おしらせ

 
イベント案内
オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月3日(日)場所はアクアパーク品川 申込制:定員15名(間もなく定員オーバーとなりキャンセル待ちに入るそうです) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

オールドレンズxポートレート写真展2
9月16日(土)―9月18日(月・祝)場所は学芸大前 こちらも関連ワークショップですので、お知らせいたします。詳しくはこちら

オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月23日(土)場所は巾着田 申込制:定員15名(既に申込が続々と入っているそうです。最近、定員オーバーが多いので申込はお早めに) 詳しくはこちら
スタッフとして参加予定です。


2017/07/24

Steinheil München Macro-Quinon 55mm F1.9 M42 ( Rev.2 )



散り際の鮮やかさ、
シュタインハイル最後の輝き
Steinheil München Macro-Quinon 55mm F1.9(Rev.2)

過去の記事を更新しました。Rev.2になっています。こちらからお入りください。

I updated an old article.  Click HERE and Enter.




2017/07/17

C.P. GOERZ Berlin DOGMAR 60mm F4.5 (Rev.2)

ゲルツ社のレンズといえばE.フーフ(Emil von Hoegh)が1892年に設計した名玉ダゴール(DAGOR)が定番中の定番だが、このドグマー(DOGMAR)もポートレート用レンズとして忘れてはならない存在であろう。ドグマーには後に「空気レンズ」とよばれる画期的なレンズユニットが導入されており、このユニットの助けを借りることで諸収差を合理的に補正することが可能になっている。レンズを設計したのは同社のショッケとアバンで1913年の事。ショッケは後にマクロスイターで有名なケルン社(スイス)の光学部門を立ち上げる人物である[0]。

歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part 3
しっとりとしたハレーションが光輝く

軟調系オールドレンズ
C.P. GOERZ Berlin DOGMAR 60mm F4.5 (改定Rev.2)
空気レンズ(Luft Linsen)とはレンズをより明るくするために導入されてきた設計法の一つで、2枚のレンズの間に狭い空気間隔を設け、本来は何も無いはずの空間部分を屈折率1のレンズに見立てることで、球面収差を効果的に補正するというものである。この方法は1953年に登場するズミクロン(Leitz社)に採用されたことで広く知られるようになり、日本製の大口径レンズにも積極的に導入された。空気レンズのアイデア自体は19世紀末頃に登場しており、独学でレンズの設計法を身に付けゲルツ社を成功に導いたE.フーフ(Emil von Hoegh)も、1898年に明るいアナスティグマート(Doppel-Anastigmat Series IB F4.5)を開発する過程の中で空気レンズのアイデアに到達している[1]。フーフの設計したSeries IBは1903年に同社のW.ショッケ(Walther Zschokke)とF.アバン(Franz Urban)による再設計を経て、ガラス硝材に改良を施したツェロー(Celor)へと発展した[2]。ショッケらはツェローの改良を続け、レンズの前後群を焦点距離の異なる準対称にすることで、遠方撮影時に問題となっていたコマ収差の抑制にも成功、1913年にポートレート撮影への適性を高めたドグマー(Dogmar) F4.5を完成させている[3]。
レンズの設計は下図に示すようなダイアリート型とよばれる形態で、僅か4枚の少ない構成ながらも諸収差を十分に補正できるテッサーのような合理性を持つ。ただし、屈折力を稼ぎにくい性質のため、口径比は明るくてもf4.5あたりが限界であった。ガラスと空気の境界面が8面とこの時代のレンズにしては多く、ハレーションが出やすいのは、このレンズの大きな特徴でもある。古いレンズの描写にみられる独特の「味」や「におい」。現代のレンズが高性能なコーティングを纏うことで、かえって失ってしまったものを、このレンズは呼び覚ましてくれる。
Celor(左)とDogmar(右)の構成図トレーススケッチ(上が前方): 両レンズは一見全く同じに見えるが、Celorは前群と後群が同一構成の対称型であるのに対し、Dogmarは僅かに焦点距離の異なる準対称型である。いくつかの書籍にCELOR/DOGMAR型レンズの設計手順のヒントが掲載されているので、簡単にまとめておこう。まずはじめに正の凸レンズと負の凹レンズを狭い空気層を挟んで配置し、これら光学ユニットの外殻の曲率を非点収差が0になるように与える。次に、凸レンズのガラス屈折率を凹レンズのそれよりも大きくすることで、光学ユニットに新色消しレンズと同等の作用を持たせ軸上色収差を補正する。こうしてできる1対の光学ユニットを絞りを挟んで対称に配置し、歪曲と倍率色収差、コマ収差(メリジオナル成分)を自動補正する。続いて、空気レンズの発散作用を利用し球面収差を補正する(Celorが完成)。この設計の最大のポイントは新色消しレンズの効果を持ちながら同時に球面収差が容易に補正できるところにある。本来は硝材の選択に頼り一筋縄にはいかないところが、空気レンズの導入により容易に補正できるようになっているのだ。ただし、光学ユニットが空気層を持つ対称型レンズの場合には遠方でサジタルコマが補正されないという弱点があるので、ポートレート用や風景用のレンズを作る場合には前群と後群を準対称にすることで、これを改善させる。CELOR(図・左)からDOGMAR(図・右)が生み出された過程がこれにあたる。前後群を準対称にすることでコマフレアを抑制する方法は、1897年に登場したツァイスのプラナー(初期型)で既に実践されている








C.P. GOERZ Berlin DOGMAR 60mm F4.5: 絞り 13枚構成, 設計構成 4群4枚ダイアリート型, 定格イメージフォーマットは中版645, ノンコートレンズ, レンズのマウントネジは34mm径でおそらくネジピッチは1mmだが、中国製ステップダウンリングのファイジなネジがこれを受け入れてくれたので、M42ヘリコイド(11mm-17mm)を間に挟みカメラ側をライカスクリュー(L39)に変換して使用することにした




製品ラインナップ
ドグマーはツェロー(1904年に登場)とともに1915年の米国ゲルツ社のカタログに掲載され、新型レンズとして紹介されている[3]。カタログでは60mmから300mmまで焦点距離の異なる12のラインナップ2+3/8インチ(6cm)、3インチ(約7.5cm)、4インチ(約10cm)、5インチ(約13cm)、5+1/4インチ (13.3cm)、6インチ(約15cm)、6+1/2インチ(16.5cm)、7インチ(約18cm) 、8+1/4インチ(21cm)、9+1/2インチ(24cm) 、10+3/4インチ(27cm)、12インチ(約30cm) (F5.5)を確認することができる。ツェローがスタジオ撮影や製版・コピーなどに最適と記され、近接域を中心にポートレート域までの近距離撮影に向いているのに対し、ドグマーはグラフィックアートや風景撮影に最適であると記されており、近接域から遠距離までの広い範囲をカバーできるレンズとなっている。

参考文献等
[0] 「写真レンズの歴史」ルドルフ・キングスレーク著 朝日ソノラマ
[1]  Doppel-Anastigmat Ser. Ibのレンズ特許:Pat. DE109283 (1898)
[2]  Celorのレンズ特許: US Pat.745550  Celorでは凸レンズに用いられていた高価なバリウム・クラウン硝子が低コストで気泡が少なく光の透過率の高いケイ酸塩クラウン硝子へと置き換えられ、コスト的にも性能的にも前進した
[3] 米国GOERZ社レンズカタログ(1915):新型レンズDOGMARについての解説がある。
 
入手の経緯
日頃お世話になっている工房の職人さんへのプレゼントとして、友人3人と共同で購入したのが今回紹介する金色レンズである。DOGMARのような古典鏡玉が活躍した時代は大判カメラが主流であったため、60mmもの短い焦点距離のレンズはステレオカメラ等の特殊用途向けに少量のみ生産された。このくらい短い焦点距離になると現代のデジタルカメラでも無理なく使うことができ魅力的であるが、市場に出回る機会は極希で決まった相場もない。本品は2017年4月にeBayを介して米国のセラーから落札した個体である。届いたレンズはガラスの状態が非常によいものの、経年のため絞り羽の重なる部分がやや浮き上がってしまう持病があり、この隙間が僅かに光漏れを起こすことがわかった。古いレンズなので交換用の部品もなく、実用に支障がなければ、このまま使うのが良い。このような問題は経年を経たレンズ一本一本が持つ個性みたいなもので、それぞれの個体でしか撮れない独特の描写をつくりだしている。

撮影テスト
ドグマー60mmの定格イメージフォーマットは中版645辺りなので、一回り小さなフルサイズ機にマウントしても、画質的には無理なく使用することができる。レンズを真夏日に用いたところ、開放にてハイライト部分の周りに美しいハレーションが発生し、しっとり感の漂う素晴らしい写真効果が得られた。ピント部は開放からスッキリとしていてヌケがよく、像は四隅まで安定している。背後のボケも四隅まで安定しており、フルサイズ機での使用時による不完全な検証ではあるが、グルグルボケや放射ボケは全く見られなかった。解像力の高いレンズではないが、軟調であることに加えフレアが全く出ないこともあり、ピント部はどことなく密度感を感じさせる美しい仕上がりとなる。不思議な魅力を持ったレンズである。少し絞った辺りからスポットライトのような帯状のハレーションが発生することがあったが、これはこのレンズの絞りにやや持病があるためで、この個体にしかない個性となっている。
軟調系オールドレンズの良さを200%堪能できる素晴らしい描写力、そして、ドグマ―というどこか宗教めいた妖しいネーミングは、このレンズの大きな魅力であろう。自分用にもう1本欲しくなってしまった。
F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  すっ・・・。

F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  すばらしい!



約F6.3(少し絞る), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター) 


F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  このレンズの写りには解像力では言い表せない不思議な臨場感がある





F6.3, Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター) 光の捉え方がとてもよい美しいレンズだ
F4.5(開放), Sony A7Rii(WB:日陰) + Techart LM-EA7(AFアダプター)  

2017/07/16

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 5: Petri C.C 55mm F1.7


  
ペトリカメラの高速標準レンズ part 5
ソフトで鮮やかな発色の新感覚レンズ
ボケ味はやっぱりペトリだ
PETRI CAMERA Co., Petri C.C Auto 55mm F1.7
今回取り上げるペトリ 55mm F1.7は、これまで取り上げた同社のシャープな標準レンズとは毛色の異なるモデルで、開放ではピント部をフレアが覆い、滲みを伴う柔らかい描写を特徴としている。ペトリカメラが終末期に送り出した製品なだけに「最盛期をやや過ぎたボクサー。パンチは重いが動きにキレがない」みたいなイメージが脳裏を過り、「どうしたんだペトリ!」と心配にもなったが、写真をよく観察すると解像力は高く、発色は濃厚でパンチ力があるなど、平凡なレンズではない。コントラストも良く、ペトリらしい歯応えのある豪快なボケ味も確かに受け継がれている。この手のソフトな描写傾向はスペックを重視する昭和のカメラオヤジから、さぞ酷評されたに違いない。しかし、デジカメが普及しカメラ女子の人口が一定の割合を占めるなど、時代は変わった。緻密で繊細な画作りを得意とする人やファンタジックな写真を撮る人、特にカメラ女子の中にはこの手の描写を好む人が結構な数いると思う。収差レンズとして再評価されてもよい製品ではないだろうか。
ペトリ C.C Auto 55mm F1.7は評価の高かったC.C Auto 55mm F1.8の後継モデルとして1974年に登場し、ペトリカメラが倒産する1977年までの会社終息期に一眼レフカメラのFTE(1973年発売)とFA-1(1975年発売)に搭載するレンズとして市場供給された[1]。この頃の日本の中小メーカーは自社のシェアを伸ばすため、他社より僅かでも高いスペックの製品を供給することに固執したが、ペトリカメラもその例外ではなく、このレンズはメーカー各社が主軸レンズの口径比をF1.8からF1.7にシフトさせようとする潮流の中で生み出された。レンズ構成は先代のF1.8のモデルと同じ4群6枚のガウスタイプであるが[2]、この時代のF1.7クラスのレンズといえばPentx-M、Hexanon AR、Auto Chinon、ROKKOR-PFなどにみられるように、第2レンズと第3レンズの間に空気層(空気レンズ)を設け5群6枚構成とするのが定石で、収差を抑え込むには4群6枚構成では役不足であった。このレンズの独特な描写は構成を変えずに設計限界の壁を越え、F1.7の領域に踏み込んでしまった代償とも受け取れる。いや、これも計画の内だったのであろうか?

参考
[1]  ペトリ@wiki:ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編
[2] 光を当て反射面の数を数えると明らかに4群6枚構成になっている

入手の経緯
レンズは2017年2月にヤフオクにてペトリFTにマウントされた状態で売られていたものを入手した。オークションの解説は「ミラーが脱落している。シャッターは降りない。シャッター幕が詰まっている。レンズはカビ・クモリなく綺麗な状態。現状渡し」とのこと。写真で見る限りレンズは綺麗である。ジャンク品であることが宣言されていたが、レンズを道連れにしていると判断、2000円で入札したところ1510円で落札できた。数日後、拭き傷やホコリの少ない綺麗なレンズが届いた。カメラの方はやはりシャッターが壊れており、巻き上げもスカスカなので修理は不可能と判断、こちらはマウント部分を取り出してアダプター作りの材料にすることにした。
PETRI C.C 55mm F1.7: 最短撮影距離 0.6m, 絞り羽根 6枚構成, フィルター径 52mm, 光学系 4群6枚ガウス型, 絞り F1.7-F16, ペトリブリーチロックマウント。なお、レンズのガラス表面には同社が独自にコンビネーション・コーティング(C.C)と呼んでいるシングルコーティングが蒸着されている

 
撮影テスト
レンズの描写の特徴はソフトでありながらも、コントラストや発色が良好なレベルを維持している点である。開放ではコマ収差に由来するモヤモヤとしたフレアがピント部を覆い、柔らかい描写傾向となる。その分だけシャープネスは低下気味でトーンも軽めだが、濁りはなくコントラストや発色は良好な水準を維持している。解像力は依然として同社のF1.8と同等の高い水準にあり、柔らかさのなかに緻密さの宿す線の細い写りとなっている。絞ると急にヌケが良くなりシャープネスとコントラストが更に向上する。背後のボケにはペトリならではのザワザワとした硬さがあり、形を留めながら質感のみを潰したような絵画のような味付けがこのレンズにも継承されている。グルグルボケや2線ボケが目立つことはない。ガウス型レンズ成熟期の1970年代にこんな趣味性の高いレンズを出したペトリカメラには、何か別の狙いがあったのだろうか。



Olumpus PEN E-P3で写真
まずは知り合いのカメラ女子(写真家のemaさん)による写真作例。彼女の作風はこのレンズの性格によくマッチしている。色味はいじってるとのこと。
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)

F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)
F1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)




f1.7(開放), Olympus Pen E-P3(emaさん)

SONY A7Riiでの作例
続いて私がフルサイズフォーマットで撮った写真。

F1.7(開放), SONY A7Rii(WB:Auto) まずは近接での写真をみてみよう。開放でも画質は安定している。ボケ味にはペトリらしさがでており・・・

F1.7(開放), SONY A7Rii(WB:Auto) ・・・形をとどめた妖しいボケ味を醸し出している















F1.7(開放) SONY A7Rii(WB:Auto) ヘリコイドアダプターを用いてレンズの規格を超える近接域を撮っているが、シャープネスはポートレート撮影時と大差ない。この距離を開放でとるというのは無茶なことだが、それなりの画質が維持されているところをみると、接写にも強いレンズのようだ
F1.7(開放), sony A7RII(WB:電球1) 今度は室内で電球と外光のミックス。開放ではフレアがかかりソフトな描写傾向だが、しっかりと解像している
F8, sony A7(WB:曇天) 絞ると急にヌケが良くなり、シャープネスやコントラストが更に向上する。過剰補正型の変化系レンズだ
EE Auto 55mm F1.7とC.C Auto 55mm F1.8の描写比較
最後にEE Auto 55mm F1.7とC.C Auto 55mm F1.8(後期型)の開放描写の比較をおこなった[下の写真]。シャッタースピードやISO値などの撮影条件を同じ値に固定し、ピントは中央の樹木のど真中中で拾っている。カメラはSONY A7を用いた。両者の大きな差はフレア量である。F1.8(写真下段)はスッキリとヌケがよく、そのぶんシャープネスが高い。一方、F1.7(写真上段)はフレアに覆われホワッとした柔らかい写りになり、シャドー部が浮き気味でシャープネスが低下している。ただし、緑の鮮やかさに大差はなく、コントラストや発色がF1.8に比べ悪くなっているという印象はない。むしろ緑はF1.7の方が鮮やかにさえ見える。解像力はほぼ互角で、背後のボケ味がザワザワとしている様子もよく似ているが、F1.7の方が口径比が少し明るい分だけ、ざわつき加減が若干激しい。
C.C Auto 55mm F1.7(上段) と C.C Auto 55mm F1.8 (下段)の開放描写の比較。F1.8の方がフレア量が大幅に少なくシャープネスは明らかに高い。ただし、ソフトなF1.7のほうもコントラストはそれほど悪いものではなく、発色は依然として良好である。緑の鮮やかさはF1.7の方が上かな








2017/07/14

Unknown technique to reduce the optical path length of M42 focusing helicoid

M52 x1-M42 x1 Male thread screw adapter(手前)と中国製のM52-M42フォーカッシングヘリコイド(後ろ)
M42フォーカッシング・ヘリコイドの光路長を1mm削減するウラ技
レンズの改造を趣味にしている人達の間ではお馴染みのM42フォーカッシング・ヘリコイド。日本製のBORGブランドや中国製品がマウントアダプター店やネットショッピング、ネットオークションなどで手に入り、プラスティック製の廉価品から真鍮製のコアを用いた高級品まで様々なモデルがある。これまで日本製のヘリコイドは品質面で中国製よりも優位であると考えられてきたが、最近の中国製ヘリコイドは設計精度が確かであったり反射防止塗料が塗布されているなど、日本製に勝る品質の製品が出てきた。日本製品のアドバンテージは壊れにくい耐久性と最短光路長11mmを実現した薄型モデル(BORG OASYS 7840 11-18mm)が存在することくらいである。ところが、この最短11mmの光路長を中国製ブランドの一回り大きな製品(M52-M42ヘリコイド 12-17mm)で実現できるウラ技がある事に突然気が付いた。必要な部品はeBayで1000円程度で手に入る"M52 x1-M42 x1 Male thread screw adapter"である(写真・上)。これを中国製のM52-M42ヘリコイドにはめると、下の写真のようにM42ネジのマウント部が1mm沈み込む。ここに鏡胴径(マウント部)が52mm未満のレンズを搭載すると、最短光路長が1mm削減できるのだ。ちなみに、マウント径が小さなレンズでなければ最短光路長が11mmにできない点については、日本製のBORGブランドも同じである。
市販で手に入る中国製M52ヘリコイドの各製品は、以下のような仕様に変わる。

   M52-M42 Focussing Helicoid
        12-17mm → 11-16mm
        17-31mm → 16-30mm
        25-55mm → 24-54mm
        35-90mm → 34-89mm
 
まぁ、こんな記事を書き残したところで、ごく一部の人にしか役に立たない情報だとは思うが。1mmの光路長に泣いた経験のある方は、この方法を実践してみるとよいかもしれない。




2017/07/09

Schneider-Kreuznach XENOGON (Robot Royal 36) 35mm F2.8



二兎追うものは一兎をも得ず
潔く四隅を捨て中央を活かしたクセノゴン
Schneider-Kreuznach XENOGON (Robot Royal 36) 35mm F2.8
画質のことについて誰も口にしないレンズが、このロボット版クセノゴン(Xenogon)である。レンズについて取り上げた記事は文献や国内外のウェブサイトでチラホラ目にするが、写真作例もなければ描写に対する解説もみあたらない。これはもう自分の目で確かめるしかないと使ってみたところ、その理由は概ね分かった。写真の中央は目を疑いたくなるほど高画質だが、ある画角を境に画質が急変し、周辺にむかって転がり落ちている。一枚の写真の中での画質的なギャップ(不均一性)が大きく、杓子定規で評価することができないのである。もう少しバランスをとるという選択もあったに違いないが、シュナイダー社の製品規格をクリアすることができなかったのであろう。四隅と中央をバランスさせた中庸なレンズを目指すことが唯一の正解ではない。四隅を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるということなのだ。
さて、今回取り上げるクセノゴンのはドイツのシュナイダー社(現Schneider Optics)が一眼レフカメラのロボット・ロイヤル36 (Robot Royal 36, 1955-1976年)に搭載する広角レンズとして1955年から1960年代前半まで供給した製品である。時代的にはコマ収差の補正に苦悩しながらも、これから発展期を迎えようとしていたレトロフォーカスタイプの第一世代に属している。クセノゴンには本品よりも前の1950年代初頭に作られたライカ版クセノゴン35mmf2.8もあるが、こちらの設計構成は本品とは異なるガウスタイプ(4群6枚)で、個体数もずいぶんと多い。
レンズの設計は公開されていないものの、光の反射面からは明らかに5群7枚構成であることがわかる。鏡胴は真鍮製クロームメッキ仕上げで造りがよく、大きさの割に重量があるので、手に取るとズシリとした感触が伝わってくるが、そうした武骨さを感じさせないカラフルな配色は、いかにもロボット用レンズらしい洒落たデザインで、手にする者を魅了してやまない。レンズの製造個体数は100本と極端に少ないため、コレクターズアイテムとなっている[参考文献:Großes Fabrikationsbuch,  Schneider-Kreuznach band I-II, Hartmut Thiele 2008]。
Schneider-Kreuznach Xenogon 35mm F2.8(Robot Royal 36): 重量(実測)292g,フィルター径 58mm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽枚数 8枚, 最短撮影距離2.5ft(76cm), Robot Royal 36マウント(取り付け部はM30ネジ,フランジバックは31mm), 設計構成 5群7枚レトロフォーカス型

ソニーEマウントで使用するアダプター
クセノゴンはフルサイズセンサーをカバーできるレンズである。フランジバックは31mmなので、デジカメで用いるにはアダプターを介してLeicaまたはSONY Eマウントのフルサイズ機で使用するのがベストマッチであろう。Robot Royal 36のM30スクリューマウントをSONY Eマウントに変換するアダプターとしては日本の三晃精機が唯一の市販品を供給していたが、残念なことにここ最近になって受注を休止しており、アダプターを手に入れるルートがない。これには困る人も多いと思うので、本記事では市販で手に入る部品を使ったアダプターの自作方法を公開しておく。必要な部品は以下の通り。
  • Robot Lens(M30) to M42 step up ring adapter  16ドル(eBay)
  • High-Quality M42 Helicoid(12-17mm) 38ドル(eBay)
  • M42-sony E(NEX) mount Slim adapter(1mm厚)1.5ドル(eBay)
これらを組み合わせると最短13mm丈のヘリコイドアダプターになり、SONY Eマウント(フランジバック18mm)のカメラに装着するとRobot Royal 36マウントのフランジバック31mmにピタリとハマる。1mmも余裕がないのが不安点なので、使用したM42ヘリコイドはこのクラスでは少し値の張るものを採用してある。安物(25ドル位からある)を選ぶと精度が曖昧なため、無限遠のピントを拾えない可能性がでてくるためだ。ダブルヘリコイドを同時に繰り出す時の最短撮影距離は約20cmと短く、近接での草花の撮影にも難なく対応できる。





入手の経緯
今回のクセノゴンは知人からお借りしたと言ったらよいのか、実のところは使ってくれと一方的に手渡されたレンズだ。はじめアダプターをどうしたらよいのかと相談され、前述のようなヘリコイドアダプターのアイデアを提案したところ、気づいたらレンズが手元にあり、ブログで書いてもよいぞと・・・。まぁそんな調子で我が家に転がり込んできた迷える白兎ちゃんなのであるが、やはりマウントアダプターの問題からか市場では人気がなく、製造本数が100本と少ないにもかかわらずeBayには常時何本か出回っている。取引相場は700ドル~800ドル程度である。





撮影テスト
冒頭でも述べたが中心解像力が高く、非常にシャープでスッキリとヌケが良いなど一見すると非常に高性能なレンズだが、開放では写真の四隅においてモヤモヤとしたフレア(コマフレア)が多くみられ、解像力も低い。写真の中央と四隅の画質的なギャップが大きく、ある画角を境に画質の変化が急激に進むため、高画質な領域と収差の豊富な領域の境界部がハッキリと区別できるのが、このレンズの開放における描写の特徴である。ポートレートや近接撮影で使う限りは四隅の大部分がアウトフォーカス部に入ってしまうので、至ってシャープで高性能なレンズという印象を抱くが、風景などの引き画になると開放では収差が顕著に目立つようになる。一段絞れば良像域は四隅に向かって広がり、二段絞ればメインの被写体を四隅においても、力不足を感じることは無い。色ノリがよく階調描写は適度にマイルドで、とても使いやすいレンズだ。

F2.8(開放), SONY A7RII(WB:晴天)   中心部は解像力があり、シャープネスも充分。このようなポートレート域では四隅の収差が目立たないので、至って高性能なレンズにみえる。ちなみに現場で撮影中の私を偶然にも知人がBausch & Lomb Super Baltar 75mm F2.3+sony A7で撮影していた(こちら)。

F4, SONY A7RII(WB:晴天)   上の男の子はこれを覗いていた。発色のいいレンズだ

F2.8(開放), sony A7RII(WB:曇り)  少し引いて中距離を撮ると途端に四隅での収差が目立ち始める。中心部は依然として解像力、シャープネスとも素晴らしい。中心を拡大クロップした写真を下に示そう
ひとつ前の写真の中心部を大きく拡大したもの。緻密でシャープ、高画質だ
F2.8(開放), sony A7(S.Shiojima) こういう撮り方が性能を余すところなく引き出せる一番オイシイ使い方になる

F8, sony A7Rii(WB:晴天) このように隅にメインの被写体を入れる時には、F5.6以上に絞って撮る必要がある


F8, SONY A7RII(WB:日陰) 逆光でもハレーションは出にくく、コントラストや発色はとてもいい
F5.6 SONY A7RII(WB:AWB)

F2.8(開放), SONY A7RII(WB:auto, iso6400) こういう被写体なら開放でもOKだ

四隅の開放描写を見ておく
1950年代に設計されたレトロフォーカス型レンズを評価するとき、私はいつもCarl Zeiss Jenaのフレクトゴン(Flektogon) 35mmを基準に考えている。クセノゴンはどうかと言えば、中心部は明らかにフレクトゴンよりも高解像でシャープであるが、四隅はフレクトゴンよりもフレアが激しく、解像力も低い。クセノゴンはポートレートや近接撮影など中央を使う写真には向いているレンズだが、風景などの引き画でメインの被写体を四隅に据える場合には、F5.6よりも深く絞って使う必要がある。粗さがしをするのは性に合わないが記事のタイトルがああなだけに、やはり、どれ程のものかを提示しておこう。
上段F5.6/ 下段F2.8(開放) SONY A7Rii(WB:晴天) 開放では四隅の画質がかなり厳しいことがわかる