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2020/11/10

TAIR-62T 95mm F2.5


ミサイルの弾頭に搭載された
テレビジョンレンズ
TAIR-62T 95mm F2.5
ロシア製レンズの中にはHelios-40TやMIR-1Tなど、レンズ名の末尾にTの頭文字がつくものがあり、テレビシステム用に生産されたレンズを意味しています。今回取り上げ紹介するTAIR-62Tもテレビシステム用ですが、用途がかなり特殊で、ロシア軍のTV誘導ミサイルKAB-500に搭載され用いられました。ミサイルの弾頭部に設置されたレンズからTV映像を送り、目標に向かってミサイルを誘導・着弾させるのです。レンズは着弾とともにミサイルもろとも爆破されてしまいますので、儚い命でしたが、この子は運よく私のところにやって来て、写真用レンズとしての第2の人生を歩むことになっています。ただし、フツーの写真用レンズ(民生品)に比べると良い意味でも悪い意味でも、耐久性が高く、作りがよく、飾りっ気がありません。護身用にもなるくらいの重量感がありますので、これを持って気軽に旅に出ようという気にはなれませんが、近所をスナップ撮影で回るくらいなら問題ありません。
レンズの特徴はマイクロフォーサーズをギリギリで包括できるイメージサークルを持つところです。じつはマイクロフォーサーズ用の望遠オールドレンズには選択肢が多くありません。マイクロフォーサーズ機でオールドレンズを用いる方の多くは、フルサイズ用につくられた標準レンズや中望遠レンズなどを望遠レンズに転用していますが、これですとイメージサークルが広すぎるためレンズ内に余分な光を多く取り込んでしまいます。コントラストは落ち、写真にシャープネスや鮮やかな色を求める際にはデメリットです。イメージサークルにジャストフィットするレンズを使うことは時にとても重要なのです。しかし、一方でレンズは望遠になるほどイメージサークルが大きくなる傾向がありますから、小さなイメージサークルの望遠レンズはマイクロフォーサーズ用としては大変貴重な存在です。
ロシア軍のTV誘導ミサイルKAB-500(出展:Wikimedia Commons; Author:Евгений Пурель; 写真はwikimedia commonsのライセンス規則に則り借用しています)


KAB-500の弾頭部。ガラス内の下の方にTair-62Tが確認できます(出展:Wikimedia Commons; Author:Евгений Пурель; 写真はwikimedia commonsのライセンス規則に則り借用しています)

レンズの構成は下図に示すようなヘンテコな形態で、タイール型と呼ばれています。解像力やコントラストがやたらと高いのが特徴です。この基本構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの派生として開発されました[1]。軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを開発することが目的でしたが、終戦後はシネマ用望遠レンズの基本構成としても積極的に採用されています。既存のレンズのどの構成にも似ていないロシア発祥の設計形態の一つといえます。 レンズ名の語源はわし座のアルタイール(日本では彦星)から来ています。ちなみにパートナーの織姫もレンズ名になっていて、こと座のベガにちなんだVEGAシリーズです。eBayなどでは彦星レンズと織姫レンズがセットで売られていることも多く、これはもう運命的としか言いようがないペアのようですね。
Tair-62Tの構成図。GOIレンズカタログ[2]からのトレーススケッチ(見取り図)


参考文献

[1] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)

[2] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970


入手の経緯・カメラへのマウント

ンズば2018年9月にeBayを通じてロシアのレンズ専門セラー(アンディさん)から21000円+送料の即決価格で購入しました。イーベイではこの方のみがレンズを出しているので、決まった相場はなく、彼の設定額が相場です。レンズのコンディションは「NEW  オールドストック」とのことで、完璧なコンディションの個体が届きました。まぁ、オールドストックでない中古品が万が一あるとすれば、一度はミサイルに搭載されながらも発射されずに廃棄されたミサイルから出てきた個体なのでしょう。中古品が滅多に存在しないことは容易に想像ができます。

レンズにはヘリコイドがついていませんので、カメラにマウントするには改造が必要です。私はM52-M42ヘリコイド(25-55mm)のカメラ側をライカMマウントに改造し、これをレンズに装着してライカMレンズとして使用できるようにしました。マイクロフォーサーズ機で用いる場合、大きく突き出した後玉がカメラの内部(センサーハウスの土手)に干渉しますので、後玉先端部のレンズガードを少し削らないといけません。とても厄介な改造です。


重量(実測) 454g, 絞り羽 11枚, 絞り F2.5-F22, フィルター径 52mm, 構成は3群4枚のタイール型


 

撮影テスト

レンズのイメージサークルは16mmシネマムービーに準拠していますので、マイクロフォーサーズ機で用いる場合、写真の四隅は本来は写らない領域です。四隅には光量落ちが出ますし、深く絞るとトンネル状のダークコーナーがあらわれ、ハッキリとケラれます。また、距離によっては背後にグルグルボケが出ますし、糸巻き状の歪みが生じ、真っ直ぐなものが曲がって見えます。マイクロフォーサーズ機では、こうした破綻を活かす方向で考える必要があります。もちろん、アスペクト比を変えたりセンサーサイズの小さいカメラを使えば、これらの破綻は回避できます。また、歪みや光量落ちは現像時にある程度補正できます。

レンズの描写は開放からスッキリとしていてヌケがよく、高解像で高コントラストです。ただし、トーンはなだらかで中間階調もよくでており、くもり日でも空の濃淡の微妙な変化までもしっかりと拾うことができます。発色は鮮やかでコンディションによっては気持ち悪いくらい鮮烈に写る事があります。ボケは前ボケも後ボケも均一に拡散し、バブルボケにはなりません。普通は前か後ろのどちらか一方が硬く、反対側は柔らかく写るのるのですが、このレンズの場合はいろいろな部分で普通のレンズの描写とは異なるようです。逆光には強く、ゴーストやハレーションはでません。

F?(少し絞っています) Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放) Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放) Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放)Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放)Olymus E-P3(AWB)


F2.5(開放) Olympus E-P3(AWB)

2018/02/23

KMZ OKS2-75-1(OKC2-75-1) 75mm F2.8



ロシアの16mmシネマムービー用レンズ part 4
迫り出すトーンが場の雰囲気を大きく捉える
KMZ OKS(OKC)2-75-1  75mm F2.8
昨年秋の記事で取り上げたTAIR-41M(タイール41M)の魅力的な写りをフルサイズ機でも堪能したいという願いから、このレンズにたどり着きました。ロシアのKMZ(クラスノゴルスク機械工場/現ゼニット)がソビエト連邦時代に、映画撮影用カメラの16SP(1958-1964年販売)に搭載する交換レンズとして市場供給したOKS(OKC) 2-75-1です。レンズを搭載した16SPというカメラはKMZがアリフレックス16を参考に開発したもので、ターレット式マウントに3本のレンズをいっぺんに搭載することができるプロ仕様の映画用カメラでした。撮影フォーマットは16mmなので、このレンズを現代のデジカメに搭載して使用するにはNikon1(1インチセンサー)あたりを選ぶのが画質的に無理のない組み合わせです。その一方で、レンズのイメージサークルにはかなりの余裕があり、なんとフルサイズセンサーをカバーしてしまいます。収差を大好物とするオールドレンズファンならば言うまでもなく、このレンズをフルサイズ機で使用するに違いありません。
レンズの設計構成は下図に示すような3群4枚の独特な形態で、TAIRタイプと呼ばれています。この構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov(デビッド・ヴォロソフ)教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの発展形として開発されました[1,2]。はじめは軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを作ることが目的でしたが、戦後はシネマ用レンズにも転用されています。トリプレットの高い中心解像力とヌケの良さをF2.8の明るさでも無理なく実現できるようにすることが、レンズ開発時の設計理念だったのでしょう。その一つの答えがTAIRタイプだったのです。
OKCの75mmと言えば、やはり圧倒的に有名なのはPO2の後継製品でもあるOKC1-75-1 75mm F2と、その更に後継であるOKC6-75-1 75mm F2です。両者とも素晴らしい性能のレンズですが、これらに比べると今回のレンズは同じOKCといえど、マニアックでマイナー路線を突っ走っています。でも、他人とは一味も二味も異なる描写を求める人、ありふれた描写にサヨナラしたい人には、このレンズが一つの有望な選択肢になるはずです。いずれもロシア製品の中では最高峰のプライムレンズです。
OKC2-75-1の構成図(文献[3]からのトレーススケッチ)左がフロントで右がリア(カメラ側)です。設計構成は3群4枚のタイール型で、前群側に正パワーが大きく偏っていることによる糸巻き状の歪曲収差を緩和するため、後群に厚い正レンズを配置している





参考文献・資料
[1] REDUSER.NET: Ilya O."Tair-11 lens diagram/scheme and appearance"(2016 Nov.)
[2] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)
[3] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970

入手の経緯
レンズは2017年12月にeBayにてロシアのセラーから229ドル+送料20ドルで落札しました。オークションでのレンズの売値は状態にもよりますが、350~450ドル辺りです。鏡胴に何らかの問題がある品を探せば、250ドルあたりで手に入ることも可能でしょう。国内でのレンズの相場は取引歴がないため不明ですが、ロシア製シネマ用レンズは概ね現地のセラーが提示する倍の値段で取引されていますので、国内の市場に出てくれば改造費込で6万円を越える値が付くとおもいます。
オークションの記載は「レアなソビエト製シネマ用レンズ。エクセレントコンディションで新品のようだ。レンズはクリーンでクリア、傷やクモリはない。絞り羽に油染みもない。キャップと箱が付属する」とのこと。写真を見ると鏡胴には錆が出ています。これを新品のようだと堂々と解説するセラーの感覚もどうかとおもいますが、相場よりだいぶ安く出品されていたので、迷うことなく購入を決意しました。記載に大きな間違いがなければガラスの状態は良好なはずです。
届いたレンズはやはりピントリングの周りに錆が出ていましたが簡単なクリーニングで充分に除去可能なレベルでした。ガラスの状態は良好でしたのて、思いどうりの良い買い物ができました。
KMZ OKS2-75-1(OKC2-75-1): フィルター径 52mm , 重量275g(改造前): 380g(改造後・ヘリコイド込の参考値), 最短撮影距離1m(改造後は0.4m), 絞り羽 16枚構成, 絞り F2.8-F22, 設計構成 3群4枚タイ―ル型, 前玉前方のイメージサークル・トリマーをはずすとイメージサークルが拡大する
マウントアダプター/M52ヘリコイドへの搭載
eBayでは16SP(Krasnogorsk-2互換)マウントをSONY E/マイクロフォーサーズ/Cマウント/Arri PLに変換するためのマウントアダプターが、5000~8500円程度で市販されています。残念ながらフジとEOS-Mに対応するアダプターは見当たりません。私は接写が出来ようにしたかったので、自分でマウンド部を改造しレンズをM52-M42直進ヘリコイド(最短17mm)に搭載することにしました。ヘリコイドのカメラ側はM42-SONY Eスリムアダプター(1mm厚)でソニーEマウントにしています。本体のヘリコイドを生かしたダブルヘリコイド仕様となり、最短撮影距離を1mから0.4mまで短縮させることができました。改造のヒントはマイクロフォーサーズ用の中華製マクロエクステンションリングを使います。あとは、ご自身で試行錯誤してください。

撮影テスト
シャープネスとコントラストは高く、質感表現は秀逸でシネマ用レンズの底力を知ることができます。このレンズの大きな特徴はやはり圧倒的に美しい光量落ちではないでしょうか。はっきりとケラれることはないので写真効果として十分に活用でき、フルサイズ機で用いるとトーンを強制的につくりだす特殊効果のような役割を果たしてくれます。これが写真の階調描写に躍動感を生み出すとともに、中央の被写体をドラマチックに演出してくれるのです。光量落ちを避けたい時には前玉の前方に据え付けられたイメージサークル・トリマーを外すだけです。また、フルサイズ機と組み合わせる際には強い糸巻き状の歪曲収差が発生し、柱や建物など真直ぐなものが大きく歪んでみえます。こうした特徴が顕著にみられるのはレンズ固有の独特な設計形態によるところも大きいのですが、本来ならば写真には写らないイメージサークルの隅の方を利用しているためでもあります。定格外の使い方ですので四隅では像が甘くなるものの、絞れば良像域は四隅に向かって拡大し、2段も絞ればフルサイズ機でも写真全体にわたり十分な画質となります。ボケには安定感があり、距離によっては背後で微かにグルグルボケの出ることがありますが、二線ボケ、放射ボケはみられず素直で美しいボケ味です。
フルサイズ機による規格外の使い方と中央の目覚ましい描写性能が織りなす甘く危険な協力関係が、均一な写真描写に慣れ親しんだ人の感性を大きく揺さぶるに違いありません。
F2.8(開放) sony A7R2(WB:電球1, iso400)  光量落ちの美しさは圧倒的で、スタジオなど室内のポートレート撮影ではダイナミックなトーン描写が中央の被写体をドラマチックに演出してくれます
F4 sony A7R2(WB: 曇天) 発色はやや温調にコケる傾向があります



F4 sony A7R2(WB: 曇天) すさまじい糸巻き状の歪曲収差!。ここまで気持ちよく曲がると、お見事としか言いようがありません
F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天) 前ボケも後ボケもフレアに包まれ柔らかく滲みとてもきれいです。一方でピント部には滲にがまったくなく、スッキリとヌケのよい描写です

F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天) トーンを強制的に出したような不思議な描写もこのタイプのレンズならではの特徴といえます。明暗差の大きな場面で使いたいレンズです
F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天) 開放からスッキリとヌケのよい描写が実現されており中心部はたいへんシャープで解像感に富む、とても優秀なレンズです

F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天)

F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天)  中心部のシャープネスは十分で、sony α7Riiの4240万画素センサーにも根負けしません。中央を拡大したのが下の写真です
ひとつ前の写真(4240万画素)の中央部を当倍でクロップしたもの。解像感の高いレンズです
F4 sony A7R2(WB: 日陰) 












F2.8(開放)  sony A7R2(WB: 日陰)




F2.8(開放) sony A7R2(WB 曇天)




2017/09/25

LZOS TAIR-41M 50mm F2 (Kiev-16U mount)




ロシアの16mmシネマムービー用レンズ part 1
独特な設計構成から繰り出される
四角の破綻と緩やかな光量落ちが
中央の被写体をドラマチックに演出する
リトカリノ光学ガラス工場(LZOS) TAIR-41M 50mm F2

レンズの設計構成は描写の性格を決める重要なファクターなので、構成が特殊なレンズに出会うと俄然興味が沸いてきます。ロシアのリトカリノ光学ガラス工場(LZOS)がソビエト時代の1960年代中期から1980年代中期にかけてシネマムービーカメラのKiev-16U用交換レンズとして供給したタイール41M(TAIR-41M)は、まさにそういう類のレンズです。このレンズには1960年代から1981年まで生産されたゼブラ柄の前期モデルと、1982年から少なくとも1984年まで生産されていた黒鏡胴の後期モデルの2種が存在します[1]。設計の基本構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの派生として開発されました[3,4]。軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを開発することが目的でしたが、終戦後はシネマ用望遠レンズの基本構成としても積極的に採用されています。既存のレンズのどの構成にも似ていないロシア発祥の設計形態の一つといえますが、こんなヘンテコな設計でも実によく写ります。不思議だなぁ。
TAIR-41M 50mm F2の構成図(左が前方で右がカメラ側):文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)。構成は3群4枚(タイ―ル型)で、絞りは2群目と3群目の間に入る。何かに似ていると思っていたが、わかった。土偶だ。同種の構成を持つタイールシリーズのレンズとしては、他にもTAIR-11 135mm F2.8、OKC2-75-1 75mm F2.8, , OKS1-200-1 200mm F2.8,  TAIR-3S 300mm F4.5, OKS1-300-1 300mm F3.5がある。レンズ名の由来はわし座の一等星のアル・タイル(Al-tair)。ロシアのレンズは光学系の種類ごとに星の名称(Sirius, Orion, (Sirius, Orion, Helios, Jupiterなど)をあてる習慣があり、このレンズの名称も伝統的な命名法から来ている[3]
タイ―ル41Mは広角レンズのMIR-11M 2/12と標準レンズのVEGA-7-1 2/20とともに3本セットで市場に流通していることが多く、3本をKIEV-16Uのターレット式マウントに同時に搭載することができました。マウント形状は特殊なM32スクリューネジ(ネジピッチ0.5mm)ですが、マウントアダプター(ロシア製と中国製)の市販品がeBayで流通しており、ミラーレス機で使用可能です。イメージサークルはビルトイン・フードの装着時にマイクロフォーサーズをギリギリでカバーできる広さがあり、フードを外すとAPS-Cをギリギリでカバーできます。レンズ本体の相場はeBayで50ドルからと焦点距離50mmのシネマ用レンズとしては破格の値段なので、これで写りが面白ければ言うことなし。
 
入手の経緯
レンズはeBayに比較的数多く出ており、送料込みで50ドル程度からと、50mmのシネマ用レンズとしては求めやすい価格です。アダプターは中国製とロシア製の市販品(マイクロフォーサーズ用、Nikon 1用、EOS-M用)がeBayに30~45ドル辺りの値段で出ていました。
ゼブラ柄の前期モデルは2017年8月にウクライナのレンズセラーから 即決価格45ドル(フリーシッピング)で落札購入しました。オークションの記載は「レンズはとても良いコンディションで清掃およびテストをおこなった。ガラスは綺麗でカビはない。絞りリングはスムーズに回り、フォーカスリングもスムーズかつ正確だ」とのこと。届いたレンズはガラスに油が付着しており、汚れがひどく、絞りリングも緩んでいたので、自分でオーバーホールする事になりました。あ~面倒くさい。
続いて黒鏡胴の後期モデルは2017年9月にウクライナの個人セラーから50ドル(送料込み) の即決価格で購入した。オークションの記載は「ガラスはクリーンでカビはない。フォーカスリングと絞りリングはスムーズで、全ての制御機構が健全です。外観の状態は写真で見てください」とのこと。届いたレンズは前玉にごく薄い吹き傷がパラパラみられましたが、実用品としては悪くないコンディションでした。

参考文献
[1] 古いものは1967年製のシリアル番号を持つ個体、新しいものは1984年製の個体を確認している。また、1981年製のゼブラ柄モデルと1982年製の黒鏡胴モデルを確認したので、この間にモデルチェンジがあったのでしょう
[2] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970
[3] REDUSER.NET: Ilya O."Tair-11 lens diagram/scheme and appearance"(2016 Nov.)
[4] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)

LZOS Tair-41M 50mm F2( 前期モデル): 絞り羽根 13枚構成, フィルター径 フードの先端 35.5mm/34mm(フードの根元), 最短撮影距離 0.7m, 絞り F2-F22, 16mmシネマムービーカメラ用Kiev-16Uマウント(M32x0.5スクリュー, フランジバック31mm), 設計構成 3群4枚(Tair type)


LZOS Tair-41M 50mm F2(後期モデル): 絞り羽根 13枚構成, フィルター径 35.5mm(フード先端・中継)/ 34mm(フード根元), 最短撮影距離 0.7m, 絞り F2-F22, 16mmシネマムービーカメラ用Kiev-16Uマウント(M32x0.5スクリュー, フランジバック31mm), 設計構成 3群4枚(Tair type)




SONY Eマウントへの改造例
タイ―ル41M(後期型)に元々ついていたヘリコイドでは最短撮影距離が長いので、撤去し高伸長なフォーカッシングヘリコイドに乗せ換えミラーレス機で使用することにしました。はじめにSONY Eマウント化の改造例を提示しましょう。

まず鏡胴の後群側を手で押さえ絞り冠のある前群側を回すと、上の写真のように鏡胴が真っ二つに分離できます。前側の溝にはM42-M39ステップアップリングがピッタリと収まりますので(下の写真・中央)、このままエポキシ接着剤を用いてステップアップリングをガッチリと固めます。この時、ネジの頭が少し出るので、ここに適当な操出量のM42フォーカッシング・ヘリコイドを装着します。私はeBayで手に入れたM42-M39ヘリコイド(繰り出し範囲が変則的な22.5-48.5mmのタイプ)を用いました。最後にフォーカッシングヘリコイドのカメラ側にM39-M42ステップアップリングとM42-Sony Eスリムアダプターを装着し、Sony Eマウントに変換して完成です

[改造に用いた部品]
タイ―ル41M後期モデル
エポキシ接着剤 ホームセンターで金属用を購入
M39-M42ステップアップリング x2個 アマゾンで175円(送料無料)
M39-M42フォーカッシングヘリコイド 最短が22.5mmのタイプ eBayで3000円程度
M42-NEX(sony E)スリムアダプター アマゾンで540円(送料無料)



改造後の様子。ヘリコイドが高伸長タイプ(22.5mm-48.5mm)なので、最短側の撮影距離は改造前の0.7mから0.25mまで短くなった






SONY Eマウントで使用する場合にはイメージサークルの関係からビルトインフードを外すことが多くなります。上記の改造を行うと絞りの開閉はフードをつまんで回すことになりますが、フードの撤去により絞り開閉ができなくってしまいます。これでは困るので、ビルトインフードが付いていたフィルターネジに34mm-37mmのステップアップリングを装着します。ステップアップリングの更に先にネジ径37mmの標準レンズ用フードを装着すれば、絞りリングの取り回しは更によくなります。

マイクロフォーサイズマウントとフジXマウントへの改造例
マイクロフォーサーズマウントへの変換とフジXマウントへの変換例はよく似ているので、いっぺんに解説します。

[改造に用いた部品]
タイ―ル41M後期モデル
エポキシ接着剤 金属用をホームセンターで購入
(1)M42フォーカッシングヘリコイド (最短17mmのタイプ) eBayで2500円程度
(2)39mm-52mmステップアップリング
(3)M39-M42ステップアップリング
(4)マクロリバースリング(フィルター側のネジ径が52mmのもの)、フジXマウント用またはマイクロフォーサーズ(PEN)用のいずれか

(1)-(4)の4つの部品を組み合わせ、下の写真・右のようなヘリコイドを制作します。M42フォーカシングヘリコイド(1)のメスネジ(レンズマウント側)を39-42mmステップアップリング(2)とM39-M52ステップアップリング(3)を用いて52mmフィルターのメスネジに変換します。つづいてリバースリング(4)を用いて、その先をカメラマウントに変換します。これで完成ですが、最後にフォーカッシングヘリコイドのM42マウントネジの頭にエポキシ接着剤を塗布しておきます。
この改造の工夫点はリバースリングを利用しているところと、M42フォーカッシングヘリコイドが逆さ付けになっているところです。奇抜なアイデア(工夫点)だと思っています。正攻法でゆくと17mmのヘリコイドではフランジ調整が困難ですが、リバースアダプターを使うことで、この問題を簡単に解決しています。







続いて、下の写真・左のようにTAIR-41Mの鏡胴の後群側を手で押さえ前群側を回すと、後群と前群に真っ二つに分離できます。前群側(写真・中央)の溝にはM42フォーカッシングヘリコイドのオスネジ側(エポキシ接着剤を塗布した部分)がピタリとハマりますので、エポキシ接着でガッチリと固めて同化させます。無限遠のフォーカスが拾えることを確認し完成です。固める際には絞り指標が上にくるように注意しましょう。
後期型は前期型(ゼブラ柄)と絞りの機構が少し異なり、ビルトインフードのフィルター枠を回して絞りの開閉をおこないます。しかし、フジのミラーレス機で使用する場合にはケラレ予防のため、ビルトインフードを外すことがあります。絞りの開閉を助けるためフードを外す場合には34-37mmステップアップリングを装着することをお勧めします。この上から汎用品のフード(ネジ径37mm)を装着すれば、取り回しは更によくなります。














影テスト
開放ではややフレアが生じ適度に柔らかい描写となりますが、シネマ用レンズらしく中心部は高解像で密度感に富み、デジカメの広い撮影フォーマットでは像面湾曲が目立つためか立体感にも富んでいます。一段絞るとフレアが完全に消失しスッキリとヌケが良くなるとともに、たいへんシャープな描写へと変わります。コントラストは高く、発色にも鮮やかさあります。ただし、逆光にはきわめて弱く、ハレーションの影響によりコントラストが落ち発色も濁りますので、適切な深いフードを装着することをおすすめします。被写体の背後では距離によっては弱いグルグルボケが発生します。写真の四隅で玉ボケが細長く潰れてゆく効果(強い口径食)と相まって、なかなか妖しいボケ味を醸し出しています。反対に前方では放射ボケが目立つこともあり、四隅で強いフレアを纏います。歪曲収差は巻き状でした。ピント部中央の高い描写性能はまさにシネマ用。使いでのあるレンズだと思います。
 



TAIR-41M(後期型)x SONY A7R2: APS-C mode  アスペクト比 16:9
ビルトインフードを装着するとAPS-C機ではトイカメラのような光量落ちを楽しむことができます。光量の落ち方がとてもなだらかなので、敢えてフードを装着しますと中央を際立たせる素晴らしい効果が得られます。フードを外しますと光量落ちはかなり緩和されますが、深く絞り込む際には四隅がケラれます。
TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C mode, AWB)  発色は鮮やかでコントラストも良好




TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C mode, WB:晴天)  マクロでもよく写る

TAIR-41M後期型@F2(開放 without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C crop mode, AWB)  はっきりとしたグルグルボケにはならない背後では像の流れがみられる。
TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天) 被写体の前方では放射ボケが発生する事もあります。強いフレアを纏っていますので、うまく利用することで素敵な描写になります

TAIR-41M後期型@F2(開放, installed Built-in Hood フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天) 優れた描写力だ。ポートレート域では適当な距離で背後にグルグルボケが出る。ビルトインフードを装着してみたが、APS-Cフォーマットでは、いい塩梅で周辺光量落ちがみられた。光量落ちが好きならばフードはこのままでよし。避けたければ外せばよい

TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C crop mode, AWB) 







TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天)




TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天)


フィルター径が34mなので、レンズの先端にステップアップリング 34-37mm(セパレート式フードの場合は中継部に35.5-37mm)などを取り付けると、絞りの開閉が容易になるうえサードパーティのフードやキャップ等を付けやすい

TAIR-41M  x  Olympus PEN
16mmムービーシネマフォーマットのレンズですので、ミラーレスカメラで用いる場合にはAPS-C機よりもマイクロフォーサーズ機で用いる方が安定した画質を得ることができます。ビルトインフードは付けっぱなしでもケラレが問題になることはありません。タイ―ル41Mの前期モデルを所有している写真家のemaさん(Oo.ema.oO)に撮影したばかりの写真を提供していただきました。
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着



TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着