おしらせ


2017/11/20

G.Rodenstock Doppel-Anastigmat HELIGONAL 6cm F5.2








歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part.4
クアドラプレットを組み込んだ
幻の広角レンズ
G.Rodenstock Doppel-Anastigmat HELIGONAL 6cm F5.2(ドッペル・アナスティグマート ヘリゴナル)
レンズの設計構成は描写の性格を決める重要はファクターなので、構成が特異なレンズには俄然興味が沸いてくる。1905年に登場したドイツ・ミュンヘンの光学メーカー、ローデンストック(G. Rodenstock)社のヘリゴナル(HELIGONAL)は、まさにそんなマニア心をくすぐるレンズの一つであろう[1]。このレンズは現存する個体数が極めて少ないため、レンズフリーク達が探し求める幻のレンズとして指名手配されている[3]。私も以前から気になりマークしていたが、ある日、偶然にも入手できたのでレポートしてみたい。
ヘリゴナルは1905年に登場し、少なくとも1911年まではエストニア向けのカタログに掲載があったため確かに供給されていた[3]。レンズについての資料は極めて少なく、キングスレークの本[4]に簡単な記載がある以外には、専門誌に掲載されていたチラシがネットで見つかる程度である[5,6]。しかも、チラシにはスペックに関する詳細が何一つ記されておらず、推奨フォーマットはおろか搭載されていたカメラが何であったかなど不明な点が多い。文献[7]には広角レンズと記されており、35mm換算で焦点距離21mmから30mm辺りの推奨画角とあるが、根拠となる資料がないうえ、どうも使用してみた感触では、30mmから40mm(中判6x6フォーマットか645フォーマット)あたりではないかと考えるようになった。
レンズの設計は前群にダブレット(2枚玉)、後群にプロターリンゼ型のクアドラプレット(4枚玉)を配置した独特な構成形態をとっており(下図)、前群を外した後群だけの状態でも、口径比F12のアナスティグマートとして撮影に使用できる。黎明期の広角レンズには珍しく前・後群が非対称のため、発売当初は専門誌からかなり酷評された[1,3]。当時の広角レンズはまだ対称型が主流で時代が早すぎたのであろう。しかし、実際には開放から充分な画質が得られることから、評価は次第に良くなっていったそうである。
G.Rodenstock Heligonal F5.2(1905-1911)構成図: 文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)。全群は2枚のはり合わせによるダブレット、後群はCarl Zeiss(パウル・ルドルフ設計)が1895年に発売した4枚玉のプロターリンゼ型クアドラプレットである




ヘリゴナルのような接合面を多く持つ密着タイプの設計構成はこの時代以前の主流であったが、レンズ設計の軸足はテッサーやダイアリートなど明るいレンズを設計するのに有利な分離タイプにシフトしてゆき、このレンズも短い期間の供給のみで、1912年の同社の輸出カタログでは姿を消している[8]。第一次世界大戦後にも同社から全く同名のレンズが発売され1925年頃まで供給されていたが、そちらはよくあるラピッドレクチリニアタイプのポートレート用レンズで、海外のオークションにも度々登場する[3]。

入手の経緯
今回のモデル(広角ヘリゴナル)を購入する場合、ポートレート用ヘリゴナルとの識別が大きなポイントになるが、ネットオークションでの識別は容易なことではない。唯一のヒントはローデンストック社のカタログに掲載されていたイラスト[3]であろう。これをみて鏡胴のデザインで判断することと、鏡胴側面に記載されたF5.2の口径比のみが確かな糸口となる。同社の製品台帳には1934年よりも前の情報が欠落しているため、シリアル番号から製品個体の製造年を割り出す事はできない[9]。
ある日、日本のヤフー・オークションに広角ヘリゴナルと思われる個体が登場。みるとシリアル番号が8000番台と極めて初期のレンズであったので、期待は一気に高まった。ポートレート用ヘリゴナルとの違いを知るマニアは日本にいくらもいないので、これは千載一遇のチャンスと入札、レンズは3万円ちょっとで私のものとなった。届いたレンズが広角ヘリゴナルであることを判断するには現物の後群がクアドラプレットである事を確認するだけだ。「レンズ神よ。これまで何度も幸運を分け与えてくれたが、今もう一度チャンスを分け与えたまえ~」。後群を覗き込むと思わず溜め息が出た。暗い反射が3個に明るい反射が2個のクアドラプレット。紛れもなく広角ヘリゴナルであった。
G.Rodenstock  Doppel-Anastigmat Heligonal 60mm F5.2: 絞り羽 10枚構成, 構成2群6枚ヘリゴナル型, 絞り 5.2/6.3/7.7/9/11/16/22/31/?, フィルターネジなし



参考文献
[1]Johnson, George Lindsay, Photographic Optics and Colour Photography: Including the Camera, Kinematograph, Optical Lantern, and the Theory and Practice of Image Formation., New York: D. Van Nostrand Company(1909)
[2]  構成図の掲載雑誌:Forsner's Fotografiska Magasin, Priskurant I, 1910-11, Stockholm Örebro
[3] camera-wiki, HELIGONAL
[4] 「写真レンズの歴史」キングスレーク著 朝日ソノラマ
[5] Rodenstock社の広告(1906年) フランス語(LINK)
[6] "LES ANASTIGMAT RODENSTOCK sont superieurs, Representant"  L.CAVALIER, PARIS (1908年)フランス語(LINK
[7] Lens Collectors Vade Mecum, 3rd edition
[8] G. Rodenstock Lenses of Quality Catalog 1912 for USA
[9] Rodenstockの台帳には1934年よりも古い記録がないため、いったい何本のレンズが作られたかなど、このレンズに関する確かなデータを得ることはできない

撮影テスト1
中判 6x9 format (PaceMaker SPEED GRAPHIC)
文献[7]にはレンズのイメージサークルが中判6x9フォーマットを余裕でカバーできるとあったものの、四隅の光量落ちが目立つ結果となった。ちなみにレンズを中判6x9フォーマットで用いた場合の撮影画角は、35mm判における焦点距離26mm相当とかなり広い。光量落ちを狙う場合はこれでもよいが、避けたいならば6x6よりも小さな撮影フォーマットがよいだろう。
開放から滲みやフレアは見られず堅実な写りで歪みもたいへん小さい。ボケは安定しており、グルグルボケや放射ボケなどは見られない。
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400/彩度・減) 四隅の光量落ちがやや強い。好きか嫌いかと言われれば勿論すきだ
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400)
F7.7, 銀塩カラーネガ6x9 format(Kodak Portra 400/彩度・減) 雰囲気を出すためシャッタースピードを上げて露出を少し落とし、光量落ちを目立つようにしている。また、フォトショップで彩度を少し下げている。中心は緻密に描写されている
F5.2(開放), 銀塩カラーネガ 中判6x9 format(Kodak Portra 400) 今度は露出をあげ、開放で撮影した。フレアは少なく、歪みは小さい








撮影テスト2
中判6x7フォーマット (PaceMaker SPEED GRAPHIC)
四隅に顕著な暗角が出たため、今度は中判6x7フォーマットで撮影してみた。依然として光量落ちの目立つ撮影結果であるが、かなり改善されている。
F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7format(FUJIFILM PRO160NS)  太陽を入れたド逆光。この時代のレンズにしては、なかなかの逆光耐性で濁りはそれほどきつくない


F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7 format(FUJI PRO160NS) 階調描写はドッペルプロタ―によく似ており、この時代のBテッサーF6.3に比べても明らかに軟らかい

F8, 銀塩カラーネガ 中判6x7 format(FUJI PRO160NS) まだ四隅の暗角はきつめだ。6x6でも広いということかな

F5.2(開放)銀塩カラーネガ 中判6x7format(FUJIFILM PRO160NS)  ボケ味は素直だ。
撮影テスト3
フルサイズフォーマット
CAMERA:  SONY A7RII
6x7フォーマットでも暗角は目立っていたので、645フォーマットあたりがジャストサイズのように思えてきた。最後にフルサイズフォーマットでの作例もみてみよう。
写りは中判カメラの時よりも明らかに軟調。開放から滲みやフレアなどはなく、少し淡いあっさりとした発色傾向とともに軽やかな心地よいトーンに仕上がる。フルサイズフォーマットでも画質的に無理はない。
F7.7, sony A7R2(WB:晴天) 発色は淡く、軽い仕上がりになる

F5.2(開放)  sony A7R2(WB:晴天, ISO1000) 35mmフォーマットでも無理のない撮影結果が得られる

F5.2(開放)  sony A7R2(WB:晴天, ISO1000)


F7.7, sony A7R2(WB:晴天、ISO1000) 逆光も平気






F7.7, sony A7R2(WB:晴天)

F11, sony A7R2(WB:晴天)

2017/11/01

オールドレンズ写真学校展Vol.4(ご案内第2報)+体験イベントのご案内



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オールドレンズ写真学校展 Vol.4

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オールドレンズ写真学校参加者によるグループ展示会です。ぜひお立ち寄りください。

【場所】
原宿 デザインフェスタギャラリーEAST201/202
http://www.designfestagallery.com

【展示スケジュール 】
2017年11月3日(金/祝)~5日(日)

11月3日 16:00〜20:00
11月4日 11:00〜20:00
11月5日 11:00〜19:00


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ジョイントワークショップ:イルミナー体験会

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日時11/4(土) 13:00より1時間程度
集合場所は展示会会場です。
参加費・無料

オールドレンズ写真学校が開発したイルミナーの体験会を行います。レンズをご用意いたしますので、ご自身のカメラに装着し、展示会の会場周辺でレンズを使用していただくことができます。また、数量限定ですがカメラやマウントアダプターの貸し出しも可能です。気に入ったレンズはその場で購入することも可能です。貸出レンズは

イルミナー・アメジスト 25mm F1.4
イルミナー・ペリドット 25mm F1.4
イルミナー・ブルートパーズ 25mm F1.4

です。マイクロフォーサーズ機での使用を推奨します(フジやEOS-Mでの仕様も可)。


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ジョイントワークショップ:オールドレンズ体験会

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日時11/5(日) 13:00より1時間程度
集合場所は展示会会場です。
参加費・無料

オールドレンズ写真学校で推奨しているレンズの体験会を行います。レンズをご用意いたしますので、ご自身のカメラに装着し、展示会の会場周辺でレンズを使用していただくことができます。また、数量限定ですがカメラやマウントアダプターの貸し出しも可能です。気に入ったレンズはその場で購入することも可能です。貸出レンズは

Pentacon Prakticar 50mm F2.4
MC Pentacon 50mm F1.8
Pentacon AV 80mm F2.8
ILLUMINAR 25mm F1.4
PETRI 55mm F1.8/F2
HELIOS-44M/44-4 58mm F2

各レンズの紹介はこちらです。

その他、裏メニューも多数ありますので、会場にてスタッフにお尋ねください。私もシネレンズのTair-41M 50mm f2(ライカMマウント、ゼブラ柄の美品)を1本レンタル用に提供します。欲しいか方がいましたらお声がけください。

2017/09/25

LZOS TAIR-41M 50mm F2 (Kiev-16U mount)




ロシアの16mmシネマムービー用レンズ part 1
独特な設計構成から繰り出される
四角の破綻と緩やかな光量落ちが
中央の被写体をドラマチックに演出する
リトカリノ光学ガラス工場(LZOS) TAIR-41M 50mm F2

レンズの設計構成は描写の性格を決める重要なファクターなので、構成が特殊なレンズに出会うと俄然興味が沸いてきます。ロシアのリトカリノ光学ガラス工場(LZOS)がソビエト時代の1960年代中期から1980年代中期にかけてシネマムービーカメラのKiev-16U用交換レンズとして供給したタイール41M(TAIR-41M)は、まさにそういう類のレンズです。このレンズには1960年代から1981年まで生産されたゼブラ柄の前期モデルと、1982年から少なくとも1984年まで生産されていた黒鏡胴の後期モデルの2種が存在します[1]。設計の基本構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの派生として開発されました[3,4]。軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを開発することが目的でしたが、終戦後はシネマ用望遠レンズの基本構成としても積極的に採用されています。既存のレンズのどの構成にも似ていないロシア発祥の設計形態の一つといえますが、こんなヘンテコな設計でも実によく写ります。不思議だなぁ。
TAIR-41M 50mm F2の構成図(左が前方で右がカメラ側):文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)。構成は3群4枚(タイ―ル型)で、絞りは2群目と3群目の間に入る。何かに似ていると思っていたが、わかった。土偶だ。同種の構成を持つタイールシリーズのレンズとしては、他にもTAIR-11 135mm F2.8、OKC2-75-1 75mm F2.8, , OKS1-200-1 200mm F2.8,  TAIR-3S 300mm F4.5, OKS1-300-1 300mm F3.5がある。レンズ名の由来はわし座の一等星のアル・タイル(Al-tair)。ロシアのレンズは光学系の種類ごとに星の名称(Sirius, Orion, (Sirius, Orion, Helios, Jupiterなど)をあてる習慣があり、このレンズの名称も伝統的な命名法から来ている[3]
タイ―ル41Mは広角レンズのMIR-11M 2/12と標準レンズのVEGA-7-1 2/20とともに3本セットで市場に流通していることが多く、3本をKIEV-16Uのターレット式マウントに同時に搭載することができました。マウント形状は特殊なM32スクリューネジ(ネジピッチ0.5mm)ですが、マウントアダプター(ロシア製と中国製)の市販品がeBayで流通しており、ミラーレス機で使用可能です。イメージサークルはビルトイン・フードの装着時にマイクロフォーサーズをギリギリでカバーできる広さがあり、フードを外すとAPS-Cをギリギリでカバーできます。レンズ本体の相場はeBayで50ドルからと焦点距離50mmのシネマ用レンズとしては破格の値段なので、これで写りが面白ければ言うことなし。
 
入手の経緯
レンズはeBayに比較的数多く出ており、送料込みで50ドル程度からと、50mmのシネマ用レンズとしては求めやすい価格です。アダプターは中国製とロシア製の市販品(マイクロフォーサーズ用、Nikon 1用、EOS-M用)がeBayに30~45ドル辺りの値段で出ていました。
ゼブラ柄の前期モデルは2017年8月にウクライナのレンズセラーから 即決価格45ドル(フリーシッピング)で落札購入しました。オークションの記載は「レンズはとても良いコンディションで清掃およびテストをおこなった。ガラスは綺麗でカビはない。絞りリングはスムーズに回り、フォーカスリングもスムーズかつ正確だ」とのこと。届いたレンズはガラスに油が付着しており、汚れがひどく、絞りリングも緩んでいたので、自分でオーバーホールする事になりました。あ~面倒くさい。
続いて黒鏡胴の後期モデルは2017年9月にウクライナの個人セラーから50ドル(送料込み) の即決価格で購入した。オークションの記載は「ガラスはクリーンでカビはない。フォーカスリングと絞りリングはスムーズで、全ての制御機構が健全です。外観の状態は写真で見てください」とのこと。届いたレンズは前玉にごく薄い吹き傷がパラパラみられましたが、実用品としては悪くないコンディションでした。

参考文献
[1] 古いものは1967年製のシリアル番号を持つ個体、新しいものは1984年製の個体を確認している。また、1981年製のゼブラ柄モデルと1982年製の黒鏡胴モデルを確認したので、この間にモデルチェンジがあったのでしょう
[2] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970
[3] REDUSER.NET: Ilya O."Tair-11 lens diagram/scheme and appearance"(2016 Nov.)
[4] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)

LZOS Tair-41M 50mm F2( 前期モデル): 絞り羽根 13枚構成, フィルター径 フードの先端 35.5mm/34mm(フードの根元), 最短撮影距離 0.7m, 絞り F2-F22, 16mmシネマムービーカメラ用Kiev-16Uマウント(M32x0.5スクリュー, フランジバック31mm), 設計構成 3群4枚(Tair type)


LZOS Tair-41M 50mm F2(後期モデル): 絞り羽根 13枚構成, フィルター径 35.5mm(フード先端・中継)/ 34mm(フード根元), 最短撮影距離 0.7m, 絞り F2-F22, 16mmシネマムービーカメラ用Kiev-16Uマウント(M32x0.5スクリュー, フランジバック31mm), 設計構成 3群4枚(Tair type)




SONY Eマウントへの改造例
タイ―ル41M(後期型)に元々ついていたヘリコイドでは最短撮影距離が長いので、撤去し高伸長なフォーカッシングヘリコイドに乗せ換えミラーレス機で使用することにしました。はじめにSONY Eマウント化の改造例を提示しましょう。

まず鏡胴の後群側を手で押さえ絞り冠のある前群側を回すと、上の写真のように鏡胴が真っ二つに分離できます。前側の溝にはM42-M39ステップアップリングがピッタリと収まりますので(下の写真・中央)、このままエポキシ接着剤を用いてステップアップリングをガッチリと固めます。この時、ネジの頭が少し出るので、ここに適当な操出量のM42フォーカッシング・ヘリコイドを装着します。私はeBayで手に入れたM42-M39ヘリコイド(繰り出し範囲が変則的な22.5-48.5mmのタイプ)を用いました。最後にフォーカッシングヘリコイドのカメラ側にM39-M42ステップアップリングとM42-Sony Eスリムアダプターを装着し、Sony Eマウントに変換して完成です

[改造に用いた部品]
タイ―ル41M後期モデル
エポキシ接着剤 ホームセンターで金属用を購入
M39-M42ステップアップリング x2個 アマゾンで175円(送料無料)
M39-M42フォーカッシングヘリコイド 最短が22.5mmのタイプ eBayで3000円程度
M42-NEX(sony E)スリムアダプター アマゾンで540円(送料無料)



改造後の様子。ヘリコイドが高伸長タイプ(22.5mm-48.5mm)なので、最短側の撮影距離は改造前の0.7mから0.25mまで短くなった






SONY Eマウントで使用する場合にはイメージサークルの関係からビルトインフードを外すことが多くなります。上記の改造を行うと絞りの開閉はフードをつまんで回すことになりますが、フードの撤去により絞り開閉ができなくってしまいます。これでは困るので、ビルトインフードが付いていたフィルターネジに34mm-37mmのステップアップリングを装着します。ステップアップリングの更に先にネジ径37mmの標準レンズ用フードを装着すれば、絞りリングの取り回しは更によくなります。

マイクロフォーサイズマウントとフジXマウントへの改造例
マイクロフォーサーズマウントへの変換とフジXマウントへの変換例はよく似ているので、いっぺんに解説します。

[改造に用いた部品]
タイ―ル41M後期モデル
エポキシ接着剤 金属用をホームセンターで購入
(1)M42フォーカッシングヘリコイド (最短17mmのタイプ) eBayで2500円程度
(2)39mm-52mmステップアップリング
(3)M39-M42ステップアップリング
(4)マクロリバースリング(フィルター側のネジ径が52mmのもの)、フジXマウント用またはマイクロフォーサーズ(PEN)用のいずれか

(1)-(4)の4つの部品を組み合わせ、下の写真・右のようなヘリコイドを制作します。M42フォーカシングヘリコイド(1)のメスネジ(レンズマウント側)を39-42mmステップアップリング(2)とM39-M52ステップアップリング(3)を用いて52mmフィルターのメスネジに変換します。つづいてリバースリング(4)を用いて、その先をカメラマウントに変換します。これで完成ですが、最後にフォーカッシングヘリコイドのM42マウントネジの頭にエポキシ接着剤を塗布しておきます。
この改造の工夫点はリバースリングを利用しているところと、M42フォーカッシングヘリコイドが逆さ付けになっているところです。奇抜なアイデア(工夫点)だと思っています。正攻法でゆくと17mmのヘリコイドではフランジ調整が困難ですが、リバースアダプターを使うことで、この問題を簡単に解決しています。







続いて、下の写真・左のようにTAIR-41Mの鏡胴の後群側を手で押さえ前群側を回すと、後群と前群に真っ二つに分離できます。前群側(写真・中央)の溝にはM42フォーカッシングヘリコイドのオスネジ側(エポキシ接着剤を塗布した部分)がピタリとハマりますので、エポキシ接着でガッチリと固めて同化させます。無限遠のフォーカスが拾えることを確認し完成です。固める際には絞り指標が上にくるように注意しましょう。
後期型は前期型(ゼブラ柄)と絞りの機構が少し異なり、ビルトインフードのフィルター枠を回して絞りの開閉をおこないます。しかし、フジのミラーレス機で使用する場合にはケラレ予防のため、ビルトインフードを外すことがあります。絞りの開閉を助けるためフードを外す場合には34-37mmステップアップリングを装着することをお勧めします。この上から汎用品のフード(ネジ径37mm)を装着すれば、取り回しは更によくなります。














影テスト
開放ではややフレアが生じ適度に柔らかい描写となりますが、シネマ用レンズらしく中心部は高解像で密度感に富み、デジカメの広い撮影フォーマットでは像面湾曲が目立つためか立体感にも富んでいます。一段絞るとフレアが完全に消失しスッキリとヌケが良くなるとともに、たいへんシャープな描写へと変わります。コントラストは高く、発色にも鮮やかさあります。ただし、逆光にはきわめて弱く、ハレーションの影響によりコントラストが落ち発色も濁りますので、適切な深いフードを装着することをおすすめします。被写体の背後では距離によっては弱いグルグルボケが発生します。写真の四隅で玉ボケが細長く潰れてゆく効果(強い口径食)と相まって、なかなか妖しいボケ味を醸し出しています。反対に前方では放射ボケが目立つこともあり、四隅で強いフレアを纏います。歪曲収差は巻き状でした。ピント部中央の高い描写性能はまさにシネマ用。使いでのあるレンズだと思います。
 



TAIR-41M(後期型)x SONY A7R2: APS-C mode  アスペクト比 16:9
ビルトインフードを装着するとAPS-C機ではトイカメラのような光量落ちを楽しむことができます。光量の落ち方がとてもなだらかなので、敢えてフードを装着しますと中央を際立たせる素晴らしい効果が得られます。フードを外しますと光量落ちはかなり緩和されますが、深く絞り込む際には四隅がケラれます。
TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C mode, AWB)  発色は鮮やかでコントラストも良好




TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C mode, WB:晴天)  マクロでもよく写る

TAIR-41M後期型@F2(開放 without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C crop mode, AWB)  はっきりとしたグルグルボケにはならない背後では像の流れがみられる。
TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天) 被写体の前方では放射ボケが発生する事もあります。強いフレアを纏っていますので、うまく利用することで素敵な描写になります

TAIR-41M後期型@F2(開放, installed Built-in Hood フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天) 優れた描写力だ。ポートレート域では適当な距離で背後にグルグルボケが出る。ビルトインフードを装着してみたが、APS-Cフォーマットでは、いい塩梅で周辺光量落ちがみられた。光量落ちが好きならばフードはこのままでよし。避けたければ外せばよい

TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C crop mode, AWB) 







TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天)




TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天)


フィルター径が34mなので、レンズの先端にステップアップリング 34-37mm(セパレート式フードの場合は中継部に35.5-37mm)などを取り付けると、絞りの開閉が容易になるうえサードパーティのフードやキャップ等を付けやすい

TAIR-41M  x  Olympus PEN
16mmムービーシネマフォーマットのレンズですので、ミラーレスカメラで用いる場合にはAPS-C機よりもマイクロフォーサーズ機で用いる方が安定した画質を得ることができます。ビルトインフードは付けっぱなしでもケラレが問題になることはありません。タイ―ル41Mの前期モデルを所有している写真家のemaさん(Oo.ema.oO)に撮影したばかりの写真を提供していただきました。
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着



TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着

2017/08/16

AIRES Camera Tokyo, CORAL lenses(AIRES 35-V mount) part 0:Prologue


アイレスカメラが1958年に発売した最高級機Aires 35-V。旧西ドイツのフォクトレンダー社がかつて生産したプロミネントを彷彿とさせる、レンズ交換の可能なビハインドシャッター機である。シャッターにはこのクラスにしては大型のセイコー社製0番シャッターが搭載され、交換レンズ群には広角で4枚構成のW Coral 35mm F3.2, 6枚構成のH Coral 45mm F1.9とH Coral 45mm F1.8, 7枚構成のS Coral 45mm F1.5, 望遠で5枚構成のTele Coral 100mm F3.5が供給されている[1]
 

アイレスカメラの高速標準レンズ 
part 0 (プロローグ) 
かつて、東京にはアイレス(正式名:アイレス写真機製作所)という名の小さなカメラメーカーが存在した[2]。1950年から1960年の僅か10年間で自社ブランドのレンズはもとより、中判二眼レフカメラ、35mmレンジファインダー機、一眼レフカメラなど一貫生産で何でも作ったメーカーだ。AIRES(アイレス)という名はスペイン語の「風」または「空気(エア)」という意味からとったとされている。10年の歳月を風のように猛スピードで駆け抜け、ユーザーの要求を全てみたした一台の名機Aires 35-V(写真)を送り出したものの、採算が取れずに命取りとなって倒産したのだ。このカメラにはコーラル(Coral)という美しい名(珊瑚の意味)の交換レンズ群が供給された。中でも高速標準レンズにはフォクトレンダー社の銘玉ノクトン(Nokton)を手本に設計されたSコーラル45mmF1.5や、シュナイダー社のクセノン(Xenon)を手本に設計されたHコーラル45mm F1.9/1.8など、魅力溢れるラインナップが揃っていた。本ブログでは数回にわたりAires 35-Vの高速標準レンズを取り上げる。

参考文献
[1] Camera New Product Report, Aires 35-V, 1958
[2]「アイレスのすべて」~アイレスカメラの歴史~ 萩谷剛 クラシックカメラ専科No.22(朝日ソノラマ)

なお、アイレス35-Vの交換レンズを各種ミラーレス機で使用するためのマウントアダプターが存在する。米国のある個人工房がeBayにソニー用とフジ用の改造品を若干数出しているのだ。この工房はペトリやミランダ、アーガスC44/C3、フトゥーラ、ペンティナ、プラクティナFXなどの交換レンズをミラーレス機で使用できるようにするニッチな改造アダプターを作っており、他にもFastax用やUV Topcor用、Norita66用、M37-M42変換リングなど面白い商品を出している(品質には要注意)。値段はAires 35V--SONY Eアダプターが90ドル(送料別)であった。毎回、若干数のみが出品され、供給量は安定していない。オークションブースに出品がない期間もあるので、そういう時には気長に待つ必要がある。
 

2017/08/15

Novoflex Noflexar 35mm F3.5



ノボフレックス(正式名ノボフレックス精密技術株式会社)といえばオートベローズを考案したドイツのアクセサリーメーカーであるが、マクロ撮影用ベローズの供給に乗じて自社ブランドのレンズも供給していたことがある。今回はユニークな繰り出し機構を持つ同社のマクロ撮影用レンズを一本紹介する。


エクステンションチューブを内蔵した
ノボフレックス社の広角マクロレンズ
NOVOFLEX NOFLEXAR 35mm F3.5(EXAKTA)
同社は写真家で写真機材店のオーナーでもあるカール・ミュラー(Karl Muller)という人物が1948年にドイツのバイエルン州メミンゲンに設立した写真用アクセサリーのメーカーだ[1]。会社立ち上げ時は主にライカやコンタックスに取り付けられるマクロ撮影用ミラーボックスを製造していたが、1951年からはこれ以降の主力製品となるマクロ撮影用ベローズの生産に乗り出している。また、1962年からは製品のラインナップを広げ、ハッセルブラッド用のプリズムビューファインダーやベローズと組み合わせて用いるマクロ撮影用レンズなど、ガラス光学製品も供給するようになっている。同社はメミンゲンを拠点に今もカメラ用アクセサリーの供給を続けており、プロ用高級ベローズに加え、フラッシュマウントなどのスタジオ撮影用機材やミラーレスカメラ用のマウントアダプターに力を入れている[1]。
ノボフレックスの写真用レンズについては他社からOEM供給を受けて発売した製品が幾つかあり、1960年代に一眼レフカメラ用のマクロ撮影レンズNOFLEXAR 35mm F3.5や、レンズヘッドのみの製品でマクロベローズに搭載して用いるNOFLEXAR 105mm F4/F3.5135mm F4.5、MACRO NOFLEXAR 60mm F4などを市場に供給していた。これ以外にも迅速にピント調整のできるスーパーラピッドフォーカシングレンズシステムを搭載した超望遠レンズのNOFLEXARシリーズ(1982年発売)や、シュナイダーのクセナーからOEM供給をうけたアルパ用の望遠レンズNOVOFLEX XENAR 135mm、日本のタムロンから協力を得て出した望遠用ズームレンズ(1986年発売)などがある。
今回紹介するのは、同社が1962年に一眼レフカメラ用(M42/EXAKTA/Nikon Fマウント)として発売したマクロ撮影用レンズのノフレクサー(NOFLEXAR) 35mm F3.5である。このレンズには振り出し式に伸びるエクステンションチューブが内蔵されており、鏡胴前方のフィルター枠の辺りを手で前方に引っ張ると「カチッ」と音を立てながら光学系が前方に出てゆく仕組みになっている。繰り出し量は全部で4段階あり、マクロ撮影の性能が強化される。いっぱいまで繰り出した状態での最大撮影倍率は0.5である。レンズの設計構成は明らかになっていないが、ガラスに光を遠し反斜面の数を数えると、4群4枚(前後群とも2群2枚)のレトロフォーカス型であることがわかる。
このレンズはUV光の透過率が極めて高いことが知られており、UV撮影に好んで使用する愛用者が多い[2]。MFレンズの世界的なマニアでUV撮影の専門家でもあるDr Schmit KlausはこのレンズのUV透過光特性がシュテーブル(Staeble)社のLinegon 3.5/35にとてもよく似ており、供給元はシュテーブル(Linegonと同一)ではないかと推測している[3,4]。
ノボフレックス ノフレクサー:フィルター径49mm, 重量(実測)190g, プリセット絞り, 最大撮影倍率0.5, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 9枚, EXAKTA/M42/Nikon Fマウント対応(本品はEXAKTAマウント), 設計構成 4群4枚レトロフォーカス型





参考文献
[1] NOVOFLEX公式ホームページ
[2] Dr Klaus Schmit, A Study of 50 wide + normal Lenses for UV Photography
[3] Dr Klaus Schmit: Photography of the invisible world
[4] 本レンズがシュテーブルから供給されたと断定的に解説するWEBページが最近目立ち始めているが証拠はない。これらのWEBページはみなWEBページ[3]を根拠にしているが、[3]で与えられているのは推測のみで根拠を示しているわけではない。

入手の経緯
レンズは2015年2月にeBayを介してチェコのカメラメイト(leica-post)から27000円+送料で購入した。オークションの解説は「(A)エクセレントコンディション。使用感は少な目で完全に動作する」とのこと。相場はM42マウントの商品が30000~35000円前後、Exaktaマウントの商品は25000~30000円程度であろう。状態の良いレンズが届いた。ノフレクサーはeBayに常時何本か出ているので入手難易度は高くはない。EXAKTAマウントとM42マウントが大半で、ごくまれにNikon Fマウントの個体も出回ることがある。まぁまぁ売れたレンズなのであろう。

撮影テスト
エクステンションチューブを繰り出さない状態での最短撮影距離は0.3~0.35mであるが、解像力はこのくらいの距離が最良である。ここからエクステンションチューブを前方に繰り出し最短撮影距離を短くしてゆくと、開放では解像力が顕著に落ちる。ただし、フレアは全く出ずピント部は依然として開放からシャープなので、大きく拡大しない限り解像力不足を感じることはない。また、絞り込むほど解像力が上がり、拡大像においても細部を緻密に表現できるようになる。エクステンションチューブを目いっぱいまで操出し最大撮影倍率に至っても画質は驚くほど安定しており、開放時と絞り込んだ時のフレア量に大差はない。この時代のマクロレンズとしては、たいへん優秀な近接撮影力であると思う。発色はノーマルで特定の色にコケる癖はなく、どのような条件でもシャープでスッキリとしたヌケのよい描写だ。グルグルボケや放射ボケは全くでない。ピント部の画質の均一性は高く、開放でも四隅まで良好な水準をキープしている。絞った時のフォーカスシフトが少なく、絞り開放でピントを合わせたのち絞り込んでも、ピントの山の頂上付近にいる。これだけの性能を備えたレンズなのだから、高い技術力を持つ光学メーカーが供給した製品であるに違いない。
F8, sony A7Rii(WB:晴天)

F5.6, sony A7Rii(WB:日陰, iso 2000): 近接域でもフレアが目立つことはなく、四隅までシャープな像が得られる




F11, sony A7Rii(WB: 日陰): エクステンションチューブ4段を全て繰り出した最短撮影距離付近でのショット。さすがに絞ってもこのくらいの解像力だが、シャープネスは依然としてよい
F5.6, sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(AWB)

F5.6, sony A7(AWB) 

F8, sony A7(AWB):これも最短撮影距離。とてもシャープだ









F3.5(開放), sony A7Rii(AWB) 開放でポートレート域の写真も1枚出しておく。フレアは少なくシャープネス、コントラストは充分









F5.6, sony A7(AWB) このレンズはエクステンションリングを出さないまま最短側で撮影するあたりが、画質的に最良だとおもう。中央をクロップしたのが下の写真


ひとつ前の写真のピント部を拡大したもの。解像力はかなり高い







F5.6, sony A7Rii(AWB, ISO6400): ISO感度を6400まで上げているので解像力はない。手持ちによる薄暗い中でのマクロ撮影だが、質感表現はよく出ている。悪条件でもここまで写るのはレンズのみならずカメラのおかげでもある


上段:F3.5(開放)/下段:F8, sony A7Rii(AWB): このレンズの最短撮影距離(4段操出し x0.5倍)における画質の比較。開放でもフレアは少なく、このスケールでは絞り込んだ画との画質的な優劣はわからない。大したレンズだ。ただし、次に示す中央を拡大した写真(下の写真)を見ると、解像力には明らかな差が出ている
前の写真の中央部拡大:上段:F3.5(開放)/下段:F8, sony A7Rii(AWB): 差とは言ってもこの程度で、開放でもフレア感は全くない。解像力(細部の分解能)に差があり、絞り込んだ方は文字表面の質感まで緻密に拾っている