おしらせ

2026/05/09

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 28mm F2.5

「どう写るのか」を楽しむためのレンズ

—つまりクセ玉

KOMURA LENS MFG. LTD( Sankyo Koki ) KOMURANON 28mm F2.5(前期型・後期型)

35mmフルサイズセンサーに対応する広角レンズの中で、収差の出方そのものを楽しめる描写を備え、なおかつ手頃な価格で入手できるモデルとなると、その選択肢は意外なほど限られてきます。とりわけ、レトロフォーカス設計が成熟期を迎えつつあった1965年前後からそれ以降の製品に目を向けると、こうした条件を満たすレンズを探すのは容易ではありません。この時代の28mm広角レンズといえば、開放F値はF3.5が標準的であり、たとえコンピュータ設計を導入したとしても、F2.8を実用レベルで成立させるのはまだ難しい段階にありました。実際、NikonやCanonといった大手メーカーから広角28mm F2.8が登場するのは、1970年代中半になってからのことです。そうした状況の中で狙い目となるのが、光学的完成度をある程度確保しつつも、明るさをやや無理に引き上げた「背伸び型」とも言えるレンズです。

今回取り上げる三協光機 KOMURANON 28mm F2.5(1973年頃発売)は、まさにその典型例と言える一本です。他社に先駆けて「より明るい28mm」を世に送り出したいというメーカーの思惑に、同社の当時の技術水準が完全には追いついていなかった。その結果として生まれたのが、このレンズでした。技術と理想の間に生じた歪みが、そのまま描写の個性として現れる、そんな過渡期ならではの魅力が、このレンズの特徴なのです。

光学系は下図に示すとおり、7群9枚構成という当時としてはきわめて野心的な設計です。フロント側(左側)の第1レンズには大型の凹メニスカスレンズを配置することでバックフォーカスを確保し、一眼レフカメラへの適合を実現。さらに第2群には1群2枚構成の色消しユニットを設け、非点収差および倍率色収差を強力に補正することで、28mmという広い画角に耐えうる性能を引き出しています。

完成度の高さよりも、レンズのクセや揺らぎを味わうことに価値を見出すユーザーにとって、コムラノンは今なお魅力的な選択肢となります。「うまく写る」ためのレンズではなく、「どう写るか」を楽しむためのレンズと言えるのです。

 
KOMURANON 28㎜ F2.5構成図: 光学系は7群9枚のレトロフォーカス型です


















 

前期モデルと後期モデル
KOMURANON 28mm F2.5は、製造時期の違いによって大きく二つの仕様に分けることができます。便宜上、ここではそれぞれを「前期型」「後期型」と呼ぶことにします。
まず前期型は、最短撮影距離が0.3m、最小絞りがF22まで設定された仕様で、中玉にあたる第2群にマゼンダ系のコーティングが施されている点が視覚的な特徴です。重量(実測)は422gとかなりの重量があります。一方の後期型では、最短撮影距離が0.35mへとわずかに延長され、最小絞りもF16までに制限されています。重量は346gと前期型に比べかなりの軽量化が図られています。また、第2群のコーティングはシアン系(あるいはグリーン系)へと変更されており、外観上も判別が可能です。描写傾向から推測する限り、前期型と後期型で光学設計そのものに本質的な差はないように思われます。ただし、レンズ構成を詳細に観察すると、後期型では絞り位置に軽微な修正が加えられている可能性が見て取れます。具体的には、後期型では絞り位置が1エレメント分だけ前方へ移動しており、その結果、構成上の前後バランスが入れ替わっています。前期型が前群:4群5枚で後群:3群4枚という構成であるのに対し、後期型では前群:3群4枚で後群:4群5枚という配置に変更されています。この差異が描写そのものに決定的な影響を与えているかどうかは断定できませんが、少なくとも設計者が収差バランスや製造面での最適化を模索していた痕跡であることは確かでしょう。同一レンズ名を冠しながらも、製造時期によって細やかな試行錯誤が積み重ねられている点は、まさに過渡期の「背伸び型レンズ」らしい一面と言えます。なお、KOMURANON には若干数ながら28mm F2.8も存在し、同社晩年期の製品ラインナップがかなり迷走状態だったことがうかがえます。

レンズの相場価格

三協光機のレンズは、同社ごく初期のモデルや、一部のハイスペックな大口径レンズを除けば、中古市場では総じて非常に安価に取引されています。本稿で取り上げているKOMURANON 28mm F2.5も例外ではなく、本品も中古価格は1万円以内、国内ネットオークションでは5千円程度から入手可能です。このクラスのレンズとしては鏡胴が大きく、重量もあることに加え、独自のマウントシステムを採用している点が、人気面では不利に働いているように見受けられます。市場に流通している個体の多くには、コムラ・マウントシステムと各種一眼レフカメラのマウントを接続するためのアダプターが付属しています。これにより、Nikon F, Canon FD, Olympus OM, M42, Minolta SR/MD, Pentax K など、主要なマウント規格に対応可能です。

レンズ単体の性格や描写傾向に目を向ければ、この価格帯で手に入る一本としては、むしろ試す価値のある存在と言えるでしょう。携帯性が悪く、しかもマウントに一癖ある——そうした不利な条件が、そのままコストパフォーマンスの高さにつながっている点も、このレンズの特徴と言えます。

 

KOMURANON 28mm F2.5(前期型): 最短撮影距離 0.3m, 絞り F2.5-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測,アダプター部を含まない)422g

KOMURANON 28mm F2.5(後期型): 最短撮影距離 0.35m, 絞り F2.5-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測,アダプター部を含まない)346g

左がNikon F用アダプター, 右がMinolta SR/MD用アダプター











































 

 

 

撮影テスト

絞り開放では、ベールを一枚被せたようなフレア混じりの滲んだ描写となり、ピントの山も掴みにくい印象です。周辺光量低下(ビネット)もかなり強く、レトロフォーカス型光学系らしくないところは細長い光学系の宿命と言わざるをえませんが、その一方で画面全体にノスタルジックな雰囲気を漂わせます。ボケは総じてざわつきがちで、とくに周辺部では玉ボケが放射状に崩れて暴れやすい傾向があります。逆光耐性は高いとは言えず、条件によってはゴーストの発生やコントラストの低下が見られますが、レトロフォーカス型広角レンズとしては特段に惨いレベルではありません。樽型歪曲はやや大きめで、建築写真などでは気になる場面があり、状況によっては色収差(フリンジ)も目立つことがあります。ただし、これらのクセは絞ることで次第に落ち着き、F4程度まで絞れば描写は大きく改善し、素直で実用十分なシャープさを得ることができます。

なお、前期モデルと後期モデルの撮り比べを行いましたが、はっきりとわかる明確な差異は見られませんでした。

 
前期モデル@F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB: auto, FS: Standard)
 

前期モデル@F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9, WB: auto, FS: Standard)
前期モデル@F5.6  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)

前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)

前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)
前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: ブリーチバイパス)
前期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

 続いて後期モデルをNikon Zfにマウントして撮りました。
 
 
後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日陰)



後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)




後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)










 
前期モデルと後期モデルの描写力を比較
結論から先に述べると、前期モデルと後期モデルの描写力に大きな差は感じされません。開放でのフレア量、周辺部の画質、暗角、コントラストや発色の鮮やかさ、歪みの大きさなどはほぼ同等です。
 
前期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)








2026/02/26

KOMZ URAN-27 100mm F2.5

冷戦期を見つめた眼 part 2 

MiG戦闘偵察機にも搭載された旧ソ連の航空撮影用レンズ

KOMZ URAN-27 100mm F2.5

冷戦期、西側 NATO 軍の ELCAN に対抗する東側陣営の航空用レンズとして、偵察任務や測量で重要な役割を果たしたのが、今回取り上げる旧ソビエト連邦の Uran‑27Уран‑27100mm F2.5 です。Uran‑27 KMZ 製航空カメラ AFA‑39RA‑39)に装着され、MiG 戦闘偵察機をはじめ、可変翼超音速戦闘爆撃機 Su‑17、その前身である Su‑7B、さらには輸送ヘリ Mi‑8 など、旧ソ連の主力航空機に幅広く搭載されました。

また本レンズは、ソ連初期の宇宙開発計画にも投入されたことで知られています。1957年には人工衛星スプートニク1号に搭載されて地球表面の撮影に用いられ、1959年のルナ3号では人類史上初となる「月の裏側」の撮影に成功しました。Uran‑27 は、まさに冷戦期の軍事技術と宇宙開発の最前線を支えた光学系と言えます。

このレンズが開発されたのは1952年で、ソ連を代表する光学研究機関 GOIState Optical Institute)が設計を担当し、製造は国営工場 KOMZKazan Optical‑Mechanical Factory)が担いました。高度5005000mからの地上撮影を前提に、可能な限り高い解像力を引き出すことを目的として設計されたと伝えられています。

レンズとカメラが搭載されたジェット戦闘機MiG-17F(左)と人工衛星LUNA-3(右)

光学系は下図のような 5 群 7 枚構成で、ガウスタイプの絞り直後に薄い凸メニスカスレンズを配置した特徴的な設計となっています。対応フォーマットは中判よりやや大きい 80mm × 80mm で、対角線画角約 59 度をカバーする準広角レンズとしてまとめられています。設計者は、タイール系レンズの開発でも知られる David Samuilovich Volosov 博士です。

Rodion Eshmakov 氏のウェブサイト RADOJUVA には、本レンズについて極めて詳細かつ質の高いレビューが掲載されています[1]。同氏によれば、本レンズの基本設計は 1944 年にまとめられ、先代の Uran‑10 100/2.5(1943年~)の後継として開発されたそうです。まったく同じ構成をもつ西側の ELCAN や SUMMILUX よりも早い時期に完成しており、Uran‑27 が当時いかに先進的なレンズであったのかがよく分かります。Uran ファミリーには Uran‑9 250/2.5 や Uran‑25 200/2.5 など複数の派生モデルが存在していますが、Uran‑27 が最も広く流通したモデルだそうです。また、製造年代によってコーティング仕様が大きく異なる点も特徴として挙げられます。

Eshmakov 氏は Uran‑27 の光学性能について、次のように評価しています。「開放からすでに非常に良好な画質を示し、フレーム中央の解像度は、同氏が所有する Belar‑2 90/2.5 や MC Rubinar 2/100 とほぼ同等の水準に達する。使用条件によってはわずかな球面色収差が観察されるものの、画角全域のシャープネスは主に小さなコマ収差によって制限される程度で、その性能は Belar‑2 と同等、同じ絞り値の 5 群構成 Rubinar 2/100 を大きく上回る」。

さらに同氏は、「画角によって解像度が複雑に変動する特性からも分かるように、Uran‑27 は 3 次収差と 5 次収差の相互作用を巧みに利用して補正されており、その結果として画面周辺部で解像度がピークに達するという、現代の一般的なカメラレンズではほぼ見られない特性を備えている。絞りを F3.5〜F6.3 に設定すると、小型フォーマットにおいて極めて優れた描写性能を発揮する」と述べています。

また、Uran‑27 のボケ描写は非常に独特で、「油のように滑らか」と形容されるほど特異な性質を示すそうです。これは複数の要因が重なり合って生じるもので、より単純な構成のレンズでは得られない描写特性だと考えられています。

URAN-27の構成図(文献[2]からのトレーススケッチ)

参考資料

[1] RADOJUVA:place for very fast lenses by Rodion Eshmakov

[2] GOI lens catalog;  設計特許 Pat.SU68727A1

[3] photohistory.ru  PHOTOHISTORY (G. Abramov) 

[4] "First Pictures of Earth from a Soviet Spacecraft", Space Chronicle, Vol. 71, pp.1-40, 2018

[5] Dan Fromm, "Unlikely lenses on 2¼ x 3¼ Graphics Part 2 : Lenses useful out-and-about at normal distances", Mod.2011

 

GFXマウントへの改造

今回は市販の部品のみでレンズをGFXマウントに改造しました。使用したのは下記の部品です。広角レンズ用のメタルレンズフード(67mmフィルター径用)を使用しているところが工夫点です。ルータを使いフードの内側を0.5mm程度削りました。使用したヘリコイドはM65の間口を持つ17-31mmのタイプです。

 

入手の経緯

軍用レンズとしては比較的流通量が多く、eBayなどでも安定して見つけることができます。中古相場はおおむね 250ドル前後 からで、この価格帯は10年前からほとんど変動していません。

私自身は約10年前にeBayを通じてウクライナのカメラ店から300ドル弱(250ドル+送料)で購入しました。出品時のコンディション表記は MINT(美品・保管品) で、実際に届いた個体も記載どおり極めて良好な状態でした。軍用光学機材のわりに保存状態の良い個体が比較的見つかる点も、このレンズの特徴と言えるかもしれません。

ただし、現代のカメラで使用するには マウント改造が必須 です。残念ながら、改造済みの個体は市場にほとんど出回っておらず、基本的には 自分でDIY改造できる人が手を出せるレンズとなります。鏡胴が重厚で構造も特殊なため、改造の難易度は決して低くありません。単に「珍しい軍用レンズを試してみたい」という軽い動機では手を出しにくいものの、工作に慣れた方にとっては非常に魅力的な素材となるでしょう。

KOMZ URAN-27 100mm F2.5:  絞り F2.5-F16, 設計構成 5群7枚, イメージフォーマット 80x80mm, 絞り羽枚数 12枚, 鏡胴はフルメタル構造の軍用仕様で、弾丸をも跳ね返し、重量は1kgを軽く超える堅牢なつくりです

撮影テスト

オールドレンズとしては、とても面白い描写です。開放から良好な解像力を備えつつ、ピント面にはごく僅かな滲み(コマフレア)が重なり、質感を繊細に描き出します。1段絞ると滲みは消え、描写は一気にクリアで端正な表情へと移行します。ただしコントラストは絞っても殆ど変化せず、軟調で豊かなトーンが一貫して保たれます。発色も鮮やかになるというよりは、むしろ開放から一定です。黒つぶれを意図的に避けるような設計思想が感じられ、この種の特性は航空撮影用レンズに有利に働くという話をどこかで耳にした記憶があります。

光には非常に敏感で、逆光では盛大なハレーション(グレア)が発生しますが、むしろその特性を積極的に活かして描写をコントロールする楽しさがあるレンズです。ボケは撮影距離に左右されず安定しており、二線ボケやバブルボケの傾向も見られません。Eshmakov氏の表現を借りるならば、このレンズの背後のボケは油絵のように絵画的であるそうです。発色はかなり温調気味なので、気になるようでしたら、デジタルカメラの設定で少し補正を加えるとよいと思います。

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)
F6.3 Fujifilm GFX100S(WB:日光) 絞っても黒つぶれはありません。コントラストもあまり変化しません


F6.3  Fujifilm GFX100S 絞っても繊細なトーンが維持されています。おもしろい描写ですね   

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光) 軟調にふって意図的に黒つぶれを避けているような印象をうけます。シュールな写真にはもってこいの、とても面白いオールドレンズです
F2.5(開放)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)
F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)
F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

2026/01/15

Cooke SPEED PANCHRO and its Origins

スピード・パンクロとその源流を辿る

プロローグ

テーラーホブソン社のスピード・パンクロ(Speed Panchro)は、1930年代から50年代にかけてハリウッドの映画業界を魅了し続けた、英国生まれの伝説的シネマレンズです。いわゆる “Cooke Look” と称される温かみのある描写、なだらかなトーン、美しいフレアは、人物の肌を自然かつ上品に引き立てることで知られ、今日に至るまで映画制作者たちの憧れの存在であり続けています。

2026年の新企画では、このスピード・パンクロに焦点をあてます。同社が生み出したシネマ用レンズを取り上げ、その魅力を紹介したいとおもいます。ブログで扱うモデルは、以下の6本です。

  • KINIC 76mm(3 inch) F2
  • Speed Panchro Series I 50mm F2
  • Deepfield Panchro 100mm F2
  • Speed Panchro Series I 25mm F2
  • Kinetal 50mm F2
  • Speed Panchro Series II 75mm F2

2026/01/02

Sida GmbH, Turf EXTRA Anastigmat 7cm F3.5


シーダ社のフォールディングカメラ用レンズ

Sida GmbH, Turf EXTRA Anastigmat 7cm F3.5

大晦日の我が家の大掃除で、もう一本珍しいレンズが姿を現しました。その名も「Turf EXTRA Anastigmat 7cm F3.5」。一般にはあまり知られていないレンズですが、調べてみると、1939年にドイツのSida GmbH(シーダ社)が発売した中判フォールディングカメラ「Turf EXTRA」に標準搭載されていたものだと判明しました。シーダ社は1934年にフリッツ・カフタンスキーという人物によりベルリンで設立されたカメラメーカーです[2]。

Turf EXTRAは、4.5×6cm判のフィルムを使用する中判カメラで、ベークライト製の流線形ボディとストリームラインを特徴とする、当時としては先鋭的なデザインでした。技術的挑戦とモダンスタイルの融合を体現したこのカメラは当時の工業製品の最前線を走る特筆すべき存在の一つです。

レンズのバリエーションは 1938年に登場した初期モデル「Turf」用にTurf Anastigmat 7cm F3.5およびF4.5が市場供給されており、翌年の「Turf EXTRA」では、Turf EXTRA Anastigmat 7cm F3.5F3.8F4.5が供給されています。レンズの設計はいずれも3群3枚のシンプルなトリプレットで、前玉回転式のフォーカス機構を備えています。


 

 

デジタルカメラでの使用例

上の写真のように、シャッターのマウント部に25mm-M39アダプターリング(下段・右)とM39-M42アダプターリング(下段・左)を装着し、M42直進ヘリコイド25-55mm(上段・左)にのせればM42レンズとして使用することが可能です。レンズ本体にもヘリコイドがありますので、これでダブルヘリコイド仕様となります。レンズ側のヘリコイドを操作すると前・後群の間隔が変化し、それに伴って描写も変わります。遠距離側では過剰補正、近距離側では補正不足となり、ボケ味やコントラストを意図的に変化させることができます。こうした“可変描写”を楽しめるレンズは使いこなし甲斐があります。


参考情報

[1] FEX: FOTOFEX CAMERA; Fritz KAFTANSKI  

[2] Camera Wiki: SIDA GmbH 

 

入手の経緯

このレンズは、ずいぶん前にチェコのフォトホビーから7080ドルほどで入手したものです。状態の良い美品との触れ込みで、何かのついでに同封していただいた記憶があります。本命の購入品に気を取られていたせいか、そのまま存在を忘れ、我が家の棚の奥でタイムカプセルのように長らく眠っていました。

eBayでは時折見かけるものの、流通量は少なく、特にカメラとのセットではそれなりの価格が付くと思います。そうした中で、レンズ単体で手に入れられたのは、今思えばなかなかの幸運だったと思います。

Turf Extra Anastigmat 7cm F3.5: 絞り F3.5-F32, フィルターネジなし, 絞り羽 10枚, 重量(実測)58g, 設計構成 3群3枚トリプレット, フォーカス機構 前玉回転式


 

 

撮影テスト

ピント面はトリプレットらしい高い密度感を備えつつ、戦後型のトリプレットよりも柔らかく繊細な描写で、非常に魅力的です。背後のボケは硬質でざわつきがあり、明確に過剰補正寄りの設計であることがうかがえます。撮影距離によっては非点収差由来のグルグルボケが現れ、荒々しさと繊細さが同居する、まさにオールドレンズらしい個性を存分に味わえる一本です。コントラストは控えめで発色も淡泊ですが、トーンは柔らかく、階調の移ろいを丁寧にすくい上げます。

逆光では太陽光が画面に直接入ると一気に白飛びするため、木々や建造物で光源を隠すなど、フレーミングにひと工夫が求められます。 

F3.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日陰)

F3.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日陰)

F3.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日陰)

F3.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB: 日陰)
F5.6  Fujifilm GFX100S(WB:日光)










2026/01/01

RICOH COLOR RIKENON 35mm F2.8


ミノックスもどきの国産カメラから摘出した

ミノタールもどきの広角テッサー

RICOH COLOR RIKENON 35mm F2.8(Converted to Leica L39)

大晦日に家で大掃除をしていたら、コンパクトカメラのRICOH FF-1が出てきました。シャッターの切れないジャンク品です。家族が紅白歌合戦を見ている間に内蔵レンズを取り出し、デジカメで使えるよう改造してみました。搭載されているCOLOR RIKENON 35mm F2.8は広角レンズとしては珍しいテッサータイプで、しかもイメージサークルはフルサイズセンサーを余裕でカバーする設計です[1,2]。これは試さずにはいられません。直進ヘリコイドに換装し、ライカL39マウントにしました。

このカメラ自体は数年前、ヤフオクで何か別の機材を落札した際にオマケとして付いてきたものです。外観がドイツのMINOX 35EL(レンズはColor-minotar)に酷似していると指摘された歴史がありますが、実際にはRICOH側の設計・試作の方が早かったため、単なる偶然の一致として落ち着いたという経緯があります。こういう一致はKONICA EYEとロシアのMicron 1などにも見られますが、どうして似てしまうのか不思議でなりません。

レンズのCOLOR RIKENONは前玉回転式のフォーカス機構を採用し、絞りはシャッター羽根が兼用するというコストダウン方式て作られたモデルでした[2]。カメラから取り外すと絞りの制御はできなくなるため、開放固定での運用となります。また、外部ヘリコイドに載せるとダブルヘリコイド構成になります。

L39マウントへの改造方法は至って単純で、冒頭の写真のようにM32-M42変換リングを鏡胴に嵌めエポキシ接着剤で固定、そのままM42-M39直進ヘリコイド(10-15mm)にマウントするだけです。翌日に元旦の北鎌倉を撮ってきました。

[1] RICOH FF-1 instruction manual
[2] RICOH公式ホームページ フィルムカメラ全機種リスト

 

撮影テスト

コントラストは良好で、中央部のシャープネスも十分に確保されています。一方で四隅の描写はやや甘く、総じて解像力・シャープネスともに中庸といった印象です。本来、中間階調の豊かさを前提としたフィルム用途のレンズであるため、デジタル環境では中間調の情報量がもう一段欲しく、トーンの拾い方に物足りなさを感じる場面もあります。

周辺部の最外縁では像面湾曲が大きく、ピントの甘さが目立ちます。背景ボケはややザワつきがあり、硬質な表情を見せる傾向です。発色はカラーフィルム時代のレンズらしくニュートラルで癖がなく、扱いやすい色再現といえます。屋内ではわずかに光量落ちが気になることもありました。逆光耐性は良好で、ゴーストやフレアが目立つことはありません。

総じて、可もなく不可もなく、中庸な描写を示すレンズという印象です。フィルム写真のほうがこのレンズには合っていると思います。

F2.8(開放) Nikon Zf


F2.8(開放) Nikon Zf
F2.8(開放) Nikon Zf


F2.8(開放) Nikon Zf


F2.8(開放) Nikon Zf 

F2.8(開放) Nikon Zf
F2.8(開放) Nikon Zf

F2.8(開放) Nikon Zf
F2.8(開放) Nikon Zf



















F2.8(開放) Nikon Zf