おしらせ


2020/12/27

Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8 M42/QBM muont



 
優れたガラス硝材が登場するとともにコンピュータによる自動設計技術が普及し、明るい標準レンズの代表格であるガウスタイプの設計は1970年代に成熟期を迎えます。過剰補正に頼らなくとも輪帯球面収差を無理なく補正でき、高いコントラストと解像力を両立させながら、素直なボケ、スッキリとしたヌケのよい開放描写を実現できるようになります。レンズ設計の関心はピント部からアウトフォーカス部へと移り、それまでボケ味のザワザワとしたレンズが大勢を占めていた中、ボケ味トロトロ系の美ボケレンズが各社から登場するようになります。ガウスタイプのレンズはここに来て新次元の領域に到達したわけです。

ウルトロン型レンズの集大成
グラッツェル博士のウルトロン
Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8

カラー・ウルトロンはフォクトレンダーブランドの一眼レフカメラVSL-1に搭載する交換レンズとして1974年より供給された凹みULTRONの後継レンズです。凹みUltron同様に7枚玉の贅沢なレンズ構成を踏襲していますが、フロント部の第一レンズが凹メニスカスではなく弱い正パワーの凸レンズに変更されている点が大きな違いです(下図)。光学系の原型は1970年にZeiss Ikonから発売されたRolleiflex SL35用のCarl Zeiss Planar 1.8/50ですが、このPlanarに採用された拡張ガウスタイプの設計構成は元を辿れば凹みULTRON、さらに遡るとVoigtlander ULTRONからの流れを汲んでおり、カラー・ウルトロンが登場したことで設計構成が再びUltronブランドに回帰したわけです。Zeiss Ikonは1971年にカメラ産業から撤退し、Zeiss IkonブランドとVoigtlanderブランドの商標はシンガポール・ローライに譲渡されており、これ以降の両ブランドはレンズの設計こそドイツ本国でしたが、シンガポールで製造されました。レンズを設計したのはホロゴンやディスタゴンなど革新的なレンズの設計で知られるカール・ツァイスのグラッツェル博士(Erhard Glatzel 1925年-2002年)で、レンズの開発にあたっては前モデルまでの設計を担当したトロニエ博士の助言が反映されているそうです。
 



カラー・ウルトロンは凹みウルトロンよりもコントラストや発色の改善に力を注いでいますが、それでも解像力は十分に高く、コンピュータ設計により7枚玉の底力が遺憾なく発揮されています。天下のCarl ZeissがPlanarの名で発売したレンズと同一設計なわけですから実力は間違いありませんが、残念なのは生産国がシンガポールであたっため過小評価され、不遇な扱いをうけてきたことです。安価なわりに高性能でコストパフォーマンスは抜群に高く、マニアの間では誰もが認める隠れ名玉として一目置かれる存在となっています。
 
入手の経緯
レンズはeBayに豊富に流通しており、相場はQBMマウントのモデルが100ドル~150ドル程度、M42マウントのモデルが150~200ドル程度です。この値段の差はM42マウントのモデルの方が使用できる一眼レフカメラが多いためですが、現在はミラーレス機が主流となり、値段の安いQBMマウントのモデルでも多くのカメラで使用できます。何ら不自由はありません。日本国内では海外相場の1.5倍くらいの値段で取引されています。
 
Voigtländer COLOR-ULTRON 50mm F1.8(中央はM42マウント、右はRollei QBMマウント): フィルター径 49mm, 絞りF1.8-F16, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.45m, マウント規格 M42/Rollei QBM, 重量(実測)180(M42) /188g(QBM), マルチコーティング
  
撮影テスト
開放から解像力は高く、コントラストも十分で、現代のレンズに近い欠点の少ないレンズです。前モデルの凹みULTRONが持っていたシアン成分の発色の癖は完全になくなり、ハッとするような鮮やかな発色に出会えます。ボケは安定しており美しく、グルグルボケや放射ボケが目立つこともありません。ここまで高性能なレンズがこの程度の値段で入手できることは大変な驚きです。
 
F4 sony A7R2(WB:日光) マルチコーティングが良く働き、曇りの日でもコントラストは高いレベルをキープしています



F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)

F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)aaa










F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日光) 定評どうりの凄い性能。開放でこの描写力はもう異次元です



左右接合: 左F4/ 右F1.8(開放): SONY A7R2(WB:日光) 


F1.8(開放) SONY A7R2(AWB) 

F1.8(開放) SONY A7R2(AWB) 
F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰) 


F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)


F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

F1.8(開放) SONY A7R2(WB:日陰)

4 件のコメント:

  1. Rollei用UltronにはPlanar名を含め、ドイツ製・シンガポール製、コーティングがHFTのもの、無記名のものなどバリエーションが多く存在します(掲載のものはコーティング色の薄い、無記名の物のようですね)が、どれも廉価で秀逸な描写ですよね。
    個人的にはY/CのPlanarよりも好きで今までに4,5本入手しました(ジャンクで廉価だとつい、手が出てしまいます)が、絞り羽根に油が回って動かない個体が多く出回っているようです。
    以前何かの記述で読みましたが、シンガポールの個体もガラスはドイツから運んで組み立てた、という話です。
    現在、Ifbagon銘の個体を探しているのですが、なかなか見つかりませんね。

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    1. コメントありがとうございます。IfbagonはeBayに出ているものを過去に1本だけ目撃したことがありますが、それっきりでした。

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  2. こちらのcolour Ultron と凹みウルトロンどちらが優秀と思います?

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    1. コメントの書き込みありがとうございます。ちなみにレンズの「優秀」とは具体的に何を指しているのでしょうか。

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