おしらせ


2019/11/28

LOMO/LENKINAP OKC/OKS 35mmF2 cine-lens family: OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1

KONVAS(OCT-18マウント)用に供給された羽根つきの製品:左からOKC11-35-1, OKC8-35-1, OKC1-35-1

レンズヘッドで供給された製品:OKC8-35-1(左), OKC1-35-1(手前), OKC11-35-1(右奥)
 
LOMOの映画用レンズ part 6-8 (プロローグ)
LOMOが改良に最も力を入れた
焦点距離35mmの主力レンズ群
LOMO/LENKINAP OKC(OKS) 35mm F2 family: 
OKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-1
今回からLOMOが市場供給した焦点距離35mmの製品群を取り上げます。ポピュラーなものとしてはOKC1-35-1, OKC8-35-1, OKC11-35-13種があり、それぞれ設計構成や描写の味付けが異なります。初代のOKC1-35-1(LENKINAP時代の1959年頃に登場)は中心部に偏重した描写設定で立体感に富み、ポートレート向きであるのに対し、2代目のOKC8-35-1(1971年に登場)は中心部の性能をやや抑える代わりに像面特性と歪みを大幅に改善、風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています。3代目のOKC11-35-1(1980年代初頭に登場)は構成枚数を6枚に落とし製造コストと空気境界面数を同時に削減するとともにコーティングをマルチコート化、コントラストとシャープネスを合理的に向上させ、発色は鮮やかになっています。中心部を重視した初代OKC1-35-1に近い設定で解像力を更に向上させています。それぞれ鏡胴に羽根のついた製品(上段写真)とレンズヘッドとして供給された製品(下段写真)が市場に流通しています。せっかくなので全部入手し各モデルの違いを比べてみたいと思います。前者の羽根つきの方がシネレンズっぽさが出ており独特な外観で格好良いのですが、後者の方がコンパクトなうえケラれが少ない分だけイメージサークルは大きく、中にはフルサイズ機でも使える製品があります。







2019/11/26

三宝カメラ2nd BASE 12.12OPEN予告


オールドレンズフェスでもお馴染みの三宝カメラが12月12日に2号店 2nd BASEを秋葉原にオープンさせるそうです。新しいお店はオールドレンズ、オールドカメラの専門店になる模様です。12月12日(木)から15日(日)まではオープン記念セールで、値引きがあるそうです。

Sanpo Camera "2nd BASE" will open in Akihabara, Tokyo on December 12th. The new store will be a specialized shop for old vintage lenses and cameras.

Sanpo Camera“ 2nd BASE”将于12月12日在东京秋叶原市开业。新店将是一家专门店,出售旧的老式镜头和相机。

HP: https://www.2ndbase-tokyo.com/

2019/11/19

LOMO/LENKINAP OKC1-16-1(OKS1-16-1) 16mm F3


技術の黎明期や発展期には足りない部分を力づくで成立させてしまうような、規格外の製品が登場する事があります。多くの場合、そういう類の製品は採算性が悪く市場経済には受け入れられませんので、メーカーに開発できる技術力があっても試作止まりで日の目を見ることがありません。あるとすれば製造コストを度外視できる国・・・そう共産圏の製品です。

LOMOの映画用レンズ part 5 
フロント径134mm、リアM29のクレイジーガイ!
サイズも写りも規格外のモンスターレンズ
LOMO/LENKINAP OKC(OKS)1-16-1  16mm F3
前玉に直径134mmの巨大なレンズユニットを据え付けたモンスター級シネレンズOKC1-16-1は、1960年代初頭にソビエト連邦(現ロシア)レングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身団体の一つ)で開発されました。当時の西側諸国には焦点距離が18mmよりも短いシネレンズがありませんでしたので、これは画期的なことでした。焦点距離を更に短縮させる場合、当時の光学技術ではレンズが大型化してしまい、アリフレックスのターレット式マウントに同乗させると他のレンズの視界を遮ってしまいます。有名なSpeed Panchro(スピードパンクロ)18mm F1.7でさえ既にかなりの大型レンズでしたが、パンクロシリーズに焦点距離16mmのモデルはありませんでした。おそらくこのあたりが限界だったのでしょう。今回取り上げるOKC1-16-1もデカくて重いうえ、コストパフォーマンスは劣悪ですが、写りは驚くほど秀逸なうえ、何よりも焦点距離を16mmまで短縮させ未踏の領域に到達した先駆的なシネレンズでした。
レンズの設計は下図に示すような豪華な6群9枚構成で、前群に配置した屈折力の大きな2つの凹レンズで入射光束をいったん発散光束にかえバックフォーカスを延長させるとともに、正の屈折力を持つ後群で集光させながら収差の補正を同時に行うレトロフォーカス型レンズの典型です。マスターレンズが何であるのか、後群側をよく見ても複雑でよくわかりませんので、コンピュータで設計されていたのかもしれません。レニングラードには光学設計で有名なITMO大学があり、1958年からリレー式コンピュータのLIMTO-1を運用しています[1]。同大学とLOMOとは協力関係にありましたので、あり得ない話ではありません。
  
OKC1-16-1 16mm F3(T3.5)の構成図(文献[2]からのトレーススケッチ):左が被写体側で右がカメラ側。初期のレトロフォーカス型レンズは前玉の大きな凹レンズと前・後群間の広い空気間隔を利用してバックフォーカスを稼ぐ仕組みでしたので光学系は巨大でした
 
レンズが発売された1960年当時、レトロフォーカス型レンズの設計技術は急激な進歩の中にいました。西側諸国でもAngenieuxがすぐ後の1960年代前半に軽量でコンパクトなType R62 14.5mm F3.5を発売しています。デカいことがこのレンズの最大の弱点であったのは確かで、レンズを映画用カメラのKONVASにマウントする場合はカメラに3つのレンズを同時にマウントすることができず他の2つは取り外さなくてはなりませんでした。ただし、描写性能はOKC1-16-1の方が格段に現代的で先を行っていました。OKC1-16-11962年に少量が製造されたのみで、直ぐにコンパクトで軽量な後継製品のOKC2-16-1へとモデルチェンジしています。OKC2-16-1は前玉径が75mmで重量は350gと携帯性が大幅に向上し、KONVASのターレット式マウントにも問題なく搭載できました。
描写性能を維持したまま小型化することは可能だったのでしょうか?。小さく設計することと引き換えに失われたものが何かあるとするならば、それは何だったのでしょうか?。まだまだわからない事だらけです。
 

重量(実測)1.51kg, イメージサークル: スーパー35シネマフォーマット(APS-C相当), 対応マウント: KONVAS OCT-18(OST-18)とKONVAS KINOR-35(M29 thread)の2種, 設計構成: 6群9枚レトロフォーカス型, マウント: M29ネジマウント,  絞り: F3(T3.5)-F16, 解像力(GOI規格): 中心60LPM, 周辺25LPM, 絞り羽: 9枚構成, コーティング:単層Pコーティング
入手の経緯
ここまで広角のシネレンズともなると、常用ではなく室内など狭い空間でのシーンや、パースペクティブを強調したいシーンに限定して使われたに違いありません。市場に流通している個体数が極僅かなのは、このような事情を反映しており、探すとなるとなかなか見つけるのは難しい希少レンズです。
レンズは2018年8月にロシアのシネマフォトグラファーがeBayに出品していたものを450ドル(送料込み)の即決価格で購入しました。オークション記載は「レンズのコンディションは5段階評価の5。ガラスにカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離などはない。鏡胴は腐食やびびなど見られずとても良い状態。各部のリングはスムーズに回り、全ては適正に動く。絞り羽もドライかつスムーズに開閉する」とのこと。提示写真には若干のコバ落ちがみられたものの全体的な状態は大変良さそう。レンズには純正のフロントキャップとM29リアキャップが付いていました。落札から2週間、手元には記載どうり状態の良いレンズが届きました。
届いたレンズを手に取り、ここまでデカいとは思っていませんでしたので、驚きと共に開いた口がふさがりませんでした。初期のレトロフォーカス型レンズはどれも大きくインパクトのある前玉が特徴ですが、インパクトでこのレンズの右に出る製品はないと思います。
 
参考文献
[1] Outstanding Scientific Achievements of the ITMO Scientists, ITMO University
[2] GOI lens catalog 1970
 
撮影テスト
レトロフォーカス型レンズの長所は像面が平らなことと四隅でも光量落ちが少ないことで、これらはレンジファインダー機用に設計された旧来からの広角レンズに対する大きなアドバンテージです。一方で初期のレトロフォーカス型レンズはコマ収差の補正と樽状の歪みを抑えることが課題でした。優秀なレトロフォーカス型レンズはこれらが十分に補正されています。
本レンズは開放でもコマ収差は全くみられず、ピント部はシャープで歪みも極僅か。解像力(GOI規格のカタログ値)は中心60線、周辺25線とかなり高く、シネマ用の標準レンズと比べてもなんら遜色のないレベルです[2]。この時代の製品としては描写性能の高い非常に優秀なレンズです。レトロフォーカス型レンズらしく光量落ちは少ないうえ、四隅の色滲み(倍率色収差)は全く目立たず、像面も平らなので、四隅にメインの被写体を置いても画質的に不安になることはありません。逆光ではゴーストが出ますがハレーションにはなりにくく、ド逆光でも少し絞れば耐えられます。階調は軟らかくトーンの変化はなだらかで、深く絞ってもカリカリになることはありません。風景の中の濃淡をダイナミックに捉えるレンズだと思います。

レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットですので、APS-C機で用いるのが最も相性のよい組み合わせです。今回はSONY A7R2に搭載しAPS-Cモードに設定変更して使用しました。
F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日光) さっそくド逆光で太陽を入れましたが、フツーに撮れます
F5.6  sony A7R2(APS-C mode, WB:日光) 
F8 sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)


F8 sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)

F3(開放)sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F4  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F4  sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)