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2023/02/11

PETRI C.C Auto 28mm F3.5


ペトリカメラの主力広角レンズ

PETRI C.C Auto 28mm F3.5

ペトリカメラのネタもそろそろ今回で最後になりそうな頃合いですが、取り上げるのは同社が1966年頃に発売した焦点距離28mmの広角レンズPETRI C.C Auto 28mm F3.5です。このレンズは同年のフォトキナに新型一眼レフカメラのPETRI FTと共に出展されました[1]。28mmといえば古くから広角レンズの代名詞のような焦点距離で、各社ここには力を入れてきました。室内での撮影には広すぎず狭すぎずの絶妙な画角が要求されるわけで、焦点距離35mmでは画角が足らず、24mmではパースペクティブによるデフォルメが効きすぎる。焦点距離28mmのレンズはまさにこのような状況で活躍したわけです。

レンズの構成は7群7枚のレトロフォーカスタイプで(下図参照)、自動絞り機構を容易に組み込めるよう、絞りの位置を比較的前方に退避させる工夫が盛り込まれています[2]。レンズを設計したのは55mm F1.4や55mm F1.8(後期型), 21mm F4などペトリカメラの主要なレンズを手掛けた島田邦夫氏で、後群のパワー配置から見て明らかなように、1960年発売のNikkor-Hをベースに改良を施した製品であると判断できます。Nikkor-Hはコマ収差の新しい補正方法を切り拓いたレトロフォーカス型レンズの名玉で、これ以降の多くのメーカーの手本になった事で知られています[3]。島田氏の特許資料[2]によると「従来のレトロフォーカス型レンズでは絞りの位置がカメラのボディーに近すぎ、自動絞りの機構を組み込むには窮屈なのだが、(光学設計を工夫し)絞りを比較的前方に退避させることで、これに対応できるようにした」とのこと。ただし、コマ収差の除去がより困難になるため、同時にマスターレンズの側を変形トリプレットにすることで困難を解消したそうです。

Petri 28mm F3.8(左)とNikkor-H 2.8cm F3.5(右)の構成図。上が前玉側で下がカメラの側。Nikkor-Hは後群マスターレンズ側の配置を正負正正とすることでコマ収差が効果的に補正できることを実現した画期的なレンズですが、PETRIは明らかにこれを参考にしているように見えます。前群側の2枚で歪みを効果的に補正しています


参考文献

[1] PETRI@wiki: 「日本カメラショー・フォトキナ出品カメラ

[2] 日本特許庁 昭41-49384(1966年7月29日);特許公報 昭44-23393(1969年10月4日)「絞りを比較的前方に置いたレトロフォーカス式広角レンズ」 

[3] ニッコール千夜一夜物語:第十二夜 NIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5

[4] PETRI @ wiki 「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料 


PETRI C.C Auto 28mm F3.5(1st model): フィルター径 52mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 6枚構成, 重量 208.5g, 設計構成 7群7枚(レトロフォーカスタイプ), 最短撮影距離 0.6m, PETRIブリーチロックマウント

 

入手の経緯

レンズは2023年2月と3月に1本づつヤフオクから手に入れました。ペトリの35mmF2.8はだいぶ値上がりしてしまいましたが、このレンズはまだあまり認知されていないようで、国内のネットオークションでは5000円にも満たない安値で取引されています。自分が手に入れた1本めのレンズもオークションの記載にカビがあると記載されていたため入札されず、3000円+送料で手に入れることができました。届いたレンズを見ると傷やクモリのない悪くない状態で、カビもレンズ2枚目の裏側に小さなものが居座っている程度でした。前群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造になっていましたので、取り出して清掃しみることに。。。しかし、残念ながらコーティングにはカビ跡が残りました。写真には全く影響の出ないレベルですので、値段を考えれば充分な個体です。2本目のレンズもヤフオクからで、PETRIの一眼レフカメラ本体と標準レンズ、PETRIズーム、テレコンのセット品を5000円で入手しました。カメラやレンズはペトリにしては珍しく丁寧に手入れされており、カビやクモリ等のない良好なコンディションでした。

PETRI to LEICA Mアダプター:秋葉原の2nd Baseで購入できる特製品を使用しました


撮影テスト
開放から中央は滲みの少ないシャープな描写のレンズです。線は太く、解像力よりもコントラストで押すタイプですが、現代のレンズに比べればコントラストは緩めで、トーンもなだらかなオールドレンズらしい側面を備えています。開放では遠方撮影時に光量落ちが目立ちますので、気になる場合は少し絞る必要があります。写真四隅の倍率色収差はやや強めに出ています。この種の広角レンズにありがちな樽型の歪みはよく補正されていますが、この補正に関する影響で近接撮影力が弱いとの解説がNikkor-Hに対してあります[2]。このレンズもおそらく同様で、最短側では解像力が弱い印象を受けました。拡大すると像がベタッとしています。最短撮影距離が0.6mとおとなしめの設定になっているのも頷けます。
F3.5(開放), SONY A7R2(WB:日光) 今日もこの子に付き合ってもらいます


F8, Sony A7R2(WB:日陰)
F3.5(開放), Sony A7R2(WB:日陰) 近接での解像力はこんなもんです

F8, SONY A7R2(WB:日光) 基本的に線の太い描写です 

F8, SONY A7R2(WB:日光)レトロフォーカスタイプにしてはゴーストは出にくい印象です。歪みもよく補正されています

2022/08/08

Petri C.C Auto 21mm F4

   

そのレンズ、旨いのか?不味いのか?
ペトリカメラのウルトラワイド

PETRI C.C Auto 21mm F4

結論から言いましょう。高性能です。ペトリのレンズが高性能なのは描写性能に高い基準を設けていたからで、製品化の際には同時代のニッコールと撮り比べをおこない、どちらがペトリなのか見分けができない事を基準としていたそうです[1]。レンズの性能に対する同社の自信は宣伝時に用いた「性能はニコン。価格は半額」というキャッチフレーズにもあらわれています。技術的にハードルの高いレンズでは、メーカーの設計理念の高さが描写性能に如実に表れるのではないでしょうか。

さて、今回取り上げるレンズはペトリカメラが開発し1973年に発売した焦点距離21mmのウルトラワイドレンズPETRI C.C Auto 21mm F4です。このレンズが誕生した時代は国内でもミラーアップなしで使える一眼レフ用ウルトラワイドレンズが各社から出始めた頃で、先行製品のCarl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4(1961年発売)やNikkor-UD 20mm F3.5などを意識した製品を各社開発していました。レンズ構成は下図のような6群9枚の複雑な形態で、時代的にはコンピュータを利用して設計された光学系です。ペトリのレンズ設計は初期はそろばんで、その後は手回し式のタイガー計算機に変わり、さらに機械式のモンロー計算機、最後はデータをテープで送るコンピュータに変遷したとのことです[1]。このレンズは最後期の製品なので、設計は紙テープ式の旧式コンピュータだったのでしょう。レンズ設計を担当したのは同社の55mm F1.4や55mm F1.8(新型)を手掛けた島田邦夫氏です。島田氏の手掛けたレンズには優れたものが多く、この21mmも例外ではありません。ただし、開発時は社内の基準をクリアすることに大変苦労したそうです[1]。

参考文献

[1] petri @ wiki「ペトリカメラ元社員へのインタビュー(2013年)」リバースアダプター氏

[2] petri @ wiki「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料をトレーススケッチした見取り図です。ガラスの種類についてはソース元を見てください。光線軌道シミュレーションなどもあります

 

Petri C.C Auto 21mm F4光学系見取り図(トレーススケッチ)[2]。設計構成は6群9枚のレトロフォーカス型で、第一レンズがはり合わせになっているのが、他ではあまり見ない特徴です
PETRRI C.C Auto 21mm F4:フィルター径 77mm, 絞り F4-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.8m(0.5m前後までマージン有), 設計構成 6群9枚レトロフォーカスタイプ, 重量(カタログ値) 370g  , マウント規格 ペトリブリーチロックマウント

















 

入手の経緯

2022年5月にヤフオクでリサイクルショップが出品していたものを即決価格で購入しました。国内のオークションではカビやクモリのある個体が4万円位から取引されています。コンディションにもよりますが、相場は4〜7万円あたりでしょう。オークションの記載にカビがあると記されていましたので届いた商品を見たところ・・・・居た居た。絞りに面した後群側に成長中のカビが居座っていました。後群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造でしたので、取り出して拭いてみると完全に綺麗になり、コーティングは大丈夫でした!。ガラス自体はクモリや傷のない大変状態の良い個体なのでラッキーな買い物です。ネットに一切の作例が出ていないので、どんな写りなのか楽しめそうなレンズです。デジタルカメラへのマウントには2nd baseで入手できるPETRI-Leica Mアダプターを使用しました。

 
撮影テスト
描写性能の高さには驚きました。少し前に撮影テストした同時代のMIRANDA 21mm F3.8よりも開放でのシャープネスやコントラストは明らかに良好で、中心部から中間画角にかけてフレアの少ないスッキリとした描写です。ピントの山がつかみやすく、ダラダラとピントの合う同等製品が多い中、このレンズはキレのある合焦が特徴です。ニッコールを性能の指標として製品開発を行っていただけのことはあります。開放では写真の四隅にコントラストの低下と発色の濁りがあり、この部分に関して言えば同時代・同クラスの他社製レンズと大差はありません。また、光量の多い晴天下の屋外撮影では、開放時に四隅の周辺光量落ちが目立ちますので、1段以上絞って撮影する必要があります。ただし、こういう状況下ではシャッター速度の観点からみても、そもそも絞って撮影するわけですので、使い方を考慮した最適化が描写設計にも行き渡っていると考えるべきでしょう。絞り込んだ時の四隅の画質はとても良好で、フレアの少ないしっかりとした描写です。歪みは概ねよく補正されていますが、中間画角でやや樽型になり、四隅の最端部近くでは反対に糸巻き状に歪んでいます。広角レンズといえば樽型の歪み方が定番なので、ちょっと新鮮かな。逆光時のゴーストが出にくいという噂は本当のようで、フレクトゴン20mm F4よりもゴーストはおとなしい印象でした。ペトリカメラのレンズ設計力の高さを改めて実感することができる価値のある一本です。
 
F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放から中央は充分な画質でコントラストも良好、F8に絞ったこちらの画像と比較しても大きな差はありません。四隅の光量落ちがやや目立ちます

F8 sony A7R2(WB:日光) 続いて絞った結果です。四隅まで充分に良好な画質です



















F8 sony A7R2(WB:日陰) シャープなレンズなので、絞るとカリカリになるケースもあります


F11 sony A7R2(WB:日光)
  

F4 vs. F8

F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 中央から中間画角まででしたら開放でもスッキリと写りコントラストも良好、四隅もこのクラスのレンズとしてはフレア量の少なめな良好な画質です。ただ、開放では光量落ちがやや目立つ結果に







F8 sony A7R2(WB:日光) 中央は灯台の中腹に空いた排気口の中のブレードの数までハッキリとわかります。四隅も高画質




































 
銀塩フィルムでの撮影

FILM: KODAK C200カラーネガ
Camera: PETRI V6
 









2021/11/15

PETRI C.C Auto 35mm F2.8(前期型)





 

元祖レトロフォーカスの国産コピー

PETRI C.C Auto 35mm F2.8(前期型) ペトリカメラ

世界初のスチルカメラ用レトロフォーカスレンズであるAngenieux TYPE R1を1950年に発売し、広角レンズのパイオニアメーカーとなったフランスのP.Angenieux(アンジェニュー)。後の1960年代には国産メーカー各社がこのType R1を手本とした広角レンズを発売し、パイオニアが切り拓いた道に追従しています。コニカのヘキサノンAR 2.8/35(前期型)や旭光学(ペンタックス)のスーパータクマー 2.3/35、オート・ミランダ2.8/35はタイプR1の国産コピーとして知られ、タイプR1の性質を受け継ぎながらも1960年代の改良されたコーティングにより、一段と鮮やかな発色を実現しています。スーパータクマーについては少し前に本ブログで紹介しましたので、こちらをご覧ください。開放でフレアの多い滲み系でありながらも発色の良い面白いレンズです。ヘキサノンについてはヨッピーさんのレビューがありますので、こちらが参考になります。コントラストやシャープネスの高い高性能なレンズのようです。

さて、今回の記事ではこれまでノーマークだった新たなコピー・アンジェニューを紹介したいと思います。東京のペトリカメラが1965年に同社の一眼レフカメラに搭載する交換レンズとして発売したPETRI C.C Auto 2.8/35(前期型)です。おそらくコピー・アンジェニューの中では今最も手頃な価格で入手できる製品であろうかとおもいます。オリジナルのType R1は今や8~10万円もする高嶺の花となりつつあるわけですが、このレンズならば状態の良い個体が今はまだ5000円程度から入手できます。さっそくレンズ構成を見てみましょう。

下図の左側がPETRI、右がAngenieux Type R1で確かに同一構成であることが判ります。テッサータイプのマスターレンズを起点に、前群側に凹レンズと凸レンズを1枚づつ加えた5群6枚で、コマ収差の補正に課題を残す古典的なレトロフォーカスタイプです。フレアっぽい描写傾向とシャープで解像感に富む中央部、黎明期の古いコーティングから生み出される軟らかいトーン、鈍く淡白な発色などアンジェニューの性質の何が受け継がれ何が刷新されているのか、今回の記事ではこの辺りを論点としながら、レンズの描写を楽しんでみたいとおもいます。

左がPetri C.C Auto 35mm F2.8(前期型)、右がAngenieux Paris Type R1 35mm F2.5。構成図はPetri @wiki[1]に掲載されているものからの見取り図(トレーススケッチ)です。初期のレトロフォーカス型レンズには画質的に改良の余地が多く残されており、特にコマ収差の補正が大きな課題でした[2,3]。開放ではコマフレアがコントラストを低下させ、発色も淡白になりがちだったわけですが、これに対する解決法が発見されたのは1962年になってからのことです[4]

  

PETRI C.C 35mm F2.8には一眼レフカメラのPETRI V6(1965年発売)と共に登場した前期型と、PETRI FTE(1974年発売)と共に登場した後期型があり、タイプR1と同一構成であるのは前期型です。後期型には名板にEE(Electric Eye)対応であることを記した赤字のマークがありますので、一目で判別できます。

前期型には何種類かのバージョンが確認できますが、最もよく目にするのはピントリングがブラックのモデル(バージョン1ブラック)です。また、数はこれより少ないのですが同じ鏡胴でピントリングがシルバーのモデル(バージョン1シルバー)も存在します。さらに流通量は極僅かで市場で目にする機会は少ないのですが、内部構造がペトリっぽくないモデル(バージョン2)もあります。レンズの色はオールブラックで鏡胴は少し太く、もしかしたら他社製のOEM製品なのかもしれません。ただし、設計構成はバージョン1と同じでタイプR1です。

Petri Automatic 35mm F2.8 初期型(バージョン1シルバー): 絞り羽 6枚構, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 232g, フィルター径 52mm, Petriブリーチロックマウント, SN: 764XXX, 構成 5群6枚(Retrofocus, Angenieux R1 type)
Petri C.C Auto 35mm F2.8 前期型(バージョン1ブラック): 絞り羽 6枚構, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 201g, フィルター径 52mm, Petriブリーチロックマウント, SN: 809XXX, 構成 5群6枚(Retrofocus, Angenieux R1 type), 1965年3月発売

Petri C.C Auto 35mm F2.8 前期型 (バージョン2): 絞り羽 6枚構, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 228g, フィルター径 52mm, Petriブリーチロックマウント, SN: 805XXX, 構成 5群6枚(Retrofocus, Angenieux R1 type)

 

バージョン1の鏡胴には絞りの制御をオートやマニュアルに切り替えるスイッチが付いています。これをマニュアル側に切り替えると絞りが僅かに出た状態となり、これでF2.8となります。個体によってはオートの側にすると絞りが全開になり有効口径が少し拡大、もう少し明るいレンズとなります。私はこれをペトリのブーストスイッチと勝手に呼んでいます。標準レンズのC.C Auto 55mm F2の特定のモデルにも同じ機構がありますが、このレンズは55mm F1.8と完全同一の光学系ですので、ブーストスイッチを入れるとF1.8に化ける仕組みでした。今回の広角レンズも全く同一の機構になっているのは驚きですが、同じ構造であるならばブーストスイッチを入れた時はF2.5前後となり、なんとType R1と同等の開放F値です。これができるのは初期型の特定のロットで、内部に縦方向の絞り制御バネが入っている特定のモデルです。全てがこうなるわけではありません。シリアル番号809XXXの2本にはブーストスイッチがありましたが、783XXXと764XXXにはなく、スイッチをM側にしてもF2.8より明るくはることはありませんでした。


参考文献・資料

[1] Petri@ wiki 資料集

[2] レンズ設計のすべて 辻貞彦著

[3] カメラマンのための写真レンズの科学 吉田正太郎

[3] ニッコール千夜一夜物語 第十二夜 NIKKOR-H Auto 28mm F3.5

 

入手の経緯

中古市場での流通量はやや少なめです。安い印象のあるPETRIの交換レンズとは言え、コンディションがまともな個体には5000円~7000円程度の値がつきます。私は2021年11月に6本入手しました。1本目はジャンク(動作確認済みの完全動作品)との触れ込みでメルカリに出ていた個体(バージョン1ブラック)を1800円で博打買い。ガラスはカビ、クモリ、キズなどなく大変綺麗でしたが残念なことに内部で絞り冠の回転を制御レバーに伝える金具が折れており、代替部品がないと修理は不可能な状態でした。2本目はヤフオクに出ていたバージョン1シルバーを即決価格5800円+送料で購入、外観は新品のように綺麗でしたがガラスに少々カビがあり、清掃して綺麗にしました。3本目はヤフオクに出ていた箱付きのバージョン1ブラックで、保証書付き、フード・キャップ付きを3600円+送料にて購入。外観は新品級の美観ですが、オークションの記載によるとレンズ内に汚れがあるとのことでした。届いたレンズには後群側にカビがあり、清掃して綺麗にしました。と、ここでやめるつもりでしたが、気負ったのか更に3本入手してしまいました(笑)。ヤフオクにカメラ本体(FT EE)とセットで3本まとめ売りで出ており、即決価格4380円でした。そのうちの1本はバージョン1ブラックですがガラスのコンディションがあまりに酷かったので、鏡胴のみ生かす目的で、先に入手した1本目の光学系を組み込みました。5本目はバージョン2ですが、この個体には後玉に軽いクモリあがりました。今回の記事の撮影テストには使用していません。6本目はバージョン1ブラックで後玉に1本傷がありましたが、こちらは実用としては問題ないレベルでした。

さて、残る問題はアダプターですが、秋葉原の2nd BaseにPETRI-Leica M特製アダプター(下の写真)が売られているのを知っていましたので、これを入手し、問題なく使えるようになりました。お値段は1万円弱です。

2nd Baseで手に入れたPETRI-LM特製アダプター。距離計には連動していませんが、これがあれば各種ミラーレス機でPETRIのレンズ群が使えるようになります

 

撮影テスト

開放ではピント部を薄い均一なフレア(コマ収差由来のフレア)が覆い、発色も淡泊になりがちです。どこか現実感のない不思議な空気感が漂うところはアンジェニューType R1を彷彿とさせる描写です。Type R1が持ち味としていた逆光撮影時の鈍く味のある発色はこのレンズにもみられ、アンジェニューを使っていたときに感じた独特の感覚がよみがえります。ただし、フレアはアンジェニューよりも少なく、コントラストはより良い印象で、コーティング性能の進歩にもよるのでしょうか、逆光でも発色が濁ることはありません。ピント部中央は解像感に富んでおり、キレのある質感表現が可能です。近接時はややボケが乱れます。逆光時にゴーストやハレーションが出やすい点はアンジェニューとよく似ています。 

バージョン1ブラック @ F2.8 (ブーストスイッチON) SONY A7R2(WB:⛅)
バージョン1ブラック @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:⛅) どうですか。逆光でハレーションが出やすく、たちまち淡泊な描写になります。アンジェニューっぽいとおもいませんか?



バージョン1ブラック @ F5.6 SNY A7R2(WB:⛅)

バージョン1ブラック @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:⛅)


バージョン1シルバー @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光) 逆光ではゴーストやハレーションが出ます


バージョン1シルバー @ F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)

バージョン1シルバー @F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)
バージョン1ブラック @ F2.8(ブーストスイッチON) SONY A7R2(WB:⛅
バージョン1シルバー @F2.8(開放)SONY A7R2(WB:日光)

2020/05/03

Ricoh XR RIKENON 1.7/50 vs Petri EE Auto CC PETRI 1.7/55



0.1のアドバンテージを巡りチキンレースを繰り広げた
日本の中堅光学メーカー  part 1(1回戦A組)
XR RIKENON vs C.C PETRI
PETRI CAMERA(ペトリカメラ)のC.C Petri 55mm F1.7(シーシー・ペトリ)は評価の高かったC.C Auto 55mm F1.8の後継モデルとして1974年に登場し、ペトリカメラが倒産する1977年までの会社終息期に、同社の一眼レフカメラFTE(1973年発売)とFA-1(1975年発売)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。C.Cとはコンビネーション・コーティング(マルチではなくシングルコーティング)の略です。この頃の日本の中小メーカーは市場でのシェアを獲得するため、他社よりも一歩抜き出たスペックの製品を供給することに固執しました。今回紹介するレンズもメーカー各社が主軸レンズの口径比をF1.8からF1.7にシフトさせようとする潮流の中で生み出されました。レンズ構成はF1.7のレンズとしては珍しい4群6枚です。主流が5群6枚であることを考えると、やや無理を押し通した過剰補正頼みの設計が本レンズの特徴と言えます。
 
RICOH(リコー)社はRIKENON(リケノン)のブランド名でレンズを供給していました。ただし、同社にはレンズの製造工場がなかったため、自社で製造していたわけではなく、RIKENONブランドは広角から望遠までレンズの生産を他社に委託する、いわゆるOEM製品でした。今回紹介するXR RIKENON 50mm F1.7もやはりOEM製品ですが、どこから供給を受けたレンズなのか、確かな情報はありません。レンズはRICOH社が1977年に発売した一眼レフカメラのXR-1(Pentax Kマウント採用)に搭載する交換レンズとして登場しました。カメラの方は発売当時にグッドデザイン賞を受賞しています。
RIKENONブランドは複数のメーカーによる寄せ集めで成り立つ、言わばOEM軍団でしたが、同ブランドには癖玉らしい癖玉がありません。RICOH社にはレンズの性能に対するそれなりに厳しい自社基準があったものと思われます。今回のレンズについても高性能な予感がします。レンズの構成図は入手できませんでしたが、設計は国内外のF1.7のレンズに多く採用された拡張型ガウスタイプ(5群6枚構成)で、前群の貼り合わせを外し輪帯球面収差の補正を強化することで、6枚のレンズ構成のままF1.7の明るさと一定水準の描写性能を実現しています。RICOH社のレンズの中では同じ時期に供給されたXR RIKENON 50mm F2が「和製ズミクロン」などと呼ばれもてはやされましたが、これに比べれば今回のレンズはやや地味な存在です。






 
レンズの相場
両レンズとも中古市場での相場はとても安く、流通量も安定しています。XR RIKENONの場合にはネットオークションで3000円から5000円程度の値段で手に入れることができます。私はヤフオクで美品との触れ込みで出品されていた個体を5000円で落札しました。届いたレンズは未使用に近い新品同様のコンディションで、純正ケースと純正の前後キャップがついていました。C.C PETRIの方はレンズのコンディションに気をつけなくてはいけません。PETRIのレンズは市場に流通している個体の大半でレンズ内にカビが発生しており、後玉にクモリのある個体も多くあります。組み立て時にクリーンルームを使用していなかったのかもしれません。ヤフオクなどのネットオークションではジャンクとの触れ込みで1500円程度で手に入れることができますが、多くはメンテナンスされていないコンディションの厳しい個体です。状態の良いものを探すには、多少高くても業者などで一度オーバーホールされているものを買い求める事をおすすめします。今回の個体はメルカリにカメラとセット出品されていたものを2800円で購入しました。やはりカビ入りでしたので、レンズの評価時にはオーバーホールした状態の良い個体を使用しています。

撮影テストC.C PETRI 55mm F1.7
開放ではモヤモヤとしたフレアがピント部を覆い、ハイライト部の周りがよく滲むなど、かなり柔らかい描写です。遠方撮影時にはややボンヤリすることもあり、シャープネスは低下気味でトーンも軽めですが、濁りはなく、コントラストや発色は意外にも悪くない水準です。解像力は同社のF1.8と同等の良好なレベルで、柔らかさのなかに緻密さを宿す線の細い写りとなっています。絞ると急にヌケが良くなりシャープネスとコントラストが向上、絞りの良く効く過剰補正型レンズの典型です。背後のボケにはペトリならではのザワザワとした硬さがあり、形を留めながら質感のみを潰したような、絵画のようなボケ味が楽しめます。グルグルボケや2線ボケが目立つことはありません。4群6枚の設計構成のまま口径比F1.7を成立させるため、大きく膨らむ輪帯球面収差を強い過剰補正で抑え込んでおり、その反動で背後のボケ味が硬くザワザワとした性質になっています。また、設計にやや無理があったのか、開放ではピント部もある程度のフレアを許容した画作りになっています。柔らかい描写傾向を求める方には、またとないレンズだと思います。ガウス型レンズ成熟期の1970年代にこんな趣味性の高いレンズを出したペトリカメラには、何か別の狙いがあったのでしょうか。
 
C.C PETRI@F1.7(開放) + sony A7R2(WB: 日陰) 開放ではフレアが多めにみられ、ソフトな描写傾向になります
C.C PETRI @ F1.7(開放) + sony A7R2(WB: 日光) トーンはなだらかで軟調。発色はこれだけのフレア量にしては良い印象です
 
撮影テストXR RIKENON 50mm F1.7
続いてXR RIKENONの写真を見てみましょう。開放では僅かにフレアの出るソフトな描写傾向ですが、これはF1.7レンズの多くに見られる特徴です。ただし、フレア量は少なく、そのぶんコントラストは良好で、シャドー部にも締りがあります。ハイライト部の周りを拡大しても滲みは殆どみられません。背後のボケはC.C PETRIほど硬くならず、ごく平均的な柔らかさです。こちらに両レンズの背後のボケを比較した写真を提示しておきます。1段絞った時のスッキリとしたクリアな描写や鮮やかな発色は素晴らしいと思います。口径比がもう少し控えめなF2クラスのレンズなら開放から鋭くシャープな描写ですが、フツー過ぎてつまらないと言う方も多くいます。一方で1段明るいF1.4クラスにゆくと、値段は倍以上に跳ね上がります。F1.7クラスのレンズはお手頃な価格で、柔らかく軽めのトーンを楽むことにできる穴場的なジャンルです。オールドレンズビギナーにも最適ではないでしょうか。
 
XR RIKENON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日陰)
XR RIKENON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日光)











C.C PETRI vs XR RIKENON
両レンズのシャープネス、コントラスト、ヌケの良さを比較してみましょう。撮影はマニュアル―ドとしシャッタースピードやISO感度は固定、同一条件で撮影を行いました。
 




 
XR RIKENONに軍配!
コメント
シャープネス、屋外でのヌケの良さ、コントラストなど、今回の評価項目ではリケノンがペトリを圧倒していました。リケノンは開放でもフレアが最小限に抑えられており、ペトリよりも現代の製品に近い高性能なレンズです。1段絞った時のスッキリとしたクリアな描写や鮮やかな発色は素晴らしいと思います。一方で緻密な描写表現に関わる解像力については両レンズとも甲乙をつけがたい性能です。ペトリの長所はフレアを纏う繊細かつ緻密な質感描写で、1950年代のオールドレンズにはこの手の描写設計の製品が数多くありました。リケノンのようなシャープなレンズでは、どうしても細部の質感表現がベタっとしてしまうのです。