): 絞り F2.8-F32, フィルター径 49mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ

 
レンズの相場と入手の経緯
eBay ではおおむね 6001000ドル前後で取引されており、市場での個体は決して多くないものの、常にいくつかの出品が見つかる程度に流通が安定しています。海外ではプロフェッショナル向けとして長期にわたり一定の需要が続いていたため、極端に枯渇することがないのはありがたい点でしょう。また、適切に扱われ、大きく傷んだものが少ないのは大きな魅力です。実用品としての信頼性が高いのは、このクラスのレンズならではの強みと言えるでしょう。
一方で、国内での流通は極めて稀で、ヤフオクやメルカリなど主要なフリマ・オークションサイトを丹念に探しても、まず見かけることはありません。リンホフに供給されたレンズという性質上、一般ユーザーの手に渡る機会が少なく、結果として国内中古市場ではほぼ“幻”に近い存在になっています。
今回入手した個体は知人からお預かりしたもので、はじめからM42マウントへ改造されていました。光学系にはカビ・クモリ・傷といった劣化は見られず、レンズ本来の描写性能を存分に引き出せる、良好なコンディションを保っていました。
この種のレンズシャッター方式のレンズはそのままではデジタルカメラで使用することはできず、マウント改造がほぼ必須となります。M42 などの一眼レフ用マウントへ変換するのが定番のアプローチで、本品もレンズシャッターのマウント部にリバースアダプターリングを固定し、直進ヘリコイドに接続させていました。
 
収録資料
[1] Operating Instruction for Super Techinica 6x9, Precision Camera, Werke Munchen 25
[2] Linhof Precision Camera Super Techinica 23 マニュアル(1950年代のもの)
 
撮影テスト
 
開放から周辺部に至るまで滲みやフレアの兆候はほとんど見られず、全体として非常にクリアでコントラストの高い描写を示します。ピント面の解像力は優秀で、エッジの立ち上がりが鋭く、微細な質感までも緻密に描き出します。
描写の方向性としては、クセノタールのようなシャープネス重視のキレッキレな設計とは一線を画し、プラナーに通じる滑らかな階調表現を維持しています。ディテールと柔らかなトーンを両立させた、質感重視の設計といえるでしょう。リンホフのような最高級カメラメーカーへ供給されていたレンズであることを踏まえれば、この完成度の高さにも納得がいきます。
近接撮影では、背後のボケにわずかな渦巻き——いわゆるグルグルボケ——が現れます。これは古典的なガウスタイプのレンズにしばしば見られる特徴であり、設計思想を考えれば自然な挙動といえます。とはいえボケ味が硬質に転じることはなく、輪郭の主張を抑えた適度な柔らかさと、品位ある滑らかさを保っています。背景の階調も上品に溶け、被写体を立体的に引き立てる描写傾向が感じられます。
色再現については、ローデンシュトック製レンズに共通する寒色寄りの傾向が本レンズにもしっかりと受け継がれており、クールで澄んだ色調が被写体の質感を誇張なく描き出します。過度な色偏りではないため後処理での微調整もしやすく、作品づくりの幅を広げてくれる一本です。
総じて、開放から高い描写性能を発揮しつつ、クラシカルな光学設計ならではの味わいも併せ持つ、非常に完成度の高いレンズです。
  
f2.8(開放) FUJIFILM gfx100S (FS:CC) 

f2.8(開放) FUJIFILM GFX100S (WB:auto, FS:CC) 
 
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: Standard)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: Standard)
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: ETERNA) ここから下の写真はフィルムシミュレーションを入れていますので、色味にはかなりクセがあります

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: Eterna)




F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: Eterna Bleach Bypass)




F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: St)







F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: St)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: St)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: St)


F5.6  Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: St)

2024/10/27

Rodenstock Tiefenbildner Jmagon(IMAGON) 20cm F5.8

絵画主義者が発案した写真レンズの新境地、魔鏡イマゴン

Rodenstock Tiefenbildner Jmagon(IMAGON) 20cm F5.8

1930年にドイツの光学メーカー・ローデンストック社からひどく変わった不思議なレンズが登場します。それはIMAGON(より正確にはTiefenbildner-IMAGON)という名のレンズで、まるでレンコンの断面のような多数の穴を持つ複雑な絞り「イマゴンディスク」を内蔵していました。このレンズの吐く写真も独特で、残存収差を故意に残し、写実的な画作りから大きくかけ離れた甘くロマンチックな柔らかさと、毛糸のようなフワッとしたぼかし効果、写真というよりは絵画に近い描写を特調としていました。しかも、中心部の像は緻密で繊細です。たちまち世の肖像写真家達を魅了し、虜にしてしまいます。イマゴンは後に「ソフトフォーカス(軟焦点)レンズ」という新しいジャンルを切り拓くパイオニア的な存在となります。ただし、イマゴンを一括りにソフトフォーカスレンズの一種としてしまうことには反発もあります。レンズが生まれた経緯を知れば、そのことを容易に理解できるでしょう[1,2]。

レンズは写真家で絵画主義者のハインリッヒ・キューン(1866-1944)が発案し、後に光学メーカーのシュテーブル社(Optisches Werk Dr. Staeble & Co)を創業するフランツ・シュテーブル博士(1876-1950)による設計で1920年代に生み出されました。ハインリッヒ・キューンは光学的な作用により絵画と写真を補完させる実験的な試みを繰り返していました。彼が写真術を単なる記録以上のものに作り変えようとしたのは明白で、メニスカス単レンズの前方に網のような障害物を設置するというアイデアに到達していたようです。ただし、絵画のような特殊効果を得るまでには至らず、シュテーブル博士に自身のアイデアを相談、その後、二人は共同でイマゴンディスクのアイデアに到達します。彼らの着眼点は球面収差の精密なコントロールにありました[2]。

ハインリッヒ・キューン(1866-1944) 
(生成系AIによる似顔絵スケッチ)
 

写真レンズの絞りには球面収差を抑えハロの原因とボヤけた像を取り除く効果と、緻密でシャープな像(結像核)を生み出す2つの働きがあります。ハロと結像核のバランスは絞りの開閉である程度コントロールできます。しかし、このコントロールはある意味雑で、間を取るとどちらも中庸な結果となってしまいます。絵画と写真の境界を目指す二人は力強い結像核にボヤけた像を重ねる事が重要と考え、絞りの代わりとなり、これらを適度なバランスで合成することのできるレンコン状のディスクを開発します。当初のレンズは発案者の名前を取りAnachromat Kühn(アナクロマート・キューン)という名称で1920年代に発売されましたが、後の1928年にTiefenbildner-Imagonへと改称されます。"Tiefenbildner"(ティーフェンビルドナー)という聞き慣れない用語はドイツ語で芸術的な意味での「被写界深度の創造者、変調者、画家」と訳すのが最も適切なのだそうです[6]。"Imagon"はラテン語のIMAGOあるいは英語のIMAGEです。シュテーブル社の幾つかの発明特許は1930年にミュンヘンのローデンシュトック社に買い上げられており、IMAGONの発明もその中の一つでした[1,2]。レンズは1930年にローデンシュトック社の製品となり、写真館などで肖像写真に広く用いられるようになります。以後もレンズはプロフェッショナルフォトグラファーから長期に渡り愛用・支持され、大きな設計変更も無く1990年年代まで生産され続けられました[3,4]。

Imagonの構成図:Rodenstockのカタログ掲載図からトレーススケッチした
 

参考文献・資料

[1] A History of the Imagon lens by Dr. Alfons Schultz (archived)

[2] History, Characteristics and Opration of Imagon lenses,Pentaconsix.com

[3] Rodenstock 公式パンフレット 1986年4月

[4] Rodenstock Lenses for Large Format 1995

[5] Wolfgang Baier: Quellendarstellungen zur Geschichte der Fotografie. 2. Auflage, Schirmer/Mosel, München 1980, ISBN 3-921375-60-6, S. 536

[6] wikipedia: Imagon


入手の経緯

長期間製造されたこともあり、中古市場には比較的まとまった数の個体が流通しています。国内のネットオークションでは20cm H5.8が3~4万円程度で取引されており、古典レンズにしては手の出しやすい価格です。ただし、35mm判から中判6x6フォーマットまでに準拠した120mm F4.5は希少性が高く、800~1000ユーロ程度といい値段します。ちなみにライカマウントの90mm F4.5もあり知人に見せてもらったことがありますが、これはプロトタイプなので値段は不明です。購入時は交換用のイマゴンディスクが3枚全て揃っているかどうかが重要です。

 

Rodensock Tiefenbildner Jmagon(Imagon) 20cm F5.8: フィルター径 55mm, 設計構成 1群2枚, イマゴンディスク3枚付属 H=5.5-7.7, H=7.7-9.5, H=9.5-11.5, 撮影フォーマット 6x9(中判) - 9x12

 

撮影テスト

単玉だからと軽視すると、このレンズのグラマーな描写に度肝を抜かれることになります。もうメチャクチャいいです。ピント部は繊細で中央はかなり緻密な像になりますが、輪郭部がキラキラと光輝き、ドラマチックな写真が撮れます。イマゴンディスクはH=5.8-7.7が最も収差量が多く、続いてH=7.7-9.5, H9.5-11.5と続きますが、私にはハロの出方が少し控えめのH=7.7-9.5が最も使いやすく、このディスクを常用していました。


Kodak GOLD 200 (6x9 medium format)

Kodak Gold 200(6x9 format) filter:H7.7(開放) イマゴンの凄さは、もう充分にわかりました!KODAKは少し黄色っぽい感じに写ります




Kodak GOLD 200(6x9 format), filter: H7.7(開放)
 

 

Fujifilm Pro160NS(6x7 medium format)

Fujifilm Pro 160NS(6x7 format), filter: H7.7(開放) 富士フィルムのカラーネガではフィルムの特性からか、少し緑色っぽい発色です












2018/10/22

試写記録:Schneider Kreuznach REOMAR 45mm F2.8 改Leica-L

F2.8(開放)sosny A7R2(WB:auto)  開放ではピント部全体を薄いフレアが纏い、柔らかい描写傾向となります

F4  sony A7R2(WB:auto) 1段絞ればフレアは消え、スッキリとヌケがよく、コントラストは素晴らしいレベルで





F5.6 sony A7R2(WB:日光)  やや青みののったクールトーンな色味で、美しく仕上がります

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 再び開放。やはりピント部を薄いベールの様なフレアを纏いますが、中央はしっかりと解像しており線の細い繊細な描写です

F4  sony A7R2(WB:日光)もう一度絞ったショット。シャープでスッキリと写るレンズです


Camera SONY A7R2
Lens Schneider Kreuznach REOMAR 45mm F2.8







知人に代わってオークションで購入(代行落札)したレンズが数日間だけ我が家に転がり込んできましたので、軽く試写結果をリポートしてみたいともいます。ドイツのSchneider(シュナイダー)社がKodak(コダック)社のRetinette IA/IBというレンジファインダーカメラに搭載する固定式レンズとして1958年頃から1966年まで供給したReomar(レオマー)です。Reomarにはこれ以前の旧式のRetinetteに搭載されたモデルもありますが、開放F値がF4.5やF3.5とやや暗かったり、焦点距離が50mmであったりと、少し仕様が異なります。
今回紹介するReomar(後期型)にはSchneider社製の個体に加え、Rodenstock(ローデンストック)社製の個体があります。大衆機のRetinettiがヒットしたことで生産供給が追い付かず、Rodenstock社にOEM供給を依頼したためだという話を誰かに教えてもらったことがありますが、確かな情報ではありません。どなたか信ぴょう性の高い情報をお持ちの方は教えていただけると幸いです。


レンズのデザインが面白く、シャッターの部分に人物の上半身のイラストや集合写真、風景などが刻まれています。一体何だろうとよく見てみると、何とシャッターユニットにヘリコイドを内蔵しておりピント合わせができます。レンズシャッターなので、これにはビックリ。レンズ構成は3群3枚のトリプレットです。
絞り羽 5枚構成, 絞り指標 F2.8-F22,  設計 3群3枚(トリプレット), フィルター径 29.5mm, PRONTOR 250Sシャターに搭載, ヘリコイド内蔵



オークションに出品されていた段階で既にカメラから取り出され、ライカLマウントに改造されていましたので、アダプターを介してSONY A7R2で使用することにしました。スッキリとヌケのよいクリアな写りで、開放からコントラストの高いレンズです。細部に目を向けると写真の中央は開放で線の細い繊細な描写となり、滲みをまといながらもしっかりと解像しています。1段絞れば滲みは消えシャープネスが向上、カリッとした解像感の強い仕上がりとなります。カラーバランスはやや青みが強くなる傾向があり、白が引き立つクールトーンな描写です。クリアでヌケの良い性質と相まって、とても清楚で品のある味付けになります。

2017/11/20

G.Rodenstock Doppel-Anastigmat HELIGONAL 6cm F5.2








歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part.4
クアドラプレットを組み込んだ
幻の広角レンズ
G.Rodenstock Doppel-Anastigmat HELIGONAL 6cm F5.2(ドッペル・アナスティグマート ヘリゴナル)
レンズの設計構成は描写の性格を決める重要はファクターなので、構成が特異なレンズには俄然興味が沸いてくる。1905年に登場したドイツ・ミュンヘンの光学メーカー、ローデンストック(G. Rodenstock)社のヘリゴナル(HELIGONAL)は、まさにそんなマニア心をくすぐるレンズの一つであろう[1]。このレンズは現存する個体数が極めて少ないため、レンズフリーク達が探し求める幻のレンズとして指名手配されている[3]。私も以前から気になりマークしていたが、ある日、偶然にも入手できたのでレポートしてみたい。
ヘリゴナルは1905年に登場し、少なくとも1911年まではエストニア向けのカタログに掲載があったため確かに供給されていた[3]。レンズについての資料は極めて少なく、キングスレークの本[4]に簡単な記載がある以外には、専門誌に掲載されていたチラシがネットで見つかる程度である[5,6]。しかも、チラシにはスペックに関する詳細が何一つ記されておらず、推奨フォーマットはおろか搭載されていたカメラが何であったかなど不明な点が多い。文献[7]には広角レンズと記されており、35mm換算で焦点距離21mmから30mm辺りの推奨画角とあるが、根拠となる資料がないうえ、どうも使用してみた感触では、30mmから40mm(中判6x6フォーマットか645フォーマット)あたりではないかと考えるようになった。
レンズの設計は前群にダブレット(2枚玉)、後群にプロターリンゼ型のクアドラプレット(4枚玉)を配置した独特な構成形態をとっており(下図)、前群を外した後群だけの状態でも、口径比F12のアナスティグマートとして撮影に使用できる。黎明期の広角レンズには珍しく前・後群が非対称のため、発売当初は専門誌からかなり酷評された[1,3]。当時の広角レンズはまだ対称型が主流で時代が早すぎたのであろう。しかし、実際には開放から充分な画質が得られることから、評価は次第に良くなっていったそうである。
G.Rodenstock Heligonal F5.2(1905-1911)構成図: 文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)。全群は2枚のはり合わせによるダブレット、後群はCarl Zeiss(パウル・ルドルフ設計)が1895年に発売した4枚玉のプロターリンゼ型クアドラプレットである




ヘリゴナルのような接合面を多く持つ密着タイプの設計構成はこの時代以前の主流であったが、レンズ設計の軸足はテッサーやダイアリートなど明るいレンズを設計するのに有利な分離タイプにシフトしてゆき、このレンズも短い期間の供給のみで、1912年の同社の輸出カタログでは姿を消している[8]。第一次世界大戦後にも同社から全く同名のレンズが発売され1925年頃まで供給されていたが、そちらはよくあるラピッドレクチリニアタイプのポートレート用レンズで、海外のオークションにも度々登場する[3]。

入手の経緯
今回のモデル(広角ヘリゴナル)を購入する場合、ポートレート用ヘリゴナルとの識別が大きなポイントになるが、ネットオークションでの識別は容易なことではない。唯一のヒントはローデンストック社のカタログに掲載されていたイラスト[3]であろう。これをみて鏡胴のデザインで判断することと、鏡胴側面に記載されたF5.2の口径比のみが確かな糸口となる。同社の製品台帳には1934年よりも前の情報が欠落しているため、シリアル番号から製品個体の製造年を割り出す事はできない[9]。
ある日、日本のヤフー・オークションに広角ヘリゴナルと思われる個体が登場。みるとシリアル番号が8000番台と極めて初期のレンズであったので、期待は一気に高まった。ポートレート用ヘリゴナルとの違いを知るマニアは日本にいくらもいないので、これは千載一遇のチャンスと入札、レンズは3万円ちょっとで私のものとなった。届いたレンズが広角ヘリゴナルであることを判断するには現物の後群がクアドラプレットである事を確認するだけだ。「レンズ神よ。これまで何度も幸運を分け与えてくれたが、今もう一度チャンスを分け与えたまえ~」。後群を覗き込むと思わず溜め息が出た。暗い反射が3個に明るい反射が2個のクアドラプレット。紛れもなく広角ヘリゴナルであった。
G.Rodenstock  Doppel-Anastigmat Heligonal 60mm F5.2: 絞り羽 10枚構成, 構成2群6枚ヘリゴナル型, 絞り 5.2/6.3/7.7/9/11/16/22/31/?, フィルターネジなし



参考文献
[1]Johnson, George Lindsay, Photographic Optics and Colour Photography: Including the Camera, Kinematograph, Optical Lantern, and the Theory and Practice of Image Formation., New York: D. Van Nostrand Company(1909)
[2]  構成図の掲載雑誌:Forsner's Fotografiska Magasin, Priskurant I, 1910-11, Stockholm Örebro
[3] camera-wiki, HELIGONAL
[4] 「写真レンズの歴史」キングスレーク著 朝日ソノラマ
[5] Rodenstock社の広告(1906年) フランス語(LINK)
[6] "LES ANASTIGMAT RODENSTOCK sont superieurs, Representant"  L.CAVALIER, PARIS (1908年)フランス語(LINK
[7] Lens Collectors Vade Mecum, 3rd edition
[8] G. Rodenstock Lenses of Quality Catalog 1912 for USA
[9] Rodenstockの台帳には1934年よりも古い記録がないため、いったい何本のレンズが作られたかなど、このレンズに関する確かなデータを得ることはできない

撮影テスト1
中判 6x9 format (PaceMaker SPEED GRAPHIC)
文献[7]にはレンズのイメージサークルが中判6x9フォーマットを余裕でカバーできるとあったものの、四隅の光量落ちが目立つ結果となった。ちなみにレンズを中判6x9フォーマットで用いた場合の撮影画角は、35mm判における焦点距離26mm相当とかなり広い。光量落ちを狙う場合はこれでもよいが、避けたいならば6x6よりも小さな撮影フォーマットがよいだろう。
開放から滲みやフレアは見られず堅実な写りで歪みもたいへん小さい。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケなどは見られない。
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400/彩度・減) 四隅の光量落ちがやや強い。好きか嫌いかと言われれば勿論すきだ
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400)
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400/彩度・減) 雰囲気を出すためシャッタースピードを上げて露出を少し落とし、光量落ちを目立つようにしている。また、フォトショップで彩度を少し下げている。中心は緻密に描写されている
F5.2(開放), 銀塩カラーネガ 中判6x9 format(Kodak Portra 400) 今度は露出をあげ、開放で撮影した。フレアは少なく、歪みは小さい








撮影テスト2
中判6x7フォーマット (PaceMaker SPEED GRAPHIC)
四隅に顕著な暗角が出たため、今度は中判6x7フォーマットで撮影してみた。依然として光量落ちの目立つ撮影結果であるが、かなり改善されている。
F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7format(FUJIFILM PRO160NS)  太陽を入れたド逆光。この時代のレンズにしては、なかなかの逆光耐性で濁りはそれほどきつくない


F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7 format(FUJI PRO160NS) 階調描写はドッペルプロタ―によく似ており、この時代のBテッサーF6.3に比べても明らかに軟らかい

F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7 format(FUJI PRO160NS) まだ四隅の暗角はきつめだ。6x6でも広いということかな

F5.2(開放)銀塩カラーネガ 中判6x7format(FUJIFILM PRO160NS)  ボケ味は素直だ。
撮影テスト3
フルサイズフォーマット
CAMERA:  SONY A7RII
6x7フォーマットでも暗角は目立っていたので、645フォーマットあたりがジャストサイズのように思えてきた。最後にフルサイズフォーマットでの作例もみてみよう。
写りは中判カメラの時よりも明らかに軟調。開放から滲みやフレアなどはなく、少し淡いあっさりとした発色傾向とともに軽やかな心地よいトーンに仕上がる。フルサイズフォーマットでも画質的に無理はない。
F7.7, sony A7R2(WB:晴天) 発色は淡く、軽い仕上がりになる

F5.2(開放)  sony A7R2(WB:晴天, ISO1000) 35mmフォーマットでも無理のない撮影結果が得られる

F5.2(開放)  sony A7R2(WB:晴天, ISO1000)


F7.7, sony A7R2(WB:晴天、ISO1000) 逆光も平気






F7.7, sony A7R2(WB:晴天)

F11, sony A7R2(WB:晴天)