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2018/07/08

KMZ Jupiter-9 85mm F2 for Cinema(AKS-4M mount)


Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース



20世紀を代表する明るいレンズと言えば、真っ先に思い浮かぶのはガウスタイプとゾナータイプです。両者はレンズの設計構成のみならず描写の性格も大きく異なり、設計構成が描写の方向性を決定づける一大要因であることを私たちに教えてくれます。ガウスタイプの特徴がキレのあるフォーカス、線が細く繊細で緻密なピント部、破綻気味のボケであるのに対し、線が太く力強いピント部、安定感のある端正で優雅なボケを提供できるゾナータイプは、ガウスタイプとは異なる性格の持ち主でした。今回はロシア製ゾナー型レンズの鉄板、ジュピター・ナインをご紹介します。
 
クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 5
レンズ選びはセンス!
シネ・ジュピターはいかがですか
クラスノゴルスク機械工場(KMZ) JUPITER-9 85mm F2 for AKS-4M cinema movie camera

カールツァイスの名玉SONNAR 8.5cm F2のクローンコピーとして誕生し、美しい描写、豪華な設計、高いコストパブォーマンスから今も絶大な人気を誇るジュピター9(Jupiter-9/ ユピテル9)。ただし、今回取り上げるのは、ただのJupiter-9ではありません。シネマ用に設計された特別仕様のモデルで、カールツァイスのアリフレックス版ゾナーやコンタレックス版ゾナーと同格のプロフェッショナル向けに供給された製品です。
ご存知かもしれませんが、ゾナーとはカール・ツァイスのレンズ設計士ルードビッヒ・ベルテレが戦前に設計した大口径レンズの銘玉です。日本やロシアでは戦後にゾナーを手本とする同一構成のレンズがたくさん作られ、ロシアではこの種のレンズがジュピター(ユピテル)の製品名で市場供給されました。ジュピターは1948年に既に登場しており、モスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)の393番プラントにて、はじめはZK(Sonnar Krasnogorsk)というコードネームで開発されました。このモデルの製造には第二次世界大戦の戦後賠償としてロシアがドイツ国内から持ち出したガラス硝材が使われ、ツァイスのイエーナ工場から召喚されたマイスター達の指導のもとで製造されました。ZKはレンズの血肉であるガラスまでもがオリジナルと同一の、いわゆるクローン・ゾナーだったのです。その後、ドイツ産ガラスの枯渇にともなう措置として、ロシアの国産硝材に切り替えるための再設計が行われ、現在のジュピターシリーズの原型が開発されました。ジュピターシリーズを設計したのは1948年にKMZ光学設計局の局長に就任したM.D.Moltsevというレンズ設計士で、Moltsevはジュピターシリーズの他にもテッサータイプのIndustar-22を設計した人物として知られています。

Jupiter-9の構成図。左は今回のシネマ用モデルで右はスチル撮影用に設計されたよくあるモデル。シネマ用の方が構成面の曲率が緩いため、高性能なガラス硝材が用いられているのでしょう




ジュピター9は1950年にKMZから登場し、まずはLeicaスクリュー互換のZorki(ゾルキー)マウントと旧Contaxマウント互換のKiev(キエフ)マウントの2種のマウント規格で市場供給されました。翌1951年には一眼レフカメラのZenit(ゼニット)用のモデルが、やはりKMZから登場します。初期のモデルはどれもシルバーカラーのアルミ鏡胴でした。レンジファインダー機向けに造られたゾルキー用とキエフ用は最短撮影距離が1.15mでしたが、一眼レフカメラのゼニット用では光学系が同一のまま0.8mまで短縮されました。KMZは1950~1957年にジュピター9を複数回モデルチェンジしていますが、1958年にレンズの生産をLZOS(ルトカリノ光学ガラス工場)とウクライナのARSENAL(アーセナル)工場に引き継ぎ、映画用カメラなど新モデルを投入する場合を除いて、基本的にはジュピター9を造らなくなっています。
LZOSからは1958-1988年にZorkiマウントとKievマウントの2種のモデルが生産され、その後、対応マウントのラインナップはM39マウント(1960年代)、シネマ用AKS-4Mマウント(1960年代~1980年代)、1970年代からはM42マウントにまで拡張されています。1980年代半ばからガラス表面にマルチコーティングを施したモデルが従来の単層Pコーティング(Pはprosvetlenijeの意)を施したモデルに混じって造られるようになり、その割合が少しづす増えていきました。一方、Arsenalからは1958-1963年にKievマウントのモデルが生産され、その後は1970年代にKiev-10/15マウントのモデルなどが生産されました。なお、1963年からは各社ともジュピター9のカラーバリエーションにブラックを追加し、その後、1968年にシルバーカラー(写真・下)は製造中止となりました。

Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース


今回紹介するのは35mm映画用カメラのAKS-4M(AKC-4M)に搭載する交換レンズとしてKMZから供給されたシネマ用のモデルです。レンズの構成は上図に示す通りで、スチル用からの転用ではなくシネマ用として設計されています。スチル用に比べ個々の構成面の曲率が緩く、はじめから収差を補正しやすい構造となっています。イメージサークルは広く作られており、フルサイズセンサーを余裕でカバーしています。

入手の経緯
レンズは2018年4月にeBayを介してロシアのオールドレンズを専門に扱うセラーから265ドル+送料の即決価格にて購入しました。商品はAKS-4Mマウントの状態で売られており、「新品・オールドストック」との触れ込みで「未使用状態のレンズで、カビ、キズ、クモリ、バルサム剥離、陥没等はなく、コーティングもOKだ。絞りの開閉は問題なく、絞りリングとヘリコイドリングはスムーズに回転する」とのこと。届いた品は前玉に僅かに拭き傷がある程度で、前玉に傷の多いジュピターにしては良好なコンディションでした。M52-M42ヘリコイドチューブ25-55mmに搭載し、ソニーEマウントに改造して使用することにしました。改造のための部品代を含めるとレンズには総額315ドル程度とスチル用モデルの1.5倍程度の予算がかかりました。
ブラックカラーモデル:重量[実測]282g(ヘリコイド等改造部位を除く正味の重量), 絞り羽 15枚構成, フィルタ径 49mm,  映画用カメラのAKS-4用, 設計構成 3群7枚(ゾナータイプ)
シルバーカラーのモデル:重量[実測] 281g, 他の仕様もラックモデルと全く同一


撮影テスト
ゾナータイプのレンズは解像力ではなく階調描写力で勝負するレンズです。Jupiter-9も開放から線の太い力強い描写を特徴としており、なだらかなトーンと安定感のあるボケが優雅な雰囲気を作り出してくれます。細部まで写りすぎない描写はポートレート撮影に大きなアドバンテージをもたらしてくれるはずです。コントラストは良好で発色の良いレンズですが、絞っても階調が硬くなることはありません。
今回取り上げるシネマ用のモデルと通常の良くあるスチル用モデル(ノンコート)の違いを試写し比較したところ、シアン成分の階調特性に差が見られました。日光で撮影するとスチル用モデルではここが不安定になりやすく、温調気味に色転びします。また、光量がやや少ない条件では青みが強くなる傾向がありました。発色に関してはシネマ用モデルのほうが安定しておりノーマルです。プロ用モデルの方が描写が安定しているのは理にかなっていますが、オールドレンズとしての面白みは、これとは別問題です。両モデルの解像力とボケ味は同等でしたので、どちらを選ぶかは好みの問題となります。スチル用のほうが発色が転びやすい分だけ意外性に富んだ面白い写真が得られるのかもしれません。
さて、シネ用の長玉はスチル用の同等レンズよりもハレーションが出やすく、軟らかい描写傾向のレンズが多くあり、ジュピター9も例外ではありません。レンズによっては後玉の後方にハレーションカッターを設置しているシネレンズがありますが、スチル用の同等品にこれはなく、ハレーションも出にくい性質になっています。この傾向は多くのシネレンズに普遍的にみられる性質のようですが、どうしてなのか不明です。

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日陰) シネマ用レンズなんだなと、感じさせる質感表現です



 
2018年夏の鎌倉、海へ・・・。


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)







sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)
sony A7R2(WB:日光)


F2(開放) sony A7R2(WB:曇天)









2017/09/25

LZOS TAIR-41M 50mm F2 (Kiev-16U mount)




ロシアの16mmシネマムービー用レンズ part 1
独特な設計構成から繰り出される
四角の破綻と緩やかな光量落ちが
中央の被写体をドラマチックに演出する
リトカリノ光学ガラス工場(LZOS) TAIR-41M 50mm F2

レンズの設計構成は描写の性格を決める重要なファクターなので、構成が特殊なレンズに出会うと俄然興味が沸いてきます。ロシアのリトカリノ光学ガラス工場(LZOS)がソビエト時代の1960年代中期から1980年代中期にかけてシネマムービーカメラのKiev-16U用交換レンズとして供給したタイール41M(TAIR-41M)は、まさにそういう類のレンズです。このレンズには1960年代から1981年まで生産されたゼブラ柄の前期モデルと、1982年から少なくとも1984年まで生産されていた黒鏡胴の後期モデルの2種が存在します[1]。設計の基本構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの派生として開発されました[3,4]。軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを開発することが目的でしたが、終戦後はシネマ用望遠レンズの基本構成としても積極的に採用されています。既存のレンズのどの構成にも似ていないロシア発祥の設計形態の一つといえますが、こんなヘンテコな設計でも実によく写ります。不思議だなぁ。
TAIR-41M 50mm F2の構成図(左が前方で右がカメラ側):文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)。構成は3群4枚(タイ―ル型)で、絞りは2群目と3群目の間に入る。何かに似ていると思っていたが、わかった。土偶だ。同種の構成を持つタイールシリーズのレンズとしては、他にもTAIR-11 135mm F2.8、OKC2-75-1 75mm F2.8, , OKS1-200-1 200mm F2.8,  TAIR-3S 300mm F4.5, OKS1-300-1 300mm F3.5がある。レンズ名の由来はわし座の一等星のアル・タイル(Al-tair)。ロシアのレンズは光学系の種類ごとに星の名称(Sirius, Orion, (Sirius, Orion, Helios, Jupiterなど)をあてる習慣があり、このレンズの名称も伝統的な命名法から来ている[3]
タイ―ル41Mは広角レンズのMIR-11M 2/12と標準レンズのVEGA-7-1 2/20とともに3本セットで市場に流通していることが多く、3本をKIEV-16Uのターレット式マウントに同時に搭載することができました。マウント形状は特殊なM32スクリューネジ(ネジピッチ0.5mm)ですが、マウントアダプター(ロシア製と中国製)の市販品がeBayで流通しており、ミラーレス機で使用可能です。イメージサークルはビルトイン・フードの装着時にマイクロフォーサーズをギリギリでカバーできる広さがあり、フードを外すとAPS-Cをギリギリでカバーできます。レンズ本体の相場はeBayで50ドルからと焦点距離50mmのシネマ用レンズとしては破格の値段なので、これで写りが面白ければ言うことなし。
 
入手の経緯
レンズはeBayに比較的数多く出ており、送料込みで50ドル程度からと、50mmのシネマ用レンズとしては求めやすい価格です。アダプターは中国製とロシア製の市販品(マイクロフォーサーズ用、Nikon 1用、EOS-M用)がeBayに30~45ドル辺りの値段で出ていました。
ゼブラ柄の前期モデルは2017年8月にウクライナのレンズセラーから 即決価格45ドル(フリーシッピング)で落札購入しました。オークションの記載は「レンズはとても良いコンディションで清掃およびテストをおこなった。ガラスは綺麗でカビはない。絞りリングはスムーズに回り、フォーカスリングもスムーズかつ正確だ」とのこと。届いたレンズはガラスに油が付着しており、汚れがひどく、絞りリングも緩んでいたので、自分でオーバーホールする事になりました。あ~面倒くさい。
続いて黒鏡胴の後期モデルは2017年9月にウクライナの個人セラーから50ドル(送料込み) の即決価格で購入した。オークションの記載は「ガラスはクリーンでカビはない。フォーカスリングと絞りリングはスムーズで、全ての制御機構が健全です。外観の状態は写真で見てください」とのこと。届いたレンズは前玉にごく薄い吹き傷がパラパラみられましたが、実用品としては悪くないコンディションでした。

参考文献
[1] 古いものは1967年製のシリアル番号を持つ個体、新しいものは1984年製の個体を確認している。また、1981年製のゼブラ柄モデルと1982年製の黒鏡胴モデルを確認したので、この間にモデルチェンジがあったのでしょう
[2] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970
[3] REDUSER.NET: Ilya O."Tair-11 lens diagram/scheme and appearance"(2016 Nov.)
[4] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)

LZOS Tair-41M 50mm F2( 前期モデル): 絞り羽根 13枚構成, フィルター径 フードの先端 35.5mm/34mm(フードの根元), 最短撮影距離 0.7m, 絞り F2-F22, 16mmシネマムービーカメラ用Kiev-16Uマウント(M32x0.5スクリュー, フランジバック31mm), 設計構成 3群4枚(Tair type)


LZOS Tair-41M 50mm F2(後期モデル): 絞り羽根 13枚構成, フィルター径 35.5mm(フード先端・中継)/ 34mm(フード根元), 最短撮影距離 0.7m, 絞り F2-F22, 16mmシネマムービーカメラ用Kiev-16Uマウント(M32x0.5スクリュー, フランジバック31mm), 設計構成 3群4枚(Tair type)




SONY Eマウントへの改造例
タイ―ル41M(後期型)に元々ついていたヘリコイドでは最短撮影距離が長いので、撤去し高伸長なフォーカッシングヘリコイドに乗せ換えミラーレス機で使用することにしました。はじめにSONY Eマウント化の改造例を提示しましょう。

まず鏡胴の後群側を手で押さえ絞り冠のある前群側を回すと、上の写真のように鏡胴が真っ二つに分離できます。前側の溝にはM42-M39ステップアップリングがピッタリと収まりますので(下の写真・中央)、このままエポキシ接着剤を用いてステップアップリングをガッチリと固めます。この時、ネジの頭が少し出るので、ここに適当な操出量のM42フォーカッシング・ヘリコイドを装着します。私はeBayで手に入れたM42-M39ヘリコイド(繰り出し範囲が変則的な22.5-48.5mmのタイプ)を用いました。最後にフォーカッシングヘリコイドのカメラ側にM39-M42ステップアップリングとM42-Sony Eスリムアダプターを装着し、Sony Eマウントに変換して完成です

[改造に用いた部品]
タイ―ル41M後期モデル
エポキシ接着剤 ホームセンターで金属用を購入
M39-M42ステップアップリング x2個 アマゾンで175円(送料無料)
M39-M42フォーカッシングヘリコイド 最短が22.5mmのタイプ eBayで3000円程度
M42-NEX(sony E)スリムアダプター アマゾンで540円(送料無料)



改造後の様子。ヘリコイドが高伸長タイプ(22.5mm-48.5mm)なので、最短側の撮影距離は改造前の0.7mから0.25mまで短くなった






SONY Eマウントで使用する場合にはイメージサークルの関係からビルトインフードを外すことが多くなります。上記の改造を行うと絞りの開閉はフードをつまんで回すことになりますが、フードの撤去により絞り開閉ができなくってしまいます。これでは困るので、ビルトインフードが付いていたフィルターネジに34mm-37mmのステップアップリングを装着します。ステップアップリングの更に先にネジ径37mmの標準レンズ用フードを装着すれば、絞りリングの取り回しは更によくなります。

マイクロフォーサイズマウントとフジXマウントへの改造例
マイクロフォーサーズマウントへの変換とフジXマウントへの変換例はよく似ているので、いっぺんに解説します。

[改造に用いた部品]
タイ―ル41M後期モデル
エポキシ接着剤 金属用をホームセンターで購入
(1)M42フォーカッシングヘリコイド (最短17mmのタイプ) eBayで2500円程度
(2)39mm-52mmステップアップリング
(3)M39-M42ステップアップリング
(4)マクロリバースリング(フィルター側のネジ径が52mmのもの)、フジXマウント用またはマイクロフォーサーズ(PEN)用のいずれか

(1)-(4)の4つの部品を組み合わせ、下の写真・右のようなヘリコイドを制作します。M42フォーカシングヘリコイド(1)のメスネジ(レンズマウント側)を39-42mmステップアップリング(2)とM39-M52ステップアップリング(3)を用いて52mmフィルターのメスネジに変換します。つづいてリバースリング(4)を用いて、その先をカメラマウントに変換します。これで完成ですが、最後にフォーカッシングヘリコイドのM42マウントネジの頭にエポキシ接着剤を塗布しておきます。
この改造の工夫点はリバースリングを利用しているところと、M42フォーカッシングヘリコイドが逆さ付けになっているところです。奇抜なアイデア(工夫点)だと思っています。正攻法でゆくと17mmのヘリコイドではフランジ調整が困難ですが、リバースアダプターを使うことで、この問題を簡単に解決しています。







続いて、下の写真・左のようにTAIR-41Mの鏡胴の後群側を手で押さえ前群側を回すと、後群と前群に真っ二つに分離できます。前群側(写真・中央)の溝にはM42フォーカッシングヘリコイドのオスネジ側(エポキシ接着剤を塗布した部分)がピタリとハマりますので、エポキシ接着でガッチリと固めて同化させます。無限遠のフォーカスが拾えることを確認し完成です。固める際には絞り指標が上にくるように注意しましょう。
後期型は前期型(ゼブラ柄)と絞りの機構が少し異なり、ビルトインフードのフィルター枠を回して絞りの開閉をおこないます。しかし、フジのミラーレス機で使用する場合にはケラレ予防のため、ビルトインフードを外すことがあります。絞りの開閉を助けるためフードを外す場合には34-37mmステップアップリングを装着することをお勧めします。この上から汎用品のフード(ネジ径37mm)を装着すれば、取り回しは更によくなります。














影テスト
開放ではややフレアが生じ適度に柔らかい描写となりますが、シネマ用レンズらしく中心部は高解像で密度感に富み、デジカメの広い撮影フォーマットでは像面湾曲が目立つためか立体感にも富んでいます。一段絞るとフレアが完全に消失しスッキリとヌケが良くなるとともに、たいへんシャープな描写へと変わります。コントラストは高く、発色にも鮮やかさあります。ただし、逆光にはきわめて弱く、ハレーションの影響によりコントラストが落ち発色も濁りますので、適切な深いフードを装着することをおすすめします。被写体の背後では距離によっては弱いグルグルボケが発生します。写真の四隅で玉ボケが細長く潰れてゆく効果(強い口径食)と相まって、なかなか妖しいボケ味を醸し出しています。反対に前方では放射ボケが目立つこともあり、四隅で強いフレアを纏います。歪曲収差は巻き状でした。ピント部中央の高い描写性能はまさにシネマ用。使いでのあるレンズだと思います。
 



TAIR-41M(後期型)x SONY A7R2: APS-C mode  アスペクト比 16:9
ビルトインフードを装着するとAPS-C機ではトイカメラのような光量落ちを楽しむことができます。光量の落ち方がとてもなだらかなので、敢えてフードを装着しますと中央を際立たせる素晴らしい効果が得られます。フードを外しますと光量落ちはかなり緩和されますが、深く絞り込む際には四隅がケラれます。
TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C mode, AWB)  発色は鮮やかでコントラストも良好




TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C mode, WB:晴天)  マクロでもよく写る

TAIR-41M後期型@F2(開放 without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C crop mode, AWB)  はっきりとしたグルグルボケにはならない背後では像の流れがみられる。
TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天) 被写体の前方では放射ボケが発生する事もあります。強いフレアを纏っていますので、うまく利用することで素敵な描写になります

TAIR-41M後期型@F2(開放, installed Built-in Hood フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天) 優れた描写力だ。ポートレート域では適当な距離で背後にグルグルボケが出る。ビルトインフードを装着してみたが、APS-Cフォーマットでは、いい塩梅で周辺光量落ちがみられた。光量落ちが好きならばフードはこのままでよし。避けたければ外せばよい

TAIR-41M後期型@F5.6(without Built-in Hood フード外し) sony A7R2(APS-C crop mode, AWB) 







TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着) sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天)




TAIR-41M後期型@F2(開放, Built-in Hood installed フード装着sony A7R2(APS-C crop mode, Aspect ratio 16:9, WB:晴天)


フィルター径が34mなので、レンズの先端にステップアップリング 34-37mm(セパレート式フードの場合は中継部に35.5-37mm)などを取り付けると、絞りの開閉が容易になるうえサードパーティのフードやキャップ等を付けやすい

TAIR-41M  x  Olympus PEN
16mmムービーシネマフォーマットのレンズですので、ミラーレスカメラで用いる場合にはAPS-C機よりもマイクロフォーサーズ機で用いる方が安定した画質を得ることができます。ビルトインフードは付けっぱなしでもケラレが問題になることはありません。タイ―ル41Mの前期モデルを所有している写真家のemaさん(Oo.ema.oO)に撮影したばかりの写真を提供していただきました。
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着



TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着
TAIR-41M前期型@Olympus PEN E-P5(Oo.ema.oO)、ビルトインフード装着

2016/12/09

LZOS INDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8 (M42 mount) Rev.2


きらきらと輝く六芒星(ろくぼうせい)
カメラ女子の間で人気沸騰中の星ボケレンズ
LZOS INDUSTAR 61L/Z-MC 50mm/F2.8 (M42 mount)
いまカメラ女子の間でこのレンズがブームとなっており、ブログのアクセス解析にも、その過熱ぶりがハッキリとあらわれている。ロシア(旧ソビエト連邦)のLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)が1960年代から2005年頃まで製造したIndustar (インダスター) 61 L/Zである。このレンズはアウトフォーカス部の点光源が星型の形状にボケる、いわゆる「星ボケレンズ」として知られている[文献1]。
去る10月のある日、私はJR山手線のシートに腰かけ、東京駅から上野駅を目指していた。気が付くと目の前に若い2人のカメラ女子が立ち、何やらインダスターの話題になっていた。しばらく耳を傾けていると・・・

「A: ねぇ、メール見た?例の星ボケが出るヤツ(レンズ)なんだけど。」
「B: みたよ。インダスターでしょ?でも、あれってフィルターでも同じことできるんじゃないの?」
「A: うんそうなんだけど、やっぱフィルターとは効果が全然違うんだよねぇ~」
「B: そうなんだ。どこかで試せるといいけど」
「A:ネットにはいっぱい写真出てるから参考になるとおもうよ。スパイラルっていうブログみた?」
「B: あぁ。みたみた。マニアのブログでしょ。なんか難しい事がいっぱい書いてあったわ(←spiral補足:偏差値上げてね)」
「A: ヤフオクに出てるけど、1万円くらいからあるみたい。でもやっぱり現物を見ないと、状態はわからないわ。取引も怖いし。店で試せるといいんだけどね。10月8日の代官山は行ける?」
「B: 即売会だっけ?(←spiral補足:恐らく北村写真機店の体験即売会のことでしょう)。ちょっと予定が入ってるんだよね。友達と映画。何時からやってるの?」

おおよそ、こんな内容のやり取りであった。レンズが少し気になりヤフオクで相場を検索してみると、中古美品が18000~25000万円程度の額で取引されている。ちなみに6年前~1年前の相場は10000~14000円程度で安定していたので、レンズの相場が上昇したのはごく最近になってからのことだ。あるショップの店員によると、レンズを購入するのは主にカメラ女子なのだとか。今になってカメラ女子達がザワつきはじめたのは、紛れもなく写真家・山本まりこさんが9月に出した著書「オールドレンズ撮り方ブック」が発端であろう[文献2]。本ブログもフルサイズ機の普及に合わせ、過去のブログエントリーを刷新している最中なので、これはいい機会である。黒船の放つ波にのり、このレンズを再び取り上げてみることにした。

インダスター61L/Zのルーツは、ロシアの光学研究を統括するGOI(Gosudarstvennyy Opticheskiy InstituteまたはVavilov State Optical Instituteでもある)という研究機関が1958年から1960年まで少量のみ生産したプロトタイプレンズのIndustar-61 5.2cm f2.8(Zorki-M39 mount)である[文献3-5]。レンズを設計したのはG.スリュサレフ(G.G.Sliusarev)とW.ソコロフ(W.Sokolov)という名のエンジニアで、1958年に正のレンズエレメントに希土類のランタンを含む新種光学ガラスSTK-6を用いることで、それまでのインダスターシリーズに比べ、光学性能を飛躍的に高めたとされている。Industar-61は設計の古いFED-2用Industar-26M 50mm F2.8(1955年登場, Zenit-M39マウント)の後継製品として1962年に登場している[文献5]。この頃のIndustar-61は主にFED(ハリコフ機械工場)とMMZ(ミンスク機械工場)が製造し、焦点距離52mmや53mmなどのモデルが供給されていたが、1964年頃からはLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)がレンズの生産に参入し、焦点距離を50mmとするIndustar-61Lを生産するようになった。
Industar 61L/Zの光学系(文献4からのトレーススケッチ): 左が前玉で右がカメラ側である。構成は3群4枚のテッサー型で、肉厚ガラスが用いられているのが特徴である。ランタン系の新種ガラスSTK-6が導入され正エレメントの屈折力が旧来からのガラスの倍にまで向上、ペッツバール和と色収差の同時補正が可能になり、F2.8の口径比が無理なく実現されている
Industarというレンズの名は1929年にロシアで始まった工業化5か年計画のIndustrizationから来ており、これにテッサータイプのレンズで共通して用いられる接尾語の"-AR"をつけてIndustarとなったそうである。61はロシア製レンズの中で用いられる通し番号で、テッサータイプの61番目の製品であることを意味している。
1960年代後半にはレンズをZenit-M39/M42マウントの一眼レフカメラに適合させたLZOS製Industar 61L/Z 50mm F2.8が登場し、この頃から絞り羽を閉じたときの形状が六芒星になった。レンズ名の末尾に付いている頭文字Lはガラスに用いられているランタンを差し、ZはZenitカメラ用を意味しているとのこと[文献6]。現在の市場に出回っている製品は大半がM42マウントであるが、比較的少量ながらZenit-M39マウントの個体も流通している。
Industar 61L/Zはガラス面に用いられているコーティングの種類に応じ、3種類のモデルに大別することができる。1つめは初期の1960年代から1970年代に製造されたモデルで、ガラス面には単層コーティングが施されていた。一方で1980年代初頭からはマゼンダ色のマルチコーティングが施されるようになっている。ただし、1980年代後期に製造された一部の個体からはアンバー系のコーティングが施された変則的なモデルもみつかる。Industar 61L/Zがロシアでいつまで生産されていたのか正確なところは定かではないが、市場に出回る製品個体のシリアル番号からは、少なくとも2005年まで生産されていたことが明らかになっている。
 
参考文献
  • 文献1 「OLD LENS PARADISE」 澤村徹著 和田高広監修 翔泳社(2008)
  • 文献2 「山本まりこのオールドレンズ撮り方ブック」 山本まりこ著 玄光社(2016)
  • 文献3 GOI lens catalogue 1963
  • 文献4 A. F. Yakovlev Catalog The objectives: photographic, movie, projection, reproduction, for the magnifying apparatuses, Vol. 1(1970) ロシア製レンズが全て網羅されているカタログ資料
  • 文献5 SovietCams.com
  • 文献6 レンズに付属した取り扱い説明書
入手の経緯
ロシアのカメラ屋から新品(オールドストック)を99ドル(送料込み)で購入した。レンズには純正のプラスティックケースとシリアル番号付きのレシート、ロシア語で書かれたマニュアルが付属していた。このセラーは2004年製の新品をかなりの数保有しているようであった。インダスター61L/Zは絞り羽に油シミの出ている個体が大半であるが、今回入手した2004年製の個体は比較的新しいためか油染みが全くみられなかった。レンズはヤフオクの転売屋が中古品を数多く取り扱っており、流通量も豊富である。ヤフオクでの相場は中古美品が18000~20000円程度、海外では中古美品が6000円~8000円、新品が8000円~10000円程度で取引されている。国内市場で新品はなかなか出ないようだが、出れば20000円~25000円あたりの値が付くのであろう。人気が過熱気味の日本だけの相場なので、現在は送料を加味しても海外から入手したほうがお得であることは間違いない。
最短撮影距離:30cm, 絞り機構 プリセット式,  焦点距離 50mm, 絞り値 F2.8-F16, 撮影倍率1:約3.5, フィルター径 49mm, 重量(実測):212g, 設計構成 3群4枚テッサー型
撮影テスト
50mmの焦点距離を考えると星ボケを効果的に出せるのは被写体に近づいて接写を行う時のみに限定される。撮影方法はバブルボケの時と全く同じで、まずはじめにピカピカ光る光源をみつけ、フォーカスリングを回してボケ具合を決定する。ちなみに星型にボケるのは絞りを少し絞った時である。続いてピント部を飾るメインの被写体を見つけピントを合わせる。このとき被写体へのピント合わせはフォーカスリングを用いるのでなく、手でカメラを前後させて行うのがポイントである。こうすれば一度決定した背後のボケ具合に大きな変化はない。
昼間の撮影は夜間のイルミネーション撮影よりもテクニックが求められる。星ボケを効果的に発生させるには太陽光の反射を利用するわけだが、肝心なのは太陽に対して半逆光の条件で撮影することである。カメラの露出補正は+1EV程度オーバーに設定しておいたほうが、星ボケがクッキリと写るのでおススメである。あと、今回は人に見せられるような作例が見当たらなかったものの、前ボケを利用するのもよい。
レンズはシャープな描写で知られるテッサータイプである。開放でもスッキリとぬけたクリアな像が得られ、解像力こそ平凡だが、鮮やかな発色とメリハリのある高いコントラストを特徴としている。ボケは四隅まで安定しており、グルグルボケや放射ボケは出ない。同じF2.8のテッサー型レンズでも本家ツァイスのテッサーやフォクトレンダーのカラースコパーなどは背後に僅かにグルグルボケがみられるが、このレンズに関しては四隅までボケの乱れが一切みられない。ピント部の画質は四隅まで安定しており、像面も平らで平面性は高いが、そのぶん立体感には乏しい。ゴーストやハレーションは逆光時でも全くと言ってよいほどでない。F2.8のテッサータイプとしては、かなり優秀なレンズである。
F5.6, sony A7(AWB)
F5.6, sony A7(AWB): 

F5.6, sony A7(WB:電球)

F5.6, sony A7(WB:白色電球)