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2016/10/15

VEB Pentacon AV(Meyer-Optik Diaplan) 100mm F2.8 and 140mm F3.5




爺さんはトリオプラン、父さんはダイアプラン
バブルボケファミリーの血が騒ぐ
Pentacon AV 100mm F2.8 and 140mm F3.5
プロジェクター用レンズのペンタコンAV(PENTACON AV)は改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン(Trioplan) 100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中でも大口径モデルであるペンタコンAV 140mm F3.5とペンタコンAV 100mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、開放F値が同一の場合には長焦点(望遠)レンズになるほど大きなボケが得られる。140mmF3.5と100mm F2.8は同シリーズの中で150mm F2.8に次ぐ大きな口径を持つのが特徴で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルボケを発生させることができる。また、望遠圧縮効果を活かした長焦点レンズならではの撮影ができるメリットもあり、背後に奥行きのある場所で撮影すると、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが折り重なるように発生し、とても印象的な写真が撮れるのである。焦点距離140mmのモデルはネットに作例や情報がなく、どれほどの写真が撮れるのかは今回のエントリーが初公開になりそうである。
ペンタコンAVには今回取り上げる2本以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類のバリエーションを確認している[注1]。最もポプラーなモデルは100mm F2.8と80mmF2.8である。レンズの先代はメイヤー・オプティックのダイアプラン(Diaplan)であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。ペンタコンAVはメイヤー時代にダイヤアプランとして生産していたものをペンタコン人民公社が名称を変えて生産したレンズであり、中身の設計はダイアプランと同一である。
ダイアプランはトリオプランと描写傾向がそっくりであるため、設計が同一であるかもしれないという憶測から注目されるようになった。その真偽については何も伝わっていないが、実際にダイアプラン100mm F2.8とトリオプラン100mm F2.8の描写を比較している記事があり、両者は発色傾向が異なるのみでボケ味や解像力、開放での柔らかい描写傾向などは見分けがつかない程よく似ている[文献2]。違いと言えばダイアプランは寒色系の強い現代的な発色傾向であるのに対し、トリオプランは暖色系にコケる傾向がある点で、この差はコーティングの種類が異なることに由来しているものと思われる。

注1:Pentcon AVとDiaplanには焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。


PENTACON AV 100mm F2.8:構成は3群3枚のトリプレット, 今回もレンズヘッドのみを入手後、自分で改造しM52-M42ヘリコイド35-90mmに搭載した


PENTACON AV 140mm F3.5:構成は3群3枚のトリプレット, 灰色の部分はプロジェクターに据え付ける際に用いるペンタコンAV用の純正ヘリコイドである
入手の経緯
本品はレンズヘッドのみをeBay経由でドイツの業者から取り寄せ、自分で直進ヘリコイドに載せM42マウントに改造したレンズである。レンズヘッドの値段は100mmF2.8が13000円、140mm F3.5が8000円であった。はじめから改造済みの品を手に入れるにはNOCTOなどレンズの改造を専門にしている工房に相談するか、ヤフオクでこの種のレンズを定期的に出品しているセラーから買い取るのが国内での入手ルートである。改造済のレンズの場合、100mmF2.8で1本30000円~45000円程度が相場である。140mm F3.5の相場については取引履歴がどこにもないので不明であるが、レンズヘッドの価格や80mm F2.8の相場が20000~30000円であることを考慮すると、25000円~35000円あたりが妥当な値段と言えるだろう。100mmのモデルは元祖バブルボケレンズのトリオプランと同じ焦点距離であるため人気は高く、取引価格も他のモデルより高額に設定されている。

写真用レンズへの改造
両モデルともプロジェクター用レンズであるため、写真用レンズとして用いるには改造が必要である。100mmのモデルは鏡胴の前玉側(首根っこのあたり)にステップアップリング58-55mmとPETRIの55mm径フード(PETRI Φ55mm)をはめ、ステップアップリング55-52mmを介してM52-M42ヘリコイド(36-90mm)に搭載しM42レンズとして使用できるようにした。すこしオーバーインフなので、M42-Nikon Fアダプターを介してNikon Fに搭載した場合にも無限遠を拾ううことができた。
140mmの方はプロジェクターに据え付ける際に用いるペンタコンAV用の純正ヘリコイドがついていたので、これを有効利用している。末端部が58mmネジであることを利用し、58-52mステップアップリングを介してM52-M42直進ヘリコイドに搭載し、M42レンズとして使用できるようにした。



参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses 
[参考3] 球面収差の過剰補正と2線ボケ,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.166;  球面収差と前景、背景のボケ味,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.171
[参考4] Kravtsov, Yu. A., A modification of the geometrical optics method: Radiofizika, 7 664-pp.673(1964a); Kravtsov, Yu. A., Asymptotic solutions of Maxwell’s equations near a caustic, Radiofizika, 7, pp.1049(1964b).
[参考5] Ludwig, D., Uniform asymptotic expansions at a caustic, Comm. Pure and Appl. Math., XIX 215-250(1966)


撮影テスト
両レンズとも口径が大きく、設計は3枚構成のトリプレット型である。背後の空間に点光源をとらえると比較的大きなバブルボケが発生する。また、中判6x7フォーマットを越える大きなイメージサークルをもつので、搭載するレンズヘッドにM42-M42ヘリコイドを用いたのでは、ヘリコイドの内壁面で強い反射がおこり、コントラストが低下してしまう。そこで、今回は一回り太いM52-M42ヘリコイドに搭載することにしてみた。するとコントラストが大分改善され、両レンズともシャープで発色の鮮やかな描写傾向を示すようになった。太いヘリコイドを使用するメリットについてはこちらの記事で解説している。
フレアは100mmよりも140mmの方が少なめで、140mmは近接域でもスッキリとしたヌケのよい描写である。その分、コントラストも140mmの方が若干よく、シャープでメリハリのある力強い写真が撮れる。口径比がF3.5と半段暗く、設計に無理がないためであろう。ペンタコンAVのF2.8のモデルに絞りがついていると仮定し、それを開放から半段絞った描写であると考えれば話ははやい。
バブルボケの発生原因は収差であることを忘れてはならない[文献3]。バブルボケはボケの輪郭部に光が集まることにより形成されるが、光の集積部(専門用語では火面と呼ばれている)を作り出しているのは球面収差やコマ収差である[文献4,5]。この種の収差はフレアを生み出す原因にもなるため、フレア量の大小はバブルボケの「ハッキリ度」を察知する指標にもなっている。ならば、半段絞った口径比をもつ140mmのモデルではバブルボケのハッキリ度も小さいであろうというのが三段論法の結論だ。しかし、実写で試してみた感触としては140mmのモデルにもバブルボケを発生させるレベルの残存収差はしっかり残っていた。バブルボケに興味はあるがソフトな描写は苦手という方には140mmのモデルをおすすめしたい。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レレンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。
 

PENTACON AV 100mm F2.8 + SONY A7
 
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天),  ポートレートでもこの通りに大きなバブルボケが出るのは、さすがに大口径レンズである
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): ハイライト部はややフレアっぽいが、シャープネスの高さと発色の良さはMeyerのTrioplan 100mm F2.8の開放描写を超えているという印象をうける。ボケの輪郭部にかなりつよい光の集積がみられ、ハッキリとしたバブルボケを形成している
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): 近接域ではモヤモヤとしたフレア纏うが、コントラストは十分である

Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): お気に入りの一枚。子供の世界だ


Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): 相場価格10万もする高価なトリオプラン100mmを購入するよりも、M52ヘリコイドに搭載しコントラストを改善させた本品の方が私には魅力的な商品にみえる





 Pentacon AV 100mm + Fujifilm GFX100S
PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)


PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 140mm F3.5による作例
Pentacon AV 140mm F3.5+ sony A7(WB:晴天): この製品もや点光源を背後の空間に捉えることでバブルボケの出るレンズであることがわかった
Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), 温調な写真が多いのは撮った時間帯が夕刻だったため。これまで本ブログで扱った口径比F2.8のモデルに比べると、フレアは出にくく、シャープネスやコントラストは明らかに高い
Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天); バブルボケだけがこのレンズの芸ではない。背後のボケは基本的に硬いので、うまく利用すれば形を留めた美しいボケ味になる
Pentacon AV 140mm F3.5+ sony A7(WB:晴天): 

Pentacon AV 140mmF3.5+sony A7(WB:晴天): 長焦点トリプレットというだけのことはあり、解像力は良好でボケも四隅まで乱れずに安定している



Pentacon AV140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), ピントは真面目に合わせてはいないので、ご了承いただきたい。バブルボケはしっかり出ている

Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), バブルボケとはボケ玉の輪郭に光の集積部のある独特のボケ方を指す。普通の玉ボケとは一線を画するものであることがわかる




2016/05/17

VEB Pentacon auto 50mm F1.8 (M42) Early model and Late model



東ドイツのペンタコンブランド PART 5
コストパフォーマンスの高い
ペンタコンブランドの中核レンズ
Pentacon Auto 50mm F1.8 (M42 mount)前期型/後期型
オールドレンズの入門者に最適なレンズを話題にする際に必ず登場するのが、旧東ドイツのペンタコン人民公社(VEB PENTACON)が生産した高速標準レンズのペンタコン(Pentacon) 50mm F1.8である。開放では微かに滲む柔らかい描写になり、絞れば現代のレンズのようにシャープでスッキリとした写りとなるため、あらゆる場面でオールラウンドに用いることのできる万能なレンズとして知られている。最短撮影距離は0.33mとたいへん短く、スナップでのマクロ撮影にも充分に対応できる。ロシア製レンズすら寄せ付けない圧倒的なコストパフォーマンスと美味しいところを詰め込んだ欲張りな製品仕様のため、ビギナーにはモテモテ、マニアからは羨望の眼差しと容赦のない厳しいコメントが絶えない。低価格帯オールドレンズの中では台風の目と言っても過言ではないスター性のあるレンズである。
レンズのルーツは旧東ドイツのメイヤー・オプティック(Meyer-Optik)が1960年代から1970年代初頭にかけて生産したダブルガウス型レンズのオレストン(Oreston)50mm F1.8である。メイヤー・オプティックは1968年にペンタコン人民公社へと合流し、1971年から自社の全てのブランドを人民公社のブランド(Pentacon / Prakticar / Pentaflex)で供給するようになった。前期型オレストンと全く同一のデザインのまま名板のみをすげ替えたもので、ごく初期の製品には「PENTACON ORESTON」と記された過渡的な個体もみられる。レンズは一眼レフカメラのプラクチカLシリーズ(M42スクリューマウント)に搭載する製品として登場し、ガラスにはシングルコーティングが施された。1979年になるとマルチコーティングに対応した後期型が登場、M42マウントのプラクチカLシリーズに加えバヨネットマウントのプラクチカBシリーズにも対応している。前期型と後期型の描写傾向には大きな差はないので、光学設計は一貫して同じものが用いられていたと思われるプラクチカLシリーズ後期型は一部の個体がレヴューノン(REVUENON)の名でも市場供給されていた。
レンズは中古市場で今も豊富に取引されており、ドイツ本国での価格は30ユーロから(日本では8000円前後から)と大変こなれている。F2をきる明るさとコストパフォーマンスの高さから、ペンタコンブランドの普及価格帯の中で中核的な製品に位置づけられていた。
左はPentacon auto 50mm F1.8(シリーズL)、右はPentacon Prakticar 50mm F1.8(シリーズB) の構成図。文献[2][3]からのトレーススケッチである。上が前方で下がカメラの側という配置である。両レンズはおそらく同一の設計であろう。構成は4群6枚のスタンダードなダブルガウス型である。後群側の張り合わせ面に曲率がないのは製造コストを抑えるためであろう


参考文献
  • [1] 東ドイツカメラの全貌 (朝日ソノラマ)
  • [2] BILD UND TON 1/1986(Scientific Journal of visual and auditory media "Entwicklungstendenzen der fotografischen Optik" Dipl.-Ing. Wolf-Dieter Prenzel, KDT
  • [3] OBJETIVOS para cameras reflex, VEB Carl Zeiss Jena DDR and Kombinat VEB Pentacon Dresden レンズカタログ

入手の経緯
Pentacon MC 50mm F1.8(前期型 / Early model)
このモデルはヤフオクでも流通しており、価格は中古並品で8000円、状態の良い個体は8000-12000円程度で手に入れることができる。もちろんドイツ版eBayなどを経由し本国から輸入する方が、これよりも安い価格で入手できる。本品は2016年2月にドイツ版eBayを介し個人出品者から約5400円(35ユーロ+送料8ユーロ)の即決価格で購入した。オークションの記述は「2インチのレンズでキャップとフードが付属する。スーパーショットが撮れるトップレンズだ。状態は外観、機能ともとても良好である。光学系はオーバーホール済みで傷、カビ、クモリ等ない。100%オリジナルである」とのこと。前期型の本レンズのほうが後期型よりも個体数は少なく、若干高値で取引される傾向がある。届いた品は光学系がほぼ新品同様で、鏡胴にも僅かにスレがある程度の美品であった。
Pentacon auto 50mm F1.8 前期型(Early model): 重量(実測) 208g, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.33m, フィルター径 49mm, 絞り F1.8, F2-F16, M42マウント, 4群6枚ガウス型, 製造 VEB Pentacon, シングルコーティング仕様, Meyer-OptikのOrestonに鏡胴のデザインが全く同一のモデルが存在する。開放絞りF1.8の直ぐ横にF2の絞りが用意されているのは前期型にみられる特徴で、後期型では省略されている


Pentacon MC 50mm F1.8(後期型バージョン1/Late model ver.1)
マルチコーティング化がはかられた後期型の初期のモデルで、流通量はペンタコンシリーズのなかで最も少ない。ヤフオクでの相場は中古並品が7000~8000円、状態の良い個体では10000円程度である。本品は2016年6月にドイツ版eBayを介し、ハンブルグの大手カメラ店アナログ・ラウンジから約4500円(30ユーロ+送料8ユーロ)の即決価格で購入した。商品の解説は「完全に動作する。良好なコンディションで使用感は少ない」とのこと。届いたレンズはホコリの混入がやや多目にみられたが、絞りの側から軽く清掃したらマトモなレベルになった。光学系はバラしていないので、ピントの精度等に影響は出ていない。
Pentacon auto MULTI COATING 50mm F1.8(後期型バージョン1 Late model: version1 ): 重量(実測) 195g, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.33m, フィルター径 49mm, 絞り F1.8-F16, M42マウント, 4群6枚ガウス型, 製造 VEB Pentacon (Meyer Optik), マルチコーティング仕様(後期型ver.2とはコーティングの種類が異なる)



Pentacon MC 50mm F1.8(後期型バージョン2/Late model ver. 2)
このモデルはeBayやヤフオクで豊富に流通しており、価格は中古並品で7000~8000円、状態の良い個体でも10000円程度で手に入る。本品は2016年3月にドイツ版eBayを介し、ハンブルグの大手カメラ店アナログ・ラウンジから約5500円(30ユーロ+送料8ユーロ)の即決価格で購入した。商品の解説は「完全に動作する。良好なコンディションで使用感は少ない」とのこと。このセラーは商品の在庫が豊富で、レンズ名を検索をかけると常時20~30本の在庫がヒットする。記述の精度は怪しいが、同時配送の場合にはリクエストに応じ送料を1本分にしてくれるサービス精神のあるセラーだ。14日間の返品規定もあるので安心して購入することができた。届いたレンズはガラス、鏡胴ともたいへん綺麗であった。
Pentacon auto MULTI COATING 50mm F1.8(後期型バージョン2 Late model:version 2): 重量(実測) 195g, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.33m, フィルター径 49mm, 絞り F1.8-F16, M42マウント, 4群6枚ガウス型, 製造 VEB Pentacon (Meyer Optik), マルチコーティング仕様(後期型Ver.1とはコーティングの種類が異なる)



撮影テスト
前期モデルも後期モデルも描写傾向は概ね似ており、開放でのホンワリとした柔らかい描写は細部の質感よりも雰囲気を優先させたい場面での撮影に効果がある。また、1段絞るとキレのよい階調描写、高いコントラスト、コッテリとした色のりへと変わる。被写体を細部の質感に至るまで力強くシャープに描き切ることができ、準マクロ域での撮影にも充分な画質を提供できる。安いのにとてもよく写るレンズである。ただし、解像力は可もなく不可もなくで、一部の高級レンズの開放描写にみられる線の細い繊細な描写までを期待することはできない。このあたりは廉価レンズ相応の性能であると受けとめざるをえない。背後のボケはポートレート域でやや硬く、距離によっては2線ボケが出たりザワザワと騒がしくなることもあるが、近接域では柔らかく綺麗に拡散している。反対に前ボケはポートレートでも柔らかい。グルグルボケはポートレート域で背後に僅かにみられるものの顕著に出ることはない。前期型と後期型はどちらも絞り羽が6枚構成であるが、絞ったときの羽根の形状が異なり、前期型は角ばった六角形になるのに対し後期型は丸みを帯びた六角形になる。このため背後のボケ玉の形状には若干の差が見られた。

APS-C mode(SONY A7)による作例
レンズのイメージサークルはフルサイズフォーマットに準拠した設計になっているが、このレンズを用いる大多数がエントリーユーザーからミドルレンジユーザーであることを考えると、APS-C機やM4/3機での作例を提示することにも一定の意味がある。まずはSONY A7をAPS-Cクロップモードに設定して撮影した結果を提示する。レンズ本来の35mm判の画角よりも狭い範囲の領域を撮影することになるので、画面の四隅で発生する諸収差の影響が緩和され、グルグルボケは完全に目立たないレベルとなる。
後期型(Late model)@F1.8(開放) Sony A7(APS-C mode, AWB): いきなりコレには驚いた。実力のあるレンズであることは間違いない
前期型(Early model)@F1.8(開放), Sony A7(APS-C mode, AWB):  今度は厳しい逆光にさらし、表現力にどれだけの幅があるのかを確認してみる。結果はこのとおりで、美しいハレーションがたっぷり出ているにも関わらず発色が濁るなどの破綻はない。ある程度までなら厳しい逆光にも耐えてくれる頼もしいレンズである
前期型(Early model)@F4, sony A7(APS-C mode, WB:太陽光): コントラスト、発色、ピント部の質感表現など申し分のない高い描写性能だ。APS-Cフォーマットならグルグルボケはほぼ出ないと判断してよさそうである
後期型(Early model)@F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB): 近接域でも安定感のある描写性能である。参考までにこちらには絞り(F1.8/F2.8/F4)ごとの画質変化を示した。開放では柔らかく、階調もやや軟調気味で発色は僅かに淡い
後期型(Late model)@F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB):この場面での開放F1.8での作例をこちらに掲示した。1段絞ってからの高いシャープネスはこのレンズの大きな特徴と言えるだろう。前ボケは基本的に柔らかく拡散している
後期型(Late model)@F4, Sony A7(APS-C mode, AWB): トーンもなだらかで、とてもいい


後期型(Late model)@F1.8(開放), sony A7(APS-C mode, AWB): 開放では衣服が薄っすらとしたフレア(コマフレア)に覆われ、素晴らしい質感表現である。一方、背後のボケは硬くザワザワとしており2線ボケ傾向に陥ることがわかる。球面収差が過剰気味に補正されているレンズの典型的な描写傾向である
後期型(Late model)@F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB): 1段絞るだけでフレアは消え、ピント部はスッキリとヌケがよくシャープな描写になる。2線ボケもだいぶ収まっている







 
FF mode(SONY A7)による作例
続いてフルサイズフォーマットでの撮影結果を示そう。同じ撮影画角で写真を撮る場合にはFFモードの方が被写体に一歩近づくことができるので、ボケ量はAPS-C機の時よりも絞りに換算して約1段分大きくなる。広い包括画角をカバーするので写真の四隅には収差の効果(影響)がみられるようになる。
後期型(Late model)@f2.8, sony A7(Full size mode,AWB): フルサイズ機で使用する場合、ポートレート域では僅かにグルグルボケが出始める。それにしても、こんなポーズをとるようになったのは、この後に出てくるモデルさんの影響か・・・


後期型(Early model)@F2.8, Sony A7(Full size mode, WB:電球): F2.8まで絞ればシャープで、現代のレンズに近い高水準な描写性能である。解像力は可もなく不可もなくで十分なレベルである

前期型(Late model)@F2, Sony A7(Full-size mode, WB:太陽光): 前期型にはF1.8の開放絞りの直ぐ横にF2の絞りが用意されている。後期型にはないプレミア仕様なので使わない手はない。F2が用意されている理由は直ぐにわかった。絞り値としての差はわずかであるが、作例のようにフレア(滲み)の発生量は急激に抑えられピント部はスッキリとしている。F2はフレアのコントロールを可能にする"スイッチ"のような役割を担っていたのである


前期型(Early model)@F1.8(開放), Sony A7(Full-size mode, AWB): 前ボケは柔らかく滲んでいる。開放からパキッとシャープに写る現代的なレンズでは、こういう印象的な写真にはならない。過剰補正レンズは前ボケにフレアが出るのが特徴だ







前期型と後期型の描写比較
最後に前期型と後期型の描写比較の結果を提示する。開放での滲みは極僅かに前期型の方が強い。これに関連するためか或いはコーティングの性能の差によるのかは判断できないが、開放でのコントラストは後期型の方が少し高く、前期型に比べ暗部が僅かに引き締まる。ただし、ピント部中央や四隅の解像力など結像性能全般には差が見られなかった。絞り羽の形状が前期型は角ばった六角形になるのに対し後期型は丸みを帯びた六角形になる。このため、ボケ玉の形状には僅かな差が見られた。
SONY A7(APS-C mode, AWB):左列は前期型、右列は後期型を用いている。上段はF1.8(開放)、中段はF2.8、下段はF4で撮影した。両モデルの描写傾向はたいへんよく似ており、開放では柔らかく、背後のボケはザワザワと硬い。背後の手すりには2線ボケ傾向がみられる。1段絞ればボケは安定する。写真での比較ではごくわずかな差であるが、レベル曲線をみると後期型の方が暗部が僅かに締まっておりコントラストは若干高い。マルチコーティングの効果であろう。写真中央部の花を拡大したものを下に示す
ひとつ前の写真の中央部を拡大したもの。開放では両レンズとも僅かに滲みがみられるが1段絞れば収まる。右上のボケ玉の輪郭には火面とよばれる光の集積部がみられる。ザワザワとした硬いボケになる原因はコレである。両レンズは絞り羽の形が若干異なる。中段・右上のボケ玉を見てもらうとわかりやすいが、前期型と後期型ではボケ玉の形状に僅かな差が見られた

SONY A7(APS-C mode, AWB):左列は前期型、右列は後期型を用いている。上段はF1.8(開放)、中段はF2.8、下段はF4で撮影した。やはり、両モデルの描写傾向はたいへんよく似ており、開放で柔らかく、1段絞るとヌケがよくスッキリとした描写になる




こちらには上の比較写真を更に大きなサイズで掲示した。

2016/04/21

VEB Pentacon(Meyer-Optik Diaplan) 150mm F2.8 x Speed Graphic



東ドイツのペンタコンブランド PART 4(後篇)
スピードグラフィックで辿りつく
バブルボケフォトの極大点
VEB Pentacon (Diaplan) 150mm F2.8
ペンタコンAV(ダイアプラン)シリーズで最大の口径を誇る150mm F2.8は中判6x6フォーマットのMalisixという投影機に供給されたプロジェクターレンズである。イメージサークルには余裕があり、中判6x9フォーマットまでを余裕でカバーできる。フォーカルブレーンシャッターを搭載した万能カメラのスピードグラフィックに取り付け、特大サイズのバブルボケフォトを楽しもというのが今回の企画である。ちなみに中版6x9フォーマットで撮影した場合の撮影画角は35mm版換算で65mm相当と標準レンズ並みの広さとなる。イメージサークルを余す所なく活用した写真には一体どれほど大きなバブルボケが写るのか。想像するだけで胸がいっぱいになり、鼻血が出そうである。このレンズの中判カメラによる実写はこれが初めてなのではないだろうか。

入手の経緯
前回の記事で紹介したPentacon AV 150mm F2.8(M42改造)は記事を公開した直後に売却してしまった。しかし、その直後に中判カメラによるテストを思い立ち、再び買いなおすことに・・・。レンズは2016年3月にドイツ版eBayにてレンズヘッドの状態で売られていたものを90ユーロ+送料20ユーロの即決価格で入手した。この時点では誰も関心を寄せないレンズであったため、他に入札はなく、難なく私のものとなった。しかし、1か月たった現在では出品される商品に多くの入札が集まるようになり、レンズヘッドの落札額も1.7~2万円程度まで上昇している。
PENTACON 150mm F2.8, 重量(実測) 約400g(レンズヘッドのみ), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径 62.5mm, 鏡胴は金属製, 設計構成 3群3枚(トリプレット型), マルチコーティング, Malisix 6x6 120 Slide Projector用レンズ, イメージサークルは中判6x9フォーマットをギリギリでカバーできる。大判4x5inchでは写真の四隅がケラれていた
スピグラで撮影中の私。Baush and Lomb Baltar 75mmf2.3 +Sony A7で近所の知り合いに撮っていただきました(Photo by S. Shiojima)

撮影テスト
ボケ量はさすがにフルサイズ機で用いた時とは比べ物にならないほど大きい。ただし、画角が35mm版換算で65mm相当まで広がったのは大誤算であった。望遠圧縮効果が弱まりバブルの大きさが均一になってしまうとともに、グルグルボケが目立つようになり、画面の四隅でバブルが平べったく変形してしまうのである。フルサイズ機で用いたときのような迫力のあるバブルボケにはならない。グルグルボケは主張が強いうえ比較的多くのレンズに見られる性質なので、ある意味でボケが平凡になってしまうのである。バブルボケフォトを楽しむにはボケ量の大きさも重要であるが、無理してボケ量を稼ぐのではなく、望遠圧縮効果を活かし大小さまざまなサイズのバブルを発生させるほうが奥行き感に富む迫力のある写真が得られる。グルグルボケもできれば無い方がよい。このレンズはフルサイズ機にマウントし望遠レンズとして使用するほうが、真価を存分に発揮できると思う。


Photo 1,  F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker):さすがにボケ量は大きい。35mm版換算でF1.2の標準レンズと同等のボケ量が得られる

Photo 2, F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker):オールドレンズ写真学校の講師の方です




Photo 3, F2.8, 中判6x9(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic (Pacemaker): 中判6x9フォーマットだとグルグルボケが目立つようになり、四隅でボケが平べったく変形してしまう。撮影フォーマットはもう少し小さい方がよさそうだ







Photo 4,  F2.8, 中判6x7(銀塩撮影/ Fuji Pro160N), SpeedGraphic(Pacemaker):6x9フォーマットは広すぎると感じたので、今度は6x7フォーマットに変更してみた。ボケにはかなり特徴が出ている。娘から光のオーラが立ち上がり北斗の拳になってしまった