
ソビエト連邦の白い鷲と黒い鷲
KMZ Industar 50 and 50-2 50mm F3.5 Rev.2
インダスター50(50-2)は1950年代後半から90年代初頭にかけて、ロシアが旧ソビエト連邦時代にモスクワ近郊のKMZ(クラスノゴルスク機械工場)で製造した50mm/F3.5のパンケーキ型標準レンズである。通称「鷲(わし)の目」とも呼ばれるシャープでキビキビとした描写で有名なカールツァイスのテッサーを手本に造られた(下図)。レンズを設計したのはKMZのM.D. Maltsevという人物で、彼は有名なJupiterシリーズを設計したことでも知られている。開放からフレアのないスッキリとした描写で、赤や黄など暖色系の発色が良いと評判である。
インダスター50には初期型ZENIT(M39マウント)用の交換レンズとして1960年代に製造されたアルミ鏡胴のモデル(前期シルバーモデル)と、70年代初頭からM42マウントカメラ用に製造されたモデル(後期ブラックモデル)が存在する。両モデルの設計面や描写面での差異は明らかにされてはいないが、コーティング色が異なるため、描写面で僅かな差があると考えられる。インダスター50シリーズはパンケーキ型と呼ばれる薄型レンズのパイオニア的な存在で、価格も安いことから、今でもたいへん人気のある製品だ。
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INDUSTAR 50-2の構成図。A. F. Yakovlev Catalog The objectives: photographic, movie, projection, reproduction, for the magnifying apparatuses, Vol. 1, 1970からのトレーススケッチ。設計構成は3群4枚のテッサー型である |
前期シルバーモデルと後期ブラックモデルは鏡胴の形状が若干異なり、シルバーモデルの方が手間のかかった凝った造りになっている。下の写真を見てほしい。シルバーモデルの方はヘリコイドリング上の絞り値が記された場所が傾斜になっており、カメラマンが上から覗きこんで視認しやすいよう工夫されている。ところが、後期のブラックモデルでは生産性の向上が優先されたのか、この部分が平らになり、絞り値の確認が不便になってしまった。各指標もシルバーモデルでは刻印だったものがブラックモデルでは単なるペイントに変更されている。
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INDUSTAR 50(左)/50-2(右), 重量:65g / 67g, 最短撮影距離: 両者とも65cm, 絞り値: F3.5-F16, 光学系は3群4枚のテッサータイプ, フィルター径:33mm/ 35.5mm(一部33mmあり), シルバーモデルはZenit M39マウント用でブラックモデルはM42マウント用である |
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M42-M39アダプターリングを装着するところ。このリングはeBayやヤフオクで入手できる |
前期シルバーモデルは初期型Zenitの採用したM39スクリューマウントに対応する製品のため、現代のカメラで使用するにはM42-M39ステップアップリングを使用しM42マウントに変換する必要がある(上の写真参照)。変換用のステップアップリングはeBayやヤフオクなどで購入できる。
★海外相場
本品はeBayでロシアやウクライナの業者が大量に売りさばいている。ヤフオクでも常時取引されている。価格はシルバーモデルもブラックモデルも送料込みで30㌦前後である。前玉に傷の入った個体が多いので、商品解説にMINTやNEWと記されているものを選び、フロントキャップやケースが付いているものを購入するのがよい。ただし、シルバーモデルで状態のよい個体はなかなか見つからない。モスコーフォト(こちら)がブラックモデルの新品を28ドル(送料別)で販売している。
★撮影テスト
値段は安くコンパクトなレンズだが、設計はテッサータイプなので侮れない。開放からスッキリとヌケがよく透明感のある写りで、ピント部の像も四隅まで端正、スナップ撮影にとてもよいレンズだ。背後のボケは近接域で僅かにグルグルすることがあるが、概ね安定している。順光ではとてもシャープに写るものの、前玉が飛び出ているためか、逆光になるとコントラストが急激に落ち発色も淡くなる。フードの装着は必須であろう。解像力はテッサータイプ相応で可もなく不可もなくといったところだ。こんなにチープでコンパクトなレンズなのに、シッカリと写るのは素晴らしい。ただし、絞りリングを回すと一緒にピントリングが回ってしまう構造的な難点を抱えている。
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Black moder @ F3.5(開放) Sony A7(WB:晴天) 開放からとてもシャープに写るレンズだ |
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Black moder @ F3.5(開放) Sony A7(WB:Auto) 開放でもフレアは全く見られず、ボケにも安定感がある。よく写るレンズだ |
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Black moder @ F5.6 Sony A7(WB:曇天) |
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Black moder @ F5.6 Sony A7(WB; 日陰) |
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Silver model @F3.5(開放) Sony A7(WB:日陰) |
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Black model @Sony A7(WB:晴天) |
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Silver model @F5.6 Sony A7(WB:曇天) |
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Black moder @ F5.6 Sony A7(WB:晴天) |
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Black moder @ Sony A7(WB:晴天) |
★両モデルのコーティングの比較
前群ユニットと後群ユニットを鏡胴から取り外し、前期シルバーモデルと後期ブラックモデルの差異を比較観察してみた。はじめに各レンズユニットの厚みをノギスで測り比較したが、両者に差は見出せなかった。次に各ユニットのガラス面に蒸着されているコーティングを観察してみた。両レンズともガラス面に施されているのは単層コーティングである。
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前列が後群ユニットで後列が前群ユニット。鏡胴から取り外すだけなら光学系をばらす必要はない |
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前群ユニットの比較。上がシルバーモデル、下がブラックモデルのもの |
まずはじめに前群ユニットに施されたコーティングに光を当てるとシルバーモデルのコーティングは第1エレメントがマゼンダ色、第2エレメントはアンバー色に輝いている。対するブラックモデルでは両エレメントともマゼンダ色に輝いている。インダスター50シリーズが前期シルバーモデルから後期ブラックモデルに移行した際の最大の改良点は、ガラス面のコーティングであったことがわかる。コーティングのみならず、硝子硝材にも変更があったものと考えられる。続いて後群ユニットのコーティングを比較してみたが、シルバーモデルのコーティングは薄いアンバー色、もしくはノンコートであるのに対しブラックモデルにはマゼンダ色のコーティングが施されていることがわかった。コーティングの差異はレンズの描写傾向、とくに色味に多少なりとも差異をもたらすと考えられる。
★描写の比較
晴天時に屋外にて両レンズを同一条件で使用し、撮影結果を比較してみた。両レンズの描写には顕著な差が表れ、ブラックモデルの方がコントラストが高く、暗部に締りがあることが分かった。改良されたコーティングの効果であろう。発色はシルバーモデルの方が赤みが強くなる傾向がある。
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F3.5 シルバーモデル(左)/ ブラックモデル(右): 金属の柱の暗部に注目するとブラックタイプのほうが僅かにコントラストが高くメリハリがある |
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F4 シルバーモデル(上)/ ブラックモデル(下): シルバーモデルの方が赤みが強くなる傾向がある。コーティング色の違いによる差なのであろうか?なお、両タイプとも下段の写真のように距離によってはグルグルボケが出やすくなる |
う~ん このレンズ、コンパクトながら写りもシッカリしていて・・・ポチりそう(笑)
返信削除これは、F5.6~F8であのインダスター6で有名な”星ボケ”はでないんでしょうか? 多分絞り羽根の形がそうならないんでしょうね。どのブログにも作例が上がっていないから。
こぎとさん
返信削除こんにちは
私のしている限りでは、
星ボケが出るレンズは
INDUSTAR 61LZ
VOLNA-9
HELIOS-40
の3つです。他には聞いたことがありません。
ただし、HELIOS-40は絞り羽が多く、
10角形の星ボケになります。
テッサータイプなので、まぁまぁ良く映りますね。
愛蔵中のお気に入りのレンズです。
次のエントリー(予定)のVASTAR(トリプレット型)も
返信削除極小レンズですが、テッサー型のこちらのレンズ
のほうが収差の補正では一枚上手、シャープネスや
ボケ味では格段に上ですね♪
こんちは~
返信削除結局 ポチッてしまいました~(笑)、
なんか SPIRAL さんのこのブログ・・・沼に誘い込む”悪魔のブログ”ですね(爆)。
こういうレンズは、コンパクトなカメラに付けて軽いタッチで楽しみたい・・・というのもあるんですが。
とりあえず現状維持で撮ってみてから考えようかな・・・と、言うところでしょうか~
こぎとさん
返信削除こんにちは
>結局 ポチッてしまいました~(笑)、
>なんか SPIRAL さんのこのブログ・・・沼に誘い込む
>”悪魔のブログ”ですね(爆)。
手に入れる際に抱いた物欲を増幅してブログ内に出力
しています。生まれも育ちも違う方々と物欲を共感で
きるのは喜ばしい事です。お互い、この
「若さ(=後先考えない勢いとでも申しましょうか)」
を大事にしたいですね~(笑)。
正直申しますと、BIOTAR 75mmをポンと買う勇気は
こぎとさんのアンジェニュー購入談から貰っています♪。
よーし向こうが1K㌦なんだから、私だっていいじゃないか!
みたいな(爆)。
ネットで検索しますと
「レンズ沼」=「写真機の交換レンズを蒐集する趣味。
その物欲と出費の間で葛藤する状態」だそうです。物欲が
負けて保守的になっていったら、たちまち老けてしまいそうです。
物欲は活力の元! ということでしょうか~ う~ん。
返信削除オッと、こんなところに・・・Eos 40Dが・・・。
いや~1200ショットのE0s 40D極上美品ポチってしましました~(笑)。3万円台で安かったから。
動作チェックも問題ないし、最新バージョンにファームアップ済みでした。
5D2,40D,K-x,100Dsこの辺でクラシックレンズを使い倒す事になるでしょうね。
MZ-Sも惹かれたんですが・・・これに行くと・・(汗)
これも沼なんでえしょうねぇ
安いと言えば、いつも登場する私の愛機MZ-3なんて、自宅から100mという近所にある大手スーパーのオリンピック内にある中古劇場という質屋で1050円で購入した品です。今もこの店ではα-SWEETやEOS Kiss、MZ-10など往年の銀塩機のノーチェック品がジャンク扱いで1050円にてたたき売られており、中国製マウントアダプターよりも安いです(笑)。壊れている確率は低いようです。私のお気に入り店となっています。
返信削除MZ-Sも確か、過去に3000円代で売られていたような・・・。
>MZ-Sも確か、過去に3000円代で売られていたような・・・
返信削除3000円!・・なんかこういうの聞くと・・・熱くなりますね(爆)。
実際こういうジャンク屋、結構狙い目らしいんですよ。
チョッと僕も探してみるかな~
40D着ました。確かに極上美品でした。ペンタックスとはチョッと絵作りが違っていますが、まあこれはこれで生かしてゆこうと思っています。
こぎとさん
返信削除あけまして
おめでとうございます。
>3000円!・・なんかこういうの聞くと・・・
>熱くなりますね・・・。
カメラやでもないスーパーがカメラやよりもハッスル価格
で売っているというところに、驚きを感じます。
>実際こういうジャンク屋、結構狙い目らしいんですよ。
>チョッと僕も探してみるかな~
店員がカメラの取り扱いに無知で、露出計などの
機能チェックができないそうです。一方で同店には
家電の買い取り部門があるので、常時入荷はあるとのこと。
こういうありがたい事態を生みだしている一因ですね、
>40D着ました。確かに極上美品でした。
>ペンタックスとはチョッと絵作りが違って
>いますが、まあこれはこれで生かしてゆこうと
>思っています。
機種ごとに比較ができ、楽しみが増えますね~。
NEX-5にMC PORST 135mmF1.8をつけて撮影していますが、
この組み合わせでは色が濃厚にでていますよ♪。
そのうちブログエントリーにUPしますね。
はじめまして。いつも勉強させて頂きます。
返信削除星の出るレンズですが、MIR10 28mmも盛大に星が出ます。
逆光時でも、ボケにも出ますので結構楽しめます。
是非、一度お試し下さい。
星ボケ情報ありがとうございました。知りませんでした。他にはHelios 40やベガシリーズのシネ用が星ボケとして認知されていますよね。Mir10ですと焦点距離28mmですので、星ボケを出すにはマクロ域で撮ることになりますね。28mmは広角として面白い画角なので、気になるレンズではありました。こんど機会をつくって試してみようと思います。
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