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2018/10/26

KOMINE ELICAR / ROKUNAR V-HQ 90mm F2.5






 
海外で絶賛された国産マイナーレンズ PART 2
知る人ぞ知る高性能マクロ望遠レンズ
KOMINE  ELICAR / ROKUNAR V-HQ MACRO MC 90mm F2.5
ELICAR(エリカ―)は日本のタパック・インターナショナルという会社が設計し、コミネがOEM生産した海外向けの輸出レンズブランドです。日本国内での販売実績は殆どなく欧州や北米のマーケットが中心でしたが、広角、望遠、マクロ、望遠マクロなど数多くのラインナップが供給されていました。私が確認しただけでも広角側から23mm F3.5、28mm F2.8、35mm F2.8、V-HQ 55mm F2.8 MACRO、V-HQ 90mm F2.5 MACRO、V-HQ 90mm F2.5 Medical Macro、135mm F2.8、200mm F3.5、80-200mm F4.5-F5.5 ZOOM MACRO、V-HQ 300-600mm F4.1-F5.7、 600-1200mm F10-F20などがあります。中でも中望遠マクロレンズのV-HQ 90mm F2.5 MACROは英国やドイツのカメラ雑誌が特集号を組み、描写性能、特に解像力の高さを絶賛したため、ヨーロッパを中心に海外市場で一定の評価を得るようになりました。
このマクロレンズは繰り出し量が多く、ヘリコイドを最長まで繰り出すと、鏡胴は元の長さの3倍にもなり、最大で等倍までの高倍率撮影に対応できます。私が入手したのはNikon Fマウントで市場供給された個体ですが、他にもミノルタMDやキャノンFD/EF、ペンタックスPKなどの国産カメラの主要マウント規格に加え、M42、QBM、T2などの個体もあり、実に多くのマウント規格に対応しています。ブランド名もELICAR V-HQ以外に米国ではROKUNAR V-HQの名で販売されました。レンズ銘の後ろにV-HQの表記があることがElicarシリーズの共通則です。ブラックカラーとホワイトカラーの2色の鏡胴があり、マニアの間では「黒エリカ―、白エリカ―」などと呼ばれています。レンズ構成は公開されていませんが、光を通し反射面の数を見ると、前群側に4面分の明るい反射、後群側に4面分の明るい反射と1面の暗い反射が確認できます。おそらく4群5枚のリバース・クセノタール型であろうかと思われます。

 
重量 555g,  絞り羽 8枚構成, フィルター径 62mm, 絞り指標 F2.5-F32, 最短撮影距離 35cm, 入手した個体はNikon Fマウント

 
入手にあたっての基礎知識
国内よりも海外での流通量が多いため、レンズを探すならeBayを当たるほうがよいでしょう。欧州市場での相場は250~300ユーロあたりです。ただし、米国での認知度の方が欧州ほど高くないため、米国のセラーの方が安く出品する傾向があります。流通量は米国よりも欧州市場の方が多いと思います。

撮影テスト
解像力を重視したレンズで、開放では若干のフレアがピント部を覆いますが、細部までしっかりと解像してくれる高性能なレンズです。収差の補正基準は無限遠方ではなく近接側のようで、開放でのシャープネスやコントラストは近接撮影時の方が良好です。ポートレート域では収差の補正が過剰に効いてしまうので、少しフレアの目立つ柔らかい開放描写となり、背後は二線ボケ気味の硬いボケ味になります。あまり語られることは少ないのですが、長焦点のオールドマクロレンズには、実はバブルボケレンズとして流用できる裏技があります。もちろん、このレンズのテリトリーである近接撮影では柔らかいボケに変わります。
フレアは絞り込むごとに消失、F8でシャープネスと解像力は高い次元で両立します。絞りに対する焦点移動はあまり気にならないレベルでした。歪みは殆どありません。
マクロ域での性能が大変素晴らしいレンズだと思います。

エリカ―で1000円札のミクロの世界を探検する




日本の貨幣には偽造を防ぐ観点から、極めて細かなパターンが施されています。今回はこのレンズの最大倍率(等倍)で撮影した画像を見ながら、緻密なデザインが施された1000円札の世界を探検してみましょう。財務省のサイト(こちら)を見ると、お札の写真をブログ等に掲載する場合についての記述があります。これが印刷されると「通貨及証券模造取締法」に抵触する可能性がでてきますが、写真をブログにアップすること自体に制限はありません。画像に「見本」などの文字を入れたり、貨幣全体を写さないなどの配慮が推奨されています。
 
F8,  SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍:  レンズの最大撮影倍率(等倍)では、このくらいになります。中央をクロップし切り出したのが、下の写真です

F8,  SONY 7R2(AWB  ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 一つまえの等倍の写真の中央部を更に拡大した写真。インクの滲みや小さな文字など、肉眼ではわからない細部まで、しっかりと解像されています

F8, SONY A7R2(AWB ISO1600) 等倍: 再び等倍での画像。ピントは目の部分です。拡大クロップしたのが下の写真です


F8, SONY A7R2(AWB ISO1600) 等倍からさらにクロップ: 瞳は同心円状に描かれていました!

F8, SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍:このあたりの区域は千円札の中で一番華やかです。中央を拡大クロップしてみてみましょう


F8, SONY A7R2(AWB ISO200) 等倍からさなりクロップ拡大: 「千円」の文字が網目になっており、隙間からはカラフルな顔料が見えています。日本の貨幣の細部の質感には脱帽です



F8, SONY A7R2(AWB  ISO200固定) 等倍:こんどは、野口英世の髪の毛のあたりをみてみましょう。拡大クロップしたのが下の写真

F8, SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 日本の貨幣はこのように、いたるところに細かな文字が入っています。肉眼での確認は困難なレベルです











F8, SONY A7R2(AWB  ISO200固定) 等倍:「1000」の文字に注目してみましょう
F8, SONY A7R2(AWB   ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 文字の内側には細かな格子状のパターンが刻まれていました

F8, SONY A7R2(AWB   ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 細かな貝の幾何学パターンですが、インクが滲むことなく見事に描かれています






米国の貨幣にも登場していただけると、日本の貨幣の細かな造りがいかにクレイジーなレベルであるかが相対的にわかり大いに盛り上がるのですが、米国の貨幣の探検は次回以降のお楽しみとしましょう。ここでは軽くレンズの開放描写とF8まで絞った描写を比較します。

開放F2.5とF8での画質比較
開放F2.5とF8まで絞り込んだ2つの画像を比較したのが下の写真です。ぱっと見違いはわかりませんが、細部を拡大してみると開放での写真(上段)の方には表面に薄いフレアが乗っています。ただし、解像度は依然著して高いレベルを維持しており、画面全体でみる限りコントラストも悪くありません。開放から絞り込むごとにフレアが消え、シャープネスが向上します。F8まで絞り込んだ写真画像が下段です。
実は撮影距離を変え、このレンズの専門外であるポートレート域で同じテストをしてみると、開放描写は明らかにソフトな傾向が見て取れます。おそらく収差の補正基準をマクロ域に設けているからで、ポートレート域の撮影時は収差の補正が過剰気味に効いてしまうのでしょう。潔く近接での性能を重視したレンズなのだとおもいます。

上段・F2.5(開放)、下段F8  sony A7R2(WB auto, ISO 200固定)


2015/07/27

Carl Zeiss Planar 80mm F2.8 for Graflex XL (グラフレックス・プラナー)




Planar(プラナー)と言えばRolleiflex (ローライフレックス)やHasselblad (ハッセルブラッド)に供給されたレンズがその後のプラナーの評価と人気を決定付けたモデルとして有名であるが、Linhof Technica (リンホフ・テヒニカ)やGraflex XL(グラフレックスXL)に搭載され商業写真や報道写真の分野で活躍したモデルも忘れてはならない存在である。線が細く軽やかでエネルギッシュな描写傾向は戦後のオールドプラナーに度々みられる持ち味の一つであるが、こうした描写傾向はグラフレックス版プラナーにおいてもみられるのであろうか。

駆け足プチ・レポート2
Carl Zeiss Planar 80mm F2.8(Graflex XL)
報道用カメラのSPEED GRAPHIC (通称スピグラ)で名を馳せた米国Graflex(グラフレックス)社。今回取り上げるレンズは同社が1965年から1973年にかけて生産したGraflex XLという中判カメラに対し、旧西ドイツのCarl Zeissから供給された交換レンズである。このカメラに対してはG. Rodenstock (ローデンストック)社からもHeligon (ヘリゴン) 80mm F2.8が供給されており、Planar 80mmとHeligon 80mmがメインストリームレンズという扱いでカメラのカタログに並んで収録されていた。カタログではHeligonについて「求めやすい価格で驚くほど高い性能を備えたレンズ」「ブライダルフォトグラファーの最初の1本に最適」と紹介した上で、Planarについては上位のモデルという位置づけで「色再現・解像力・コントラストにおいて最高画質を求めるならばベストな選択だ」と絶賛している。今回のレンズは何だかとても良く写りそうな予感がする。

レンズの設計構成はGraflex XLの1967年のカタログ[文献1]に5枚と記載があるのみで詳しいことは明らかにされていない。さっそくガラスに光を通すと前群側には明るい反射が4つ、後群側には明るい反射が4つと暗い反射が1つあり、4群5枚の逆ユニライト(逆クセノタール)タイプであると判断できる。このタイプのレンズについてがはZeissのJ.Berger(ベルガー)とG.Lange(ランゲ)による1950年代初頭の研究があり、構成図の米国特許が複数公開されている[文献2-4]。

左はレンズを前玉側からみたところで4つの明るい反射がみられるので構成は2群2枚、右はレンズを後玉側からみたところで4つの明るい反射①②③⑤と1つの暗い反射④がみられるので2群3枚である。構成は明らかに4群5枚の逆Uniliteまたは逆Xenotarであると判断できる


Graflex XL Planarの特徴は後玉が前玉よりも大きい事と包括画角(対角線画角)が58°とやや広い事である。こうした条件にあう構成図を探すと、ZeissのG.Langeによる1954年の米国特許[3]の中の1本が当てはまる(下図)。Langeは有名なRolleiflex 2.8C用Planar (1954年登場)を設計した人物でもあり、J.Bergerと共にHasselbrad 500C用のPlanar 80mm F2.8(1957年登場)の設計にも取り組むなど、プラナーブランドの育ての親と呼べる設計者である。Graflex XL Planarと同一構成で後玉の大きいモデルとしては他にもLinhof TechnicaのPlanarがある。Linhof用とGraflex XL用は生産された時期が近く、イメージサークルやレンズ構成の一致に加え、ラインナップの共通性、前・後玉のサイズや曲率の類似性など共通項は多い。おそらく両者の設計は同一であろう。

G. Lange, US Pat 2799207(1957), FIG.1からのトレーススケッチ。Graflex Planar 80mm F2.8と100mm F2.8の設計構成の原型と考えられる。前玉外側と後玉外側の2面の曲率操作のみでコマの補正をおこなうことができる
Graflex XL用レンズのラインナップには95mmや100mmの焦点距離を持つモデルもある。これらは中判6x7フォーマットでライカ判の標準画角に相当するレンズであり、本来ならばメインストリームレンズになるところだ。しかし、実際には80mmの準広角モデル(ライカ版の焦点距離39mmに相当)の方が多く出ていた。理由は80mmのレンズの方が丈が短く、それまで主流だったフォールディングカメラにギリギリ内蔵できたためである。また、被写体までの距離を詰めることでフラッシュ光を効果的に利用できるというメリットもあった。中判カメラを用いる写真家達の間では80mmの焦点距離が当時の定番となっていたようだ。
 
入手の経緯
レンズは20119月にヤフオクを介してrakringjpさんから落札購入した。商品の解説は「目立つキズはなく美品。些少のスレはあるが打撲キズはない。レンズに目立つキズ、クモリ、カビなどはない。前玉裏側中央に気泡、中玉に僅かにホコリがある。いろいろな部品を組み合わせM42マウントに改造している」とのこと。グラフレックスXLPlanarは後玉径がとても大きく改造の難度は高いはず。どうやってM42マウントに変換しているのかにも興味があった。見ると改造に用いられているパーツやヘリコイドは全て日本製のBORGブランドであり、部品点数も多い。重量級のレンズなので高耐久な部品で固められているのであろう。改造は技巧に富んでおり、相当なアイデアと製作コストが費やされているように感じられた。オークションは予想どうり数人による激しい争奪戦になったが、最後は43800円で自分のものとなった。届いたレンズを改めてみると巨大な後玉を通すために太いヘリコイド(BORG 7757, M57 Helicoid S)が用いられており、ヘリコイドの内径が大きく広げられているなど手の込んだ改造が施されている。貴重なレンズが手頃な価格で手に入り、とてもいい買い物であった。
 
フィルター径: 49mm, 絞り指標: F2.8-F22, 構成: 4群5枚, コンパーシャッター(1/400s),  最短撮影距離 0.75mm, 推奨イメージフォーマット: 中判6x7cm(カタログ値), 重量(実測): 460g (改造品のため部品込), 写真の左と中央ではマウント部の部品を外し後玉を露出させている。右はすべての部品を装着しM42マウントにしたところ




参考文献
[1] Graflex XL (1967) Graflex Inc.; グラフレックスXLカタログ
[2] Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens; ルドルフ・キングスレーク「写真レンズの歴史」 朝日ソノラマ
[3] Gunther Lange, US 2799207 (1954)
[4] Gunther Lange, Johannes Berger, US 2744447 A (1953)
[5] 「オールドレンズレジェンド」澤村徹 著、和田高広 監修 翔泳社 2011年

撮影テスト
軟調系レンズなのにスッキリとヌケが良く発色も力強い。こうした反則的な性質はグラフレックス版プラナーの大きな魅力である。
開放ではピント部を僅かなフレアが纏い、線の細い繊細な描写となる。このためコントラストが低下しシャドーが浮き気味になるが、中間階調は豊富に出ており、発色が淡泊になったり濁ったりすることはない。ハイライトの階調には粘りがあり、露出をハイキーに振っても白とびを起こしにくいため、気持ち良く伸び上るダイナミックなトーンを捉えれば力強く鮮やかな発色と相まって、このレンズならではの素晴らしい描写表現が可能である。良く晴れた日に屋外で用いれば、軽やかでエネルギッシュな写真表現に出会うことができるであろう。
解像力は充分なレベルであるが、補正をチューンし過ぎていないあたりが特徴のようで、背後のボケは適度に柔らかく2線ボケ傾向にも陥らない。「質感の細密描写に偏重しすぎず、あくまでも叙情性を残す」。Graflex Planarはオールドプラナーの描写理念を正しく受け継いだツァイスの正統派レンズである[文献5]。

デジタルカメラ(35mm版フルサイズ機)での写真作例
Camera: Sony A7 / Canon EOS 6D
Image circle trimming tool
F2.8(開放), Sony A7(AWB)+イメージサークルトリミングツール: 近接では線が細く軽やかでエネルギッシュな描写傾向だ
F2.8(開放), sony A7(AWB)+イメージサークルトリミングツール:階調がなだらかなうえハイキーに振っても白とびを起こさずに階調が粘ってくれる
F2.8(開放), EOS 6D(AWB)+イメージサークルトリミングツール:ピント部は四隅まで安定しておりヌケも良い。ここまで開放で3枚撮ったが不安材料は全くない。開放でポートレート域を撮ると距離によっては極稀にグルグルボケがみられることがある

F4, EOS 6D(AWB)+イメージサークルトリミングツール:晴れた日に持ち出し少しハイキー気味に撮ると、雰囲気良く写る

中判6x7フォーマットの銀塩カラーネガフィルムによる撮影
Camera:  Graflex Pacemaker Speed Graphic(4x5) +Horseman Rollfilm holder 6x7cm
Film: Fujifilm Pro160NS (120 rollfilm)

続いてカラーネガフィルムによる撮影結果を示す。レンズの推奨イメージフォーマットは中判6x7cmである。スピグラに中判120フィルム用のロールフィルムバックを装着し定格イメージフォーマットで撮影した。
F8,  銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format ) 伸び上がるハイライト部のグラデーションを大きくとらえることで、エネルギッシュな描写表現が可能である
F8,  銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format )
F2.8(開放), 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format)
F2.8(開放), 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format) 開放でこれだけ写れば充分ではないだろうか
F4  銀塩ネガ撮影(Fujifilm Pro160NS, 6x7 medium format ) ボケは概ねどのような距離でも安定しており、適度に柔らかい


 銀塩カラーネガフィルム(35mm判)での写真作例
Camera: Yashica FX-3 super 2000(M42マウント仕様)
Film: Fujifilm Superia Venus 800 and Kodak Ultra Max 400

今回入手したPlanarはM42マウントに改造されているので、一眼レフカメラでも使用することができる。せっかくなので35mmのカラーフィルムで撮影した結果も提示しておく。もともと中判用のレンズではあるが、35mmフォーマットで用いても画質的に無理はなく、撮影結果は良好である。やはりハイライト部が美しいレンズであるという印象に変わりはない。
F4,銀塩カラーネガ( Fujifilm Superia Venus 800/35mm判) 



F4, 銀塩カラーネガ (Kodak Ultramax 400/35mm判)