おしらせ

 
イベント案内
オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月3日(日)場所はアクアパーク品川 申込制:定員15名(現在キャンセル待ちとのこと) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

オールドレンズxポートレート写真展2
9月16日(土)―9月18日(月・祝)場所は学芸大前 こちらも関連ワークショップですので、お知らせいたします。詳しくはこちら

オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月23日(土)場所は巾着田 申込制:定員15名(既に申込が続々と入っているそうです。最近、定員オーバーが多いので申込はお早めに) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。


2015/02/24

Meyer-Optik Görlitz Primagon 35mm F4.5



たかがレトロフォーカス、されどレトロフォーカス
Meyerらしくない優等生レンズ
Meyer-Optik Görlitz PRIMAGON 35mm F4.5
Primagon(プリマゴン)はドイツのゲルリッツに拠点を置くMeyer-Optik社(メイヤー光学社)が1952年から1964年にかけて生産し、一眼レフカメラのExakta, Contax S, Praktinaおよびレンジファインダー機のAltixに搭載した広角レンズである。前玉に大きな湾曲凹レンズを据えバックフォーカスを延長させることで一眼レフカメラに適合させる「レトロフォーカス」と呼ばれる設計法を取り入れている(下図)。この設計法はメガネをかける近視矯正にも似ているため、「画質的には何らメリットはない」とか「本来は不要な補正レンズだ」などネガティブな認識を持つ方も多く、私もそんな一人であった。しかし、レンズ設計者の本をいろいろ読むにつれ、どうもその認識は間違いであることに気付かされた。前玉に据えた凹レンズには光学系のバランスを調える役割があり、四隅の解像力を向上させボケを安定させる素晴らしい働きがあるというのだ。更には周辺光量落ちを抑える効果もあり、デメリットどころか広角化に有利な性質を幾つも引き出してくれる素晴らしい添加物なのである。そういう観点を踏まえ過去に取り上げたレトロフォーカス型広角レンズを思い返してみると、確かにボケが穏やかでピント部も四隅まで均一に写る製品が多かった。今回取り上げるPrimagonもシンプルな構成ながら開放から良く写るレンズとして高く評価されている。
では、改めてPrimagonの設計を見てみよう(下図)。プリマゴンは3枚玉のトリプレットを設計ベース(マスターレンズ)とし、その前方に大きな凹レンズを据えた4枚構成のレトロフォーカス型広角レンズである。マスターレンズが広角化には向かないトリプレットなので、このまま包括画角を広げても実用的な画質を維持することは到底できない。しかし、前玉に据えた凹レンズたった1枚のおかげで一眼レフカメラに適合し、広角化にも耐え、しかも開放から良く写るレンズへと大変身を遂げている。
 
Primagonの構成図をトレースしたもの。後方(右側)のトリプレット(3枚玉)をマスターレンズとし、その前方(左側)に大きな湾曲凹レンズを据えた4群4枚の構成である。凹レンズを追加したことで光学系のバランスが改善、ペッツバール和が抑えられ非点収差が容易に補正できるようになっている。前玉の後方に広い空気間隔を設けることで樽型歪曲収差を抑えている。正の第2レンズが異様なほど分厚いのはこれ以降のレトロフォーカス型レンズによくみられる性質であるが、1952年登場のPrimagonには早くもその形態がみられる。一見したところ広角レンズとは無縁にも思われたトリプレットをマスターレンズに起用しているあたりが、とても大胆で興味深い設計構成である
重量(実測):158g, フィルター径:49mm, 構成:4群4枚(トリプレットベースのレトロフォーカス型), 対応マウント:M42, EXAKTA, Praktina, Altix, 絞り:F4.5-F22, プリセット絞り,  絞り羽: 10枚構成,  最短撮影距離:0.4m, 焦点距離:35mm, 本品はEXAKTAマウント。前玉のみコーティングのない初期のモデルと、前玉を含む全てのレンズにコーティング(単層コーティング)の施された後期のモデルが存在する。後期モデルにはフィルター枠の銘板にはドイツの国産コーティングであることを誇示するVマークが記されている


 
入手の経緯
eBayを介して2014年3月にドイツのプライベートセラーから落札購入した。オークションの記述は「フォーカスリング、絞りリングともにスムーズで軽快に回る。絞り羽に油シミはなく開閉はスムース。ガラスはクリーンでクリア。パーフェクトなコーティングでキズ、カビ、クモリはない」とのこと。eBayでの中古相場は85-100ユーロ前後である。スマートフォンの入札ソフトで寝ている間に自動入札したところ、翌日になって53ユーロ(+送料10ユーロ)で落札していた。安い!ラッキー。届いた僅かにホコリの混入と微かな汚れがみられる程度で実用充分な状態であった。
 
撮影テスト
Primagonの設計は3枚玉のトリプレットをレトロフォーカス化した構成である。マスターレンズがトリプレットなので当初は四隅の画質に不安を感じていたが、使い始めてみるとかなりの優等生であることがわかり正直驚いた。トリプレットならではの長所である中心解像力の高さとヌケの良さを受け継ぎながら、短所である四隅の画質を大幅に改善、口径比がやや暗いことと絞ったときに微かに周辺光量落ちがみられることを除けば、弱点らしい弱点は見当たらず開放から良く写るレンズとなっている。ボケも安定しておりグルグルボケや放射ボケなどトリプレットによくある像の乱れは目立たないレベルまで抑えられている。階調はたいへん軟らかく絞ってもなだらかなトーン描写を維持している。発色はややあっさりとしていて癖がなく、どことなく品のある写りは私の好みである。ただし、口径比をF4.5と控えめに設定しているあたりはMeyerらしくない堅実で大人しい設計と言わざるを得ない。

撮影機材
Camera: sony A7
Hood: 広角ラバーフード(49mm径用)
F4.5(開放), Sony A7(AWB): 淡い発色がとても美しく、軟調レンズの良さがとても良く出ている。中心解像力は開放でも良好でヌケも良い。グルグルボケもよく補正されている

F8, Sony A7(AWB): 絞っても階調はなだらかでシャドーにむかってトーンが丁寧に描かれている

F8, sony A7(AWB): 発色はあっさりとしている。癖などなくノーマルだ


F8, sony A7(AWB): 良く見ると若干の周辺光量落ちがみられる。気にしなければよい


F4.5(開放), Sony A7(AWB): グルグルボケは出てもこの程度・・・堪えている。前玉の凹レンズが荒治療ながらもよく奮闘している様子が伝わってくる





2015/02/12

Voigtländer Heliar 7.5cm F3.5*

1993年12月に刊行された朝日カメラ(別冊)「郷愁のアンティークカメラIII」にはレンズによって表現される「味」や「におい」と呼ばれるものをテーマにした松井満氏の記事があり、今でいうオールドレンズファン達の嗜好に触れている[文献1]。記事の一説を要約すると「写真は事物の単なる記録的再現ではなく、心理的な印象を捉えるべきものである。冷たい鮮鋭なレンズが退屈になり、自分の作画に何かが欠けているのにありきたりなく思っているアマチュアが今後ますますふえてゆくことに間違いあるまい。彼らはカメラのレンズが『良すぎる』ことに不満なのである」と述べ、さらに次のように続けている。「彼らは昔のカメラ(レンズ)が持っていたグラマー(うっとりさせる魅力)を自分の作画に盛りたがっている。具体的な例をあげればフォクトレンダーのヘリアーである」
グラマーな写りで世の肖像写真家達を魅了した
伝説の妖玉ヘリアー
Voigtländer HELIAR 7.5cm F3.5
Heliar(ヘリアー)はカメラメーカーとして世界最古を誇るVoigtländer(フォクトレンダー)社が戦前の高級カメラに搭載したフラッグシップレンズである。柔らかいながらも芯のある描写には肖像写真を美しく格調高い作品に仕立てる効果があり、職業写真家達から絶大な称賛を得ていた。レンズを開発したのはフォクトレンダー社のHans Harting(ハンス・ハーティング)博士[注1]で、トリプレットの前玉と後玉を貼り合わせのダブレットに置き換えることで1900年に初代Heliar F4.5を完成させている[文献2]。この置き換えにより中間画角から最大画角にかけての画質(いわゆる写真の四隅の画質)が改善し、トリプレット同等の明るさを維持しながら比較的広い実用画角を達成している。ただし、貼り合わせダブレットが球面収差を補正できないことからフレア量はむしろ多くなり、被写体を柔らかい収差のベールで包み込むHeliarならではの美しい描写力を生み出している。Heliarがポートレート用レンズとして絶大な名声を得たのは、この妖力があっての事に他ならない。

[注1] Carl August Hans Harting・・・1889年に数学、物理学、天文学で理学博士となり1897年から2年間ZeissでAbbeの助手を勤める。1899年にVoigtländerに移籍し31~32才の時に初代Heliarを完成させるが、1908年にドイツ特許庁に移籍しレンズ設計者としてはここで一線を退いている。第二次世界大戦後は東独VEB Zeiss社に招かれ戦後の復興に尽力した。[文献3]の「人物略伝」にHartingついての詳細な解説がある。
【構成図の系譜】:HeliarはVoigtländerのHarting博士が1900年にトリプレットの前・後群を貼り合わせレンズに置き換えることで完成した[文献2]。この置換により前・後群の外側表面の曲率を緩めることができ、中間画角から最大画角にかけての画質(非点収差の補正効果)が改善、包括画角をトリプレットよりも広い50°まで広げることが可能となっている。追加した貼り合わせダブレット(イエナガラスを用いた「新色消し」)が球面収差を補正できないことから結像は柔らかく階調も軟らかい描写となり、雰囲気のよくでレンズとして大変な評判となる。初代Heliarの設計は前・後群が完全対称であったがHartingは1902年に同一構成ながらも対称性を崩しペッツバール和の抑制と非点収差の補正強化を実現した第2世代の改良版Heliarを世に送り出している[文献4]。また、同年に登場したZeiss Tessarの後群接合部が正曲率であることによる重要な効果に気づき、Heliarにもこのアイデアの導入を試みた[文献3]。こうした着想を経て1902年に新型レンズを設計し1904年にDynar(ダイナー)の名で登場させている[文献5]。Dynarは開放F値がHeliarより一段暗いF5.5/F6で製品化されHeliarより安く売られたが、本来はHeliar同等以上の明るさにも対応できる光学性能があり、非点収差を除く全ての収差特性でHeliarを上回る好成績をたたき出していた[文献3]。そこで、第1次世界大戦後の1921年にRobert Richter(ロバート・リヒター)博士の手により再設計され、1925年頃に第3世代の新生HeliarとしてF3.5/F4.5の明るさで再登場することになる[文献6-8]。私が入手したHeliarもF3.5の明るさを持ちRichterの手で生み出されたDynarからの改良版で、シリアル番号を辿ると1930年代に製造された製品個体である。このシリーズも包括画角50°前後をカバーし焦点距離は2cmから30cmまで製品化されていた[文献12]。HeliarはH.Deser(デセール)による1933年の再設計でF2.8の明るさにも対応している[文献9]。ただし、性能的に厳しかったのか特許申請のみでF2.8の口径比では製品化されなかった。第二次世界大戦終戦後はSchneider社からの移籍で加入したA.W.Tronnier(トロニエ)がカラーフィルムに対応できる後継モデルのColor-Heliar(カラー・ヘリアー)F3.5をRichter版Heliarの構成で再設計し、中版カメラ用レンズとして製品化させている[文献10]。1999年からは日本のCosina(コシナ)がVoigtlanderブランドの商標使用許諾を取得しHeliarブランドを継承、2001年に101周年記念の復刻モデルとしてHeliar 50mm F3.5(ライカLマウント)を限定生産を実現している。また、2009年にはCosina版Bessaの発売10周年を記念して、Heliar 50mmF2(Lマウント)と50mm F3.5(Lマウント)を限定生産、また現行モデルとしてHeliar 40mm F2.8(ライカMマウント)を登場させている。現行のHeliar 40mmには光学系中央部に非球面レンズが用いられ、たいへん高性能なレンズとなっているそうである。いずれもRichter版Heliarの設計構成を踏襲した改良レンズである。いつか機会があれば、これらも取り上げてみたい
今回私が取り上げるモデルはRobert Richter(ロバート・リヒター)博士による1921年の再設計でF3.5の明るさとなった第3世代の改良版Heliar(1925年頃に登場)である[文献6]。Richterは後に航空撮影用レンズとして有名になるTopogon(Carl Zeissが1933年発表)を設計した人物で、Voigtländerに在籍した1914年から1923年の間にHeliar, Repro-Heliar(リプロ・へリアー), Apo-Skopar(アポ・スコパー), Collinear(コリニア)の再設計を手がけた[文献7, 文献11]。1923年にGoerz(ゲルツ)社に移籍した後、GoerzがZeiss Ikon社の設立母体としてCarl Zeiss財団に吸収合併されたため、1926年からはZeissのレンズ設計士となっている。私が入手したRichter版Heliarには1902年にハーティング博士が設計したDynar(ダイナー)の構成が採用されており、初代/2代目Heliarに比べるとシャープに写るレンズとなっている。これ以降Voigtländerは一部のモデルを除き収差的に高性能なDynarの構成にHeliarのブランド名を継承させている。
Heliarは一般にトリプレットからの発展形と紹介されることが多いが、途中でテッサーの血が入り、Richter版Heliar(1921年設計)以降ではテッサーの形質が優位に出ていることがわかる。初代/2代目HeliarはRodenstockのソフトフォーカスレンズImagonと比較されることが多く、そういう意味でも3代目以降とは比較にならないほどソフトなレンズだったのであろう。そうした視点で見ると第二次世界大戦後のColor-Heliarや現行のコシナ製Heliarは初代Heliar(トリプレット)とは別系統で、Dynar(テッサー)の血統を汲むレンズであると捉えるほうが、より自然な解釈のように思える。

重量(実測) 113g, 絞り羽 15枚構成, フィルター径 29.5mm, 最短撮影距離 0.7m, 絞り値 F3.5(F4.5)-F22, ヘリコイドつき, 光学系は3群5枚構成のDynar型でノンコート仕様, シリアル番号より1937-1939年に製造された製品個体と判別できる。メーカー推奨イメージフォーマットは中判4.5x6cm



文献1: 朝日カメラ(別冊)「郷愁のアンティークカメラIII」レンズ雑学辞典 1993年12月
文献2: 初代Heliar特許, US Pat. 716035, DE Pat. 124934
文献3: Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens/キングスレーク著「写真レンズの歴史」朝日ソノラマ
文献4: 2代目Heliar特許, DE Pat. 143889
文献5: Dynar特許, US Pat. 765006, DE Pat.154911, 124934, 143889,
文献6: 3代目Heliar F3.5, DE Pat.354263
文献7: Arne Cröll, View Camera May/June 2005, Voigtländer Large Format Lenses from 1949-1972 (Revised in Nov.17,2012)
文献8: New Heliar(3代目)広告, B.J.A 1925,p.359
文献9: Heliar(F2.8),  DE Pat. 636166
文献10: Color-Heliar特許, US Pat. 2645156, DE Pat. 888772
文献11: Matthew Wilkinson and Colin Glanfield, A Lens Collector's Vade Mecum
文献12: Voigtlander レンズカタログ 1927年

入手の経緯
2014年11月にドイツ版eBayを介してドイツのレンズ専門セラーから競売の末に落札購入した。レンズは特製アダプターを用いてM42マウントに変換されていた。オークションの記述は「M42マウントに変換したフォクトレンダー・ヘリアー75mm F3.5で、フォクトレンダーによって1930年代後半に造られたマスターレンズ(ムービー用の試作)である。ヘリコイド冠に距離指標がない。小さく軽いうえ、あらゆる用途に使用できる万能性を備えた実用的な焦点距離である。とても良いコンディションでフォーカスリングと絞りリングは良好に動作する。ガラスは素晴らしい。フォーカスレンジは0.7mから無限遠である。アダプターを用いれば殆どすべての一眼レフカメラで使用できる。このレンズはフルサイズフォーマットよりも広いイメージフォーマットを包括している」とのこと。写真を見る限りかなり綺麗な鏡胴でガラスの状態も良さそうである。この出品者からはシャッターユニットをもたない珍しいHeligon 80mm F2.8やKinoptikの高級レンズも同時に出品されており、やはり特性アダプターでM42マウントに変換されていた。スマートフォンの自動スナイプ入札ソフトで最大額を設定し放置したところ15人が入札し、翌日になって214ユーロで私が落札、ラッキーなショッピングであった。ただし、届いたレンズには若干の汚れが見られたのでメンテナンス業者に持ち込んで軽く清掃してもらった。メンテ料1万4000円を含めると4万5千円程度の出費となっている。

Bronica S2へのマウント
Heliarのフランジバックは75mm程度であるのに対しBronica S2のフランジバックは101.7mmと長いので、この差を切り詰めるにはカメラにレンズを沈胴させるしかない。今回もレンズを前玉フィルター側からマウントし、カメラの内部へと沈胴させて使用することにした。詳しいマウント方法が知りたい方はRoss Xpresを扱った前回のブログエントリー(こちら)に参考情報を掲載したのでご覧いただきたい。ここではレンズをマウントするのに用いた部品のみを列記する。全て市販で手に入るものばかりである。若干オーバーインフになる組み合わせを試行錯誤の末に実現した結果なので、もっと少ない部品数で済ませることも可能なのかもしれない。あくまで参考程度にしてほしい。
  1. 29.5 - 37mmステップアップリング:レンズのフィルター径を汎用的なネジ径に変換
  2. 37 - 46mm ステップアップリング:フランジ調整用
  3. M42(P1) - 46mmリバースカプラー(リバースリング): M42ネジへの変換用
  4. BronicaマクロエクステンションチューブNo.1: フランジ調整用
  5. Bronica M57 - M42(P1)アダプター: レンズをブロニカ本体にマウントするためのアダプター
M57-M42アダプターの前方にM42(P1)-58mmリバースカプラーと58mm綱手リング(八仙堂のプロダクト)を装着しレンズのフロント側を58mmのフィルターネジに変換しフードの装着を可能にしている




 
撮影テスト
戦前のフォクトレンダー社が大判撮影用のCollinear(コリニア)と共に最高級レンズに位置付けていたのがヘリアーである。開放では結像が柔らかく階調も軟らかいためソフトフォーカスレンズに近い写真となるが、ソフトとは言ってもこのレンズの場合には解像力を捨てたわけではなく、モヤモヤとした美しいフレアの中にピント部の緻密な表現がしっかりと残り、線の細い繊細な描写を維持している。少し絞れば、なだらかな階調を保ちながらコントラストが向上、深く絞ればスッキリとヌケの良い写りへと変化する。ポートレート写真のあるべき姿を写真レンズの描写設計にどう盛り込むのか、戦前のフォクトレンダーの出した答えがこのヘリアーなのであろう。コントラストは低くカラーでの発色も地味だが、階調の推移がなだらかなため、かえってそれが作画に深み(しっとり感)を与え、主張しすぎないフレアと相まって、写真を見た者に味や匂いを呼び起こさせる特殊効果のような働きをしている。ボケは美しく、四隅まで乱れることなく整っており、適度な柔らかさで拡散している。ソフトフォーカスレンズの美味しいところを少し分けてもらうことで雰囲気の良く出る開放描写を実現しているのだろう。現代のレンズに通じるクリアで雑味のない、「CDで聴く音楽」のような作画もよいが、このヘリアーの魅力はそこではない。
 
デジタルカメラ(Sony A7)による写真作例
F3.5(開放), Sony A7(AWB):

F3.5(開放), Sony A7(AWB): 



F3.5(開放), Sony A7(AWB):


F5.6, Sony A7(AWB):


F4.5, Sony A7(AWB)


F4.5, Sony A7(AWB)
F8, Sony A7(AWB):










F8, Sony A7(AWB): 絞ればこのとおりのにヌケは良い


F8, Sony A7(AWB): 絞っても階調が硬くなることはない
 
カラー・ネガフィルム(6x6 format)での写真作例
Camera: Bronica S2
Film: Fujifilm Pro 160NS, Kodak Portra 400 ブローニー・カラーネガ
露出計: セコニック スタジオデラックス
F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format)+ Bronica S2, 黒絞め(階調補正)適用





F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format) + Bronica S2, 黒絞め(階調補正を適用)





F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format) + Bronica S2: 


F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2:

F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format)+ Bronica S2: 



F5.6, 銀塩撮影, Kodak Portra 400 (6x6 format) + Bronica S2
F4.5 銀塩撮影, Kodak Portra 400 (6x6 format) + Bronica S2
F5.6  銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 
F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format)  + Bronica S2, 黒絞め(階調補正)適用
F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 

F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format)  + Bronica S2: 


F8, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 
F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 















F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2:




2015/02/06

M52-M42 focusing helicoid*


M52-M42ヘリコイド(左)とM42-M42ヘリコイド(右)。どちらもマウント側(カメラ側)はM42ネジとなっている。M52-M42ヘリコイドの方が内径が広いためマウント側で大きくすぼんでいて、いわゆる土手にあたる部分の面積も広く造られている

 
太いヘリコイドによる照り返しの軽減効果を検証する
M52-M42フォーカッシング・ヘリコイド
今、私の中で一押しのホットなアイテムになるつつあるのがM52-M42直進ヘリコイドです。これまで用いてきたM42-M42ヘリコイドに比べ、①内径が広く、②カメラ側(マウント側)の出口が大きくすぼんでおり、③出口の土手に当たる部分が薄く造られているというのが構造上の特徴です。このためイメージサークルの大きなレンズを長丈ヘリコイドに搭載する際に懸念されていた「内部での照り返し」が緩和され、コントラストの悪化を防止できます。強い光を前方から当てると効果の差がよくわかりますので、早速見てみましょう。
下の写真の上段はM42-M42ヘリコイド、下段はM52-M42ヘリコイドをカメラのマウント側からみたものです。いずれもヘリコイドは丈の長い36-90mmのモデルで、前方に中版用レンズ(6x6フォーマットをカバーできるヘリアー)を搭載し、その前方から強い光を当てています。角度をいろいろ変え、照り返し光が一番きびしい(強い)状態を写真に収めました。双方の結果にかなりの差があることがわかります。M42-M42ヘリコイドによる結果では内部の側面と出口の土手にあたる部分で明るい光の反射がみられます。これに対し、M52-M42ヘリコイドは内部の側面までの懐が深く、土手も薄いため、顕著な光の反射はみられません。このような照り返し光はハレーションの発生原因となり、コントラストや発色などの写真画質に甚大な影響を及ぼします。M52-M42ヘリコイドの方が好ましい結果であることは一目瞭然です。同様の観測を35mm版レンズを搭載した場合でも試しましたが、この場合は双方のヘリコイドとも側面での顕著な照り返しはみられませんでした。したがって、ここでの結果はM42-M42ヘリコイドを貶めるものではなく、使用上の注意があることを明らかにしているだけです。中判用レンズや大判用レンズを丈の長いヘリコイドに搭載する機会がありましたら、ご参考になさってください。主に長丈ヘリコイドに頼る機会の多いミラーレス機での用途において発生する問題になろうかと思われます。

M42-M42フォーカッシング・ヘリコイド36-90mm(上段)とM52-M42フォーカッシング・ヘリコイド36-90mm(下段)における照り返し光の比較。搭載したレンズはHeliar 7.5cm F3.5(6x6 medium format)です。




M52-M42ヘリコイドのカメラ側は52mmネジ(1mmピッチ)になっていますので、ここにレンズを搭載するには工夫がいります。今回用いた中国製のヘリコイドには52mm-42mmのフィルター用ステップダウンリング(ネジピッチ0.75mm)の装着が可能です。また、このステップダウンリングの先にはレンズのマウント改造によく用いられるM42(ネジピッチ1mm)リバースカプラーも装着可能でした。中国製のアイテムはいずれもネジピッチの工作精度が悪いので公証規格が合わなくても装着できてしまいます。ある意味スバラシイと思えるファジィなアイテム達です(笑)。なお、M52-M42フォーカッシング・ヘリコイドは現在eBayから入手可能です。