おしらせ

2024/12/01

KOWA Co. Ltd., KOWA-R 135mm F4(KOWA-SER/SETR mount)

興和光器の写真用レンズ part 4
太い、重い、でかい、コーワの望遠ゾナー
Kowa Co. Ltd., KOWA-R 135mm F4 (SER/SETR mount)
興和特集PART 4では同社が一眼レフカメラのKOWAFLEX SER (1965年発売)とSETR(1968年発売)、SETR2(1970年発売)に搭載できる交換レンズとして市場供給した望遠レンズのKOWA-R 135mm F4を取り上げます。一瞬、F2.8かと見間違えるサイズ・重量感ですが、どっこい口径比F4です。このサイズからして、かなり豪華な設計構成であることが想像できます。ガラスを覗くと確かに構成枚数は多く、下図のような4群5枚の空気レンズ入りゾナー型(通称エアゾナー)です。レンズ構成図は公表されていないようですので、下図は本レンズと同等のものを提示しました。5枚玉は望遠レンズにしては多い方ですが、それにも関わらず口径比がF4と控えめな点が本レンズの特徴です。本家ツァイス・ゾナー135mm f2.8からも明らかなように、構成的には1枚少ない4群4枚でも肉厚ガラスを用いれば一段明るくすることができ、それでも画質的に充分な性能のレンズが作れました。薄いガラスで5枚構成にするか、肉厚ガラスで4枚構成にするかが、このジャンルのレンズを設計する際の分かれ道のように思えます。どちらがコスト的に有利であったのか、私にはわかりません。
本レンズの構成図ではありませんが近いものを提示しました。設計構成は4群5枚のゾナー型です。コンタックス・ヤシカマウントのゾナー135mm F2.8と同じ構成です


KOWA-R 135mm F4: 最短撮影距離 1.7m, 重量(カタログ値) 580g, フィルター径 67mm, 絞り F4-F16, 絞り羽根 5m枚, 設計構成 5群6枚簡易ゾナー型,  KOWA SER/SETRマウント



入手の経緯
レンズは2018年ごろ新宿で撮影ワークショップを開催した際に、途中で隙を見て抜け出し、新宿の中古カメラ市場で手に入れました。時間のない中、10分足らずで購入したレンズで、店頭価格は5000円でした。レンズのコンディションが良かったうえカメラのマウント部分が付属していたので、持ち帰ってアダプターが作れるという魂胆だったのを覚えています。ちなみに同行していた上野由日路さんも短い時間で何か変なものを買っていました。何であったのかは今となっては思い出せません。
 
撮影テスト
シャープでコントラストは高く、ゾナータイプならではの線の太い描写が特徴で発色も鮮やかです。さすがに開放ではコントラストは落ちますが、それでも同クラスのレンズと比較すると、なかなかいい成績です。開放で遠方撮影を行うと、非点収差の影響からか写真の四隅で像がぼやけています。近接撮影やポートレート撮影ではあまり目立ちませんが、小さな被写体を遠方の四隅に置く場合には少し絞る必要があります。このクラスの望遠レンズによくあるフリンジ(被写体の輪郭が色づく現象)の発生量は普通のレベルです。また歪みはよく補正されており、よくある糸巻き状の歪曲は全く見られません。光学系が細長いためでしょうか、背後のボケに口径食が強めに発生し、開放では点光源が四隅で半月板のような形態になってしまいます。ボケ具合を気にする方は少し絞ったほうが良いと思います。距離によってはグルグルボケが目立つことがあります。
 
F4(開放) Nikon Zf(WB:日光A)

F4(開放) Nikon Zf(WB: 日光A)


F8  Nikon Zf(WB:日陰)

F4(開放) Nikon Zf(WB:日陰)

F4(開放) Nikon Zf(WB:日陰)
F8 Nikon Zf( WB: 日光)

F5.6  Nikon Zf(WB:日光)

F4(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F4(開放) Nikon Zf(WB:日光)




2024/11/24

Ichizuka Opt. Telephoto Cine KINOTEL 3inch(76.2mm) F1.5

 

画角が欲しい、魔力も欲しい。欲ばりな人が手に染めるテレ系レンズのリミッター外し

Ichizuka Opt. Kinotel 3inch(76.2mm) F1.5 C-mount

今回取り上げるKinotel(キノテル)のように16mmフォーマットのシネマ用レンズにはハイスペックな製品が数多くあり、3inch F1.5ともなると目が離せません。それにも関わらす値段は数万円程度と手頃なので、つい手を出したくなるのですが、16mmのシネレンズで問題なのはイメージサークルが小さいことです。デジタルカメラで使用するとケラレが生じる可能性が高く、使えるカメラは限られてしまいます。ケラレの出る原因は多々ありますが、望遠系レンズの場合には後玉のすぐ後ろに設けられているフレアカッターと呼ばれる反射板が主な要因です。今回「リミッター」と呼んでいるのはこの部分の事で、画質的な理由から反射板で光路を狭めイメージサークルのサイズに制限をかけているわけです。これを外せばイメージサークルが拡大し、より広い受光部(フィルムやイメージセンサー)をもつカメラでもケラれる事なく使えるようになります。望遠系レンズの場合には潜在的に大きなイメージサークルを持っていますので、運が良ければAPS-Cフォーマットやフルサイズフォーマットなどデジタル一眼カメラのスタンダードな規格でも、ケラレることなく撮影できます。早速、リミッター外しを試してみたところ、KinotelではAPS-Cフォーマットまでケラれることなく使うことができました。

後玉付近に設けられたフレアカッター。今回は写真内の赤線部分をカットしました。フレアカッターをつけたままですと、イメージサークルはAPS-Cセンサーをカバーせず、マイクロフォーサーズセンサーまでが限度です。フレアカッターを外すとフルサイズセンサーこそギリギリでカバーできませんが、APS-Cセンサーは余裕でカバーできるようになります


今回取り上げるのは、COSMICARブランドで知られる市塚光学が1950年代後半から1960年前後あたりで製造した16mmシネマ用望遠レンズのkinotel 3 inchです。レンズの設計構成は公表されていませんが、おそらく前群は2+1の2群3枚でペッツバールの前群のような分厚い2枚の貼り合わせレンズの後ろに正または負のメニスカスが配置されており、後群は普通のゾナーと思われる1群2枚です。構成図などの情報をお持ちの方がおりましたら、お知らせいただければ助かります。

光の反射から推測した構成図(スケッチ)。左が被写体側で右がカメラの側です。空気境界面の曲率は概ね合っていますが、内部の張り合わせ面の向きは肉眼による判断なので、確実ではありません。G2のメニスカスが正なのか負なのかもわかりません

 

市塚光学

市塚光学工業株式会社(Ichizuka Opt.)は1951年より東京都新宿区下落合2丁目にてシネマムービー/CCTV用レンズを生産していた光学機器メーカーです[1]。主力製品は8mm / 16mmフォーマット用レンズで、主に米国と日本に市場供給されました。OEM生産にも積極的に取り組む傍ら自社ブランドのCosmicarや米国ミモザ社の登録商標であるKinotar/ Kinotelでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。同ブランドには広角のWide-Angle KINOTAR、標準レンズのKINOTAR、望遠のKINOTEL、明るいハイエンドモデルのProfessional KINOTARなどがあります。同社は1967年にCosmicar Optical Co.に改称、COSMICARブランドやIZUKARブランドで産業用CCTVレンズを供給しますが、その後は経営不振に陥り旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の子会社となっています。旭光学の傘下ではCOSMICARブランドでCCTVレンズを生産し、現在もRICOHイメージングの傘下で生産を続けています。

 

参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告

[2] United States Patent and Trademark Office

[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

 

Ichizuka Opt. Telephoto Cine KINOTEL 3inch F1.5: 重量(実測)503g, 絞り羽根 16枚構成, 絞り F1.5-F16, 最短撮影距離 約1m, Cマウント




入手の経緯

2024年6月にeBay経由で米国のカメラ屋から220ドル+送料50ドルで落札しました。最近の北米からの送料は異様な程に高いです。鏡胴は傷やスレが目立ちましたがガラスの状態は非常に良好でした。ピントリングの回りが重いのでヘリコイドグリスを自分で交換したのですが、なかなか改善しません。ヘリコイドネジの素材が真鍮なので、まぁこんなものなのかもしれません。レンズは米国市場でのみ流通したと思われます。eBayでの相場は200ドルから300ドル程度と手頃な値段で取引されています。ただし、流通量は少な目なので、実際に手に入れるとなると時間がかかるものかと思います。

 

撮影テスト

F1.5の開放でも滲みはなく、スッキリとした線の太い描写で、コントラストの良さにはたいへん驚かされます。さすがに写真の四隅にゆくにつれ像面湾曲が目立ちますが、良像域は当初思っていたよりも広く、少し絞れば普通に使えるレンズとなります。ぐるぐるボケはまぁまぁ目立つ具合に出ています。中央と四隅の画質的なギャップが大きいので、ヌケの良さと相まって、面白い写真が撮れると思います。

F2 Fujifilm X-PRO1(WB:日光)

F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日陰)

F2 Fujifilm X-POR1(WB:日光)























F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)

F2  Fujifilm X-Pro1 (WB:日光) 像面湾曲のためピントが合う部分が平面ではありません。ピントは車の左のライトですが、手前のオートバイにもピンとが合っています













F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)
F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光) 像面湾曲の激しさを物語るもう一つの写真です。中央にピントが合っていますが次の瞬間ワンコが手前に飛び出します(下の写真)









F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光) ところが、四隅でもワンコにピントが来ています。ピントの合う像面が曲がっているのです

F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)








F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)

F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)
F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)