おしらせ


ラベル Fujita Opt. の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Fujita Opt. の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2010/02/26

Fujita JUPLEN 35mm/F2.5 (M42) 藤田光学工業


OEMブランド第一弾
1957年登場。国産初の一眼レフカメラ用広角レンズ

 日本で初めて35mm一眼レフカメラが発売されたのは1952年(昭和27年)のことで、旭光学(現ペンタックス/HOYA)が市販化したアサヒフレックスI 型である。しかし、発売当初は交換レンズのラインナップに広角レンズが存在しなかった。
 一眼レフカメラ用の広角レンズは1950年にレトロフォーカスと名付けられた新しい設計によって実現可能になり、フランスの光学機器メーカーANGENIEUX(アンジェニュー)が世界で初めて広角レンズ(35mm/F2.5)を市販化した。旧東ドイツからは1952年にカールツァイス・イエナが同じ設計に基づくFLEKTOGON 35mm/F2.8を発売した。日本ではレトロフォーカス型広角レンズの開発が遅れ、アンジェニューによる市販化から7年経った後にようやく最初の国産品が現れた。1957年から藤田光学工業(株)が米国への輸出向け商品として製造したJuplen 35mm/F2.5である。
 同社は1956年にFUJITA 66という名の中判一眼レフカメラ(6x6cm判)を発売し注目されたメーカーだ。1967年5月の記録によると、このカメラはアメリカ・カナダ・フィンランド・スウェーデン・スイスなど世界30カ国へ年間12000台以上を輸出していた。それでも生産が間に合わず、受注の半分の量だったという。1957年からはM42マウント、Argus Cレンジファインダー、エキザクタ、アサヒフレックスなど幾つかのマウントに対応するレンズを生産した。レンズのラインナップは単焦点レンズだけで35mm/F2.5から400mm/F5.5まで9種類あったという。製造した自社ブランドにはFujita, Fujitar, Kalimar, and Kaligarなどがある。これらのレンズは北米を中心に様々なブランド名でOEM供給され、バイヤーズブランドにはOptinar, Peerotar, Soligor, Accura/Accurar, Taika Terragon, Gamma Terragonなどがある。
 藤田光学工業は1958年から国内でもJUPLENと同一の製品をFujitarのブランド名で発売した。鏡胴のサイズはAngenieuxやFlektogonよりも大幅にコンパクトであるが重量はほぼ同じなので、手に持った時の感触は予想以上にズシリと重い。絞りはカメラとの連携を一切おこなわないプリセット機構が採用されている。フジタ製レンズのプリセット機構はハッセルブラッドのCレンズに似ており、絞りリングの側面にあるボタンを押してあらかじめセットした絞り値を記憶しておくという仕組みになっている。開放絞り値をF2.5という半端な数値にしたのはAngenieux 35mm/2.5を意識したのであろうか。対応マウントにはM42, エキザクタ, アリフレックスなどがある。国産品としては珍しいゼブラ柄のデザインを採用し、オールメタルの存在感ある鏡胴が外観面の特徴だ。
 APS-Cサイズのセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラが主流となった今現在、人の目に近い画角を持ち、使いやすさと携帯性を両立させた焦点距離35mmの準広角レンズの存在意義は、ますます重要になっている。JUPLENはカメラ王国の日本が初めて市販化した一眼レフカメラ用広角レンズの第一号という位置づけにある記念すべき製品なのだ。


焦点距離/絞り値:35mm/F2.5--F22, 最短撮影距離: 48cm, フィルター径: 49mm, 重量(実測)232g,  カメラとの連携を一切おこなわないプリセット絞りなのでマウント部に絞り連動ピンは出ていない。絞りリングの側面から突きだしたボタンは絞りリングのストッパーとして働く。JUPLENと銘打たれたオリジナル・フロントキャップはたいへん個性的だ

純正の皮ケースが付属していた。前玉周りの名板にあるH.Cのイニシャルは何を意味するのであろうか?

★入手の経緯
 eBayを介し米国コネチカットの業者から2010年2月7日に落札購入した。レンズの状態については「とてもとてもクリーンなガラス」とあるのみで詳しくはなかったが、掲載されていた商品の写真が鮮明であり、出品者に対して事前に絞りリング等の機械動作が軽快であることの確認をとっておいたので、安心して入札できた。本品は入札の締め切り10時間前に57㌦の値をつけていた。値動きがあったのは1分前で一気に100㌦まで跳ね上がり、10秒前には137㌦まで上昇した。私は170㌦で自動入札を設定しておいたので難なく落札できた。送料35㌦込みの値段でも172㌦(約15700円)。 届いた品は状態の良い品であった。

★試写テスト:うーん。これぞ癖玉だ
JUPLEN 35mmを使ってみた感想は下記の通り。

●発色はクラシックレンズらしく淡泊・・・淡くて薄く、味わい深い。暖色系が強めに出る
●開放絞り付近ではソフトな結像になる。シャープネスは低い
●ボケは粗く乱れ気味。近接撮影時においてはアウトフォーカス部の結像が激しく崩れることがある
●絞り開放で撮影するとリングボケや二線ボケなど輪郭を強調するタイプのボケが強く発生し、撮影シーンによっては目障りになる。球面収差の補正が過剰気味のようだ

良くも悪くも古いレンズの特徴が強く表れ、現代のレンズとは異質の描写だ。国産初の広角レンズというだけあり収差の補正には改良の余地がたっぷり残っている。癖玉といってしまえばそれまでだが、そのおかげで個性的な面白いレンズに仕上がっている。

F2.5(左)/ F4(右): 開放絞りは結像がかなりソフトになる。コントラストは低く暗部に締まりが全くないため、この様にゆる~い雰囲気になる。ボケ味には滑らかさがない

こちらも開放絞りF2.5(上)とF4(下)における比較。ピント面は中央部レバーの根本辺りにとっている。開放絞りでは結像が甘く、ハイライト部がポワーンと輝いている

F4 暖色系(黄色)がやや強めのようだ。緑の草の葉や背景が現物よりも黄色っぽく、かつ若干薄め。花の紫色は現物の方がもっと青っぽい。最短撮影距離での撮影の場合、シーンによっては背景のボケ味が粗くガサガサと乱れる

F2.5(上段)/F4(下段) こちらも近接撮影。開放絞りではアウトフォーカス部の結像が滑らかさを欠いた目障りな乱れ方を示す

リングボケや二線ボケが出やすいので開放絞りの付近では球面収差の補正が過剰になるように思える

F2.5 このレンズの場合、接写をしない限りアウトフォーカス部の乱れは小さいので、思い切って絞りを開き、このレンズが本来持っている柔らかいボケ味を引き出すのもよい

F5.6  いずれにしても1~2段絞っておけば全く問題のないレンズだ

★撮影環境: EOS Kiss x3 + Fujita JUPLEN 35/2.5 + PENTACON Hood(径49mm)

PENTACONのフードがまるで純正フードであるかのように良く似合う

F2.5 38歳の誕生日を迎えたSPIRALを妻がJUPLENでパシャリ。またも内緒で新しいレンズを購入した事に妻は全く気付いていない
 
 開放絞りでの悪い描写ばかり指摘したが、シーン選びさえ間違えなければ開放絞りでも何ら問題はない。癖玉と言い切ってレンズのせいにしてしまうのではなく、撮影者がレンズの性質をきちんと把握し適切に使用することで、レンズの個性を最大限に発揮してやれば、レンズはカメラマンの意図に必ず応えてくれる。
 JUPLENの良さは何といっても独特なデザインであろう。こんなのを一眼レフカメラに付けていたら、誰だって「おおっ、何だアレ」と振り返る。生産された数が少なく希少価値が高いため、最近はFujitaブランドのレンズを集める収集家も現れてきた。JUPLENはタレント的な要素をもつ魅力的なレンズである。