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2020/05/03

Ricoh XR RIKENON 1.7/50 vs Petri EE Auto CC PETRI 1.7/55



0.1のアドバンテージを巡りチキンレースを繰り広げた
日本の中堅光学メーカー  part 1(1回戦A組)
XR RIKENON vs C.C PETRI
PETRI CAMERA(ペトリカメラ)のC.C Petri 55mm F1.7(シーシー・ペトリ)は評価の高かったC.C Auto 55mm F1.8の後継モデルとして1974年に登場し、ペトリカメラが倒産する1977年までの会社終息期に、同社の一眼レフカメラFTE(1973年発売)とFA-1(1975年発売)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。C.Cとはコンビネーション・コーティング(マルチではなくシングルコーティング)の略です。この頃の日本の中小メーカーは市場でのシェアを獲得するため、他社よりも一歩抜き出たスペックの製品を供給することに固執しました。今回紹介するレンズもメーカー各社が主軸レンズの口径比をF1.8からF1.7にシフトさせようとする潮流の中で生み出されました。レンズ構成はF1.7のレンズとしては珍しい4群6枚です。主流が5群6枚であることを考えると、やや無理を押し通した過剰補正頼みの設計が本レンズの特徴と言えます。
 
RICOH(リコー)社はRIKENON(リケノン)のブランド名でレンズを供給していました。ただし、同社にはレンズの製造工場がなかったため、自社で製造していたわけではなく、RIKENONブランドは広角から望遠までレンズの生産を他社に委託する、いわゆるOEM製品でした。今回紹介するXR RIKENON 50mm F1.7もやはりOEM製品ですが、どこから供給を受けたレンズなのか、確かな情報はありません。レンズはRICOH社が1977年に発売した一眼レフカメラのXR-1(Pentax Kマウント採用)に搭載する交換レンズとして登場しました。カメラの方は発売当時にグッドデザイン賞を受賞しています。
RIKENONブランドは複数のメーカーによる寄せ集めで成り立つ、言わばOEM軍団でしたが、同ブランドには癖玉らしい癖玉がありません。RICOH社にはレンズの性能に対するそれなりに厳しい自社基準があったものと思われます。今回のレンズについても高性能な予感がします。レンズの構成図は入手できませんでしたが、設計は国内外のF1.7のレンズに多く採用された拡張型ガウスタイプ(5群6枚構成)で、前群の貼り合わせを外し輪帯球面収差の補正を強化することで、6枚のレンズ構成のままF1.7の明るさと一定水準の描写性能を実現しています。RICOH社のレンズの中では同じ時期に供給されたXR RIKENON 50mm F2が「和製ズミクロン」などと呼ばれもてはやされましたが、これに比べれば今回のレンズはやや地味な存在です。






 
レンズの相場
両レンズとも中古市場での相場はとても安く、流通量も安定しています。XR RIKENONの場合にはネットオークションで3000円から5000円程度の値段で手に入れることができます。私はヤフオクで美品との触れ込みで出品されていた個体を5000円で落札しました。届いたレンズは未使用に近い新品同様のコンディションで、純正ケースと純正の前後キャップがついていました。C.C PETRIの方はレンズのコンディションに気をつけなくてはいけません。PETRIのレンズは市場に流通している個体の大半でレンズ内にカビが発生しており、後玉にクモリのある個体も多くあります。組み立て時にクリーンルームを使用していなかったのかもしれません。ヤフオクなどのネットオークションではジャンクとの触れ込みで1500円程度で手に入れることができますが、多くはメンテナンスされていないコンディションの厳しい個体です。状態の良いものを探すには、多少高くても業者などで一度オーバーホールされているものを買い求める事をおすすめします。今回の個体はメルカリにカメラとセット出品されていたものを2800円で購入しました。やはりカビ入りでしたので、レンズの評価時にはオーバーホールした状態の良い個体を使用しています。

撮影テストC.C PETRI 55mm F1.7
開放ではモヤモヤとしたフレアがピント部を覆い、ハイライト部の周りがよく滲むなど、かなり柔らかい描写です。遠方撮影時にはややボンヤリすることもあり、シャープネスは低下気味でトーンも軽めですが、濁りはなく、コントラストや発色は意外にも悪くない水準です。解像力は同社のF1.8と同等の良好なレベルで、柔らかさのなかに緻密さを宿す線の細い写りとなっています。絞ると急にヌケが良くなりシャープネスとコントラストが向上、絞りの良く効く過剰補正型レンズの典型です。背後のボケにはペトリならではのザワザワとした硬さがあり、形を留めながら質感のみを潰したような、絵画のようなボケ味が楽しめます。グルグルボケや2線ボケが目立つことはありません。4群6枚の設計構成のまま口径比F1.7を成立させるため、大きく膨らむ輪帯球面収差を強い過剰補正で抑え込んでおり、その反動で背後のボケ味が硬くザワザワとした性質になっています。また、設計にやや無理があったのか、開放ではピント部もある程度のフレアを許容した画作りになっています。柔らかい描写傾向を求める方には、またとないレンズだと思います。ガウス型レンズ成熟期の1970年代にこんな趣味性の高いレンズを出したペトリカメラには、何か別の狙いがあったのでしょうか。
 
C.C PETRI@F1.7(開放) + sony A7R2(WB: 日陰) 開放ではフレアが多めにみられ、ソフトな描写傾向になります
C.C PETRI @ F1.7(開放) + sony A7R2(WB: 日光) トーンはなだらかで軟調。発色はこれだけのフレア量にしては良い印象です
 
撮影テストXR RIKENON 50mm F1.7
続いてXR RIKENONの写真を見てみましょう。開放では僅かにフレアの出るソフトな描写傾向ですが、これはF1.7レンズの多くに見られる特徴です。ただし、フレア量は少なく、そのぶんコントラストは良好で、シャドー部にも締りがあります。ハイライト部の周りを拡大しても滲みは殆どみられません。背後のボケはC.C PETRIほど硬くならず、ごく平均的な柔らかさです。こちらに両レンズの背後のボケを比較した写真を提示しておきます。1段絞った時のスッキリとしたクリアな描写や鮮やかな発色は素晴らしいと思います。口径比がもう少し控えめなF2クラスのレンズなら開放から鋭くシャープな描写ですが、フツー過ぎてつまらないと言う方も多くいます。一方で1段明るいF1.4クラスにゆくと、値段は倍以上に跳ね上がります。F1.7クラスのレンズはお手頃な価格で、柔らかく軽めのトーンを楽むことにできる穴場的なジャンルです。オールドレンズビギナーにも最適ではないでしょうか。
 
XR RIKENON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日陰)
XR RIKENON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日光)











C.C PETRI vs XR RIKENON
両レンズのシャープネス、コントラスト、ヌケの良さを比較してみましょう。撮影はマニュアル―ドとしシャッタースピードやISO感度は固定、同一条件で撮影を行いました。
 




 
XR RIKENONに軍配!
コメント
シャープネス、屋外でのヌケの良さ、コントラストなど、今回の評価項目ではリケノンがペトリを圧倒していました。リケノンは開放でもフレアが最小限に抑えられており、ペトリよりも現代の製品に近い高性能なレンズです。1段絞った時のスッキリとしたクリアな描写や鮮やかな発色は素晴らしいと思います。一方で緻密な描写表現に関わる解像力については両レンズとも甲乙をつけがたい性能です。ペトリの長所はフレアを纏う繊細かつ緻密な質感描写で、1950年代のオールドレンズにはこの手の描写設計の製品が数多くありました。リケノンのようなシャープなレンズでは、どうしても細部の質感表現がベタっとしてしまうのです。


2015/12/02

Tomioka Ricomat 45mm F2.8 salvaged from broken camera Ricoh 35 DeLuxe*




オールドレンズ・サルベージ計画 PART 1
沈没船から救出した富岡光学の目
Tomioka Ricomat 45mm F2.8
中古カメラ店のガレージセールでは今もなお再利用できるレンズ達が故障した古いカメラに付いたまま放置されたような状態で売られている。この子達を連れ出し現役選手としてカムバックさせるのが今回の企画だ。狙い目は日本製のレンズ固定式カメラである。カメラ本体が故障していても、なおレンズ自体は無事なケースが多く、状態の良いレンズが付いていることも少なくはない。レンズを救出し簡単な改造を施せば現代のデジタルカメラでの使用も可能になる。ただし、改造には部品代を要するので、なるべく付加価値の高いレンズに狙いを絞るのがよい。
2015年10月のある日、たまたま通りかかった都内某所の中古カメラ店では故障した古いカメラの山が店内の両壁を埋め尽くし、まるで発掘現場の地層の中にいるかのような様相を呈していた。ここで私の目に留まったのは1500円の値札の付いたリコー35スーパーデラックスという60年前のカメラである。値札には「巻き上げ不良(ジャンク品)」との添え書きがついていたが、レンズに大きな痛みはなく、まだまだ使えそうな状態を保っていた。「ジャンク品」とは中古品の流通業界に特有の用語で、研究用や部品取りにどうぞという意味が込められたガラクタ寸前の商品を指す。壊れていることが前提なので品質保証は無いし、いちど購入すると返品対応に応じてもらう事はできないので、その場で検査し購入を決める。この手の商品を手に入れる時には、これよりも少し高額な商品とセットでレジに持ち込み、「ついでに連れて帰りたいんですけれど」というオーラを発しながら値引き交渉に挑むのがよい。「コレ1000円でいいですか?」「いいよ」。こうして海底遺跡の中から、いにしえの沈没舟リコー35をサルベージし自宅に連れて帰ることになった。さて、お宝レンズの救出はここからが本番である。
リコー35デラックス(Ricoh 35 De Luxe)。1956年3月に発売されたレンジファインダーカメラである。カメラ本体の巻き上げが出来ず故障していたため1000円のジャンク品価格で手に入れた









このカメラには彼の有名な富岡光学がリコー社に供給したリコマット(RICOMAT) 45mm F2.8というレンズが搭載されている。リコマットに関する公式データはリコー社ホームページのカメラライブラリで確認をとることがでる[文献1]。レンズの設計は下図に示すような3群5枚の構成でトリプレットの前玉をダゴールで置き換えた異様な形態となっている。この設計構成は中口径レンズの分野においてテッサータイプに置き換わる可能性を秘めた存在として当時の千代田光学(後のミノルタ)が戦前から研究開発を続けてきたもので、1948年登場のスーパーロッコール (Super Rokkor) 45mm F2.8で初めて採用されている。同一構成のレンズとしては富士フィルムが二眼レフカメラのFujicaflexに搭載し1950年にリリースしたPentrectar 83mm F2.8やアルコ写真工業がレンズ固定式カメラのArco 35 automatに搭載し1952年に発売した50mm F3.5などがある。ただし、テッサータイプに対する画質的なアドバンテージが想定していた程大きくはなかったのか、これ以降のカメラメーカー各社は主に旧来からのテッサータイプを採用したため、普及の波には乗りきれず沈没してしまった。テッサーに沈められた原因はいろいろ考えられるが、一つには製造コストの問題であろう。スーパーロッコールにしろリコマットにしろ構成枚数と接合面の数がテッサータイプより多い上、前群側には芯出しに高い精度が求められる3枚接合部を持つ。しかし、これらはレンズの開発段階ではじめから折り込み済みだったので決定的な敗因にはならない。いったい何が普及の障害になったのであろうか。実はスーパーロッコールに関しては設計者が非点収差の計算式を間違えていたという興味深い自白談が残っており[文献2]、どうもこの構成形態の力を充分に出し切れていなかったのではないかという推測が成り立つ。さらに、この時代のテッサータイプは普及したばかりの新種ガラスの恩恵をうけ描写性能を飛躍的に向上させており、こうした経緯がこのレンズ構成の画質的なアドバンテージを目立たないものに変えてしまったのである。ここから先は空想になるが、仮にもしスーパーロッコールの設計にミスがなかったとして描写性能にもう少し大きなアドバンテージがあったなら、この構成が中口径レンズの分野でテッサータイプに置き換わる台風の目になっていたかもしれない。そんな可能性を一人で妄想しているうちに、富岡光学が設計した本レンズにどれ程の実力が備わっていたのかを、この目で確かめたくなってしまったわけだ。コストのかかる独特の構成設計、富岡光学の技術力とネームバリュー、スーパーロッコールの計算ミス、可能性を秘めながらも滅び去った経緯。これらが私にリコマットを復活させる決定的な動機を与えたのである。海底遺跡に沈む古代舟から失われた富岡の名玉リコマットを救出し復活させれば、恐らくデジタルカメラでは世界初の撮影テストになるであろう。おんぼろサルベージ船SPIRAL号発進!。

文献1 リコー社公式HP カメラライブラリ
文献2  郷愁のアンティークカメラIII レンズ編 アサヒカメラ(1993)

入手の経緯
今回はリコー35デラックスを2台入手し2本の改造レンズを制作した。1本目は2015年10月に都内の中古店のガレージセールにて1000円で購入、肝心のレンズには拭き傷と汚れがみられたが描写には影響のないレベルなので問題なしと判断した。もう一本は2015年11月にヤフオクで出ていたジャンク品のリコー35デラックスを1580円にて落札し手に入れた。このカメラはヘリコイド部が破損しておりフォーカッシングのノブも折れていた。ジャンク品にしては少し値がはると思ったが、解説欄にレンズは綺麗と書いてあったので、このカメラを手に入れることにした。オークションは他に入札もなく開始価格のまま私のものとなった。誰の目にも留まらず寂しさ極まりないカメラである。

写真・左は背面パネルを開けたところ。中央のレンズの周囲にある外側のリングをカニ目レンチ等で回しレンズを取り外す
リコマットの救出
レンズの救出および改造手順は以下のとおりである。まずカメラの背面カバーを開け、レンズをカメラ本体に固定しているリング(写真の中の赤の矢印)を小型のカニ目レンチ等で回す。100円ショップで購入したラジオペンチの先端部を棒ヤスリやグラインダーで加工すればカニ目レンチの代わりとしても使用できるだろう。

ポロンと目玉が落ちた。動脈と静脈はカットする

鏡胴のイモネジ3本を緩め、前玉側のカバーを外す







シャッターをB(バルブ開放)の状態にしたまま動かないよう固定してしまう。カバーを開くと薄い円形状のアルミ板があるので、固定にはこれを利用する。切り欠け部分(指先)をシャッターダイアルの固定ピンに引っ掛けたまま鏡胴部にエポキシ接着してしまえばよい(青矢印)。続いてシャッターを開いたままの状態でシャッター制御ピン(左側のトレンチ内に見えるピン)をスタックさせる。私はちいさな細いビニールホースをトレンチ部分に突っ込んでスタックさせた(赤矢印)

続いて後玉側の鏡胴にステップアップリング(42-52mm)を被せマウント部をつくる。ステップアップリングはエポキシ接着剤で固定するが、万が一の事を考え後で再び外すことがあるかもしれないのでガッチリと接着固定するのは避け3点止めにしておいた。もしLeica-Lマウント用ヘリコイド付アダプターをお使いならば、この部分は39-52mmステップアップリングでもよい
















最後に市販のM42ヘリコイドチューブ(BORG7840)へ搭載して完成となる。BORG7840に付属している天板を用いてフランジ長を微調整すれば大方のミラーレス機で不自由なく使用できるだろう。私はM42-Eカメラマウントを用いてSony A7で用いることにした。ライカLマウント用のヘリコイドつきアダプターを所持しているならばヘリコイドチューブは不要になり、レンズヘッドをアダプターに直接搭載すればよい。ただし、スペーサーを入れフランジ調整する必要はある。

重量(実測,ヘリコイド含まない) 130g, フィルター径 内側34mm(保護フィルター用)/外側43mm(フード用), 絞り羽 5枚, 絞り値 F2.8-F22, 3群5枚スーパーロッコール45mm型, セイコー社シャッター, このレンズが搭載されているカメラはリコー35S, リコー35デラックス, リコー35ニューデラックス, リコー500


撮影テスト
中心解像力は開放から良好で緻密な描写表現が可能であるが、四隅は近接域で少し妖しい画質となる。もちろん絞れば良像域は広がりピント部は四隅まで均質になる。フレアや滲みは開放でも全く見られずコントラストは良好でスッキリとヌケが良い。とてもシャープで色鮮やかな描写のレンズである。ボケは開放で撮る際に少し硬くザワザワと煩くなり、距離によっては2線ボケ傾向もみられるが、絞れば素直である。グルグルボケは僅かに出る程度であった。どのような撮影条件でも画質には安定感があり、大きく転ぶことのない優れた描写力のレンズである。
Photo 1:  F5.6, Sony A7(AWB): シャープで色鮮やかなレンズだ

Photo 2: F2.8 (開放), Sony A7(AWB): 背後のボケは安定しており、大きく乱れることはない。開放でもヌケはよいようだ



Photo 3: F2.8(開放), sony A7(AWB): 近接域を開放で撮る。中央は高解像でコントラストも良好だが周辺部はやや妖しい画質になっている。中央部を大きく拡大した写真を下に示す




Photo 3a : ひとつ前の写真の中央部を大きく拡大したもの。とても高い解像力だ。上の写真をクリックするとさらに大きく表示されるので試してほしい

Photo 4: F5.6, sony A7(AWB): トーンはなだらかに出ており、なかなか良い写りである





Photo 5: F8, sony A7(AWB): 歪みはあまりない。ヌケの良いレンズである
Photo 6: F5.6, sony A7(AWB): 逆光でも濁りにくいようだ
Photo 7: F4, Sony A7, やはり近接域では中心部と四隅で画質の差が大きいように思える





良く写るレンズなだけに滅んでしまったのが大変残念でならない。日本には発掘すべき面白そうなレンズがまだまだ沢山眠っているので、この手のサルベージ計画は今後も続けてゆきたい。なにかおススメのレンズ情報をお持ちでしたら、お知らせいただけると幸いです。