おしらせ

2015/02/24

Meyer-Optik Görlitz Primagon 35mm F4.5



たかがレトロフォーカス、されどレトロフォーカス
Meyerらしくない優等生レンズ
Meyer-Optik Görlitz PRIMAGON 35mm F4.5
Primagon(プリマゴン)はドイツのゲルリッツに拠点を置くMeyer-Optik社(メイヤー光学社)が1952年から1964年にかけて生産し、一眼レフカメラのExakta, Contax S, Praktinaおよびレンジファインダー機のAltixに搭載した広角レンズである。前玉に大きな湾曲凹レンズを据えバックフォーカスを延長させることで一眼レフカメラに適合させる「レトロフォーカス」と呼ばれる設計法を取り入れている(下図)。この設計法はメガネをかける近視矯正にも似ているため、「画質的には何らメリットはない」とか「本来は不要な補正レンズだ」などネガティブな認識を持つ方も多く、私もそんな一人であった。しかし、レンズ設計者の本をいろいろ読むにつれ、どうもその認識は間違いであることに気付かされた。前玉に据えた凹レンズには光学系のバランスを調える役割があり、四隅の解像力を向上させボケを安定させる素晴らしい働きがあるというのだ。更には周辺光量落ちを抑える効果もあり、デメリットどころか広角化に有利な性質を幾つも引き出してくれる素晴らしい添加物なのである。そういう観点を踏まえ過去に取り上げたレトロフォーカス型広角レンズを思い返してみると、確かにボケが穏やかでピント部も四隅まで均一に写る製品が多かった。今回取り上げるPrimagonもシンプルな構成ながら開放から良く写るレンズとして高く評価されている。
では、改めてPrimagonの設計を見てみよう(下図)。プリマゴンは3枚玉のトリプレットを設計ベース(マスターレンズ)とし、その前方に大きな凹レンズを据えた4枚構成のレトロフォーカス型広角レンズである。マスターレンズが広角化には向かないトリプレットなので、このまま包括画角を広げても実用的な画質を維持することは到底できない。しかし、前玉に据えた凹レンズたった1枚のおかげで一眼レフカメラに適合し、広角化にも耐え、しかも開放から良く写るレンズへと大変身を遂げている。
 
Primagonの構成図をトレースしたもの。後方(右側)のトリプレット(3枚玉)をマスターレンズとし、その前方(左側)に大きな湾曲凹レンズを据えた4群4枚の構成である。凹レンズを追加したことで光学系のバランスが改善、ペッツバール和が抑えられ非点収差が容易に補正できるようになっている。前玉の後方に広い空気間隔を設けることで樽型歪曲収差を抑えている。正の第2レンズが異様なほど分厚いのはこれ以降のレトロフォーカス型レンズによくみられる性質であるが、1952年登場のPrimagonには早くもその形態がみられる。一見したところ広角レンズとは無縁にも思われたトリプレットをマスターレンズに起用しているあたりが、とても大胆で興味深い設計構成である
重量(実測):158g, フィルター径:49mm, 構成:4群4枚(トリプレットベースのレトロフォーカス型), 対応マウント:M42, EXAKTA, Praktina, Altix, 絞り:F4.5-F22, プリセット絞り,  絞り羽: 10枚構成,  最短撮影距離:0.4m, 焦点距離:35mm, 本品はEXAKTAマウント。前玉のみコーティングのない初期のモデルと、前玉を含む全てのレンズにコーティング(単層コーティング)の施された後期のモデルが存在する。後期モデルにはフィルター枠の銘板にはドイツの国産コーティングであることを誇示するVマークが記されている


 
入手の経緯
eBayを介して2014年3月にドイツのプライベートセラーから落札購入した。オークションの記述は「フォーカスリング、絞りリングともにスムーズで軽快に回る。絞り羽に油シミはなく開閉はスムース。ガラスはクリーンでクリア。パーフェクトなコーティングでキズ、カビ、クモリはない」とのこと。eBayでの中古相場は85-100ユーロ前後である。スマートフォンの入札ソフトで寝ている間に自動入札したところ、翌日になって53ユーロ(+送料10ユーロ)で落札していた。安い!ラッキー。届いた僅かにホコリの混入と微かな汚れがみられる程度で実用充分な状態であった。
 
撮影テスト
Primagonの設計は3枚玉のトリプレットをレトロフォーカス化した構成である。マスターレンズがトリプレットなので当初は四隅の画質に不安を感じていたが、使い始めてみるとかなりの優等生であることがわかり正直驚いた。トリプレットならではの長所である中心解像力の高さとヌケの良さを受け継ぎながら、短所である四隅の画質を大幅に改善、口径比がやや暗いことと絞ったときに微かに周辺光量落ちがみられることを除けば、弱点らしい弱点は見当たらず開放から良く写るレンズとなっている。ボケも安定しておりグルグルボケや放射ボケなどトリプレットによくある像の乱れは目立たないレベルまで抑えられている。階調はたいへん軟らかく絞ってもなだらかなトーン描写を維持している。発色はややあっさりとしていて癖がなく、どことなく品のある写りは私の好みである。ただし、口径比をF4.5と控えめに設定しているあたりはMeyerらしくない堅実で大人しい設計と言わざるを得ない。

撮影機材
Camera: sony A7
Hood: 広角ラバーフード(49mm径用)
F4.5(開放), Sony A7(AWB): 淡い発色がとても美しく、軟調レンズの良さがとても良く出ている。中心解像力は開放でも良好でヌケも良い。グルグルボケもよく補正されている

F8, Sony A7(AWB): 絞っても階調はなだらかでシャドーにむかってトーンが丁寧に描かれている

F8, sony A7(AWB): 発色はあっさりとしている。癖などなくノーマルだ


F8, sony A7(AWB): 良く見ると若干の周辺光量落ちがみられる。気にしなければよい


F4.5(開放), Sony A7(AWB): グルグルボケは出てもこの程度・・・堪えている。前玉の凹レンズが荒治療ながらもよく奮闘している様子が伝わってくる





2 件のコメント:

  1. Primagon、私も愛用している広角レンズの名品ですね。
    現在、Primagonの記事を執筆中です。
    同じMayerOpticGörlitzeのTelemegorに比べれば、グルグルボケも随分修正されていますし、
    開放からでもしっくりピントがきますね。
    Telemagorは開放で撮影したらグルグルボケの塊りみたいになって、前衛芸術さながらの描
    画になりますからね。
    個性たっぷりのオールドレンズの面白い点ですよね。

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    1. はい。初期のレトロフォーカスの中ではヌケがよく例外的に良く写るレンズですね。ドイツの3S(シュナイダー、シュタインハイル、シュテーブル)やエナもこの構成で作っていましたから、1950年代の初期のレトロフォーカス型の中では、フレクトゴン同様に例外的に良く写るレンズなんだったのだと思います。

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