おしらせ

2026/01/26

KOMZ URAN-27 100mm F2.5

冷戦期を見つめた眼 part 2 

MiG戦闘偵察機にも搭載された旧ソ連の航空撮影用レンズ

KOMZ URAN-27 100mm F2.5

冷戦期、西側 NATO 軍の ELCAN に対抗する東側陣営の航空用レンズとして、偵察任務や測量で重要な役割を果たしたのが、今回取り上げる旧ソビエト連邦の Uran‑27Уран‑27100mm F2.5 です。Uran‑27 KMZ 製航空カメラ AFA‑39RA‑39)に装着され、MiG 戦闘偵察機をはじめ、可変翼超音速戦闘爆撃機 Su‑17、その前身である Su‑7B、さらには輸送ヘリ Mi‑8 など、旧ソ連の主力航空機に幅広く搭載されました。

また本レンズは、ソ連初期の宇宙開発計画にも投入されたことで知られています。1957年には人工衛星スプートニク1号に搭載されて地球表面の撮影に用いられ、1959年のルナ3号では人類史上初となる「月の裏側」の撮影に成功しました。Uran‑27 は、まさに冷戦期の軍事技術と宇宙開発の最前線を支えた光学系と言えます。

このレンズが開発されたのは1952年で、ソ連を代表する光学研究機関 GOIState Optical Institute)が設計を担当し、製造は国営工場 KOMZKazan Optical‑Mechanical Factory)が担いました。高度5005000mからの地上撮影を前提に、可能な限り高い解像力を引き出すことを目的として設計されたと伝えられています。設計者は、タイール系レンズの開発でも知られる David Samuilovich Volosov 博士です。

レンズとカメラが搭載されたジェット戦闘機MiG-17F(左)と人工衛星LUNA-3(右)

光学系は下図のような 5 群 7 枚構成で、ガウスタイプの絞り直後に薄い凸メニスカスレンズを配置した特徴的な設計となっています。以前ブログで紹介した ELCAN と同一の構成ですが、Uran‑27 の方が先に設計されており、ELCAN を模倣したものではありません。対応フォーマットは中判よりやや大きい 80mm × 80mm で、対角線画角約 59 度をカバーする準広角レンズとしてまとめられています。

Rodion Eshmakov 氏のウェブサイト RADOJUVA には、本レンズについて極めて詳細かつ質の高いレビューが掲載されています[1]。同氏によれば、本レンズの基本設計は 1944 年にまとめられ、先代の Uran‑10 100/2.5(1943年~)の後継として開発されたそうです。まったく同じ構成をもつ西側の ELCAN や SUMMILUX よりも早い時期に完成しており、Uran‑27 が当時いかに先進的なレンズであったのかがよく分かります。Uran ファミリーには Uran‑9 250/2.5 や Uran‑25 200/2.5 など複数の派生モデルが存在していますが、Uran‑27 が最も広く流通したモデルだそうです。また、製造年代によってコーティング仕様が大きく異なる点も特徴として挙げられます。

Eshmakov 氏は Uran‑27 の光学性能について、次のように評価しています。「開放からすでに非常に良好な画質を示し、フレーム中央の解像度は、同氏が所有する Belar‑2 90/2.5 や MC Rubinar 2/100 とほぼ同等の水準に達する。使用条件によってはわずかな球面色収差が観察されるものの、画角全域のシャープネスは主に小さなコマ収差によって制限される程度で、その性能は Belar‑2 と同等、同じ絞り値の 5 群構成 Rubinar 2/100 を大きく上回る」。

さらに同氏は、「画角によって解像度が複雑に変動する特性からも分かるように、Uran‑27 は 3 次収差と 5 次収差の相互補償を巧みに利用して補正されており、その結果として画面周辺部で解像度がピークに達するという、現代の一般的なカメラレンズではほぼ見られない特性を備えている。絞りを F/3.5〜F/6.3 に設定すると、小型フォーマットにおいて極めて優れた描写性能を発揮する」と述べています。

また、Uran‑27 のボケ描写は非常に独特で、「油のように滑らか」と形容されるほど特異な性質を示すそうです。これは複数の要因が重なり合って生じるもので、より単純な構成のレンズでは得られない描写特性だと考えられています。

URAN-27の構成図(文献[2]からのトレーススケッチ)

参考資料

[1] RADOJUVA:place for very fast lenses by Rodion Eshmakov

[2] GOI lens catalog;  設計特許 Pat.SU68727A1

[3] photohistory.ru  PHOTOHISTORY (G. Abramov) 

[4] "First Pictures of Earth from a Soviet Spacecraft", Space Chronicle, Vol. 71, pp.1-40, 2018

[5] Dan Fromm, "Unlikely lenses on 2¼ x 3¼ Graphics Part 2 : Lenses useful out-and-about at normal distances", Mod.2011

 

GFXマウントへの改造

今回は市販の部品のみでレンズをGFXマウントに改造しました。使用したのは下記の部品です。広角レンズ用のメタルレンズフード(67mmフィルター径用)を使用しているところが工夫点です。ルータを使いフードの内側を0.5mm程度削りました。使用したヘリコイドはM65の間口を持つ17-31mmのタイプです。

 

入手の経緯

Uran‑27は軍用レンズとしては比較的流通量が多く、eBayなどでも安定して見つけることができます。中古相場はおおむね 250ドル前後 からで、この価格帯は10年前からほとんど変動していません。

私自身は約10年前にeBayを通じてウクライナのカメラ店から 250ドル程度で購入しました。出品時のコンディション表記は MINT(美品・保管品) で、実際に届いた個体も記載どおり極めて良好な状態でした。軍用光学機材のわりに保存状態の良い個体が比較的見つかる点も、このレンズの特徴と言えるかもしれません。

ただし、現代のカメラで使用するには マウント改造が必須 です。残念ながら、改造済みの個体は市場にほとんど出回っておらず、基本的には 自分でDIY改造できる人か手を出せるレンズとなります。鏡胴が重厚で構造も特殊なため、改造の難易度は決して低くありません。単に「珍しい軍用レンズを試してみたい」という軽い動機では手を出しにくいものの、工作に慣れた方にとっては非常に魅力的な素材となるでしょう。

KOMZ URAN-27 100mm F2.5:  絞り F2.5-F16, 設計構成 5群7枚, イメージフォーマット 80x80mm, 絞り羽枚数 12枚, 鏡胴はフルメタル構造の軍用仕様で、弾丸をも跳ね返し、重量は1kgを軽く超える堅牢なつくりです

撮影テスト

オールドレンズとしては、とても面白い描写です。開放から良好な解像力を備えつつ、ピント面にはごく僅かな滲み(コマフレア)が重なり、質感を繊細に描き出します。1段絞ると滲みは消え、描写は一気にクリアで端正な表情へと移行します。ただしコントラストは絞っても殆ど変化せず、軟調で豊かなトーンが一貫して保たれます。発色も鮮やかになるというよりは、むしろ開放から一定です。黒つぶれを意図的に避けるような設計思想が感じられ、この種の特性は航空撮影用レンズに有利に働くという話をどこかで耳にした記憶があります。

光には非常に敏感で、逆光では盛大なハレーション(グレア)が発生しますが、むしろその特性を積極的に活かして描写をコントロールする楽しさがあるレンズです。ボケは撮影距離に左右されず安定しており、二線ボケやバブルボケの傾向も見られません。Eshmakov氏の表現を借りるならば、このレンズの背後のボケは油絵のように絵画的であるそうです。発色はかなり温調気味なので、気になるようでしたら、デジタルカメラの設定で少し補正を加えるとよいと思います。

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)
F6.3 Fujifilm GFX100S(WB:日光) 絞っても黒つぶれはありません。コントラストもあまり変化しません


F6.3  Fujifilm GFX100S 絞っても繊細なトーンが維持されています。おもしろい描写ですね   

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光) 軟調にふって意図的に黒つぶれを避けているような印象をうけます。シュールな写真にはもってこいの、とても面白いオールドレンズです
F2.5(開放)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)
F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)
F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

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