おしらせ


2022/08/08

Petri C.C Auto 21mm F4

   

そのレンズ、旨いのか?不味いのか?
ペトリカメラのウルトラワイド

PETRI C.C Auto 21mm F4

結論から言いましょう。高性能です。ペトリのレンズが高性能なのは描写性能に高い基準を設けていたからで、製品化の際には同時代のニッコールと撮り比べをおこない、どちらがペトリなのか見分けができない事を基準としていたそうです[1]。レンズの性能に対する同社の自信は宣伝時に用いた「性能はニコン。価格は半額」というキャッチフレーズにもあらわれています。技術的にハードルの高いレンズでは、メーカーの設計理念の高さが描写性能に如実に表れるのではないでしょうか。

さて、今回取り上げるレンズはペトリカメラが開発し1973年に発売した焦点距離21mmのウルトラワイドレンズPETRI C.C Auto 21mm F4です。このレンズが誕生した時代は国内でもミラーアップなしで使える一眼レフ用ウルトラワイドレンズが各社から出始めた頃で、先行製品のCarl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4(1961年発売)やNikkor-UD 20mm F3.5などを意識した製品を各社開発していました。レンズ構成は下図のような6群9枚の複雑な形態で、時代的にはコンピュータを利用して設計された光学系です。ペトリのレンズ設計は初期はそろばんで、その後は手回し式のタイガー計算機に変わり、さらに機械式のモンロー計算機、最後はデータをテープで送るコンピュータに変遷したとのことです[1]。このレンズは最後期の製品なので、設計は紙テープ式の旧式コンピュータだったのでしょう。レンズ設計を担当したのは同社の55mm F1.4や55mm F1.8(新型)を手掛けた島田邦夫氏です。島田氏の手掛けたレンズには優れたものが多く、この21mmも例外ではありません。ただし、開発時は社内の基準をクリアすることに大変苦労したそうです[1]。

参考文献

[1] petri @ wiki「ペトリカメラ元社員へのインタビュー(2013年)」リバースアダプター氏

[2] petri @ wiki「ペトリの社内資料レンズデータ編」に掲載されていた社内資料をトレーススケッチした見取り図です。ガラスの種類についてはソース元を見てください。光線軌道シミュレーションなどもあります

 

Petri C.C Auto 21mm F4光学系見取り図(トレーススケッチ)[2]。設計構成は6群9枚のレトロフォーカス型で、第一レンズがはり合わせになっているのが、他ではあまり見ない特徴です
PETRRI C.C Auto 21mm F4:フィルター径 77mm, 絞り F4-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.8m(0.5m前後までマージン有), 設計構成 6群9枚レトロフォーカスタイプ, 重量(カタログ値) 370g  , マウント規格 ペトリブリーチロックマウント

















 

入手の経緯

2022年5月にヤフオクでリサイクルショップが出品していたものを即決価格で購入しました。国内のオークションではカビやクモリのある個体が4万円位から取引されています。コンディションにもよりますが、相場は4〜7万円あたりでしょう。オークションの記載にカビがあると記されていましたので届いた商品を見たところ・・・・居た居た。絞りに面した後群側に成長中のカビが居座っていました。後群の光学ユニット全体が回せば簡単に外れる構造でしたので、取り出して拭いてみると完全に綺麗になり、コーティングは大丈夫でした!。ガラス自体はクモリや傷のない大変状態の良い個体なのでラッキーな買い物です。ネットに一切の作例が出ていないので、どんな写りなのか楽しめそうなレンズです。デジタルカメラへのマウントには2nd baseで入手できるPETRI-Leica Mアダプターを使用しました。

 
撮影テスト
描写性能の高さには驚きました。少し前に撮影テストした同時代のMIRANDA 21mm F3.8よりも開放でのシャープネスやコントラストは明らかに良好で、中心部から中間画角にかけてフレアの少ないスッキリとした描写です。ピントの山がつかみやすく、ダラダラとピントの合う同等製品が多い中、このレンズはキレのある合焦が特徴です。ニッコールを性能の指標として製品開発を行っていただけのことはあります。開放では写真の四隅にコントラストの低下と発色の濁りがあり、この部分に関して言えば同時代・同クラスの他社製レンズと大差はありません。また、光量の多い晴天下の屋外撮影では、開放時に四隅の周辺光量落ちが目立ちますので、1段以上絞って撮影する必要があります。ただし、こういう状況下ではシャッター速度の観点からみても、そもそも絞って撮影するわけですので、使い方を考慮した最適化が描写設計にも行き渡っていると考えるべきでしょう。絞り込んだ時の四隅の画質はとても良好で、フレアの少ないしっかりとした描写です。歪みは概ねよく補正されていますが、中間画角でやや樽型になり、四隅の最端部近くでは反対に糸巻き状に歪んでいます。広角レンズといえば樽型の歪み方が定番なので、ちょっと新鮮かな。逆光時のゴーストが出にくいという噂は本当のようで、フレクトゴン20mm F4よりもゴーストはおとなしい印象でした。ペトリカメラのレンズ設計力の高さを改めて実感することができる価値のある一本です。
 
F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放から中央は充分な画質でコントラストも良好、F8に絞ったこちらの画像と比較しても大きな差はありません。四隅の光量落ちがやや目立ちます

F8 sony A7R2(WB:日光) 続いて絞った結果です。四隅まで充分に良好な画質です



















F8 sony A7R2(WB:日陰) シャープなレンズなので、絞るとカリカリになるケースもあります


F11 sony A7R2(WB:日光)
  

F4 vs. F8

F4(開放) sony A7R2(WB:日光) 中央から中間画角まででしたら開放でもスッキリと写りコントラストも良好、四隅もこのクラスのレンズとしてはフレア量の少なめな良好な画質です。ただ、開放では光量落ちがやや目立つ結果に







F8 sony A7R2(WB:日光) 中央は灯台の中腹に空いた排気口の中のブレードの数までハッキリとわかります。四隅も高画質




































 
銀塩フィルムでの撮影

FILM: KODAK C200カラーネガ
Camera: PETRI V6
 









2022/07/26

YASHINON-DX 32mm F1.4(YASHICA HALF 14 ) converted to Leica M


F1.4を実現した
ハーフサイズ界のスター

Yashica YASHINON-DX 32mm F1.4 for Yashica Half 14

 ハーフサイズカメラに付いているレンズは定格イメージフォーマットが35mm判(フルサイズセンサー)の面積の約半分ですから、改造してデジタルカメラに搭載して使う場合にはAPS-C機で用いるのが最適です。カメラ屋のジャンクコーナーにこの種のカメラであるYASHICA HALF 14が4台束になって置いてありましたので、全部いただいてきました。シャッターが降りないものや巻き上げノブが回らないもの、ファインダーのガラスが割れているものなど、それぞれが致命的に故障したカメラでしたが、レンズは清掃すれば使えそうでしたので、取り出してライカMマウントに改造することにしました。同じレンズが一度に4本も転がり込んで来ましたので、ブロガーの伊藤浩一さんに1本御裾分けしましたところ、早速使ってくださいました。こちらです。伊藤さん曰く、背後のボケが大暴れするとのことです。お写真を拝見するとピント部はシャープで高コントラスト、いかにもYASHINONらしい高性能なレンズです。APS-C機につけると48mm前後の標準レンズとなり、理論上はフルサイズ機にてF2クラスの標準レンズを用いて撮影する場合と同じ写真が撮れます。今週はいよいよ私も使ってみました。

YASHICA HELF14というカメラは同社が1966年に発売したハーフサイズのレンズ固定式カメラです。特徴は何と言っても搭載されているレンズで、レンズ固定式のハーフサイズカメラとしては唯一無二のハイスピードF1.4を誇るYASHINON-DX 32mm F1.4が付いています。レンズの構成はガウスタイプの後玉を2枚に分割したガウスタイプからの発展型(5群7枚構成)で、F1.4クラスの高級レンズに採用される典型的な設計形態です。

 

フィルター径 52mm, 絞り F1.4-F16, 絞り羽の閉じ方がやや歪で非対称な形状です。残念ながらイメージサークルはフルサイズセンサーをカバーできず、こちらにように四隅にダークコーナーが生じます

 

撮影テスト

コントラストの高いシャープなレンズであることは伊藤さんのお写真からも事前にわかっていましたので、私はこれに歯止めをかけるべく、FujifilmのAPS-C機に搭載してフィルムシミュレーションのクラシッククロームにて撮影することとしました。敢えて軟調なモードを選択することで、いい具合にバランスさせることを狙ったのです。開放では微かなフレアがハイライト部を覆うように発生し絶妙な柔らかさです。ただし、コントラストは高く、バランスするどころか押し負けてしまいました。暗部に向かって階調がストーンと落ち、晴天時はカリカリのトーンのため暗部が簡単に潰れてしまいます。2・3・5・6枚目の写真はトーンカーブを少しいじり暗部をやや持ち上げ、この状況を改善させています。フィルムで撮るくらいがちょうどよかったのかもしれません。解像力は良好で高画素機のSONY A7R2で使用した写真を100%クロップしても、まだ分解能には余裕がある印象でした。背後のボケは像の崩れ方が独特ですが、これは絞り羽の歪な形状に起因するものではなく、光学系に由来するものです(開放でも独特でした)。逆光時にはこちらのように虹のゴーストが出現します。

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F1.4(開放) Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F8, Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F5.6 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)

F4 Fujifilm X-t20(WB:日光, F.S: C.C)





2022/07/23

Auto MIRANDA 5cm F1.9 and 50mm F1.8



マイナーなマウントに平凡なスペックなど、わざわざここにゆく理由がなければ手にする事もないミランダカメラのF1.8 / F1.9クラスのレンズですが、使ってみると案外と特徴がある事に気付かされます。記事化することにしました。

ぺンタレフカメラのパイオニア
ミランダの交換レンズ群 
part 6

ミランダカメラ初の自社製レンズ

AUTO MIRANDA 5cm F1.9

F2前後の標準レンズといえば軒並み開放からシャープで高性能(無個性)なものが多いのですが、この安いレンズは滲みが多く、コントラストも低く、ぼんやりとした柔らかい描写が特徴です。このモデルはミランダカメラが交換レンズの自社生産にのり出して間もない頃の製品でしたので、技術的にまだ発展途上だったのかもしれません。レンズホリックの輩には千載一遇の機会ですので、取り上げない手はありません。

Auto MIRANDA 5cm F1.9:  S/N: 456XXXX, フィルター径 46mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.9-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 193g

 ミランダカメラがレンズの自社供給を始めたのは1963年からで、それまで自社の一眼レフカメラに標準搭載するレンズはZUNOWや興和、藤田光学などから供給してもらっていました。その頃のレンズにはシリアル番号の先頭に"K", "T", "Y"など供給メーカー各社の属性を表す頭文字が記されていましたが、1963年10月に登場した一眼レフカメラのMIRANDA F以降では、こうした頭文字が記されなくなっています[1,2]。これ以降の標準レンズは全て自社で生産し供給することとなったためです。最初の自社製レンズはKOWA製MIRANDA 5cm / F1.9(AUTOMEX II用)の後継モデルとして1963年に供給された標準レンズのAUTO MIRANDA 5cm F1.9でした[1]。レンズは1963年に登場したMIRANDA F用としてカメラとセットで供給が始まり、1966年登場のMIRANDA FV/GTまで供給されました。ちなみにカタログには1968年まで掲載されています。1966年に登場した一眼レフカメラのMIRANDA SENSOREXで新設計のAUTO MIRANDA 50mm F1.8に置き換えられ、カタログから姿を消しています。

レンズ構成はこのクラスの製品では一般的な4群6枚のガウスタイプで(下図)[3]、口径比がF2程度であれば無理なく収差補正ができるところですが、実際に使用してみると滲みが多く、柔らかい描写であることに驚かされます。F2クラスの柔らかい描写のレンズは探しても少ないので、今後ますます人気の出そうなオールドレンズです。オートミランダでドミロンの夢を見られるかな?

AUTO MIRANDA 5cm F1.9構成図:文献[3]からの見取り図(トレーススケッチ)
 
 
レンズの市場価格
比較的多く流通しているレンズですし、今のところ値段も安いので、特徴のあるレンズを探している方におすすめしたいです。レンズの日本国内での中古相場は、コンディションにも左右されますが5000円~7000円程度と気軽に手を出せる価格帯です。私は2020年春に国内のネットオークションにて即決価格5000円+送料で落札購入しました。アダプターの入手が難しいため全く注目されてこなかったレンズだったようで、ネットには作例が全く出ていません。
 
撮影テスト
開放ではフレアが画面全体を覆い、コントラストは低下気味で、滲みを伴うボンヤリとした雰囲気のある描写となります。レンズのコンディションは良好ですし、鏡胴への光学ユニットの据え付けが緩んでいるわけでもないので、もともとこういう描写のようです。ボケは四隅で像が流れることがありますが、回転ボケ(グルグルボケ)までには至らない一歩手前です。背後のボケは硬めで、距離よってはザワザワとします。近接撮影時の方が遠方撮影時より滲みが少なめでした。もちろん絞ればフツーにシャープな描写になります。開放で積極的に使ってゆきたいレンズですね。
  
F1.9(開放) Sony A7R2(WB: 日陰) 開放では滲みを伴うソフトな像です。オールドレンズとしては嬉しい結果ですね

F4 Sony A7R2(WB:日陰)もちろん絞ればスッキリ写ります

F1.9(開放) SONY A7R2(WB:日陰) 再び絞りを開けるとソフトな描写になります

F1.9(開放) Sony A7R2(WB:日光)

F4, Sony A7R2(WB:Auto)

F1.9(開放) SonyA7R2(WB:Auto) ボケは回転ボケの一歩手前で四隅が流れています。近接撮影時の方が遠方撮影時より滲みが少なめです
 
続いて後継モデルのAuto MIRANDA 50mm F1.8を紹介します。こちらの方がF1.9のモデルより幾らかシャープに写る新設計のレンズで、やはりミランダカメラが生産しました。このレンズは一眼レフカメラのMIRANDA SENSOREXとのセットで1966年に市場供給が開始されています。初期ロットの個体はフィルター径が46mmでしたが、直ぐに52mm径に変更となりました。1972年に同社が発売した一眼レフカメラのSENSOREX EEではEE(Electric EYE)に対応したAUTO MIRANDA E 50mm F1.8(タイプEとも呼ばれる)も登場しますが、設計構成は従来型と同一です。レンズは1975年に登場したSENSOREX RE-II用とdx-3用に供給された新設計のAUTO MIRANDA EC 50mm F1.8に置き換えられ生産終了となっています[4]。今回は比較も兼ねてフィルター径46mmの初期ロットと後期ロット(タイプE)を入手しました。
 
Auto MIRANDA 50mm F1.8:  S/N: 191XXXX, フィルター径 46mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 205g


Auto MIRANDA E 50mm F1.8:  S/N: 113XXXX, フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.45m, 絞り値 F1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, MIRANDAバヨネットマウント, 重量(実測) 228g




















 
ンズ構成は下図に示すような4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。F1.9のモデルからの明らかな改良点がみられ、特に第2群の接合面の形状とガラスの厚みに大きな差があります。
  
AUTO MIRANDA 50mm F1.8の構成図:文献[5]からの見取り図(トレーススケッチ)
  
レンズの市場価格
これらも比較的多く流通しているレンズで、今のところ安値で取引されています。レンズの中古市場での相場は、コンディションにも左右されますが5000円~7000円程度と気軽に手を出せる価格帯です。
 
参考文献・資料
[1]クラシックカメラ専科64ミランダの系譜, 2002年9月
[3] MIRANDA F instruction manual(English)
[4] MIRANDA SENSOREX RE-II manual; dx-3 manual (English)
[5] MIRANDA SENSOREX instruction manual(English) 
  
撮影テスト
2本の50mm F1.8(Type EとNon-Type E)はカタログに掲載されている構成図を見比べる限り同一設計のレンズですが、写真を撮り比べた結果からも写りに差はありませんでしたので、やはり同一設計のモデルであることを再確認することができました。F1.8のモデルはF1.9のモデルよりもフレアの発生量が少なく、シャープネスやコントラストに改善がみられ、より高性能なレンズとなっています。開放でもピント部はスッキリとした描写です。ミランダカメラの技術力が日々向上していた事の証でしょう。ただし、歪みは樽型で目立つレベルでした。
 
F1.8(開放) Sony A7R2(WB:⛅) 時間帯的に良い写真が取れそうな予感です。ピントは赤い橋。F1.9のモデルよりもシャープネスは明らかに高くフレアも少なめです


F1.8(開放) Sony A7R2(WB:⛅)
F1.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) Sony A7R2(WB:日陰)けっこう樽型歪みがあります

F8, Sony A7R2(WB:日陰)

2022/07/17

Auto MIRANDA 21mm F3.8


















ぺンタレフカメラのパイオニア
ミランダの交換レンズ群 part 5

フレクトゴン20mmを手本にした

MIRANDAマウントのウルトラワイド

AUTO Miranda 21mm F3.8

MIRANDAブランドのレンズの中で焦点距離25mmに次ぐポピュラーなモデルが今回取り上げるAuto Miranda 21mm F3.8です。レンズメーカー各社のOEM製品であるSOLIGORブランドにもミランダマウントの同一モデルがありますが、販売時の価格設定はミランダ純正モデルより若干安価でしたので、Auto MIRANDAはSOLIGORの上位ブランドという位置づけであったようです [1]。レンズの発売年は不明ですが1972年には既に発売されていました。AIC Photo Inc. ARRIMATSU CORP.(1972年) から出ているSoligorレンズのカタログに構成図付きで掲載されており、1972年に印刷された米国小売業者のプライスリストでも確認できます[1,4]。焦点距離が20mmではなく21mmであることを中途半端だと受け止める人も多くいると思いますが、これは対角線画角がライカ版35mmでちょうど90度であるところから決まっています。切りの良い焦点距離よりも、本質的に重要な切の良い画角が重視された結果が21mmだったのです。いかにもドイツ人的な発想であることは容易に想像ができます。21mmの起源は1958年に登場したスーパー・アンギュロン 21mm F4だったのでしょうか?。

Auto Miranda 21mmを供給したメーカーがどこであったのか、エビデンスとなる資料は見つかっていません。鏡胴のよく似たRIKENON 21mm F3.8の存在が確認でき、ミランダ研究会によると同等のトミノンやヤシノンもあるそうなので(これについて当方は未確認)、今回取り上げるAUTO Mirandaを富岡光学製であるとする仮説はとても有力です[2]。もうひとつの対抗仮説はTOKINAが製造したというものです。同社はかつてT4マウントのSOLIGOR 21mm F3.8を生産していました[3]。ただし、MirandaマウントのSOLIGOR 21mm F3.8とは鏡胴のデザインが異なっておりピントリングが金属のローレット加工ではなくゴムです。決定的な資料がない状況を考えると検証のためには中を開け、部品レベルで分析するしかないでしょう。エビデンスのある情報をお持ちの方から情報提供が寄せられるのをお待ちしています。

AUTO MIRANDAには焦点距離の更に短い17mm F4があり、同一レンズでM42マウントのNoritar 17mm F4が発見されていますので、ノリタ光学が製造したことは間違いありません。製造本数は極めて少なく入手は困難のため、現実的に入手が可能なモデルの中では今回取り上げる21mm F3.8が最も画角の広いレンズであると言えます。

レンズ構成は下図・左のような8群9枚で、第7群にはり合わせユニットを持った複雑な構成形態になっています[4]。時代的にはコンピュータ設計のレンズですが、やはりコンピュータによる設計で1961年に発売されたフレクトゴン20mm F4前期型(下図・右)を意識した構成であることは、この比較図から見ても明らかです[5]。この設計では広角レンズで一般的にみられる樽型歪曲収差を、前群に設けた2枚の発散性メニスカス(2群目と3群目のレンズ)を利用して抑えています。この設計はVEB Zeiss JenaのDannbergらが1956年に考案したもので、はじめは1955年の広角化アタッチメントの開発に利用されました[6]。

 

参考文献・資料

[1] 1972年の米国小売店でのプライスリスト

[2] ミランダ研究会 Ultra wide angle lenses

[3] トキナー交換レンズ価格一覧表

[4] Soligor Universal Automatic T4 Lens systm, AIC Photo Inc. ARRIMATSU CORP. (1972)

[5] Flektogon 20mm特許 DDR Pat.30477 (1963) 

[6] Pat. GDR No.17177, 22nd Dec.1956

Auto MIRANDA 21mm F3.8: フィルター径 72mm, 絞り羽 6枚構成, 絞り F3.8-F16, 最短撮影距離 0.3m, 重量(実測) 312g, MIRANDAバヨネットマウント , 設計構成 8群9枚






 ★入手の経緯 

レンズは2022年春にeBayを介して米国の撮影機材を専門に扱うセラーから200ドル(27000円)+送料で入手しました。オークションの記載は「ファインコンディションで未使用に近い。ケースとキャップが付属する」とのこと。ホコリも僅かの美品でした。オークションでの相場はコンディションにもよりますが150~200ドル程度でしょう。Soligorブランドの同等品の方がもう少し安値で(100~150ドルあたりで)流通していますので、ブランド名に拘らないのであれば、そちらでよいと思います。私は敢えて拘ってみましたけれど。
 
撮影テスト
この時代のウルトラワイドレンズは絞って撮ることを前提に設計されていますので、敢えて開放で使用すると、中央から少し外れたところで像が明らかに甘くなります。四隅の光量落ちも少し出ますが1段絞れば均一な光量になります。四隅までシャープな像を得たいなら2段絞る必要があるでしょう。このレンズの設計に影響を与えたフレクトゴン20mm F4と比較すると、逆光ではやはりゴーストはでるものの、フレクトゴンよりは出にくい印象です。逆に薄いベールのようなハレーション(グレア)は多めに発生し、強い逆光時はコントラストが落ちて発色が若干濁ります。フレクトゴンは深く絞ってもトーンが硬くなることはなかったのですが、ミランダは2段しぼると急にシャープになり、暗部の締りが強めに出るようになりました。発色に癖があるという噂を耳にしていたのですが、デジタル撮影(SONY A7R2)で特に気になることはありませんでした。歪みの補正については定評のあるフレクトゴンと遜色はなく、1970年代のウルトラワイドレンズとしてはまぁまぁ良好な補正レベルだと思います。

F8, Sony A7R2(WB:日光)













F3.8(開放)続いて開放。四隅で光量落ちが若干みられる。参考までにF8に絞った写真はこちらです

F8, Sony A7R2(WB:日光)














F3.8(開放) Sony A7R2(WB:日光)

F8, Sony A7R2(WB:日光)



































F8, Sony A'R2(WB:日陰)
F8, Sony A7R2(WB:日陰)

F8, Sony A7R2(WB:日陰)

F8, Sony A7R2(WB:日陰) 歪みもこのクラスのレンズとしては良好に補正されている印象です
F8, Sony A7R2(WB:日陰)

F5.6, Sony A7R2(WB:日光)
F8, Sony A7R2(WB:日光)