おしらせ


2020/12/31

KONICA HEXANON AR 50mm F1.7 and MINOLTA MC ROKKOR-PF 55mm F1.7

 

揺るぎない設計理念を感じる

光学メーカーの2本

Konica HEXANON AR 50mm F1.7 vs Minolta ROKKOR-PF 55mm F1.7

F1.7レンズの特集は第1回戦の最終組となりました。今回もコニカとミノルタの対決です。この2社のレンズは前回のF1.4の記事でも取り上げ比較しましたが、改めて考えさせられたのは、光学メーカーには描写の味付けと言いますかレンズの描写設計に、一貫した揺るぎない理念があるという事です。コニカの設計は解像力を重視した過剰補正で、フレア(滲み)を許容しながらも線の細い繊細な画作りを持ち味としています。レンズが登場したのは1971年で、コニカの一眼レフカメラNew FTA に搭載する交換レンズとして発売されました。この時代のレンズは大方どのメーカーも、解像力重視から抜け出しコントラストにも配慮したバランス志向の描写設計に軸足を移しています。時代の潮流に流されることなく、個性をはっきりと打ち出した製品を堂々とリリースできたコニカというメーカーには、きっと強い自社哲学があったのでしょう。レンズを設計したのは、有名なKonica 40mm F1.8を設計した下倉敏子氏と言われています。オールドレンズ女子達に受け入れられやすい柔らかい開放描写のレンズです。対するミノルタはコントラストにも配慮した画質設計で、Konicaほど過剰な補正はかけず、スッキリとしたヌケの良さと力強い発色を持ち味としています。Hexanonほどの緻密な画作りはできませんが、線の太いキリッとした画作りが特徴です。Minoltaは何と言っても世界で初めてマルチコーティングを実用化した光学メーカーですので、その強みを最大限に生かした描写設計に至ったのでしょう。レンズは同社の一眼レフカメラSR-Tに搭載する交換レンズとして1966年に発売されました。これはHEXANONより5年も古い発売ですが、いかにもミノルタらしい前衛的で革新性に富む描写設計です。両レンズともレンズ構成は下図に示す5群6枚で、前群の貼り合わせを外し球面収差の補正力を向上させた拡張ガウスタイプの典型です。設計自由度が高く、メーカー独自の味付けができる構成と言えます。アプローチの異なる2本なので、描写に対する評価は難しそうですが、どうにか頑張りたいと思います。






入手の経緯
HEXANON AR:ネットオークションでは状態の良い品を4000~5000円程度と手ごろな値段で入手することができます。流通量が豊富なのでコンディションの良い個体のみに照準を絞り、その中から買いやすい値段のものを選ぶのがよいとおもいます。アダプターはKONICA ARマウントから各種ミラーレス機に接続するための市販品が入手できます。オススメはAR-LMアダプターでいったんライカMマウントに変換することです。ライカMマウントから各種ミラーレス機用のアダプターにジョイントしミラーレス機にマウントします。
ROKKOR-PF: ネットオークションではコンディションの良い個体が5000~8000円程度から入手できます。このレンズも流通量は豊富ですが、中古市場には状態の悪い個体が安値でゴロゴロと犇めいていますので、そいつらを掻き分けコンディションの良い個体を狙い打ちすることをおすすめします。安易に安値で探しても無駄なので、適正価格帯の中で良いものを探すことが肝心です。アダプターはminolta MDマウントから各種ミラーレス機に接続するための市販品を選びます。いったんライカMマウントを経由する事もできますが、この場合、中国製の安価なアダプターには無限の出ないものが多いと噂なので、安全のためK&Fブランドなどを選ぶとよいでしょう。

撮影テスト
HEXANON AR 1.7/50: 開放で引き画を撮る際はフレア(滲み)を伴う柔らかい描写傾向になります。少しボンヤリする時もありますが、これがオールドレンズならではの何とも言えない雰囲気を醸し出してくれます。一方でポートレート域で人物を撮る際には不思議とボンヤリ感が収まり、適度な柔らかさと緻密さが被写体を美しく描き出してくれます。バストアップくらいの撮影距離になると、ヌケの良い描写となります。たぶん、収差変動が起こり過剰補正が緩むのでしょう。計算高いしたたかなレンズですね。コントラストはミノルタに比べると低めで、発色も少し淡くなる傾向がありますが、解像力は高く緻密な画作りができます。繊細な味付けと軟調なトーンで勝負する味わいのあるレンズだとおもいます。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケが気になる事はありませんでしたが、開放で像面湾曲と光量落ちが感じられる場面がありました。

Konica HEXANON AR 50mm F1.7
+
SONY A7R2

HEXANON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日光) 柔らかく緻密・・・いいレンズです。中央の一部を拡大したのが次の写真

上の写真の中央部を拡大したもの。オールドレンズならではの柔らかい描写です

HEXANON @F1.7(開放) +SONY A7R2(WB:日陰) 階調もまんべんなく良く出ています。引き画で少しボンヤリとする開放描写が、何とも言えない雰囲気を出します。でも中央は緻密ですね
HEXANON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:電灯)
HEXANON @F8 + SONY A7R2(WB:日陰)


ROKKOR-PF 1.7/55: ミノルタは革新性を売りにしていたメーカーで、レンズの描写設計にも10年先を行く味付けを感じます。解像力は控えめですがコントラストを重視した時代の潮流の先頭を走っています。開放からフレアは出ず、スッキリとした写りと発色の鮮やかさのある力強い描写傾向のレンズで、絞ればカリッと写ります。半逆光で帯状のゴーストが出やすい点はROKKOR-PF 1.4/58に似ていますが、はっきりとした虹になるのはF1.4のモデルの方ですボケは安定しており、背後の像が乱れることはありませんでした。HEXANONよりも、より現代的な味付けに近いレンズと言えます。
 
Minolta ROKKOR-PF 55mm F1.7
+
SONY A7R2
 
ROKKOR-PF @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日陰) 開放からコントラストは良好で滲みもありませんが、解像力は控えめです。フィルム写真で使うには充分な解像力でしたが、デジタル高画素機ですと、HEXANONに比べ細部の質感表現で差がでます

ROKKOR @F1.7(開放) + Sony A7R2(WB:日陰) 薄いのですが、よく見ると虹のゴーストが出ていました。

ROKKOR @F1.7(開放)+ sony A7R2

ROKKOR @F1.7(開放)+ sony A7R2

ROKKOR @F1.7(開放)+ sony A7R2(セピア)
ROKKOR @F1.7(開放)+ sony A7R2(セピア)
ROKKOR @F1.7(開放)+ sony A7R2(セピア)
ROKKOR @F1.7(開放)+ sony A7R2(セピア)


HEXANON AR  vs ROKKOR-PF

さて、ジャッジの時間です。両レンズは描写設計が異なるため、解像感(シャープネス)へのアプローチも全く異なります。判断は微妙になる事は間違いありません。

まず引き絵で比較した下の写真を見てみましょう。明らかにROKKORの方が解像感に富むシャープな描写であることがわかります。SNSでアンケートをとってみても、ROKKORの方がシャープだとする回答の方が圧倒的に大多数でした。HEXANONの方はフレアが発生しておりボンヤリとしていて、発色も少し淡い感じがします。周辺画質がやや甘く(おそらく像面湾曲)、光量落ちもみられます。引き絵ではROKKORの圧勝です。

HEXANON @ F1.7(開放), sony A7R2(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9)
ROKKOR @ F1.7(開放), sony A7R2(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9)   Win!

 


中央部(ピント部)を拡大した写真も見ておきましょう。下の写真です。HEXANONの方がフレアが多くモヤモヤしていますが、細かなディテールをよりよく拾っており、解像力を重視したクラシックな画づくりが特徴です。対するROKKORはスッキリとしていてコントラストがより高く、メリハリのがありますが、ディテールを省略したややベタッとした画作りです。解像力ではHEXANON、ヌケの良さとメリハリの良さではROKKORに軍配があがります。

 
続いてポートレート域での比較です。下の2枚の写真を見てください。不思議なことに、被写体にこの位の距離まで近づくとHEXANONの写真に滲みは見られず、引き画の時とは異なるスッキリとした描写になります。コントラストはやはりROKKORの方が上で発色もより鮮やかなど、どんな人がとっても理解を得やすい写真になります。ただし、HEXANONの方が解像力に富む緻密な画作りができ、適度な柔らかさと相まって、より優れた質感表現ができるように思えます。ポートレートの人物撮影で最も要視されるのは質感表現だと聞いたことがありますので、ここはHEXANONの勝利としました。

HEXANON @F1.7 + sony A7R2(WB:日陰)このままROKKORが逃げ切るかと思っていましたが、順光でポートレート撮影の場合、描写が一変し、滲みが完全に消えています。コントラストはややROKKORに及びませんが、十分な解像感が得られています Win
ROKKOR @F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)ROKKORはこの通りにコントラストがより高く、スッキリとしたヌケの良さがありキリッと写ります。顔の発色もいい。端的に言えば線の太い描写と言われるものが当てはまります
 
引き画ではROKKOR、ポートレート域ではHEXANONに軍配を上げましたので、最終評価はもつれています。HEXANONにもう少しコントラストがあれば、前のRE TOPCORの記事のような判断で勝利させることができましたし、ROKKORにもう少し解像力があれば、前のZENIAR-Mの記事のように勝利させることができましたが、解像感(シャープネス)に対するアプローチの違いで今回の対決は両者互いに一歩も譲らない結果となりました。完全な引き分けです。ただし、トーナメント戦ですので勝者をどちらか一方に決めなければなりません。現代のレンズの描写理念により近い方を高性能レンズとするのが正論ですので、ROKKORを勝者にしたいと思います。オールドレンズらしい味のあるレンズとしてはHEXANONを推薦しますが、ここはトーナメントのルールを順守しなければなりません。
さて、これで第1回戦A-F組の対戦が全て終了しました。第2回戦は2021年度に実施します。より頻差の微妙なジャッジが要求されるものと思いますが、楽しみにしていてください。それでは、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

2020/12/27

Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8 M42/QBM muont



 
優れたガラス硝材が登場するとともにコンピュータによる自動設計技術が普及し、明るい標準レンズの代表格であるガウスタイプの設計は1970年代に成熟期を迎えます。過剰補正に頼らなくとも輪帯球面収差を無理なく補正でき、高いコントラストと解像力を両立させながら、素直なボケ、スッキリとしたヌケのよい開放描写を実現できるようになります。レンズ設計の関心はピント部からアウトフォーカス部へと移り、それまでボケ味のザワザワとしたレンズが大勢を占めていた中、ボケ味トロトロ系の美ボケレンズが各社から登場するようになります。ガウスタイプのレンズはここに来て新次元の領域に到達したわけです。

ウルトロン型レンズの集大成
グラッツェル博士のウルトロン
Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8

カラー・ウルトロンはフォクトレンダーブランドの一眼レフカメラVSL-1に搭載する交換レンズとして1974年より供給された凹みULTRONの後継レンズです。凹みUltron同様に7枚玉の贅沢なレンズ構成を踏襲していますが、フロント部の第一レンズが凹メニスカスではなく弱い正パワーの凸レンズに変更されている点が大きな違いです(下図)。光学系の原型は1970年にZeiss Ikonから発売されたRolleiflex SL35用のCarl Zeiss Planar 1.8/50ですが、このPlanarに採用された拡張ガウスタイプの設計構成は元を辿れば凹みULTRON、さらに遡るとVoigtlander ULTRONからの流れを汲んでおり、カラー・ウルトロンが登場したことで設計構成が再びUltronブランドに回帰したわけです。Zeiss Ikonは1971年にカメラ産業から撤退し、Zeiss IkonブランドとVoigtlanderブランドの商標はシンガポール・ローライに譲渡されており、これ以降の両ブランドはレンズの設計こそドイツ本国でしたが、シンガポールで製造されました。レンズを設計したのはホロゴンやディスタゴンなど革新的なレンズの設計で知られるカール・ツァイスのグラッツェル博士(Erhard Glatzel 1925年-2002年)で、レンズの開発にあたっては前モデルまでの設計を担当したトロニエ博士の助言が反映されているそうです。
 



カラー・ウルトロンは凹みウルトロンよりもコントラストや発色の改善に力を注いでいますが、それでも解像力は十分に高く、コンピュータ設計により7枚玉の底力が遺憾なく発揮されています。天下のCarl ZeissがPlanarの名で発売したレンズと同一設計なわけですから実力は間違いありませんが、残念なのは生産国がシンガポールであたっため過小評価され、不遇な扱いをうけてきたことです。安価なわりに高性能でコストパフォーマンスは抜群に高く、マニアの間では誰もが認める隠れ名玉として一目置かれる存在となっています。
 
入手の経緯
レンズはeBayに豊富に流通しており、相場はQBMマウントのモデルが100ドル~150ドル程度、M42マウントのモデルが150~200ドル程度です。この値段の差はM42マウントのモデルの方が使用できる一眼レフカメラが多いためですが、現在はミラーレス機が主流となり、値段の安いQBMマウントのモデルでも多くのカメラで使用できます。何ら不自由はありません。日本国内では海外相場の1.5倍くらいの値段で取引されています。
 
Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8(中央はM42マウント、右はRollei QBMマウント): フィルター径 49mm, 絞りF1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.45m, マウント規格 M42/Rollei QBM, 重量(実測)180(M42) /188g(QBM), マルチコーティング
  
撮影テスト
開放から解像力は高く、コントラストも十分で、現代のレンズに近い欠点の少ないレンズです。前モデルの凹みULTRONが持っていたシアン成分の発色の癖は完全になくなり、ハッとするような鮮やかな発色に出会えます。ボケは安定しており美しく、グルグルボケや放射ボケが目立つこともありません。ここまで高性能なレンズがこの程度の値段で入手できることは大変な驚きです。
 
F4 sony A7R2(WB:日光) マルチコーティングが良く働き、曇りの日でもコントラストは高いレベルをキープしています



F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)

F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)aaa










F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日光) 定評どうりの凄い性能。開放でこの描写力はもう異次元です



左右接合: 左F4/ 右F1.8(開放): SONY A7R2(WB:日光) 


F1.8(開放) SONY A7R2(AWB) 

F1.8(開放) SONY A7R2(AWB) 
F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰) 


F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)


F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

2020/12/25

写真展の告知:OLDLENS GIRLS Photo Exhibition ver.5: 2021.1.6(web)-17(sun)

OLDLENS GIRLS Photo Exhibition Ver.5
場所:新宿マルイ本館8F イベントスペース
会期:2021年1月6日(水)-17日(日)
オールドレンズ女子部 写真展5

オールドレンズ女子部の特別顧問として部長以下、部員の皆様をサポートさせていただいておりますが、このたび同部のグループ写真展が、新年の1月6日から新宿マルイ本店で開催されることになりました。今回はそのご案内です。ご来場の際にはコロナウィルスへの感染に充分ご注意いただきますよう、お願いいたします。

TORUNOによる週末(土・日)のオールドレンズ試写・販売コーナーは1月も継続するそうです。

2020/12/07

トロニエの魔鏡4:Carl Zeiss ULTRON 50mm F1.8 (M42 mount)




トロニエの魔鏡4
Zeiss/Voigtländerブランド初の
コンピュータ設計によるレンズ
Carl Zeiss ULTRON 50mm F1.8(M42/BM mount)

ウルトロン(Ultron)を世に送り出したトロニエ博士は1950年代半ばに、フォクトレンダー社( Voigtländer )の2名のエンジニアとウルトロンをベースとする新型レンズの設計に取り掛かかりました[1,2]。このレンズは前方に凹面の無収差レンズ(Concave Aplanatic lens)を据えた異様な外観を呈し、日本では「凹みウルトロン」と呼ばれています。凹面レンズはコストのかかるSchott社の高密度クラウンガラスK10で作られており、バックフォーカスを延長させる役割に加え、後続光学系の収差補正環境を整える役割、ぐるぐるボケの原因となる非点収差の補正効果を高める役割がありました[3]。また、レンズの瞳(軸外からの瞳入射角)を拡大させ写真の四隅で起こる光量不足を軽減することができました。凹面レンズの有る/無しで比較すると受光量は61.7%も増大するそうです[2]。この内容だけなら普通のレトロフォーカスと何ら差は無いように思えますが、凹みUltronではこれらを無収差レンズで実現しており、後続レンズの収差補正環境(球面収差とコマ収差)に限りなく無影響なのが特徴です。
凹みウルトロンは初代ウルトロンと同等以上の性能を実現しながら、一眼レフカメラで問題となるミラー干渉を回避できる長所を備えていました。凹面レンズの曲率の決定には世界初の商用デジタルコンピュータを開発したコンラート・ツーゼ博士(Konrad Zuse)のコンピュータ(Zシリーズ)が使用されたそうです[4]。デジタルコンピュータの登場がレンズ設計士の役割を脅かす時代を、トロニエ博士はどのような気持ちで受け止めたのでしょうか。
レンズが製造されたのは1968年から1970年までの2年間で、一眼レフカメラのICAREX 35に搭載する交換レンズとしてTessar 50mm F2.8やSkoparex 35mm F3.5などと共に市場供給されました。Voigtlanderの台帳に記載されているレンズの製造本数は約36000本で、このうち約28000本がICAREX BM用(BMマウント)、約8000本がIcarex TM用(M42マウント)です[7]。M42マウントの個体は案外と少ないんですね!。
関連特許US.Pat.3612663(Oct.1971) Fig.2  A.W. Tronnier, J. Eggert and F. Uberhagenに掲載されている構成図からのトレーススケッチ(見取り図)
Carl Zeiss ULTRON 50mm F1.8の構成図のトレーススケッチ(見取り図)6群7枚ULTRON型。前から1枚目の凹エレメントは、Schott社の高密度クラウンK10で作られています。次の第2レンズにはLaK14とSSK8が含まれており、どちらも当時としては非常に高密度で高屈折率のクラウンガラスです[2]。4番目のエレメントには鉛含有の重フリントSF10、コストのかかるレンズでした


 
参考文献・資料
[1]  VOIGTLÄNDER - historical lenses by Frank Mechelhoff 
[2]  特許 US.Pat.3612663(Oct.1971):レンズを設計したのは元Voigtlander社のエンジニアのトロニエ(Albrecht Wilhelm Tronnier ), エッガート(Joachim Eggert)、ウーバハーゲン(Fritz Uberhagen)で、3名共同での関連特許を1968年にスイス、1969年に米国(US3612663)およびドイツ(DE1797435A1/DE1797435B2/DE6605774U)で出願しています。
[3]  LAB & REVIEW: CARL ZEISS ULTRON 1,8/50 (1968-1972) "Regend Realized" Dec. 2019 
[4]  1956年のVoigtlanderの英語版カタログ
[5]  Marco Kröger Zeissikonveb.de  (2016)
[6] robotrontechnik.de: Computer OPREMA (29.11.2016)
[7]  フォクトレンダー台帳: Hartmut Thiele, Fabrikationsbuch Photooptik: Voigtlander, Privatdruck Munchen 2004

Carl Zeiss ULTRON 50mm F1.8 M42マウント(中央)Icarex BMマウント(右):重量285g(M42), 絞り F1.8~16, 最短撮影距離 0.45m, 

   
相場価格
現在のeBayでの取引価格はM42マウントのモデルが500ドル~550ドル(現在の為替相場で55000円くらい)、BMマウント(Icarex BMマウント)のモデルが400ドル~450ドル程度(45000円くらい)です。ミラーレス機で使うならどちらのモデルでもよいので、少しでも安い方をおすすめします。どういうわけかカメラのIcarexとセットでも同程度の値段で買える事があり、カメラを1~1.5万円で売却してしまえば実質的にレンズはもう少し安く手に入ります(裏技)。国内ではヤフオクに常時流通があり、取引相場はeBayと大差ありません。ショップでの相場ですとオークションよりも1~2万円高くなります。
私は2009年にM42マウントのモデルをeBayにて325ドル(当時の為替相場で30000円くらい)で購入しました。ブログを書いたら売却する方針を貫いていますが、このレンズに関する知識が浅く、謎の多いレンズでしたので、キープしていました。当時の相場は350ドル~400ドルでしたから、この10年で取引額は150ドル程度上昇したことになります。
 
撮影テスト
半世紀前のレンズとしては大変に高性能です。ピント部中央には充分な解像力があり、開放から滲みのないスッキリとした写りです。像面湾曲は先代のウルトロンと同様に大きく、四隅でピントを合わせると中央はピンボケしてしまいますのて、平面を撮るのは苦手ですが、後ボケ側で像が急激にボケる特徴を生み出しています。背後のボケは距離によらず安定していて綺麗で、像の乱れは気にならないレベルです。開放で前ボケ側(ピント部近く)に微かなグルグルボケがみられることがあります。階調描写は流石に古い時代のレンズらしく軟調気味で、中間階調が豊富に出るためトーンを丁寧に拾うことができます。背後の安定したボケと相まって、自然光の入る室内での撮影や曇り日の屋外などにはダイナミックなトーンを楽しむことができます。発色にはクセがあり、落ち着いた発色であるとともに青が不思議な色合いになります。これは前群側に多用されている高密度ガラスが青色側(短波長成分)の光を通しにくい性質を持つためです[3]。球面収差の補正は完全補正に近いのか、絞りを閉じても画質がゆっくりダラ~ッと変化する感じで面白いです。先代のプロミネント版ウルトロンでみられた周辺光量の不足はだいぶ改善されています。

F1.8(開放)sony A7R2(WB:曇) 発色はややクセがあり、青が少し濁り気味かつ全体的にややクールトーン
F1.8(開放)sony A7R2(WB:曇) 後ボケのボケ方が急激なのはこのレンズの特徴ですが、被写界深度が深いわけではなく像面の湾曲が大きいことに加え、球面収差が完全補正に近い(過剰補正ではない)ためによる効果だと考えられます

F4 sony A7R2(WB:日陰)
F1.8(開放)sony A7R2(WB:?)
F8 sony A7R2(WB:曇天)
F1.8(開放)sony A7R2(WB:日光)
F1.8(開放) sony A7R2(WB:AWB)
          
Film: KODAK Gold 200
Camera: minolta X-700

F1.8(開放), Kodak Gold 200カラーネガフィルム(minolta X-700)

F2.8, Kodak Gold 200カラーネガフィルム(minolta X-700)

F1.8(開放), Kodak Gold 200カラーネガフィルム(minolta X-700)

本シリーズも残すところウルトラゴンとノクトンのみになりました。しかし、情報がないので続きは来年にします。トロニエ博士やノクトン、ウルトラゴンに関する確かな情報をお持ちの方は、お力添えをいただければ幸いです。