おしらせ


ラベル LENKINAP の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル LENKINAP の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019/12/06

LENKINAP / LOMO OKC1-35-1 35mm F2 KONVAS and 1KSK/2KSK


LOMOの映画用レンズ part 6
ロモの第一世代1960's
焦点距離35mmのシネレンズは
豪華な7枚構成で中心部の画質を重視
LENKINAP/LOMO OKC(OKS)1-35-1 35mm F2
OKC1-35-1PO56の後継モデルとして1950年代末にレニングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身組織の一つ)から発売されたスーパー35フォーマット(APS-C相当)の映画用レンズです。ロシアの映画用レンズにはオーソドックスなガウスタイプで設計されたPO4-1 / Helios-33 35mm F2の系譜もありますが、PO56 / OKC1-35-1はこれらの上位のモデルに位置づけられ、最高級35mmムービーカメラ(主にロシア版アリフレックスのKONVASやロシア版ミッチェルのKSKシリーズなど)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。中心解像力が高く開放では立体感に富んだ画作りができるのがこのレンズの特徴で、デジタルカメラに付けて通常の写真撮影に用いる場合はポートレート撮影やスナップ撮影に用いるのが面白そうです。設計は同クラスのシネレンズとしては異例の7枚構成で、Hugo Meyer社のP.ルドルフが1931年に設計したミニチュア・プラズマートの後群に正レンズを1枚追加した発展型です(下図)。これと同じ設計構成を採用したレンズにはライツのSummilux 35mmがありますが、口径比は一段明るいF1.4でした。本レンズでは明るさをF2に抑えることで、ワンランク上の描写性能を実現したと考えることができます。この種の構成で中口径レンズを設計する場合、欠点のない極めて優秀なレンズがつくれることが知られています[1]
レンズは遅くとも1959年には登場しており、LENKINAPLOMO(当初はLOOMP)の傘下に入る1962年以降も製造は続いています。レンズの製造がいつまで続いたのか定かではありませんが、1970年のGOIのカタログには掲載されていますし1970年代に作られた製品個体も確認しています。

OKC1-35-1(左)と前身モデルのPO56(右)の構成図。PO56の方が曲率がきつくガラスには厚みがあります。OKC1-35-1は硝材の屈折力に余裕があるため曲率が緩んでおり、収差が生じにくい構造になっています。中心解像力はPO56からの再設計で15%向上しており、コントラストも向上しています[2]



OKC1-35-1にはシネマ用ムービーカメラのKONVASに供給されたOCT-18マウントのモデルと、1KSK/2KSKなどに供給されたKSKマウント(ロシア版のBNCマウント)のモデルの2種があります。OCT-18マウントのモデルはシネレンズ特有のスピゴットマウントと呼ばれる方式で、マウント部にはヘリコイドの回転による前後の繰り出しを制御する溝がついています。デジタルカメラで使用するには、ロシアのRafCameraやポーランドのeBayセラーなどが出しているアダプターを利用するのが一般的です。KSKマウントのモデルは鏡胴が巨大ですが、光学ブロックだけを取り外せる構造になっており光学ブロック自体はとてもコンパクトなのでヘリコイドにのせて使用することにしました。マウント部はM30ネジ(ねじピッチ0.5mm)eBayで購入できるM30-M42アダプターリング(ねじピッチ0.5mm)がピタリと付きます。これを使いM42ヘリコイドに搭載し、末端部をSONY EまたはFUJI Xマウントに変換して用いることができます。いったんLeica Lマウントに変換し他のミラーレス機に搭載することも可能で、ポルトガルのcustomphototools.comが出している30mmx0.5 -M39アダプターと一般的なライカLM変換アダプターを併用し、光学ブロックのマウント部をライカMマウントにしてから、ライカM-ミラーレス機アダプター(ヘリコイド付)に搭載すればよいです。フランジバックを微調整し、最後に30mmx0.5-M39アダプターをライカLM変換アダプターに接着固定すれば完成です。
 
光学ブロックのマウント部ネジ径はM30(ねじピッチ0.5mm)ですが、eBayで入手したアダプターリングがピタリと装着できM42マウントに変換できますので、M42ヘリコイドに搭載することができます
参考文献
[1] レンズ設計のすべてー光学設計の真髄を探るー 辻定彦著 電波新聞社2006年
[2] Catalog Objective 1970(1970年のGOIのカタログ)
[3] RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
 
入手の経緯
羽根のついたOCT-18マウントのモデルは201712月にeBayを経由してウクライナのレンズ専門業者から220ドル(190ドル+送料)の即決価格で入手しました。オークションの記載は「MINT Condition(美品)。ガラスはカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離等のない、とても良い状態。鏡胴の状態は写真で確認してほしい」とのこと。状態の良い個体が入手てきました。eBayには常時何本か出ており、価格は程度の良いものが250350ドル程度となっています。光学ブロック2018年6月にeBayを経由してレンズを専門に扱うロシアの出品者から200ドル+送料の即決価格で入手しました。オークションの記載は「OKC1-35-1の光学ブロックでガラスの状態は大変。傷はない。若干のコバ落ちが見られるがカビ、クモリ等の大きな問題はない。適切なアダプターを用いてデジタルカメラに接続できる」とのことです。後玉側にはメタルキャップが付いていました。このレンズが光学ブロックの状態で市場に出る事は滅多にありませんが、本来はKSKマウントの大きな鏡胴に収められていることを後で知りました。届いたレンズはコバ落ちのみでガラスの状態はたいへん綺麗でした。ebayでの相場は状態の良い個体が、やはり250ドルから350ドルあたりです。後玉が飛び出しておりキズの入っている個体が多いため、購入時は後玉のコンディションに気を付ける必要があります。後玉がキャップで保護されているものを入手する方が安全でしょう。
OCT-18マウントのモデル:重量(実測)180g, 最短撮影距離(規格) 1m, 絞り羽 10枚構成, 絞り値 F2-F16, 推奨撮影フォーマット 35mm映画フォーマット(APS-C相当), 設計 6群7枚 


KSKマウントのモデルから取り出した光学ブロック:重量(実測)63g, フランジバック 33.9mm, fマウント部はM30スクリュー(ねじピッチ0.5mm)。その他の仕様はOCT-18モデルと同じ

撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したカメラを選択するのが最適です。ちなみに、フルサイズ機では両モデルとも四隅に丸いケラレがハッキリと生じ無理があります。時代的にはシングルコーティングですが、滲みやフレアは全く見られず、スッキリとヌケのよい描写で発色も良好、シャープネスやコントラストは開放から高いレベルに達しています。また、絞っても中間階調は良く出ておりトーンを丁寧に拾ってくれます。開放でも中心部は解像力が高く緻密な像を描いてくれますが、像面が平坦ではないため四隅ではピントが外れます。その分、立体感に富んだ画作りに長けており、無理に像面を平坦にしなかったのて非点収差(像面分離)は小さくボケは安定しています。一段絞れば四隅に向かって良像域は拡がり、風景などでも充分に使えます。ボケはポートレート域でややざわつきますが、強いクセはありません。カタログのデータシートでは光量落ちが大きめに出ていました[3]。ただし、使ってみた感触では全く気になりません。歪みは少し樽型です。
  

CAMERA:Fujifilm X-T20
LENS: OKC1-35-1 (KSKマウントモデル)

F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:曇) 開放からスッキリとヌケが良く、コントラストも良好です
F4  Fujifilm X-T20(WB:曇) この通り解像力は高く、緻密な像が得られます

F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2) 逆光では少しゴーストがでる









F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600)
F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600)

 


CAMERA:SONY A7R2(APS-C MODE)
LENS: OKC1-35-1 (OCT-18マウントモデル)
 
F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode)  歪みは樽型。これも階調がとてもいい感じに出ている

F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode)  中心部の解像力はかなりいい。中間階調の良く出るレンズだ
F2(開放)  sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode)  開放でのスッキリとしていて抜けがよく、よく写るレンズだ

F2(開放), sony A7R2(WB:Auto, APS-C mode) 僅かにグルグルボケがでました。出てもこんなもんでしょう。広角シネマ用レンズは開放でフレアの多い製品が多いのですが、本品にはフレアやにじみがあまりでないようです
F2(開放)  sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode)  
F2.8(sony A7R2, WB:曇り)













  
 
Photographer:  Zhi Mei Li
Camera: Sony A7II
知人のZhi Mei Liさんにレンズを使っていただき、昭和記念公園で半日撮影をしていただきました。Liさんは私がお譲りした映画用のJupiter-9を使い、最近いろいろなコンテストで賞を獲得しているポートレート写真家です。写真作品は現像時にカラーバランスをいじっているそうで、発色はこってり目になっています。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
 


   
Photographer:  どあ*
Camera: OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ
続いてレンズをお譲りした知人のどあ* さんにもお写真を寄稿していただきました。どあ* さん曰くOKC1-35-1は「横浜が似合うレンズ」だそうです。多重露光のものが何枚か入っています。あと、ホワイトバランスをいじっているそうです。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
 

2019/01/12

LOMO OKC1-18-1(OKS1-18-1) 18mm F2.8

 
1950年代に活躍した超広角シネレンズと聞いて直ぐに浮かぶのは、レトロフォーカス型レンズのパイオニアメーカーである英国テーラー&テーラーホブソン社のSpeed Panchro 18mmとフランスのAnagenieux Type R2 18.5mmです。一方で東側諸国に目を向けるとロシア(旧ソビエト連邦)には高い光学技術があり、1950年代中半には両社の広角シネレンズに対抗できる製品がつくられていました。レニングラードのLENKINAP工場が1950年代中半から1960年まで生産したPO711960年にリリースした後継モデルのOKC1-18-1です。
 
サンクトペテルブルクからやってきた
ロモの映画用レンズ PART 1
LOMO OKC1-18-1(OKS1-18-1) 18mm F2.8

1952年に映画用カメラのKONVAS-1M(カンバス1M)が登場すると、これに搭載する交換レンズとしてPOシリーズのラインナップが大幅に強化されました。この時にリリースされた新しいレンズの供給元となった工場が、後に合併しLOMO(ロモ)の一部となるレニングラードのLENKINAP(レニングラード・シネマ器機)です。LENKINAPからは、旧来から存在したシネレンズ(PO2 75mm, PO3 50mm , PO4 35mm)の改良モデルにあたるPO60, PO59, PO56などがリリースされ、更にPO71 18mm, PO70 22mm, PO59 28mm, PO63 80mm, PO18 100mmなど、それまでにない新しい焦点距離のレンズも登場しました。1950年代末にこれらは再設計され、解像力を一層向上させたLENKINAP OKCシリーズへと姿を変えてゆきます。
今回取り上げるのは、その中で焦点距離の最も短いPO71RO71)の後継モデルOKC1-18-1です[1]。ここまで広角のシネレンズともなると、常用ではなく室内など狭い空間でのシーンや、パースペクティブを強調したいシーンに限定して使われたに違いありません。市場に流通している個体数が極僅かなのは、このような事情を反映しており、探すとなるとなかなか見つけるのは難しい希少レンズです。
レンズの設計構成は下図に示す通りで、当時のレトロフォーカス型レンズで最高レベルの性能を誇ったVEB Zeiss JenaFlektogon 35mm(フレクトゴン)をベースにしています。Flektogonは初期のレトロフォーカス型広角レンズにおいてコマ収差を有効に補正することのできる唯一無二のレンズでしたので、これを設計ベースに据えることは手堅い選択でした。OKC1-18-1には開放からフレアや滲みのない、Flektogonらしい描写性能が備わっています。
このレンズの外観の特徴は何と言っても巨大な前玉です。見ているだけでワクワクしてしまうのは、恐らく私だけではないとおもいます。なにしろコンピュータによる設計法が確立される前の時代の製品ですから、まず基本となるマスターレンズを設計し、前方に凹レンズを据えてバックフォーカスを延長させ、マスターレンズとの空気間隔をズームレンズのように伸縮させることで、画角を拡大させるアプローチがとられました[2,3]。基準となるマスターレンズは原則いじらないので、最終的に前玉がデカくなるのは当然です。その後のコンピュータに頼る設計技術の進歩がレンズ設計に自由度をもたらし、より小型で高性能なレンズがつくれるようになっていきます。


OKC1-18-1の構成図(文献[4]からのトレーススケッチ):設計構成は6群8枚のレトロフォーカス型で、ビオメタールタイプのマスターレンズの前方に凹メニスカスを1枚、さらにその前方に張り合わせの凹レンズを設置し、バックフォーカスの延長と包括画角の拡大を実現しています。ちなみに2群目から後ろはZeiss JenaのFlektogon 35mmと同一構成です。前身モデルのPO71も同一構成ですが細部の寸法に若干の差があります[4]

参考文献
[1] 市場に流通している製品の独自調査により、PO71の最も新しい個体のシリアル番号が1960年製(N60XXX)であることを写真で確認しています。また、OKC1-18-1の最も古い個体のシリアル番号がやはり1960年製(N60XXXX)であることも写真で確認済です。
[2] 写真レンズの歴史 ルドルフ・キングズレーク著(朝日ソノラマ: 1999年)
[3] Joseph Bailey Walker, US.Pat.XXX(1932)
[4] GOI lens catalog 1970

Lomo OKC1-18-1 18mm F2.8: 重量(実測) 407g, マウント部ネジ径 M21, 絞り指標 T3.3(F2.8)-T22, 設計構成は6群8枚のレトロフォーカス型, 定格イメージフォーマット  35mmシネマ(APS-C相当)



 
入手の経緯
eBayでは状態の良い個体に500~600ドル程度の値が付きます。今回、私が手に入れた個体は20182月にeBayでウクライナのレンズセラーが400ドル代で売っていたものですが、値切り交渉の末に385ドル+送料の即決価格で手に入れました。オークションの記載は「レンズは完全な作動品で、未使用のようなガラスである。カビ、クモリ、拭き傷はなく、パーフェクトなコンディションだ」とのこと。届いた個体は記載通りの素晴らしいコンディションで、おそらくオールドストックであったものと思われます。レンズには下の写真のような美しい純正ケースとベークライト製キャップがついてきました。

レンズはこんな感じのお洒落なペーパーケースに入って届きました。ケースや前玉・後玉用キャップにはLOMOのロゴが入っています



デジタルカメラで使用する
レンズにはヘリコイドが付いていないので、ピント合わせをおこなうには外部のヘリコイドに頼る必要があります。マウント部は特殊な21mm(M21x0.5)のネジですが、これをライカL39マウントに変換するためのマウントアダプター(写真・下)が市販されていますので、これを用います。ちなみにこのネジは少し前に取り上げたOKC1-22-1と同じ規格ですのでOKC1-22-1用で大丈夫です。このアダプターでライカL、更にはライカL→ライカMアダプターを用いてライカMマウントに変換し、そのままライカM→ミラーレス機アダプター(ヘリコイド付)に搭載すれば各社のデジタルミラーレス機で使用することができます。アダプターを3枚も使用していますがスクリューマウントなのでガタは出ず、快適に使用することができます。

M21-L39アダプター。eBayでOKC1-22-1用として販売されている

撮影テスト
35mmシネマフォーマット用レンズなので、イメージサークルはAPS-Cセンサーをカバーできます。中心部の解像力は良好で、開放から滲みやフレアはなく、スッキリとした描写の高性能なレンズです。ただし、軟調でトーンはなだらかなうえ、深く絞り込んでもシャープになりすぎることがないなど、絶妙なポジショニングです。ガラス境界面が多いからなのでしょう。おなじロモの広角レンズでもOKC1-22-1  22mm F2.8は、これよりも更にシャープなレンズでした。レトロフォーカスタイプなので、写真の四隅で光量落ちが顕著に目立つことは性質的にありませんし、ボケも安定しています。倍率色収差は少なく、デジカメで使用した場合でも像の輪郭が四隅で色付くことはほぼありませんでした。歪みは僅かに樽型です。ゴーストやハレーション(ベーリング・グレア)はこのクラスのレンズにしては出にくく、逆光時の描写には安定感があります。

Camera: Sony A7R2(APS-C mode)
TORUNOオープニングセレモニーにて

F2.8(開放) SONY A7R2(APS-C mode) モデルの清水ゆかりさん。接触するんじゃないかと思われるくらいに寄って、やっとここまでの構図になります。清水さんもこのレンズの存在感に驚いていた様子でした

F4  SONY A7R2(APS-C mode) 解像力は良好です

F4  SONY A7R2(APS-C mode)
F5.6  SONY A7R2(APS-C mode) 歪みは僅かに樽側ですが、良好なレベルです
SONY A7R2(APS-C mode)






Camera: SONY A7R2
場所:伊豆大島
F5.6 sony A7R2(APS-C mode WB: 曇天)

F5.6 sony A7R2(APS-C mode WB:曇天)

F4 sony A7R2(APS-C mode WB:日陰)
F4 sony A7R2(APS-C mode  WB: 日陰)
F4 sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)
F5.6 sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F5.6 sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)





Camera: SONY A7R2

場所:三浦半島 観音崎灯台


F5.6 sony A7R2 (APS-C mode WB:曇天) 


F8  sony A7R2 (APS-C mode WB:晴天) 





F5.6 sony A7R2(APS-C mode WB:auto)
F4 sony A7R2(APS-C mode  WB:auto)


Camera: FUJIFILM X-T20
場所:和歌山県 高野山

F8  Fujifilm X-T20(WB:Auto)

F2.8(開放) fujifilm x-t20(WB auto)






F8 Fujifilm X-T20(WB:auto, Aspect Ratio 16:9)




2018/01/14

LOMO/LENKINAP OKC1-22-1 (OKS1-22-1) 22mm F2.8





豪快なハレーションを解き放つ
軽く、小さく、短く、安く、しかも高性能、
最短20cmでマクロまでこなす万能広角シネレンズ
LOMO/LENKINAP OKC(OKS) 1-22-1, 22mm F2.8
ミラーレスタイプのAPS-C機やマイクロフォーサーズ機をメインに使うオールドレンズのエントリーユーザーから、おすすめの広角オールドレンズ(できればリーズナブルなもの)を紹介してほしいと相談を受けることが時々あります。一見簡単そうな相談に思えますが、条件をよく整理してみると「短い」+「小さい」+「軽い」+「安い」+「オールドレンズ(つまり金属製)」とかなりハードルが高く、しかも相手は女子なので、ご飯や花・小物を撮ります。寄れることが必須・・・。すぐに答えが出ません。
ご存知のように広角レンズとは焦点距離の短いレンズですが、一般にフルサイズ機で使用する場合は40mm未満、APS-C機では焦点距離24mm未満くらい、マイクロフォーサーズ機では焦点距離20mm未満くらいからのレンズが該当します。フルサイズ機に対応したレンズを探すほうが選択肢が圧倒的に多いわけですが、ここまで短い焦点距離となると、デカくて重いレンズばかりです。軽くて小振りなミラーレス機の長所を完全に打ち消してしまい、バランスも悪いので、これではいけません。残る選択肢はイメージサークルの小さいハーフサイズカメラのレンズとシネレンズですが、こんどは安い広角オールドレンズがなかなか見当たりません。今回紹介するOKC1-22-1 22mm F2.8はオールドレンズの知識が豊富な仲間達に相談し、議論を繰り返す中から得られた、全ての条件を満足する限られた回答の一つです。これより条件の良いオールドレンズがありましたら、ぜひ教えてください!
OKC1-22-1はロシアのロモ(LOMO :レニングラード光学機械連合)が1950年代のLENKINAP(Leningrad Kino Apparatus:レニングラードシネマ器機)時代から少なくとも1992年頃まで生産していた、APS-C相当のセンサーサイズまでをカバーできる35mm映画用レンズです。レンズの設計構成は下図のような5群6枚で、ビオメタールからの発展形として旧東ドイツZeiss Jenaが供給したレトロフォーカスタイプの広角レンズFlektogon(フレクトゴン)を手本にしています。初期のレトロフォーカスタイプの中では開放からシャープでヌケがよく、フレアの少ない抜群の描写性能を備えた優れた設計構成として知られています。レンズはヘリコイドを持たないレンズヘッドの状態で売られていますので、このままではピント合わせができません。デジカメでの撮影に用いるには、いったんライカMマウントに変換し、ヘリコイド付きアダプターに搭載するのがよいでしょう。
1950年代後期のLOMO設立前にLENKINAPファクトリーで生産された初期型のOKC1-22-1。経年による使用でこすれた部分から真鍮の地金が出ている。和のテイストを感じさせるカッコイイデザインだ




OKS(OKC) 1-22-1の構成図: Catalog Objectiv 1970 (GOI)からトレーススケッチした見取り図。設計構成は5群6枚のフレクトゴン型
入手の経緯
レンズは2017年12月にeBayを介してウクライナのセラーからレンズヘッドの状態のものを119ドル+送料の即決価格で購入しました。オークションの記載は「MINT CONDITION(美品)。レンズの性能はコリメーターでチェックしている」とのこと。届いたレンズは充分に綺麗な状態でした。レンズヘッドはeBayに豊富に流通しており、価格も美品が150ドル(+送料)辺りからの値段で手に入ります。LENKINAP製やKONVASマウントの個体は珍品のためか、これよりも値が張りました。
LOMO OKC1-22-1  22mm F2.8: 絞り羽根 8枚構成, 最短撮影距離(ヘリコイドアダプター5mm繰り出し使用時) 0.2m, 5群6枚レトロフォーカスタイプ(フレクトゴン型), 実焦点距離21.1mm, 重量(レンズヘッドのみ)45g,    推奨イメージフォーマットはAPS-C相当(35mm映画フォーマット) 製造期間1950年代より1990年代




マウントアダプター
レンズにはヘリコイドが付いていませんしマウント形状はM21(0.5mmピッチ)ネジですから、このままでは撮影に使うことはできません。デジタルミラーレス機で使用するにはウクライナのua-artprojectcomというセラーがeBayで販売している「HELICOID FOCUSING PART FOR OKS1-22-1 F/2.8 22mm」を購入するか、ロシアのRafCameraがeBayで3000円程度で市販しているM21x0.5 - M39x1アダプターを手に入れ、マウント部をライカL39マウントに変換します。

HELICOID FOCUSING PART FOR OKS1-22-1 F/2.8 22mm (ua-artprojectcom)

続いてライカLMリング(eBayでは500円程度)を使いマウント部をライカMマウントに変換、最後にライカMマウントレンズ用のアダプター、もしくはRafCameraのアダプータを用いた場合にはライカMマウントレンズ用のヘリコイド付きアダプターに搭載します。アダプターまで含めると予算総額は高くなってしまいますが、ミラーレス機ユーザーにとって、ライカLMリングやライカMマウント用のアダプターは他のレンズにも流用できる使用頻度の高い必須アイテムですので、揃えておいて決して損ではありません。ヘリコイドアダプターの繰り出し量は僅か5mm程度ですが、それでも、このレンズを搭載すると20cmまで寄れ、充分な近接撮影力が得られます。なお、私は下の写真に示すような自作カプラーで対応しました。参考までにカプラーづくりの材料は(1)26-28mmステップアップリング(28mm側のネジ山をルーターで削る)、(2) C-mount > Leica Lステップアップリング、(3)ライカLM変換リング、(4)エポキシ接着剤です。
このレンズにはフィルターネジがありませんので、被せ式のレンズキャップをつける必要があります。ホームセンターにゆくと椅子の足に被せるゴムキャップ(内径31mm)が100円程度で買えますので、丈もぴったりでおススメです。


LENKINAP OKC1-22-1 22mm F2.8:絞り羽 8枚構成, 絞り値 T3.1-16,  最短撮影距離(ヘリコイドアダプター5mm繰り出し使用時) 0.2m, 5群6枚レトロフォーカスタイプ(フレクトゴン型), 推奨イメージフォーマットはAPS-C相当(35mm映画フォーマット), 赤紫のPコーティングが蒸着されている
LOMO OKC1-22-1  22mm F2.8: 絞り羽根 8枚構成, 最短撮影距離(ヘリコイドアダプター5mm繰り出し使用時) 0.2m, 5群6枚レトロフォーカスタイプ(フレクトゴン型), 実焦点距離21.1mm, 重量(レンズヘッドのみ)45g,  こちらは1978年製の個体で、コーティングはシアン系と紫の混合。逆光で虹のシャワーのようなハレーションが豪快に出る
こちらは、1966年製造の個体でLOMO銘が入っている。LENKINAP製の個体と同じ赤紫色のコーティングが施されており、逆光でも虹のハレーションが出ない
LOMO OKC1-22-1: 重量(実測) 125g, 絞り羽 8枚構成, 絞りF2.8-F16, 最短撮影距離(規定) 1m, ヘリコイド付 フィルター径 55mm: こちらはKONVAS(OCT-18)マウント用に作られた珍しい個体。KONVASは市販のアダプターがあるので、無改造のままミラーレス機で使用することができる。私が入手したのはeBayでポーランドのセラーが販売していたOCT18 - LEICA Mアダプターです(下の写真)。




eBayにてポーランドのセラーから9500円で入手したOCT18 - LEICA Mカスタムアダプター。造りはとてもよいが、たまにしか売っていない

撮影テスト
プロフェッショナル向けの映画用レンズには設計に無理のない堅実な描写の製品がそろっています。本品も開放からスッキリとヌケがよく、四隅まで滲みの少ないシャープな描写です。コントラストは良好でどこまでも優等生なレンズですが、逆光になるとシャワーのような美しいハレーションが爆発的に発生し、豹変します。発色はノーマルで歪みは極僅かに樽型。工夫次第で素晴らしい写真効果が得られる、とても楽しいレンズです。
ちなみに、LENKINAP製の個体は逆光でもシャワーのハレーションが出ることがありませんでした。コーティングの違いからでしょうか。

LOMO製 OKC1-22-1での写真作例
 
F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB):
F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB):

F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB):
F2.8(開放), FUJIFILM X-T20(AWB): 逆光ではゴーストに加え、シャワーのような美しいハレーションがビシバシと出る

F4辺り, Fujifilm X-T20(AWB):

F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB): ガラスが1枚入っており、太陽光が写り込んでいる


F4, FUJIFILM X-T20(AWB):  

F4, FUJIFILM X-T20(AWB):  

F2.8(開放) FUJIFILM X-T20(AWB): 

F4, FUJIFILM X-T20(AWB): 


F2.8(開放), FUJIFILM X-T20(AWB): 

F4, FUJIFILM X-T20(AWB): 
F5.6, Fujifilm X-T20(AWB)
F4辺り, Fujifilm X-T20(AWB)
F4辺り, Fujifilm X-T20(AWB):
F2.8(開放)FUJIFILM X-T20(AWB):逆光時のハレーションは開放では放射状だが・・・。


F16辺りFUJIFILM X-T20(AWB) : 深く絞ると、このようになる。ハウルの動く城か?







LENKINAP OKC1-22-1での写真作例

F2.8(開放)FUJIFILM X-T20(AWB)

F2.8(開放)FUJIFILM X-T20(AWB)

FUJIFILM X-T20(AWB)

F5.6, Fujifilm XT-20(AWB)

F2.8(開放) FUJIFILM X-T20(AWB)

F5.6 FUJIFILM X-T20(AWB)
F5.6 FUJIFILM X-T20(AWB)

F5.6 FUJIFILM X-T20(AWB)