おしらせ


2018/07/08

KMZ Jupiter-9 85mm F2 for Cinema(AKS-4M mount)


Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース



20世紀を代表する明るいレンズと言えば、真っ先に思い浮かぶのはガウスタイプとゾナータイプです。両者はレンズの設計構成のみならず描写の性格も大きく異なり、設計構成が描写の方向性を決定づける一大要因であることを私たちに教えてくれます。ガウスタイプの特徴がキレのあるフォーカス、線が細く繊細で緻密なピント部、破綻気味のボケであるのに対し、線が太く力強いピント部、安定感のある端正で優雅なボケを提供できるゾナータイプは、ガウスタイプとは異なる性格の持ち主でした。今回はロシア製ゾナー型レンズの鉄板、ジュピター・ナインをご紹介します。
 
クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 5
レンズ選びはセンス!
シネ・ジュピターはいかがですか
クラスノゴルスク機械工場(KMZ) JUPITER-9 85mm F2 for AKS-4M cinema movie camera

カールツァイスの名玉SONNAR 8.5cm F2のクローンコピーとして誕生し、美しい描写、豪華な設計、高いコストパブォーマンスから今も絶大な人気を誇るジュピター9(Jupiter-9/ ユピテル9)。ただし、今回取り上げるのは、ただのJupiter-9ではありません。シネマ用に設計された特別仕様のモデルで、カールツァイスのアリフレックス版ゾナーやコンタレックス版ゾナーと同格のプロフェッショナル向けに供給された製品です。
ご存知かもしれませんが、ゾナーとはカール・ツァイスのレンズ設計士ルードビッヒ・ベルテレが戦前に設計した大口径レンズの銘玉です。日本やロシアでは戦後にゾナーを手本とする同一構成のレンズがたくさん作られ、ロシアではこの種のレンズがジュピター(ユピテル)の製品名で市場供給されました。ジュピターは1948年に既に登場しており、モスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)の393番プラントにて、はじめはZK(Sonnar Krasnogorsk)というコードネームで開発されました。このモデルの製造には第二次世界大戦の戦後賠償としてロシアがドイツ国内から持ち出したガラス硝材が使われ、ツァイスのイエーナ工場から召喚されたマイスター達の指導のもとで製造されました。ZKはレンズの血肉であるガラスまでもがオリジナルと同一の、いわゆるクローン・ゾナーだったのです。その後、ドイツ産ガラスの枯渇にともなう措置として、ロシアの国産硝材に切り替えるための再設計が行われ、現在のジュピターシリーズの原型が開発されました。ジュピターシリーズを設計したのは1948年にKMZ光学設計局の局長に就任したM.D.Moltsevというレンズ設計士で、Moltsevはジュピターシリーズの他にもテッサータイプのIndustar-22を設計した人物として知られています。

Jupiter-9の構成図。左は今回のシネマ用モデルで右はスチル撮影用に設計されたよくあるモデル。シネマ用の方が構成面の曲率が緩いため、高性能なガラス硝材が用いられているのでしょう




ジュピター9は1950年にKMZから登場し、まずはLeicaスクリュー互換のZorki(ゾルキー)マウントと旧Contaxマウント互換のKiev(キエフ)マウントの2種のマウント規格で市場供給されました。翌1951年には一眼レフカメラのZenit(ゼニット)用のモデルが、やはりKMZから登場します。初期のモデルはどれもシルバーカラーのアルミ鏡胴でした。レンジファインダー機向けに造られたゾルキー用とキエフ用は最短撮影距離が1.15mでしたが、一眼レフカメラのゼニット用では光学系が同一のまま0.8mまで短縮されました。KMZは1950~1957年にジュピター9を複数回モデルチェンジしていますが、1958年にレンズの生産をLZOS(ルトカリノ光学ガラス工場)とウクライナのARSENAL(アーセナル)工場に引き継ぎ、映画用カメラなど新モデルを投入する場合を除いて、基本的にはジュピター9を造らなくなっています。
LZOSからは1958-1988年にZorkiマウントとKievマウントの2種のモデルが生産され、その後、対応マウントのラインナップはM39マウント(1960年代)、シネマ用AKS-4Mマウント(1960年代~1980年代)、1970年代からはM42マウントにまで拡張されています。1980年代半ばからガラス表面にマルチコーティングを施したモデルが従来の単層Pコーティング(Pはprosvetlenijeの意)を施したモデルに混じって造られるようになり、その割合が少しづす増えていきました。一方、Arsenalからは1958-1963年にKievマウントのモデルが生産され、その後は1970年代にKiev-10/15マウントのモデルなどが生産されました。なお、1963年からは各社ともジュピター9のカラーバリエーションにブラックを追加し、その後、1968年にシルバーカラー(写真・下)は製造中止となりました。

Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース


今回紹介するのは35mm映画用カメラのAKS-4M(AKC-4M)に搭載する交換レンズとしてKMZから供給されたシネマ用のモデルです。レンズの構成は上図に示す通りで、スチル用からの転用ではなくシネマ用として設計されています。スチル用に比べ個々の構成面の曲率が緩く、はじめから収差を補正しやすい構造となっています。イメージサークルは広く作られており、フルサイズセンサーを余裕でカバーしています。

入手の経緯
レンズは2018年4月にeBayを介してロシアのオールドレンズを専門に扱うセラーから265ドル+送料の即決価格にて購入しました。商品はAKS-4Mマウントの状態で売られており、「新品・オールドストック」との触れ込みで「未使用状態のレンズで、カビ、キズ、クモリ、バルサム剥離、陥没等はなく、コーティングもOKだ。絞りの開閉は問題なく、絞りリングとヘリコイドリングはスムーズに回転する」とのこと。届いた品は前玉に僅かに拭き傷がある程度で、前玉に傷の多いジュピターにしては良好なコンディションでした。M52-M42ヘリコイドチューブ25-55mmに搭載し、ソニーEマウントに改造して使用することにしました。改造のための部品代を含めるとレンズには総額315ドル程度とスチル用モデルの1.5倍程度の予算がかかりました。
ブラックカラーモデル:重量[実測]282g(ヘリコイド等改造部位を除く正味の重量), 絞り羽 15枚構成, フィルタ径 49mm,  映画用カメラのAKS-4用, 設計構成 3群7枚(ゾナータイプ)
シルバーカラーのモデル:重量[実測] 281g, 他の仕様もラックモデルと全く同一


撮影テスト
ゾナータイプのレンズは解像力ではなく階調描写力で勝負するレンズです。Jupiter-9も開放から線の太い力強い描写を特徴としており、なだらかなトーンと安定感のあるボケが優雅な雰囲気を作り出してくれます。細部まで写りすぎない描写はポートレート撮影に大きなアドバンテージをもたらしてくれるはずです。コントラストは良好で発色の良いレンズですが、絞っても階調が硬くなることはありません。
今回取り上げるシネマ用のモデルと通常の良くあるスチル用モデル(ノンコート)の違いを試写し比較したところ、シアン成分の階調特性に差が見られました。日光で撮影するとスチル用モデルではここが不安定になりやすく、温調気味に色転びします。また、光量がやや少ない条件では青みが強くなる傾向がありました。発色に関してはシネマ用モデルのほうが安定しておりノーマルです。プロ用モデルの方が描写が安定しているのは理にかなっていますが、オールドレンズとしての面白みは、これとは別問題です。両モデルの解像力とボケ味は同等でしたので、どちらを選ぶかは好みの問題となります。スチル用のほうが発色が転びやすい分だけ意外性に富んだ面白い写真が得られるのかもしれません。
さて、シネ用の長玉はスチル用の同等レンズよりもハレーションが出やすく、軟らかい描写傾向のレンズが多くあり、ジュピター9も例外ではありません。レンズによっては後玉の後方にハレーションカッターを設置しているシネレンズがありますが、スチル用の同等品にこれはなく、ハレーションも出にくい性質になっています。この傾向は多くのシネレンズに普遍的にみられる性質のようですが、どうしてなのか不明です。

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日陰) シネマ用レンズなんだなと、感じさせる質感表現です



 
2018年夏の鎌倉、海へ・・・。


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)







sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)
sony A7R2(WB:日光)


F2(開放) sony A7R2(WB:曇天)









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