おしらせ

 

2019/08/01

Hugo Meyer Görlitz PRIMOPLAN 2.5cm F1.5(C mount)





写真レンズの本来の使命は、被写体の真の姿を忠実に写し撮ることです。記録写真や報道写真の分野ではこの考え方が最も重視され、出来る限り無収差に近いレンズが追及されてきました。しかし、このようなレンズがあらゆる分野に歓迎されるわけではありません。例えば写真を表現の一手段と捉える創作活動の分野では、表現者の意図を汲み取ることのできるレンズが選ばれます。女性を被写体とするポートレート写真やある種の風景写真では、シャープな描写が時には欠点にもなります。カメラ女子の人口が急伸している現在、忠実な描写よりも美しい描写、レトロでお洒落な写真を望む声が以前にもまして大きくなっています。 

女子力向上レンズ part 4
プリモプランの原型と言える
エルノスター型プリモプラン
Hugo Meyer PRIMOPLAN 2.5cm F1.5(C mount)

ふんわり、ぼんやり、でもシッカリと緻密に写るオールドレンズ女子の嗜好にストライクなレンズ、そのひとつが戦前にドイツのMeyer-Optik(マイヤー・オプテーク)が16mm用ムービーカメラ用として供給したPrimoplan(プリモプラン) 25mm F1.5です。カメラ女子から圧倒的な支持を得ているオリンパスのマイクロフォーサーズ機との相性も良く、明るい標準レンズとして大活躍すること間違いなしでしょう。

プリモプランと言えばスチル撮影用につくられた口径比F1.9のモデルが有名で復刻版まででていますが、今回紹介するのは1935年に登場した16mmムービーカメラのBOLEX 16H Leaderに搭載する交換レンズとして供給されたシネマ用のモデルで、口径比は明るいF1.5です。ピント部はよく滲み、前ボケは崩壊気味なので、写真家というよりはアーティストが使いそうな類の魔力系レンズです。

設計構成は良く知られているスチル撮影用のモデルとは異なり、その原型ともいえる4群4枚のエルノスターI型です(下図)。スチル撮影用に供給されたプリモプランがエルノスタータイプやその始祖であるトリプレットタイプ(TORIOPLAN)から派生したレンズであることを示す決定的な証拠といえます。レンズを設計したのは第二次世界大戦前にMeyer-Optik社の主任レンズ設計士としてプリモプランシリーズの設計を統括したポール・シェーファーという人物です。
F1.5のプリモプランには希少性の高い焦点距離5cmのモデルもあり、こちらは極めて数が少ないため、コレクターズアイテムとなっています。米国ではB&H EXTOLという製品名でも販売されました。
Primoplan 25mm F1.5と同型のエルノスターI型(エルネマン社)の設計。構成は4群4枚で、トリプレットの前方に正の凸レンズを据えることで大口径化を実現している
レンズには純正フードとBOLEXの保証書(シリアル番号入り)がついていました
 
入手の経緯
レンズはeBayにてドイツのおじいちゃんコレクターから購入しました。この方は本レンズ以外にも自分のカメラやレンズのコレクションを大量に売り出していました。自己紹介欄に写真があり80~90歳あたりの高齢者のようで、使わなくなったので身の回りの物を整理しているとのことです。終活中なのでしょうか。
レンズにはシリアル番号入りの保証書が付いていました。メイヤーの台帳を見るとレンズの製造年は1937年前後ですが、保証書の刻印は1941年になっています。当時は大戦中なので人の手に渡るまでに時間を要したみたいです。スナイプ入札を試みたところ2万円台(送料込でも3万円)であっさりと落札することができました。eBayでの取引相場は350ドル~400ドル(4万円前後)あたりで、日本国内でもほぼ同じ相場(4~5万円あたり)で取引されています。届いたレンズはとても状態が良く、長い間ずーっと大切にのしてきたのでしょう。
重量(実測)149.7g,  絞り羽 12枚, 絞り値F1.5-F16, 最短撮影距離 0.45m, S/N: 829040(1937年製), 構成 4群4枚(エルノスター I型), Cマウント(Bolex 16H用), ノンコート






 
撮影テスト
とても軟調なレンズで発色は淡く、オールドレンズっぽい落ち着いた雰囲気になります。開放ではピント部全体に僅かにフレアが入り、しっとり感の漂う柔らかい描写傾向です。またハイライト部に適度な滲みが入り、ファンタジックな画作りができます。中心部は開放からシャープで、絞るほど良像域が四隅に向かって広がります。2段も絞ればスッキリとしたヌケの良い描写になります。グルグルボケは背後ではなく前ボケに発生します。これは活かし方次第で面白い写真が撮れるとおもいます。背後のボケは四隅まで乱れることなく距離によらずに安定しています。定格イメージサークルを超えるマイクロフォーサーズセンサーで写真を撮るとコマ収差が顕著に目立ち、周辺部で玉ボケが三角形の形状に変形します。典型的な球面収差の過剰補正型レンズですが、滲みが入るため背後のボケがうるさい感じにはなりません。

最短撮影距離は0.45mなので、不満な場合はCマントレンズ用の接写リングをポケットに用意しておくとよいと思います。また、四隅のケラレを避けたい場合はカメラの設定でアスペクト比を16:9に変えるとよいでしょう。
 
Camera: Olympus PEN E-PL6 
(Micro 4/3 sensor, Aspect ratio 16:9)
F1.5(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 前ボケは独特でグルグルボケが面白い感じに出ます。軟調な描写のためか発色はやや淡い感じで、お洒落に仕上がります
F1.5(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 薄いフレアに覆われ、しっとりとした柔らかい描写です
F1.5(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) フレアに覆われ、背後のボケがはじけています
F1.5(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) 

F1.5(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect Ratio 16:9) アスペクト比16:9なら引き画でもケラレは出ません。深く絞ればケラれますが







  
Camera: Fujifilm X-T20 
(APS-C sensor / Aspect ratio 1:1)
F1.5(開放)  Fujifilm X-T20(AWB:Aspect ratio 1:1)

F1.5(開放)  Fujifilm X-T20(AWB:Aspect ratio 1:1)







  
続いてうらりん(@kaori_urarin)さんにご提供していただいた写真作品をご覧いただきます。このレンズ独特のボケ味が活かされていますうらりんさんのインスタグラムにも是非お立ち寄りください。こちらです。


Photographer: うらりん
Camera: Olympus PEN-F

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2019/07/16

企画展DDR windが終了

2019年7月5-7日に東京・原宿のデザインフェスタギャラーで開催されたオールドレンズフェスVOL.3は今年も大いに盛り上がり3日間の会期を無事に終えました。今回のVOL.3では、これまでにない初めての試みとして企画展「DDR WIND」が立案され、私は幹事として会場のEAST204にて出展者・来場者の皆様と楽しく有意義な3日間を過ごしました。
この企画展はツァイス・イエナやメイヤーオプテークなど東ドイツ製レンズを愛用する写真家が集い、写真作品を展示するとともに、レンズの魅力を語り合う交流の場でもあります。協力していただいた出展者の皆様、会場に足を運んでくださった皆様に深く御礼申し上げます。
 
改めて写真展に出展していただいた方々と、使用レンズをご紹介いたします。
 
山本航 x Tessar 2.8/50
中耶莉佐 × Pancolar 1.8/50
Kuramago x Primoplan 1.9/58
伊藤浩一 x Trioplan 2.9/75
上野由日路 x Pentacon MC 1.8/50
塩島真吾 x Flektogon 2.8/35
鈴木啓太/urban x Flektogon 4/20
spiral x Primoplan 1.5/25
 
会場には著名な写真家の方々が次々と来場し、ビックリ仰天の毎日でした。写真でその様子をお伝えします。

まず5日の初日には写真家でエッセイストのハービー・山口(右)さんに来場していただきました。私とのツーショット写真です。Photo:塩島真吾さん













6日(2日目)に来場していただいたのは田中長徳さん(右から2番目)と澤村徹さん(左から2番目)です。田中さんにはDDRのプレートをご持参いただきました。右はオールドレンズフェス実行委員長の上野由日路さん。企画展幹事の私(左)もちゃっかり写ってまーす(←いらんかも)Photo: 伊藤浩一さん


本企画展の運営に協力してくださった伊藤浩一さん(右)。オールドレンズの経験が豊富な方です。Photo提供:伊藤浩一さん

来年に開催予定のオールドレンズフェスVOL.4(2020)でも新しいテーマでこの企画展を立案し、出展者と来場者が共にオールドレンズの魅力を語り合う交流の広場にしてゆきたいと考えています。映画文化とシネレンズを絡めるようなテーマかな。アイデア募集中です。

オールドレンズ闇市で飛び入り店長をしてくださった澤村さん。来店したお客さんから「初心者向けにピッタリのレンズはありませんか?」「おすすめのM42レンズはありませんか?」などの質問が飛び交い、とても丁寧に対応されていました Photo: 伊藤浩一さん
また、同会場では「オールドレンズ闇市」が併設され、オールドレンズ写真学校やオールドレンズ女子部関係者の不要レンズの委託販売がおこなわれました。こちらには澤村徹さんがご来店、何と飛び入り店長をしてくださいました!

2019/06/14

OLD LENS FESTIVAL VOL.3 in TOKYO 2019


OLD LENS FESTIVAL Vol.3 in Harajyuku TOKYO
July 5th to 7th, 2019
Old Lens Festival vol.3 will be held in Harajyuku(Tokyo) from July 5th to 7th, you can find the outline of the festival in the following official web-page:
https://urbansoul00.wixsite.com/oldlensfestival 

会期が近づいてきましたのでお知らせしますが、オールドレンズフェス vol.3 が2019年7月5日-7月7日に開催となります。私も運営スタッフ(主催側)として参加予定です。
 

今回は何と私が東ドイツ製レンズによるグループ写真展を企画しました!
 
企画展DDR WIND!
場所 EAST 204(Old lens festival VOL.3)
開催 7月5日--7月7日
敗戦によるドイツの東西分断でソビエト連邦主導の東側諸国に取り込まれたドイツ民主共和国(DDR)。かつて、この国には世界最高水準の光学技術を擁したカールツァイス人民公社や、現在のオールドレンズブームの火付け役となったメーヤー・オプテークがありました。西側諸国では光学技術の急激な近代化がオールドレンズを無味無臭な現代レンズに変えてしまいましたが、一方で1970年代までのDDR製レンズには大昔のレンズの描写にみられた素朴で牧歌的な叙情、田舎くささが残っており、今もオールドレンズファンを魅了し続けています。

この企画展ではDDR製レンズを愛用する9人の写真家が自身の写真作品を展示しレンズの紹介も行います。フェスにご来場の際にはぜひお立ち寄りください。

出展者
spiral x Primoplan 1.5/25
鈴木啓太/urban x Flektogon 4/20
塩島真吾 x Flektogon 2.8/35
上野由日路 x Pentacon MC 1.8/50
伊藤浩一 x Trioplan 2.9/75
進藤智士 x Tessar 2.8/50
中耶莉佐 × Pancolar 1.8/50
Kuramago x Primoplan 1.9/58
山本航 x Tessar 2.8/50 ?


2019/05/14

Kern-Paillard SWITAR 25mm F1.4(c-mount)



フンワリ、ボンヤリ、でもシッカリ写るレンズはオールドレンズ女子の強い味方。スイスのKern社から1956年に登場したスイターRXシリーズもその手のレンズです。スイターといえばマニアもたじろぐ高級ブランドですが、Cマウント版なら実用主義のカメラ女子にも無理なく買える手頃な値段なのでオススメです。
 
特集:女子力向上レンズ PART 3
寄ればフワトロ、引き画でスッキリの変化系レンズ
Kern-Paillard SWITAR 25mm F1.4 
Kern(ケルン)社のSwitar(スイター)シリーズには搭載するBolex(ボレックス)というカメラの仕様に応じてARRXという2種の姉妹レンズがあり、これらをデジタル一眼カメラで使用する場合には全く異なる性格の描写を楽しむことができます。いずれのタイプもイメージサークルはマイクロフォーサーズセンサーをギリギリでカバーでき、鏡胴もコンパクトなためカメラ女子の多くが愛用するオリンパスPENOM-Dにはピッタリのオールドレンズです。ARRXの画質についてはホームページ[1]にとても詳しい比較・検証記事があり参考になります。ザックリと言ってしまえば、ARは開放からシャープでスッキリとしたヌケの良い描写が特徴の「完全補正型」と呼ばれる性格のレンズで、もう一方のRXはピント部の像が滲みを伴いながらトロトロととろけ、背後の滑らかなボケへと沈んでゆく典型的な「補正不足型」です[7]。背後のボケ量は大きく、柔らかく美しい描写が特徴ですが、こうなるにはコントラストや解像感が多少は犠牲になります。でも、どういうわけかこのレンズは例外的にコントラストがよく発色も鮮やかなのです。まぁ、程度の問題なのでしょうけれど。
開放からキッチリとシャープに写るARと、滲み系フワトロレンズのRX。皆さんはどちらが好みですか。たぶんAR好きは比較的男性に多く、RX好きは女性に多いような気がしています。
SWITAR RXの描写がソフトなのは、このレンズを搭載して用いたムービーカメラの特殊な機構に由来しています。カメラには分光プリズムによって光の25%をファインダーに導く仕組みが備わっていました[参考文献2-3]。ところが、レンズとフィルムの間にプリズムを1枚入れると光学系全体では球面収差が補正不足(アンダーコレクション)になり、完全補正を実現するには再度補正しなければなりません。Switar RXにははじめからプリズムの影響を考慮した設計が施されており、球面収差をレンズとプリズムが協力して補正するようにつくられました。つまり、プリズムを省きレンズ単体になると補正不足型に戻ってしまうのです[3]。球面収差を意図的に補正不足にする手法はソフトフォーカスレンズに施されているものとほぼ同じで、違いは程度の問題だけです。ただし、SWITAR RXの場合は意図的にこうなったわけではなく、プリズムの省略による副作用以外の何もでもありません。でも、おかげでフツーによく写るレンズとは一線を画す特別な描写設計(常用もできるやや補正不足の使いやすいレンズ)となったわけで、これはもう嬉しいアクシデントと考える方が幸せです。
 
Kern Switar 25mm F1.4:[文献4]に掲載されていた構成図のトレーススケッチ(見取り図);  左が前方(被写体側)で右が後方(カメラ側)。設計構成は4群6枚のプリモプラン発展型(Advanced -PRIMOPLAN type)。絞りが4群の手前にあるのは、第4群の前後移動でピントの位置を変えるインナーフォーカス機構のためです[参考5]

SWITAR RXシリーズは1956年に登場したBolex H-16 Reflexという映画用カメラの交換レンズとして、カメラとともに発売されました[6]。ケルンといえばライカを凌ぐ高級ブランドでしたので鏡胴のつくりは感心するほど良く、下の写真のように非写界深度のレンジを示したオレンジ色の帯が絞りリングの回転に連動して伸縮する凝った仕掛けになっています。また、この時代としては革新的なインナーフォーカス機構が導入されており、後玉の前後移動でピントが拾える仕組みになっています[5]。マニアやコレクターが好んで所有するのもよくわかります。タイプRXには今回紹介する25mm F1.4以外にも10mm F1.6, 16mm F1.8, 50mm F1.4があり、Pizar 25mm F1.5Pizar 50mm F1.8にもRX版が用意されました[6]。ちなみに焦点距離が長いほどプリズムの影響は小さく、75mm以上のモデルにRX版はありません[3]。レンズの設計は上の図に示すようなプリモプランからの発展型で、ユニークかつ豪華な構成形態です[4]。小さいくせに手に取るとズシリと重く、存在感たっぷりのレンズです。

 
参考文献・資料
[1] hubbll's Photo Leaf: Kern-Phillandの25mm F1.4のARとRXの写りはどう違うのか?
[2] Bolex Product News From Paillard," No. 5, (New York: Paillard Incorporated, June 25, 1974).
[3] BOLEX COLLECTOR: Lenses for Bolex 16mm Cameras
[4]Photographica Cabinett 30, Das Magazin für Sammler Dezember 2003
[5] 出品者のひとりごと・・: Kern-Paillard Switzerland
[6] BOLEX COLLECTOR: Kern-Paillad lenses
[7] 日本ではSWITAR RXが過剰補正型であるという誤った情報が広く流布していますが、この誤解は文献[2,3]の記載が紛らわしいために起こったものであると推測されます。よく読めばRXが補正不足であることはわかりますし、レンズの描写はそもそも典型的な補正不足型です。文献[3]の中の他の図は無視しFigure 4とFigure 7のみを見てください。RXを見立てたFigure 7のレンズが再び単玉に戻っている点を見落としてはいけません

入手の経緯
レンズは中古市場に数多く流通しています。ここ最近のCマウント系レンズは世界の相場よりも日本国内の相場の方が安く、本レンズもeBayでの中古相場は35000円~40000円あたりであるのに対し日本国内での相場は20000円~25000円程度、今買うなら国内だと思います。私は20195月にヤフオクで状態の特に良い個体を2本みつけ、25000円と30000円で購入しました。ちなみにSWITAR ARの方が10000円程度安く取引されており、まともに写るレンズの方が人気が低いという逆転現象が起こっています。届いたレンズは両方とも完璧に近いコンデイションで、一方はマウント部のネジにも全くスレがみられませんでした。未使用(オールドストック)の保管品だったのではないかとおもいます。

Kern SWITAR 25mm F1.4 H16 RX: フィルター径 31.5mm, 最短撮影距離 1.5feet(約45cm), 絞り値 F1.4-F22, 重量(実測)136g, 絞り羽根 9枚, 設計構成 4群6枚プリモプラン発展型, フォーカス機構 インナーフォーカス, イメージフォーマット 16mmシネマフォーマット, Cマウント, 深く絞るとケラれますが開放からF2.8あたりまでは問題なし。アスペクト比16:9で用いるなら、開放からF4までケラレなく使えます


撮影テスト
近接撮影時にはピント部を薄いフレアが覆い、ソフトフォーカスレンズに近い柔らかい描写傾向になります。これは近接時に補正不足型レンズとしての性質が一層強まるためで、この性質変化のことを収差変動といいます。フレアはポートレート域から遠景を撮影する場合には収まり、スッキリとしたヌケの良い像、クッキリとした鮮やかな発色など、コントラストの高いシャープな描写になります。解像力は平凡ですが、そもそも感覚と印象で勝負するカメラ女子達に現代レンズのような高い解像力は要りません。近接撮影では気になりませんが、引き画では像面湾曲と非点収差が目立ち、四隅の像が放射気味に流れます。気になる場合にはカメラの設定で写真のアスペクト比を16:9に変更すると良いでしょう。四隅が切り取られ像の乱れがだいぶ緩和されますので、おすすめです。背後のボケはこのクラスにしては大きく、ピントが外れたところから急激にボケてゆきます。ボケ味は素直で美しく、滲みを纏いながらトロトロととろけるようにボケてゆき、少し絞っても画質の変化があまりありません。マイクロフォーサーズ機でも大きな後ボケの得られる、有難いレンズだと思います。
今回もオールドレンズ女子のお力添えをいただくことになりました。

Photographer: spiral
Camera: Olympus PEN E-PL6(Aspect ratio 16:9)

F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9) ピントが外れたところから急激にボケてゆきます。背後のボケが大きく滲むのもこのレンズの近接撮影時の特徴です
F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9) 近接撮影時はピント部も滲み、柔らかい像になります

F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9) 

F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9) コマ収差が強めにでています











F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9) 引き画になると急にヌケがよくなります。撮りますよ!




F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9) 撮りました!。コントラストは良好。四隅で像の流れが顕著に目立ちます


F1.4(開放) Olympus E-PL6(AWB, Aspect ratio 16:9)

今回、登場していただのは我が家のご近所にお住いのMinako Sugaiさんです。イングリッシュガーデンで撮ったお写真とのこと。

Photographer: Minako Sugai
Camera: Olympus PEN-F
 
Olympus Pen-F, Photo by Minako Sugai


Olympus Pen-F, Photo by Minako Sugai

2019/05/02

LOMO(GOMZ) Ж-48 G-48 100mm F2










サンクトペテルブルクからやってきた
ロモの映画用レンズ PART 3
旧ソ連の怪物。
こんなレンズを1960年に造ってしまうロシアの本当の底力を我々は正しく理解していない
LOMO(GOMZ)  Ж-48 G-48 100mm F2
LOMOのシネレンズには映画用に供給されたOKCシリーズと、映画用、産業用、軍需用に供給されたЖシリーズ(Gシリーズ)の2系統があります。両シリーズには鏡胴のつくりや画質基準に差があり、Gシリーズは中心解像力が一律100線/mm(GOI基準)に規格化されているなど、明らかにOKC/POシリーズの上位の製品として位置付けられていました。定評のあるPO3-3M 50mmF2の中心解像力が45線/mmであることを考えると、2倍のレンズ口径を持つ本レンズが2倍を超える解像力を叩き出しているのは尋常なことではありません。OKCシリーズの製造を担当したのは旧LNKINAP工場、Gシリーズは旧GOMZ(国営光学工場)です。ロシア製レンズの情報を扱った総合的な資料であるGOIのレンズカタログには映画用レンズやスチル用レンズ、プロジェクションレンズなどのテクニカルデータが網羅されていますが、Gシリーズについては一部のレンズに関する情報が収録されているのみで、入手できる情報は限られています。以下に私が独自に集めた製品ラインナップを列記しておきますので、これら以外の製品をご存知でしたらお知らせいただけると助かります。Gシリーズが日本で認知される足掛かりになれば幸いです。
 
G-21 28mm F2(Cinema lens)
G-22 35mm F2(Cinema lens)
G-24 75mm F2(Cinema lens)
G-25 100mm F2(Cinema lens)
G-26 180mm F2.5(Projection lens)
G-32 90mm F2(Projection lens)
G-34 110mm F2(Projection lens)
G-48 100mm F2(Cinema lens)
G-49 22mm F2.8(Enlarging or Cinema)
G-53 75mm F2(Projection lens)
G-54 85mm F2(Projection lens)
G-55 95mm F2(Projection lens)
 
今回とり上げるのは1965年に合併しLOMOの一部となるGOMZ1960-1962年に生産した焦点距離100mmの大口径望遠レンズЖ-48(G-48です。確かなソースからの情報ではありませんが、製造本数は2500本に満たない数だったそうです。このレンズを手にすれば重量感と鏡胴のつくりの良さに誰もが驚くことでしょう。ネットにはエアクラフト用シネレンズとの未確認情報もありますが、確実な情報や具体性のある情報は何一つ見当たりません。確かに雲中で氷塊が当たろうが流れ弾が来ようが弾き返しそうな高耐久なつくりですし、流通量の少なさやマウント部の特殊なネジ径から考えても、本品は市販品ではなかったように思えます。映画用として認知されているシネレンズのPO2 / PO3/ PO4もかつてはエアクラフト用(空撮シネカメラのAKS-4に搭載)として供給されていた実績がありますので、あり得ない話ではありません。レンズは4群6枚のガウスタイプで、中玉にマゼンダコーティング、前玉と後玉にアンバーコーティングが蒸着されています。定格イメージフォーマットは他のЖレンズと同様であるとして、恐らくAPS-C相等の35mmシネマフォーマットですので、APS-C機で用いるのが画質的に最も相性の良い組み合わせです。ただし、包括イメージサークルはこれよりも遥かに広く、フルサイズフォーマットを余裕でカバーしています。これによく似たレンズとしてЖ-25(G-25) 100mm F2というシネマ用レンズがあり、1950年代半ばから1960年まで生産されていました。前後関係から考えると、おそらくЖ-48はЖ-25の後継モデルではないかと予想することができます。レンズに関する情報や手掛かりをお持ちの方がおりましたら、ご教示いただけると幸いです。


入手の経緯
eBayには若干数の流通があり、800ドル~900ドル程度で取引されています。私自身は20183月にeBayでロシアのレンズセラーから770ドル+送料30ドルで購入しました。商品の説明は「美品。ガラスはクリーンで絞り羽は正常に動作する。ソビエト連邦による1962年製でエアクラフト用。コーティングがある。イメージサークルはフルサイズセンサーのみならず6x6中判フォーマットもカバーできる。フロ ントキャップ付き」とのこと。僅かに拭き傷があるのみで十分なコンディションのレンズでした。本品はレンズヘッドのみの製品なので、デジタルカメラで使用するには改造してヘリコイドに搭載しなければなりません。レンズヘッド自体にかなりの重量があるため、今回は高耐久なM52-M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載してM42レンズとして使用できるようにしました。



GOMZ(LOMO) Ж-48 G-48 100mm F2: 重量(実測) 650g(レンズヘッドのみ),  絞り羽 18枚,  絞り F2-F16, 設計構成は4群6枚ガウスタイプ, S/N: N62XXXX (1962年製造), 35mmシネマフォーマット(APS-C相等)準拠, 中心解像力は100 LINE/mm(GOI規格)で、PO3の中心解像力45LINE/mmの倍以上をたたき出している
 
撮影テスト
現代のレンズと比較しても性能的に何ら遜色はありません。1950年代にここまで高性能なレンズを作り出せたロシア(旧ソビエト連邦)が、宇宙開発や軍事技術のみならず、光学技術においても世界のトップランナーであったことは紛れもない事実です。
解像力はとても高くピント部の像はたいへん緻密で、シャープネスやコントラストは開放から高いレベルに達しています。滲みやフレアは全く見られずスッキリとヌケのよい描写で発色も良好、ボケにクセはありません。時代的にはシングルコーティングでしょうが、コッテリとしたマゼンダ系とアンバー系のコーティングは、いかにも良く写りそうな強いオーラを醸し出しています。1950年代でもコストを省みることがなければ、ロシアではここまで高性能なレンズが作れたのです。

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)うーん。まいりました。現代レンズとしか思えない恐ろしい描写力です


F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)
F2(開放) sony A7R2(WB:日陰)TORUNOのオープニングセレモニーのモデル撮影会で使いました
F2(開放) sony A7R2(WB:電球1)






F2(開放) sony A7R2(クリエイティブスタイル:セピア)

F2(開放) sony A7R2 (クリエイティブスタイル:セピア)
F2(開放) sony A7R2 (クリエイティブスタイル:セピア)








2019/04/30

FUTURA FREIBURG BR. Frilon 50mm F1.5 (Futura-S M34 screw)



















フンワリ、ボンヤリ、でもシッカリ写るレンズはオールドレンズ女子の強い味方。ならば、フトゥーラ社のフリロンは、まさにそういう類のレンズです。このレンズの魅力溢れる写りに惑わされるマニアが後を絶ちません。
 
特集:女子力向上レンズ PART 2
っぱりFUTURAはフツーじゃないら!
FUTURA (FREIBURG BR.) FRILON 50mm F1.5 
Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)は第二次世界大戦中にドイツ空軍に従事しカメラや光学機器の製造に携わったフリッツ・クーネルト(Fritz Kuhnert)という人物がドイツのフライブルクに設立したカメラメーカーです[文献1]Fritz Kuhnert1942年にフリッツ・クーネルト光学研究所(Optische Anstalt Fritz Kuhnert)を設立しフライブルクに工場を建てますが、この工場は2年後の194410月に連合軍の爆撃で大破してしまいます。戦後はグンデルフィンゲン郊外に新工場を建て、1947年にEfka 24という24x24mmフォーマットのビューファインダーカメラを発表、続けて上位機種のFuturaレンジファインダーカメラを開発し、1950年の第一回フォトキナで発表しています。しかし、その直後に会社は営難に陥り身売りします。新工場再建の負債が重くのしかかったのか、はたまた新製品の開発コストが予想以上に大きかったのかもしれません。会社の買収を名乗り出たのはハンブルクに拠点を置く船舶会社のオーナーで、有限会社Futura Kamerawerk (以後はFuturaと略称する)を再スタートさせ、この機にFritzは経営から身を引きます。Futura1950年から1957年までの間に4種類の35mmのレンズ交換式レンジファインダーカメラ(Futura, Futura P, Futura S, Futura SIII)を発売、主に米国への輸出用として市場供給されました。交換レンズのラインナップは大変充実しており、Ampligon 4.5/35, Futar 3.5/45, Frilon 1.5/50, Evar 2/50, Elor 2.8/50, Frilon 1.5/70, Tele Futar 3.8/75, Tele Elor 3.8/90, Tele Elor 5.6/90に加えSchneider Xenar 2.8/45が用意されました。レンズ名の幾つかはKuhnert一家の家族の名前を由来にしており、Elor 50 2.8は妻EleonoreEvarPetarは彼の子供達EvaPeterから来ています。Elorは無理のない明るさと端正で堅実な写りが特徴のテッサータイプのレンズですが、おそらくEleonoreの人柄もそうであったのではないかと思われます。Fritz自身の人柄がどうだったのかは今回紹介するFrilonを見れば容易に想像できることですが、かなり自由奔放で独特な人だったのでしょう。口径比がF1.5と明るいうえ希少性も高いため(要するにあまり売れなかった)、現在の中古市場では高額で取引されています。カメラやレンズの生産は1957年頃まで続いていたそうです。
Futura Frilonの光学系:[文献2]に掲載されている構成図をトレーススケッチした見取り図です。設計は4群6枚のゾナー型。左が被写体側で右がカメラの側


 
Futuraのレンズを設計したのはシュナイダー社の設計士Werner Giesbrecht ( ベルナール・ギーゼブレヒト ) という人物です。ただし、レンズはSchneiderブランドのXenarを除き全てがFuturaの自社工場で生産されました。レンズの設計構成は上図に示すような4群6枚のゾナータイプで、俗にいうエアゾナーです[文献2]。普通のゾナーでは第2群が3枚のはり合わせになっていますが、このレンズは屈折率の低い中間エレメントがガラスではなく空気層に置き換えられており、これがエアゾナーと呼ばれる所以です。設計構成はコシナから出ている現行のC SONNARとまったく同一[文献4]。ただし、コーティングの性能が発展途上だった1950年代に空気とガラスの境界面を増やしてまでこの設計構成を導入したのは、単にコストを抑えるためです。しかし、エアゾナーの方が設計の自由度が高い分だけ解像力は良好なので、オールドレンズ的な価値観で再評価するならば、この方がかえって面白いレンズであろうかとおもいます。
 
参考文献
[1]  フライブルグ市公式ホームページ:A short chapter in the history of Freiburg: The Camera Industry
[2]  35mm判オールドレンズの最高峰「50mm f1.5」岡田祐二・上野由日路 著 2018年
[3]  Futura Objective, Futura GMBH  Futura公式冊子 
[4]  COSINAホームページ: C SONNAR T* 50mm F1.5
 
入手の経緯
レンズは201710月にヤフオクで手に入れました。カメラ本体(FUTURA-S)とセットで70000円のスタート価格で登場し、6人が応札、最終的には自分が100010円で落札しています。オークションの記載は「希少レンズFRILON 50mm f1.5が付いたFUTURA-S。レンズはFuturaにしては非常に状態が良い。カメラの他に純正のケースが付属する。カビや曇り、バルサム切れは見られず、埃の混入が数個と気泡が2、3個あるのみ」とのこと。届いたレンズは前玉のコーティング表面に同社のレンズ特有の薄い線キズが見られたものの、良好な状態でした。同社のレンズはコーティングが極めて弱く、拭いただけで全て拭き傷となって残っています。中古市場でみかけるFUTURA製レンズは全てこうなので、コレクション目的の方には同社のレンズはお勧めできません。
 
FUTURA FRILON 50mm F1/5:  絞り値 F1.5-F11, マウント規格 Futura M34 mount, 設計 4群6枚ゾナー型(エア・ゾナー型),  絞り羽 15枚 


 
デジタルカメラへのマウント
FUTURAのレンズは全てM34スクリューネジです。レンズをミラーレス機にマウントするためのアダプターも存在し、eBayで入手可能です。ただし、値段はちょっと高めなので、私はステップダウンリングを用いてレンズのマウント部を34mmから42mmに変換し、M42ヘリコイド(17-31mm)に搭載、末端にM42-Sony Eスリムアダプターを装着してSONY A7シリーズのミラーレス機で用いることにしました。


撮影テスト
開放では薄いフレアがピント部表面を覆い、ハイライト部には微かな滲みが発生、写真全体がしっとりとした柔らかい雰囲気につつまれます。ただし、ピントの合っている部分はしっかりと解像しており、柔らかさの中に緻密さを宿す、いわゆる線の細い繊細な描写となります。光にとても敏感なレンズなので逆光になるとハレーションが顕著に発生しますが、発色が濁ったり淡白になることはなく依然としてコントロールは可能。美しい印象的な写真が撮れます。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケが目立つことはありません。時々、ピント部前後のボケが形をとどめながらゴワゴワと面白い形になることがあります。オールドレンズの良さが詰まった素晴らしいレンズだと思います。
 

F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 



F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 
F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日陰)

F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日陰) 







F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 縦の構図2枚をシンメトリー合成しています

F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光)