おしらせ

 
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上野由日路x伊藤弘 オールドレンズ写真学校 写真展 vol.4
11月3-5日 場所は原宿 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

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12月2日(土) 東京ドームシティ イルミネーション撮影散歩&お茶会 詳しくはこちら

TAIR-41Mのブログエントリーに写真を追加
Oo.ema.oOさんにオリンパスPENで撮影したタイ―ル41M(前記モデル)の写真を提供していただきました。

2015/07/27

Carl Zeiss Planar 80mm F2.8 for Graflex XL (グラフレックス・プラナー)




Planar(プラナー)と言えばRolleiflex (ローライフレックス)やHasselblad (ハッセルブラッド)に供給されたレンズがその後のプラナーの評価と人気を決定付けたモデルとして有名であるが、Linhof Technica (リンホフ・テヒニカ)やGraflex XL(グラフレックスXL)に搭載され商業写真や報道写真の分野で活躍したモデルも忘れてはならない存在である。線が細く軽やかでエネルギッシュな描写傾向は戦後のオールドプラナーに度々みられる持ち味の一つであるが、こうした描写傾向はグラフレックス版プラナーにおいてもみられるのであろうか。

駆け足プチ・レポート2
Carl Zeiss Planar 80mm F2.8(Graflex XL)
報道用カメラのSPEED GRAPHIC (通称スピグラ)で名を馳せた米国Graflex(グラフレックス)社。今回取り上げるレンズは同社が1965年から1973年にかけて生産したGraflex XLという中判カメラに対し、旧西ドイツのCarl Zeissから供給された交換レンズである。このカメラに対してはG. Rodenstock (ローデンストック)社からもHeligon (ヘリゴン) 80mm F2.8が供給されており、Planar 80mmとHeligon 80mmがメインストリームレンズという扱いでカメラのカタログに並んで収録されていた。カタログではHeligonについて「求めやすい価格で驚くほど高い性能を備えたレンズ」「ブライダルフォトグラファーの最初の1本に最適」と紹介した上で、Planarについては上位のモデルという位置づけで「色再現・解像力・コントラストにおいて最高画質を求めるならばベストな選択だ」と絶賛している。今回のレンズは何だかとても良く写りそうな予感がする。

レンズの設計構成はGraflex XLの1967年のカタログ[文献1]に5枚と記載があるのみで詳しいことは明らかにされていない。さっそくガラスに光を通すと前群側には明るい反射が4つ、後群側には明るい反射が4つと暗い反射が1つあり、4群5枚の逆ユニライト(逆クセノタール)タイプであると判断できる。このタイプのレンズについてがはZeissのJ.Berger(ベルガー)とG.Lange(ランゲ)による1950年代初頭の研究があり、構成図の米国特許が複数公開されている[文献2-4]。

左はレンズを前玉側からみたところで4つの明るい反射がみられるので構成は2群2枚、右はレンズを後玉側からみたところで4つの明るい反射①②③⑤と1つの暗い反射④がみられるので2群3枚である。構成は明らかに4群5枚の逆Uniliteまたは逆Xenotarであると判断できる


Graflex XL Planarの特徴は後玉が前玉よりも大きい事と包括画角(対角線画角)が58°とやや広い事である。こうした条件にあう構成図を探すと、ZeissのG.Langeによる1954年の米国特許[3]の中の1本が当てはまる(下図)。Langeは有名なRolleiflex 2.8C用Planar (1954年登場)を設計した人物でもあり、J.Bergerと共にHasselbrad 500C用のPlanar 80mm F2.8(1957年登場)の設計にも取り組むなど、プラナーブランドの育ての親と呼べる設計者である。Graflex XL Planarと同一構成で後玉の大きいモデルとしては他にもLinhof TechnicaのPlanarがある。Linhof用とGraflex XL用は生産された時期が近く、イメージサークルやレンズ構成の一致に加え、ラインナップの共通性、前・後玉のサイズや曲率の類似性など共通項は多い。おそらく両者の設計は同一であろう。

G. Lange, US Pat 2799207(1957), FIG.1からのトレーススケッチ。Graflex Planar 80mm F2.8と100mm F2.8の設計構成の原型と考えられる。前玉外側と後玉外側の2面の曲率操作のみでコマの補正をおこなうことができる
Graflex XL用レンズのラインナップには95mmや100mmの焦点距離を持つモデルもある。これらは中判6x7フォーマットでライカ判の標準画角に相当するレンズであり、本来ならばメインストリームレンズになるところだ。しかし、実際には80mmの準広角モデル(ライカ版の焦点距離39mmに相当)の方が多く出ていた。理由は80mmのレンズの方が丈が短く、それまで主流だったフォールディングカメラにギリギリ内蔵できたためである。また、被写体までの距離を詰めることでフラッシュ光を効果的に利用できるというメリットもあった。中判カメラを用いる写真家達の間では80mmの焦点距離が当時の定番となっていたようだ。
 
入手の経緯
レンズは20119月にヤフオクを介してrakringjpさんから落札購入した。商品の解説は「目立つキズはなく美品。些少のスレはあるが打撲キズはない。レンズに目立つキズ、クモリ、カビなどはない。前玉裏側中央に気泡、中玉に僅かにホコリがある。いろいろな部品を組み合わせM42マウントに改造している」とのこと。グラフレックスXLPlanarは後玉径がとても大きく改造の難度は高いはず。どうやってM42マウントに変換しているのかにも興味があった。見ると改造に用いられているパーツやヘリコイドは全て日本製のBORGブランドであり、部品点数も多い。重量級のレンズなので高耐久な部品で固められているのであろう。改造は技巧に富んでおり、相当なアイデアと製作コストが費やされているように感じられた。オークションは予想どうり数人による激しい争奪戦になったが、最後は43800円で自分のものとなった。届いたレンズを改めてみると巨大な後玉を通すために太いヘリコイド(BORG 7757, M57 Helicoid S)が用いられており、ヘリコイドの内径が大きく広げられているなど手の込んだ改造が施されている。貴重なレンズが手頃な価格で手に入り、とてもいい買い物であった。
 
フィルター径: 49mm, 絞り指標: F2.8-F22, 構成: 4群5枚, コンパーシャッター(1/400s),  最短撮影距離 0.75mm, 推奨イメージフォーマット: 中判6x7cm(カタログ値), 重量(実測): 460g (改造品のため部品込), 写真の左と中央ではマウント部の部品を外し後玉を露出させている。右はすべての部品を装着しM42マウントにしたところ




参考文献
[1] Graflex XL (1967) Graflex Inc.; グラフレックスXLカタログ
[2] Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens; ルドルフ・キングスレーク「写真レンズの歴史」 朝日ソノラマ
[3] Gunther Lange, US 2799207 (1954)
[4] Gunther Lange, Johannes Berger, US 2744447 A (1953)
[5] 「オールドレンズレジェンド」澤村徹 著、和田高広 監修 翔泳社 2011年

撮影テスト
軟調系レンズなのにスッキリとヌケが良く発色も力強い。こうした反則的な性質はグラフレックス版プラナーの大きな魅力である。
開放ではピント部を僅かなフレアが纏い、線の細い繊細な描写となる。このためコントラストが低下しシャドーが浮き気味になるが、中間階調は豊富に出ており、発色が淡泊になったり濁ったりすることはない。ハイライトの階調には粘りがあり、露出をハイキーに振っても白とびを起こしにくいため、気持ち良く伸び上るダイナミックなトーンを捉えれば力強く鮮やかな発色と相まって、このレンズならではの素晴らしい描写表現が可能である。良く晴れた日に屋外で用いれば、軽やかでエネルギッシュな写真表現に出会うことができるであろう。
解像力は充分なレベルであるが、補正をチューンし過ぎていないあたりが特徴のようで、背後のボケは適度に柔らかく2線ボケ傾向にも陥らない。「質感の細密描写に偏重しすぎず、あくまでも叙情性を残す」。Graflex Planarはオールドプラナーの描写理念を正しく受け継いだツァイスの正統派レンズである[文献5]。

デジタルカメラ(35mm版フルサイズ機)での写真作例
Camera: Sony A7 / Canon EOS 6D
Image circle trimming tool
F2.8(開放), Sony A7(AWB)+イメージサークルトリミングツール: 近接では線が細く軽やかでエネルギッシュな描写傾向だ
F2.8(開放), sony A7(AWB)+イメージサークルトリミングツール:階調がなだらかなうえハイキーに振っても白とびを起こさずに階調が粘ってくれる
F2.8(開放), EOS 6D(AWB)+イメージサークルトリミングツール:ピント部は四隅まで安定しておりヌケも良い。ここまで開放で3枚撮ったが不安材料は全くない。開放でポートレート域を撮ると距離によっては極稀にグルグルボケがみられることがある

F4, EOS 6D(AWB)+イメージサークルトリミングツール:晴れた日に持ち出し少しハイキー気味に撮ると、雰囲気良く写る

中判6x7フォーマットの銀塩カラーネガフィルムによる撮影
Camera:  Graflex Pacemaker Speed Graphic(4x5) +Horseman Rollfilm holder 6x7cm
Film: Fujifilm Pro160NS (120 rollfilm)

続いてカラーネガフィルムによる撮影結果を示す。レンズの推奨イメージフォーマットは中判6x7cmである。スピグラに中判120フィルム用のロールフィルムバックを装着し定格イメージフォーマットで撮影した。
F8,  銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format ) 伸び上がるハイライト部のグラデーションを大きくとらえることで、エネルギッシュな描写表現が可能である
F8,  銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format )
F2.8(開放), 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format)
F2.8(開放), 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS カラーネガ, 6x7 medium format) 開放でこれだけ写れば充分ではないだろうか
F4  銀塩ネガ撮影(Fujifilm Pro160NS, 6x7 medium format ) ボケは概ねどのような距離でも安定しており、適度に柔らかい


 銀塩カラーネガフィルム(35mm判)での写真作例
Camera: Yashica FX-3 super 2000(M42マウント仕様)
Film: Fujifilm Superia Venus 800 and Kodak Ultra Max 400

今回入手したPlanarはM42マウントに改造されているので、一眼レフカメラでも使用することができる。せっかくなので35mmのカラーフィルムで撮影した結果も提示しておく。もともと中判用のレンズではあるが、35mmフォーマットで用いても画質的に無理はなく、撮影結果は良好である。やはりハイライト部が美しいレンズであるという印象に変わりはない。
F4,銀塩カラーネガ( Fujifilm Superia Venus 800/35mm判) 



F4, 銀塩カラーネガ (Kodak Ultramax 400/35mm判)












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