おしらせ

 
おしらせ

オールドレンズ写真学校12月ワークショップ
今月は12月17日(日)の予定です。場所はみなとみらい。詳しくはこちら
既に定員オーバーのためキャンセル待ちとなっています。最近の傾向として募集開始から3日程度で定員が埋るようですので、募集開始日を事前に確認しておく事が肝心です。

2011/06/30

A.Schacht Ulm M-Travenar R 50mm F2.8(M42)
シャハト マクロ・トラベナー




クールトーンな西独のレンズ達 1:
トラベナーを持って旅に出よう
西独クールトーン軍団の高倍率マクロレンズ

旧西独メーカーのレンズにはクールトーンな発色を持ち味とするものが数多く存在する。その一つが、今回の紹介するSchacht(シャハト)社の生産したレンズだ。同社はCarl Zeiss, Ica AG, Zeiss-Ikon, Steinheilなどを転々と移籍したAlbert Schacht(アルベルト・シャハト)という人物が1948年頃にドイツのミュンヘンに設立した中堅光学機器メーカーである。このメーカーのレンズの描写には、Schneider(シュナイダー)やRodenstock(ローデンストック)のレンズと同様に青に転ぶ傾向があり、温調(ウォームトーン)な発色特性を持つオールド・ツァイスやフォクトレンダー、シュタインハイルらとは対極的な立場を築いている。ツァイスのレンズに慣れ親しんできた人がいきなりこの種のレンズを用いてみたところ、クールな独特の発色にはまり込んでしまったというケースをよく耳にする。私もそんな体験をした一人で、SchneiderのEdixa-XenonやRodenstockのHeligonを熱愛する西独クールトーン軍団のファンである。Schachtのレンズにも同様の性質がある事を知ったのはごく最近のことだ。人の肌に青みが乗ると、良い意味では美しく妖艶、悪い意味では冷たく血色の悪い表情となる。また、曇天時や日没間際等の低照度な条件下では、コンクリートなどのハイライト部が青に引っ張られて変色し、無機的に表現される。廃墟の寂れた雰囲気を強調するにはピッタリのカラートーンだが、薄気味悪いとか気持ち悪いなどと評されることがある。こうした性質を嫌ってツァイスに戻ってゆく写真家も多くいるほどだ。しかし、クールトーン軍団の良さには、その先がある。暗がりの中に一本のローソクが入ると、急にその周りだけが美しく栄え始め、深いシャドー部の青みと、炎から放たれる淡白な黄色の美しさが一体となり、全体として素晴らしい演出効果を創り出すことがあるのだ。一方、晴天時の屋外撮影など高照度の条件では描写が急変し、水を得た魚のように写るもの全てが生き生きと鮮やかに写し出されるようになる。芝生や樹木などが青々と栄え清涼感を纏って表現される。本当に同じレンズで撮っているのだろうかと首をかしげたくなる豹変ぶりで、使っていて実に楽しい類のレンズなのである。本ブログで過去に紹介したクールトーン軍団のメンバーにはSchneider Edixa-Xenon 1.9/50, Curtagon 2.8/35; Rodenstock Heligon 1.9/50, Eurygon 2.8/30; Schacht Travelon 1.8/50などがある。他にもSchneiderのPA-CurtagonやXenotar、Rodenstock Rotelarも軍団の仲間であるという情報を掴んでいる。Schacht社はSchneider社からレンズの生産を委託されるなど深い協力関係があったと言われている(「世界のM42マウントレンズ」写真工業7月号)。同社のレンズのガラス硝材やコーティングがSchneider社の規格に準拠していた可能性も充分に考えられる。もしそうだとすれば、Schneider製レンズの持つ描写特性がA.Schacht社のレンズに受け継がれていたとしても何ら不思議なことではない。85mmのTravenarは鏡胴のデザインが一部のシュナイダー製品や子会社ISCOの製品にそっくりだ。なお、A.Schacht社は1970年までレンズを生産していたが、その後はSchneider社に吸収され消滅している
 今回、私が入手したのはA.Schacht社が1963年に製造したM-Travenar R 2.8/50というマクロ撮影専用レンズだ。本品の特徴は非常にコンパクトな鏡胴でありながら、高い撮影倍率を実現しているところにある。花や虫などを大きくとらえる近接撮影はもとより、普通のスナップ撮影や風景撮りにも支障なく活用でき、マルチの用途に一本で対応できる便利なレンズといえる。
シャハトのチラシより抜粋。構成図が示されている
重量(実測)336g, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22(プリセット機構), 最大撮影倍率 1:1(等倍), 焦点距離 50mm, 最短撮影距離 0.08m, レンズ構成 3群4枚(テッサー型), 絞り羽数 12枚, 後玉のミラー干渉については、銀塩カメラのEOS kissで無限遠まで問題無く仕様できた。レンズ名は「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来である
このレンズはヘリコイドリングの回転に応じ、鏡胴がマウント側と前玉側の双方向に同時に伸びる構造を持つ。ヘリコイドを全て繰り出すと全長はほぼ倍になり、撮影倍率は何と等倍にまで達する。前玉がフィルター枠よりもかなり奥まったところにあるためフードを装着する必要がない。トラベナーをもって旅に出よう。(^o^;)


レンズヘッド(左)がヘリコイドユニット(右)から奪着できる構造
になっている。マウント部と同様にM42のネジで結合している

ヘリコイドユニットから光学系を外し他社のM42レンズ(Curtagon)を
マウントしてみた。マクロチューブ撮影のみに対応できる
M-Travenarはヘリコイドの先端からレンズユニットが外れる仕組みになっている。この構造は本レンズのEXAKTAマウント仕様の製品によく見られるが、M42マウント仕様の製品では比較的珍しいようである。ヘリコイドユニットの先端は再びM42マウントになっており、その先にベローズレンズやM42マウントレンズなどをマウントすることが可能である。ベローズレンズがゼブラ柄のヘリコイドを纏いドレスアップされるのだ。
 
★入手ルート
本品は2010年12月にeBayを介し、米国ロサンゼルスの中古カメラ業者から即決価格100ドル(送料込みの総額は115ドル)というあり得ない価格にて落札購入した。商品の解説には「エクセレントコンディション。外観は僅かにスレがあるが、素晴らしい状態。ガラスはグッドで、ペイントはナイス。マウント部はパーフェクト。絞り羽根に油は回っておらず、しっかり開閉する。フォーカスは適確」とある。ちなみにM42マウントの場合、本品のeBayでの相場は300㌦程度、国内中古店でも4万円以上で売られている。写真を見る限り、外観は合格。ガラスを「グッド」と紹介している点が気になったが、激安価格だったので駄目もとで購入することにした。届いた商品はガラス表面のコーティングにヤケ(経年劣化)が出ていたものの、クモリ、カビ、傷のない実用レベルの状態と、実にラッキーな買い物であった。
 
★撮影テスト
テッサータイプのマクロレンズと言えばハイコントラストで押しまくるカリカリで鋭い描写の製品を想像するが、本品はこうした典型にはまらない緩やかな階調変化を特徴とする一味違った印象だ。球面収差も厳しく抑え込んでおらず、近接撮影においては滲みを伴うソフトな描写を楽しむことができる。なかなか表現力のあるレンズだ。ピント部の解像力は平凡だがボケは柔らかく拡散し、良い意味でマクロレンズ特有の結像の硬さが見られない。色乗りはテッサータイプらしく良好で、しっかり出るものの色飽和には至らない。同社のTravelonほど顕著ではないが、やはりこのレンズも発色がやや青みがかる傾向がある。ただし、明らかに青に変色するというわけではなく、このレンズで撮っていると「何か違う!」という感覚を覚え、それを追及してゆくと最後は青に転ぶ性質へと到達するのだ。この性質は光学系の構成枚数が多いほど顕著になるようで、同じA.Schacht製レンズでもダブルガウス型レンズ(6枚玉)のTravelonの方がはっきりしている。一方、テッサー型レンズ(4枚玉)となる本品の発色は比較的ニュートラルな方である。では、青に転ぶとは具体的にどういう事なのか列記してみよう。
  • 黄色の発色がやや淡白になることがある。実写ではバナナの黄色がレモン色になったり、日光のあたる場所の温調な薄黄色が白っぽくなってしまう。ご存じかもしれないが、黄色と青は補色の関係にあり、両者がバランスすると白になる(単色混合では緑)。
  • 元々白っぽい色が青白くなる。人の肌やコンクリートなどが青みを帯びて表現される。この傾向は室内など低照度の条件になるほど顕著にあらわれる印象だ。
  • 紫の色乗りが妙によく、コッテリとする。赤の色乗りが良好かつ安定な事に加え、青が強いためであろう。本稿で赤紫色の花の作例を示している。
  • 青の強弱が日光照度に対して不安定に変化する。草木の葉の色が青に引っ張られて黄緑に転んだり青緑に転んだりとコロコロ色彩が変わり美しい。高照度下では緑の鮮やかさにハッとさせられる事がある。
F5.6, NEX-5 ISO1600, 近接では解像力が足りずにソフトな像となる。まさにこんな風に、薄い青のベールが一枚被ったようになる

F5.6, ISO400, sony NEX-5: 肌の色が白あるいは青白くなり、顔色が悪く見える。テッサータイプにしてはコントラストは強くなく、明暗の変化が緩やかで心地よい

F5.6 NEX-5 digital:シャドー部の白が青っぽく変色し綺麗だ
F5.6 NEX-5 digital: 吹雪の雪景色の中での一枚。フレアのためかやや白っぽくなっている



F2.8, NEX-5  ISO200, NEX-5:  こちらも地面のコンクリートや背景の樹木にさわやかな青が出ている。地面には陽が当たり、本来はもっと黄色がかった温調な色である

F8, ISO1600, Sony NEX-5(晴天): 今度は晴天下での撮影。まるで新緑のように、発色が鮮やかになっている。最大倍率では小型蝶もこの位に大きく写る
F8, ISO400,sony NEX-5(晴天): 晴天時の撮影では緑が生き生きと栄えている。こちらも等倍撮影


F5.6, ISO1600,Sony NEX-5: 赤紫の色乗りは良く、ややコッテリ気味


F2.8, sony NEX-5: 近接撮影でなくともボケは柔らかく綺麗。球面収差を厳しく抑え込んでいないためだろう。骨を振り回す無邪気な娘
Schneiderのレンズにおいて見出されている個性豊かな青の発色は「シュナイダー・ブルー」と呼ばれることがある。それは、単に青が強いという性質を言い表しているのではなく、ある特徴をもって表れる青に対してつれられた表現である。オールドレンズの描写に備わった現代のレンズにはない「味」を明確に示している。わたしも感覚的にしか理解していないが、敢えて言葉にするならば、「さわやかな青」とか「まろやかな青」といった表現が近いのではないかと思っている。1番目の花の作例と4番目の作例中にある地面のコンクリート色がそうした表現に近い。こういう表現が増えてゆけば、オールドレンズに対する価値認識も今よりずっと向上するに違いないのだが・・・。ちなみに、この表現を提唱したのは私ではない。
★撮影機材
Sony NEX-5 + M-Travenar 2.8/50
私にとってオールドレンズを巡る旅の大きな目的は、描写に不安定な要素を抱えながらも、何か条件が揃うと突出した個性を示す「化け玉」に出会うことである。西独クールトーン軍団は、そうした豹変系レンズが存在する可能性をそっと教えてくれる大切な存在なのである。


2011/06/11

KMZ MC MIR-20M 20mm F3.5(M42) and Carl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4(M42)


MIR-20シリーズの最後継品であるMC MIR-20M(M42マウント)
上段右奥のゼブラ柄のレンズはCarl Zeiss Jena Flektogon 4/20

カールツァイスとロシアの模倣レンズ群団3
ロシアへと渡った怪獣フレクトゴンの隠し子!?

例えるなら、太く短い胴体と巨大な目を持つ異形の姿。広い守備範囲で獲物を探しながら、被写体に僅か16cmのところまで接近し、その大きな目で睨みつける怪獣フレクトゴン。こんなレンズはこの世に2本と存在しないだろう。そう思っていたら、実はロシアにもう一匹いたのである。それが今回紹介するMC MIR-20Mだ。
MIR-20シリーズはロシアの複数のメーカー(GOI, ARSENAL, KMZなど)によって1970年代初頭から生産されている焦点距離20mmの超広角レンズである。最初期のモデルはロシア政府が直轄する光学研究所のGOI(Government Optical Institute)によって生み出されが、直ぐにARESNALやKMZなど老舗メーカーが生産を引き継いだ。1990年にはガラス面にマルチコーティング処理を施した最後継モデルのMC MIR-20M(およびPentax-KマウントのMC MIR-20K)がKMZから発売されている。また、ARSENALからもMC MIR-20HというNikon Fマウント仕様のレンズが発売されている。光学系そのものには初期のモデルからの改良はなく、何と40年もの間、同一の設計を維持したまま、今も生産が続いている現役レンズである。
FlektogonとMIR-20の構成図。
手持ち資料からトレースした。
こうして見るとMIR-20の設計は
新旧Flektogonの進化における
過渡的な形態であることが明ら
かにわかる
MIR-20の生い立ちには謎が多い。ZENIT社の公式ホームページには、このレンズがGOIに属する3名の技士(Volosov, Hmelnikova and Shamanina)により1968年に設計されたと記録されている。レンズの設計は集団でおこなうという作業ではなく、通常は1名ないし多くても2名で取り組む事が多い。設計者の数として3名はやや多いように思える。MIR-20の口径比はF3.5、最短撮影距離は18cmであり、これらはMIR-20が登場する時期を挟んで前期型から後期型へとモデルチェンジを遂げるFlektogonの、言わば過渡的な設計仕様にあたる。レンズが設計された1968年といえば、東独ツァイスのFlektogon 4/20(1963年登場のゼブラ柄モデル)が世界的に大ヒットしていた時期であり、MIR-20は当時のFlektogonをコピーしたレンズであると言われている。しかし、光学系の構造はだいぶ異なり、MIR-20はむしろ後年に登場するMC Flektogon 2.8/20(1976年登場)に近い構造を持っているのである。ZENIT社の公式ホームページでは、MIR-20の設計がMC Flektogon 2.8/20の基本設計になったのだという不可解な記述を目にすることができる。ツァイスがMIR-20を手本にする事などありえないが、あり得ないという事を抜きにすれば、時系列的にも設計構造的にも、この記述には矛盾が見当たらない。ZENIT社の独自見解にはやや大げさな誇張表現が含まれていたと仮定し、この辺りには何か深いわけがありそうに思える。MIR-20の開発にあたり、GOIと東独ツァイスとの間には何らかのコラボレーションがあったのではないだろうか。これらの事実から自然に浮かび上がるシナリオは次のようなものである。
1960年代半ば、ロシア政府は自国産レンズのラインナップに20mmの超広角レンズ(Flektogonのコピー)を加えるため、政府の直轄機関であるGOIから3名の技士を東独ツァイスの研究所に送り込み、新型フレクトゴンの開発に関わらせた。ツァイスから設計開発のノウハウを得るためである。技士の人数が3名と多いのは技術供与の継承を確実にするためである(技士が病死したり西側諸国に亡命されては困る)。3名の技士は東独ツァイスの研究所にて新型Flektogonの開発方針を知らされる。それは、口径比性能を現行のF4よりも更に向上させるというものであった。そして、1968年にFlektogon開発チームの客員メンバーとして自らの手でF3.5の口径比性能を持つ試作レンズを開発し、設計技法を自国に持ち帰った。こうして生まれたのがMIR-20であるというストーリーだ。東独ツァイスはその後も新型Flektogonの改良を進め、1970年代に口径比性能をF2.8まで高めたMC Flektogon 2.8/20を世に送り出している。ロシアのGOIにしてみれば、MIR-20よりも後に登場したMC Flektogonは、開発過程の延長上にあるMIR-20の正統な後継製品という見解になるのである。さて、このシナリオは深読みのしすぎであろうか。

KMZ製MC MIR-20M: 最短撮影距離 18cm, 絞り値 F3.5-F16, 重量(実測)370g, 絞り機構 自動/手動の切り替え式, 絞り羽根は6枚構成, 光学系の構成は8群9枚, 1996年の新品価格は240ルーブル。マウント部からは絞り機構を制御する連動ピンが出ている。M42マウントでカラーはブラックのみ
今回私が入手したのは、MIR-20シリーズの最後継品であるKMZ製MC MIR-20Mである。MCという頭文字からわかるように、ガラス面にはマルチコーティング処理が施されている。デザインには特徴があり、オフロードタイヤ風の鏡胴や異様に盛り上がった前玉のガラスなど、ゼブラ柄のフレクトゴンにも全く引けを取らない強い存在感を放っている。絞り機構はオートとマニュアルの切り替え方式であり、鏡胴側面のスイッチで制御している。前玉が大きく、フィルターを装着することができないので、このレンズにはフィルター枠にネジ切りが設けられていない。その代わりに前玉外周部にはビルトイン式の花形フードがついている。これがたまらなくかっこいい。

★入手経路
本品は2010年8月にLatviaの中古カメラ業者から送料込みの即決価格199ドルで落札購入した。商品のコンディションはEXC+++とあり、フロント・リアキャップが付くとのこと。詳細な記述はなかったが、この業者の他の商品を比較すると、EXC+++の評価はかなり高いランクに位置づけられていることがわかったので購入を決めた。写真ではフィルター枠が若干曲がっているようにも見えたので事前にメイルで問い合わせたところ曲がってはいないとのことであった。届いたレンズはMINT級の素晴らしい状態で満足なショッピングであった。本品は現在も新品が250㌦+送料で購入できる。eBayでの中古相場価格は状態の良いものが200ドル程度、ヤフオクでは2万円前後であろうか。後玉部に純正のカラーフィルターやUVフィルターが装着できるらしく、これらが付属した状態で売られていることもある。購入時にはフロントキャップが付属している品を選ぶことをおすすめしたい。
★撮影テスト
広角レンズは被写界深度が深いからボケ味とは無縁だと思ったていたら大間違いだ。このレンズは最短撮影距離が18cmとマクロレンズ並みに短く、被写体の直ぐ近くまで接近してもフォーカスが合うので、背景は大きくボケる。超広角でありながらボケ味を存分に堪能できる貴重なレンズといえる。もちろん、被写界深度の深さを利用したパンフォーカス撮影も可能だ。
  • 画像中央部の解像力は開放絞りから高く、充分に実用的なレベルである。
  • また、この種の超広角レンズによくある歪曲(真っ直ぐなものが曲がって見える)も20mmのレンズとは思えないレベルまで良く補正されている。
  • 周辺光量の低下は殆どない。
  • 開放絞りで近接撮影を行うと四隅が放射状に流れることがある。また背後にグルグルボケがみられる事もある。
  • 超広角レンズに特有のパースペクティブ効果(近いものは大きく遠いものは小さくみえる遠近効果)が強く働き、撮影ポジションによっては画像端部が隅に向かって傾いて見えることがある。
  • マルチコーティングの甲斐あってコントラストは高く、メリハリの効いた鋭い描写となる。ただし、フィルム撮影では暗部の階調表現に粘りが無く、絞って撮影した場合は階調変化が暗部に向かってストンと急激に落ちてしまう。まるで焦げた目玉焼きのようにカリカリとした硬い階調表現になる。デジタル撮影の場合は、撮像センサーが暗部の階調表現に強いので、このような事はなく、なだらかな階調変化が可能だ。
  • 色の乗り具合はたいへん良好。ただし、銀塩撮影では赤が色飽和を起こす傾向が目に付いた(デジタル撮影では問題なし)。
  • 面白い事に、銀塩撮影の時よりもデジタル撮影の時の方が、フワッと柔らかいボケ味が得られるようだ(理屈もないので全く気のせいかもしれないが・・・)。
総合的な印象は悪くない。設計は古いものの描写力は高く、極めて広い画角を大きな破たんもなく実現している優れたレンズだ。以下、銀塩撮影とデジタル撮影の作例を順番に示す(もちろん無修正・無加工)。

銀塩撮影
F8(FujiColor SP400)  このレンズは被写界深度が深く、パンフォーカス撮影がとても得意
F8(FujiColor SP400) コントラストが高く階調表現は硬めだ

F3.5(FujiColor SP400) 赤がコッテリと出てしまい色飽和気味となっている

F8 銀塩(Uxi Super 200)  このとうりにパースペクティブ効果が強く働き、遠近感が誇張気味だ。今度も逆光撮影だがゴーストやフレアは出ていない。コントラストは高く、暗部には締りがあるが、階調変化はなだらかさに欠け、暗部に向かってストンと落ちてしまう。茶色いポールはほぼ真っ直ぐであり、歪みはきっちり補正されている

F4 銀塩 (FujiColor SP400) 斜め方向に撮ると途端にパースペクティブの効果で画像端部の像が四隅に向かって傾いてしまう。窓枠が隅に向かって傾き、ティーカップも楕円形に変形している。ルンルン♪

F3.5 銀塩 (FujiColor S400) 開放絞りで近接撮影を行うと四隅の像が放射状に流れる
このレンズはコントラストが高く、階調変化が硬くなりすぎてしまうようだ。はじめから軟調な性質のフィルムを用いる方がよさそうだ。

デジタル撮影 Sony NEX-5 digital (AWB)

F4 NEX-5 digital, AWB: 広角レンズなので被写界深度は深いものの、このレンズは最短撮影距離が極めて短く、被写体の直ぐ近くまで接近してもピントが合うので、背景は大きくボケる。ちなみにボケ味はこのとうりに素直だ。デジタル撮影の方が銀塩撮影の時よりも階調変化が丁寧なうえに、ボケ味がフワッと柔らかい事に気付く。この現象はアンジェニューでも確認できるが、原理はよくわからない
F2.8 NEX-5 digital(AWB) 花とその子供たち(←異種の花じゃんよ)
背景がこれくらいの距離になると、このレンズでもグルグルボケが出る

本レンズに関しては銀塩撮影よりもデジタル撮影の方が、暗部の階調変化がなだらで好印象であった。350~500ドルもする中古のFLEKTOGON 20mmを狙っている方。是非とも本品も候補に挙げてみてはいかがでしょうか。250ドルで新品が買えますよ。

歪曲収差をチェック
マンションの壁面を銀塩カメラで撮影したところ、外側に膨らむ樽型歪曲収差をハッキリと確認することができた。私は他にも焦点距離の短い現代のレンズを2本(Nikkor 2.8/20やPentax DA 2.8/14)所持しているが、20mmの超広角レンズともなれば、この程度の歪曲は必ず出る。むしろ、この程度で済んでいるMIR-20の描写を評価したい。


★撮影機材
銀塩撮影 Pentax MZ-3 + Fujicolor Super Premium 400
デジタル撮影 sony NEX-5

実のところ、私は初めMC FLEKTOGON 2.8/20を買おうと思っていた。ゼブラ柄のFLEKTOGONを所持しているので、撮り比べがしたかったのだ。しかし、デザインにインパクトのあるMIR-20Mが目にとまり、気が付いたら本品を手にしていた(浮気といえば確かにそうだ)。後になって「そういや、俺、MCフレクトゴンじゃなかったんだっけ???」と気づいた始末。そんな縁で今回はロシア政府に絡んだ推理で楽しんでしまった。KGBのエージェントが我が家にやって来たら、どうしよう・・・。皆さんサヨウナラ。