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2025/12/28

LEITZ Canada ELCAN 3inch F2


















冷戦期を見つめた眼 ー ライツ・カナダ社の航空偵察レンズ

LEITZ Canada ELCAN 3inch F2(AERIAL LENS)

Leitz Canada社の ELCAN 3inch F2 は、英国Vinten社の航空機用カメラ F.95Mk.6型)に搭載され1970年代に用いられた中判6x6cmフォーマット対応のレンズです。カメラの方は1950年代半ばより英国空軍(RAF)所属の航空機グロスター・ミーティア、ホーカー・ハンター、スーパーマリン・スウィフト、さらにイングリッシュ・エレクトリック・キャンベラPR3PR7PR9などに搭載され、冷戦期における戦術偵察の主力装備として広く用いられました。ただし、ハンターとスゥイフトは1970年までに退役していますので、実際にELCANレンズが搭載された可能性のある機体はキャンベラとグロスター・ミーティア(1970年代は訓練/連絡機として運用)です。

英国空軍のカメラにドイツ系光学技術が組み込まれた事例は極めて稀で、地上目標の識別精度を高める事が最優先された特殊偵察任務において、解像力を重視するというNATO軍の要求に応えるために、ELCANレンズが採用されたのです。欧州の政治的な問題から距離を置くことのできるカナダ製のライツレンズはNATO軍の装備として好まれたようです。

ELCAN構成図(文献[1,2]の掲載図からトレーススケッチ)

光学設計は上図のような57枚構成のELCAN型で、ガウスタイプの絞り直後に薄い凸メニスカスレンズを配置しています。ちなみに、この構成はライツSUMMILUX 35mm F1.4(1958年設計) と同一のものです。レンズの設計を手がけたのは、ライツ・カナダ社のウォルター・マンドラー(設計部長)とエリック・ワグナーで、1958年に設計されたとの記録があります[1,2]。マンドラー博士はマックス・ベレークから直接指導を受けた最後の弟子とされ、ライカ在籍時に45を超えるレンズを設計、ライカM/Rマウント交換レンズシステムの構築に大きく貢献した名設計者として知られています。

ミーティア(上図・左)は英国航空機メーカー、グロスター・エアクラフト社が開発した連合国軍側初の実用ジェット戦闘機で初飛行は1943年。70年代へ第一線では用いられませんでしたが、訓練機や連絡用機として運用されていましたので、ELCANが搭載された可能性があります。キャンベラPR.9(上図・右)は英国航空機メーカー、イングリッシュ・エレクトリック社が開発した英国空軍のジェット軽爆撃機で初飛行は1958年。70年代も第一線で活用されていました。2008年に退役しているので、この機体にはELCANが搭載されていたと予想されます





レンズのフォーマットは6x6cmインチ)のスクウェアフィルムに対応しており、中判フィルムカメラとの相性が良さそうです。今回はレンズをM65直進ヘリコイドに換装し、カメラ側をM65-GFXカメラアダプターで末端処理することで、Fijifilm GFX100Sで使用してみることにしました。ちなみに、海外のオンラインショップにはM65-SONY EアダプターやM65-Nikon Zアダプターなど、いろいろありますので、部品の組み合わせを変えれば、フルサイズミラーレス機でレンズを使用することも可能です。

参考文献・資料

[1] R. Kingslake "A history of the photographic lens"

[2] US Pat. 2975673(1958);  UK Pat. 867266(1958)

[3] Leitz Photographica Auction: LOT235 (2017)

M65直進ヘリコイドに換装し、Fujifilm GFXマウントに変換するための部品セット。すべて市販の部品です


  

 入手の経緯

この種のレンズは、市場に出回る機会が非常に少ないため、明確な相場が形成されにくいという特徴があります。海外オークションや eBay などの取引事例を参考にすると、おおよそ 2,0003,000ドル(現在のレートで約3045万円) がひとつの目安といえます。ライツ公認のオークションサイトLEITZ PHOTOGRAPHICA AUCTIONではこちらのコンディションA/Bの個体に対し、2017年11月に2000-2400ユーロの評価額が示されており、3600ユーロで落札された記録があります。日本の中古市場の出品はきわめて稀で、ヤフオクやメルカリなどに姿を見せることはほとんどありません。

今回紹介しているレンズは、約10年前にeBay にて即決価格で手に入れたものです。シャッターユニットはなく、レンズヘッドの状態で出品されていました。届いた個体にはわずかなホコリの混入が見られたものの、カビやクモリはなく、ガラス自体は良好な状態を保っていました。

Leitz Canada ELCAN 3inch F2: フィルター径 77mm, 絞り F2-F22, 設計構成 5群7枚ガウスタイプ発展型(エルカン型),  絞り羽 10枚構成,フォーマット 6x6cm(2¼インチ・スクエア)フィルムに対応, レンズヘッドの側面部には2.5inchネジが刻まれている


 

撮影テスト

中判カメラ用レンズとしては卓越した解像力を備えており、Fujifilm GFXシリーズやフルサイズ機といった小さなイメージフォーマットのカメラに装着しても、性能不足を感じる場面はありません。ただし、この種の航空写真用レンズはどれも無限遠での解像度を最適化しており、近接撮影時には像がやや甘くなります。開放ではわずかにフレアが見られるものの、中央から中間画角にかけては密度の高い像が得られ、線の細い繊細な描写が際立ちます。一方で四隅にはわずかな甘さが残ります。またデジタルカメラで使用した場合、開放では色収差が目立ち、白っぽい被写体を等倍で確認すると輪郭に色づきが現れます。しかし、これらはほんの少し絞るだけで完全に解消し、画面全体がすっきりと整った描写へと変化します。良像域も四隅まで広がり、全体として緻密で安定した画質が得られます。なお、絞り込んでもトーンが硬くなることはありません。

空撮用レンズには、地上撮影時に微妙な濃淡差を拾えるよう、意図的にコントラストを抑えた設計のものがあると聞きますが、このレンズもまさにその思想に沿った描写傾向を備えているようです。トーンを丁寧にすくい上げ、黒つぶれしにくい豊かな階調表現が特徴的です。歪曲収差も良好に補正されています。特筆すべきは逆光耐性で、太陽光を画面内に入れてもコントラストの低下は最小限に抑えられ、発色も十分に鮮やか。逆光耐性は現代レンズにも引けを取らないレベルで、コントラストが過剰にならず、逆光でも落ち込まず、どのような条件下でも揺るぎない安定感を保ちます。海の青は深く、濃く、実に美しく描写されます。軍需用途として供給された背景の詳細は不明ながら、あえてドイツの光学技術が選ばれた理由は、このレンズの性能そのものが雄弁に物語っています。

それでは、まずは摩天楼を見下ろす空撮カットから、続いてポートレート撮影へと進んでいきましょう。撮影日は快晴予報だったものの、実際には曇天で、わずかに霞がかかってしまったのが惜しまれます。

F5.6  Fujifilm GFX100S(WB: 曇空)さて、ロケ地はどこでしょう?
f4  Fujifilm GFX100S(WB:曇空)ロケ地はこちら。東京スカイツリーです
F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:曇空)



































 

開放F2と絞りF5.6の空撮による画質比較を見てみましょう。

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:曇空)中央はたいへん高解像で、rowデータではビルの各部屋のベランダの様子や屋外機のデザインまでクッキリと判別できます。一方で四隅の像は厳しめ。開放ではフレアが出ていますが、等倍近くまで拡大しないとわからないレベルです

F5.6 続いて絞った写真がこちら。四隅までしっかりとした画質です。フレアは全くなく、高解像。見事な描写力です。
F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:曇り空)
F5.6 Fujifilm GFX100S(WB:曇空) カヌーを漕いでいる人がいます。GFX100Sの一億画素でrowデータでみると着ている服のデザインまで判別できます


  

続いてスナップ写真も何枚か。普段の使い方ではどうでしょう。

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光) コントラストはかなり良く、発色も鮮やかです。コーティングの性能が非常に良さそう

F4  Fujifilm GFX100S(WB:日光)開放と比べてもコントラストはあまり変化しません

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光) やはり無限遠で最高の画質になるよう設計されているようで、このくらい近い場合は絞らなければ解像力が落ちます

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光) 逆光には非常に強いレンズです

F5.6  Fujifilm GFX100S(WB:日光)

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)











2025/11/18

Leica Leitz APO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8

 


ライカRシステムの象徴的マクロレンズ

Leica Leitz APO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8(Leica R mount)

ライカ APO-Macro-Elmarit-R 100mm F2.8(通称 AME)は、1987年から2009年まで製造されたライカRシステム屈指の高性能マクロレンズで、無限遠から近接撮影まで対応する中望遠レンズとして初めてアポクロマート補正を導入した画期的な製品です。発表当時、その描写性能は衝撃的であり、瞬く間に画質の基準として広く認識されるようになりました。マクロ撮影における性能はもちろん、中望遠レンズとしてポートレート撮影でも優れた表現力を発揮します。

堅牢な鏡胴と組み込み式フード、そして光学的完成度の高さから、現在でも写真家や研究者の間では「Rシステムの憧れの一本」として長く愛用されています。ただし、設計の世代交代に伴い、近年ではインナーフォーカス方式とフローティング機構を備えた新世代のマクロレンズが登場し、徐々に新しい光学設計に追い抜かれつつあります。全群繰り出し方式を採用しているため、軽量化やコンパクト化には不利で、本体重量は760gにも達します。気軽に持ち歩ける携帯性よりも、画質と操作感を優先した「本気で撮るためのレンズ」と言えます。

設計構成は下図のようなガウスタイプをベースとする68枚で、色収差と歪みを徹底的に抑制、開放から極めて高い解像力とコントラストを誇ります。近接撮影性能を高めるため、ガウスタイプの後部に専用の光学群を追加しています。この追加群は近距離での描写を向上させる一方、遠距離撮影時には光学性能に一定の制約をもたらします[1]。とはいえ、マクロ域とポートレート域の描写力を向上させることに特化した、卓越した光学系と捉えるべきでしょう。レンズを設計したのは1981年から1990年までライツ社の光学設計部門を率いたフォルフガング・フォルラートというエンジニアです[3]。時代的にはコンピュータを援用した設計であると考えて間違いありません。

焦点距離100mm・開放F2.8というスペックは、マクロ撮影時での適度なワーキングディスタンスと取り回しの良さに加え、中望遠レンズとして理想的な画角を提供します。最短撮影距離は45cm、最大撮影倍率は1:2。専用のELPROクローズアップレンズを併用すれば、等倍撮影も可能です。

レンズは1986年から2005年の間に20000本が生産されていますが、2005年から2009年の間はデータがありません[2]。

レンズの構成図(トレーススケッチ):ガウスタイプを起点に、後部に正レンズと負レンズを追加した6群8枚構成です









 

参考文献・資料

[1] Erwin Puts – "Leica-R Lenses"

[2]  Camera wiki Leica forum: 100mm f/2.8 APO-Macro-Elmarit-R

[3]  日本オールドレンズ協会・写真展「ライカの望遠レンズ」の山田さんの展示解説を参考

中古相場・アダプターでの使用

販売は2009年に終了しています。当時の新品価格は27万円程度だったそうです。現在は中古品のみが市場に流通しており、相場は16万円~25万円程度と言われています。今回手にした個体は私自身で購入したわけではなく、写真光学研究会の会員の方からお借りしました。代々木の中古カメラ店が店をたたむ際に、安く譲っていただいたものだそうです。レンズはフランジバックの長いライカRマウントですので、アダプターを介して35mm一眼レフカメラとミラーレスカメラで使用できます。ただし、ライカMマウントを経由すると、中判デジタル機のGFXシリーズではアダプターの間口でケラれてしまいますので注意がいります。


重量(カタログ値) 760g, 最短撮影距離 0.45m, 製造年 1987-2009年, フィルター径 E60(60mm), 設計構成 6群8枚, 絞り F2.8-F22, 絞り羽根 7枚構成, フード組み込み, ライカRマウント
 
 

 

 

写真作例 

MTF曲線を見ても明らかですが、絞り開放でも、画面全体にわたって高いコントラストと均一な解像力・解像感が得られます[1] 。中心から周辺まで、非常に細かいディテールが鮮明なエッジ、微妙な階調の陰影によって精緻に再現されます。周辺光量の低下は開放でも小さく、絞りをf5.6まで絞ると画面全域の照度が完全に均一になります。驚いたことは、こうしたピント部の画質が絞り開放時とF5.6まで絞り込んだ時で、見た目には殆ど変化しないことです。

絞り込むことでコントラストは僅かに向上し、微細な質感がより明瞭に描写されます。また、f5.6まで絞り込んでもフォーカスシフトもほとんど認められません。深く絞り込むと、回折のため中心部のコントラストや解像感が僅かに低下するあたりは、多くのマクロレンズに共通する性質で、このレンズも例外ではありません。ただし、回折の影響はかなり改善しており、影響は他のレンズに比べ小さく感じます。デジタル撮影時にもパープルフリンジは全く見られず、歪曲収差はほぼゼロ。グルグルボケや放射ボケなどについても全く出ません。

発色は寒色寄りに転ぶという見解を作例付きでよく目にします。カラーバランスの補正を決めるコーティングの味付けがそのように設定されているためでしょう。ここはメーカーごとの匙加減により決まります。


F2.8(開放) まずはマクロ撮影のお手並み拝見。開放なのでピントは薄く、右側が被写界深度から外れてしまいましたが、中央と左側はしっかり被写界深度内に収まっています。素晴らしい結像性能です

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)














F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6  Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf  (WB:日光)  強い逆光のためグレアが出ています

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)



F2.8(開放) Nikon Zf



F4 Nikon Zf










2025/10/18

Ernst Leitz Wetzlar SUMMARON 3.5cm F3.5 (Leica L39)




階調描写と空間構成で魅せる
モノクロ・スナップの定番レンズ

Leitz Wetzlar SUMMARON 3.5cm F3.5

ズマロンは、ライカの歴史の中で「手軽に扱える優秀な広角レンズ」として、多くの写真家に親しまれてきました。とりわけモノクロフィルムとの相性に優れ、195060年代のスナップ写真家たちにとっては、日常を切り取るための定番レンズでした。

色彩を排したモノクロ写真では、白と黒の間に広がる階調変化が表現の核となります。色を排した制約は、むしろ構図や質感といった他の要素を際立たせる契機となり、写真に深みを与えます。ズマロンは決してコントラストの強いレンズではありません。しかしその真価は、中間調のトーンを繊細に拾い上げる描写力にあります。つなぎ目のない滑らかな階調が、レンズ本来の高い解像感と相まって、平面性を超えた立体的な像を生み出します。カラー写真が主流となった現代においても、ズマロンは私たちを美しい階調描写の世界へと誘います。

さらに、広角レンズならではのパースペクティブもズマロンの魅力のひとつと言えるでしょう。

時間の流れを持たない静止画の世界では、空間の構成力こそが重要です。広角レンズが得意とする視線誘導や遠近感を活かした構図は、動きのない一枚の画に動的な変化をもたらし、写真表現に意味深さと物語性を生み出します。

スペックは控えめながらも、ズマロンには静止画に求められる基本的な性能がしっかりと備わっています。階調描写力と空間構成力に優れ、スナップシューターの意図に的確に応えてくれる頼もしい存在なのです。





ズマロンの登場とその背景

ズマロン3.5cm F3.5は、広角エルマー3.5cm F3.5(1930年登場)の後継製品として開発され、1949年(1945年説もあり)にバルナックライカ用の広角レンズとして発売されました[1]。設計構成は4群6枚のガウスタイプで、資料は乏しいものの、戦後にショット社から供給された重クラウンガラスなどの高屈折・低分散硝材が導入されていたと考えられます。エルマーに比べて収差補正が強化され、画面全体にわたって画質の改善が図られました。設計を手がけたのは、エルマーやズマールを開発したライツのレンズ設計士マックス・ベレーク(Max Berek)。製造本数は122021本と非常に多く、その人気の高さがうかがえます[1,2]。ラインナップには、初期型のスクリューマウントモデルに加え、1954年にはバヨネット式Mマウントモデルも登場しました。

1958年に上位モデルのズミクロンM35mm F2が登場し、さらにSUMMARON 35mm F2.8の改良モデルが続いたことで、1959年に生産を終了しました。


 

ガウスタイプ vs ゾナータイプ —描写思想の対峙とその余韻

1930年代、標準レンズの分野において、ライツ社のズマールとツァイス・イコン社のゾナーが市場を巡って激しく競い合いました。表向きには、レンズの明るさや商業的な優位性をめぐる争いとして語られることが多いこの競合ですが、一部の愛好家たちは、より本質的な視点からこの対立を捉えています。すなわち、ガウスタイプとゾナータイプという異なる光学設計がもたらす描写特性の違いに対する、世間の嗜好を問う思想的な対峙であったという見解です。実は、この対立をなぞるようなライバル両社の小競り合い(場外乱闘)が、戦後に広角レンズの分野でもありました。

ガウスタイプは微かなフレアを伴いながらも高い解像力と線の細い描写を特徴とし、繊細で詩的な表現を得意とする設計思想です。一方、ゾナータイプはシャープネスとコントラストの強さ、ヌケの良さを武器に、力強く明快な描写を志向します。両者はそれぞれに他にはない長所と短所を備えた、対極的な存在でした。当時の世論は、ゾナーの描写傾向に軍配を上げたかのように見えます。しかし、この描写思想の火種は戦後も燻り続け、やがて広角レンズの分野へと飛び火し、再び対立の炎を巻き起こします。

戦後、ゾナータイプの構成を基盤としたツァイス・イコン社のビオゴンが広角レンズ界で大きな影響力を持つ中、1949年にはガウスタイプの構成を踏襲したライツ社のズマロンが登場。12万本の販売を記録する人気商品となり、ガウスタイプの思想がリベンジを果たすこととなります。この大ヒットを後押ししたのは、戦後に進化したガラス硝材の性能向上と、コーティング技術の成熟です。これらの技術的進歩が、ガウスタイプの弱点を補い、その描写思想に有利な時代背景を形成したのです。 


参考文献・資料

[1] Camera wiki forum: Summaron f= 3.5 cm 1:3.5

[2] kenrockwell.com: LEICA 35mm f/2.8, Leica SUMMARON

[3]  Serial Number data set, Puts Pocket Pod.pdf

[4] 郷愁のアンティークカメラ III・レンズ編 アサヒカメラ増刊号 朝日新聞社 1993

[5] アサヒカメラ ニューフェース診断室『ライカの20世紀』朝日新聞社

Leitz SUMMARON 3.5cm F3.5(1st) : 右はSUMMARON/ ELMAR用純正フードFOOKH, 絞り F3.5-F22, 最短撮影距離 3.5feet, フィルターねじはない, 絞り羽 10枚構成, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, 発売 1949年 , 重量 147g, ライカL39マウント

 

 

入手の経緯

このレンズは、20257月にヤフーオークションを通じて福岡の古物商から5万円強で入手しました。ズマロンはガラスにクモリが生じやすいことで知られており、状態の良い個体を見つけるのは容易ではありません。実際、中古市場に流通している多くの個体には何らかの問題が見受けられますが、時間をかけて丁寧に探せば、現実的な価格で良好なコンディションの個体を見つけることも可能です。

購入に際しては、販売者の信頼性を見極めることが何より重要です。私の場合、商品の状態に対して適切な検査を行っていること、過去のフィードバックに大きな問題がないこと、そして記載内容と実物に大きな乖離があった場合に、返品対応に応じてくれることを取引相手の選定条件として重視しています。今回取引した販売者はオーディオ機器とカメラ用品を専門に扱っており、ビンテージ品を扱う専門性の高さが好印象でした。さらに、常時、複数のレンズを出品しており、強い光を用いた検査を行っていること、カビやクモリの有無を明確に記載している点からも、信頼に足る相手と判断できました。レンズは競買を経て最終的に、49500円で落札することができました。中古市場における本レンズの取引相場は、ネットオークションの場合に、クモリのある個体が4万円〜5万円程度、クモリのない良好な状態の個体では6万円〜8万円程度が目安です。ショップで購入する場合は、これらの価格に2万円程度を上乗せした額を現在の相場と見ています。

中判デジタル機GFXとの相性

ズマロンには中判イメージセンサーをカバーできる広大なイメージサークルが備わっています。Fujifilm GFXシリーズやHASSELBLADの中判デジタル機で用いた場合は、35mm判換算で焦点距離27mm、開放F値F2.7相当の広角レンズとして使用でき、パースペクティブもそれなりに大きくなりますが、ケラレはありません。ただし、四隅では光量落ちが少し目立つようになります。これを避けたいならば、カメラの設定でアスペクト比を変更し、対角線画角を少し狭くしてやればよいです。おすすめは16:9, 65:24あたりですが、中でも65:24は対角線画角がレンズの定格である35mm判の対角線画角とほぼ同じであるため、規格外の画質の乱れや光量落ちの心配が全くありません。

写真サンプル

開放から滲みの無いシャープな像が得られるレンズで、歪みも良く補正されています。イメージサークルに余裕があるためか、四隅の光量落ちは目立たないレベルです。ただし、モノクロ撮影用に最適化されており、中間階調は豊富に出るものの、カラー写真での鮮やかな発色は期待できません。コントラストは低いため、彩度が抜けたくすんだ様な色味となり、力強い発色を求めるシーンには不向きであることが分かります。しかし、こうした特性こそが「オールドレンズの味」と言われるものの正体ですので、使い方次第では現代レンズにはない表現力となります。毒も使い方一つというわけですね。もちろん、モノクロ専用レンズとして活用すれば、その真価が最大限に発揮されるでしょう。

カラーであれモノクロであれ、レンズの特性を理解し、それに即した撮影を心がけることで、より魅力的な写真表現が可能になります。

F8, Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9)


F4, Fujifilm GFX100S



F5.6, Fujifilm GFX100S




F3.5(開放) F4, Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9)




F3.5(開放) F4, Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9)


F3.5(開放) F4, Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9)


F3.5(開放) F4, Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9)


F3.5(開放) F4, Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9)
Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 65:26)
Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 65:26)
Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 65:26)






Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 65:26)


Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 65:26)