おしらせ

 
イベント案内
オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月3日(日)場所はアクアパーク品川 申込制:定員15名(現在キャンセル待ちとのこと) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

オールドレンズxポートレート写真展2
9月16日(土)―9月18日(月・祝)場所は学芸大前 こちらも関連ワークショップですので、お知らせいたします。詳しくはこちら

オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月23日(土)場所は巾着田 申込制:定員15名(既に申込が続々と入っているそうです。最近、定員オーバーが多いので申込はお早めに) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。


2017/08/16

AIRES Camera Tokyo, CORAL lenses(AIRES 35-V mount) part 0:Prologue


アイレスカメラが1958年に発売した最高級機Aires 35-V。旧西ドイツのフォクトレンダー社がかつて生産したプロミネントを彷彿とさせる、レンズ交換の可能なビハインドシャッター型レンジファインダー機である。シャッターにはこのクラスにしては大型のセイコーMX0番シャッターが搭載された。交換レンズ群には広角で4枚構成のW Coral 35mm F3.2, 6枚構成のH Coral 45mm F1.9とH Coral 45mm F1.8, 7枚構成のS Coral 45mm F1.5, 望遠で5枚構成のTele Coral 100mm F3.5が供給されている[1]
 

アイレスカメラの高速標準レンズ 
part 0 (プロローグ) 
かつて、東京にはアイレス(正式名:アイレス写真機製作所)という名のカメラメーカーが存在した[2]。1950年から1960年の僅か10年間で自社ブランドのレンズはもとより、中判二眼レフカメラ、35mmレンジファインダー機、一眼レフカメラなど、一貫生産で何でも作ったメーカーだ。AIRES(アイレス)という名はスペイン語の「風」または「空気(エア)」という意味からとったとされている。10年の歳月を風のように猛スピードで駆け抜け、ユーザーの要求を全てみたした一台の名機Aires 35-V(写真)を送り出したものの、採算が取れずに命取りとなって倒産したのだ。このカメラにはコーラル(Coral)という美しい名(珊瑚の意味)の交換レンズ群が供給された。中でも高速標準レンズにはフォクトレンダー社の銘玉ノクトン(Nokton)を手本に設計されたSコーラル45mmF1.5や、シュナイダー社のクセノン(Xenon)を手本に設計されたHコーラル45mm F1.9/1.8、珍しいテッサー型広角レンズのWコーラル35mmF3.2など、魅力溢れるラインナップが揃っていた。本ブログでは数回にわたりAires 35-Vの高速標準レンズを取り上げる。
なお、アイレス35-Vの交換レンズを各種ミラーレス機で使用するためのマウントアダプターが存在する。米国のある個人工房がeBayにソニー用とフジ用を若干数出しているのだ。この工房はペトリやミランダ、アーガスC44/C3、フトゥーラ、ペンティナ、プラクティナFXなどの交換レンズをミラーレス機で使用できるようにするニッチなマウントアダプターを作っており、他にもFastax用やUV Topcor用、Norita66用、M37-M42変換リングなど面白い商品を出している。値段はAires 35V--SONY Eアダプターが90ドル(送料別)であった。毎回、若干数のみが出品され、供給量は安定していない。オークションブースに出品がない期間もあるので、そういう時には気長に待つ必要がある。
 
参考文献
[1] Camera New Product Report, Aires 35-V, 1958
[2]「アイレスのすべて」~アイレスカメラの歴史~ 萩谷剛 クラシックカメラ専科No.22(朝日ソノラマ)

2017/08/15

Novoflex Noflexar 35mm F3.5



ノボフレックス(正式名ノボフレックス精密技術株式会社)といえばオートベローズを考案したドイツのアクセサリーメーカーであるが、マクロ撮影用ベローズの供給に乗じて自社ブランドのレンズも供給していたことがある。今回はユニークな繰り出し機構を持つ同社のマクロ撮影用レンズを一本紹介する。


エクステンションチューブを内蔵した
ノボフレックス社の広角マクロレンズ
NOVOFLEX NOFLEXAR 35mm F3.5(EXAKTA)
同社は写真家で写真機材店のオーナーでもあるカール・ミュラー(Karl Muller)という人物が1948年にドイツのバイエルン州メミンゲンに設立した写真用アクセサリーのメーカーだ[1]。会社立ち上げ時は主にライカやコンタックスに取り付けられるマクロ撮影用ミラーボックスを製造していたが、1951年からはこれ以降の主力製品となるマクロ撮影用ベローズの生産に乗り出している。また、1962年からは製品のラインナップを広げ、ハッセルブラッド用のプリズムビューファインダーやベローズと組み合わせて用いるマクロ撮影用レンズなど、ガラス光学製品も供給するようになっている。同社はメミンゲンを拠点に今もカメラ用アクセサリーの供給を続けており、プロ用高級ベローズに加え、フラッシュマウントなどのスタジオ撮影用機材やミラーレスカメラ用のマウントアダプターに力を入れている[1]。
ノボフレックスの写真用レンズについては他社からOEM供給を受けて発売した製品が幾つかあり、1960年代に一眼レフカメラ用のマクロ撮影レンズNOFLEXAR 35mm F3.5や、レンズヘッドのみの製品でマクロベローズに搭載して用いるNOFLEXAR 105mm F4/F3.5135mm F4.5、MACRO NOFLEXAR 60mm F4などを市場に供給していた。これ以外にも迅速にピント調整のできるスーパーラピッドフォーカシングレンズシステムを搭載した超望遠レンズのNOFLEXARシリーズ(1982年発売)や、シュナイダーのクセナーからOEM供給をうけたアルパ用の望遠レンズNOVOFLEX XENAR 135mm、日本のタムロンから協力を得て出した望遠用ズームレンズ(1986年発売)などがある。
今回紹介するのは、同社が1962年に一眼レフカメラ用(M42/EXAKTA/Nikon Fマウント)として発売したマクロ撮影用レンズのノフレクサー(NOFLEXAR) 35mm F3.5である。このレンズには振り出し式に伸びるエクステンションチューブが内蔵されており、鏡胴前方のフィルター枠の辺りを手で前方に引っ張ると「カチッ」と音を立てながら光学系が前方に出てゆく仕組みになっている。繰り出し量は全部で4段階あり、マクロ撮影の性能が強化される。いっぱいまで繰り出した状態での最大撮影倍率は0.5である。レンズの設計構成は明らかになっていないが、ガラスに光を遠し反斜面の数を数えると、4群4枚(前後群とも2群2枚)のレトロフォーカス型であることがわかる。
このレンズはUV光の透過率が極めて高いことが知られており、UV撮影に好んで使用する愛用者が多い[2]。MFレンズの世界的なマニアでUV撮影の専門家でもあるDr Schmit KlausはこのレンズのUV透過光特性がシュテーブル(Staeble)社のLinegon 3.5/35にとてもよく似ており、供給元はシュテーブル(Linegonと同一)ではないかと推測している[3,4]。
ノボフレックス ノフレクサー:フィルター径49mm, 重量(実測)190g, プリセット絞り, 最大撮影倍率0.5, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 9枚, EXAKTA/M42/Nikon Fマウント対応(本品はEXAKTAマウント), 設計構成 4群4枚レトロフォーカス型





参考文献
[1] NOVOFLEX公式ホームページ
[2] Dr Klaus Schmit, A Study of 50 wide + normal Lenses for UV Photography
[3] Dr Klaus Schmit: Photography of the invisible world
[4] 本レンズがシュテーブルから供給されたと断定的に解説するWEBページが最近目立ち始めているが証拠はない。これらのWEBページはみなWEBページ[3]を根拠にしているが、[3]で与えられているのは推測のみで根拠を示しているわけではない。

入手の経緯
レンズは2015年2月にeBayを介してチェコのカメラメイト(leica-post)から27000円+送料で購入した。オークションの解説は「(A)エクセレントコンディション。使用感は少な目で完全に動作する」とのこと。相場はM42マウントの商品が30000~35000円前後、Exaktaマウントの商品は25000~30000円程度であろう。状態の良いレンズが届いた。ノフレクサーはeBayに常時何本か出ているので入手難易度は高くはない。EXAKTAマウントとM42マウントが大半で、ごくまれにNikon Fマウントの個体も出回ることがある。まぁまぁ売れたレンズなのであろう。

撮影テスト
エクステンションチューブを繰り出さない状態での最短撮影距離は0.3~0.35mであるが、解像力はこのくらいの距離が最良である。ここからエクステンションチューブを前方に繰り出し最短撮影距離を短くしてゆくと、開放では解像力が顕著に落ちる。ただし、フレアは全く出ずピント部は依然として開放からシャープなので、大きく拡大しない限り解像力不足を感じることはない。また、絞り込むほど解像力が上がり、拡大像においても細部を緻密に表現できるようになる。エクステンションチューブを目いっぱいまで操出し最大撮影倍率に至っても画質は驚くほど安定しており、開放時と絞り込んだ時のフレア量に大差はない。この時代のマクロレンズとしては、たいへん優秀な近接撮影力であると思う。発色はノーマルで特定の色にコケる癖はなく、どのような条件でもシャープでスッキリとしたヌケのよい描写だ。グルグルボケや放射ボケは全くでない。ピント部の画質の均一性は高く、開放でも四隅まで良好な水準をキープしている。絞った時のフォーカスシフトが少なく、絞り開放でピントを合わせたのち絞り込んでも、ピントの山の頂上付近にいる。これだけの性能を備えたレンズなのだから、高い技術力を持つ光学メーカーが供給した製品であるに違いない。
F8, sony A7Rii(WB:晴天)

F5.6, sony A7Rii(WB:日陰, iso 2000): 近接域でもフレアが目立つことはなく、四隅までシャープな像が得られる




F11, sony A7Rii(WB: 日陰): エクステンションチューブ4段を全て繰り出した最短撮影距離付近でのショット。さすがに絞ってもこのくらいの解像力だが、シャープネスは依然としてよい
F5.6, sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(AWB)

F5.6, sony A7(AWB) 

F8, sony A7(AWB):これも最短撮影距離。とてもシャープだ









F3.5(開放), sony A7Rii(AWB) 開放でポートレート域の写真も1枚出しておく。フレアは少なくシャープネス、コントラストは充分









F5.6, sony A7(AWB) このレンズはエクステンションリングを出さないまま最短側で撮影するあたりが、画質的に最良だとおもう。中央をクロップしたのが下の写真


ひとつ前の写真のピント部を拡大したもの。解像力はかなり高い







F5.6, sony A7Rii(AWB, ISO6400): ISO感度を6400まで上げているので解像力はない。手持ちによる薄暗い中でのマクロ撮影だが、質感表現はよく出ている。悪条件でもここまで写るのはレンズのみならずカメラのおかげでもある


上段:F3.5(開放)/下段:F8, sony A7Rii(AWB): このレンズの最短撮影距離(4段操出し x0.5倍)における画質の比較。開放でもフレアは少なく、このスケールでは絞り込んだ画との画質的な優劣はわからない。大したレンズだ。ただし、次に示す中央を拡大した写真(下の写真)を見ると、解像力には明らかな差が出ている
前の写真の中央部拡大:上段:F3.5(開放)/下段:F8, sony A7Rii(AWB): 差とは言ってもこの程度で、開放でもフレア感は全くない。解像力(細部の分解能)に差があり、絞り込んだ方は文字表面の質感まで緻密に拾っている


2017/08/03

Leitz 22232 x Techart LM-EA7

私は最近テックアート(Techart)のAFアダプターLM-EA7をSony A7Riiにとりつけ、オールドレンズをAF化して撮影を楽しんでいる。40代も半ばになると動体視力が衰え、老眼が始まるなどMFレンズでの撮影が厳しさを増してくる。そんな中、AFアダプターの登場はとても嬉しい知らせとなった。今回はAFアダプターLM-EA7との組み合わせて使用できる、おススメのマウントアダプターを1本紹介したい
ライカ純正のM42-LMアダプター。無限遠もok!
Leitz 22232 M42-Leicina M adapter x Techart LM-EA7
ライカが自社のカメラにM42レンズをマウントするための純正アダプターを出していた!。そんなことあり得るのだろうかと耳を疑いたくなる話だが、実はホントのことで、製品名はLeitz 22232である。このアダプターはライキナスーパー(Leicina Super)というMマウント(厳密にはライキナMマウント)の8㎜ムービーカメラにM42レンズを装着するためのアクセサリーとして、ライツが1970年代に供給していたものだ。ライキナのマウント部はライカMマウントと同一であるがフランジバックは0.1mm短く、このアダプターでM42レンズをライカのスチルカメラに装着しても、無限遠のフォーカスをギリギリのところで拾うことができない。しかし、0.1mmはわずか紙一重分なので、この程度ならTechartのLM-EA7はもちろんのこと、オーバーインフ気味に作られている中国製アダプターとの組み合わせの多くで、無限遠のフォーカスを問題なく拾える。このアダプター、実は使えるアイテムなのだ。
Leitz 22232 M42-LM(Leica M) ADAPTER: 重量(実測)50g, レンズ側 M42x1mm(Praktica/Pentax thread), カメラ側 Leica Mマウント, Leicina Super(8mm movie camera)用, 鏡胴内は内面反射塗料が塗布され、遮光線が切ってあり、光の反射を抑える仕様になっている。ドイツ版ebay にて99ユーロ+送料で入手した



私が所持しているレンズ資産の中でM42レンズは大きな勢力なので、M42-LMアダプターはAFアダプターの次に入手しなくてはいけない必須アイテムなのだが、現在市場で手に入る製品を見回すと中国製ブランドのKiponがLM-EA7に正式対応したアダプターを出している。日本製のrayqualブランドは工作精度の抜群に良いアダプターであるが、LM-EA7への対応は不明で、ユーザーからの報告も今のところ見当たらない。そうした中でrayqualに決めようか検討していたところ、今回のアダプターの存在を知り、面白そうなので入手することにしたのだ。
実はLM-EA7に組み合わせるアダプターを選ぶ際に注意しなければならないことが一つあり、モーターカバーへの干渉である。LM-EA7はレンズ側にモーターカバーが飛び出しているため、鏡胴径の太いマウントアダプターではこの部分に引っかかってマウントすることができないのだ。鏡胴径の小さな細身のアダプターなら何ら問題のないことではあるが、何でもよいというわけではないので、事前に対応をよく調べる必要がある。
今回手に入れたLeitz 22232は鏡胴が細身なうえライツブランドなので造りがよく、工作精度もたぶんよい。鏡胴内にはまともな反射防止塗料が使われており、安価なアダプターを用いるよりもハレーションの発生量は少ない。LM-EA7との組み合わせにおいてもガタつきは全くない。とてもおススメのアイテムだ。ebayでの購入額は99ユーロ+送料と高級アダプターと変わらない額で手に入った。相場は不明だがドイツ版eBayには自分が手にいれた個体以外に4~5個出ており、値段は100~250 ユーロ程度であった。
マニアやプロがアダプターの工作精度に拘るのは、サードパーティーのアダプターを介することによる光軸からの偏芯を極力抑えたいためで、これはレンズ本来の力を維持するために重要なことなのだ。工作精度の高い日本製アダプターが支持されるのはこうした理由からによる。ただし、工作精度が一般的な中国製アダプターの10倍であることが実写においてどれだけ意味のある効果を生むのか、ここについてはもっと踏み込んだ検証結果をアダプターメーカーや関連の専門紙が示してゆく必要がある。単なる気休めや幻想ではないということを示さなければ、本物思考のマニア達の心はいずれ離れて行く。日本のアダプター製品が世界のみならず、国内市場においても安価な中国製アダプターに飲み込まれてしまうのは、まさにその時なのであろう。私は日本人なので、そうなってほしくはない。アドバンテージはとても小さいのかもしれないが、それでもアドバンテージを示すことには幻想を打ち破る大きな意味があるのだと思う。これは重要なこと。だって、みんなメード・イン・ジャパン好きでしょ?

2017/08/01

試写記録:Kodak Ektar


試写記録:Eastman Kodak EKTAR 47mm F2(改L39)
イーストマン・コダック エクター47mm F2
今回は知人のコダック・エクター(Kodak Ektar)だ。故障したレチナIIから救出し、ヘリコイドに乗せライカスクリューマウントに変換する改造をお手伝したので、引き渡し時に許可をもらい、その場で少しだけ試写させてもらった。エクター 47mmには米国版コピーライカのカードン用に供給されたモデルもあり市場価格はとても高いが、今回のレチナII用は求めやすい価格で手に入る。光学系はカードン用と全く同じ設計で、構成は4群6枚のガウスタイプだ。
続いてレンズの描写だが、近接撮影時は開放からシャープでスッキリと写るので花や物撮りには申し分ない。一方、ポートレート撮影から遠景撮影になるとややフレア(コマ収差)がみられ柔らかい描写傾向で、軟調気味にもなる。ただし、シャープネスを著しく損ねるほどではなく、人を撮るにはとてもよさそうな品のある柔らかさだ。狙ってこうしたのか定かではないが、撮る対象に合わせ都合よく描写傾向が変化するので、とても使い出のあるレンズといえる。もちろん、絞ると近接から遠景までカリッとシャープな描写で、人気があるのもよくわかる。グルグルボケや放射ボケが目立つことはほとんどない。

F2(開放),sony A7Eii(WB: 日陰)  このくらいの近距離だと、開放でもクッキリとシャープに写る

F2(開放),sony A7Eii(WB: 日陰)  このくらい被写体まで距離が離れると、開放ではフレア(コマ収差)が目立ち、ハイライト部がモヤモヤとする。階調描写も軟調気味だ



F2(開放),sony A7Eii(WB: 日陰) 




F2(開放),sony A7Eii(WB: 日陰)

F2(開放),sony A7Eii(WB: 日陰) おっと、白い被写体ならば、近接でもフレアが纏うみたいだ。グルグルボケはあまり目立たない








今回は時間の都合により試写記録のみなので、ここまで。機会があればコダックについて、いろいろと書いてみたい。まぁ、機会があればだが。
Kodak Ektar 47mm F2 for RETINA II: M42-L39ヘリコイド(12-17mm)に搭載し、カメラ側を汎用性の高いライカスクリューマウント(L39)に変換している。ライカの距離計には連動しないがアダプターを介し、各種ミラーレス機での使用が可能だ

2017/07/24

Steinheil München Macro-Quinon 55mm F1.9 M42 ( Rev.2 )



散り際の鮮やかさ、
シュタインハイル最後の輝き
Steinheil München Macro-Quinon 55mm F1.9(Rev.2)

過去の記事を更新しました。Rev.2になっています。こちらからお入りください。

I updated an old article.  Click HERE and Enter.




2017/07/17

C.P. GOERZ Berlin DOGMAR 60mm F4.5 (Rev.2)

ゲルツ社のレンズといえばE.フーフ(Emil von Hoegh)が1892年に設計した名玉ダゴール(DAGOR)が定番中の定番だが、このドグマー(DOGMAR)もポートレート用レンズとして忘れてはならない存在であろう。ドグマーには後に「空気レンズ」とよばれる画期的なレンズユニットが導入されており、このユニットの助けを借りることで諸収差を合理的に補正することが可能になっている。レンズを設計したのは同社のショッケとアバンで1913年の事。ショッケは後にマクロスイターで有名なケルン社(スイス)の光学部門を立ち上げる人物である[0]。

歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part 3
しっとりとしたハレーションが光輝く

軟調系オールドレンズ
C.P. GOERZ Berlin DOGMAR 60mm F4.5 (改定Rev.2)
空気レンズ(Luft Linsen)とはレンズをより明るくするために導入されてきた設計法の一つで、2枚のレンズの間に狭い空気間隔を設け、本来は何も無いはずの空間部分を屈折率1のレンズに見立てることで、球面収差を効果的に補正するというものである。この方法は1953年に登場するズミクロン(Leitz社)に採用されたことで広く知られるようになり、日本製の大口径レンズにも積極的に導入された。空気レンズのアイデア自体は19世紀末頃に登場しており、独学でレンズの設計法を身に付けゲルツ社を成功に導いたE.フーフ(Emil von Hoegh)も、1898年に明るいアナスティグマート(Doppel-Anastigmat Series IB F4.5)を開発する過程の中で空気レンズのアイデアに到達している[1]。フーフの設計したSeries IBは1903年に同社のW.ショッケ(Walther Zschokke)とF.アバン(Franz Urban)による再設計を経て、ガラス硝材に改良を施したツェロー(Celor)へと発展した[2]。ショッケらはツェローの改良を続け、レンズの前後群を焦点距離の異なる準対称にすることで、遠方撮影時に問題となっていたコマ収差の抑制にも成功、1913年にポートレート撮影への適性を高めたドグマー(Dogmar) F4.5を完成させている[3]。
レンズの設計は下図に示すようなダイアリート型とよばれる形態で、僅か4枚の少ない構成ながらも諸収差を十分に補正できるテッサーのような合理性を持つ。ただし、屈折力を稼ぎにくい性質のため、口径比は明るくてもf4.5あたりが限界であった。ガラスと空気の境界面が8面とこの時代のレンズにしては多く、ハレーションが出やすいのは、このレンズの大きな特徴でもある。古いレンズの描写にみられる独特の「味」や「におい」。現代のレンズが高性能なコーティングを纏うことで、かえって失ってしまったものを、このレンズは呼び覚ましてくれる。
Celor(左)とDogmar(右)の構成図トレーススケッチ(上が前方): 両レンズは一見全く同じに見えるが、Celorは前群と後群が同一構成の対称型であるのに対し、Dogmarは僅かに焦点距離の異なる準対称型である。いくつかの書籍にCELOR/DOGMAR型レンズの設計手順のヒントが掲載されているので、簡単にまとめておこう。まずはじめに正の凸レンズと負の凹レンズを狭い空気層を挟んで配置し、これら光学ユニットの外殻の曲率を非点収差が0になるように与える。次に、凸レンズのガラス屈折率を凹レンズのそれよりも大きくすることで、光学ユニットに新色消しレンズと同等の作用を持たせ軸上色収差を補正する。こうしてできる1対の光学ユニットを絞りを挟んで対称に配置し、歪曲と倍率色収差、コマ収差(メリジオナル成分)を自動補正する。続いて、空気レンズの発散作用を利用し球面収差を補正する(Celorが完成)。この設計の最大のポイントは新色消しレンズの効果を持ちながら同時に球面収差が容易に補正できるところにある。本来は硝材の選択に頼り一筋縄にはいかないところが、空気レンズの導入により容易に補正できるようになっているのだ。ただし、光学ユニットが空気層を持つ対称型レンズの場合には遠方でサジタルコマが補正されないという弱点があるので、ポートレート用や風景用のレンズを作る場合には前群と後群を準対称にすることで、これを改善させる。CELOR(図・左)からDOGMAR(図・右)が生み出された過程がこれにあたる。前後群を準対称にすることでコマフレアを抑制する方法は、1897年に登場したツァイスのプラナー(初期型)で既に実践されている








C.P. GOERZ Berlin DOGMAR 60mm F4.5: 絞り 13枚構成, 設計構成 4群4枚ダイアリート型, 定格イメージフォーマットは中版645, ノンコートレンズ, レンズのマウントネジは34mm径でおそらくネジピッチは1mmだが、中国製ステップダウンリングのファイジなネジがこれを受け入れてくれたので、M42ヘリコイド(11mm-17mm)を間に挟みカメラ側をライカスクリュー(L39)に変換して使用することにした




製品ラインナップ
ドグマーはツェロー(1904年に登場)とともに1915年の米国ゲルツ社のカタログに掲載され、新型レンズとして紹介されている[3]。カタログでは60mmから300mmまで焦点距離の異なる12のラインナップ2+3/8インチ(6cm)、3インチ(約7.5cm)、4インチ(約10cm)、5インチ(約13cm)、5+1/4インチ (13.3cm)、6インチ(約15cm)、6+1/2インチ(16.5cm)、7インチ(約18cm) 、8+1/4インチ(21cm)、9+1/2インチ(24cm) 、10+3/4インチ(27cm)、12インチ(約30cm) (F5.5)を確認することができる。ツェローがスタジオ撮影や製版・コピーなどに最適と記され、近接域を中心にポートレート域までの近距離撮影に向いているのに対し、ドグマーはグラフィックアートや風景撮影に最適であると記されており、近接域から遠距離までの広い範囲をカバーできるレンズとなっている。

参考文献等
[0] 「写真レンズの歴史」ルドルフ・キングスレーク著 朝日ソノラマ
[1]  Doppel-Anastigmat Ser. Ibのレンズ特許:Pat. DE109283 (1898)
[2]  Celorのレンズ特許: US Pat.745550  Celorでは凸レンズに用いられていた高価なバリウム・クラウン硝子が低コストで気泡が少なく光の透過率の高いケイ酸塩クラウン硝子へと置き換えられ、コスト的にも性能的にも前進した
[3] 米国GOERZ社レンズカタログ(1915):新型レンズDOGMARについての解説がある。
 
入手の経緯
日頃お世話になっている工房の職人さんへのプレゼントとして、友人3人と共同で購入したのが今回紹介する金色レンズである。DOGMARのような古典鏡玉が活躍した時代は大判カメラが主流であったため、60mmもの短い焦点距離のレンズはステレオカメラ等の特殊用途向けに少量のみ生産された。このくらい短い焦点距離になると現代のデジタルカメラでも無理なく使うことができ魅力的であるが、市場に出回る機会は極希で決まった相場もない。本品は2017年4月にeBayを介して米国のセラーから落札した個体である。届いたレンズはガラスの状態が非常によいものの、経年のため絞り羽の重なる部分がやや浮き上がってしまう持病があり、この隙間が僅かに光漏れを起こすことがわかった。古いレンズなので交換用の部品もなく、実用に支障がなければ、このまま使うのが良い。このような問題は経年を経たレンズ一本一本が持つ個性みたいなもので、それぞれの個体でしか撮れない独特の描写をつくりだしている。

撮影テスト
ドグマー60mmの定格イメージフォーマットは中版645辺りなので、一回り小さなフルサイズ機にマウントしても、画質的には無理なく使用することができる。レンズを真夏日に用いたところ、開放にてハイライト部分の周りに美しいハレーションが発生し、しっとり感の漂う素晴らしい写真効果が得られた。ピント部は開放からスッキリとしていてヌケがよく、像は四隅まで安定している。背後のボケも四隅まで安定しており、フルサイズ機での使用時による不完全な検証ではあるが、グルグルボケや放射ボケは全く見られなかった。解像力の高いレンズではないが、軟調であることに加えフレアが全く出ないこともあり、ピント部はどことなく密度感を感じさせる美しい仕上がりとなる。不思議な魅力を持ったレンズである。少し絞った辺りからスポットライトのような帯状のハレーションが発生することがあったが、これはこのレンズの絞りにやや持病があるためで、この個体にしかない個性となっている。
軟調系オールドレンズの良さを200%堪能できる素晴らしい描写力、そして、ドグマ―というどこか宗教めいた妖しいネーミングは、このレンズの大きな魅力であろう。自分用にもう1本欲しくなってしまった。
F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  すっ・・・。

F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  すばらしい!



約F6.3(少し絞る), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター) 


F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  このレンズの写りには解像力では言い表せない不思議な臨場感がある





F6.3, Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター) 光の捉え方がとてもよい美しいレンズだ
F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  

2017/07/16

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 5: Petri C.C 55mm F1.7


  
ペトリカメラの高速標準レンズ part 5
ソフトで鮮やかな発色の新感覚レンズ
ボケ味はやっぱりペトリだ
PETRI CAMERA Co., Petri C.C Auto 55mm F1.7
今回取り上げるペトリ 55mm F1.7は、これまで取り上げた同社のシャープな標準レンズとは毛色の異なるモデルで、開放ではピント部をフレアが覆い、滲みを伴う柔らかい描写を特徴としている。ペトリカメラが終末期に送り出した製品なだけに「最盛期をやや過ぎたボクサー。パンチは重いが動きにキレがない」みたいなイメージが脳裏を過り、「どうしたんだペトリ!」と心配にもなったが、写真をよく観察すると解像力は高く、発色は濃厚でパンチ力があるなど、平凡なレンズではない。コントラストも良く、ペトリらしい歯応えのある豪快なボケ味も確かに受け継がれている。この手のソフトな描写傾向はスペックを重視する昭和のカメラオヤジから、さぞ酷評されたに違いない。しかし、デジカメが普及しカメラ女子の人口が一定の割合を占めるなど、時代は変わった。緻密で繊細な画作りを得意とする人やファンタジックな写真を撮る人、特にカメラ女子の中にはこの手の描写を好む人が結構な数いると思う。収差レンズとして再評価されてもよい製品ではないだろうか。
ペトリ C.C Auto 55mm F1.7は評価の高かったC.C Auto 55mm F1.8の後継モデルとして1974年に登場し、ペトリカメラが倒産する1977年までの会社終息期に一眼レフカメラのFTE(1973年発売)とFA-1(1975年発売)に搭載するレンズとして市場供給された[1]。この頃の日本の中小メーカーは自社のシェアを伸ばすため、他社より僅かでも高いスペックの製品を供給することに固執したが、ペトリカメラもその例外ではなく、このレンズはメーカー各社が主軸レンズの口径比をF1.8からF1.7にシフトさせようとする潮流の中で生み出された。レンズ構成は先代のF1.8のモデルと同じ4群6枚のガウスタイプであるが[2]、この時代のF1.7クラスのレンズといえばPentx-M、Hexanon AR、Auto Chinon、ROKKOR-PFなどにみられるように、第2レンズと第3レンズの間に空気層(空気レンズ)を設け5群6枚構成とするのが定石で、収差を抑え込むには4群6枚構成では役不足であった。このレンズの独特な描写は構成を変えずに設計限界の壁を越え、F1.7の領域に踏み込んでしまった代償とも受け取れる。いや、これも計画の内だったのであろうか?

参考
[1]  ペトリ@wiki:ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編
[2] 光を当て反射面の数を数えると明らかに4群6枚構成になっている

入手の経緯
レンズは2017年2月にヤフオクにてペトリFTにマウントされた状態で売られていたものを入手した。オークションの解説は「ミラーが脱落している。シャッターは降りない。シャッター幕が詰まっている。レンズはカビ・クモリなく綺麗な状態。現状渡し」とのこと。写真で見る限りレンズは綺麗である。ジャンク品であることが宣言されていたが、レンズを道連れにしていると判断、2000円で入札したところ1510円で落札できた。数日後、拭き傷やホコリの少ない綺麗なレンズが届いた。カメラの方はやはりシャッターが壊れており、巻き上げもスカスカなので修理は不可能と判断、こちらはマウント部分を取り出してアダプター作りの材料にすることにした。
PETRI C.C 55mm F1.7: 最短撮影距離 0.6m, 絞り羽根 6枚構成, フィルター径 52mm, 光学系 4群6枚ガウス型, 絞り F1.7-F16, ペトリブリーチロックマウント。なお、レンズのガラス表面には同社が独自にコンビネーション・コーティング(C.C)と呼んでいるシングルコーティングが蒸着されている

 
撮影テスト
レンズの描写の特徴はソフトでありながらも、コントラストや発色が良好なレベルを維持している点である。開放ではコマ収差に由来するモヤモヤとしたフレアがピント部を覆い、柔らかい描写傾向となる。その分だけシャープネスは低下気味でトーンも軽めだが、濁りはなくコントラストや発色は良好な水準を維持している。解像力は依然として同社のF1.8と同等の高い水準にあり、柔らかさのなかに緻密さの宿す線の細い写りとなっている。絞ると急にヌケが良くなりシャープネスとコントラストが更に向上する。背後のボケにはペトリならではのザワザワとした硬さがあり、形を留めながら質感のみを潰したような絵画のような味付けがこのレンズにも継承されている。グルグルボケや2線ボケが目立つことはない。ガウス型レンズ成熟期の1970年代にこんな趣味性の高いレンズを出したペトリカメラには、何か別の狙いがあったのだろうか。



Olumpus PEN E-P3で写真
まずは知り合いのカメラ女子(写真家のemaさん)による写真作例。彼女の作風はこのレンズの性格によくマッチしている。色味はいじってるとのこと。
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)

F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)




f1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)

SONY A7Riiでの作例
続いて私がフルサイズフォーマットで撮った写真。

F1.7(開放), SONY A7Rii(WB:Auto) まずは近接での写真をみてみよう。開放でも画質は安定している。ボケ味にはペトリらしさがでており・・・

F1.7(開放), SONY A7Rii(WB:Auto) ・・・形をとどめた妖しいボケ味を醸し出している















F1.7(開放) SONY A7Rii(WB:Auto) ヘリコイドアダプターを用いてレンズの規格を超える近接域を撮っているが、シャープネスはポートレート撮影時と大差ない。この距離を開放でとるというのは無茶なことだが、それなりの画質が維持されているところをみると、接写にも強いレンズのようだ
F1.7(開放), sony A7RII(WB:電球1) 今度は室内で電球と外光のミックス。開放ではフレアがかかりソフトな描写傾向だが、しっかりと解像している
F8, sony A7(WB:曇天) 絞ると急にヌケが良くなり、シャープネスやコントラストが更に向上する。過剰補正型の変化系レンズだ
EE Auto 55mm F1.7とC.C Auto 55mm F1.8の描写比較
最後にEE Auto 55mm F1.7とC.C Auto 55mm F1.8(後期型)の開放描写の比較をおこなった[下の写真]。シャッタースピードやISO値などの撮影条件を同じ値に固定し、ピントは中央の樹木のど真中中で拾っている。カメラはSONY A7を用いた。両者の大きな差はフレア量である。F1.8(写真下段)はスッキリとヌケがよく、そのぶんシャープネスが高い。一方、F1.7(写真上段)はフレアに覆われホワッとした柔らかい写りになり、シャドー部が浮き気味でシャープネスが低下している。ただし、緑の鮮やかさに大差はなく、コントラストや発色がF1.8に比べ悪くなっているという印象はない。むしろ緑はF1.7の方が鮮やかにさえ見える。解像力はほぼ互角で、背後のボケ味がザワザワとしている様子もよく似ているが、F1.7の方が口径比が少し明るい分だけ、ざわつき加減が若干激しい。
C.C Auto 55mm F1.7(上段) と C.C Auto 55mm F1.8 (下段)の開放描写の比較。F1.8の方がフレア量が大幅に少なくシャープネスは明らかに高い。ただし、ソフトなF1.7のほうもコントラストはそれほど悪いものではなく、発色は依然として良好である。緑の鮮やかさはF1.7の方が上かな