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2024/02/12

Wollensak Cine-Velostigmat 1.9/25(1 inch)



滲みは控えめですが、それでも凄い

ブラック・ベロスティグマート

Wollensak Cine-Velostigmat 25mm(1inch) F1.9 C-mount

滲み系シネレンズの代表格として今や若者を中心に人気のCine-Velostigmat F1.5(シネ・ベロスティグマート)には、実は開放F値を1段抑えた兄弟(F1.9のモデル)が存在します。1段抑えたぶんだけ滲みや収差は控えめのはずですが、開放では依然として凄い描写です。F1.5が手に負えないと言う方には、こちらのモデルを試してみることをおすすします。

レンズは米国ニューヨーク州ロチェスターに拠点をかまえていたウォーレンサック社(WOLLENSAKが1940年代から1950年代にかけて、ボレックスという16mmの映画用カメラに搭載する交換レンズとして市場供給しました。軟調で発色も淡いので、ふんわり、ボンヤリとした写真を狙うここぞという時に力を発揮し、オシャレな写真が撮れます。飛び道具としてポケットに入れておきたいアイテムの一つです。

レンズはCマウントのためアダプターを介して各社のミラーレス機にて使用することができます。イメージサークルはAPS-Cセンサーをギリギリでカバーできる広さがあり(ただし、四隅が少しだけケラれます)、マイクロフォーサーズ機で用いる場合には標準レンズ、APS-C機では広角レンズとなります。鏡胴がコンパクトで軽いため小型ミラーレス機でもバランスよく使用でき、旅ではこれ一本あれば一通りの撮影をこなすことができます。唯一の弱点は最短撮影距離が50cmと長めなところで、これを克服するには、Cマウントレンズ用のマクロエクステンションリングを手にいれておくとよいでしょう。最短撮影距離を18cmまで短縮でき、十分に寄れる万能なレンズとなります。

 

Cine Velostigmat 1inch F1.9/F1.5の見取り図(Sketched by spiral)。左が被写体側で右がカメラの側です。構成は4群4枚でHugo Meyer社のKino Plasmat4枚玉バージョン[DE Pat.401630 (1924)]と同一構成です
 

レンズの設計構成は上図に示すようなKino-Plasmatの4枚玉バージョン[DE Pat.401630 (1924)]で、一段明るいF1.5のモデルと同じ光学系を流用しています。下の写真のように前群を抑えるトリムリングの厚みを変えることでF1.9としてあります。コーティングのある個体とない個体が存在しており、今回私が手にした個体にはコーティングがありませんでした。コーティン付きよりも更に軟調な描写です。

Cine Velostigmat 1inch F1.9(左)と 1inch F1.5(右)の前群を外したところ。両者は全く同一の光学系です。F1.9はトリムリング(レンズエレメントを固定するリング)の厚みで口径比を制限しています

レンズの市場価格

流通量はF1.5のモデルより少なく、探すとなるとやや大変です。値段的にはF1.5のモデルと大差はなく、eBayでの落札相場は100-150ドルくらいでしょう。ただし、市場に流通している個体の多くはヘリコイドグリスが固着しているので、オーバーホールを視野に入れておく必要があります。中古店での相場は25000~35000円とネットオークションに比べ割高ですが、オーバーホールされているなら、このあたりの値段でも妥当でしょう。

Wollensak Cine Velostigmat 1inch F1.9: 重量(実測)100g, 絞り羽 9枚構成, 最短撮影距離 約50cm, 絞りF1.5-F16, 絞り F1.5-F16, Cマウント, 16mmシネマフォーマット, 設計構成は4群4枚のKinoplasmat型, コーティング付のモデルとノンコートのモデルがありノンコートモデルの流通が大半のようだ


  
撮影テスト
開放ではフンワリと柔らかい描写で、薄いハレーションが適度な滲みを伴ってあらわれます。ただし、ピント部中央には芯がありソフトフォーカスレンズよりも細部までしっかり解像します。トーンが軟らかいうえ発色は淡いのですが、色が薄くなることはありません。個性の強い描写ですので常用にはできませんが、使いこなせるようになれば、ここぞという時に良い働きをしてくれる強い手駒となるはずです。ちなみに背後には強めのグルグルボケが出ており、APS-C機で用いると糸巻き状の歪みと、周辺光量落ちが目立ちます。近接撮影時は収差の嵐に見舞われます。
 
 
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光 Aspect Ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日光 Aspect Ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日陰 Aspect Ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB 日陰 Aspect Ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日陰、Aspect ratio 16:9)

F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日陰 Aspect ratio 16:9)
F1.9(開放) Fujifilm X-Pro1(WB:日光 Aspect ratio 16:9)





2024/02/08

Kern-Paillard Switzerland YVAR 16mm F2.8 AR c-mount

 
タンポポチップで復活する
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ
Kern Paillard YVAR 16mm F2.8 AR (c-mount)
 
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ(16mmシネマフォーマット)はマイクロフォーサーズ機で用いると完全にケラれてしまうため、デジカメ全盛時代の今でも人気がありません。ケラレを避けるにはセンサーサイズが16mmシネマフォーマットに近いNikon 1シリーズで使ばよいのですが、なにしろNikon 1というデジカメはオールドレンズ界ではとても悪名が高く、レンズをアダプター経由で用いると露出計は作動しないし、シャッターすら切れない。徹底して社外レンズを排除する意地悪な仕組みになっているのです。しかし、これをどうにか克服する手があり、通称タンポポチップと呼ばれる電子チップをアダプターに接着して用いるのです(写真・下)。このチップはカメラにレンズの情報を伝達する電子回路と電気接点を持った小さな部品です。これを取り付けておくと、カメラはCPUレンズが装着されたと認識し、絞り優先自動露出とフォーカスエイドが有効になります。タンポポチップはeBayなどのネットオークションでキット商品として販売されています。私はeBayでGfotoという業者からロシア製のチップを購入しました。キットにはチップを正しい位置に装着するための固定器具が付属しており、初めての私でも難なく取り付けることができました。最近では初めからチップのついたNikon 1用アダプターも流通しているようです。ただし、値段は高めなうえCマウントアダプターは無限が出なかったり、逆に大幅にオーバーインフだつたりと規格がバラバラです。アダプターくらいは納得のゆく製品を自分で選んだほうがよいと思います。
 
  
今回取り上げるYVAR(イバール)というレンズはスイスのKern-Pillard(ケルン・パイヤール)社が1956年から市場供給したBolex H-16 Reflexという16mm映画用カメラの交換レンズです[2,4]設計構成は下図のような肉厚トリプレットで、各レンズエレメントを分厚くすることで屈折力を稼ぐと同時に各空気境界面の曲率を緩め、収差の発生量を小さく抑えています。廉価版モデルとは言え、手抜きが無いのがKERN流なのでしょう。
 
YVAR設計構成のトレーススケッチ。構成図は文献[1]に掲載されています。左が前方で右がカメラの側です
 
入手の経緯
今回のレンズはネットオークションでBausch & Lombのシネレンズを落札購入した際に、セットでついてきてしまった個体です。自分から欲しくて手に入れたレンズではありませんが、何かの縁ですので記事化しました。KERNと言えば泣く子も黙る超高級ブランドですが、今回のレンズのように使えるカメラが限られている場合は安値で入手できます。レンズは中古市場で5000円~10000円程度で売買されています。
 
Kern-Pillard YVAR 16mm F2.8 AR: 最短撮影距離 約30cm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 50.7g, フィルター径 31.5mm, Cマウント
  
参考文献
[1] BOLEX TECHNICAL INFORMATION BULLETIN No.34 6/61, LENSES for 16mm MOTION PICTURE and TELEVISION CAMERAS
[2] BOLEX COLLECTOR: Kern-Paillad lenses
[3] Bolex Product News From Paillard," No. 5, (New York: Paillard Incorporated, June 25, 1974).
[4]Alden, Andrew Vivian (1998). Bolex Bible: Everything You Ever Wanted to Know But Were Afraid to Ask : an Essential Guide to Buying and Using Bolex H16 Cameras. A2 Time Based Graphics.
 
撮影テスト
開放から滲みはなく、四隅まですっきりとシャープに結像しています。コントラストも良好で色乗りは濃厚、歪みはほぼ気にならないなど高性能です。晴天下でも黒潰れはなくなだらかなトーンを維持しており、雰囲気の良い写真が撮れます。ボケは距離に依らずに概ね安定しており、像の流れは少しありますが目立たないレベルです。背後にグルグルボケは出ません。開放F2.8なのでボケ量が足りない点は仕方ありませんが、さすが高級レンズメーカーと言うだけのことはあり、廉価モデルでも欠点らしい欠点はほぼ見当たりません。Nikon 1との相性は、とても良好です。タンボボチップに感謝しています。
 
F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)
F4Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)


F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

2024/02/03

しろがねの鏡胴映えるシネクセノン

Schneider-Kreuznach cine-Xenon 25mm F1.4 (c mount)

シネ・クセノンと言えば16mm映画用カメラに供給されたシネレンズで、ARRIFLEXマウントのモデルとCマウントモデルの2種があります。本ブログでは過去のこちらの記事でゼブラ柄の後期モデルを紹介しました。今回はBOLEXに搭載する交換レンズとして1960年に登場したCマウント版のシネ・クセノンの前期モデル(アルミ鏡胴)を紹介します。後期モデルは青紫色のコーティングでしたが、今回の前期モデルはマゼンダ色のコーティングですので、コントラストや色味に若干の差が出ることが期待できそうです。

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体が確認できます。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴の素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されようになります。1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計モデルが登場し、ごく初期の僅かな期間だけアルミ鏡胴で作られましたが、すぐにゼブラ柄にデザインが切り替わります。今回紹介するモデルはこの時代のものです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、F1.4のモデルは遅く見積もっても1969年まで生産されていました。

重量 155g, 絞り F1.4-F22, 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm, マゼンダ系コーティング









Cine Xenon 25mm F1.4: 構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[2]からのトレーススケッチです

参考文献

[1] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 

[2] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ


撮影テスト

描写傾向はArriflex版モデルやゼブラ柄の後期モデルと似ており、良好な解像力を維持しつつ、開放では細部に微かな滲みを伴う線の細い繊細な画作りができます。コーティングが少し違うためか、後期モデルよりコントラストが抑え気味で、味のある描写が堪能できるのがこのモデルの大きな特徴と言えます。一段絞れば滲みは消えコントラストも上がり、シャープでキリッとした画作りになります。背後のボケは硬めで過剰補正気味なところはいかにも解像力を重視したレンズの特徴ですが、開放での微かな滲みもこれが原因のように思えます。

もともとは16mmフォーマットが定格ですから、マイクロフォーサーズ機では写真の四隅にダークコーナー(いわゆるケラレ)が出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にしたり、真四角の1:1にするとケラレは目立たなくなるでしょう。

 Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) ピント部中央はご覧の通りで開放でも高解像です














F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) 背後のボケが硬くざわついています













F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)

F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)



F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)






















2023/10/29

Meopta OPENAR 40mm F1.8 ( c mount )



ある日、私はこのレンズを手に口が開きっぱなしでした。手に入れたのは遡ること6年も前の事です。インターネット上に投稿されていたこのレンズによる写真を見て漠然と惹かれるものがあり、eBayでポチったまではよかったのですが、そのまま忘れ去っていたのです。そしてある日、防湿庫を整理していたら、奥の方ですまなそうに「僕のこと覚えていますか?」などと言い「にゅ~っ」と顔を出して来たのがこの子で、「あっ!」と口が開きっぱなしになったのでした。

チェコからやって来たシネマ用レンズ

MEOPTA OPENAR 40mm F1.8 (c mount)

OPENAR(オプナー)はMEOPTA(メオプタ)社の16mmムービーカメラAdmira 16 A1 electricに搭載する交換レンズとして1963年にカメラと共に登場しました。カメラはプロ向けに開発された製品ではなく、マチュアがホームムービーを撮影するためだとカタログに紹介されており、電動で動くのが売りだったようです。ネットには女性モデルがピストルグリップを片手で握りニッコリ笑って撮影している当時の広告写真が見つかりますが、これは間違いなく痩せ我慢。本体重量が2.1kgもあるので、かなり怪力なモデルを採用しているようです。カメラは旧ソビエト連邦に数多く輸出され、シンプルな操作性と信頼性で人気だったようです。交換レンズは今回ご紹介するOPENAR 40mm F1.8が豪華な5群7枚構成のガウスタイプで、イメージサークルはマイクロフォーサーズセンサーを完全にカバーでき、APS-Cセンサーでは四隅に光量落ちが出るもののケラれることはありません。焦点距離40mmはCマウント系レンズには珍しく、APS-Cで用いると標準レンズ、マイクロフォーサーズではポートレート用レンズの画角となります。一粒で二度美味しい、人気が出そうなモデルですね。これ以外には7群8枚の広角レトロフォーカスタイプLargor 12.5mm f1.8、4群6枚の標準レンズOpenar 20mm f1.8、3群5枚の望遠レンズOpenar 80mm f2.8があります。LargorとOpenar 20mmはマイクロフォーサーズ機で用いると大きくケラれてしまうので、Nikon 1など更に小さなセンサーを採用したカメラが適しています。望遠のOpenar 80mmはAPS-C機で用いると四隅に光量落ちがみられるものの、イメージセンサーをギリギリでカバーできるようです。

 

メオプタ社についてのおさらい

メオプタ社は1933年に旧チェコスロバキアの小都市Prerovにて地元工業学校教授Alois Mazurka博士の主導のもと設立されたOptikotechna(オプティコテクナ)社を前身とする光学機器メーカーです[2]。博士は就労先の工業学校に光学専攻を設立し若手を育成、それがオプティコテクナ社の設立に繋がりました。設立後は引き延ばし機、暗室具、暗室用コンデンサー、プロジェクター装置などの生産を手がけ、1937年には郊外に新工場を建設、事業規模を拡大してゆきます。1939年に6x6cm判の二眼レフカメラFlexette(フレクサット)を開発することでカメラ産業への進出も果たしています。ところが、間もなくチェコスロバキアはドイツ帝国による支配をうけることになります。第二次世界大戦が始まり、同社はドイツ軍の要求に応じ軍需品(望遠鏡、距離計、潜望鏡、双眼鏡、ライフル)を製造するようになります。そしてドイツは敗戦、大戦終結の翌年1946年にオプティコテクナ社はチョコスロバキア共産党政権の下で国営化され、現在のMEOPTA(メオプタ)へと改称されます。メオプタの由来はME(機械:mechanical) + OPTA(光学機器:Opical device)です。戦後間もなくメオプタ社は引き延ばし機の分野で世界最大規模のメーカーに成長し、また中東欧における唯一のシネマプロジェクター製造メーカーとなっています。しかし、戦後の東西冷戦体制が同社を再び軍需産業メーカーへと変えてしまいます。1971年にはワルシャワ条約機構軍への軍需品生産が売上高の75%を占めるまで増大、同社は正真正銘の兵器開発メーカーになります。国営企業が武器を生産し戦争や破壊行為に荷担する事への避難の声が国内外から高まっていきました。こうした企業体質を変えようとする動きは冷戦構造の崩壊と1989年のビロード革命による共産党政権の崩壊で大きく前進します。1988年にメオプタ社はライフルの減産を発表し、1990年に生産を0%とすることで兵器産業からの脱却を宣言しています。ただし、この数値にはライフル照準器や戦車の照準器などが武器としてカウントされておらず、同社は今現在も軍需光学製品を生産しており、軍需産業からの完全な脱却には至っていません。メオプタ社は1992年に民営化を果たし、今もチェコを代表する東欧最大級の光学機器メーカーとして企業活動を継続させています。

 

★参考 

[1] Adomira 16 A1 electric 公式マニュアル

[2] MEOPTA公式ホームページ

MEOPTA OPENAR 40mmF2.5: 絞り F1.8-F22, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.8m, フィルター径 35mm, 重量(実測) ,  Cマウント, 5群7枚ガウス発展タイプ


入手の経緯

eBayを経由しウクライナなど東欧のセラーから入手するのが一般的なルートです。私は2017年11月に状態の良さそうな個体をウクライナのセラーから総額114ドルで購入しました。商品はエクセレントコンディションとの触れ込みでカビ、クモリのないクリアなガラスとのことでした。届いた品はガラスこそ良好な状態でしたが、ピントリングがカチンコチンに固まっていました。自分で分解しグリスを入れ替えることに。Cマウントレンズはヘリコイドの構造がシンプルな製品が多くメンテナンスは慣れた人にはごく簡単です。現在の取引価格は最低150ドルからで、市場での流通量は今でも豊富です。ただし、相場価格は私が入手した頃よりも明らかに高くなっています

 

撮影テスト

ChatGPTは柔らかい描写のレンズと言っていましたが、彼は実際に試写していませんし、言っていることも間違いです。7枚玉の威力なのでしょうか、かなり高性能で、開放から滲みは無く、高解像でシャープな像が得られます。レンズは16mmシネマフォーマットが定格ですが、イージサークルには余裕があり、APS-Cセンサーでも写真の四隅に少し光量落ちが出る程度でケラれる事はありません。マイクロフォーサーズ機では四隅まで均一な光量が得られます。このクラスのシネレンズを規格外の大きなセンサーで使うと四隅の画質に無理が出るのが常ですが、このレンズは画質的に余裕があり、良像域がとても広く、APS-Cセンサーの四隅まで像面は平坦です。ボケは流石にグルグルしますが、避けたいならばマイクロフォーサーズ機で用いれば全く目立たないレベルになります。

F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰) APS-C機でのケラれ具合はこんなもんです


F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(WB:日陰)



F2 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8 Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)




F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)
F1.8(開放) Fujifilm X-T20(Aspect Ratio 16:9, AWB)

2023/09/24

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR 25mm F1.4 and PENTAX COSMICAR 25mm F1.4

新旧COSMICARの描写比較

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR( Professional Kinotar ) 25mm F1.4(C-mount)

and PENTAX COSMICAR 25mm F1.4(C-mount)

COSMICAR(コズミカ)といえば現在はROCOH IMAGING(旧PENTAX)が市場供給しているCCTV用レンズのブランドですが、かつては東京都新宿区に拠点を構え、1951年より米国や日本に8mm Dマウントと16mm Cマウントのシネマムービー用レンズを市場供給した市塚光学工業株式会社のブランドでした[1]。同社はOEM生産にも積極的に取り組み、自社ブランドIZUKAR(イズカー)や、米国向けブランドのKINOTARとKINOTELでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズ、マクロ撮影用レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。1967年にコズミカ光学株式会社(Cosmicar Optical Co.)へと改称しますが、その後は経営不振に陥り他社との合併を繰り返しながら、最終的には旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の傘下に収まっています。

今回取り上げるのは市塚光学がコズミカ光学に改称した頃に市場供給したと思われるCOSMICAR 25mm F1.4(前期モデル)と、その後継製品で旭光学の傘下で生産したPENTAX COSMICAR 25mm F1.4(後期モデル)です。文献[4]には市塚光学製シネレンズの構成図がいくつか掲載されていますが、残念ながら今回取り上げるレンズの構成図は見つかりませんでした。現物をみるかぎり両モデルはどちらもガウスタイプの発展形です。両レンズの構成や用途はやや異なり、前期モデルは6群7枚のクセノン・ズマリット型で16mmシネマムービー用レンズであるのに対し、後期モデルは5群6枚のウルトロン型のCCTV用レンズです。旭光学の傘下で画質性能的にどのような変化があったのか、新旧COSMICARの写りの違いを堪能してみたいと思います。ちなみに前期モデルは米国ミモザ社のブランド登録商標であるProfessional Kinotarでも市場供給されていました。本ブログの過去の記事(こちら)で取り上げたProfessional KINOTAR 50mm F1.4は今回の前期モデルとは姉妹品の関係にあたります。 

参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告

[2] United States Patent and Trademark Office

[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

[4]1956~7年版 カメラ年鑑 日刊工業新聞社

COSMICAR (市塚光学製)前期型 25mm F1.4: 鏡胴に市塚光学のマークICHがみられる。構成 6群7枚ガウスタイプ(クセノン・ズマリット型), Cマウント, フィルター直径 30.5mm, 最短撮影距離 0.5m, 絞り値 F1.4-F22,  重量(実測) 106g, 定格は16mmシネマフォーマット
COSMICAR(ペンタックス製)後期型 25mm F1.4: 構成 5群6枚拡張ガウスタイプ(ウルトロン型), Cマウント, フィルター径 27mm, 最短撮影距離 0.3m, F1.4-F16, 重量(実測) 88g, 定格は16mmCCTVフォーマット

入手の経緯

COSMICARの前期モデルは米国でProfessionl KINOTARの名称で販売されていました。eBayでは150ドル程度で取引されており、国内ではオークションで1万円から1.5万円程度の値が付きます。現在は国内で探す方が安価に購入できると思います。後期モデルは現在もRICOHイメージング社がPENTAXブランドで市場供給しており、新品が17800円(税別)で購入できます。中古品の場合は国内のオークションで5000円程度以内で売買されています。旭光学の時代から販売されおり、とても息の長い製品ですね。

前期モデルには後期モデルの3~4倍の値がつきます。興味深いことですが、中古市場では古いレンズの方が価値があるということでしょうか。

撮影テスト

結論から申しますと、今回取り上げる前期モデルと後期モデルの間には画質的に大きな差があります。前期モデルは開放でフレアが目立ち、柔らかい描写傾向となります。コントラストは低めで色のりはあっさりしており、オールドレンズらしい画作りには好都合なレンズです。イメージサークルは広く、マイクロフォーサーズセンサーでは深く絞った際に四隅が僅かに欠ける程度です。ただし、本来写らない部分の画質ですので、中央から外れたところでは像面湾曲でピンボケ気味になり、樽型の歪みが目立ちます。1~2絞っても柔らかいままでした。グルグルボケは近接域で若干目立ちます。

後期モデルは流石にPENTAXの技術が入ったためか、シャープでコントラストの高い、高性能なレンズに変貌を遂げています。開放でも滲みはほとんど見られず、発色も鮮やかです。像面の平坦域は前期モデルよりもだいぶ広く、写真の四隅のみでピンボケします。歪みの補正はだいぶ改善されているように見えます。

前期モデルと後期モデルでここまで性能差があるのには、正直驚きました。後期モデルの設計にあたっては、PENTAXの設計陣がかなりテコ入れしたのでしょう。両レンズともマイクロフォーサーズ機で使用した際のケラレは極僅かで、私には全く気にならないレベルでした。ケラレを少しでも気にする人は、カメラの設定からアスペクト比を変えて撮影するのがよいかと思います。

Ichizuka Opt. Co. COSMICAR 25mm F1.4 

 Panasonic GH1

F2.8  Panasonic GH-1(WB:日陰)


F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)

F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)

F1.4  Panasonic GH1(WB:日陰)
F1.4  Panasonic GH1(WB:auto)




F5.6  Panasonic GH1(WB:日光)
F2.8 Panasonic GH1(WB:日陰)

PENTAX COSMICAR 25mm F1.4

 Panasonic GH1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) シャープで高コントラスト。流石に現行モデルというだけのことはあります

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) でも、イメージサークルの規格を超えたセンサーでは、周辺画質が程よく乱れます

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) 中央の高画質と周辺の破綻がほどよくブレンド!

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰) ケラレはマイクロフォーサーズ機で、あまり気にならないレベルです

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB, 日陰)