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2026/01/01

Zeiss-Opton Biogon 35mm F2.8 T (Contax-RF mount)


 

洗練を極めた戦後型ビオゴン:その長所と短所

Zeiss-Opton Biogon 35mm F2.8 T (Contax-RF mount)

だいぶ前の記事となりますが、旧東ドイツ製 Carl Zeiss Jena BIOGON 35mm F2.8 をデジタルミラーレス機に装着して使用した際、周辺部につよい画質劣化を感じました。具体的には非点収差と像面湾曲が顕著に現れ、四隅の最端部で像が流れ、同時に急激に甘くなるというもので、広角レンズとしてやや許容できないレベルでした。BIOGONの別の個体を試写する機会もありましましたが、この性質は個体差という見解で解決できるものではありませんでした。

一時はレンズ構成に原因があるのかとも考えましたが、興味深いことにBIOGON を祖とするロシア製コピーのJUPITER-12 では、ここまで強いクセはなく、設計の新しさを反映しているためなのか、四隅でも安定した描写が得られました。ただし、JUPITER-12が優れたクローンであるとはいえ「本家を凌ぐ」とまでは納得しがたい事でもあります。

設計構成の観点から見れば、BIOGONの基盤となったゾナー型は広角化に不向きな設計で、画角を広げすぎると非点収差が急激に増大するという性質を持ちます。また、バックフォーカスの極端に短いこの種のレンズをデジタルカメラで使用する場合、センサー端部に浅い角度で入射する光線が、センサーのカバーガラスやローパスフィルターと相互作用し、像面湾曲を増大させてしまうとも言われています。また、同様の原理でサジタル像面が影響を受け、非点収差が増大してしまうという事も考えられます。

一方で、この種の設計には明確な長所もあります。前群にパワーが集中しているためバックフォーカスが短く、レンズ全体をコンパクトにまとめることが可能なのです。BIOGONもまた、この利点を保持しつつ広角モデルとして成立させるため、さまざまな工夫が盛り込まれています。

画質的な側面からみてもオールドレンズレンズ評論家から高く評価されているレンズですので、やはり納得がいきません。

とはいえ、日本の光学メーカーは戦後、この設計を模倣することなく、BIOGON 35mmを手本とした製品を一切生み出しませんでした。なぜ日本のメーカーがここまで徹底して、このレンズから距離を置いたのか、その理由は今なお興味深い謎です。

こうした疑問を整理し、自分なりの答えを見出すために、今回は戦後に旧西ドイツの Zeiss-Opton 社 が設計したBIOGON(オプトン・ビオゴン)35mm F2.8に注目することにしました。その描写性能を検証することで、過去に抱いた違和感を再考し、より前向きに BIOGON の魅力を理解したいと考えたわけです。

BIOGON は、もともとカール・ツァイスが1936年に同社の高級レンジファインダー機 CONTAX IIIII型 用として発売した広角レンズです。先代の CONTAX I型(19321936年) には間に合わず、I型には暗めの広角レンズ TESSAR 28mm F8 が供給されていました。そのため、F2.8という明るさを備えたBIOGONの登場は、手持ち撮影を可能にする画期的な存在としてCONTAXユーザーに大いに歓迎されました。同時期のLeicaには Hektor 2.8cm F6.3ELMAR 3.5 F3.5などが供給されていた事かわもわかるように、F2.8というスペックは他社を圧倒する異次元の明るさであり、BIOGONは当時世界で最も明るい広角レンズとして位置づけられました。

戦後には旧西ドイツの Zeiss-Opton社からも、通称オプトン・ビオゴンと呼ばれる新設計の後継モデルが登場します。今回取り上げるのはこのモデルで、設計は下図のような46枚構成です。戦前からのBiogonを改良し、より洗練された設計へと変化を遂げています。後群に使われている極厚のレンズエレメントが、とてもよく写りそうな強いインパクトを与えます。

レンズの設計を担ったのは、SONNARの生みの親として知られる ルートヴィヒ・ベルテレ(L. Bertele) です。BIOGONはゾナー型を起点に開発され、その描写特性にはゾナー由来の性格が色濃く受け継がれています。これらのレンズに共通する普遍的な描写傾向は、写真画質に対するベルテレの揺るぎない理念を体現しているといえるでしょう。

設計構成は4群6枚のBIOGONタイプ(ゾナー変形型)。後群の極厚エレメントが目を引きますが、このモデルの大きな特徴といえるでしょう



中古市場におけるレンズの相場

旧西ドイツ製であるオプトン・ビオゴンの現在の中古市場での相場は、クモリのある個体で250300ドル、健全なコンディションの個体で500ドル程度からです。ちなみに、東側で製造されたツァイス・ビオゴンの中古相場も同程度です。レンズは国内・海外の中古市場で豊富に流通していますので、入手は比較的容易です。現在は円安の影響からか、国内市場の方が安値で取引されている印象です。コンディションの良い個体を5万円くらいで探すのが狙い目でしょう。

Zeiss-Opton BIOGON 35㎜F2.8: フィルター径 40.5mm, 最短撮影距離 3feet,   絞り F2.8-F22, 絞り羽 8枚構成,  設計構成 4群6枚BIOGON戦後型, CONTAX RFマウント, 重量(実測) 238g



 








 

撮影テスト

シャープネスとコントラストは明らかに良くなっており、戦前設計の先代 Jena BIOGON  Jupiter-12 を明確に上回っています。開放から抜けの良いクリアな描写を見せ、ピント面中央には鋭いキレがあります。発色も鮮やかで被写体を力強く描写します。設計の成熟度が一段と高まっており、1950年代のレンズとは到底思えない、信じがたい性能です。

一方で、中央と四隅の画質差は大きく、像面湾曲の影響で四隅では像が大きく崩れ、光量落ちもやや目立ちます。四隅のボケは接線方向と同心方向で大きく分離し、非点収差の存在がはっきりと確認できます。この傾向は Jena BIOGON とも共通しており、デジタルカメラとの組み合わせでは使いこなし方に注意が必要なレンズといえるでしょう。

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光) 開放からコントラストは高く、中央部のシャープネスは素晴らしい水準ですが・・・。四隅はこの通りに、広い領域で急激にピンボケしてしまいます









F2.8(開放) Nikon Zf(WB:曇り空) 今度は遠景を開放で。中央はとても良いのですが、やはりある一定の画角から急激に画質の低下が起こります






F5.6 Zikon Zf(WB:曇空)もちろん、絞れば何でもないことではあります







F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰) こういう構図なら開放でも何ら問題はないです

F5.6 Nikon Zf(WB:日陰) 絞れば弱点なし

F4 Nikon Zf(WB:日光) 
F5.6 Nikon Zf(WB:曇空)先ほどの空撮は、ここの上空からでした
F5.6 Nikon Zf(WB:日光)コントラストだけ見ると現代レンズとあまり変わらないレベルです






















































































































































 

BIOGON 35mmは少し絞って使うか、もしくは旧CONTAXなどフィルム機で使うのが正解のようです。今のところデジタルフルサイズ機との相性は良くありません。

2021/06/15

Carl Zeiss Jena BIOGON 3.5cm F2.8 Contax RF mount

オールドレンズの評論家達がこの広角レンズを、言葉を尽くして褒めたたえます。BIOGONを手にすると、ツァイスがレンズ設計の偉大なイノベーターであることを実感できるというのです。いったい何がそんなに凄いのか、BIOGONの秘密を紐解く手がかりがレンズ構成にありました。

ベルテレの広角ゾナー part 1

カメラの都合など考えもしない大きな後玉が
レンズマニアたちの心をグラグラと揺さぶる
Cael Zeiss Jena  BIOGON 3.5cm F2.8

BIOGON(ビオゴン)は、カール・ツァイスが1936年に同社の高級レンジファインダー機 CONTAX IIIII 型のために開発・発売した広角レンズです。先代の CONTAX I 型(19321936年)には間に合わず、I 型には暗めの広角レンズ TESSAR 28mm F8 が供給されていました。したがって、明るい広角レンズの登場は手持ち撮影を可能にする画期的な出来事であり、BIOGON の登場は CONTAX ユーザーに熱烈に歓迎されたのです。同時期の Leica に搭載されていた広角 Hektor 2.8cm F6.3やELMAR 3.5cm F3.5と比較しても、F2.8 の明るさは他社を圧倒する異次元の性能であり、BIOGON は当時世界で最も明るい広角レンズでした。

この革新を成し遂げたのは、SONNAR(ゾナー)の設計者として名高い Zeiss の天才技師 L. Bertele(ベルテレ)です。BIOGON SONNAR を起点として開発され、その描写特性を色濃く受け継ぎました。これらのレンズに共通する普遍的な描写は、写真画質に対する Bertele の揺るぎない理念の表れといえるでしょう。

ただし SONNAR は、画角を広げすぎると非点収差が急増するという弱点を抱えていたため、標準から中望遠域に適した設計でした。広角化には基本構造の大幅な改良が不可欠であり、優れた性質を維持しつつ弱点を克服することが BIOGON 開発の核心でした。Bertele は研究を重ね、後玉を大胆に大型化するという新たな発想に到達します。これにより、従来の常識を覆す特異なレンズ構成を打ち出し、SONNAR を広角レンズへと適合させることに成功したのです。まさに彼の天才性が遺憾なく発揮されて生み出されたのが、この BIOGON でした。

BIOGON といえば、ストリートフォトグラファー Robert Frank の存在も忘れてはなりません。彼の代表作『The Americans』(1958年)は、1950年代アメリカの姿を批判的に切り取った歴史的名作として知られています。Frank は改造 BIOGON 35mm をライカにマウントして使用しており、その鋭い視線と BIOGON の描写力が融合して、写真史に残る作品群を生み出したのです[2]。



BIOGON の原型は戦前の1934年に誕生しました。この試作設計は、SONNAR の各レンズエレメントのパワーバランスを変更したもので、構成自体は SONNAR と全く同一でした(上図・左から2つめ)。その後、1936年に製品版 BIOGON が登場します。このモデルでは、前群の3枚接合ユニットが2枚に簡略化され、さらに後群には貼り合わせレンズが1枚追加されることで、後群側の設計自由度が大きく補強されました(上図・左から3つめ)。この完成形は戦後も継続して製造され、長く写真家に愛用されることになります。

戦後には、西ドイツの Zeiss-Opton からも別設計の BIOGON(通称「オプトン・ビオゴン」)が発売されました。このモデルでは後群のガラス厚を積極的に利用して屈折力を確保し、同時にレンズエレメントの構成枚数を6枚へと削減しています(上図・右)。

参考文献

[1] Marco Cavina’s wonderful HP: marcocavina.com

[2] 田中長徳 「ロバート・フランクとカール・ツアイス・イエナ・ビオゴンを語る」御茶ノ水のギャラリー・バウハウス(2013)

[3] Zeiss Ikon社 公式カタログ(1938) 内の構成図

Carl Zeiss Jena BIOGON 3.5cm f2.8: フィルター径 40.5mm, 重量(実測) 115.5g, 絞り羽 5枚構成(F2.8-F22) , 最短撮影距離 0.9m, 4群7枚BIOGON型, Contax RF/マウント, Tコーティング

入手の経緯

現在のビオゴンの相場は500ドル前後です。製造から半世紀もの歳月が経ちますが、まだまだ流通量がありますので、コンディションの良い個体をじっくり探すことをおすすめします。今回ご紹介している個体は2019年夏にドイツ版eBayにて、コレクターと称する個人の出品者から落札しました。レンズのコンディションは大変よく、拭き傷すらない美品でした。


デジタルミラーレス機へのマウント

BIOGON は後玉が大きく飛び出しているため、使用できるカメラは限られています。フルサイズのミラーレス機であれば問題ありませんが、APS-C 機(リコー製を除く)やマイクロフォーサーズ機では後玉がカメラ内部に干渉し、物理的に装着できないので注意が必要です。

使用するマウントアダプターは、コンタックス RF(レンジファインダー機)用レンズに対応したものを選びます。この種のアダプターには、ヘリコイドを内蔵した外爪・内爪両用タイプと、外爪のみのタイプがあり、どちらでも使用可能です。前者は価格が高めのため、後者の方が実用的でしょう。アダプターには、カメラ側をライカ M マウント(距離計非連動)へ変換する製品と、E マウントなどミラーレス機に直接変換する製品があります。おすすめはライカ M マウントに変換するタイプで、これをライカ M からミラーレス機へ接続するヘリコイド付きアダプターと組み合わせる方法です。この構成により、BIOGON の最短撮影距離(0.9mとやや長め)を短縮でき、近接撮影にも対応可能となります。

 

撮影テスト

解像力よりは階調描写やコントラストで押し切るタイプのレンズです。開放から中央はハッとするほどシャープでヌケもよく、画面全体のコントラストもたいへん良好、発色もたいへん鮮やかですが、ピント部の四隅では解像力が極端に落ち、ピントがあっていないように見えるレベルです。これはデジタルカメラ機でこのレンズを用いたときに生じる、像面湾曲の影響であるという解説を目にします。すなわち、センサーの四隅に浅い角度で入射する光と、センサーのカバーガラスやローパスフィルターとの相互作用で非点収差や像面湾曲が増大してしまうというわけです。確かに、背後のボケにも非点収差の影響がみられ、四隅の点光源には放射方向(サジタル方向)にツノが生えていますので、サジタル像面が大きく曲がってしまったのかもしれません。また、滲み(倍率色収差)も出ています。もちろん絞れば良像域は拡大し画面全体で高画質になります。歪みは微かに糸巻き状ですが、よく補正されています。レンジファインダー機用の広角レンズでは周辺部に光量落ちが見られることが多いのですが、このレンズでは、それが殆どありません。

F2.8(開放) sony A7R2(WB:⛅) 開放からコントラストは高く、スッキリとヌケの良い描写です



















F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) ポートレートの距離で使う場合は、四隅の画質はそれほど気にはなりません
F2.8(開放) sony A'R2(WB:日光)

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2.8(左)とF5.6(右)での画像の比較: SONY A7R2(WB:⛅) 点光源が四隅でコマ収差の影響をうけ尾を引きます。開放から中央はシャープですが、遠方撮影時に四隅に目を向けると非点収差の影響が目立つようになります。どうせ引き画なんだから絞ればいいわけですが

2014/05/29

LZOS Jupiter-12 35mm F2.8 (L39)




大きく突き出た後玉が
レンズマニアたちの心をグラグラ揺さぶる
ロシア版ビオゴン:
Jupiter-12 35mm F2.8
Jupiter-12(ユピテル12/英語名はジュピター12)はロシアのKMZ(クラスノゴルスク機械工場)が1950年に発売したBiogonタイプの広角レンズである。巷ではZeissのLudwig Bertele (ベルテレ博士)が1936年に設計したContax版Biogon 35mmをそのままコピーしたレンズ(デットコピー)と誤って解釈されることが多いが、厳密にはBiogonの設計を簡略化した新開発のレンズであるBiogonの持つ線の太い描写、高いコントラスト、ヌケが良く色鮮やかな発色、穏やかで安定感のあるボケを受け継ぎ、Berteleが世に送り出したもう一つの名玉Sonnar(ゾナー)を彷彿とさせる描写設計である。BiogonはZeissのBerteleが1931年に設計したContax版Sonnarから発展したレンズである(下図)。Sonnarには画角を広げ過ぎると非点収差が急激に増大するという収差的な弱点があり、標準~中望遠には対応できるものの、広角レンズを実現するには基本設計に大幅な改良を施す必要があった。Sonnarの性質を維持しながら、同時にこのレンズの弱点を克服することがBiogonの開発に至ったBerteleの動機である。Berteleは研究を重ね、Sonnarの最後尾に巨大な後玉を据え付けるという新しい着想に辿りついたのである。
 

 
Sonnar(上段・左)からJupiter-12(下段・右)に至る光学設計の系譜。こうして並べ比べてみると、Jupiter-12は確かにBiogonをベースに造られたレンズであることがよくわかる。我々の良く知るContax版Sonnarは上段・左に示すようの前群側に3枚接合ユニットを持つ設計形態であるが、Jupiter-12やBiogonの大半のモデルでは、この部分がガウスタイプと同じ2枚接合ユニットへと簡略化されている。構成図出展:Biogonの構成図はBerteleが出願した一連の特許資料からトレースした。また、KMZ BK-35は文献[1]からのトレース、Jupiter-12はレンズ購入時に付属していたマニュアル資料からのトレースである

 
Jupiter-12は1950年にKMZ社が発売し、Leicaスクリュー互換のZorki(ゾルキー)用と旧Contaxマウント互換のKiev(キエフ)用の2種が市場供給された。初期のモデルはクローム鏡胴のみで1960年からはブラックカラーも登場している。1958年にはLZOS(ルトカリノ光学硝子工場/Lutkarinskij Zavod Opticheskogo Stekla)とArsenalがレンズの生産に参入し3社による生産体制となるが、3年後の1961年にKMZとARSENALは同レンズの生産から撤退、これ以降はLZOSによる単独生産となっている。現在の中古市場に流通しているレンズはLZOS製の製品個体が大半で、KMZ製はやや少なく、Arsenal製を目にすることは極稀である。市場にはZorki用とKiev用の2つのモデルが流通しており、1950年代~1970年代に生産されたクローム鏡胴のバージョンと1970年代~1980年代に生産された黒鏡胴バージョンの2種に大別できる。最後まで製造が続いたのはLZOS製の黒鏡胴バージョンである。私が市場に流通しているレンズのシリアル番号を片っ端から調査した感触によると、レンズの生産は少なくとも1991年まで続いていた。
なお、記録によるとJupiter-12にはBK-35 (Biogon Krasnogorsk 35/1947-1950年)という前身モデルが存在し、ZeissのBiogonをベースにドイツ産の硝材を用いて設計されたと記されている[1,2]。構成図をみるとBK-35の光学系は後群・第一レンズの曲率が妊婦のお腹のように大きく膨らんでおり、Biogon(1937)からJupiter-12へと移行する過渡的な設計形態になっていることがわかる。

参考文献・WEBサイト
[1] КАТАЛОГ фотообъективов завода № 393(ZenitのHPに掲載)
[2]SovietCams.comJupiter-12 )
[3] Marco Cavina’s wonderful HP: marcocavina.com

入手の経緯
本レンズは2013年8月にeBayを介しポーランドのレンズ専門セラーから110ドル+送料10ドルの即決価格で落札購入した。オークションの解説では「ガラスはMINTコンディション。ミラーレス機でテスト済だ。フォーカスリングと絞りリングの回転はスムーズで、絞り羽に油染みはない。硝子に傷、クリーニングマーク、クモリ、バルサム切れ等の問題はない。前後のキャップとケースが付属する」とのことである。届いた品は鏡胴に少し汚れがあり、前玉にクリーニングマークが1本あった。ホコリは経年相応で清掃が必要なほどでもない。この程度の相違は織り込み済みなので、私には十分な状態であった。eBayでの相場は状態の良い個体で100ドル前後である。未使用と思われるデットストック品が現在でも数多く流通しているので、焦らずにジックリと選び、良いものを手に入れるとよいであろう。なお、Arsenalの製造したモデル(1958-1961年生産)、KMZの製造した黒鏡胴モデル(1960-1961年生産)、および初期のKMZ BK-35(1947-1950年生産)は希少価値が高く、上記の相場価格は当てはまらない。最近はロシアやウクライナの一部のセラーがJupiter-12の名板のみをすげ替えたBK-35の模造品を売り出しているので、注意したほうがよい。ちなみに模造品のeBayでの相場は200~250ドル程度である。
Jupiter-12: 最短撮影 1m, フィルター径 40.5mm, 絞り羽 5枚, 重量(実測) 100g,  焦点距離 35.7mm,  絞り指標 F2.8-F22, 構成 4群6枚 (戦前のBiogon前期型), 63年製, メーカー LZOS(ルトカリノ光学硝子工場), 解像力 36 line/mm (中央) 18 line/mm (コーナー)。なお、レンズ名の由来はローマ神話の最高至上の神の名ユピテル
撮影テスト
Jupiter-12はコントラストが高く、鮮やかな発色とシャープな写りを特徴とするレンズである。解像力は平凡で線は太いものの、開放から滲みやフレア(収差由来)は少なく、スッキリとヌケのよい描写である。ただし、絞っても階調はなだらかで適度な軟らかさを維持している。ボケは四隅で半月状に崩れコマ収差の発生を確認できるが、中間画角までは整っており柔らかく拡散している。グルグルボケ、放射ボケ、2線ボケなどの乱れは検出できない。開放では発色が極僅かに温調気味になることもあるが、絞れば安定し概ねノーマルである。内面反射が少ないようで、逆光にはそこそこ耐え、ゴーストやグレア(内面反射光の蓄積に由来するハレーション)は出にくい。広角レンズには珍しい糸巻き状の歪曲がみられるものの通常の撮影で目立つことはない。全体的にみて、とても安定感のあるレンズといえるだろう。なお、フルサイズセンサーを搭載したミラーレス機(sony A7)で使用すると、画像の端の方にマゼンダ色の色被りが見られることがある。これはカラーシフトと呼ばれるデジタル・ミラーレス機に特有の現象で、バックフォーカスが短かいレンズや後玉径が小さいレンズを用いる際、センサー面に急角度で入射する光に対して赤外線カットフィルターの効きが弱くなるために起こる現象である。バックフォーカスが最も短くなる遠方撮影時において特に顕著になる傾向がある。一回り小さなAPS-Cセンサーのカメラでは目立つことはなく、銀塩フィルム機では全く問題にはならない。

Camera: sony A7
撮影: 伊豆大島(2014年5月3--5日)

タイトル「油断」, F8(上) /F8(下, APS-C crop-mode), sony A7(AWB): 上段の写真では左右の端部に若干のマゼンダ被りがみられる。これはバックフォーカスが短いレンズをフルサイズミラーレス機で用いる際に、赤外線カットフィルターの効きがセンサー周辺部で弱くなるために起こる現象である。APS-Cサイズにクロップした下段の写真では全く目立たなくなる
F2.8(開放), sony A7(AWB): 開放でもスッキリとヌケの良い写りである。後ボケは穏やかで柔らかく、四隅までよく整っている。グルグルボケや放射ボケは見られず2線ボケも検出できない
F4, sony A7(AWB): 滲みはまったく見られず発色はとても鮮やか。シャープなレンズだ
F5.6, Sony A7(AWB): 開放でのショットはこちら。いずれもコントラストは高く発色は鮮やかである。ただし、絞っても階調は適度に軟らかい

F11, Sony A7(AWB): フォーカスポイントを人物にとり、パンフォーカスで撮影している。遠方撮影で空が入ると、やはりマゼンダ被りが目立つようになる。本レンズの場合、後玉が大きく飛び出しているためか、この傾向は絞っても改善しない。四隅では若干の解像力不足を感じるが、引き伸ばさなければ判らない。伊豆大島にある火山灰の堆積でできた地層断面













F8, sony A7(AWB): マゼンダ被りや周辺光量落ちは遠方撮影時に特に顕著にあらわれる現象である。これくらいの撮影距離までなら全く目立たない。うちの娘・・・一体何がしたいのだ


BiogonとSonnarは言わば親戚関係にあるため、写りが似ているのはごく当たり前と考える方も多いかもしれない。しかし、Sonnarだった頃の形質は後群の第一レンズ(構成図の中に黄色く着色した部分)のみであり、もはや別設計のレンズと捉える方が妥当である。むしろ、興味深いのは設計の異なるBiogonとSonnarの写真描写に高い類似性がみられる点である。Berteleの発明した設計というだけで、どうしてここまで写りが似ているのだろうか。我々が目の当たりにしているのは写真レンズの描写に対し設計者ベルテレが貫いた揺るぎない理念なのかもしれない。ロシア版BiogonのJupiter-12にも、こうしたベルテレの描写理念が忠実に受け継がれているのである。