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2019/04/30

FUTURA FREIBURG BR. Frilon 50mm F1.5 (Futura-S M34 screw)



















フンワリ、ボンヤリ、でもシッカリ写るレンズはオールドレンズ女子の強い味方。ならば、フトゥーラ社のフリロンは、まさにそういう類のレンズです。このレンズの魅力溢れる写りに惑わされるマニアが後を絶ちません。
 
特集:女子力向上レンズ PART 2
っぱりFUTURAはフツーじゃないら!
FUTURA (FREIBURG BR.) FRILON 50mm F1.5 
Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)は第二次世界大戦中にドイツ空軍に従事しカメラや光学機器の製造に携わったフリッツ・クーネルト(Fritz Kuhnert)という人物がドイツのフライブルクに設立したカメラメーカーです[文献1]Fritz Kuhnert1942年にフリッツ・クーネルト光学研究所(Optische Anstalt Fritz Kuhnert)を設立しフライブルクに工場を建てますが、この工場は2年後の194410月に連合軍の爆撃で大破してしまいます。戦後はグンデルフィンゲン郊外に新工場を建て、1947年にEfka 24という24x24mmフォーマットのビューファインダーカメラを発表、続けて上位機種のFuturaレンジファインダーカメラを開発し、1950年の第一回フォトキナで発表しています。しかし、その直後に会社は営難に陥り身売りします。新工場再建の負債が重くのしかかったのか、はたまた新製品の開発コストが予想以上に大きかったのかもしれません。会社の買収を名乗り出たのはハンブルクに拠点を置く船舶会社のオーナーで、有限会社Futura Kamerawerk (以後はFuturaと略称する)を再スタートさせ、この機にFritzは経営から身を引きます。Futura1950年から1957年までの間に4種類の35mmのレンズ交換式レンジファインダーカメラ(Futura, Futura P, Futura S, Futura SIII)を発売、主に米国への輸出用として市場供給されました。交換レンズのラインナップは大変充実しており、Ampligon 4.5/35, Futar 3.5/45, Frilon 1.5/50, Evar 2/50, Elor 2.8/50, Frilon 1.5/70, Tele Futar 3.8/75, Tele Elor 3.8/90, Tele Elor 5.6/90に加えSchneider Xenar 2.8/45が用意されました。レンズ名の幾つかはKuhnert一家の家族の名前を由来にしており、Elor 50 2.8は妻EleonoreEvarPetarは彼の子供達EvaPeterから来ています。Elorは無理のない明るさと端正で堅実な写りが特徴のテッサータイプのレンズですが、おそらくEleonoreの人柄もそうであったのではないかと思われます。Fritz自身の人柄がどうだったのかは今回紹介するFrilonを見れば容易に想像できることですが、かなり自由奔放で独特な人だったのでしょう。口径比がF1.5と明るいうえ希少性も高いため(要するにあまり売れなかった)、現在の中古市場では高額で取引されています。カメラやレンズの生産は1957年頃まで続いていたそうです。
Futura Frilonの光学系:[文献2]に掲載されている構成図をトレーススケッチした見取り図です。設計は4群6枚のゾナー型で、文献[5]の図99で記された空気レンズ付き簡易Sonnar型とよく似た設計となっている。左が被写体側で右がカメラの側


 
Futuraのレンズを設計したのはシュナイダー社の設計士Werner Giesbrecht ( ベルナール・ギーゼブレヒト ) という人物です。ただし、レンズはSchneiderブランドのXenarを除き全てがFuturaの自社工場で生産されました。レンズの設計構成は上図に示すような4群6枚のゾナータイプです[文献2]。普通のゾナーでは第2群が3枚のはり合わせで、中間エレメントが屈折率の低いガラスとなっているところを、このレンズでは空気層に置き換えています[文献4,5]。この設計構成はコシナから出ている現行のC SONNARにもみられます[文献6]。ただし、コーティングの性能が発展途上だった1950年代に空気とガラスの境界面を増やしてまでこの設計構成を導入したのは、単にコストを抑えるためです。しかし、この方が設計の自由度が高い分だけ解像力は良好なので、オールドレンズ的な価値観で再評価するならば、この方がかえって面白いレンズであろうかとおもいます。
 
参考文献
[1]  フライブルグ市公式ホームページ:A short chapter in the history of Freiburg: The Camera Industry
[2]  35mm判オールドレンズの最高峰「50mm f1.5」岡田祐二・上野由日路 著 2018年
[3]  Futura Objective, Futura GMBH  Futura公式冊子
[4]  Marco Cavina's Page;"ZEISS TIPO SONNAR ED IL GENIALE FILO CONDUTTORE CHE COLLEGA TUTTE LE VERSIONI DEL CAPOLAVORO DI LUDWIG BERTELE"
[5] 「レンズ設計のすべて:光学設計の真髄を探る」辻定彦著 電波新聞社, P69下段
[6]  COSINAホームページ: C SONNAR T* 50mm F1.5  
 
入手の経緯
レンズは201710月にヤフオクで手に入れました。カメラ本体(FUTURA-S)とセットで70000円のスタート価格で登場し、6人が応札、最終的には自分が100010円で落札しています。オークションの記載は「希少レンズFRILON 50mm f1.5が付いたFUTURA-S。レンズはFuturaにしては非常に状態が良い。カメラの他に純正のケースが付属する。カビや曇り、バルサム切れは見られず、埃の混入が数個と気泡が2、3個あるのみ」とのこと。届いたレンズは前玉のコーティング表面に同社のレンズ特有の薄い線キズが見られたものの、良好な状態でした。同社のレンズはコーティングが極めて弱く、拭いただけで全て拭き傷となって残っています。中古市場でみかけるFUTURA製レンズは全てこうなので、コレクション目的の方には同社のレンズはお勧めできません。
 
FUTURA FRILON 50mm F1/5:  絞り値 F1.5-F11, マウント規格 Futura M34 mount, 設計 4群6枚ゾナー型(エア・ゾナー型),  絞り羽 15枚 


 
 
デジタルカメラへのマウント
FUTURAのレンズは全てM34スクリューネジです。レンズをミラーレス機にマウントするためのアダプターも存在し、eBayで入手可能です。ただし、値段はちょっと高めなので、私はステップダウンリングを用いてレンズのマウント部を34mmから42mmに変換し、M42ヘリコイド(17-31mm)に搭載、末端にM42-Sony Eスリムアダプターを装着してSONY A7シリーズのミラーレス機で用いることにしました。


撮影テスト
開放では薄いフレアがピント部表面を覆い、ハイライト部には微かな滲みが発生、写真全体がしっとりとした柔らかい雰囲気につつまれます。ただし、ピントの合っている部分はしっかりと解像しており、柔らかさの中に緻密さを宿す、いわゆる線の細い繊細な描写となります。光にとても敏感なレンズなので逆光になるとハレーションが顕著に発生しますが、発色が濁ったり淡白になることはなく依然としてコントロールは可能。美しい印象的な写真が撮れます。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケが目立つことはありません。時々、ピント部前後のボケが形をとどめながらゴワゴワと面白い形になることがあります。オールドレンズの良さが詰まった素晴らしいレンズだと思います。
 
F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 



F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 
F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日陰)

F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日陰) 







F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 縦の構図2枚をシンメトリー合成しています
F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 

F1.5(開放)  sony A7R2(WB:日光) 


2015/11/08

FUTURA FREIBURG BR. EVAR 50mm F2 (M34 Futura Screw)*




プリモプランとは似て非なる変形エルノスター
FUTURA (FREIBURG BR.) EVAR 50mm F2 
Primoplan(プリモプラン)の同型レンズと聞いて俄然興味が湧いてきたので思い切って入手してみた。Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)が1950年代に生産したEvar(エバール) 50mm F2である。事実ならとても珍しい種族のレンズだが、試写してみたところ、どういうわけか描写傾向が全く異なるので興味は増すばかりである。Primoplanは中心解像力こそ高いが、写真の四隅を捨てたような開放描写と荒々しく回る背後のグルグルボケを特徴とするジャジャ馬のヤンキーレンズである。明らかに非点収差が大きく、こうした描写傾向を加味して本ブログの過去のエントリーでは第2群のはり合わせが「旧色消し」であるとの大胆な予想を立てていた。これに対してEvarはピント部四隅まで画質が均一に保たれグルグルボケも出ない優等生で、像面湾曲や非点収差が良好に補正された別人格の写りとなっている。Evarは本当にプリモプラン型なのであろうか。下に示すような構成図が手に入った。構成は4群5枚の変形エルノスター型で、第2群に接合面を持つプリモプランとよく似た設計となっている。特許資料が手に入らないので断定はできないが、接合面のカーブがだいぶ緩いので、恐らく第2群の接合レンズはPrimoplanとは異なる「新色消し」ではないだろうか。「新色消し」の導入は非点収差の補正に有利に働くので四隅の画質を良好に補正できるものの球面収差の補正には不利となる。Evarの描写傾向はこうした予想ととてもよくマッチしている。ちょうどトリプレットとテッサーの関係を思い起こしてもらうとよいが、この場合にはトリプレット的なのがPrimoplanでテッサー的なのがEvarという対応になる。なお、Evarの第2群で増大した球面収差は他のエレメントの助けを借りて光学系全体で補正できるので、硝材の選択がうまくゆけば中心解像力もそれほど悪いものにはならないとのこと。さて、Evarがどんな写りになっているのかは見てのお楽しみである。
 
レンズの構成図(スケッチ):左は原型となったErnemann Ernostar F2(4群4枚)、中央は発展型のMeyer Primoplan F1.9(4群5枚)、右は同じく発展型のEvar F2(4群5枚)である



Futura
Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)は第二次世界大戦中にドイツ空軍に従事しカメラや光学機器の製造に携わっていたがFritz Kuhnert(フリッツ・クーネルト)という人物が1950年にドイツのFreiburg(フライブルク)に設立したカメラメーカーである。Kuhnertは1942年にOptische Anstalt Fritz Kuhnert(フリッツ・クーネルト光学研究所)を設立しFreiburgに工場を建てたが、1944年10月の連合軍の爆撃で大破している。戦後はグンデルフィンゲン(Gundelfingen)の郊外に新工場を建て1947年にEfka 24という24x24mmフォーマットのビューファインダーカメラを発表、続けて上位機種のFuturaレンジファインダーカメラを開発し1950年の第一回フォトキナで発表した。この頃Kuhnertの会社は経営難に陥っていたがハンブルクに拠点を置く船舶会社のオーナーが会社を買収し新たなオーナーに就くとともに会社名を改称し、有限会社Futura Kamerawerk (以後はFuturaと略称する)を再スタートさせている。Futuraは1950年から1957年までの間に4種類の35mmのレンズ交換式レンジファインダーカメラ(Futura, Futura P, Futura S, Futura SIII)を発売している。これらは主に米国などへの輸出用として市場供給されていた。交換レンズのラインナップは大変充実しており、Ampligon 4.5/35, Futar 3.5/45, Frilon 1.5/50, Evar 2/50, Elor 2.8/50, Frilon 1.5/70, Tele Futar 3.8/75, Tele Elor 3.8/90, Tele Elor 5.6/90に加えSchneider Xenar 2.8/45が用意されていた。レンズ名の幾つかはKuhnert一家の家族の名前を由来にしており、Elorは妻Eleonore、EvarとPetarは彼の子供達EvaとPeterから来ている。Frilon F1.5はとても明るいレンズであるとともに希少性が高い(あまり売れなかった)ため、現在の中古市場では極めて高額で取引されている。レンズは全てM34スクリューネジの同一マウント規格で統一されており、上記の4種類のカメラ全てに搭載できる。Futuraのレンズにはミラーレス機用のアダプターも存在しeBayで入手可能であるが、高額なのでステップダウンリングを用いて34mmから42mmに変換しM42ヘリコイドアダプターに搭載してミラーレス機で用いるのが安上がりである。Futuraのレンズを設計したはシュナイダー社の設計士Werner Giesbrechtである。ただし、レンズの製造はSchneider Xenarを除き全てFutura自身が自社工場でおこなっていた。なお、カメラやレンズの生産は1957年頃まで続いていたそうである。

本来の母機であるFutura-Sに搭載したところ。美しいカメラだ




重量(実測) 102g, フィルター径 39mm前後(39mmで若干緩いがOKであった), 絞り F2-F16, 絞り羽 13枚構成, 設計構成 4群5枚(変形エルノスター型), マウント Futura M34 Screw, レンズ名はカメラを設計したFritz Kuhnertの娘Evaの名が由来である



入手の経緯
このレンズは2015年11月に大阪の中古カメラ店からFutura-Sのカメラにマウントされた状態で3万8千円で購入した。レンズについては「カビ、クモリ、バルサム切れ、傷などなくとても良い状態」とのこと。届いたレンズはコーティングの表面の拭き傷のみで他に問題はなかった。カメラの方にはシャッターが低速側でやや粘る不調があった。経年品なのでこの程度の問題は仕方ない。
Futuraのレンズはコーティングがこれまで見てきたどのメーカーのレンズよりも弱く、どの個体もコーティングの表面をよく観察すると、極薄い拭き傷が一面全体にびっしりとみられ、まるで磨いた跡のような様子になっている。おそらく軽く拭いても全て拭き傷になったのであろう。クリーニング歴のない未開封の個体を除き、どうもこのような拭き傷を持っている個体しか市場にはないので、レンズを入手したいのならば覚悟のうえで、欲張らずに実用コンディションを探すのが正解だ。私の場合はコーティングの状態が良い個体を3~4年探したが徒労に終わった。写りに影響がないなら、このまま用いるのがよいし、影響があると判断される場合には、修理に出しコーティングしなおすのがよい。
  
撮影テスト
中心解像力は高くシャープに写るレンズだ。開放ではポートレート域において極僅かにフレアが出るが問題ないレベルである。後ボケはザワザワしていて硬く2線ボケも出やすいが、グルグルボケはみられず反対に前ボケはフレアに包まソフトになる。ちなみにプリモプランの方はかなり激しいグルグルボケが出ていた。プリモプランよりも像面湾曲が良好に補正されているようで、ピント部の良像域はプリモプランよりも格段に広い。ちなみに、プリモプランは元来シネマ用なので、スチル用とは設計理念が異なるレンズである。階調は軟らかくトーンはなだらかである。発色はノーマルでこれといった癖はない。
F4, Sony A7(AWB):トーンはとても軟らかく美しい。下に拡大写真を示すが、ピント部は解像力が良好だ
上の写真の一部を拡大したもの。ピント部はとても緻密で高解像だ
F5.6, sony A7(AWB): ピント部は四隅まで安定感がある

F2(開放), Sony A7(AWB): 開放でもフレアは少なく、スッキリとヌケが良い描写である

F4, sony A7(AWB): しかし、シャープなレンズだ