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2024/12/25

ZUNOW OPT. Tele ZUNOW Cine 38mm F1.9






試写記録:dマウントレンズの活路を開くリミッター外しとマウント変換

ZUNOW Opt., Tele ZUNOW Cine 38mm F1.9

都内某所にあるオールドレンズ店の店長にこんなレンズがあるのだけれどデジタルカメラで使えるように改造できないかと相談されたのが、今回ご紹介するズノー光学(ZUNOW OPT)の8mm映画用レンズTele ZUNOW Cine 38mm F1.9です。ズノー光学と言えばかつて存在した日本の光学メーカーで、1930年に設立された帝国光学研究所を前身としています。1954年に帝国光学工業、1956年にズノー光学工業に社名変更し、1961年に倒産しヤシカに買収され消滅しました。同社のレンズはコレクターズアイテムとなっており、ライカ判レンズには現在100万円もの値がつきます。今回ご紹介するレンズはYashuca-8という8mmシネマ用カメラの交換レンズとして1960年頃のズノー光学倒産期に市場供給されていたモデルです。使用できるカメラが限られていることから、現在は中古市場でかなり安い値段で取引されています。同じレンズがヤシノンブランドでも流通しており、ズノー光学がヤシカに吸収された後も、ブランド名を変更し市場供給が続いていた事がわかります。レンズの構成図は見つかりませんが、前群2枚・後群2枚の4群4枚構成です。この製品を手にしたのも何かの縁ですし、dマウントのままでは活躍の場も無いでしょう。活路を拓くにはリミッターを外しイメージサークルを拡大させるとともに、ライカマウントなど汎用性の高いマウント規格に変換するのが有効です。改造方法と試写記録を公開しておくことにしますので、どなたかのお役にたてれば幸いです。

ZUNOW, Tele Zunow Cine 38mm F1.9: 重量(実測)135g, フィルター 径30mm, 絞り F1.9-F22, 絞り羽 10毎構成, 最短撮影距離 3 feet(約0.9m),  8mmシネマムービー用(dマウント), 設計構成 4群4枚, 製造 1960年代初頭 
  

改造レシピ

私がおすすめするマウント改造方法は下の写真のように、レンズのマウント部分とヘリコイド部分を取り外し、光学ユニットの鏡胴にM33-M42変換アダプターリングを取り付け、そのままM42-M39ヘリコイド(10-15.5mm)に搭載、ライカスクリュー(L39)マウントレンズとして用いることです。マウント部分を取り外すには側面のイモネジを外せばよいだけです。マウント部を外すと、こんどはヘリコイドを固定している真鍮製のリングが見えますので、それも外します。ライカL39マウントに変換後は各社のミラーレス機で使用できます。イメージサークルに制限をかけていたマウント部分が取っ払われ(リミッター外し)、定格よりも広いイメージフォーマットをカバーできるようになりました。改造後はAPS-C機でもケラレません。

改造に要した部品は写真で提示した2点のみです。鏡胴に取り付けるM33-M42アダプターリングは内側のネジ山を棒ヤスリで削り平らにしておき。そのあとエポキシ接着剤で固定します。固定時は光軸ズレが生じないよう工夫してください
 

撮影テスト

今回はAPS-Cフォーマットの富士フィルムX-PRO1で撮影しました。はじめにお約束ですが、四隅の像は本来は写らない部分ですので、画像の乱れが顕著に出ます。中央は開放からシャープでコントラストも良好ですが、像面湾曲のためピントの合う部分が四隅にゆくほど被写体前方側に外れてゆきます。近接撮影やポートレート撮影ではあまり問題にはなりませんが遠景を撮ると四隅のピンボケが目立つようになります。また、遠方撮影時にはコマ収差によるフレアも出始めコントラストが低下します。ボケはまるで嵐のようで、ピント面の背後には強いグルグルボケ、前方には穏やかな放射ボケが出ます。光量落ちは全く問題ありません。イメージサークルにはまだ余裕があります。ただし、フルサイズセンサーを完全にカバーすることはできず、四隅でしっかりとケラれました。

F1.9(開放) X-PRO1(WB 曇天, FS S)
F1.9(開放) X-PRO1(WB 曇天, FS S)


F1.9(開放) X-PRO1(WB 曇天, FS S) 遠方撮影時にはコマ収差が出てくるみたいです。点光源のボケが尾を引き、開放では少しフレアっぽくなります





2024/11/24

Ichizuka Opt. Telephoto Cine KINOTEL 3inch(76.2mm) F1.5

 

画角が欲しい、魔力も欲しい。欲ばりな人が手に染めるテレ系レンズのリミッター外し

Ichizuka Opt. Kinotel 3inch(76.2mm) F1.5 C-mount

今回取り上げるKinotel(キノテル)のように16mmフォーマットのシネマ用レンズにはハイスペックな製品が数多くあり、3inch F1.5ともなると目が離せません。それにも関わらす値段は数万円程度と手頃なので、つい手を出したくなるのですが、16mmのシネレンズで問題なのはイメージサークルが小さいことです。デジタルカメラで使用するとケラレが生じる可能性が高く、使えるカメラは限られてしまいます。ケラレの出る原因は多々ありますが、望遠系レンズの場合には後玉のすぐ後ろに設けられているフレアカッターと呼ばれる反射板が主な要因です。今回「リミッター」と呼んでいるのはこの部分の事で、画質的な理由から反射板で光路を狭めイメージサークルのサイズに制限をかけているわけです。これを外せばイメージサークルが拡大し、より広い受光部(フィルムやイメージセンサー)をもつカメラでもケラれる事なく使えるようになります。望遠系レンズの場合には潜在的に大きなイメージサークルを持っていますので、運が良ければAPS-Cフォーマットやフルサイズフォーマットなどデジタル一眼カメラのスタンダードな規格でも、ケラレることなく撮影できます。早速、リミッター外しを試してみたところ、KinotelではAPS-Cフォーマットまでケラれることなく使うことができました。

後玉付近に設けられたフレアカッター。今回は写真内の赤線部分をカットしました。フレアカッターをつけたままですと、イメージサークルはAPS-Cセンサーをカバーせず、マイクロフォーサーズセンサーまでが限度です。フレアカッターを外すとフルサイズセンサーこそギリギリでカバーできませんが、APS-Cセンサーは余裕でカバーできるようになります


今回取り上げるのは、COSMICARブランドで知られる市塚光学が1950年代後半から1960年前後あたりで製造した16mmシネマ用望遠レンズのkinotel 3 inchです。レンズの設計構成は公表されていませんが、おそらく前群は2+1の2群3枚でペッツバールの前群のような分厚い2枚の貼り合わせレンズの後ろに正または負のメニスカスが配置されており、後群は普通のゾナーと思われる1群2枚です。構成図などの情報をお持ちの方がおりましたら、お知らせいただければ助かります。

光の反射から推測した構成図(スケッチ)。左が被写体側で右がカメラの側です。空気境界面の曲率は概ね合っていますが、内部の張り合わせ面の向きは肉眼による判断なので、確実ではありません。G2のメニスカスが正なのか負なのかもわかりません

 

市塚光学

市塚光学工業株式会社(Ichizuka Opt.)は1951年より東京都新宿区下落合2丁目にてシネマムービー/CCTV用レンズを生産していた光学機器メーカーです[1]。主力製品は8mm / 16mmフォーマット用レンズで、主に米国と日本に市場供給されました。OEM生産にも積極的に取り組む傍ら自社ブランドのCosmicarや米国ミモザ社の登録商標であるKinotar/ Kinotelでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。同ブランドには広角のWide-Angle KINOTAR、標準レンズのKINOTAR、望遠のKINOTEL、明るいハイエンドモデルのProfessional KINOTARなどがあります。同社は1967年にCosmicar Optical Co.に改称、COSMICARブランドやIZUKARブランドで産業用CCTVレンズを供給しますが、その後は経営不振に陥り旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の子会社となっています。旭光学の傘下ではCOSMICARブランドでCCTVレンズを生産し、現在もRICOHイメージングの傘下で生産を続けています。

 

参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告

[2] United States Patent and Trademark Office

[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

 

Ichizuka Opt. Telephoto Cine KINOTEL 3inch F1.5: 重量(実測)503g, 絞り羽根 16枚構成, 絞り F1.5-F16, 最短撮影距離 約1m, Cマウント




入手の経緯

2024年6月にeBay経由で米国のカメラ屋から220ドル+送料50ドルで落札しました。最近の北米からの送料は異様な程に高いです。鏡胴は傷やスレが目立ちましたがガラスの状態は非常に良好でした。ピントリングの回りが重いのでヘリコイドグリスを自分で交換したのですが、なかなか改善しません。ヘリコイドネジの素材が真鍮なので、まぁこんなものなのかもしれません。レンズは米国市場でのみ流通したと思われます。eBayでの相場は200ドルから300ドル程度と手頃な値段で取引されています。ただし、流通量は少な目なので、実際に手に入れるとなると時間がかかるものかと思います。

 

撮影テスト

F1.5の開放でも滲みはなく、スッキリとした線の太い描写で、コントラストの良さにはたいへん驚かされます。さすがに写真の四隅にゆくにつれ像面湾曲が目立ちますが、良像域は当初思っていたよりも広く、少し絞れば普通に使えるレンズとなります。ぐるぐるボケはまぁまぁ目立つ具合に出ています。中央と四隅の画質的なギャップが大きいので、ヌケの良さと相まって、面白い写真が撮れると思います。

F2 Fujifilm X-PRO1(WB:日光)

F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日陰)

F2 Fujifilm X-POR1(WB:日光)























F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)

F2  Fujifilm X-Pro1 (WB:日光) 像面湾曲のためピントが合う部分が平面ではありません。ピントは車の左のライトですが、手前のオートバイにもピンとが合っています













F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)
F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光) 像面湾曲の激しさを物語るもう一つの写真です。中央にピントが合っていますが次の瞬間ワンコが手前に飛び出します(下の写真)









F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光) ところが、四隅でもワンコにピントが来ています。ピントの合う像面が曲がっているのです

F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)








F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)

F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)
F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)

2024/03/10

LOOMP (LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) MACRO 75mm F2

LOMOのヘビー級マクロ・シネレンズ
LOOMP(LOMO) OKC1-75-1 (OKS1-75-1) 75mm F2  OCT-19 mount
ロシア製シネレンズにマクロ撮影用モデルがあることは、流通品を何度か目撃していましたので、認識はしていました。私が目撃した製品個体はPO2-2M、OKC1-75-1、OKC6-75-1の3製品で、いずれも焦点距離が75mmの35mm映画用レンズです。これらは撮影フォーマットがAPS-Cに近く、中望遠レンズというよりは望遠レンズのカテゴリーに入りますので、本来なら不人気のジャンルです。しかし、ライカ判(フルサイズセンサー相当)でもダークコーナーの出ない製品であることからポートレート撮影に流用できるため人気があります。さらにレンズがマクロ撮影仕様ともなれば流通量は少ないため、高額で取引される傾向があります。ただし、今回のレンズはデカさと重さでコレクターには嫌煙されているのでしょう。10万円前後の比較的買いやすい価格帯で流通しています。京都のブログ読者の方から1本お借りする機会が得られましたので、軽くレポートすることにしました。
お借りしたのはLOMOの前身団体である LOOMP(レニングラード光学器械工業企業体連合)が1964年代に製造したシネマ用マクロレンズのOKC1-75-1です。このレンズはそれ以前から存在していたKMZ PO2-2M やLENKINAP PO60の後継モデルにあたる製品です。レンズのヘリコイドは巨大で、金属製のため重量は何と865gもあります。ヘリコイドを完全に繰り出した時の全長は最も短い時の2倍にもなり、撮影倍率(最大値)は1.4倍に達します。センサーサイズと同じ幅の被写体を最短撮影距離で撮影すると、写真の幅の1.4倍の大きさで写ることになります。

OKC1-75-1(MACRO) 75mm F2: 重量(実測) 865g, 最大撮影倍率 x1.4, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, F2-F16, 絞り羽 16枚構成, 最短撮影距離 30cm前後, 定格撮影フォーマット Super 35mm(APS-C相当), マウント規格 OCT-19, Pコーティング(単層), 最大撮影倍率 約1.4倍
 
焦点距離75mmのシネレンズと言えば、1940年代中半に開発されたPO2-2がロシアでは始祖的な存在です。その後はレニングラードのLOOMPやLENKINAP工場でPO2-2をベースとする改良モデルのPO60(1950年代中半~)やOKC1-75-1(1960年代~)が開発されます。これらはいずれも2つの貼り合わせ面を持つ4群6枚構成のレンズで(下図)、レンズエレメントの形状や各部の寸法が似通っていますので、PO2-2からの直接の流れを汲んだ製品と言って間違いありません。
PO2-2とOKC1-75-1の構成図でGOIレンズカタログからのトレーススケッチです
 
今回のレンズはマクロ撮影用の特殊仕様ですが、ヘリコイドの繰り出し量が大きいだけで、光学系は通常撮影用のOKC1-75-1と同一であるというのが自然な解釈です。根拠はありませんが、GOIのレンズカタログにはマクロ版のOKCシリーズは掲載されていませんし、今回のレンズ個体の銘板にマクロモデルであることを主張するような表記は見当たりません。文献がないので、あとは撮影で判断するしかありません。マクロ撮影用に再設計された光学系であれば収差変動を考慮し補正の基準点が近接側にあるため、遠方撮影時には開放で少しフレアが出たり、背後のボケがゴワゴワと硬めのボケ味になる事が予想されます。
さて、届いたレンズを手に取り、デカさと重さ、金属とガラスの塊のような鏡胴に思わず笑ってしまいました。しかし、驚くのはまだはやく、ヘリコイドを回すと更に一回りも二回りも巨大化するのです。シュタインハイルのマクロレンズも見事な存在感でしたが、ここまでは重くはなかったです。
 
作成したOCT-19 to LEICA Mアダプター
レンズはOCT-18の後継にあたるOCT-19というマウント規格です。この種のレンズをデジタルカメラで使用するためのアダプターは存在するにはしますが、M42やライカなど汎用性の高いマウント規格に変換するアダプター製品が見当たりません。今回は様々な部品を組み合わせることで、ライカMマウントに変換するためのアダプターを自作しました。部品の組み合わせを下の写真に示します。当初予定していたM42アダプターの制作は途中で断念しました。マウント側の間口が後玉の直ぐ後ろに来てしまい、光の反射が画質に悪影響を及ぼすと判断したためです。
 
自作OCT-19マウント・アダプターの部品構成。これで微かにオーバーインフとなります
 

入手の経緯
レンズは京都のブログ読者からお借りた個体で、このレンズを使うためのOCT-19アダプターを自作で作っほしいというご相談とともに送られてきました。私はプロではないので、この手の依頼は原則受けないのですが、このデカいレンズには興味がありましたので、お引き受けすることとしました。eBayでアダプター製品を見回しますと、OCT-19マウントのアダプターは200ドルから300ドルと高値で取引されています。ただし、汎用性の高いM42やライカマウントに変換するようなアダプター製品はまだ存在しないようです。レンズの方はもともとeBayで700ドルで売られていたものを値切り交渉により525ドルで手に入れたとのことです。ガラスの状態は傷、カビ、クモリ等なくたいへん良好でした。私も値切り交渉は時々しますが、そこまで安くしてもらった経験はまだありません。せいぜい10~15%引きくらいまでです。
 
撮影テスト
高性能なレンズです。開放から滲みはほぼ見られず、ピント部には十分な解像感があります。開放での画質はやや軟調気味で発色もやや淡くなるものの、1段絞ればコントラストは向上し、更にシャープな像が得られます。ただし、絞っても階調は硬くはなりませんので、ここはオールドレンズならではの長所かとおもいます。背後のボケはポートレート域でも比較的柔らかく、綺麗に拡散しています。こうした描写の特徴からは、やはりこのレンズはマクロ用に設計されたものではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると感じさせられます。
定格イメージフォーマットは35mm映画用フォーマット(APS-C相当)ですので、規格外のフルサイズ機で用いると、通常は画角内に写らない広い領域が写ります。しかし、グルグルボケや放射ボケは全く見られませんし、ピント部も像は四隅まで安定しています。歪みは樽型ですがフルサイズ機でも目立たないレベルでした。良像域が広く、画質的にかなり余裕のある設計のようです。
続いて近接撮影ですが、開放では色収差による滲みが出ているものの2段も絞れば滲みは完全に消え、十分な解像感とスッキリとしたクリアな像が得られます。絞る事が基本のマクロ撮影ですので、開放での滲みは大した弱点にはならないでしょう。
 
F4 Nikon Zf (WB:日光)  蛇の影が現れました!


F2(開放) Nikon Zf(WB: 日光Auto) 今日もこの子がモデルです
F5.6 Nikon Zf(WB:日光Auto) 近接域の写真も一枚どうぞ。開放では少し色収差の滲みがでましたが、少し絞ると滲みは完全に消えます
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 背後のボケは綺麗です。このくらいの距離でボケ味が硬くならないところから推し量ると、おそらく光学系はマクロ仕様ではなく、普通のOKC1-75-1からの転用であると思われます。四隅で口径食が出ていますが、規格外のフルサイズ機で用いている事に加え、前玉がかなり奥まったところにあることが影響しているのでしょう


F2(開放) Nikon Zf(WB:日光Auto) 開放でも全く滲みません。ピントを正確にあわせ赤枠をクロップしますと・・・
Cropped from one previous photo: 中央はこのとおりシャープで、性能はしっかり出ています。もう少し拡大し、100%クロップしますと・・・
Cropped from one previous photo(100% crop) キリッとした像を維持しています

F4 Nikon Zf (WB:日光Auto) 四隅まで像は安定しており、歪みも僅かです。こういう写真は30年後に見ると面白い!こんなのあったあったと楽しめそうです。しかし、この写真だけ見ると、今の日本の物価は30年前と大差が無いことを実感します

2024/02/12

Wollensak Cine-Velostigmat 1.9/25(1 inch)



滲みは控えめですが、それでも凄い

ブラック・ベロスティグマート

Wollensak Cine-Velostigmat 25mm(1inch) F1.9 C-mount

滲み系シネレンズの代表格として今や若者を中心に人気のCine-Velostigmat F1.5(シネ・ベロスティグマート)には、実は開放F値を1段抑えた兄弟(F1.9のモデル)が存在します。1段抑えたぶんだけ滲みや収差は控えめのはずですが、開放では依然として凄い描写です。F1.5が手に負えないと言う方には、こちらのモデルを試してみることをおすすします。

レンズは米国ニューヨーク州ロチェスターに拠点をかまえていたウォーレンサック社(WOLLENSAKが1940年代から1950年代にかけて、ボレックスという16mmの映画用カメラに搭載する交換レンズとして市場供給しました。軟調で発色も淡いので、ふんわり、ボンヤリとした写真を狙うここぞという時に力を発揮し、オシャレな写真が撮れます。飛び道具としてポケットに入れておきたいアイテムの一つです。

レンズはCマウントのためアダプターを介して各社のミラーレス機にて使用することができます。イメージサークルはAPS-Cセンサーをギリギリでカバーできる広さがあり(ただし、四隅が少しだけケラれます)、マイクロフォーサーズ機で用いる場合には標準レンズ、APS-C機では広角レンズとなります。鏡胴がコンパクトで軽いため小型ミラーレス機でもバランスよく使用でき、旅ではこれ一本あれば一通りの撮影をこなすことができます。唯一の弱点は最短撮影距離が50cmと長めなところで、これを克服するには、Cマウントレンズ用のマクロエクステンションリングを手にいれておくとよいでしょう。最短撮影距離を18cmまで短縮でき、十分に寄れる万能なレンズとなります。

 

Cine Velostigmat 1inch F1.9/F1.5の見取り図(Sketched by spiral)。左が被写体側で右がカメラの側です。構成は4群4枚でHugo Meyer社のKino Plasmat4枚玉バージョン[DE Pat.401630 (1924)]と同一構成です
 

レンズの設計構成は上図に示すようなKino-Plasmatの4枚玉バージョン[DE Pat.401630 (1924)]で、一段明るいF1.5のモデルと同じ光学系を流用しています。下の写真のように前群を抑えるトリムリングの厚みを変えることでF1.9としてあります。コーティングのある個体とない個体が存在しており、今回私が手にした個体にはコーティングがありませんでした。コーティン付きよりも更に軟調な描写です。

Cine Velostigmat 1inch F1.9(左)と 1inch F1.5(右)の前群を外したところ。両者は全く同一の光学系です。F1.9はトリムリング(レンズエレメントを固定するリング)の厚みで口径比を制限しています

レンズの市場価格

流通量はF1.5のモデルより少なく、探すとなるとやや大変です。値段的にはF1.5のモデルと大差はなく、eBayでの落札相場は100-150ドルくらいでしょう。ただし、市場に流通している個体の多くはヘリコイドグリスが固着しているので、オーバーホールを視野に入れておく必要があります。中古店での相場は25000~35000円とネットオークションに比べ割高ですが、オーバーホールされているなら、このあたりの値段でも妥当でしょう。

Wollensak Cine Velostigmat 1inch F1.9: 重量(実測)100g, 絞り羽 9枚構成, 最短撮影距離 約50cm, 絞りF1.5-F16, 絞り F1.5-F16, Cマウント, 16mmシネマフォーマット, 設計構成は4群4枚のKinoplasmat型, コーティング付のモデルとノンコートのモデルがありノンコートモデルの流通が大半のようだ


  
撮影テスト
開放ではフンワリと柔らかい描写で、薄いハレーションが適度な滲みを伴ってあらわれます。ただし、ピント部中央には芯がありソフトフォーカスレンズよりも細部までしっかり解像します。トーンが軟らかいうえ発色は淡いのですが、色が薄くなることはありません。個性の強い描写ですので常用にはできませんが、使いこなせるようになれば、ここぞという時に良い働きをしてくれる強い手駒となるはずです。ちなみに背後には強めのグルグルボケが出ており、APS-C機で用いると糸巻き状の歪みと、周辺光量落ちが目立ちます。近接撮影時は収差の嵐に見舞われます。
 
 
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光 Aspect Ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光 Aspect Ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日陰 Aspect Ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日陰 Aspect Ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日陰、Aspect ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日陰 Aspect ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日光 Aspect ratio 16:9)





2024/02/08

Kern-Paillard Switzerland YVAR 16mm F2.8 AR c-mount

 
タンポポチップで復活する
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ
Kern Paillard YVAR 16mm F2.8 AR (c-mount)
 
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ(16mmシネマフォーマット)はマイクロフォーサーズ機で用いると完全にケラれてしまうため、デジカメ全盛時代の今でも人気がありません。ケラレを避けるにはセンサーサイズが16mmシネマフォーマットに近いNikon 1シリーズで使ばよいのですが、なにしろNikon 1というデジカメはオールドレンズ界ではとても悪名が高く、レンズをアダプター経由で用いると露出計は作動しないし、シャッターすら切れない。徹底して社外レンズを排除する意地悪な仕組みになっているのです。しかし、これをどうにか克服する手があり、通称タンポポチップと呼ばれる電子チップをアダプターに接着して用いるのです(写真・下)。このチップはカメラにレンズの情報を伝達する電子回路と電気接点を持った小さな部品です。これを取り付けておくと、カメラはCPUレンズが装着されたと認識し、絞り優先自動露出とフォーカスエイドが有効になります。タンポポチップはeBayなどのネットオークションでキット商品として販売されています。私はeBayでGfotoという業者からロシア製のチップを購入しました。キットにはチップを正しい位置に装着するための固定器具が付属しており、初めての私でも難なく取り付けることができました。最近では初めからチップのついたNikon 1用アダプターも流通しているようです。ただし、値段は高めなうえCマウントアダプターは無限が出なかったり、逆に大幅にオーバーインフだつたりと規格がバラバラです。アダプターくらいは納得のゆく製品を自分で選んだほうがよいと思います。
 
  
今回取り上げるYVAR(イバール)というレンズはスイスのKern-Pillard(ケルン・パイヤール)社が1956年から市場供給したBolex H-16 Reflexという16mm映画用カメラの交換レンズです[2,4]設計構成は下図のような肉厚トリプレットで、各レンズエレメントを分厚くすることで屈折力を稼ぐと同時に各空気境界面の曲率を緩め、収差の発生量を小さく抑えています。廉価版モデルとは言え、手抜きが無いのがKERN流なのでしょう。
 
YVAR設計構成のトレーススケッチ。構成図は文献[1]に掲載されています。左が前方で右がカメラの側です
 
入手の経緯
今回のレンズはネットオークションでBausch & Lombのシネレンズを落札購入した際に、セットでついてきてしまった個体です。自分から欲しくて手に入れたレンズではありませんが、何かの縁ですので記事化しました。KERNと言えば泣く子も黙る超高級ブランドですが、今回のレンズのように使えるカメラが限られている場合は安値で入手できます。レンズは中古市場で5000円~10000円程度で売買されています。
 
Kern-Pillard YVAR 16mm F2.8 AR: 最短撮影距離 約30cm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 50.7g, フィルター径 31.5mm, Cマウント
  
参考文献
[1] BOLEX TECHNICAL INFORMATION BULLETIN No.34 6/61, LENSES for 16mm MOTION PICTURE and TELEVISION CAMERAS
[2] BOLEX COLLECTOR: Kern-Paillad lenses
[3] Bolex Product News From Paillard," No. 5, (New York: Paillard Incorporated, June 25, 1974).
[4]Alden, Andrew Vivian (1998). Bolex Bible: Everything You Ever Wanted to Know But Were Afraid to Ask : an Essential Guide to Buying and Using Bolex H16 Cameras. A2 Time Based Graphics.
 
撮影テスト
開放から滲みはなく、四隅まですっきりとシャープに結像しています。コントラストも良好で色乗りは濃厚、歪みはほぼ気にならないなど高性能です。晴天下でも黒潰れはなくなだらかなトーンを維持しており、雰囲気の良い写真が撮れます。ボケは距離に依らずに概ね安定しており、像の流れは少しありますが目立たないレベルです。背後にグルグルボケは出ません。開放F2.8なのでボケ量が足りない点は仕方ありませんが、さすが高級レンズメーカーと言うだけのことはあり、廉価モデルでも欠点らしい欠点はほぼ見当たりません。Nikon 1との相性は、とても良好です。タンボボチップに感謝しています。
 
F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)
F4Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)


F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)