おしらせ

2023/04/01

Dallmeyer PENTAC 76mm (3 inch) F2.9

戦前のフォクトレンダー社がハイエンドモデルに位置づけていたダイナー型のヘリアー(HELIAR)は私の大好きなレンズの一つです。描写はたいへん美しく、品のある滲みが特徴で、艷やな写りにはいつも驚かされます。ピントの芯はしっかり来るためポートレートにも十分に使える性能です。このブログでは過去の2つの記事でHELIAR 75mm F3.5を取り上げ紹介しました。ちなみに同じダイナー型レンズのKODAK Medalist EKTAR 100mm F3.5も大好きなので、いつか手に入れて取り上げてみたいと思っています。最近、このダイナー型レンズに本家ヘリアーよりも更に明るいモデルがある事を教えてもらい、心が揺り動かされました。指を加えて黙っているわけにはいきません。英国ダルマイヤー社が中判カメラのDallmeyer Speed Cameraに搭載するレンズとして1920年に発売したペンタック(PENTAC) F2.9と、イーストマン・コダック社がHESSELBLAD 1000F/1600Fに搭載する交換レンズとして1948年に発売したエクター(EKTAR) 80mm F2.8です(下図)。美しい描写を求め、PENTACとEKTARを2本続けて紹介します。

美しい描写を求めて!本家フォクトレンダーの明るさを超えたDYNARタイプのオールドレンズ

PART 1: Dallmeyer PENTAC 76mm (3 inch) F2.9

明るいDYNARタイプのレンズを紹介する特集となりましたが、1本目は英国のダルマイヤー社(Dallmeyer)が中判スプリングカメラの"DALLMEYER SPEED CAMERA"に搭載するレンズとしてカメラと共に1920年に発売したペンタック(PENTAC)です。レンズを設計したのはLionel A. Booth(Lionel A. ブース)という謎の人物で、Boothはケンブリッジ大学を卒業後、フリーランスのエンジニアとして活動し、1919年にダルマイヤー社にPENTACのレンズ設計を提供しています[1,2]。1919年当時はエルノスターやオピックなど明るいレンズが登場する前でしたので、中判用に設計されたF2.9のレンズは驚異的な性能でした。英国国防総省は8インチのPentacを5x5インチフォーマットの航空カメラに採用しています[1]。レンズの焦点距離は1.5 inch(38mm) から12inch(304mm)まで11種類ありました[3]。焦点距離8inch(203mm)以上の長焦点モデルはソフトな像が得られ、ポートレートに最適であるとのことです。今回手に入れたレンズはDALLMEYER SPEED CAMERの 4.5cmx6cmフォーマットのバージョンに採用されている焦点距離3inch(76mm)のモデルです。カタログ[3]に掲載されているこのモデルの推奨イメージフォーマットは44mmx66mmですので、実際には中判645フォーマットよりも一回り大きい中判6x6フォーマットが最適です。文献[4]によると像面は若干内側に曲がっているとのことですが、像面を曲げることには非点収差を有効に抑える効果があり、レンズ設計士が度々用いるテクニックです。これは意図的な設定でしたが、こうした事情とは正反対にカタログでの製品解説には、とても明るいレンズであるとともに像面が平らであることがセールスポイントとして強調されています。今回は中判6x6フォーマットのブロニカと44mmx33mmのデジタルイメージセンサーを搭載したFujifilm GFXで撮影テストを行いました。

参考文献

[1] Lens collector's vade mecum

[2] L. B. Booth, Brit. Pat. 151506(1919)

[3] B.J.A, P.366(1925)

[4]Rudolf Kingslake.  A History of the Photographic LensAcademic Press; 第1版 (1989)/R.キングスレーク 写真レンズの歴史

[5] Macro Cavina's home page: Hasselblad first lenses

Dallmeyer PENTAC 76mm (3 inch) F2.9: 絞り F2.9-F16, 絞り羽 14枚構成, シリアル番号 110XXX(1925年前後), 重量(実測)132g, フィルター径 35mm, マウントスレッド M32, ノンコート
レンズの取引相場

国内での製品の流通は僅かのため入手先は主に海外からで、eBayでの取引相場はカメラとセットで1200ドル(15万円位)辺りからとなります。レンズ単体で売られていることは少ないのですが、私は2018年にレンズ単体で売られてたものを数万円で購入しました。前玉に若干の拭き傷がありましたが写真には影響ない程度でしたので、これで良しとしました。ちなみに知人に頼まれ2019年頃に同じスペックのレンズをeBayにて売却した事があります。このレンズは前玉にクモリがありましたが、競売の末、まさかの7万5千円で落札され中国人の手に渡りました。海外では人気レンズなのでしょうか?

カメラへのマウント方法

今回はレンズをM42マウントにマウント変換した事例と、ブロニカS2に搭載した事例を紹介します。

まずM42マウントへの変換ですが、上の写真のようにM32-M42アダプターを使用してM42直進ヘリコイド(20-40mm)に搭載できます。この種のアダプターは特殊ですが、AliexpressやCUSTOM PHOTO TOOLSなどで入手できます。ややオーバーインフですが市販の部品のみでできてしまう簡単なマウント変換です。レンズはM42レンズとして問題なく使用できます。

続いて、BRONICA S2への搭載方法ですが、こちらはやや難易度が高めで、過去に何度かご紹介した沈胴方式でマウントする方法が有効です。用意した部品は左からM42-Bronica M57アダプター、M42(1mmピッチ)-M46(0.75mmピッチ)リバースリングアダプター、Bronica M57マクロエクステンションリング No.1、37-46mmステップアップリング、34-37mmステップアップリングです。これらの部品をつかって、下の写真のようにレンズのフィルター側からBRONICA S2のM57スクリューネジにマウントします。レンズの鏡胴はBronica本体の内部に完全に入ってしまいます。これで、無限遠のフォーカスを拾うことが可能です。
 

撮影テスト

古い時代のノンコートレンズらしい軟調な描写で、コントラストは低く発色は淡白になり、階調の暗部が浮き気味です。モノクロフィルムの時代の写真レンズなのでこうなります。デジタルカメラのGFXで用いる場合、光が多い条件下で繊細に光が乱反射し、紗がかかったような柔らかい効果を狙うことが出来ます。また、明暗差が大きい場面ではハイライト部の周りを滲みが覆います。Bronica S2によるフィルム撮影では、このような性質が覆い隠され、素晴らしいソフトワイドレンズとなります。こちらが本来の描写ということでしょうね。背後のボケは概ね安定しており、グルグルボケの原因である非点収差は前評判どうりによく補正されいます。背後のボケは乱れることなく綺麗です。逆光には著しく弱いので、積極的に逆光撮影をする方はフードを装着する方がよいとおもいます。

デジタル撮影

Fujifilm GFX100S

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard) 













F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)


F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)
F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)
F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)



カラーネガフィルムでの撮影

Bronica S2 中判6X6フォーマット

+ Fujifilm PRO160NS

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)
F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F8 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F4 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)
F4 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)
F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

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