理想よりも独自性を選んだ
ソフトフォーカス界の異端児
Ernst Leitz Wetzlar THAMBAR 9cm F2.2(L39)
タンバール(Thambar)は、ライカ(Ernst Leitz社)が1935年に発売した、ポートレート撮影用のソフトフォーカスレンズです。ソフトフォーカスレンズと聞けば、収差に由来する滲みを積極的に活用し、柔らかく幻想的な描写を生み出す特殊なレンズ、というのが一般的なイメージでしょう。しかしタンバールは、その滲みの生み出し方が他の同種レンズとは異なっており、この独自性こそが、タンバールを特異な存在にしています。
一般的なソフトフォーカスレンズは、球面収差を補正不足側に大きく振ることで滲みを得ています。ところがタンバールは逆方向、すなわち過剰補正側に大きく振ることで滲みを作り出しているのです。この違いは、ピント面そのものよりも、ピント面から外れた部分の結像——つまりボケ味——に大きな差を生みます。一般的な補正不足型のソフトフォーカスレンズでは、被写体の背後は柔らかく、なだらかにボケるのですが、反対に被写体の前方は硬くゴワゴワとしたボケ味になります。背景のボケ味を重視するポートレート撮影において、これは理想的なボケ味と言えます。
ところがタンバールでは、この前後関係が逆転します。背後のボケがむしろ硬い結像となり、バブルボケや二線ボケを伴います。これこそが、このレンズの作風を決定づけていると言えるでしょう。「理想」を捨てたタンバールだけがたどり着ける描写表現の境地は、同時に、多くのソフトフォーカスレンズには到達できないものでもあります。
タンバール特有の滲みやフレアを活かした描写は、現代のポートレートやアート写真の領域でも根強い支持を集めています。その独特な表現の系譜は、ソフトフォーカス界の本流にこそなりませんが、「タムロン SP70-150mm SOFT」や清原光学の「清原ソフト」といった後世の製品にも受け継がれています。
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| フィルター径 48mm, 重量 500g, 最短撮影距離 1m, 絞り羽 20枚構成, 絞り F2.2-F6.3, ライカLマウント,製造期間 1935-1942年, 製造本数 約3500本, 設計構成 3群4枚ヘクトール型, 設計者 Max Berek |
タンバールを設計したのは、エルマーやズマールの設計を手掛けたライツ社の光学技師、マックス・ベレーク(Max Berek: 1886-1949)です。ベレークは本レンズの開発にあたり、光学的欠陥の原因と補正に関する豊富な知見を活かしながら、あえて一定量の球面収差を残すという道を選びました。ベレクが本レンズの開発に寄せた設計思想は、「本来ならシャープに設計し得るレンズにおいて、球面収差を意図的かつ精密に調整することで、コントロールされた望ましいソフトフォーカス効果を生み出す」ということだったと言われています。それは、当時の光学設計における新たな境地を切り拓く試みでもありました。
タンバールは1935年に発売され、生産終了となる1942年までの間に3500本が生産されています。なお、レンズの名称は、ギリシャ語で「ぼやけた」を意味する「タンボ(thambos)」に由来しています。
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| Thambarの構成図(左が被写体側):同じ3群4枚のHektorをベースに球面収差をコントロールすることで設計された |
レンズの相場
製造個体数は3500本とあまり多くありません。このため比較的高値で取引されています。ただし、流通量はそれなりにあるようで、ネットオークションなど、中古市場では常時見かけるレンズです。ガラスに大きな問題のない個体であれば、現在は40〜45万円程度からが国内ネットオークションでの取引相場となります。ただし、センターフィルターが欠如している場合には、これよりも安くなる傾向があります。
今回ご紹介する個体はlense5151さんからお預かりした個体です。強い光を通すと微かなクモリがありましたが、通常に撮影には影響のないレベルでした。
参考文献・資料
[1] R. Kingslake "A history of the photographic lens"
[2] アサヒカメラ ニューフェース診断室『ライカの20世紀』朝日新聞社
[3] Thambar instruction booklet
[4] Thorsten Overgaard's Leica
[7] Puts Pocket Pod
撮影テスト
強い過剰補正型のレンズであるため、開放ではピント面に滲みが生じ、特にピント位置より手前側でその量が増していきます。このソフト効果は奥行きのあるシーンで前ボケの質感として現れやすいのが特徴です。一方で背景のボケは形状を保ったままザワゾワと硬めに描写され、点光源はバブルボケに変わります。これらの傾向は開放からF2.6付近まで続きますが、それ以上に絞るとフレアが急速に収まり、ピント部は細密でシャープな像へと変化します。
フレアの効き具合はF2.2〜F2.6の間で調整できますので、被写体との距離や求める質感に応じて絞りを使い分けると良いでしょう。
バブルボケを狙う場合は、どうしても逆光気味のシチュエーションが多くなります。そのため、ハレーションを抑えてコントラストを確保するには、深めのレンズフードを装着することが欠かせません。描写の安定性を保つうえでも、フードの有無が仕上がりに大きく影響します。
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:日陰) |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:日陰) |
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| F2.4 Nikon Zf(WB:日陰) |
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| F2.4 Nikon Zf(WB:日陰) |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:日陰) |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:日陰) AAZ |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:Auto) |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:Auto) |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:Auto) |
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| F2.2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:Auto) |
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| F2.5 Fujifilm GFX100S(WB:日光, 35mm mode) |
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| F2.5 Fujifilm GFX100S(WB:日光, 35mm mode) |
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| F2.2(開放) Nikon Zf(WB:日陰) |




































