おしらせ


2023/05/03

KODAK EKTAR 80mm F2.8 for HASSELBLAD



美しい描写を求めて! 本家フォクトレンダーの明るさを越えたDYNARタイプのオールドレンズ

PART 2: KODAK EKTAR 80mm F2.8 for HASSELBLAD

明るいDYNAR/HELIARタイプのレンズを紹介する特集の2本目は、米国のイーストマン・コダック社が1948年に発売したEKTAR 80mm F2.8です。レンズは中判カメラのHASSELBLAD 1000F/1600Fシリーズに搭載する交換用の標準レンズとして、広角のWide Field Ektar 55mm f/6.3、中望遠のEktar 135mm f/3.5、望遠のEktar 254mm f/5.6とともに供給されました。HASSELBLADの最初期の製造ロットにはテッサータイプのEKTAR標準レンズが搭載されていましたが[0]、1948年の何処かの段階で今回紹介するDYNARタイプのEKTARに置き換えられています[1]。レンズを設計したのは有名なKODAK MedalistのEKTAR 100mm F3.5(ダイナータイプ)を設計した同社設計主任の F.E. Altmanという人物で、F2.8の口径比を実現するため一部のレンズエレメントに放射性ガラスが導入されました[2]。レンズ1948 年から1950 年の間に3641 本製造され、そのうちの3280本が1948 年だけで生産されています[3]。このレンズには柔かく美しい描写が持ち味との前評判があり[4]、今回手にしてレビューができることを少し前からとても楽しみにしていました。

Ektar F2.8(右)と、その元になったDynar(左)およびHeliar(中央)。今回ご紹介しているEktar 80mm F2.8はAltmanが1940年から1941年にかけて、当時登場した新しいガラスを使用してDYNARタイプのレンズ構成の改良にとりかかる中で完成させました[1,2]

参考文献・資料

[0] 初期のEKTAR 80mmはテッサータイプで、Maximilian Herzberger と Harvey Hoadley により 1941 年に設計されたとのことです[3]。レンズには酸化トリウムベースの非常に高価な硝材が用いられており、屈折率 (1.755) と分散 (47.2) の比率は1940 年代初頭としては例外的だそうです。コストを度外視したレンズだったようです

[1] R. Kingslake 写真レンズの歴史

[2] B.Pat.547,691(1941); U.S.Pat.2,279,384; Fr.Pat. 889,380

[3] Marco Cavina's home page、および彼に情報を提供してくれたRick Nordin による

[4] コイワイド。写真とレンズと趣味のあれこれ 「あまりにも美しいそのフレア / エクター Ektar 80mm f2.8」


入手の経緯

レンズは知り合いのオールドレンズ女子がeBayで購入したものをお借りしました。入手先は米国ペンシルバニア州の個人出品者で、765ドルで販売されていたものを値切り交渉で、更に安い値段(送料込で9万円位)で売っていただいたとのことです。レンズは希少性が高く1000~1500ドル前後で売られている事が多いため、756ドルだったとしても、かなりお買い得だったと思います。アダプターをどうしようかと相談を持ちかけられたので、最適解をみつけるため一緒になって試行錯誤しました。そのお礼にとGWの間お借りすることができたわけです。持つべきものは価値観を共有できる仲間ですね。レンズは普通に使う分には充分に良いコンディションでしたが、ヘリコイドグリスが劣化し固着していたので、手にしたついでにグリスを交換してスムーズなピント合わせができるようにしておきました。

重量(実測):263g, 絞り:F2.8-F22(11枚構成)プリセット機構, 最短撮影距離:20インチ弱(0.5m), フィルターネジ:54mm,  マウント規格: M60スクリューマウント for HASSELBLAD 1600F/1000F, 設計構成:3群5枚DYNAR型, 製造本数: 3641本


 

レンズをデジカメで使用する

レンズのマウント規格はHASSELBLAD 1600F/1000Fが採用しているM60スクリューマウントです。eBayではウクライナのセラーがこのマウントと互換性のあるKIEV-66マウントをペンタコンシックスに変換するアダプターを販売しています。今回はこれとペンタコンシックス to M42アダプターを使い、レンズをM42マウントに変換しました。アダプターを何枚も重ねる場合、製品の設計精度が低いとガタが出ることがありますが、M42などのスクリューマントでは構造的にガタが出る心配が無いので、このようなケースではM42を経由させるのがオススメです。M42にしてしまえば大方の一眼レフカメラやミラーレス機で使用可能になります。今回は中判デジタルセンサーを搭載したGFX100Sで写真撮影を行いました。GFX100Sでは、レンズを35mm換算で62.4mm F2.2相当のレンズとして使用することができます。

 

撮影テスト:過剰補正レンズの魔力にハマる

EKTAR 80mmのふんわりとしたソフトな開放描写は球面収差を過剰補正にしたことで生み出されています。このレンズが設計された時代のダイナータイプのレンズは高性能なガラスを用いてもF3.5が設計限界でしたが、これをテッサータイプと同じF2.8/F2.7に引き上げるため、やや強めの補正をかけて実現しています。輪帯部の球面収差は抑えられ、解像力は良好でピント部の像には芯がありますが、反動で絞りを開けた時にやや多めのフレアが出ており、柔らかさの中に繊細な像の宿る線の細い描写が実現しています。また、背後のボケは硬めで開放ではバブルボケが出ており、反対に前ボケには多めのフレアが出ています。設計限界を越えようと背伸びしたぶんだけ面白いレンズに仕上がっているというわけです。発色は暖色系のくすんだ色調にコケると言われていますが、これはガラスに用いられた酸化トリウムの影響で若干の黄変が出ているためだそうです。このレンズの長所を最大限に活かす撮り方は、絞りを開放にして、逆光気味の条件で奥行きのあるロケーションを選び、ピント(メインの被写体)を遠めに据え、前ボケに乗っかるフレアを最大限活かすことです。これで間違いなくドラマチックな写真が撮れます。

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日光, FS: CC) こういう事なので、それならば・・・
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日光, FS: CC) こうでしょう。

F4 Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: EB) ちょいしぼると、こうなり・・・、

F5.6 Fujifilm GFX100S(WB: 日光)  もうちょい絞ると、こうなります。

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日光, FS: CC) 

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: EB) 点光源がバブルボケ気味になります

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS:CC)


F4 Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: EB)

Photographer:  うらりん

Camera: Sigma FP

レンズのオーナーであるうらりんさんにも何枚か写真を提供していただきました。

F2.8(開放) Sigma FP

絞り込んでいます  Sigma FP

F2.8(開放) Sigma FP

F2.8(開放) Sigma FP
F2.8(開放) Sigma FP

F2.8(開放) Sigma FP

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