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2010/07/12

Asahi Opt. Fish-eye-TAKUMAR 17mm/F4(M42)


一般撮影に魚眼レンズが使えることを広く認知させた銘玉

魚眼レンズとは180度以上の極めて広い視野角を持つレンズであり、全周(円周)魚眼と対角線魚眼の2種に大別される。このうち全周魚眼とは画面対角線よりもイメージサークル径が小さいレンズのことをいう。上下左右すべての方向で180度以上の画角が得られ、写真に写る画像は円形となる。天体撮影や気象観測、監視カメラ、高山でのパノラマ撮影などで用いられることが多い。これに対し対角線魚眼は画面対角線よりもイメージサークル径が大きいレンズであり、写真に写るのは通常の四角い画像となる。一般撮影にはこちらのタイプの方が向いている。
Fish-eye(魚眼)という言葉が初めて使われたのは米国の物理学者R.W.ウッドによる1911年の著書Physical Optics(物理光学)の一節である。まずウッドは湖面おける光線の屈折について、我々が高校物理で学ぶ屈折の法則を論じている。次にピンホールカメラを水中に設置して造ったFish-eyeカメラと称する実験装置を用いて、魚の視点で水中から眺める水上の景色が180度の視野角をカバーできることを実証、これがFish-eyeという言葉の起源となった。よくある誤解だが、魚眼レンズは魚の目に似せて造ったわけではない。
工業製品として造られた最初の魚眼レンズは英国の光学機器メーカーR & J Beck Ltdが1924年に製造した全周魚眼タイプのHill Sky Lens、写真撮影用としてはニコンが1938年に気象観測のために開発した180度の視野角を持つ全周魚眼レンズが世界初である。ニコンは1962年に一眼レフカメラに搭載できる世界初の全周魚眼レンズFisheye Nikkor 8mm/F8を発売した。この製品はフォーカスリングがついておらず、深い被写界深度を生かしたパンフォーカスでの撮影を前提とする焦点固定式レンズであった。後玉がカメラ側に大きく飛び出しているのでミラーアップの状態で撮影を行うという制約があり、バルブモードで天球撮影を行うなどの特殊用途を想定して造られた。これに対し旭光学(現PENTAX)は一般撮影での用途を想定した対角線魚眼レンズの開発を推し進めた。1962年に同社から発売されたFish-eye-Takumar 17mm/F11はミラーアップなしで撮影できる世界初の対角線魚眼レンズである。このレンズも焦点固定式であったが、同社は5年後にフォーカス機構を持ち開放絞り値を大幅に明るくした後継品を発売した。
今回取り上げるFish-eye-Takumar(フィシュアイ・タクマー)17mm/F4(旭光学、1967年発売)はフォーカスリングを持つ初の魚眼レンズである。一般撮影での用途を想定した製品であり、本品が発売された直後から魚眼レンズによる写真作品が数多く現れるようになった。本品は写真撮影の分野に新しい可能性を切り開いた歴史的な銘玉なのである。
鏡胴は薄くコンパクトでパンケーキレンズ風に造られている。フィルター枠の部分を回転させると内蔵カラーフィルターがリボルバー式に入れ替わるユニークな構造を持っている。180度の対角線画角を持つため、足のつま先から頭上方向まで一枚の写真に一気に写すことができ、何とも気持ちがよい。
TAKUMARブランドは安いというイメージが一般的な認識として定着しているが、本品は珍しいレンズなのでeBayでの中古相場は500㌦もする。国内中古相場は5万円前後であろう。ちなみに後継のSMC(マルチコーティング)版のレンズは本品よりも更に100-200㌦程高値だ。
重量:228g, 画角180度,  最短撮影距離:0.2m, レンズ構成:8群8枚, 絞り羽:5枚, 絞り値:F4-F22, 3種の切替式のフィルター(L39UV/Y48/O56)を内蔵する。本品はフィルムの現像でお世話になっている自宅近くのカメラ店の店員さんにお借りしたレンズだ

TAKUMARというブランド名は旭光学の初代社長・梶原熊雄氏の弟でレンズの開発にあたった梶原琢磨氏の名から来ており、「切磋琢磨」にも通じる所から名付けられた。梶原琢磨氏は技術者であり写真家でもあったが、後に油絵画家に転向している。

★撮影テスト
魚眼レンズは光屈折を利用して人間の目の能力を超えた180°以上の視野角に渡る像を平面状の感光体に射影する。屈折の法則により視野角が深いほど像が圧縮されるため、外周に向かうほど撮影像が樽状に歪む(歪曲収差)。通常の写真撮影用レンズ、特に広角レンズでは歪曲収差が補正され歪みが目立たないようになっているが、魚眼レンズはこの歪曲収差を残している点が特徴である。外周では像が小さく縮み中央部では大きく広がることから、歪みを効果的に取り入れたユニークな作品を造り出すことができる。
Fish-eye-Takumarはガラス面のコーティングが単層であるうえにフードをつけてハレ切りをおこなうことができない。そのため逆光にはめっぽう弱く、視野角内に太陽光源の侵入を許すとゴーストやフレアが盛大に発生する。屋外で本品を使用する際には充分に気を付けなければならない。最短撮影距離が20cmと短く、近接撮影にはなかなか強い。犬や猫などの顔をアップで撮影する最近流行の構図にも取り組めそうだ。
 

F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): たまに使用するとスカッと開放感のようなものを感じてしまうレンズだ。画像端部では像の歪みが大きく、建物がバナナのように曲がってしまうのが面白い。右下の女の子のあたりにゴーストが盛大に発生している。レンズにはフードがつけられないので太陽光源には注意を払いたい

F4 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): 被写界深度の極めて深いレンズとはいえ、近接撮影ではこのとおりにしっかりボケてくれる、ボケ味は悪くない。最短撮影距離まではもう少し寄れるが、これ以上寄ると前玉を爪で引っかかれそうなのでやめておいた
F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): なぜかこのレンズを用いると縦の構図が多くなってしまう。このレンズのオーナーの方も同じような事を言っていた

★内蔵されているオレンジフィルターを使って遊ぶ
本来はモノクロ撮影でコントラストを向上させるために用いられるカラーフィルターだが、せっかく内蔵されているので、あえてカラー撮影で使ってみても面白い。レトロな雰囲気を演出したり、ちょっと非現実的な作風にしてみたりと、使い方によってはなかなか良い効果を生む。
F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): こちらは太陽光を積極的に導入した作例だ。左下にゴーストが発生しているが、オレンジフィルターを用いた作例ではあまり目立たなくなっている
F11 銀塩撮影(Fujicolor Reala ACE 100): こちらはオレンジフィルタを用いて撮影し、後でカラーバランスを調整して仕上げた。金属の光沢感がとてもいい雰囲気になった

★撮影機材
PENTAX MZ-3 + 旭光学 Fish-eye-Takumar 17mm/F4 + FujiColor ネガ(Reala ACE 100)