おしらせ


2022/03/20

Staeble-LINEOGON 35mm F3.5(Brown-Paxette M39 mount)

たったの4枚の構成でこの描写性能は、

ちょっとしたサプライズかも!

Steable LINEOGON 35mm F3.5

Staeble(シュテーブル)社(正式名The Optisches Werk Dr. Staeble & Co)は1908年にドイツの物理学/数学者のフランツ・シュテーブル博士(1876-1950)、技術者のアルフレッド・ノイマン、ビジネスマネージャーのオスカー・イエーガーによってミュンヘンに設立されたレンズメーカーです[1,2]。自社ブランドのレンズに加え、様々な企業に対してOEMレンズの供給を行っていました。主に生産したレンズはカメラ用、プロジェクター用、引き延ばし用ですが、第二次世界大戦中はガンライトなどの光学軍需製品の製造にも関わっています[2]。第二次世界大戦末期、ドイツ降伏が濃厚となる1944年夏にドイツ空軍の命令(連合国の空襲を逃れるため)で会社と工場をバイエルン州のショーンガウ市に移転、はじめはチーズショップの敷地内を工場の避難地としました。その後の1953年にショーンガウ近くのアルテンシュタットにある旧軍用飛行場の航空機修理ホールへと工場の再移転を果たしています。会社は1954年にオットー・フリードルと彼の妻が所有しましたが、1969年にAGFAに買収されています。

今回紹介するレンズはStaeble社のLineogon(リネオゴン) 35mm F3.5です。このレンズはBraun社のPAXETTEという35mm版小型レンジファインダー機に搭載する広角レンズとして1950年代に供給されました。設計構成は4群4枚で、トリプレットの前方に凹メニスカスを設置してバックフォーカスを稼いだレトロフォーカスタイプのレンズです(下図)。同じ構成を採用したレンズとしてはSchneider社のRadiogon 35mm F4, Meyer-Optik社のPrimagon 35mm F4.5, Steinheil Culmigon 35mm F4.5などがあり、Lineogonはこれらの中で頭一つ飛びぬけたF3.5の明るさを実現している点が特徴です。この明るさはシュテーブル社の技術力なのでしょうか。あるいは収差を生み出す呼び水なのでしょうか。

 

Staeble LINEOGONの設計構成(見取り図): トリプレットの前方に空気間隔を開け凹レンズを設置することでバックフォーカスを延長させたレトロフォーカス型の構成です

 

レンズが採用したマウント規格はPaxette M39と呼ばれスクリューマウントとAkaletteというレンジファインダー機に供給されたAkAマウント(スピゴットマウントの一種)、そして数が少なく市場に出回る事はほぼ無いようですが、M42マウントです[3]。Paxette M39マウントの個体は数が多く入手しやすいうえ、デジタルカメラへの搭載も容易なのでおすすめです。eBayにPaxette M39-Leica L39アダプターなど市販のアダプター製品が複数出ています。20ドル程度で手に入るM42-M39ヘリコイド(12-17mm)と1~2ドル程度で手に入るM39-M42変換リング1個を組み合わせることで自分でアダプターを作ることもできます。この場合、ヘリコイドを少し繰り出した状態で用いることになります。シルバーベースの鏡胴と反転ゼブラのデザインが個性的で、とてもカッコよいレンズですね。

 

参考文献・資料

[1]camera-wiki: Staeble, http://camera-wiki.org/wiki/Staeble

[2] Hartmut Thiele (2008) Staeble-Optik. Die Geschichte des Optischen Werkes, Aufstellung der gesamten Objektivfertigung von 1917 bis 1972. München: Lindemanns Fotobuchhandlung.

[3] 同社の雑誌広告より

Steable LINEOGON 35mm F3.5: Braun Paxette用交換レンズ, 最短撮影距離 1m, フィルター径 40mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 10枚構成, Paxette-M39マウント















 

入手の経緯

2021年8月に値切り交渉を経て送料込みの110ドルでドイツのeBayセラーから購入しました。コンディションの悪い個体が同じくらいの価格でeBayに2~3本出ていたのと、当時どうしても欲しいというわけではなかったので、ダメもとで65ドル安くしてほしいと無茶な交渉をしてみたところ、驚いたことに了承の連絡が来ました。レンズのコンディションは「カビ、クモリ、傷などの問題のない状態の良い個体で、僅かなホコリの混入があるのみ」とのこと。外観もレンズも、各部の動きも十分良好なコンディションでした。通常はまともなコンディションの個体がeBayでは180~250ドルあたりで取引されています。


撮影テスト
中心部は開放からシャープで解像力も良好です。開放でのフレアは少なめでコントラストも良好、スッキリと写るヌケの良いレンズです。ただし、マスターレンズがトリプレットであるためか、中心部と四隅の画質差が大きく、四隅ではフレア量こそ多くないものの引き画では解像力にやや物足りなさを感じます。発色にクセは無くデジタルカメラとの相性は良い感じです。非点収差はそんなにキツくはなく、コマ収差もおとなし目でした。色収差は僅かですが拡大すると確認でき、四隅の方で像の輪郭部が色付いて見える倍率色収差がわかります。設計が単純なわりに歪みはとても少なく、僅かに樽形ですが全く気にならないレベルでした。本当に4枚なのかと疑いたくなるほどスキの無いよく出来たレンズだと思います。強い弱点を挙げるならば没個性的なところかな。
広角なのでF3.5もあれば引き画で撮るぶんには充分な明るさでしょうし、シャッタースピードを稼ぎたい場合にはデジカメのISO感度を上げることでカバーできます。この明るさの広角レンズにマイナス要因はほとんどありません。むしろ、ボディが小さく軽い点はこのレンズの大きな魅力となっています。スナップ撮影のお供にはちょうどよいレンズですね。中判デジタル機のGFXでもダークコーナー(暗角)はわずかでしたので、アスペクト比を変えれば問題なく使えました。
  
model: 鈴木康史さん( @bff_actmodel13 ) Thanks!
 
F4.5 sony A7R2(WB:日陰)
F4.5   sony A7R2(WB:日陰)
F8 sony A7R2(WB:日陰)

 
今回も鈴木康史さんにお写真を撮らせていただきました。ご協力に感謝いたします!
  
F3.5(開放) sony A7R2 鈴木康史さん( @bff_actmodel13 )
 
次いてのイケメンモデルは動きの速い、こちらのお方です。予測不可能なChaoticな動きを深い被写界深度で捉えました。
F3.5(開放) sony A7R2(WB:日光) 
  

 LINEOGON x Fujifilm GFX 100S

中判デジタルカメラのGFXでは四隅にダークコーナー(暗角)が僅かに発生します。ただし、アスペクト比を3:2(35mm判への換算焦点距離は25.7mm)や16:9(35mm判への換算焦点距離は31mm)に設定すれば、光量落ち程度で済みます。以下の写真はフィルムシミュレーションをノスタルジックネガにしていますので、描写傾向が軟調気味であることを断わっておきます。
それにしても、このレンズはホントに4枚なのかと目を疑いたくほど高性能です。いままで全く評価されてこなかったのが不思議でしかたありません。
 
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 3:2,WB 日光, Film Simulation Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 3:2,WB 日光, Film Simulation Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)






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