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2026/05/19

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 35mm F2.5 and 24mm F2.5

Brief Report

やはり毛色の違うコムラノン28mm・・・。兄24mmと弟35mmはフツーに高描写

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 35mm F2.5 and  KOMURANON 24mm F2.5

KOMURANON(コムラノン)は三協光機が1970年代から会社倒産の1980年まで販売した35mm一眼レフカメラ用の交換レンズ群です。広角レンズや望遠レンズ、ズームレンズなどがあり、他社との差別化を意識し、口径比F2.5を積極採用したことが特徴です。前回の記事では同シリーズの中でも描写に特徴があると前評判の高い、コムラノン28mm F2.5を取り上げ紹介しました。期待どうり、このレンズはフレアが多く、ボケも暴れ気味になるなど面白かったので、今回は焦点距離の近い35mm F2.5と24mm F2.5を入手し、軽く取り上げてみることにしました。先に結論から述べると、両レンズとも28mm F2.8ほど収差は多くありません。開放からスッキリとシャープに写る、よくまとまった"ふつう"のレンズです。35mm F2.5がこうであるのはわかります。しかし、設計難度の高そうな24mm F2.5が28mm F2.5よりも高性能というのは、どうにも解せません。両モデルはいずれも 28mm F2.5 より明らかにコンパクトで、光学系の枚数が少ない分だけ 重量も大幅に抑えられています。こうして比較してみると、28mm F2.5 がシリーズの中でも 際立って特異な存在であることが、あらためて浮き彫りになります。

レンズの中古相場 

三協光機のレンズは、同社の創業初期に製造された希少モデルや、一部の大口径レンズ・高性能レンズを除けば、現在の中古市場では総じて非常に手頃な価格帯で流通しています。今回取り上げるコムラノンの2本もその例に漏れず、国内中古店では状態の良い個体でも 1万円以内、ネットオークションでは 5千円前後から入手できます。市場に出回る個体の多くには、三協光機独自のコムラ・マウントシステムを各社一眼レフ用マウントに接続するためのアダプターが付属しています。対応マウントは Nikon FCanon FDOlympus OMM42Minolta SRMDPentax K など多岐にわたり、非常に柔軟なシステムを構築していました。


KOMURANON 35mm F2.5: フィルター径 58mm, 絞り値 F2.5-F22, 最短撮影距離 0.5m, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 272g
KOMURANON 24mm F2.5: フィルター径 58mm, 絞り値 F2.5-F22, 最短撮影距離 0.28m, 絞り羽 6枚構成,重量(実測) 286g
 

撮影テスト

まずは KOMURANON 35mm F2.5 から触れてみたいと思います。

本レンズは、前回取り上げた 28mm F2.5 と比較すると、開放から描写が安定しており、コマ収差由来のモヤつきやフレアも控えめです。画面全体にわたってコントラストが素直に立ち上がり、解像感も十分に確保されているため、いわゆるクセ玉というよりは、実用性を重視したバランス型の広角レンズといった印象です。

周辺部の描写は破綻が少なく、倍率色収差や歪曲も目立たないレベルに抑えられています。ただし、周辺部の光量落ちはレトロフォーカス型レンズとしては目立つ印象です。1970年代のサードパーティ製広角レンズとしては堅実な設計思想が感じられる一本で、当時の三協光機が目指した「口径比F2.5を軸にした差別化」の中では、最もまとまりの良さが際立つモデルと言えるでしょう。


F2.5(開放)Zikon Zf(WB:日光)


F2.5(開放)Zikon Zf(WB:日光)


F2.5(開放)Zikon Zf(WB:日光)


































続いて KOMURANON 24mm F2.5 について触れておきます。
焦点距離が短くなる分、28mm F2.5 よりも収差が増えるだろうと予想していましたが、実際にはその逆で、むしろ本レンズのほうが描写は安定しています。開放から画面全体のコントラストが素直に立ち上がり、細部の解像も破綻しません。1970年代のサードパーティ製24mmとしては、意外なほど“まとまりの良さ”が感じられる一本です。
周辺光量はやや大きめに落ち込みますが、これは当時の広角レンズとしては自然な挙動で、むしろ味として受け取れる範囲でしょう。倍率色収差や歪曲は控えめで、極端なクセが出ないため、スナップから風景まで幅広く使える実用的な描写を見せてくれます。
設計難度の高い24mmでありながら、28mm F2.5 よりも総合的に優れた性能を示す点は興味深く、三協光機の光学設計が単なる「F2.5の差別化」に留まらず、実際の描写バランスにも配慮していたことを感じさせます。

 
F4 Zikon Zf(WB:日光)

F2.5(開放)Nikon Zf(WB:日光)

F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)











2026/05/09

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 28mm F2.5

「どう写るのか」を楽しむためのレンズ

—つまりクセ玉

KOMURA LENS MFG. LTD( Sankyo Koki ) KOMURANON 28mm F2.5(前期型・後期型)

35mmフルサイズセンサーに対応する広角レンズの中で、収差の出方そのものを楽しめる描写を備え、なおかつ手頃な価格で入手できるモデルとなると、その選択肢は意外なほど限られてきます。とりわけ、レトロフォーカス設計が成熟期を迎えつつあった1965年前後からそれ以降の製品に目を向けると、こうした条件を満たすレンズを探すのは容易ではありません。この時代の28mm広角レンズといえば、開放F値はF3.5が標準的であり、たとえコンピュータ設計を導入したとしても、F2.8を実用レベルで成立させるのはまだ難しい段階にありました。実際、NikonやCanonといった大手メーカーから広角28mm F2.8が登場するのは、1970年代中半になってからのことです。そうした状況の中で狙い目となるのが、光学的完成度をある程度確保しつつも、明るさをやや無理に引き上げた「背伸び型」とも言えるレンズです。

今回取り上げる三協光機 KOMURANON 28mm F2.5(1973年頃発売)は、まさにその典型例と言える一本です。他社に先駆けて「より明るい28mm」を世に送り出したいというメーカーの思惑に、同社の当時の技術水準が完全には追いついていなかった。その結果として生まれたのが、このレンズでした。技術と理想の間に生じた歪みが、そのまま描写の個性として現れる、そんな過渡期ならではの魅力が、このレンズの特徴なのです。

光学系は下図に示すとおり、7群9枚構成という当時としてはきわめて野心的な設計です。フロント側(左側)の第1レンズには大型の凹メニスカスレンズを配置することでバックフォーカスを確保し、一眼レフカメラへの適合を実現。さらに第2群には1群2枚構成の色消しユニットを設け、非点収差および倍率色収差を強力に補正することで、28mmという広い画角に耐えうる性能を引き出しています。

完成度の高さよりも、レンズのクセや揺らぎを味わうことに価値を見出すユーザーにとって、コムラノンは今なお魅力的な選択肢となります。「うまく写る」ためのレンズではなく、「どう写るか」を楽しむためのレンズと言えるのです。

 
KOMURANON 28㎜ F2.5構成図: 光学系は7群9枚のレトロフォーカス型です


















 

前期モデルと後期モデル
KOMURANON 28mm F2.5は、製造時期の違いによって大きく二つの仕様に分けることができます。便宜上、ここではそれぞれを「前期型」「後期型」と呼ぶことにします。
まず前期型は、最短撮影距離が0.3m、最小絞りがF22まで設定された仕様で、中玉にあたる第2群にマゼンダ系のコーティングが施されている点が視覚的な特徴です。重量(実測)は422gとかなりの重量があります。一方の後期型では、最短撮影距離が0.35mへとわずかに延長され、最小絞りもF16までに制限されています。重量は346gと前期型に比べかなりの軽量化が図られています。また、第2群のコーティングはシアン系(あるいはグリーン系)へと変更されており、外観上も判別が可能です。描写傾向から推測する限り、前期型と後期型で光学設計そのものに本質的な差はないように思われます。ただし、レンズ構成を詳細に観察すると、後期型では絞り位置に軽微な修正が加えられている可能性が見て取れます。具体的には、後期型では絞り位置が1エレメント分だけ前方へ移動しており、その結果、構成上の前後バランスが入れ替わっています。前期型が前群:4群5枚で後群:3群4枚という構成であるのに対し、後期型では前群:3群4枚で後群:4群5枚という配置に変更されています。この差異が描写そのものに決定的な影響を与えているかどうかは断定できませんが、少なくとも設計者が収差バランスや製造面での最適化を模索していた痕跡であることは確かでしょう。同一レンズ名を冠しながらも、製造時期によって細やかな試行錯誤が積み重ねられている点は、まさに過渡期の「背伸び型レンズ」らしい一面と言えます。なお、KOMURANON には若干数ながら28mm F2.8も存在し、同社晩年期の製品ラインナップがかなり迷走状態だったことがうかがえます。

レンズの相場価格

三協光機のレンズは、同社ごく初期のモデルや、一部のハイスペックな大口径レンズを除けば、中古市場では総じて非常に安価に取引されています。本稿で取り上げているKOMURANON 28mm F2.5も例外ではなく、本品も中古価格は1万円以内、国内ネットオークションでは5千円程度から入手可能です。このクラスのレンズとしては鏡胴が大きく、重量もあることに加え、独自のマウントシステムを採用している点が、人気面では不利に働いているように見受けられます。市場に流通している個体の多くには、コムラ・マウントシステムと各種一眼レフカメラのマウントを接続するためのアダプターが付属しています。これにより、Nikon F, Canon FD, Olympus OM, M42, Minolta SR/MD, Pentax K など、主要なマウント規格に対応可能です。

レンズ単体の性格や描写傾向に目を向ければ、この価格帯で手に入る一本としては、むしろ試す価値のある存在と言えるでしょう。携帯性が悪く、しかもマウントに一癖ある——そうした不利な条件が、そのままコストパフォーマンスの高さにつながっている点も、このレンズの特徴と言えます。

 

KOMURANON 28mm F2.5(前期型): 最短撮影距離 0.3m, 絞り F2.5-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測,アダプター部を含まない)422g

KOMURANON 28mm F2.5(後期型): 最短撮影距離 0.35m, 絞り F2.5-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測,アダプター部を含まない)346g

左がNikon F用アダプター, 右がMinolta SR/MD用アダプター











































 

 

 

撮影テスト

絞り開放では、ベールを一枚被せたようなフレア混じりの滲んだ描写となり、ピントの山も掴みにくい印象です。周辺光量低下(ビネット)もかなり強く、レトロフォーカス型光学系らしくないところは細長い光学系の宿命と言わざるをえませんが、その一方で画面全体にノスタルジックな雰囲気を漂わせます。ボケは総じてざわつきがちで、とくに周辺部では玉ボケが放射状に崩れて暴れやすい傾向があります。逆光耐性は高いとは言えず、条件によってはゴーストの発生やコントラストの低下が見られますが、レトロフォーカス型広角レンズとしては特段に惨いレベルではありません。樽型歪曲はやや大きめで、建築写真などでは気になる場面があり、状況によっては色収差(フリンジ)も目立つことがあります。ただし、これらのクセは絞ることで次第に落ち着き、F4程度まで絞れば描写は大きく改善し、素直で実用十分なシャープさを得ることができます。

なお、前期モデルと後期モデルの撮り比べを行いましたが、はっきりとわかる明確な差異は見られませんでした。

 
前期モデル@F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB: auto, FS: Standard)
 

前期モデル@F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9, WB: auto, FS: Standard)
前期モデル@F5.6  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)

前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)

前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)
前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: ブリーチバイパス)
前期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

 続いて後期モデルをNikon Zfにマウントして撮りました。
 
 
後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日陰)



後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)




後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)










 
前期モデルと後期モデルの描写力を比較
結論から先に述べると、前期モデルと後期モデルの描写力に大きな差は感じされません。開放でのフレア量、周辺部の画質、暗角、コントラストや発色の鮮やかさ、歪みの大きさなどはほぼ同等です。
 
前期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)








2025/11/29

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount


タムロンにウルトラワイドがあったとは!

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount

タムロンといえば、望遠レンズやズームレンズ、あるいはマクロ撮影用レンズに強みを持つ、レンズ専業メーカーとして広く知られています。公式サイト[1]に掲載された製品一覧を見れば、標準域や広角域のラインナップがいかに限られているかが一目瞭然であり、今回紹介するような焦点距離21mmの超広角レンズがタムロンから登場していたことは、少なからず驚きをもって受け止められることでしょう。同社が1970年から1973年までの3年間に市場供給したAUTO TAMRON 21mm F4.5です。

このレンズのオールドレンズ市場における位置づけはやや曖昧ですが、焦点距離20mm前後の手頃なウルトラワイドレンズを探し始めると、自然と候補に挙がってくる一本です。このクラスの廉価製品としては、COSINA MC WIDE ANGLE 20mm F3.8(ネットオークションでは7,000円前後から)が圧倒的な存在感を放ちますが、チープな鏡胴の作りが妥協点となります。次いで、NIKKOR-UD Auto 3.5 20mm(実売価格は12,000~15,000円程度)は性能面で優れ、コストパフォーマンスの高さにおいて大きな魅力です。今回取り上げるAUTO TAMRONは、ちょうどこの2本の間に割って入るような立ち位置にあります。

本レンズは、タムロン独自の交換マウント機構「アダプトマチック」を採用しており、様々なマウント規格で市場供給されました。この機構は、独自の交換マウントをレンズに付け替えることで多様なカメラマウントに対応可能とするもので、ボディ側からの自動絞り制御にも対応していた点が特徴です。今回入手した個体にはM42マウント用アダプターが装着されており、往年のスクリューマウント機との組み合わせも楽しめる仕様となっています。

レンズ構成は6群8枚で、残念ながら構成図は公開されていませんが、超大型の前玉を持つことで知られるFlektogon 20mmを模範とした、広角レトロフォーカス型の設計と推察されます。最短撮影距離は25cmと短く、接写にも対応可能です。焦点距離が20mmではなく21mmという点を中途半端と感じる向きもあるかもしれませんが、これはライカ判35mmフォーマットにおいて対角線画角がちょうど90度となるよう設計された結果であり、意図的な選択といえるでしょう。もっとも、焦点距離を20mmにまで詰めるには設計上の困難が伴うため、21mmという設定にはコスト面での配慮も含まれていたのかもしれません。

最短撮影距離 0.25m, 絞り F4.5-F16, 重さ(カタログ値/ニコンFアダプトール装着時) 332g, 設計構成 6群8枚レトロフォーカス型, マウント アダプトマチック, モデル名 PFJ-45Au, フィルター径 82mm(前玉側) / 17mm(後玉側)
 
中古市場での相場

この種のウルトラワイドレンズの中では、比較的安価で入手しやすいモデルに位置づけられます。国内のネットオークションでは、探せば1万円弱から見つかることもあり、1970年当時の新品価格が29,800円であったことを踏まえると、現在の中古価格は非常に手頃といえるでしょう[1,2]

アダプトマチック方式は、各種国産一眼レフカメラのマウントに対応可能な設計となっており、中古市場に流通する個体のマウント規格も多岐にわたります。

参考文献・資料

[1] TAMRON公式ページ アーカイブ
[2] Auto TAMRON 21mm F4.5 テクニカルシート
 
 
撮影テスト

口径比がF4.5と控えめなため、開放でも滲みは最小限に抑えられています。描写はシャープで抜けが良く、すっきりとした印象を与えます。ウルトラワイドレンズ特有の線の太さは見られますが、これは性質上避けられないものです。ただしトーンは柔らかく、絞り込んでも階調が硬くならない点は、この時代のウルトラワイドレンズに共通する美点であり、本レンズもその例外ではありません。開放では周辺部の光量落ちがやや目立つため、気になる場合は半段ほど絞ると良いでしょう。歪曲収差は少し顕著で、上下方向では中央部が樽型、四隅が糸巻き型、左右方向では糸巻き型の傾向を示します。


F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)歪みが波打っています。中央は樽型、周辺は糸巻き型

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F8(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)



F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)


2025/11/15

Voigtländer SKOPARON 35mm F3.5 (Prominent)


あらら、プロミネント用アダプターに装着できないとは。想定外の出来事に、思わず心がときめくではないですか。

凹メニスカスの静かな主張:アダプターが使えないからオフロード走行でひた走る

Voigtländer SKOPARON 35mm F3.5

1950年代初頭はバックフォーカスを延長したレトロフォーカス型広角レンズが登場し始めた時期です。アンジェニュー・タイプR1やカールツァイス・フレクトゴンなどが先陣を切り、この分野のパイオニアになったことで知られていますが、フォクトレンダー社からも同種のレンズが市場供給されていたことは、しばしば見過ごされがちです。同社のレンジファインダー式カメラ「プロミネンⅠ型(1950年発売) 」 に搭載する広角レンズとして1954年に発売されたスコパロン35mm F3.5のことです[1]。

このレンズがあまり注目されないのも無理はありません。多くのレトロフォーカス型レンズが一眼レフカメラのミラー干渉を回避する目的で設計されたのに対し、スコパロンはフォクトレンダー社が自社のカメラに採用したビハインドシャッター方式に対応するための設計でした。後に一眼レフカメラ黄金時代が到来することを考えると、この特殊なカメラ機構への対応という変則的な事情が、スコパロンの技術史的な位置付けを曖昧にしてしまったのです[2]。

注目されない原因はもう一つあり、極めて特殊なフォーカス機構です。このレンズには光学系全体が鏡胴内部で前後に移動する、インナーフォーカスにも似た構造が備わっています。ただし、インナーフォーカスが光学系の一部のレンズ群のみを移動させるのに対し、スコパロンは全群繰り出し方式のため、マウント部に繰り出し量を制御するための機構が別途必要になりました。このような特殊性が、ノクトンやウルトロンなどに使われる一般的なプロミネン用アダプターの装着を不可能にしており、結果としてプロミネント本体で扱う以外の選択肢がありません。技術的な「時代の主流」から外れ、奇抜な独自路線を築いたフォクトレンダーらしいアプローチとも言えますが、現代のデジタルカメラとの相性は劣悪で、デジタルカメラでの作例が現在のインターネット上に皆無なのも、このマウント・フォーカス機構の特殊性に起因する事態と言えます。

とはいえ、手元に届いたのも何かの縁。マウント部にM42ネジを設置する加工を施し、直進ヘリコイドに搭載。下の写真のようにライカL39マウントレンズとしてミラーデジタルレスカメラで使用できるカスタム仕様にしました。

(a) M42リングを装着したところ。側面からイモネジで留めつつ、接着剤で補強をすれば耐久性的には十分かと思います (b) M42 to M39ヘリコイド(17-31mm)を装着したところ。白銀のスポーツカーにオフロード用タイヤをはめたような不思議な感覚です。これで結構な近接域まで寄れマクロレンズのようにも使えます


レンズ構成はレトロフォーカス型レンズの創成期によくある典型的なスタイルで、既存のレンズ構成をマスターレンズとし、前方に凹メニスカスレンズを据え付けた形態です[3]。本レンズの場合はマスターレンズがテッサータイプとなっています(下図)。一眼レフ用レンズとは異なり、バックフォーカスの延長量が一般的なレトロフォーカスレンズよりも短いため、凹メニスカスには度数の比較的の小さなものが採用されています。口径比もF3.5と無理がなく、黎明期のレトロフォーカスタイプにしては、案外とよく写るレンズなのかもしれません。

本レンズを設計したのはフォクトレンダー社でノクトンやウルトロン、カラースコパー、スコパゴンなどの設計を手がけたトロニエ博士(A.W.Tronnier)です[3,4]。1952年にレンズ構成の米国特許を公開しました[3]。 レンズは1954年から市場供給されています[1]。

左: A.W.Tronnier 45-46歳のイラスト(似顔絵),   右: Skoparon構成図(トレーススケッチ)




 

入手の経緯

このレンズをデジタルカメラで活かす事の出来るマウントアダプターがないため、中古市場での人気は今ひとつです。海外ではeBayなどのオークションサイトで110ユーロ/130ドル(20000円)前後からの値段で取引されてます。日本ではヤフオクやメルカリでの個人売買が15000〜20000円程度、ショップでは20000~25000円程度からです。私は202511月にメルカリにて状態の良い個体を見つけ購入に至りました。商品の説明には「外観・レンズともに非常に状態の良い美品」とあり、実際に届いた品も、わずかなホコリの混入を除けば申し分のないコンディションでした。プロミネント用アダプターに装着できないことが発覚したのは手元に届いた後です。どうしよう。自分が一番乗りになれるかもと予期せぬ事態にガッツポーズをしたものの、嬉しさ半分、困惑も半分です。


参考資料 

[1] Vogtlander Prominent カタログ "because the lens is so good" (1954)

[2] Rudolf Kingslake "a history of the photographic lens" / 「写真レンズの歴史」ルドルフ・キングスレーク クラシックカメラ選書11;  OPTICAL SYSTEM DESIGN By Rudolf Kingslake(1983) Academic Press Inc.

[3] 米国特許  US2746351A(1952年)

[4] Voigtländer "weil das Objectiv so gut ist", Voigtländer A.G., Kameras, Objectivem Zubehur; Voigtländer 1945-1986 UDO AFALTER(1988)

Voigtlander SKOPARON 35mm F3.5: 重量(実測) 230g, フィルター径 45mm, マウント規格 プロミネント外詰めマウント, 絞り羽 9枚構成, 絞り F3.5-F22, 最短撮影距離 2.3feet(約0.7m),設計構成 4群5枚レトロフォーカスタイプ, 発売年 1954年

 

撮影テスト

この時代のレトロフォーカス型広角レンズはコマ収差の対応方法が発見される前の製品ですので、開放では滲みを伴う軟調かつ柔らかい描写を期待することができます。ただし、今回取り上げるスコパロンは前玉に据えた凹メニスカスの度がそれほど強くないうえ、開放F値も3.5と無理のない設定になっていますので、画質的な破綻は無いのかもしれません。写真作例を見てみましょう。

F5.6 Nikon Zf(WB:日光)
F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf(WB:日光) abc


F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)




F5.6 Nikon Zf(WB:日光)
F5.6 Nikon Zf(WB:日光)


F5.6 NikonZf(WB:日光)
F3.5(開放) Nikon Zf (WB:日光)










とまぁ、見てのとおりに、予想といいますか期待は見事に外れ、かなりの優等生レンズでした。ライバルであるツァイスのBIOGONとライツのSUMMARONを迎え撃つだけのことはあります。開放でもピント部は隅まで高解像で端正、F2.8系の同種レンズよりも明らかに優れています。気づいたことと言えば開放で近接を取る際に、四隅の前ボケが少し流れるくらいです。滲みは僅かでスッキリと写り、歪みは良く補正されています。トーンは見てのとおりに開放で軟らかく軽やかです。少し絞れば死角は全くありません。最高級カメラのプロミネントに搭載されるレンズというだけのことはあります。