ヘリコイドチューブ用カメラマウント(中央・シルバー色の金具)、フランジ調整リング(前方・右2枚)、各種ヘリコイドチューブ(後列) |
マニアの野望を叶えるレンズ遊びの究極ツール
ヘリコイドチューブ用カメラマウント x フォーカッシング・ヘリコイドチューブ
ヘリコイドチューブ用カメラマウントとはショートフランジのミラーレス機にフォーカッシング・ヘリコイドチューブというレンズの繰り出し機構を搭載するためのジョイントアダプターである。一般的なマウントアダプターとは異なり、カメラとレンズの間にヘリコイドチューブを内挿させるために用いる道具である。ヘリコイドチューブを導入すればレンズ本体が内蔵ヘリコイドを持つ必要はないため、活用できるレンズの範囲が広がる。バーレルレンズやエンラージングレンズ、複写用レンズ、プロジェクター用レンズ、工業用レンズなどにヘリコイドの繰り出し機構を提供し、これらをミラーレスカメラの交換レンズに変えてしまうマニア御用達のツールなのである。ヘリコイドチューブ用カメラマウント(以下ではCMHTと略称)のオス側は各種ミラーレス機のマウント規格、メス側はヘリコイドチューブのマウント規格(M42やM39などのネジマウント)になっており、搭載したヘリコイドチューブの先端にレンズやレンズヘッドを装着して使用する。最大の難所は使用したいレンズをヘリコイドチューブの先端部のネジ(M39/ M42/ M52ネジ)に取り付けることができるかどうかである。
ヘリコイドチューブには丈の長さ(最短光路長)や繰り出し長の異なる様々なバリエーションがある。ショートフランジのミラーレス機にCMHTを用いれば、使用するレンズのフランジバックに合わせヘリコイドチューブを自由に交換することができる。この種のツールはこれまでも一般的なマウントアダプターと一眼レフカメラの組み合わせにより実現できたが、搭載できるレンズはフランジバックの長いものに限られていた。この制限はミラーレス機の普及とCMHTの登場により大幅に緩和され、フランジバックの短いレンズでも使用できるようになった。最も短い11-18mmのヘリコイドチューブをEマウント機に用いる場合、先端に搭載することのできるレンズの最短フランジバックは30mmである。
CMHT(シルバーカラーの金具)をM42ヘリコイドチューブに装着するところ |
ヘリコイド・チューブへの装着例:左がマウント側、右がレンズ側から見た様子である。ヘリコイドはいっぱいまで繰り出してある。外観は普通のヘリコイド付きアダプターと変わらない |
今回私が入手したCMHTはM42マウントのヘリコイドチューブをSonyのα7やNEXなどEマウント機に装着するための製品である。搭載できるヘリコイドチューブの市販品には下記のようなものがある。
★ヘリコイド・チューブの市販品
ネジ規格:M42(レンズ側)-M42(カメラ側)
伸縮範囲 製品(入手先)
11mm - 18mm 日本製BORG OASYS 7840(Oasis Direct)
12mm - 17mm 中国製ノンブランド(eBay)
15mm - 25mm 日本製BORG OASYS 7842(Oasis Direct)
15mm - 26mm 中国製ノンブランド(eBay)
17mm - 31mm 中国製ノンブランド(eBay)
25mm - 55mm 中国製ノンブランド(eBay)
27mm - 47mm 日本製BORG OASYS 7841(Oasis Direct)
35mm - 90mm 中国製ノンブランド(eBay)
最近は中国製ヘリコイドチューブにも伸縮率の高い製品が次々と現れている。中国製のヘリコイドは筒の出口がややすぼんでおり、Sony A7で中望遠よりも長い焦点距離のレンズに搭載する場合にはケラレが生じることがわかっている。ケラレを避けたいならば日本製BORGブランドの使用をオススメする。BORGブランドでM42-Emountアダプターを構築する場合には、OASYS 7842に1cm長のM42マクロチューブを組み合わせるとよい。
ネジ規格:M42(レンズ側)-M39(カメラ側)
必要に応じてM42-M39ステップアップリングを用いる。
伸縮範囲 製品(入手先)
13.5mm - 23mm 中国製Yeenonブランド(eBay)
15.5mm - 29mm 中国製Yeenonブランド(eBay)
17.0mm - 34mm 中国製Yeenonブランド(eBay)
20.5mm - 45mm 中国製Yeenonブランド(eBay)
22.5mm - 48.8mm 中国製Yeenonブランド(eBay)
ネジ規格:M52(レンズ側)-M42(カメラ側)
伸縮範囲 製品(入手先)
12mm - 17mm 中国製ノンブランド(eBay)
17mm - 31mm 中国製ノンブランド(eBay)
25mm - 55mm 中国製ノンブランド(eBay)
35mm - 90mm 中国製ノンブランド(eBay)
ヘリコイドチューブ用カメラマウント(CMHT)は現在のところ国内での入手ルートがなく、eBayからのみ購入できる。私は中国製のYeenonブランドの製品(ソニーEマウント用)を14.19ドル+送料20ドルで購入した。この製品はマウント部の厚みが1mm(公証値)なので、仮に25-55mmのヘリコイド・チューブと組み合わせEマウント機(フランジ長18mm)に搭載すると、最短フランジ長の合計は44mm (1+25+18mm)となる。M42マウントのフランジ長は45.46mmなので、この組み合わせなら普通のヘリコイド付マウントアダプター(M42-Eマウント)として使用することも可能だ。下のスクリーンキャプチャーは実際にeBayで売られていたCMHTの製品販売ページである。Eマウント用以外の製品ではマイクロ・フォーサーズ用やFuji Xマウント用、EOS Mマウント用があった。
eBayに掲示されているヘリコイドチューブ用カメラマウントの製品販売ページ(画面キャプチャ) |
萌えあがれレンズマニア達!以下では様々なジャンルのレンズに対する装着例を示す。最初は下の写真に示すような、ごく普通(?)のスチル撮影用レンズである。左側はデッケルマウントのSEPTON (ゼプトン)、中央はやはりデッケルマウントであるがロシア仕様の特殊なフランジ長を持つVEGA-3(ベガ3)、右側はMECAFLEX(メカフレックス)用望遠レンズのTELE-KILAR(テレ・キラー)である。デッケルマウント用レンズやレンジファインダー機用レンズは最短撮影距離が1m前後と長く、これまで花や虫などのマクロ的な撮影は諦めなければならなかった。ここにあげた3本のレンズの場合、最短撮影距離はSeptonが0.9m、Vega-3が1m、Tele-kilarが1.5mとなっている。3本ともヘリコイド機構を内蔵したレンズのため、ヘリコイドチューブに搭載するとダブルヘリコイド仕様となり、マクロレンズ並みの近接撮影が可能になる。
VEGA-3はフランジバックが通常のデッケルマウントのフランジよりも2~3mm長く、そのままデッケルレンズとして用いると指標どうりの正しい位置でフォーカスを拾うことができない。こうした製品固有の規格に依存する悩ましい事情も今回紹介するツールを用いれば全く問題にはならない。このレンズに用いるヘリコイドチューブは繰り出し長が最大で3cmにも達するため、2~3mm程度のズレは十分に吸収できるのである。
Tele-kilarはフランジバックが3本のレンズなかで一番短い。このようなレンズには丈の短いヘリコイドチューブを使う。一眼レフカメラには搭載できなかった組み合わせであるが、CMHTとミラーレス機の組み合わによって切り拓かれたレンズの新しい活路である。
ミラーレス機Sony A7へのTele-kilarの搭載例 |
続いて複写用マクロレンズとエンラージングレンズ(引き伸ばし用レンズ)への装着例である。この種のレンズは一般にヘリコイド機構を内蔵しておらずレンズヘッドのみの製品である。フランジバック長の規格が製品モデル毎に不統一なので、ヘリコイドチューブをいろいろ試し最適な組み合わせを模索する必要がある。レンズのマウント部がM39ネジになっているケースが多く、M42-M39ステップアップリングを用いればヘリコイドチューブへの取り付けは容易である。
ミラーレス機Sony A7へのSaphir Bの搭載例。Saphir Bは珍しいPlasmat/Orthometarタイプのレンズである
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最後に中・大判撮影用レンズへの装着例である。この種のレンズも一般には内蔵ヘリコイドを持たないレンズヘッドのみの製品が大半である。フランジバック長の規格が製品モデルごとに不統一なので、ヘリコイドチューブをいろいろ試し最適な組み合わせを模索する必要がある。中・大判撮影用レンズは一部の広角レンズを除きフランジバックの長いものが多いので、ミラーレス機で使用する必要はなく、一眼レフカメラで使用した方がバランス的には快適である。この場合は普通のマウントアダプター(例えばM42-EOSアダプターなど)がCMHTの役割を果たす。CMHTを用いたミラーレス機への搭載はあくまでもフランジバックの短いレンズに対する活路を拓くものであり、フランジバックの長いレンズに対しては必ずしも最良の方法ではない。 せっかくなので最後に写真作例をお見せしよう。100年前に製造された古いレンズを現代のデジタルカメラに装着し楽しむことができるのは、とても幸福なことだと思う。新しい道具の登場が様々な可能性を押し広げてくれる事を今後も楽しみにしたい。
Doppel-Protar 128mm F6.3, 絞りF11, ISO2400, EOS 6D使用(AWB): 戦前に生産された2群8枚の大判撮影用レンズ。マクロ域でも良く写る。このレンズは開放付近で線の細い描写を楽しむことができる。いずれ本ブログでも紹介する予定である |
Dallmeyer Dalmac 4inch(100mm) F3.5, 絞りF11, ISO, Sony A7'AWB): Dalmacはテッサータイプと言われている。こちらも戦前の製品だが良く写るレンズである |
恐れ入りました。
返信削除さるヘリコイド研究家の弟子を自認する私ですが、まったくうまくまとめていただきました。
この記事で、オールドレンズから大昔のレンズまでの愛好者がいっそう増えてくれれば、こんなにうれしいことはありません。
内容が少しマニアック過ぎますので、この手の記事は本Blogで取り上げるしか活路はありません(苦笑)。
削除とても魅力的な記事でした。
返信削除また遊びに来ます!!
情報ありがとうございます。
返信削除この記事をきかっけに e-bay を始め楽しんでおりますし、この部品を手にしたことにより、レンズと名のつくものであれば、大方使える予感がしており、夢が膨らみます。燃え上っております^^
それは良かったです。中国製ヘリコイドをA7で使用する場合、中望遠よりも長い玉ではケラレが発生するそうです。長玉を用いる場合にケラレを避けたいなら、日本製BORGブランドでしょうね。BORG OASYS7842 + M42マクロチューブ(1cm)の組み合わせでカメラマウントにつなげば、普通のM42ヘリコイドアダプターも構築できます。
削除Hello. Do you speak english? probably you can help
返信削除I'm searching for solid focuser for my Sony A7. I bought chinese adapter 17mm - 31mm and it has huge backlash, you can see this effect here https://www.youtube.com/watch?v=sJhRD9bPaS8&feature=youtu.be
I want to ask if Borg 7841 is solild and has no backlash effect like on the video? I want to use it for heavy lens (1, 1.2kg weight)
Hope you understand.
Thanks
I have never experienced such a backlash while using Borg 7841 and Chinese adapter. Your helicoid seems to be bigger type(M52-M42, M58-M58, or M65-M65), isnt it?. Please note that Borg only provides M42-M42 type.
削除I think that a bellows-unit would be better for such a heavy lens.
削除good luck