KOWA 140(KALLO 140)とKOWA KALLO WIDE |
興和光器の写真用レンズ part 1
ワイドカメラブームの呼び水となった
カロと広角プロミナー
Kowa Optical Works PROMINAR 35mm F2.8
1954年2月、興和光器製作所(以下コーワと略称)は中判二眼レフカメラのKALLOFLEXを世に送り出し、カメラ業界に参入します[1]。翌1955年11月には35mmカメラのKALLO WIDEを発売、広角レンズを固定装着したレンジファインダー機としては同年発売されたOlympus WIDEに次ぐ日本で2番目のカメラとなります[2]。この製品は初めからOlympus WIDEを意識した作りになっており、Olympus WIDEにはない連動距離計を内蔵し、最短撮影距離は0.5mと短く、重量は同等、レンズも高性能で明るいものが搭載されているなど、全てにおいてワンランク上の製品仕様となっていました。小売価格はOlympus WIDEが16900円であったのに対し、KALLO WIDEは19800円とやや高い設定でしたが、非常によく売れました。ちなみに当時は大卒初任給が約1.5〜2万円の時代です。搭載されたレンズはPROMINAR 35mm F2.8で、豪華な4群6枚のダブルガウス型でした(下図)。この設計構成ならば口径比F2にも対応できたわけですが、無理をせずF2.8に踏みとどまったのは大正解でした。PROMINARの写りはたいへん評判がよくスナップシューターの間でたちまち人気となり、カロワイドともどもアマチュア・プロを問わず多くの写真家に愛用されました。また、1959年に登場するフラッグシップカメラのKALLO 140(KOWA 140)にも同一構成のまま交換レンズとして採用されています。こうしたプロミナーへの人気はやがてレンズのみ独立させて発売しようという動きに繋がり、100本程度と数は少ないものの1959年にライカマウントのPROMINARが単体でも試験販売されています[3]。当時はレトロフォーカス型広角レンズの性能がまだ発展途上だった時代でしたので、スッキリとシャープに写る明るい広角レンズの存在は大変貴重でした。
レンズを設計したのが誰なのか詳しい情報は見当たりません。コーワのレンズ設計者として記録に名前が出てくるのは、当時の光学設計部長だった小松聡一氏と、映写機用レンズの設計に関わっていた小澤秀雄氏くらいです[4,5]。ただし、この二人が写真用レンズの設計にどれだけ関与したのかまではわかりません。何か関連情報をお持ちの方がおりましたら、ご教示いただけると幸いです。
カメラは昭和の高度経済成長期に東京の街と人々を捉える作品を数多く残した、写真家・春日昌昭氏(1943‐1989)が愛用していたことで知られています。
PROMINAR 35mm F2.8レンズ構成:文献[3]に掲載されていた構成図をトレーススケッチしました。図の大元はKALLO 140の取扱説明書であろうかと思われます。左が被写体側で右がカメラの側です |
★参考文献
[1] 興和百年史 興和紡績株式会社、興和株式会社(1994年)
[2] カメラレビュー クラシックカメラ専科 No.40
[3]「世界のライカレンズ part 3」写真工業出版社
[4] 名古屋市工業研究所 講演会(1958年)
[5] ニデック創業までの歩み: https://www.nidek.co.jp/50th/
★レンズの入手
今回はKallo Wide Fから取り出されSony Eマウントに改造されているレンズと、KOWA 140(Kallo 140)用交換レンズ(ライカMアダプター付き)の2本の製品個体を紹介します。改造レンズの方は最近、国内のネットオークションで24000円で購入しました 。流通はあまりなく、決まった相場もありません。KOWA 140マウントやライカマウントの個体が非常に高価なので、同レンスの評判や人気を考えると、このくらいの値段で入手できたのは幸運でした。KOWA 140用レンズに方は5年ほど前にカメラに搭載された状態でヤフオクに出品されていたジャンク品を偶然見つけ、即決価格で手に入れました。付属のカメラ本体はファインダー部分のガラスが割れており、シャッターと距離計が故障していましたので、修理は諦め、分解してアダプター作りの材料にしました。レンズの状態はとても良いものでしたので、これも幸運な買い物でした。希少性が高くオークションではレンズ単体で10~20万円もの値で取引されています。ライカマウントの個体に至っては20~30万円もの値がつきます。海外では更に高い値段がつくみたいです。
KOWA Prominar 35mm F2.8(KALLO WIDE F用): 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 0.5m, フィルター径 34mm, セイコー社MXLシャッター(最高速1/500), 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, 発売 1955年 |
KOWA Prominar 35mm F2.8(KOWA/KALLO 140用): 絞り羽 5枚構成, フィルター径 52mm, 最短撮影距離 1m, 発売年 1959年, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ |
★撮影テスト
前評判どうりの高性能なレンズです。口径比に無理がないため開放でもスッキリと写り、コントラストは良好です。ガウススタイプらしさもよく出ており、中心部は解像力のある緻密な描写で、線も細く、開放では四隅に光量落ちが見られます。フレア(サジタルコマフレア)は開放時にデジカメによる拡大表示で判別できる程度で、薄っすらと綺麗に出ますが、コントラストに大きな影響はないようです。少し絞れば良像域は四隅まで拡大し、光量落ちも消え、薄いフレアも無くなり、全画面で均一な像が得られます。グルグルボケや放射ボケが顕著に目立つことはありません。鏡胴が小さく軽いため、スナップ撮影には適したレンズだと思います。まずはデジタルカメラでの写真作例、続いてカラーネガフィルムでの作例を提示します。
★ デジタルカメラによる撮影 ★
Prominar 35mm F2.8(Kallo 140用)+Nikon Zf
F5.6 Nikon Zf(WB:日光Auto) |
F2.8(開放) Nikon Zf(WB: 日光A)F5.6での比較用作例はこちら |
F5.6 Nikon Zf(WB:日光A) |
F2.8(開放) Nikon Zf(WB: 日光A) |
F5.6 Nikon Zf(WB:日光A) |
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光A) |
F5.6 Nikon Zf(WB:日光A) |
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光A) F5.6まで絞った写真作例はこちら |
★ デジタルカメラによる撮影 ★
Prominar 35mm F2.8(Kallo W用)+Nikon Zf
F5.6 Nikon ZF(WB:日陰) |
F2.8(開放) Nikon ZF(WB:日陰) |
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰) |
F4 Nikon Zf(WB:日陰) |
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰) |