おしらせ


2023/06/08

Schneider-Kreuznach cine-Xenon and cine-Xenon RX 25mm F1.4 (c mount)



















お洒落で可愛い双子のシネ・クセノン
Schneider-Kreuznach cine-Xenon and cine-Xenon RX 25mm F1.4 (c mount)

Cine Xenonと言えば日本ではアリフレックス用の16mmシネマムービーレンズが雑誌になどで取り上げられ、先行して知られるようになりました[1]。写真中心部の素晴らしい描写力や、マイクロフォーサーズ機で使用した際に見られる大きく破綻した周辺画質などが話題になり、レンズ構成がライツ・ズミタール(7枚玉)と同一である事もあって、一部のマニア層の人々を虜にしています。今回はこのレンズと同一設計のであるBolex用Cine Xenon(ノーマルタイプ)、およびBolex H-16 Reflex用に供給されたCine Xenon RX(RXタイプ)を取り上げ紹介します[2,3]。RXタイプの方はBolex H-16 Reflex用に供給された特別仕様で、カメラにはプリズムが内蔵されていましたので、このプリズムと協力して画質補正ができるよう設計されています。ただし、プリズムなしのデジタルカメラでも普通に使用することができ、画質への影響は限定的のようです。
cine-Xenon 1.4/25(ノーマルタイプ): 重量(実測) 152g  , 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm,  絞り値 F1.4-F22, 開放T値 1.5, 絞り羽 5枚構成, 設計構成 4群7枚
cine-Xenon RX 1.4/25(RXタイプ):145g(実測),  最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm,  絞り値 F1.4-F22, 開放T値 1.6, 絞り羽 5枚構成, 設計構成 4群7枚

 
姉妹製品のアリフレックス用Cine Xenonは昨今のインフレによる影響や、ライカマウントに変換できる高い汎用性のため、市場での相場は7~8万円(5年ほど前まではeBayで3.5~4万円程度でした・・・)を超える高値で取引されるに至りましたが、ボレックス用であれば、ケルンやアンジェニュー、コダックなどの高級ブランドがまだ数万円で取引されていることからもわかるように、依然として相場は落ち着いており、穴場的に安く手に入れる事ができます。これはM42マウント系レンズに対して同モデルのEXAKTAマウント系レンズが安値で取引されていた以前の状況によく似ています。今回ご紹介するレンズは2017年にeBayにて、200ドルを少し超える値段で手に入れました。現在もこの状況は大きく変わっていませんので、3~4万円程度で手に入れることができます。

姉妹品のアリフレックス版Cine Xenon
 
デザインに目を向けると、姉妹品のアリフレックス版Cine Xenonにはピントリングに指掛があるなど特殊なデザインが栄えますが、今回ご紹介するボレックス版Cine Xenonも負けてはいません。極小の鏡胴にオシャレなゼブラ柄、被写界深度表示の凝ったギミックなど、ピリリとアクセントの効いたとても素敵なレンズであることが写真からも見て取れると思います。
レンズの設計は下図に示すような4群7枚構成で、ライツのズミタールF2と同一ですが、Cine Xenonでは前玉の正エレメントが分厚く設計され、この部分で屈折力を稼ぐ構造となっており、1段明るいF1.4の口径比を実現しています。下図はノーマルタイプの設計構成ですが、RXタイプも同一構成です。
Cine-Xenon F1.4(ノーマルタイプ)の光学系。ちなみにRXタイプも構成は同じですが、細部が異なると思われます。構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[3]からのトレーススケッチです

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体を確認しています。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されるようになります。更に1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計のモデルが登場し、ゼブラ柄とアルミ鏡胴の2種で市場供給されています。RXタイプが登場したのもこの頃からです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、これらは遅く見積もっても1960年にはリリースされ、1969年までは確実に生産されていました。
  
参考文献
[1]「オールドレンズ×美少女」 上野由日路著  玄光社MOOK 2015年
[2] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 
[3] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ
 
マウントアダプター選びにはご注意を
レンズのマウント部近くには絞りリングのクリック感を制御するボタンが付いています。赤いボタンを押し込むとクリックの「ある」状態となり、緑のボタンでは「なし」となります。このボタンがマウントアダプターの土手に干渉し装着できないケースが報告されており、アダプター製品との相性が問題になるようです。いい機会ですので、Cマウントレンズをマイクロフォーサーズ機に搭載するためのアダプター4製品、フジFXマウント機に搭載するためのアダプター2製品に対し、干渉の有無を確認してみました。
アダプターとレンズの相性問題:相性が悪いと左の写真のように、レンズをアダプターに取り付ける際にボタンがアダプターの土手部分に干渉してしまい、根本まで完全にねじ込むことはできません。右は相性の良いアダプターに搭載した場合の事例です。懐の部分が深いアダプターを用いれば干渉はおこりません

検証の為に集めたアダプター。ご協力いただいた皆様に感謝いたします

 
結論から申しますとフジ用のアダプターは懐の部分が広く設計されており、いずれも干渉が起こりませんでした。一方でマイクロフォーサーズ機用のアダプターでは4製品中2製品で干渉が発生しました。ちなみに干渉のない2製品のうち一方には構造上の欠陥があり、カメラへのマウント時にガタの出ることが知られています(上の写真の手前右側の商品)。
マイクロフォーサーズ機用のアダプターの中では下の写真の左側のアダプターが唯一推奨できる製品です。無限のフォーカスもほぼピッタリ(微かにオーバーインフ)でした。
左側の製品がレンズを干渉なく装着できるアダプターです。M42スクリューマウントにも対応しえとり、その分だけ懐が広くなっているのが特徴です。側面が1週にわたり凸凹しているデザインです。これによく似たアダプターが右側の製品ですが、こちらの製品はレンズのボタンに干渉してしまいました

よく似たデザインの製品が1つありますのでアダプターを探す際には注意してください(上の写真の右側)。アダプター側面にある凸凹パターンがそっくりですが、レンズのボタンが窪みの内側部分で干渉してしまいました。製品を見分けるポイントは側面の凸凹です。左の製品は凹凸パターンが1週にわたって刻まれていますが、右側の製品は文字が刻印されている部分だけ、凸凹パターンがありません。
 
撮影テスト
技術力の高いシュナイダーのレンズですから、やはりどう転んでも、よく写る製品であることに違いはありません。今回ご紹介するシネ・クセノンも中央はシャープでコントラストは良好、開放からプロフェッショナルユーザの期待に応えられるだけの充分な描写性能を実現しています。細部に目を向けるとCine Xenonのノーマルタイプには引き画では感知できなかった薄い滲みが出ており、水面下で繰り広げられている収差設計の駆け引きの一端が見え隠れしています。F1.4を実現することは簡単なことではなかったはずですが、球面収差を過剰補正の設定にすることで、解像力の向上が図られているものと思われます。RXタイプの方はというと、ノーマルタイプとは少し異なる描写設計である事がわかります。以下で写真作例を交えながら両タイプの違いを見てゆきましょう。
もともとは16mmフォーマットが定格のレンズです。マイクロフォーサーズ機では本来写真に写らない部分まで写ってしまいますので、画質的に四隅が破綻気味になるのは考えてみればごく当たり前のことです。ダークコーナー(いわゆるケラレ)も出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にすれば、ケラレはより小さく目立たなくなりますし、真四角が嫌いでなければ1:1にするとケラレは全くで出なくなります。やはり映画用なので私は16:9の設定で使うことにしました。この設定、案外とハマりますので、試した事の無い方にはオススメですよ!。
 
Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) 前ボケにフレアが乗り綺麗ですが、やや過剰補正の設定なのでしょう

F2.8 Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9)少し絞れば大変シャープで、とても高性能なレンズであることがわかります

F2.8 Panasonic GH-1 (WB:曇空 ; Aspect Ratio 16:9) ケラレはこんなもんです。許容できるかどうかは人によります

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) でも、雰囲気はよく出ます

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) 少しグルグルボケが出るのは、アリフレックス版モデルでも見られていた特徴です

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:曇空; Aspect Ratio 16:9) コントラストは充分で癖のない自然な発色です
 
Cine Xenon RX 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F5.6 Panasonic GH-1(WB:日光)
F2.8 Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F4 Panasonic GH-1(WB:日光, Aspect Ratio 16:9)
F5.6  Panasonic GH-1(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9) 絞るとケラレがだいぶ目立つようです

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰, Aspect Ratio 16:9)




 
ノーマルタイプとRXタイプの画質比較
最後に2つのモデルの画質を比較してみましょう。カメラはPanasonicのGH-1で写真のアスペクト比を16:9に設定して撮影しています。
Cine Xenonのノーマルモデル(上段)とRXモデル(下段):絞りは開放

2つのモデルの開放での撮影結果を比較すると、ノーマルモデル(上段)の方がピント部にフレアが出ており、より柔かい描写傾向であることがわかります。RXモデル(下段)は開放でもフレアの無いスッキリとした描写で、コントラストはより高く、その分だけ発色はコッテリと濃厚に出ています。背後のボケに目を向けると、RXモデルの方が見た目のボケ量は大きく癖のない整ったボケで、対するノーマルモデルはやや硬めのボケ味で若干ぐるぐるボケが出ています。ノーマルタイプは完全補正か若干の過剰補正のレンズによく見られる描写傾向であるのに対し、RXタイプは補正不足気味のレンズによく見られる描写傾向であることがわかります。少し絞ればノーマルタイプの方が解像力・コントラスト共にRXタイプを凌駕すると思われます。ケラれ具合に大きな差はありませんが、強いて言えばRXタイプの方がコントラストが強いせいか、四隅での暗角が暗く沈み込むように見え、ケラレが目立ちます。この2種のレンズの描写傾向の差はケルンのSWITAR AR/RXシリーズでも、ほぼ同等でした。本ブログで過去に扱っていますので合わせてご覧ください。
以下の画像でもノーマルタイプとRXタイプの比較を行っていますが傾向はやはり同じです。深く絞った際の画質に大きな差はありませんでしたので、開放の画質のみ提示します。


上の写真の中央を拡大したのが下の写真で、左がノーマルタイプ、右がRXタイプです。やはりノーマルタイプの方が滲みがあり、若干柔かく発色も淡い印象で、RXタイプの方がコントラストは高く開放でもスッキリしています。背後のボケはRXタイプのほうが大きく、前ボケはノーマルタイプの方が大きくボケるように見えます。両レンズの味付けの差は購入者に選択の余地を与えてくれる想定外の発見でした。皆さんはどちらのタイプを選択しますか?私は滲みがもう少し強く、絞った際の解像力に明確な差があれば、文句無しでノーマルタイプを選びますが、強いて言えば今回はRXタイプタイプかな・・・。

中央部の拡大写真。左がノーマルタイプで右がRXタイプの結果

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