おしらせ


2023/03/08

YASHICA Auto YASHINON 5.5cm F1.8 (M42 mount)

逆光で光輝く白毛のサラブレッド
シルバー・ヤシノン

YASHICA AUTO YASHINON 5.5cm F1.8 M42-mount

美しいデザインと卓越した描写性能で知られるヤシノン5.5cm F1.8(後期型)は、日本の光学メーカーが絶頂期を迎える1960年代半ばに登場した、一眼レフカメラ用のM42マウントレンズです。この製品は当時カールツァイスから一目置かれていた伝説の光学メーカー「富岡光学」と、後の1975年よりツァイスとの共同事業でコンタックスブランドのカメラの製造と販売を行うヤシカ(旧・八洲光学工業株式会社[Yashima Optical Co., LTD])のコラボレーションによって生み出されました。富岡光学は1968年にヤシカの傘下に入り、ツァイスとの共同事業ではカールツアイスブランドのレンズの生産を担うようになります。今回はヤシノンブランドの中で私がイチオシでオススメしているヤシノン5.5cm F1.8の後期型(通称シルバー・ヤシノン)を取り上げ紹介します。
 


レンズはヤシカより発売されたM42マウント一眼レフカメラのYASHICA Penta J-5(1964年発売)に搭載する交換レンズとして登場しました[1]。ちなみに先代のPenta J-3(1962年発売)には半自動絞りを備えた別モデルのYASHINON 5cm F2が供給され[2]、反対に後継のPenta J-7(1968年発売)にはブラックカラーのYASHINON 50mm F1.7が供給されました[3]。Yashinon 5.5cm F1.8には、少し前の1960年に発売されたPentamatic用のバヨネットマウントのモデルが存在しますが、こちらは別会社が供給したレンズのようで、鏡胴のデザインが若干異なるうえ、色もブラックのみで、シリアル番号にもシルバー・ヤシノンとの連続性がありません。シリアル番号からはYashica YF用(1959-1960年)にセット供給されたSUPER-YASHINON 5cm F1.8や、Pentamatic II用に供給されたYashinon 5.8cm F1.7と同じ供給元のように思えます。シルバー・ヤシノンが供給されたのはPenta J-5の供給時のみでしたので、市場での流通量は少ないわけです。まさに「白毛のサラブレッド」といったところでしょう。
レンズの設計構成は下図に示すようなオーソドックスはガウスタイプ(4群6枚)で、製造したのは富岡光学であることがこちらの個人の方の検証から示されています。文献[4]にはレンズに対する性能評価があり、中心解像力が200線/mm、周辺部116線/mmという、1960年代前半の製品としては頭一つ抜き出た性能を叩き出しており、富岡光学の底力を感じる高性能なレンズと言えます。ただし、レンズに使われたシングルコーティングが逆光耐性に弱く、光には極度に敏感で、逆光になると性質が豹変、緻密な像の描き方は維持しながらも驚くほどの軟調な描写に様変わりします。こうなってしまうと色は淡白で暗部が浮き上がり、ゴーストがビュンビュンと飛び交う「別物」で、ステキな写真が撮れると思います。この手の描写を好むオールドレンズファンには使い出のあるレンズとなるに違いありません。
工業製品としての美しさも大事なポイントです。その後の日本製レンズがプラ鏡胴でゴムローレットの没個性的なデザインに画一化されてゆくことを考えると、この時代のヤシノンには手にしたときの上品な質感があり、作りの良さが感じられます

YASHINON 5.5cm F1.8の構成図:文献[3]からのトレーススケッチです。設計構成は4群6枚のガウスタイプ

参考文献
[1] Yashica J-5 INSTRUCTION BOOKLET(1964年)
[2] Yashica J-3 INSTRUCTION BOOKLET(1962年)
[3] Yashica J-7 INSTRUCTION BOOKLET(1968年)
[4] クラシックカメラ選書-22 レンズテスト第1集

入手の経緯
レンズは国内のオークションサイトで流通しており、今回紹介するレンズを含め、私は何本かをヤフオクから入手しました。入手額は概ね10000円程度で、状態の良い個体でも15000円程度以内で入手できます。流通量は少なめですので、じっくり待って購入する必要があります。
YASHICA Auto Yashinon 5.5cm F1.8: 絞り F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量 230g, 最短撮影距離 0.5m, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, M42マウント, 1964年発売
 
撮影テスト
ヤシノンブランドには堅実な描写のモデルが多く、本製品も例外ではありません。クラシカルな外見のデザインとは打って変わって、開放からスッキリとヌケが良く、線が細いわりにコントラストも良好な、いいとこ取りのレンズです。ただし、何度も繰り返すように、このレンズが本性を見せるのは逆光時です。
逆光になると大きな円を描くような見事なゴーストが何本も現れ、描写傾向が大きく様変わりします。暗部の階調が浮き上がり軟調傾向が強くなるとともに、発色も淡く、オールドレンズらしい強い性質を見せるようになります。このような性質がドラマチックな写真作りの一助となることは、間違いありません。しかも、ピント部は依然として繊細で緻密な像を描いてくれます。背後のボケはやや硬めでザワザワと騒がしくなることがあり、ポートレート域でも過剰補正傾向から、なかなか脱却しません。
イメージサークルには余裕があり、定格の35mm判はもとより、一回り大きな中版デジタルセンサー(44x33mm)を搭載したFujifilmのGFXでも、四隅に暗角は全く出ません。今回はフルサイズ機に加え、GFXでも写真撮影をおこないました。

★★ フルサイズ機 Sony A7R2での撮影 ★★
F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)  逆光では「カオス状態」に突入します!

F1.8(開放) SONY A7R2(WB: Auto): 様子がわかったところで、早速活用するとこんな感じです。これは楽しい!

F1.8(開放)  SONY A7R2(WB:日光) 開放では線が細いわりにコントラストは良好

F1.8(開放) SONY AR2(WB:日陰) ボケはこのくらいの近接でも、やや煩い感じで、柔らかいボケに転じるのは更に近接域のようです


F1.8(開放)SONY A7R2(WB:日光)レオちゃん。今日も素直に被写体となってくれました



★★ 中判デジタル機 Fujifilm GFX100Sでの撮影 ★★
このレンズは一回り大きな中版デジタルセンサー(44x33mm) を搭載したFujifilm の GFXでも、四隅に暗角は全く出ません。GFXで用いる場合は35mm判換算で39mm F1.4相当の明るい準広角レンズと同等の写真が撮れます。モデルはいつもお世話になているHughさんです。
F2.8, Fujifilm GFX100S(WB:日光,FS:NN) このとおりに順光で撮ればむちゃくちゃ高性能です。こういう時はどうすればよいかというと、素直に喜びましょう

F1.8(開放), Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS:NN)

F1.8(開放), Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN)
 

★★ カラーネガフィルムでの撮影 ★★
FILM: Kodak ULTRAMAX 400カラーネガ
Camera: minolta X-700 MPS
F1.8(開放) Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)
F2.8 Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)
F4 Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)
F1.8(開放) Kodak ULTRAMAX 400(だいぶ期限切れ)

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