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DDR PACOLAR展
会場 オールドレンズフェス2025秋 渋谷モディ丸井
会期 2025.10/4-10/13

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2025/09/21

Angénieux Paris Type S21 50mm F1.5




オールドレンズの本質は作品の様式を形づくり、作品の美はオールドレンズに新たな価値を与えます。こうした相乗効果が半世紀もの時を経て、写真家の実験的な創作活動と新たな美の探求を支えてきました。フランスのアンジェニューが世に送り出した高速レンズのType S21は、このような写真文化の営みの中で高く評価されるようになったオールドレンズの代表的な存在です。

オールドレンズ界の至宝

Angénieux Paris Type S21 50mm F1.5  1st and 2nd model

映画用ズームレンズやレトロフォーカス型広角レンズの開発で世界の光学分野を牽引してきたフランスの光学メーカーAngénieux(アンジェニュー)。同社は技術革新と市場開拓を重ねながら、写真・映像分野における光学設計の歴史を塗り替えてきました。

同社が35mm判スチル用レンズに初参入したのは1938年で、スイスのピニオン社が製造した一眼レフカメラのALPAFLEXに交換レンズを供給したことが、その第一歩でした。1942年にはライカマウントに対応したレンズの製造を開始し、1948年からはレクタフレックスマウントに対応する標準レンズのType S1や望遠レンズのType Y1、P1を展開。さらに1950年には、画期的なレトロフォーカス型広角レンズのType R1を発表し、一眼レフ用交換レンズの本格的な製造に乗り出します。

今回取り上げるTYPE S21 50mm F1.5は同社から1953年に発売された高速標準レンズです。M42、EXAKTA、レクタフレックスといった一眼レフ用モデルに加え、少量ながらライカマウントに対応したモデルも供給されました。大口径でありながら、一眼レフカメラへの適合に必要な十分なバックフォーカスを確保しつつ、焦点距離を50mmに抑えた設計は、当時としては非常に珍しいものでした。58mmや55mmが標準とされていた時代にあって、真の標準画角である50mmを実現したこのレンズは、まさに時代を先取りした存在だったのです。

描写についても、このレンズならではの個性が光ります。ピントが合っている部分の中央は緻密で繊細な像を描きますが、周辺に向かって優しく滲むように溶けていく描写が印象的です。また、画面全体が淡い色彩とともに柔らかなベールに包まれ、まるで夢の中にいるかのような幻想的で現実離れした浮遊感を醸し出します。前景のボケはフレアに包まれて滑らかに溶け、背景には粒状の光源が軽やかに煌めき、画面に詩的な奥行きをもたらします。このような収差が生み出す不安定で不規則な揺らぎは、現代のレンズでは排除されがちな要素ですが、TYPE S21ではそれがむしろ魅力として機能し、唯一無二の雰囲気を漂わせます。美しさと詩情を宿すこのレンズの描写は、写真表現に自由と深みを与え、現実と幻想の狭間に新たな物語を紡ぎ出してくれるのです。

Angenieux Type S21の構成図(同社カタログからのトレーススケッチ):設計構成は 4群6枚のガウスタイプ。50mmの焦点距離をF1.5の口径比で実現させるため正レンズはすべて分厚く曲率もきつい。バックフォーカスを長くとるという目的のため、前群の負レンズはかなりの曲率に設定され、大きな屈折力を持っている。

TYPE S21の光学設計は、F1.5クラスの大口径レンズとしては珍しい6枚構成(4群6枚構成)のガウスタイプを採用しています。このクラスのレンズでは一般的に正レンズを後群に1枚追加し、収差の補正を強化した7枚構成の変形ガウスタイプとするのが主流です。ただし、この種の構成を採るレンズは既に多く存在しており、描写傾向が画一化しやすいため、独自性が埋もれてしまう懸念があります。TYPE S21は、そうした一般的な設計構成を採らず、収差の補正パラメータが限られる6枚構成をあえて選択しました。背景にはコスト面の制約もあったかもしれませんが、結果としてこのレンズならではの描写が生まれています。とくに開放時に見られるフレアの扱いは絶妙で、柔らかく光を包み込むような描写は、他のレンズにはない大きな魅力となっています。

Type S21(前期型, 発売年1953年): 最短撮影距離  約2.5feet(0.8m前後), 絞り F1.5-f22, 絞り羽 10枚構成, プリセット絞り,  フィルター径 51.5mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ, シリアル番号 No.2848XX (1953年製), 本品はライカM(距離系連動)に改造されている
Type S21(後期型, 発売年1954-1955年頃):最短撮影距離 0.8m, 絞り F1.5-F22, 絞り羽  10枚構成, プリセット絞り, フィルター径 51.5mm, 設計構成 4群6枚ガウスタイプ,   シリアル番号 No. 4346XX( 1956年製), 本品はM42マウントに改造されている

 

レンズの市場価格

30年前までは今ほどの人気はなく、8万円程度で入手できたそうですが、現在の国内外での相場価格は前期モデル・後期モデルとも9000ドル〜10000ドル程度と大きく高騰しました。また、数年前まではeBayで常に1~2本は流通していましたが、ここ最近は全く見なくなり、希少性も増しているよう思えます。

今回ご紹介している前期型の個体は2021年2月にeBayを介してチェコのcameramate (eBay名leica-post)という、業界では有名なセラーから、10000ドル(105万円)で購入しました。このセラーはかつて公式オンラインストアも運営していましたが、今は閉鎖され、facebookやinstagramに残されているアカウントも更新が止まっています。

後期モデルは知り合いのlense5151さんからの一時的な預かり品です。私が仲介し、購入希望者を探しています。

 

撮影テスト
このレンズは、諸収差を巧みに活かすことで、幻想的な雰囲気を見事に描き出します。とりわけ非点収差とコマ収差が複雑に干渉し合うことで、背景の光源が軽やかに弾け、空気に溶け込むような煌めきで被写体を包み込みます。
ピント部はかろうじて現実感を保ちつつも滲みが入り、まるで薄いベールに覆われたような柔らかな質感となります。中心部は緻密かつ繊細な像を描きますが、周辺に向かって溶けるように滲み、空間全体に浮遊感をもたらします。
一方で、僅かに絞ることで中央部の収差が抑えられ、像はすっきりとクリアに描写されます。ただし、周辺部には依然として収差による柔らかな描写と光の揺らぎが残り、幻想性を保ちます。絞り操作によって、現実と幻想の境界が繊細に変化し、表現の幅が広がります。
レンズの収差特性を理解し、意図的に使いこなすことで、写真表現に深みと詩的な余韻がもたらされます。
 
Lens: Type S21 前記型(Early  Model)
 CAMERA: Nikon Zf / Fujifilm GFX100S
Lens: Type S21 後期型(Late Model)
CAMERA: Nikon Zf / Fujifilm GFX100S
Type S21(Late model) @F1.5(開放)+ Fujifilm GFX100S(WB:Auto)
Type S21(Late model) @F1.5(開放)+ Nikon Zf(WB:日陰)
Type S21(Late model)@F1.5(開放)+ Fujifilm GFX100S (WB:自動)




Type S21(Late model) @F1.5(開放)+ Fujifilm GFX100S(WB:自動)

Type S21(Late model)@F1.5(開放)+ Nikon Zf(WB:日陰)






Type S21(Late model) @F1.5(開放)+ Nikon Zf(WB:日光A)

Type S21(Late model) @F1.5(開放)+ Nikon Zf(WB:日光A)

 

期型による写真は、後日追加します。お楽しみに

2本のレンズの描写比較

前期モデルと後期モデルを同じ場所、同じ撮影条件で撮り比べ、写真を詳細に比較しました。しかし、差はほぼ無く、両者の光学系は同一設計であろうという判断に至りました。参考までに比較写真を何枚かお見せしておきましょう。いずれも絞りは開放です。

Type S21(前期モデル) @F1.5(絞り開放) + Nikon Zf(WB:日光)


Type S21(後期モデル) @F1.5(絞り開放) + Nikon Zf(WB:日光)


Type S21(前期モデル) @F1.5(絞り開放) + Nikon Zf(WB:日光)





Type S21(後期モデル) @F1.5(絞り開放) +Nikon Zf(WB:日光)


2025/09/19

YASHICA TOMINON /SUPER YASHINON-R 10cm F2.8 (Yashica Pentamatic mount)

 

画質最優先で設計された

富岡光学の中望遠レンズ

YASHICA TOMINON / SUPER YASHINON-R 10cm F2.8

富岡光学といえば、かつてYASHICA傘下でコンタックス用カールツァイスレンズの製造を担い、高性能かつ明るいレンズの設計において国内外で高い評価を受けた名門光学メーカーです。とりわけ標準レンズや広角レンズにおいては、その供給実績と描写力の高さが広く知られていますが、実は中望遠レンズのOEM供給となると、事例は極めて限られています。今回取り上げる TOMINON 10cm F2.8(SUPER YASHINON-Rとのダブルネーム)は、まさにその希少な一例であり、富岡光学の技術力が垣間見える逸品です。このレンズは、YASHICA初の35mm一眼レフカメラ「Pentamatic」に対応する交換レンズとして、1960年から富岡光学がOEM供給したもの。市場に出回る数が少なく、存在自体を知らない写真愛好家も多いのではないでしょうか。

ガウスタイプを採用──画質へのこだわり

一般的に、焦点距離100mm F2.8クラスの中望遠レンズでは、トリプレット型やテレゾナー型、あるいはクセノタール型といった構成が採用されることが多く、これらはコンパクトさや製造コストとのバランスを重視した設計です。しかし本レンズでは、なんと4群6枚のガウスタイプが採用されています。

この選択は非常に珍しく、わざわざ望遠比の大きなガウスタイプの構成を導入した背景には、ポータビリティよりも画質の追求を優先した設計思想が見て取れます。設計思想としては、ライカの初期型 SUMMICRON 90mm F2 にも通じるものがあり、富岡光学が当時から高度な光学設計力を有していたことを示しています。

しかもSUMMICRONよりも一段控えめなF2.8という口径比は、一般的な望遠タイプのマクロレンズに見られる仕様です。本品はマクロ撮影に特化した製品ではないものの、非常に余裕のある設計のため、近接域から遠景まで破綻の少ない、端正な描写が期待できそうです。

静かに際立つ描写力

実際に撮影してみると、開放から非常にシャープでコントラストも良好。光量落ちや歪みはほぼ皆無で、逆光耐性も優れています。近接撮影においても遠方撮影においても、滲みは全く見られません。口径比はF2.8と一見控えめですが、焦点距離が100mmであることを忘れてはいけません。50mmの標準レンズに換算すれば、F1.4相当のボケ量が得られ、これで物足りなさを感じる人は少ないでしょう。

鏡胴の作りは素晴らしく、プラスティックがカメラ製品に普及する前の時代のレンズですので、ライカ製レンズのような高級感があります。工業製品としてみても、非常に魅力的な一本です。

このようなレンズが、Pentamaticという短命なカメラシステムのために供給されていたのはたいへん驚きで、オールドレンズ界の忘れられた傑作とも言える、孤高な一本ではないでしょうか。

YASHICA TOMINON / Super Yashinon-R 10cm F2.8: 重量(実測) 452g , フィルター径 52mm, 最短撮影距離 1m, 絞りF2.8-F22, 絞り羽 9枚構成, プリセット絞り, 4群6枚ガウスタイプ, 1960年製造

参考文献・脚注

[1] クラシックカメラ専科No.26「特集ヤシカ・京セラ コンタックスのすべて」(朝日ソノラマ)P.73 座談会「ヤシカ・京セラ・コンタックスを語る」

[2]  YASHICA Pentamatic Model-II: ヤシカペンタマティックII型の使い方: ここに4群6枚との記載がある

[3] Instruction Booklet for Super Yashinon R: ここにも4群6枚とある

[4] 望遠比と収差量は反比例の関係にありますので、鏡胴を短縮するためパワー配置を前群側に移動して望遠比を小さく抑えると、球面収差の膨らみが増し、解像力が犠牲になります。これは言い方を変えればポータビリティと解像力がトレードオフの関係にあるということです。本品は画質最優先で設計されたモデルだったわけです。

 

レンズの流通状況

Pentamaticが短命なカメラシステムであったこともあり、本レンズは中古市場でほとんど見かけることがなく、定まった相場価格はありません。加えて、専用のマウントアダプターが市販されていないため注目されることも少なく、静かに埋もれた存在となっています。とはいえ、誰もマークしていませんので、運が良ければ思いがけず手頃な価格で入手できる可能性もあります。国内ネットオークションでの出品頻度は一年に1本程度です。

今回はレンズ使用するにあたり、マウントアダプターを自作しました。Pentamaticの故障品を探し、カメラ本体からマウント部を取り外して、ライカM用のアダプターの一部として再構成しました。

 

レンズの描写について

正直なところ、ずっと絞り開放のままでもまったく問題ありません。予想通りに全方位的に安定した描写を見せる高性能なレンズです。特に驚かされたのは色収差の補正がかなり良好な点です。望遠レンズを現代のデジタルカメラで使用する際に、多くの場合に問題となるのが色収差で、被写体の輪郭部が色づいて見えるわけですが、本レンズの場合には、これが全く目立ちません。発色も鮮やかでスッキリと写り、現代のデジタル環境でも違和感なく使えるほどの完成度を感じます。このレンズが製造された当時は、まだモノクロ撮影が主流だった時代です。それにもかかわらず、ここまで色再現に優れた設計が施されているのは、まさに予想外の成果と言えます。

シャープネスやコントラストも、絞り開放からすでに申し分のないレベルです。滲みはまったく見られず、歪曲収差や周辺光量の低下もほぼ感じられません。焦点距離が100mmと長めであるため、グルグルボケのようなクセは出にくく、背景の処理も自然で品のある描写が得られます。

総じて、たいへん高性能な一本であり、1960年に既にこれほどの完成度を実現した富岡光学の技術力には、ただただ驚かされます。このレンズには、同社の卓越した設計思想と製造技術が息づいており、その底知れぬ実力が静かに伝わってきます。

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)強い反射を取り込んでゴーストの発生を狙ってみましたが、高い逆光耐性に阻まれました
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nuikon Zf(WB:日光) ど逆光でも発色はしっかりとしています


F2.8(開放) Nuikon Zf(WB:日光)



2025/08/28

YASHICA Auto Yashinon 5.5cm F1.8 (pentamatic)

ヤシカ初の35mm一眼レフカメラに搭載された主力レンズ

YASHICA Auto Yashinon 5.5cm F1.8 (pentamatic)

1960年に登場したYASHICA初の35mm一眼レフカメラには、広角35mm F2.8、標準5.5cm F1.8、望遠100mm F2.8の3本の交換レンズが供給されました。当時のYASHICAはカメラ本体の製造に特化しており、社内にレンズ設計部門を持たなかったため、これらのレンズはすべて外部メーカーからOEM供給を受けていました。このうち、広角レンズと望遠レンズには「TOMINON」と「Super-YASHION」のダブルネームが刻印されており、製造元が富岡光学であることは明白です。一方、標準レンズであるYASHINON 5.5cm F1.8にはダブルネームの個体が存在せず、焦点距離が例外的にセンチメートル表記ですので、富岡光学製とは異なるメーカーである可能性が指摘されています。このレンズの製造元については諸説あり、確定的な資料は現存しませんが、シリアル番号の連続性、鏡胴の造形、そして同スペックのレンズを製造していた実績などを総合的に検討すると、MAMIYA-SEKOR 55mm F1.8を手がけていた世田谷光機が有力な候補として浮かび上がります。世田谷光機は後継カメラのPENTAMATIC IIにおいてYASHINON 58mm F1.7を供給していましたので、全くありえない話ではありません。確定的な情報をお持ちの方がおりましたら、ご教示いただけると幸いです。

Yashinon 5.5cm F1.8の構成図(YASHICA Pentamatic Instruction Bookletからの引用)

レンズ構成は上図に示す通り、オーソドックスなダブルガウス型(4群6枚)を採用しています。1960年当時、F1.8の高速レンズを製品化することはまだ技術的にハードルが高く、光学設計で当時世界をリードしていた旧東ドイツのCarl Zeiss JENAでさえ、主力モデルであるPANCOLARをF2の開放値で市場に供給していました。PANCOLARの改良モデルがF1.8で登場するのは1965年になってからのことです。

Yashica Auto YASHINON 5.5cm F1.8(pentamatic):  フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.5m, 絞り値 F1.8- F16, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 324g, 構成 4群6枚ガウスタイプ



  

入手の経緯

Pentamaticマウントは特殊な規格のため、マウントアダプターの市販品は存在していません。この事情からレンズが単体で中古市場に流通することはほとんどなく、カメラ本体とのセットで出回るのが一般的です。中古市場での価格に明確な相場はありませんが、カメラとレンズのセットで10,000円〜15,000円程度で出品されているケースを見かけることが多くあります。私はカメラのマウント部を利用してライカM用アダプターを自作することを念頭に置いていたため、初めから故障したカメラを安く入手するつもりで探し、国内のネットオークションにて2024年夏頃に約5,000円で入手しました。

 

撮影テスト

開放からの描写はクリアで、滲みやフレアはほ全く見られません。軟調気味であっさりとした控えめの発色傾向ですが、これがスッキリとした写りや丁寧なトーン描写と調和し、写真全体に透明感をもたらしています。こうした描写は、オールドレンズならではの味わい深さを感じさせてくれます。

逆光では強いゴーストが現れ、描写は更に軟調になり、色味もやや濁る傾向がありますが、それもまたクラシカルな雰囲気を演出する一因となっています。ボケについては概ね良好です。ただし、撮影距離によっては背景のボケがザワつき、やや煩雑に感じられることがあります。

少し前の記事で取り上げた後継モデルの YASHINON 58mm F1.7(Pentamatic II用) は、開放で被写体表面に柔らかなフレアが漂い、よりソフトで線の細い描写が特徴で、同じペンタマチックマウントの標準レンズでも、性格がだいぶ異なります。今回取り上げた初期モデルのスッキリとしたクリアな描写を選ぶか、後継モデルの柔らかい質感表現を選ぶかは、撮影スタイルや好みによって選択が分かれるポイントでしょう。

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

2025/08/25

YASHICA YASHINON-DX 45mm F1.7

名機ELECTRO 35の主力レンズを

デジタルミラーレス機で試す

YASHICA YASHINON-DX 45mm F1.7 

ELECTRO 35はヤシカが1960年代に市場供給していたレンズ固定方式のレンジファインダー機です。発売からすでに60年が経過し、電子回路の寿命によって故障した個体が、カメラ店のジャンクコーナーに数多く並ぶようになりました。そうした中から、レンズの状態が良好と思われる数台を拾い上げ、カメラ本体からレンズを摘出し、改造を施して再利用することにしました。

搭載されているレンズは、描写力に定評のあるヤシノンDX 45mm F1.7です。フィルム写真の時代には青みの強い独特の描写が人気となり、「ヤシカブルー」などと称されることがありました。かねてより気になっていましたが、ロモグラフィーの公式サイト[1]に掲載された作例写真を目にし、その青の深みや美しさ、粒状感との相性に心を奪われ、興味がさらに高まったのをよく覚えています。

このレンズは先代機YASHICA MINISTER 700に固定レンズとして初めて採用され、その後、Electro 35シリーズに継承されました[2,3]。Electro 35は世界的なヒット商品となり、1975年の最終モデルまでに累計約500万台が販売されたとされています。往年の名機に搭載されていたこの名レンズを蘇らせ、現代のデジタル撮影に活用できるようになったのは、レンズ交換が可能なミラーレス機の登場による恩恵です。

レンズの設計者については確定的な情報はありませんが、藤陵嚴達氏によるものとされており[4]、藤陵氏自身も回顧録[5]の中で「ヤシノン交換レンズ群、エレクトロ35用レンズ等を設計」と述べています。藤陵氏は、八洲光学工業からズノー光学(旧・帝国光学工業)を経て、1961年にヤシカへ移籍。国友健司氏とともに、有名なZUNOW 50mm F1.1の後期型(1953年発売)の設計を手がけた人物としても知られています。


[1]  Lomography : Yashinon-DX 45mm F1.7

[2] ヤシカ・ミニスター700 デラックス マニュアル 

[3] Electro 35 GT instruction manual

[4] 光学設計者 藤陵嚴達 ~ズノー、ヤシカ、リコー~,  脱力測定(2021) 坂元辰次著 

[5] 藤陵嚴達「六十年の回想」

Yashinon 45mm F1.7の構成図:設計構成は4群6枚のガウスタイプ

  

撮影テスト

定評あるレンズだけに開放からシャープで抜けがよく、すっきりとした描写が印象的です。発色は鮮やかで、コントラストの高さがその描写力を裏付けています。一方で、開放時には周辺光量の低下がやや目立ちます。ボケは大きく乱れることなく、ぐるぐるボケや放射ボケが目立つことはありません。歪曲収差は良好に補正されており、構図の安定感に寄与しています。逆光下では、角度によってシャワー状のゴーストが盛大に現れることがあり、使い方次第では印象的で遊び心のある画づくりが可能です。

F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 日光)
F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F2.8 Nikon Zf(WB:日光)
F1.7(開放) Niokon Zf(WB:日光) def








F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日光)abc


F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日陰)


F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日陰)

2025/07/18

Chiyoko Super Rokkor 5cm F2 Leica screw(L39) mount



千代田光学の標準レンズ 2
残酷な宿命を背負ったズミクロンコピー
Chiyoko Super Rokkor 5cm F2 

レンズの特徴や性能を知るには、先ずは構成図に目を向けるのが手っ取り早いわけですが、本来はガラス硝材にも目を向けなければならない事をこのレンズは教えてくれます。伝説の名玉で知られるライカ・ズミクロンMの構成を模倣したことで知られる、千代田光学のSuper Rokkor 50mm F2です。レンズの構成は下図・右のような6群7枚で、下図・左のズミクロン初期型1953年登場と全く同じです。ただし、手本にしたズミクロンがランタン系の新種ガラスを何枚も使用したいへん高性能であったのに対し、スーパー・ロッコールは新種ガラスがまだ使用できず、ショット社からの買い入れも社内では認められませんでした[1]。やむを得ず新種ガラスを用いずに設計されたスーパー・ロッコールの性能に対しては社内からも不満が噴出し、社外でも雑誌の評価では良いところがありませんでした[2]。レンズを設計したのは「梅鉢」の愛称で知られるSuper Rokkor 45mm F2.8を手がけた斎藤利衛と天野庄之助の師弟コンビです。千代田光学精工がレンズを発売したのは1955年ですので、日本におけるズミクロン神話が生まれる少し前のことでした。レンズは1958年に新型カメラのminolta 35 IIB用と後継モデルのSuper Rokkor 50mm F1.8(設計者は松居吉哉氏)が登場したことで、発売から僅か3年で生産中止となっています。
この時代の日本製品は海外の製品を模倣しつつも、同等の製品を消費者に安く提供することにより評価されました。海外市場でどうにか受け入れられたのはオリジナル製品をただコピーするのではなく、研究と改良を重ね、本家と同等かそれ以上のものに練り上げる日本的なモノづくりの流儀があったからこそです。今回取り上げるスーパー・ロッコールはオリジナルの性能に遠く及ばない製品でしたが、こうした製品に対する世間の目は冷淡でした。

 
参考文献
[1] 「ミノルタ35用ロッコールレンズとその頃の裏舞台」小倉敏布, クラシックカメラ専科 No.58 朝日ソノラマ
[2]  ニューフェース診断室:ミノルタの軌跡  朝日カメラ(2001)
 

入手の経緯
レンズは2018年に国内ネットオークションを介して香川県のセラーから14000円で手に入れました。レンズは美品との触れ込みで、完璧なコンディションのはずでしたが、届いた個体に強い光を通して検査しますと、後玉端部のコーティングに若干の肌荒れ(微かなカビ跡?)がみられました。ただし、写真には全く影響の出ないレベルですので、これで良しとし、静かに引き取ることにしました。レンズの国内ネットオークションでの中古相場はコンディションにもよりますが、10000円から15000円あたりです。このクラスのライカマウントの標準レンズの中では、値段的に最も買いやすいレンズだと思います。


重量(実測)268g,  絞り羽根 10枚構成, 絞り F2-f22, 最短撮影距離 1m, フィルター径 43mm, ライカスクリュー(L39)マウント, 光学系 6群7枚ズミクロン型 
 
撮影テスト
さて、先入観を外してレンズの描写と向き合いましょう。使ってみた正直な第一印象としては、一見線が太いようにも見えるのですが、拡大像にはフレアが乗っており、どっち付かずの中庸な感じがします。個人の好みにもよりますが、せっかくガウスタイプなので、フレアは多少出ても中央部だけはもう少し緻密な像を吐いてほしいと思います。ただし、コントラストは悪くない印象です。ボケは周囲が僅かに流れるものの、ズミクロン同様に大きく乱れることなく、どのような距離でも概ね安定しています。
本家のズミクロンは全方位的に高性能で文句のつけどころのない優秀なレンズとして知られています。模倣した相手が優秀すぎたことが、このレンズの評価に過度な期待をかけてしまいます。しかし、そうした先入観を排除して考えるならば、こうしたレンズがあっても、決して悪くはないとおもいます。
 
F2(開放) Nikon Zf(WB:曇空)
F2(開放) Nikon Zf(WB:曇空)

F2(開放) Nikon Zf(WB:曇空)

F2(開放) Nikon Zf(WB:曇空)


F2(開放) Nikon Zf(WB:曇空)

F2(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2(開放) Nikon Zf(WB:日光)