おしらせ


2009/11/16

LZOS INDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8 (M42)
インダスター61L/Z-MC


きらきらと輝く六芒星(ろくぼうせい)
カメラ女子の間で人気沸騰中の星ボケレンズ
LZOS INDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8 (M42 mount)
いまカメラ女子の間でこのレンズがブームとなっており、ブログのアクセス解析にも、その過熱ぶりがハッキリとあらわれている。ロシア(旧ソビエト連邦)のLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)が1960年代から2005年頃まで製造したIndustar (インダスター) 61 L/Zである。このレンズはアウトフォーカス部の点光源が星型の形状にボケる、いわゆる「星ボケレンズ」として知られている[文献1]。
去る10月のある日、私はJR山手線のシートに腰かけ、東京駅から上野駅を目指していた。気が付くと目の前に若い2人のカメラ女子が立ち、何やらインダスターの話題になっていた。しばらく耳を傾けていると・・・

「A: ねぇ、メール見た?例の星ボケが出るヤツ(レンズ)なんだけど。」
「B: みたよ。インダスターでしょ?でも、あれってフィルターでも同じことできるんじゃないの?」
「A: うんそうなんだけど、やっぱフィルターとは効果が全然違うんだよねぇ~」
「B: そうなんだ。どこかで試せるといいけど」
「A:ネットにはいっぱい写真出てるから参考になるとおもうよ。スパイラルっていうブログみた?」
「B: あぁ。みたみた。マニアのブログでしょ。なんか難しい事がいっぱい書いてあったわ(←spiral補足:偏差値上げてね)」
「A: ヤフオクに出てるけど、1万円くらいからあるみたい。でもやっぱり現物を見ないと、状態はわからないわ。取引も怖いし。店で試せるといいんだけどね。10月8日の代官山は行ける?」
「B: 即売会だっけ?(←spiral補足:恐らく北村写真機店の体験即売会のことでしょう)。ちょっと予定が入ってるんだよね。友達と映画。何時からやってるの?」

おおよそ、こんな内容のやり取りであった。レンズが少し気になりヤフオクで相場を検索してみると、中古美品が18000~25000万円程度の額で取引されている。ちなみに6年前~1年前の相場は10000~14000円程度で安定していたので、レンズの相場が上昇したのはごく最近になってからのことだ。あるショップの店員によると、レンズを購入するのは主にカメラ女子なのだとか。今になってカメラ女子達がザワつきはじめたのは、紛れもなく写真家・山本まりこさんが9月に出した著書「オールドレンズ撮り方ブック」が発端であろう[文献2]。本ブログもフルサイズ機の普及に合わせ、過去のブログエントリーを刷新している最中なので、これはいい機会である。黒船の放つ波にのり、このレンズを再び取り上げてみることにした。

インダスター61L/Zのルーツは、ロシアの光学研究を統括するGOI(Gosudarstvennyy Opticheskiy InstituteまたはVavilov State Optical Instituteでもある)という研究機関が1958年から1960年まで少量のみ生産したプロトタイプレンズのIndustar-61 5.2cm f2.8(Zorki-M39 mount)である[文献3-5]。レンズを設計したのはG.スリュサレフ(G.G.Sliusarev)とW.ソコロフ(W.Sokolov)という名のエンジニアで、1958年に正のレンズエレメントに希土類のランタンを含む新種光学ガラスSTK-6を用いることで、それまでのインダスターシリーズに比べ、光学性能を飛躍的に高めたとされている。Industar-61は設計の古いFED-2用Industar-26M 50mm F2.8(1955年登場, Zenit-M39マウント)の後継製品として1962年に登場している[文献5]。この頃のIndustar-61は主にFED(ハリコフ機械工場)とMMZ(ミンスク機械工場)が製造し、焦点距離52mmや53mmなどのモデルが供給されていたが、1964年頃からはLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)がレンズの生産に参入し、焦点距離を50mmとするIndustar-61Lを生産するようになった。
Industar 61L/Zの光学系(文献4からのトレーススケッチ): 左が前玉で右がカメラ側である。構成は3群4枚のテッサー型で、肉厚ガラスが用いられているのが特徴である。ランタン系の新種ガラスSTK-6が導入され正エレメントの屈折力が旧来からのガラスの倍にまで向上、ペッツバール和と色収差の同時補正が可能になり、F2.8の口径比が無理なく実現されている
Industarというレンズの名は1929年にロシアで始まった工業化5か年計画のIndustrizationから来ており、これにテッサータイプのレンズで共通して用いられる接尾語の"-AR"をつけてIndustarとなったそうである。61はロシア製レンズの中で用いられる通し番号で、テッサータイプの61番目の製品であることを意味している。
1960年代後半にはレンズをZenit-M39/M42マウントの一眼レフカメラに適合させたLZOS製Industar 61L/Z 50mm F2.8が登場し、この頃から絞り羽を閉じたときの形状が六芒星になった。レンズ名の末尾に付いている頭文字Lはガラスに用いられているランタンを差し、ZはZenitカメラ用を意味しているとのこと[文献6]。現在の市場に出回っている製品は大半がM42マウントであるが、比較的少量ながらZenit-M39マウントの個体も流通している。
Industar 61L/Zはガラス面に用いられているコーティングの種類に応じ、3種類のモデルに大別することができる。1つめは初期の1960年代から1970年代に製造されたモデルで、ガラス面には単層コーティングが施されていた。一方で1980年代初頭からはマゼンダ色のマルチコーティングが施されるようになっている。ただし、1980年代後期に製造された一部の個体からはアンバー系のコーティングが施された変則的なモデルもみつかる。Industar 61L/Zがロシアでいつまで生産されていたのか正確なところは定かではないが、市場に出回る製品個体のシリアル番号からは、少なくとも2005年まで生産されていたことが明らかになっている。
 
参考文献
  • 文献1 「OLD LENS PARADISE」 澤村徹著 和田高広監修 翔泳社(2008)
  • 文献2 「山本まりこのオールドレンズ撮り方ブック」 山本まりこ著 玄光社(2016)
  • 文献3 GOI lens catalogue 1963
  • 文献4 A. F. Yakovlev Catalog The objectives: photographic, movie, projection, reproduction, for the magnifying apparatuses, Vol. 1(1970) ロシア製レンズが全て網羅されているカタログ資料
  • 文献5 SovietCams.com
  • 文献6 レンズに付属した取り扱い説明書
入手の経緯
ロシアのカメラ屋から新品(オールドストック)を99ドル(送料込み)で購入した。レンズには純正のプラスティックケースとシリアル番号付きのレシート、ロシア語で書かれたマニュアルが付属していた。このセラーは2004年製の新品をかなりの数保有しているようであった。インダスター61L/Zは絞り羽に油シミの出ている個体が大半であるが、今回入手した2004年製の個体は比較的新しいためか油染みが全くみられなかった。レンズはヤフオクの転売屋が中古品を数多く取り扱っており、流通量も豊富である。ヤフオクでの相場は中古美品が18000~20000円程度、海外では中古美品が6000円~8000円、新品が8000円~10000円程度で取引されている。国内市場で新品はなかなか出ないようだが、出れば20000円~25000円あたりの値が付くのであろう。人気が過熱気味の日本だけの相場なので、現在は送料を加味しても海外から入手したほうがお得であることは間違いない。
最短撮影距離:30cm, 絞り機構 プリセット式,  焦点距離 50mm, 絞り値 F2.8-F16, 撮影倍率1:約3.5, フィルター径 49mm, 重量(実測):212g, 設計構成 3群4枚テッサー型
撮影テスト
50mmの焦点距離を考えると星ボケを効果的に出せるのは被写体に近づいて接写を行う時のみに限定される。撮影方法はバブルボケの時と全く同じで、まずはじめにピカピカ光る光源をみつけ、フォーカスリングを回してボケ具合を決定する。ちなみに星型にボケるのは絞りを少し絞った時である。続いてピント部を飾るメインの被写体を見つけピントを合わせる。このとき被写体へのピント合わせはフォーカスリングを用いるのでなく、手でカメラを前後させて行うのがポイントである。こうすれば一度決定した背後のボケ具合に大きな変化はない。
昼間の撮影は夜間のイルミネーション撮影よりもテクニックが求められる。星ボケを効果的に発生させるには太陽光の反射を利用するわけだが、肝心なのは太陽に対して半逆光の条件で撮影することである。カメラの露出補正は+1EV程度オーバーに設定しておいたほうが、星ボケがクッキリと写るのでおススメである。あと、今回は人に見せられるような作例が見当たらなかったものの、前ボケを利用するのもよい。
レンズはシャープな描写で知られるテッサータイプである。開放でもスッキリとぬけたクリアな像が得られ、解像力こそ平凡だが、鮮やかな発色とメリハリのある高いコントラストを特徴としている。ボケは四隅まで安定しており、グルグルボケや放射ボケは出ない。同じF2.8のテッサー型レンズでも本家ツァイスのテッサーやフォクトレンダーのカラースコパーなどは背後に僅かにグルグルボケがみられるが、このレンズに関しては四隅までボケの乱れが一切みられない。ピント部の画質は四隅まで安定しており、像面も平らで平面性は高いが、そのぶん立体感には乏しい。ゴーストやハレーションは逆光時でも全くと言ってよいほどでない。F2.8のテッサータイプとしては、かなり優秀なレンズである。
F5.6, sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(AWB): 

F5.6, sony A7(WB:電球)

F5.6, sony A7(WB:白色電球)

2009/11/06

eBayの中古レンズ業者からオールドレンズを仕入れる

eBay.comは1995年に米国カリフォルニア州で生まれた世界最大規模のネットオークションである。2007年6月時点において世界28ヵ国に拠点を持っている。日本へは1999年に進出したが、YAHOO!オークション(通称ヤフオク)が幅を利かせていたため、シェアを伸ばすことができず、2002年に早々と撤退している。一方、多くの経済大国ではeBayがネットオークション市場のトップシェアを獲得している。外国製のオールドレンズを国内市場よりも安く入手できるのが特徴であり流通量も多い。珍品を探し求めるならば中古店やヤフオクで探すよりも効率が良い。世の中にはアンティークカメラ専門のネットオークションも存在する。West Licht PHOTOGRAPHICAが良い例だ。品質が高く珍しい品が多数出品されるなどeBayよりも魅力的だが、オークションの開催期間が年数回に限定されているため、実際には流通量に勝るeBayが主な入手先になる。
 eBayは大変魅力的な市場であるが、欠陥品がなんの断りもなく売られていたり、品質の劣悪な品がさも良品であるかのような解説で売られていることがよくある。買い手は商品の品質をよく分析し、細心の注意を払いながら購入(入札)する必要がある。万が一、(1ヵ月経っても)商品が届かない、あるいは出品時の解説には無い重大な欠陥を持つ品が届いたら、ためらうことなく出品者に返金、返品を要請しよう。商品を買い手の手元へと確実に届けるのは出品者側の義務とされている。逆に言えば、きちんと返品商品を出品者の手元に届けるのは買い手側の義務なので、ゆうちょ銀行のEMSなど配送状態の照会ができる配送サービスを選ぶほうが無難である。出品者が返品や返金に応じない場合には、送金サービスのPayPalに「異議」や「クレーム」を申し立てれば、出品者はPayPalから対応を迫られ、買い手は一定の限度額まで保護される仕組みになっている。
 いろいろ偉そうなことを述べたが、そんな私でさえ過去に購入した28本のレンズのうち、実際に届いた商品に満足した割合は半数の14本のみである。残りの14本は重大な不具合を持っていた。このうち4本は返品、2本はジャンクとして売却、1本は欠陥を気付かずに所持、2本は未修理のまま使用中、5本は自費で修理した。最後の5本は入手の難しいレアなレンズであったため返品したくなかったのである。下の図は私のeBayにおける2007年から現在までのレンズの購入歴である。レンズの購入にどれだけリスクがあるのかを感覚的に知る一つの手がかりにしていただければ幸いだ。ヤフオクとは異なりeBayでは売り手による商品の評価がかなり甘いし、説明もしっかりしていない。日本では「お客様=神様」といった国民性が市場のモラルを支えているようだが、外国では出品者と購入者は対等なので事情が異なる。出品者は日本人よりも大らかな気持ちで商品を販売している。私たち日本人は特に気をつけなければならない。ボロボロでも完全(パーフェクト)に動く品(完動品)であれば、それだけでも中古品としてはGOODなアイテムとして取り扱われる。購入者には商品に対するシビアな目が要求されている。


赤・・・解説と異なる状態(返品含む) 青・・・解説どうり 黄色・・・微妙; 統計的には購入事例の約半数において、事前の説明にはなかったトラブルに遭遇している。そんな私には偉そうなことを言う資格はないのかもしれないが、これでもかなり気をつけているつもりなのだ

eBayでオールドレンズを購入する場合には、できるだけ"MINT(新同品)"を選ぶののが無難だ。"Excellent"の評価程度では、使用感たっぷりのB級品が届く可能性が大きい。"GOOD"の場合はオンボロ品、"Well used"に至っては、きちんと動くのが奇跡である。 私はレアなレンズを狙ることが多いので、しばしば博打に出てしまう(困った性格だ)。そんなわけで、短期間にいろいろな失敗を経験することができた。以下に商品の解説に目を通す際のポイントを列記しておく。
  • 商品の解説文が明確で、ガラスの状態、鏡胴の状態、ヘリコイドリングのスムーズさなど基本的な項目がきちんと述べている
  • 中玉に光を通し、レンズの状態について鮮明な写真を示している
  • 同じ業者の他の商品をチェックする。商品の欠陥や不具合を包み隠さずに示す姿勢が業者にあれば、その業者は健全だ。逆に写真で判断できる不具合箇所をきちんと文章で解説していない業者はパスしたほうが無難だ
  • 業者による独自の格付け(Mint, Excellent, Good, Well used など)があるならば、その業者の他の商品に対する格付けがどうなっているかを確かめておこう。いつも同じような評価を繰り返しているならば、その業者は真面目に商品を見ていない可能性がある
  • 写真が不鮮明な場合は間違いなくハズレだ。勇気を持ってパスしましょう
商品を返品し返金してもらう場合には、出品者の返品規定(リターンポリシー)に従う必要がある。落札者は入札前にこれに同意しているため、出品者に対してこの規定から外れるような要求はできない。多くの場合、返送費用は落札者側が負担することになっている。私の場合は返送に郵便局のEMSを利用し、約1000~2000円程度の返送費用を自己負担した。出品者は返送品が手元に戻ったことを確認し、代金の総額(落札代金+手数料+配送料)をPayPalを通じて落札者に返金する。この場合、出品者から落札者のクレジットカード会社にPayPalを通じて代金が返り、クレジットカードのその月の利用請求額から返金額分が差し引かれる方法で落札者の手元に戻る。
 商品を返送する際には相手国の税関で税金を二重取りされないように、包装箱に貼る宛名ラベルに、ハッキリと「これは売り手への返品である(返金済み)」などと明記しておく事をオススメする。例えば東欧のチェコでは、商品価値の19%分の税金を取るので(後で売り手から請求される)、思わぬところでコストがかかってしまう場合がある。
 最後に、ドイツ系レンズの出品数が豊富な中古カメラ&中古レンズ専門業者の有名どころを幾つか列記しておく。優良な業者かどうかは私にはわからないので、これらの業者を利用する際は自己責任でおねがいしたい。  

GOKEVINCAMERAS(米国)
品数が豊富でレア物を多く揃えている。商品の写真を大量かつ鮮明に、様々なアングルから示してくれる。不具合の箇所を包み隠さない主義がある。レンズの中玉に光を通し、ガラスの状態を鮮明に示してくれるので安心できる。ただし、解説文は少なめで、写真による購入者の判断に委ねる傾向が強いので、ヘリコイドリングの滑らかさや絞り羽根の開閉の的確さ、各部のガタつき、無限遠方が出るかなどについて購入前に質問したほうがよい。私も1度だけガタつきのあるレンズをこの業者から購入したことがある。

STILL22(ギリシャ) 
品数は少ないが状態のよいレアな品を厳選して出品するのでファンが多い。解説が包み隠さずに的確であることが特徴だ。レンズの中玉に光を通し、ガラスの状態を鮮明に示してくれるので安心できる。M42マウント用のレンズを多く出品するのがこの業者の特徴だ。スナイプ入札を仕掛ける追っかけスナイパーが数多くいるので、商品の落札難度が高い。
 
WWWCAMERAMATECOM(チェコ)
品数が豊富でレア物も揃えている。商品の写真を鮮明に示してくれる。大きなハズレの少ない業者のようだが、商品の解説はいつも同じで「クリーンな光学系、スムーズなヘリコイドの回転」に付加情報を加える程度だ。私が購入したレンズは写真どうりの美品であったが、ヘリコイドのローテーションはかちんこちんに固かったので、先の説明文は形骸化している模様だ。

他にもオススメの業者がありましたら、ぜひ教えてください。