おしらせ

2021/09/20

A.Schacht Ulm S-Travelon 50mm F1.8 R (Rev.2)

シャハト社の高速標準レンズ

A.Schacht Ulm S-TRAVELON 50mm F1.8

1960年代に入り、標準レンズの明るさの主流はF2からF1.9~F1.8へと移行しますが、新興中堅メーカーのA.シャハト社もこの流れを見越して、1962年に同社初となる高速レンズのS-トラベロン(S-Travelon)をF1.8の明るさで発売します。当時のライバルメーカーの状況を見ると東ドイツ勢はZeiss Jena社がPancolar F1.8、Meyer Optik社がDomiron F2とOreston F1.8を出しており、西ドイツ勢からはSchneider社がXenon F1.9, Rodenstock社がHeligon F1.9, Steinheil社がAuto-Quinon F1.9, Isco社がWestagon F1.9とWestrocolor F1.9を出すなどF1.9で揉み合っていましたので、A.Schacht社は西ドイツ勢としては唯一、頭一つ抜けた明るさで標準レンズを出していました。とはいえS-Travegonがこのクラスのレンズの市場でのシェアを伸ばしていたわけではなく、ドイツの消費者層が僅か0.1の明るさに右往左往する人々では無かったことがわかります。レンズ専業メーカーの多くがレンズのマウント規格をM42とEXAKTAの2種で供給していたのに対し、A.Schacht社はM42, Leica L, EXAKTA, Twin Exakta, Praktina, Minolta MD, Alpa, Leidolf-Lordomatなど実に多くのマウント規格を展開し、市場でのシェア獲得のため、なりふり構わず奔走していたように思えます。ちょうど日本で言うところのKomuraやMakina光学あたりの製品展開によく似ています。

さて、S-Travelonのレンズ構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。A.Schacht社はF1.4/F1.5の製品を作りませんでしたので、このレンズが同社では一番明るい製品でした。イメージサークルは広めに設計されており、中判デジタル機のGFXシリーズでもダークコーナーは出ずに使用できます。レンズを誰が設計したのかは不明で、特許資料などエビデンスのある情報は見つかりません。同社の設計は全てベルテレが担当したとの説がありますが、ガウスタイプは既に各社が製品化していたジェネリックなレンズ構成ですので、根拠となる特許資料の存在は期待できそうにありません。Schneiderなど大手に設計を外注していた可能性も考えられます(Futura社がそうでした)。写りがどことなくシュナイダーっぽい気がするからです。ただし、競合他社に自社製品よりも明るいレンズの設計を供給したのかというと、それも考えにくい状況です。

レンズ名の由来は「遠くへ」または「旅行」を意味するトラベルが由来のようです。旅に持参し大活躍するという意味が込められていたのかもしれません。ピントリングのゼブラ柄からは国土地理院の地形図に記されているJR線の線路記号を連想させられます。

A.Schacht S-Travelon 50mm F1.8の構成図(パンフレットからのトレーススケッチ):
設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプ
 

入手の経緯

レンズはeBayに絶えず流通していますが、A.Schacht社の製品は流通額が近年上昇傾向にあり、このレンズも25000円~35000円あたりで取引されています。ただし、日本国内では流通量こそ少ないものの、依然として5年前くらいの相場で取引されますので、狙うなら国内市場かもしれません。

わたしが入手した個体はTwin Exaktaというマイナーなマウント規格の個体で、ヘリコイドが故障しており、絞りの開閉にも問題のあるジャンク品でした。入手額はたったの99ドルですが、もちろんマウントアダプターなんて存在しません。ガラスは大変綺麗でしたので直せるかもしれないという淡い期待を抱いていましたが、絞りの不具合は内部の機械の摩耗に由来しており、修理困難な状態でした。仕方なく絞りの制御棒を絞りリングに直結し、指標通りではありませんが開閉できるようにしました。ヘリコイドの方は直進キーが折れており修理を断念。マウント部をライカMに改造しておき、ピント合わせは外部ヘリコイドに頼ることとしました。まあミラーレス機で普通に使えるようになったので、この値段なら文句は言いません。

 

A.Schacht S-Travelon 50mm F1.8 R:絞り値 F1.8-F22, フィルター径 49mm, 絞り羽 6枚構成, 最短撮影距離 0.5m, 4群6枚ガウスタイプ, 写真の個体はTwin ExaktaマウントからライカMへの改造品です 
 

撮影テスト

開放ではピント部を薄いフレアが覆いますが、引き画では目立たないレベルです。解像力は充分にあり、コントラストは良好で発色も鮮やかなど、開放での画質コントロールが絶妙で、透明感のあるヌケの良い描写が維持されています。少し絞ればフレアは消え、完全にクリアな描写となります。とても性能の良いレンズです。光量の少ないシャドー部にやや青みが出やすく、全体としてクールトーンの発色傾向にコケることがあります。背後のボケは適度に柔らかいものの距離によっては2線ボケ傾向になることがありました。グルグルボケが目立つことはありません。

F1.8(開放) soiny A7R2(WB:日光☀) 開放ではピント部を薄らとフレアが覆いますが、コントラストは良好で,解像力も充分にあります
F1.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) 開放から解像感の高い描写です。高性能なレンズですね


F4 sony A7R2(WB:日光☀)


F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光 ☀)

F5.6 sony A7R2(WB:日光☀)

F1.8(開放) sony A'R2(WB:日光☀) これくらいの距離で2線ボケ傾向になることがあるようですね
F8 sony A7R2(WB:日光☀)















































































































銀塩フィルムでの撮影結果も過去のブログエントリーから引っ張り出しましたので、一緒にご覧ください。

F5.6 Kodak GOLD100

F5.6 Kodak GOLD100


2021/09/08

試写記録:Voigtländer Heliar 7.5cm F3.5

グラマーな写りで世の写真家たちを魅了した

フォクトレンダーのフラッグシップレンズ

試写記録:Voigtländer HELIAR 7.5cm F3.5

ヘリアーをもう一本手に入れる機会がありましたので、以前書いた記事に中判デジタル機で撮影した写真を追加することにしました。ここでは追加部分のみを抜粋して記しますが、記事の完全版をご覧になりたい方はこちらをどうぞ。

ヘリアーと言えば昭和天皇ご夫妻の御真影(ごしんえい)にも採用されたことから日本では別格視されるようになり、昔は写真館などで家宝のように大切に扱われてきたそうです[1]。このレンズの描写は見たままの姿を忠実にとらえ再現するだけでなく、被写体の美しさを引き立て、格調高く仕立てる効果があり、御真影に採用されたのもそのためでしょう。時代的に撮影に使用されたのはDynar型の3代目ヘリアーだったであろうと思いますが、こういう歴史の舞台や映画の名作などで活躍したレンズに思いを寄せ、伝説と共に写真撮影を楽しむのも、オールドレンズの魅力の一つと言えます。さて、へリアーを最新のデジタル中判センサーを搭載したFujifilmのGFX100Sで使用してみました。

 

Heliar 7.5cm F3.5 (Bessa66用): 前玉回転式, 最短撮影距離 1m, F3.5-F16, 絞り羽10枚, 重量(外部ヘリコイド除く) 75g

 

 

デジカメへのマウント

今回入手したへリアーはBessa66という昔のスプリングカメラに付いていたレンズシャッター方式のレンズです。レンズはシャッターとともに固定リング1枚でカメラに付いており、カメラの裏蓋を開ければ蛇腹の裏側から固定リングを外すことができます。再び元のBessa66に戻して使えるよう、固定リングは大切に保管しておきましょう。さて、今回のレンズはCompur00という小型シャッターに搭載されており、マウント部はM25(ネジピッチ0.5mm)のネジマウントです。こにeBayで入手したM25(x0.5mm)-M39変換リングとM39-M42ステップアップリングをはめれば、直進ヘリコイドに搭載することができ、M42レンズとして使用できるようになります。私が使用した直進ヘリコイドは21.5-47mmという変則的な繰り出し幅を持つ製品で、これがちょうど良かったのですが、現在は市販で手に入りませんので、17-31mmのタイプを購入しスペーサーを入れるなど工夫が必要になると思います。

Heliar(1921)の構成図。設計は3群5枚構成でトリプレットの前・後群を貼り合せレンズ」とした発展型。1921年にR.Richterが設計している。Richiterは後にZeissに移籍しTOPOGONを設計している

参考文献・資料

[1] クラシックカメラ専科No.8: スプリングカメラ特集

[2] 小西六本店 PR誌 昭和3年(1928年)3月
 
入手の経緯
Bessa66のヘリアー付きはeBayに何台か出ており、相場は400~500ドル程度で取引されているようです。私は2019年にeBayを介してポーランドのフォトホビーから300ドル+送料35ドルで手に入れました。カメラはファインダーにカビとクモリがありましたが、レンズの方は完璧と言っていい素晴らしいコンディションでした。
 
撮影テスト
まずはスタジオ撮影の写真をどうぞ。モデルは「めめ猫妖怪」さんです。ここでのピント合わせは前玉回転ではなく外部ヘリコイドで行いました(前玉回転は無限遠の合焦位置に固定)。スタジオのライティング光ではどうもレンズの特徴である柔らかさがうまく出せないのか、思っていた以上に現代的な写りとなりました。以前のブログ記事で扱った際は、滲まない程度の薄いフレアが被写体全体を美しく覆うように出るイメージでしたが、ここではスッキリとしてシャープな写りです。
 
F3.5(開放, 外部ヘリコイドで合焦) Fujifilm GFX100S(AWB,NN,Color:-2)

F3.5(開放, 外部ヘリコイドで合焦) Fujifilm GFX100S(AWB,NN,Color:-2)









































F3.5(開放, 外部ヘリコイドで合焦) Fujifilm GFX100S(AWB,NN,Color:-2)























 
続いて屋外での写真です。ピント合わせを外部ヘリコイドではなく前玉回転で行ったので、こちらがこのレンズ本来の写りということになるのでしょう。
自然光で撮影すると被写体の表面を微かなフレアが覆っていることがはっきりと見え、しかも、シャープネスには大きな影響を及ぼさない程度の絶妙なフレアです。トーンはやや軟調気味で雰囲気のある写りになります。GFXの中判デジタルセンサーで使用する限りですが、四隅でもしっかりとピントが合い、解像感はピント部全体にわたり均一でした。前玉を繰り出すとポートレート域では少しグルグルボケが目立つ印象をうけました。

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅, NN)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅, NN)