おしらせ

 
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オールドレンズ写真学校12月ワークショップ
今月は12月17日(日)の予定です。場所はみなとみらい。詳しくはこちら
既に定員オーバーのためキャンセル待ちとなっています。最近の傾向として募集開始から3日程度で定員が埋るようですので、募集開始日を事前に確認しておく事が肝心です。

2011/12/12

Carl Zeiss Jena BIOMETAR 80mm F2.8, M42/P6(Pentacon-six) mount


四隅までシャキッと写る驚異の5枚玉
PART 1: Biometar(ビオメタール/ビオメター)
 前群にガウス、後群にトポゴンのレンズ構成を配し、奇跡的にも両レンズの長所を引き出すことに成功した優良混血児のことをBiometar/ Xenotar型レンズと呼ぶ。この型のレンズ設計は戦前からCarl Zeissによる特許が存在していたが、製品化され広く知られるようになったのは戦後になってからである。他のレンズ構成では得がたい優れた性能を示したことから1950年頃より一気に流行りだし、東西ドイツをはじめとする各国の光学機器メーカーがこぞって同型製品を開発した。この種のレンズに備わった優れた画角特性(広角部の画質)と解像力の高さは、後に圧倒的な性能によって日本の主要な光学関係者達を震撼させた銘玉Xenotar (クセノタール)の存在からも明らかで、開放時に中央部で180Line/mm以上、周辺部でさえ50Line/mmを超える高い解像力は当時のダブルガウス型レンズの倍以上の性能を誇り、テッサーも遠く及ばないと讃えらた程である。良好なコントラスト性能や広角から望遠まであらゆる画角設計に対応する万能性、マクロ撮影への適性など数多くの長所が評価され、テッサータイプ、ゾナータイプ、ダブルガウスタイプといった優れた先輩達が乱立する中において一定の地位を築くまでに至っている。本ブログでは数回にわたりBiometar /Xenotar型レンズを特集してゆく。
左からガウス型レンズ(Biotar) / Biometar / トポゴン型 (Topogon)の光学エレメント

初回は旧東ドイツ人民公社Carl Zeiss Jenaが1950年から1981年まで生産していたBiometarである。ドイツ語ではビオメタール、英語ではビオメターと読む。このブランドは同社が中口径レンズの主力製品として力を入れ、広角の35㎜、中望遠の80mm、望遠の120mmと3種のモデルを生産した。中でも焦点距離80mmのBiometarは中判撮影の常用レンズとして最も多く生産され、30年以上にもわたるロングセラーを記録している。レンズを設計したのは1946年にフォクトレンダー社から移籍してきたHarry Zöllner(ハリー・ツェルナー)博士(1912-2008)である[Patent US2968221]。Zöllner博士はフォクトレンダー時代にSkoparを設計した人物で、Zeiss Jenaへの移籍後もFlektogonシリーズやPancloarシリーズなど人気ブランドを手掛け、戦後の東独ツァイス・イエーナを支えた名設計者の一人である。1965年に退職し、2008年にJenaで死去。長寿を全うしている。
左からBiometar 80mmF2.8 / Xenotar 80mmF2.8 / Unilite 50mm F2の光学系。後群の凹型メニスカスレンズ(赤で着色したエレメント)の厚みにレンズの設計理念が表れている

Bimoetar/Xenotarタイプの設計理念
後群に配置された凹型レンズの厚みを調整することで、Gauss型レンズの性質とTopogon型レンズの性質の比重をコントロールすることができる。凹レンズの厚みを増せば、Gaussレンズの特徴が優位に強まり画像中央部の解像力と色収差の補正効果が向上、大口径化が容易に実現できるようになる。このタイプのレンズの典型には英国Wray(レイ)社が1944年に発売したUnilite(ユニライト)というブランドがあり、F2を切る比較的大きな口径を実現していた。逆に厚みを減らせばTopogonレンズの特徴が優位に強まり、非点収差と歪曲収差の補正効果を高めることができる。口径比はやや控えめになるが画角特性(周辺部の解像力)が改善するため、広角レンズや引き伸ばし用レンズ、高い均質性を実現したレンズの設計が容易になる。Carl Zeiss JenaのBiometarやSchneider社のXenotarはこの種のレンズ設計の代表格である。Unilite型をBiometar/ Xenotar型と一括りで同一視している文献もあるが、画角特性よりも大口径化に比重を置いたUnilite型レンズの設計理念は全く異質であり、両者は似て非なるものである(「レンズ設計のすべて」辻定彦著参照)。

★プロトタイプの登場から製品化まで
Biometarは1950年から1981年にかけて31年間も生産されたロングセラーである。東独ZEISSの生産台帳によると、1949年から様々なマウント規格を持つプロトタイプ(試作品)が造られている。その第一号は1949年8月で、生産本数は3本。焦点距離は80mm、開放絞り値はF2.8であった。また、次の年の1950年2月にはプロトタイプモデルの第2号が90mm F2.8の仕様で6本登場している。焦点距離が僅か10mm違うだけの2種のレンズがなぜ試作されたのか、真相は明らかではないものの、夏の間に80mmと90mmの両製品の比較検討が行われ、最終的には80mm F2.8が製品化されることになった。このモデルは1950年秋に登場し、まずはRolleiflex用に6x6cmのミディアムフォーマットをカバーする製品が供給された。1952年には光学系を一回り小さくした35mmフォーマットのM42マウント用とExaktaマウント用が登場している。これと平行し東独Zeissは1950年1月から焦点距離35mmのBiometar 2.8/35(35mmフォーマット)を発売している。この広角Biometarはプロトタイプによる性能テストもなしにいきなり登場しているが、実は東西両Zeissが共同開発した戦後型Contax IIa/IIIaにおいて、戦前のBiogon 3.5cmF2.8が使えない緊急事態に対応するための製品であった。しかし、直ぐに西独ZEISSが戦後型ビオゴン35mm F2.8を登場させたことによって需要が低下し、僅か1614本を製造したところで生産中止となっている。一方、東独Zeissはこれに代わる広角Biometarの後継製品をすでに用意していた。Biometarをレトロフォーカス化し一眼レフカメラに適合させた新型広角レンズを開発し、Flektogon (フレクトゴン)の名で1952年にデビューさせている。
1952年に登場したFlektogon 2.8/35および2.8/65の光学系。設計したのはHarry Zöllner(ハリー・ツェルナー)とRudolf Sorisshi(ルドルフ・ソリッシ)。後群側(黄色)は紛れもなくBiometar型レンズである。これに最前群(赤色)のレンズエレメントが追加され、一眼レフカメラに適合するようレトロフォーカス化されている。周辺部まで切れ味のよい高解像な描写力を示し、マクロ撮影並の高い近接撮影能力を実現しているなど非常に性能が良く、一眼レフカメラのブームとともに人気を博した。Biometarの優れた描写特性を最大限に生かす製品コンセプトを考えると、接写に強い広角レンズに至るのは、ごく自然なことなのであろう
 1951年から1952年にはBiometarを大口径化する計画が持ち上がったようで、F2の口径比を持つプロトタイプ5種(50mm, 58mm, 50mm, 80mm, 120mm)が試験的に製造されている。しかし、この口径比では十分な性能が得られなかったのか製品化には至っていない。1954年から1958年にかけて、今度はF2.8よりも口径比を控えめに抑えたF3.5とF4のプロトタイプ(3.5/80, 3.5/105, 4/80, 4/85)が試験的に造られている。これらは引き伸ばし用レンズとしての可能性を模索するものか、あるいは同じ時期にライバル製品(XenotarやPlanar)が口径比をF3.5に抑えた廉価品を出してきたことに対抗する動きであったと思われる。しかし、いずれも製品化されることはなかった。続く1956年からは口径比F2.8の製品ラインナップを拡充する計画が持ち上がり、4種類の焦点距離を持つプロトタイプモデル(40mm, 50mm, 105mm, 120mm)が試作されている。このうちの焦点距離120mmを持つ望遠モデルは1958年から製品化されている。1962年にも焦点距離を拡充させる案が持ち上がり、標準画角を持つ55mm F2.8の製品と中望遠の77mm F2.8の製品の2種のプロトタイプモデルが試作されている。しかし、同時期に登場しているPANCOLARの性能が良かったためであろう。こちらも製品化には至っていない。後者の77mmのモデルが80mmの現行品に対してどのような位置づけで試作されたのか、さっぱり想像できない。ツエルナー博士がZeissを退職した1965年以降、試作品の開発は行われていない。

★モデルチェンジと製品概要
初期(1950-1958年)のBiometarはアルミ製の鏡銅であり、焦点距離80mmと35mmの2種が存在した。1958年からは新たに焦点距離120mmのタイプが加わりデザインも変更、ローレット部に合革の装飾が施されたアルミ鏡銅と黒鏡銅の2種のバリエーションが用意された。1962年になるとローレット部に突起のある奇妙なデザインのモデルが登場するが、不評だったのか数年でデザインが変更され、1965年頃からゼブラ柄の鏡銅に変わっている。ここまでの製品は全てシングルコーティング仕様の製品であるが、1970年代前半からはガラス面にマルチコーティング処理が施された黒鏡銅モデルにモデルチェンジしている。レンズの生産は1981年まで続けられた。以下にBiometarのバリエーション、デザイン、外観の特徴等を大まかな年代ごとに列記しておく。

生産期間 デザイン 設計仕様 マウント スタンプマークなど
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1950-1958頃 アルミ鏡胴  2.8/80  M42/Exakta用 T 1Q
1950-1959年 アルミ鏡胴 2.8/35 CONTAX IIa/IIIa用 T-coating 1959年製造終了
1958-1962年 ローレット部が革デザイン(アルミ/黒鏡胴)2.8/80,2.8/120 P6/Exakta/M42, 1Q
1962-1964頃 ローレット部が突起状のデザイン(黒鏡胴) 2.8/80, 2.8/120, P6/Exakta/M42
1965-1970頃 ゼブラ鏡胴 2.8/80, 2.8/120, P6/Exakta/M42, 輸出用はaus Jena銘, 1Q
1970年代前期から中期 黒鏡胴 2.8/80,2.8/120,  MC(赤字), P6/M42
1970年代中期から1981年 黒鏡胴 2.8/80,2.8/120, MC(白字), P6/M42

数は少ないがRolleiflex用、Praktina用、Bronica用(Zenzanon銘)のBiometarも生産されている。なお、後期型の黒鏡銅モデルではP6マウント用とM42マウント用の光学系を同じものにすることで生産ラインの合理化を図っている。M42マウントの黒鏡銅モデルはP6マウントの上からZeiss純正のマウントアダプターが被さっているだけである。
★入手の経緯
M42マウントのアルミ鏡胴モデル(Biometar-M42-silverと略記)は2011年8月にeBayを介してドイツ・フランクフルトの中古カメラ業者「カメラジェントルマン」から195ユーロ(21500円)+送料の即決価格で落札購入した。この業者は取引件数5621件でポジティブ・フィードバック99.8%とかなり優秀。鮮明な写真を大量に提示し、商品解説がしっかりしていた。商品の状態に対しショップ独自のランクがつけられており、駆動系が最高ランク、光学系も最高ランク、外観は中と控えめだが写真を見る限りでは良い状態であった。前後のキャップがつくとのこと。ジェントルマンという名を信じて購入に踏み切った。同品の海外eBay相場は250-300ドル前後。ヤフオクでは30000-35000円程度であろう。届いた品は極僅かにホコリの混入があったが、ガラス面には拭き傷のない大変良好な状態であった。

Biometar 80mm F2.8(M42マウント アルミ鏡胴モデル(35mmフォーマット)。本ブログではこれ以降、Biometar-M42-silverと呼ぶことにする: フィルター径 49mm, 重量(実測) 254g, 絞り値 F2.8-F16, 絞り羽は12枚構成, 絞り機構はプリセット,最短撮影距離は0.8m, 鏡胴素材はアルミ合金, コーティングは単層(シングルコーティングでアンバー色と紫色の複合)


続くP6マウントのアルミ鏡胴モデル(Biometar-P6-silverと略記)はeBayを介し欧州最大の中古カメラ業者フォトホビーから2011年10月に購入した。商品ははじめ160ドル+送料45ドルの即決価格で売り出されていたが、値切り交渉を受け付けていたので130ドルでどうだと提案したところ私のものになった。オークションでの商品の記述は「ガラスに傷、カビ、クモリはない。外観は写真で判断するように」と、いつものように簡素であった。しかし、届いた品にはガラスに傷があり、樹状の小さなカビもあったので、仕方なく返品した。カビは撮影に影響のないレベルであったが、成長すると他のレンズに伝染するので隔離保管するしかない。EMSによる返送代金は自己負担という取引規定なので、いくら相手に責任があるとはいえ仕方がない。その代わりに7日以内に返品するという取引規定を最大限活用し少し試写させてもらった(レンタル使用料のつもり)。フォトホビーからは済まないと謝罪の連絡があり、次回買うときには送料をタダにしてくれるとの嬉しい知らせをいただいた。ありがたい。ただし返金はいつものように遅く、商品が相手のオフィスに届いてから2週間も待たされた(フォトホビーはいつも返金が遅いのだが確実に返してくれるので、eBayの問題解決センターに経過報告だけはしっかり残して気長に待つべし)。


Biometar 80mm F2.8 (P6マウント アルミ鏡胴モデル)。本ブログではBiometar-P6-silverと呼ぶことにする。右はP6-M42マウントアダプター(Zeiss純正): フィルター径 58mm, 絞り値 F2.8-F22, 絞り羽枚数 8枚, 絞り機構は自動絞り,  最短撮影距離 1m, 鏡胴素材はアルミ合金, コーティングは単層(シングルコーティング)で表面がマゼンダ色、内部に一部アンバー色が入っている





MC Biometar 80mm F2.8(P6マウント 黒鏡胴モデル)。本ブログではMC Biometar-P6-blackと呼ぶことにする。右はZeissの純正P6-M42マウントアダプター。このアダプターはさすがに純正品というだけのことはあり、頑丈にできており精度もよさそうだ: フィルター径 58mm, 重量282g, 絞り羽は8枚構成, 絞り値 F2.8-F22, 絞り機構は自動絞り, 最短撮影距離 1m,絞り羽枚数 8枚, ガラス面にはマルチコーティングが蒸着されている

 最後の3本目は珍しいM42マウントの黒鏡胴モデル(Biometar-P6-Black)である。M42マウントとは言っても、光学系はP6マウント版と同じで、これにZeissの純正P6-M42アダプターがついてM42マウントになっているだけである。後期型のモデルはこの方法で製造ラインが一本化されているようだ。こちらはポーランドのフォトホビーからeBayを介して2011年3月に購入した。商品は235ドル+送料40ドルで売り出されていたが、205ドルでどうかと値切り交渉し手に入れた。送料が高いので交渉は欠かせない。オークションの記述は毎度おなじみで「ガラスに傷、カビ、クモリはない。外観は写真で判断するように」とのこと。届いた品は綺麗な光学系であった。フォトホビーはレアな商品を多数出品する魅力的なセラーだが、商品解説が怪しく、先のシルバーモデルのようなことがよくあるので、写真をよくみて慎重に判断する必要がある。この製品のヤフオク相場は20000-25000円程度であろう。

★撮影テスト
どんなレンズだって開放絞りで撮影し周辺画質を覗き込めば、解像力やコントラストは中央部よりも明らかに低く、程度の差こそあれ歪曲収差やコマが目に付く。画質の低下が中央部よりも顕著なのはレンズの設計理論からすれば当然のことだ。しかし、トポゴンの血を引くBiometarには優れた画角特性が備わっており、メインの被写体を四隅に置いたとしても不安感は全くない。Biometarの大きな特徴はピント面の均一性が非常に高いことなのである。インターネット上にはBiometarやXenotarで撮影した作例が数多く公開されている。その中には妙な迫力を感じるものが少なくない。その多くに共通する構図はメインの被写体をアップで撮るというものであり、ハッとするほどシャープな被写体が四隅まで画角いっぱいの大きさで広がり、背景のボケが生み出す立体感とともに、言葉にはできない圧倒的な迫力が生み出されているのである。こうした作例を生み出せるカメラマンは、才能は勿論のことだが、この種のレンズの性質をよく理解した上で使用しているに違いない。
Biometarの描写設計は球面収差をわざと残存させるオーバーコレクション(過剰補正)タイプである。この補正テクニックは球面収差の膨らみを小さく抑え、その代償として開放絞りで球面収差をやや多く残存させるというものである。絞りを1-2段閉じるところで解像力を最高に高めることができるが、その反動として開放絞りにおける像がやや甘くなる。Zeissの描写設計が一流と褒め称えられるのは、開放絞りにおいても解像力の低下を感じさせない絶妙なセッティングができるところにある。Biometarの描写にもその高度な技術は生きており、鋭い階調変化による見た目の解像感が柔らかさの中に芯を生み、像の甘さを全く感じさせない。開放絞りから一段閉じるF4では解像力が大幅に向上し、コントラストも向上。スッキリとして締まりのある像となる。2段閉じるF5.6ではコントラストが更に向上し、解像力も周辺部が顕著に改善する。総合的なシャープネスは非常に高いレベルに達する。被写体を細部まで緻密に描き、階調変化の鋭いシャキッとした描写になる。ただし、シャドー部がカリカリに焦げ付いてしまうことはなく、階調はなだらかさを維持しながら丁寧に変化している。被写体を中央部に置く構図ならばF4、隅々までシャープに写したい構図ならばF5.6が最もおいしい絞り値といえるだろう。発色はモノコート時代の前期型の方が温調で黄色が強く、ガラスにMC(マルチコーティング)が施された後期型では青みがやや増しクールトーン気味になっている。どちらも色のりがよく素晴らしい発色である。グルグルボケは非常に弱いながらも開放絞りで僅かに出る。しかし、ガウス型レンズのように顕著なレベルではなく、これによってボケが大きく乱れることはない。
万能なBiometarにも欠点はある。一般に球面収差の過剰補正はボケ味が硬くなるという副作用を引き起こす。絞り開放ではアウトフォーカス部の像の輪郭にエッジが残り、場合によっては滑らかさを欠いた煩いボケになる。Biometarもその例外ではない。また、細かいことをいえば、最近の高性能なデジタルカメラで用いた場合に色収差(軸上色収差)を拾い、被写体の輪郭部がハッキリと色づくことがある。拡大表示さえしなければ気になることはないだろう。以下にフィルム撮影とデジタル撮影による作例(無修正・無加工)を示す。



★★銀塩(フィルム)撮影★★
使用機材 Pentax MZ-3 + 焦点距離70mmメタルレンズフード
フィルム Kodak Pro Foto XL100 / Fujicolor V100
F8 Biometar-M42-silver, 銀塩撮影(Fujicolor V100): 前期モデルは発色が温調なのが特徴だ。オールドツァイスの典型的な発色が得られている


F8 MC Biometar-P6-black, 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL 100): 後期型はガラス面にマルチコーティングが施されており逆光耐性が高いため、こういった作例においても力を発揮する。ただし、暗部はストンと黒潰れを起こしてしまう






★★デジタル撮影★★
使用機材 Nikon D3 digital(AWB) + 焦点距離70mm用メタルフード
F5.6; MC Biometar-P6-Black on Nikon D3 digital(AWB):  隅々までこれだけキッチリと写るのだから大したものだ。開放絞りにおける比較画像をこちらに掲示するが、細部がややソフトで柔らかい描写になっている
F8 Biometar-M42-silver on Nikon D3 digital: このBiometarは最短撮影距離こそ0.8mだが、本来は近接撮影に強いレンズである。接写でもシャキッという切れ味は衰えない



F8 Biometar-M42-silver on Nikon D3 digital: モノコート版のBiometarは撮影条件が悪いとコントラストが低下しやや淡い色になる。この作例でも紅葉の葉がやや淡くなっているが、この性質は悪いことばかりではない。暗部が持ち上がり木の幹の黒潰れが回避されている
F4; Biometar-P6-silver on Nikon D3 digital(AWB): こちらもモノコート版のBiometar。階調表現は丁寧で暗部にも粘りがある。逆光でも黒潰れは回避されている




F5.6  MC Biometar-P6-black on Nikon D3 digital(AWB); F5.6でコントラストが最高潮に達し解像力も周辺部まで非常に高いレベルに達する。ここまでカッチリと写ればメインの被写体が四隅にいても不安はない
F2.8 MC Biometar-P6-black on Nikon D3 digital(AWB):  このレンズの短所はボケ癖の悪さである。上の作例のように絞り開放ではボケが硬く、像の輪郭にエッジが残る
F2.8 MC Biometar-P6-black on Nikon D3 digital(AWB): こちらも滑らかさを欠いた煩いボケだ。極僅かではあるがグルグルボケが出ることもある

★最適な画質を得るための絞り値
画像中央部Aと周辺部Bにおいて充分な画質を得るために必要な絞り値を評価した。撮影対象はマンションの壁面で、1.5m離れた位置から面に対して垂直に撮影している。光軸合わせは画像中央部と、その左右端部の3点で同時にフォーカスエイドが点灯するように行っている。なるべく領域Aと領域Bの差がハッキリ出て欲しいので、検査にはイメージサークルの小さいM42マウントのBiometar-M42-Silverを使い、フルサイズ機のNIKON D3で撮影している。


上の写真のAの領域(中央部)とBの領域(周辺部)を拡大表示し、絞り値ごとに並べたのが下の写真だ。画像をクリックすると拡大表示される。ブログの標準ビュアーが邪魔して写真が十分に拡大されない場合があるので、右クリックから画像をいったんPCに保存してご覧いただくのがよい。

この手の画質評価は本ブログでも過去に何度か行っており、毎度お馴染みのものだ。今回のBiometarに関しては予想どうりに、周辺部Bの画質が非常に良い結果となった。
中央部Aは開放絞りで細部の結像が甘いが、コントラストは良いため解像感は良好に保たれている。1段絞るF4では解像力が大幅に改善し細かい凹凸までしっかり解像している。ただし、F5.6まで絞っても中央での解像力の向上は僅かなので、メインの被写体を中央部に置くならF4まで絞れば十分であろう。周辺部Bは開放絞りで像がモヤッとし、コントラストと解像力の低下がみられる。ただし、コマ等による像の流れはみられず歪みも検出できない。過去に行った他のレンズに対する同様のテストの結果と比べ、画質は高いレベルで安定している。1段絞るF4ではコントラストと解像力が急激に改善する。F5.6まで絞ると更に画質は向上し、このあたりで、ほぼ最良の画質になる。メインの被写体を写すのに画像周辺部を用いる場合には、F5.6まで絞るのがよいであろう。

今回入手した3本のBIOMETARのうち最もシャープな像が得られたのは不思議なことにP6マウント版の2本ではなく、35mmフォーマットの銀鏡胴(M42マウント)初期型であった。マルチコーティングのP6用がコントラストがよいものと思い込んでいたので、予想外の結果におどろいた。おそらく、P6レンズのイメージフォーマットにカメラが適合していないからで、アダプターの内側で反射がおこり、これがコントラストを下げているものと考えられる。

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BIOMETAR/XENOTAR型レンズは世の中にどれほど存在するのだろうか。私が掴んでいる情報を以下に列記しておく。他にも多数あるのだろうけれど、できることならば全て知りたい。

Biometar/Xenotar type lens list
●旧東ドイツ製
Carl Zeiss(Jena)
Biometar 2.8/35
Biometar 2.8/80
Biometar 2.8/120
●旧西ドイツ製
SCHNEIDER
xenotar 2.8/210, 2.8/150, 2.8/105(LINHOF), 2.8/100, 2.8/80
xenotar 3.5/135, 3.5/75
xenotar 4/100
Tele-Arton 4/85, 4/90(DKL)
Tele-Arton 5.5/180, 5.5/240, 5.5/270, 5.5/360
Carl Zeiss(Oberkochen)
Planar 3.5/100(Hasselblad)
Planar 1.8/50(Rollei SL35) 1st model
Leitz
Elmarit-R 2.8/90 (1st version)
●ロシア製
KMZ
Vega-3(Zenit-4/5/6)
MMZ/Belomo/AOMZ
Vega-5U 4/105(Enlarging,M42, end of 1960-)
Vega-5U 4/75(Enlarging,M42, end of 1960-)
ARSENAL
Vega-12B 2.8/90(P6/Kiev 60)
MC Vega-28B 120/2.8(P6/Kiev 60)
●チェコスロバキア製
MEOPTA社
Meogon 2.8/80
●日本製
NIKON
Auto Nikkor-P 2.5/105
Micro Nikkor C 3.5/50
Micro-Nikkor 3.5/5cm(Nikon S)
Micro Nikkor 3.5/55
Micro Nikkor 5/70
Macro Nikkor 4.5/65
Nikkor 2.8/75(Bronica)
KOWA
Six 2.8/85
OLYMPUS
Zuiko Digital 2.8/25 前後逆転型
Zuiko Macro 3.5S  3.5/50
Zuiko Auto-Makro 4.5/135(Bellows Macro lens)
MAMIYA
Macro-Sekor 2.8/60(TOMIOKA OEM)Rikenon 60/Yashinon 60と同一
Fujifilm
EBC X-Fujinon 55mm F1.6
RICOH
Rikenon 2.8/60(TOMIOKA OEM)
YASHICA
Yashinon 2.8/60(TOMIOKA OEM)
Yashinon 2.8/45
Yashikor 2.8/50(Leica-L) Yashinon 2.8/45と恐らく同一の光学系
COSINA
Cosinon 2.8/35(CX-2)
KOMINE
Elicar(Vivitar) 2.8/55
Meyer
Orestegor 4/200
FUJIFILM
Fujinon L 2.8/50
Fujinon 2.8/45(Fujica 35M用)
PENTAX
Macro(FA) 3.5/100
SANKYO
W-Komura 3.5/35
Komura 100/2.8(Bronica S)
CANON
Canon 2.2/50(向井二郎氏設計)
Canon 1.8/85(Leica L/ Canon FX/ Canonflex)
TOPCON
Macro-Topcor 3.5/58
メーカー名?
Panagor 3/55

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●変形Biometar/Xenotarタイプ
(Modified Biometar/Xenotar type)
Carl Zeiss(Oberkochen)
Planar 2.8/80, 3.5/75
Planar T* /135(1975? Early model for Contax, 5 elements/5 groups)
Carl Zeiss(Yashica-Contax)
Planar 2/135 (5 elements in 5 groups)
Planar 2.8/100 (Linhof, Inverse Unilite type, 4E in 5G)
Voigtlander
Dynarex 3.4/90(5 elements in 4 groups)
Dynaron 4.5/100(5E in 4G)
Ultragon 5.5/115(変形逆Biometar/Xenotar型)
NIKON
Nikon AiS Nikkor 2/85(5-elements in 5-groups)
AiS Nikkor 1.8/105(5-elements in 5-groups)
MICRO Nikkor 5.6/150(6 elements in 4 groups)
W-NIKKOR 1.8/35(Leica-L)
Ai Nikkor 4/200(5-elements in 5 groups)
Leitz
Apo-Summicron 2/90(5-elements in 5 groups)
PENTAX
SMC PENTAX A 50mmF2(5群5枚)
SMC PENTAX M 50mmF2(5群5枚)
KONICA
HEXANON 2/35(Leica-L)
HEXANON 3.5/200(KONICA F)
UC-HEXANON 35/2(Leica-L)
Avenon MC 28/3.5 Leica-L(6 elements in 4 groups;4群目ダブレット;KOMURA系統)
GOI
VEGA-1 2.8/52(4群5枚, 2+1+1+1,プロトタイプ, Leica-L)
KMZ
VEGA-1 2.8/50(4群5枚, 2+1+1+1,Zenit-M39、プロトタイプ)
ARSENAL
MC VEGA-28 2.8/120(5群6枚)
LZOS/MMZ/AOMZ
Vega-11U/11UR/11U2 2.8/50(Enlarging, 4群5枚、恐らくVEGA-1と同一設計, 1968-)
Agfa
Color-Terinea 4/135(5-elements in 5 groups)
Meyer
Domigor  4/135(5-elements in 5 groups)
Canon
Canon FD 2.5/135(5-elements in 5 groups)
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●Uniliteタイプ
Wray
Unilite 2/50
Cine-Unilite 2/35
Cine-Unilite 1.9/25, 1.9/50, 1.9/150
Leitz
Colorplan 2.5/90
Canon
Canon 1.8/85(Unilite?; Leica-L; 向井二郎氏設計)

以上、皆様のご協力で拡大増殖中です!(上記リストの参照と利用は自己責任でお願いします)

他にもご存じのレンズがありましたら、掲示板等でご教示いただければ幸いです。参考にさせていただきチャンスがあれば5枚玉特集に編入したいと思います。

♥謝辞 acknowledgment ♥
情報提供に感謝いたします。
JYさん、マイヨジョンヌさん、Mr Keyser Soze、lensmaniaさん

2011/11/28

Announcement

たいへん長らくお待たせしていました。
トロニエの魔鏡2
不遇の最高速レンズ
4か月ぶりに掲載を再開しました。
こちらからご覧ください。

2011/11/17

Dallmeyer Dallon Tele-Anastigmat
6 inch(152.4mm) F5.6 (改M42)



戦前に生産されたダルマイヤーを
現代のカメラにマウントする!!
世の中には戦前のレンズを愛し、改造して現代のカメラで用いる猛者が国内外を問わずウヨウヨといる。戦前のレンズはシャキッとは写らないものが多いし、発色は淡白になりやすい。ピントは来ているのか来ていないのか定かでない時があり、開放絞りで良く写るのは中央部だけ。彼らはいったい何を望んで、そこまで古いレンズに走るのだろうか。彼らのブログをチラッと覗き見る限りでは、内容は至って真面目。特に変態というわけでもなく自虐プレーを楽しんでいるわけでもない。猛者達に共通しているのは、コントラストやシャープネスといった現代のレンズが得意としている描写性能への執着を捨て、画質的に厳しいはずの古いレンズから特別な何かを得ているようなのである。もしかしたら、彼らは画質として破たんするギリギリの境界線上にオールドレンズ遊びの「究極」を追い求めているのではないだろうか。今回の一本は英国の老舗レンズメーカーDallmeyer(ダルマイヤー)社が戦前の1930年代に製造したテレポートレンズのDallon(ダロン) 152㎜ F5.6である。
Dallonの鏡胴は真鍮でできており耐久性が高くズシリとした重量感がある。ガラスにはコーティング(光の反射防止膜)がないため逆光撮影ではフレアが盛大に発生する。屋外での使用時はコントラストが低下気味になる
このレンズはイギリスから入手した時点で、既に前のユーザーがM42マウントに改造を施していた。イメージサークルは35㎜フォーマットをカバーし、バックフォーカスが長いので、一眼レフカメラでも支障なく使用することができる。ダルマイヤーの製品はシリアル番号から製造年代を照合するためのデータベースが整っていないようで、現在ネットに公開されている情報から追跡調査ができるのは1910年以前に生産された最も古い製品のみとなる。本品の製造時期も正確には知ることができない。ただし、1935年~1938年に製造されたたExaktaやNacht-Exaktaというカメラの多くにシリアル番号の近いダルマイヤー製レンズが搭載されているので、そのあたりの時期なのであろう。Dallonのブランド自体は1927年に刊行された浅沼商会のカタログ「Catalogue Photo Supplies 1927:写真機械材料目録」で確認できるので、光学系が設計・開発されたのはそれよりも前となる。
Dallonの光学系は2群4枚で古典的なBis-Telar型(1905年)の望遠基本形である
絞り値 F5.6-F32, 最短撮影距離 約2.5m, 重量(実測) 435g, 絞り羽数 14枚,フィルター径 21.5mm前後。レンズには真鍮素材の純正フードとキャップがついていた。レンズが生産されたのは、おそらく1930年代半ばから1939年頃にかけてであろう

★創設者J.H.Dallmeyer
John Henry Dallmeyer(1830-1883)は1830年にドイツWestphaliaのLoxtenに地主の息子(次男)として生まれたドイツ系英国人である。幼いころから科学の才能に恵まれ、1951年に英国ロンドンに来ると、Andrew Rossが1830年に設立したレンズと望遠鏡の会社で職を得た。DallmeyerはRossから優秀な部下として一目置かれていたが同社における待遇に満足することができず、また英語が堪能ではなかったことや控えめな性格が原因で、同僚達からは「紳士」と呼ばれ揶揄されていた。結局、組織に馴染むことができずフランスとドイツに拠点を持つコーヒー輸入業者に転職してしまう。しかし、一年後にRossがDallmeyerを連れ戻すため説得、一般労働者ではなく技術顧問として再びRossの会社に迎え入れた。その後、Rossの深い信頼を得たDallmeyerは彼の次女ハンナ・ロスと結婚する。1859年にRossが死去すると、その遺産の1/3と望遠鏡工場を相続、1860年にDallmeyer社(英国ロンドンが拠点)を創設し写真レンズの製造に着手した。彼はレンズの研究と改良に熱心で、1862年に色消しトリプレット、1866年には広角レクチニリアとラピッド・レクチリニアを開発し、風景撮影用レンズと人物撮影用レンズの分野に大きな功績を残した。ロシア政府は彼にORDER of St STANISLAUS賞を、フランス政府はCHEVALIER of the LEGION of HONOUR 賞を与えている。晩年のDallmeyerは病気の療養に専念し、会社は次男のトーマス(Thomas Rudolphus Dallmeyer)が引き継いでいる。その後、1883年に療養のための船旅の途上、ニュージーランド沿岸の船上で死去している。


★入手の経緯
今回紹介するDallonは2010年9月にeBayを通じて英国ロンドンの個人から入手した。出品時の商品の解説は「M42マウントに改造されたDallmeyer Dallon。ドリーミーなボケが得られ。ビデオワークにも適している。ヘリコイドリングはスムーズ、絞り羽にオイル染みはなく、目視できるクモリやカビはない。クリーニングマークもない。レンズは現在、コレクターが所持しており、コレクターは資金調達のために手放そうとしている。」とある。戦前のレンズにそんなきれいな品が残っているはずはなく、この解説には初めから半信半疑であったが、出品者は返品に応じるサインをだしていたので入札してみることにした。商品は200ドルの値からスタートし、これに4人が入札した。締切日の前日に390ドル(3万円)で入札し放置したところ、次の日に353ドル(2.7万円)で落札されていた。Dallmeyerのレンズは希少性が高く流通量が少ないため、Dallonについても正確な相場は不明だが、状態の良いものには800ドルの値がつき売られている。人間でいえば75歳を超えるお爺さんであり、経年劣化のシミやしわが出ていてあたりまえ。ピチピチでプリプリの爺さんを期待するのは大間違いであろう。かなりの痛みがあることは覚悟していたが、2週間後に届いた品は驚いたことに実用レベルの品であった。もちろん、強い光を通してチェックすれば、いくらでも粗はある。前玉表面にスポット上の薄い汚れ(多分、過去にカビを除去したあとであろう)があり、経年によるヤケもでていた。クリーニングマークも少々、ホコリの混入も当然あった。しかし、バルサムが切れておらずクモリも出ていない。イメージクオリティを大きく損ねる末期的な劣化症状がなく、まだ現役のスーパー爺さんである。

こんなフードの留め金具にまで特許申請がおこなわれているとは・・・。権利の国・英国の気質が伝わってくる


★実写テスト
私のような戦前レンズのビギナーには画質的に優位なテレポートレンズで正解だったのかもしれない。Dellonは設計に無理がなく口径比も開放絞りでF5.6と控えめであることから、周辺部まで安定した画質を維持し、戦前のレンズにしてはなかなかよく写る描写力を実現している。開放絞りでもピント部にはしっかりとした芯と解像力があり、戦前のDallmeyer製レンズによくみられる像の滲みやハロなどは全く出ない。階調表現が柔らかくコントラストが低いため、淡白で古めかしい発色になるなど、古いレンズらしい、ゆる~い特徴がしっかりと出る。ただし、赤や黄色の原色が入ると、その部分だけが急に鮮やかな色づきをみせ、ある種のメリハリを生むカラーバランスはハイライト部でやや赤みを帯びる点が特徴で、全体としては温調。古いレンズならではの異質な雰囲気を漂わせる癒し系レンズといえるであろう。ただし、ガラス面にコーティング(反射防止膜)がないことから逆光撮影にはきわめて弱く、屋外では常にフレアを気にしながら撮影することになる。F5.6の口径比には不満を抱く人もいるかもしれないが、考えてみれば焦点距離は152mmもあるので、有効口径は50mmの標準レンズに換算した場合にF1.82となり、ボケを堪能するには充分だ。ボケ味は硬く、時々ザワザワと煩くなることがあるが、2線ボケやグルグルボケなどが目立つようなことはない。以下にフィルム撮影とデジタル撮影による無修正・無加工の作例を示す。

★フィルムによる撮影による作例★
F5.6(開放) 銀塩(Fuji S400)  こちらは最短撮影距離での作例だ。ピントがキッチリ合えばこのとおりにキレのある撮影結果が得られる。 発色はやや赤みを帯びる傾向がある
F5.6(開放) 銀塩(Kodak SG400) コントラストが低く古めかしい発色だ。現代のレンズではこの色味はだせない。肌の色がやや赤みがかっている

F5.6(開放) 銀塩(Kodak SG400) ボケ味に不思議な魅力があり、形が崩れず、まるで絵画の世界だ
F8 銀塩(Fuji S400) 目に優しい緩やかな階調変化になっている。とても良く写るレンズだ

F5.6 銀塩(Fuji S400) 深いフードを装着しているし太陽光が視野にはいっているわけでもないのだが、逆光になった途端に、このとおりの猛烈なフレアとなる。大判用に設計されたレンズなので、一眼レフカメラで用いた場合にはミラーボックス内の内面反射光が問題になる。おそらくこれが原因なのであろう。回避するにはステップダウンリングでイメージサークルをトリミングしなければならない。ボケ味はザワザワとして硬めだが形が崩れずにユラユラとしている。赤の発色がビビットだ
F5.6(開放)  銀塩(Fuji S400)  フレアを生かした淡い作例を狙うには好都合なレンズといえるだろう

★デジタルカメラによる作例★
F5.6 NEX-5 digital, AWB:
F8 NEX-5 digital, AWB: デジタル撮影においても少し赤みがかった発色が得られている
F8 NEX-5 digital, AWB こちらの作例でも黒潰れが回避されている。階調表現力の高い優れたレンズだ

2011/10/29

ENNA München Edixa Color-Ennalyt 50mm F1.9(M42)

オールドレンズ界のB級グルメ!
ほんのりと赤みを帯びる独特の発色が魅力
古いレンズの描写には現代の万能なレンズにはない個性、あるいは性格のようなものが表れる。この性格を指して世間一般には「レンズの味」と呼ぶことになっている。ただし、一概に「レンズの味」と言っても、ボケ味、結像具合、発色など実際には様々な要因を指しており、これらはレンズの設計や製造時期ごとに少しずつ異なる特徴を示している。しかし、このうちの発色についてはメーカー毎にある程度一定の傾向が表れるようで、レンズの味をカラー特性で区分けしメーカー名を割り当てるといったラフなマッピングができるようなのである。シュナイダーやキャノンFD、ローデンストック等の古いレンズには薄らと青味を帯びる爽やかでクールな発色傾向を持ち味とするものが多く、ツァイスやフォクトレンダー、ロシア系レンズでは黄色味と若干の赤みを帯びる温調で華やかな発色傾向を示すものが多くある。一方、ENNA社の生産したレンズには強い赤みを帯びる独特な発色特性を示すブランドがあるようなのだ。この情報のネタ元であるNocto工房のスタッフM氏によると、Ennalyt 85mm F1.5という1960年代に製造された中望遠レンズの作例にハッキリとした赤みがのり、優雅な発色特性が得られたという。興味深い情報なので自分の目で確かめようとeBayでEnnalytを探したところ、レンズは直ぐに見つかった。しかも、1200~1500ドル以上もする高級品である。Biotar 1.5/75だって800ドルもあれば状態の良い個体が手に入るし、現行品のコシナ製Planar 1.4/85だって1250ドルあれば新品が買える。なぜこんなに高いのか?何か人気の秘密でもあるのか?そんな疑問に対するさまざまな憶測が頭の中に浮かんでは消え、一人で盛り上がっているうちにますます興味が湧いてしまった。しかし、とても私には買えない高価なレンズなので、ここはやや口径比の控えめな姉妹品のColor-Ennalyt 50mm F1.9を狙う事にし、さっそくeBayのサーチアラートに登録して気長に待ってみた。ところが、数週間が過ぎ数カ月が過ぎても一向に出品される気配がない。このレンズは中古市場になかなか流通しないレアなレンズのようである。ようやく見つけた1本は米国カリフォルニアの中古カメラ業者の品であった。チャンスを逃すまいと250ドルで入札を試みたものの、コロッと競り負け、何と405ドルで他者の手に渡っていった。Zeiss Pancolar 1.8/50だって150ドルあれば買えるのに、どうしてこんなに高いのだろう。

かつて不人気だったレンズほど現在は相場高に
カメラの生産部門を持たない中堅レンズメーカーにとって、標準レンズは単体で発売してもさっぱり売れない難しいジャンルであった。標準レンズはカメラとセットで売られることが多く、カメラメーカーやバイヤーズブランドとの連携による販売が交換レンズ市場のシェアの拡大に直結したのだ。戦後のカメラ市場で消費者の多くが好んで手に入れたのはツァイスやシュナイダーなど老舗有力メーカーの高級ブランドや安く性能の良い日本製レンズの組み合わせであり、SCHACHT,ISCO,ENNAなどブランド力のやや弱いドイツの新興中堅メーカー勢が標準レンズでヒット商品を生み出すことは極稀であった。この不人気ぶりは、やがてこの種のレンズが稀少価値を持つ一大要因となった。明るく表現力の豊かな標準レンズは製品としての魅力に富み、デジカメ全盛時代の到来とともに再び萌え上がっているレンズグルメ達の物欲によって、オールドレンズ界のB級グルメとして人気を博するようになったのだ。今回紹介するCOLOR-ENNALYT 50mm F1.9もそうした類の一本で、1950年代後半にドイツカメラの大衆機Edixaに搭載する交換レンズとして発売されたが、当時は全く売れず知らぬ間に消滅していった不人気ブランドの筆頭だった。中堅メーカーは主力商品を広角レンズや望遠レンズに据え、2本目を安価に揃えたいという消費者のニーズをターゲットにしていたため、標準レンズに対してモデルチェンジを活発に繰り返す事はなかった。こうした事情がColor-Ennalytの稀少価値を更に押し上げ、現代になって高値で取引される大きな要因となったのである。

重量(実測) 248g, フィルター径 48g, 絞り値 F1.9-F16, 絞り羽根 7枚, 最短撮影距離 0.5m, 光学系 4群6枚ダブルガウス型, 焦点距離 50mm, 絞り機構は半自動絞りで、マウント面から突き出したピンと鏡銅側面の開放レバーによって制御する。マウント面のピンを予めプッシュしておけば手動絞り機構としても使用できるようになる。対応マウントにはM42とexaktaがある。Color-Ennalytは後玉が大きく飛び出しているため一眼レフカメラではミラーに干渉するモデルがある。APS-C機やミラー駆動がスイングアップ式の銀塩カメラminolta X-700では無限遠でもミラー干渉しなかった。
Color-Ennalytの大きなポイントは、50mmの焦点距離とENNA製レンズとしては珍しい銀鏡銅であろう。1950年代はまだ一眼レフ用ガウス型標準レンズの焦点距離が技術的に55mmや58mmで設計されていた頃であり、いち早く50mmのレンズを登場させたところにENNAの社風がよく表れている。ISCO製レンズにも良く似たデザインのモデルがあるが、この種の銀鏡銅はブラックカラーのカメラに搭載すると、存在感が引き立てられて上品にみえる。絞り開放レバーの指を掛ける部分が小さな赤の革で装飾されているなど、この時代のENNA製レンズは細部までよく造られている印象だ。残念なことに、1960年代以降に登場したENNA製レンズの多くは徹底したコスト削減の影響により、機構的にも機能的にも簡素な造りになってしまった。


入手の経緯
2011年9月にeBayを介して米国アイオワ州の中古カメラ業者リンウェア(取引件数900件ポジティブ99.8%)から即決価格220ドル+送料35ドルにて落札した。商品に対する解説は「外観は素晴らしい状態。フォーカスリングは軽快で適確。絞り羽はマニュアル機構で作動する。ガラスはクリーンでクリアだが、薄いクリーニングマークが2本ある。イメージクオリティには影響ない。前後のキャップがつく」とのことであった。同時に出品されていた他の商品に対する解説も悪いところを具体的に示しているので、この業者を信用することにした。本品はENNA社の製品の中でも稀少価値が高いブランドなので、コレクターの収集対象になっている。状態が良い品には350ドル以上の値がつくこともある。届いた商品には後玉端部のコーティング面にやや染み状のヤケ(経年劣化)がポツポツと見られた。しかし、実用的には申し分なく、安く手に入れることができたので、これで妥協することにした。お約束どうり前玉にはクリーニングマークが数本あったがイメージクオリティには影響なさそうだ。


撮影テスト
使用カメラ minolta X-700
フィルム Kodak Elite Crome 100(ポジフィルム) / Fujicolor Reala 100 and Kodak Super Gold 400(ネガフィルム)
Color-Ennalytには鮮烈な赤の発色を期待していたが、どうやらパワフルな赤というよりは日本の伝統色にあるような雅な赤に近い印象だ。このレンズの撮影結果にはハイライト側が赤みを増しシャドー側が青みを帯びる傾向があるようで、人の肌や白っぽい壁面などがほんのりと赤みを帯びたり、黒髪が茶髪に変色する。一方、照度の強い晴天下では日蔭の部分が青みを帯びる事が多い。面白い発色が得られたのは髪の毛などの黒いものが太陽光をうけるときで、反射によるテカリがハッキリとした紫色に変色した。また、日蔭の中にある白や灰色のものが淡く幻想的な紫色に着色される事もあった。緑は赤と補色の関係にあるためかビビットに再現されるようだ。デジタルカメラ(nex-5)でも撮影を行っているが、どういうわけだかフィルムの時のようには赤みが出ず、ノーマルな発色となるケースが多かった。
 ピント面はスッキリとしており開放絞りでも結像に甘さはない。ボケ味は穏やかで開放絞りでもグルグルボケや2線ボケが顕著に出ることはなかった。よくまとまったレンズだ。以下作例。




    
F2.4銀塩(FujiColor Reala Ace 100 ネガフィルム)  アウトフォーカス部で太陽光の反射がうっすらと赤みがかっている

F8 銀塩(FujiColor Reala Ace 100 ネガフィルム) 深く絞り込むと水面からの太陽の反射光(点光源)が赤く色づいてみえる。このレンズの発色特性の原理を知る手掛かりを含んでいる一枚だ
F1.9 銀塩(Kodak GOLD 400 ネガフィルム) こちらは室内が白色蛍光灯で、背後から日光が入っている。黒髪の変色が目立ち、前髪のテカリが青、後髪は日本の伝統色にあるような雅な紫色になっている。開放絞りでもこれだけスッキリとうつれば合格点だ
F?  銀塩(FujiColor Reala Ace 100 ネガフィルム)  解像力もなかなか高い。背景のボケとの相乗効果によって浮き上がるような立体感が生まれている

F2.8 銀塩(Kodak EBX 100, ポジフィルム)  こちらはポジフィルム。シャドー部が青みがかるのはこの時代の西独製レンズによくある傾向だ。しかもこのレンズの場合にはすこし紫色っぽくて綺麗だ
左F1.9 銀塩(FujiColor Reala Ace 100 ネガフィルム)/ 右F1.9 銀塩(FujiColor Reala Ace 100 ネガフィルム) 左はごくノーマルな発色が得られたケースで、右は肌や石垣が僅かに赤みを帯びたケースだ。ピンボケはいつものこと。髪の毛は茶髪に変色している。Color-Ennalytを用いた作例では、こんな色の肌や髪の毛になることが多かった。どんな条件によってこのような差異が生みだされるのかは、まだよく把握できていない。上品な赤ではないだろうか

F8 銀塩(Kodak GOLD 400 ネガフィルム) うひゃ~。石材の表面や階段のステップが病的な紫色に変色している。人の顔が赤い
F2.8 銀塩(Kodak ポジ EBX 100, daylight)  こんどはポジフィルム。こちらの作例でも髪の毛や背景の葉に紫が出ている。シャドーの青みが赤みと配合するためだろうか。熟れたイチジクのような色だ


F1.9 銀塩(Kodak GOLD 400 ネガフィルム)  ボケ味をテストした作例。ピント面はスッキリとしており、結像に甘さは無い。開放絞りから球面収差をキッチリと補正するフルコレクションタイプのレンズのようだ

F1.9 銀塩(Kodak EBX 100, ポジフィルム) こちらも開放絞りでボケ味をテストした作例。被写体がソフトにみえるのは単なるピンボケ。像の流れもほとんどなく、ボケ味はなかなか良い

左F1.9 銀塩(Fuji Color Reala Ace100ネガフィルム) / 右F2.8 銀塩(Fuji Color Reala Ace100ネガフィルム) このレンズで撮ると緑がとても鮮やかに見えることがある。こちらの作例にも、ほんのりとした微かな赤みがのっている