おしらせ


2009/08/07

E.Ludwig Meritar 50mm/F2.9(M42) ルードビッヒ・メリター

 
癖玉メリターはダメ玉なのか・・・

 エルンスト・ルードビッヒ社はドイツのドレスデン近郊にあった小規模の光学機器メーカーである。戦前から眼鏡用レンズやカメラ用レンズを製造しており、1972年に他社に吸収されるまでの間、エントリーレベルの安いレンズの製造を手がけていた。今回テストするメリターはルードビッヒ社が戦前に製造していた主力レンズのVictorをプリセット絞りに発展させたもので、1950年代~1960年代にExa用の標準レンズとして製造されていた。メリターはシンプルな3枚玉のいわゆるトリプレットと呼ばれる設計構造を持つテッサー型のレンズであり、エグザクタマウントとM42マウントの2種が存在する。シンプルゆえの携帯性と画質面での優位性、製造面での低コストを兼ね備えた優れた設計といえる。ドイツレンズらしい青いコーティングと一風代った鏡胴のデザインもメリターの特徴だ。最短撮影距離が80cmと寄れないのは残念。海外のWEBサイトでの評判は劣悪で、描写についてはダメ玉のカテゴリーに入っているようにも感じる。
最短撮影距離 80cm フィルター経:35.5mm 重量:126g M42マウント。本品はプリセット絞りである。マウント部に絞り連動ピンはついていないため、ピン押しタイプのマウントアダプターを用いる必要性はない

入手の経緯
 以前からトリプレット構造のレンズに惹かれていた私。メリターがかなりの癖玉だとは知らずに勢いで購入してしまった。私が入手したのはM42マウント仕様のレンズであり、2007年3月にeBayにて出品されていた。誰も入札しなかったため私の手に¥6000で寂しく落札された。銀座と新宿の中古店にもM42マウントの同じものが置いてあり1万2千円前後の値段で売られていた。
 
試写テスト
 購入後さっそく撮影してみたが、やはり凄い癖玉だというのが第一印象であった。あまりの凄さに数ショット撮影した後、そのまま部屋のどこかにしまい込んでしまったのだ。しばらく時が経ち本ブログを開設して一人で盛り上がっているSPIRAL。そんな中、メリターが蝉の幼虫のようにヒョッコリと顔をだしたので真っ直ぐに向き合うことにした。 メリターの描写性能についてまとめると、


●コントラスト幅がたいへん狭く、暗部は明るく浮き気味、明部は簡単に白トビを起こす。

●階調表現に粘りが無い。輝度の空間変化が失われ平坦になる傾向にある。例えば植物を撮影すると造花のような作り物みたいな画になってしまう。


●カラー彩度が大幅に低く異様な発色となる。まるでモノクロ写真の世界に引きずり込まれてしまいそうな、そんな結果が得られる。ちなみのこのレンズはモノクロ写真が幅をきかせていた時代に作られたレンズである。カラー写真に適したチューニングは施されていない。使い方次第では結構面白い写真が撮れるかもしれない。

●開放絞りでは中央部から解像度不足になる。ブレているのかと思うくらい結像が甘い。2段絞っても中央に解像感が得られる程度であり、シャープネスは期待ほど高まらない。これにはちょっと泣かされる。

●ボケは汚い。二線ボケも出まくる。開放では周辺部で像が流れグルグルボケがでる。収差がちゃんと補正されていないようだ。

 描写に関してはまともに評価できる箇所がまるでない。開き直って、癖を生かした写真を狙うしかない。発色だけに関しては、このレンズでしか撮れない異様な写真が得らそうだ。
なんかだか変な発色。彩度がとっても低い。まるでモノクロ写真をカラー化したような画像だ。 f4

ハイライトに粘りが全くなく、植物の実の部分が白とびしている。コントラストが高い画像でもないのにいったい何なのか?暗部も締まりがなく、明るく浮いている。同じ構図をPancolarやHeligonのテスト撮影の時にも撮影したので比較して欲しい。時期が1ヵ月ほど後のため花が散り実になってしまったが・・・ f5.6

開放絞りでの撮影結果。シャープさに乏しくボケも汚い。暗部に締まりがない。紫の発色も現物より淡い f2.9

上の写真のレベル曲線。勿論無修正のままだ。明部も暗部もちゃんと出ていない。明暗幅(コントラスト)がたいへん狭い

遠方の植木の緑を見て欲しい。階調変化が不自然で、まるで造りものみたいな気持ち悪い画になっている。何かが出てきそうな恐ろしげな発色だ f5.6

暗部にしまりはないものの、時にはこういう具合にましな描写を示すこともある f5.6

昼下がりの東戸塚西武 f8: メリターは発色に爆弾を抱えている。彩度が急降下し異様な画像になることが度々ある。この爆弾がいつ、どのような条件下で炸裂するのか、もうすこしテストを繰り返し真相を探ってみたい。 
撮影機材: E.Ludwig Meritar 50mm/F2.9 + Eos Kiss x3

 癖玉とは必ずしも高性能ではないが描写に個性を持ち、使い方次第で撮影者の表現意図がより一層強調できるレンズとされている。メリターが持つ薄気味悪い発色は間違いなくこのレンズの持つ個性である。これをどうやって生かすかが、癖玉なのかダメ玉なのかの分岐点になる。メリターを通して見た画像は、確実にリアルであるが何となく作り物のように見えてしまう。それを見る者に密かに気付かせ、それが偽物ではあるまいかと心のどこかで疑わせるよう企てられた魔物の住む写真。このレンズを用いると、そんなものが撮れそうだ。メリターは魔物を映し込むレンズになれるかもしれない。

5 件のコメント:

  1. I am sorry that the description is only in Japanese. Unfortunately i cannot make time to write in English at all busily now.

    返信削除
  2. この玉は巷で言われているほど酷い玉でもないと思うのですが・・・少々発色の悪いトリプレット、と言った感じか。(3枚玉では限界があるかと。)ボケもPrimotarほど暴れませんし、夕景などは雰囲気のある描写をしてくれます。

    返信削除
    返信
    1. まぁ、レンズとの相性ってのは必ずありますから、
      このレンズが好きな人は必ずいます。

      雑誌等での評価はわるくないみたいですね。
      当時の私との相性がイマイチだっただけのことです。
      いろんなレンズをみましたので、
      8年たったいまなら見方が変わっているかもしれません。
      入手できる機会がありましたら
      再挑戦してみたいとおもいます。
      ありがとうございます。

      削除
    2. 以前は見向きもされなかった玉が珍重されている昨今、Meritarも注目される日が来るかもしれませんね。
      もっとも、私のMeritarに対する思い入れは、「十数年前にアフガニスタンでたった500円で手に入れた」という超個人的な理由ですが。

      削除
    3. 旅先での機材との出会いは、忘れれない思い出になりますよね。
      ありがとうございます。

      削除

匿名での投稿は現在受け付けておりませんので、ハンドルネーム等でお願いします。また、ご質問を投稿する際には回答者に必ずお返事を返すよう、マナーの順守をお願いいたします。