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2012/06/21

Makina Optical Co. AUTO MAKINON 50mm / F1.7
マキナ光学 マキノン


マキノンレンズ第2弾
マキナ光学のエース
Makinonと言えば1967年に創業し東京・品川区五反田に本社のあった中堅光学機器メーカーのマキナ光学(Makina Optical Co.)が生産したカメラやレンズのブランド名称である。同社は北米を中心に海外での販売に力を入れていたため、国内では影の薄い存在となっているが、eBayなど海外の中古市場には今もMakinonブランドの製品が数多く流通している。同社の製品の中で特に有名なのものは1981年6月に発売された世界初のストロボ内蔵式一眼レフカメラMakinon MKである。このカメラは昭和の写真工業史に名を残す一台として日本カメラ博物館(東京千代田区)にも展示されている。レンズの方もMakinonのブランド名で1974年頃から市場供給されており、8種類の単焦点レンズ(2.8/24, 2.8/28, 1.7/50, 2.8/135, 3.5/200 5.6/300, 8/500, 11/1000)と7種類のズームレンズ(3.5/24-50, 3.5/28-80, 3.5/28-105, 3.5/35-70, 3.5/35-105, 4.5/80-200, 45/75-150)が生産されていた。対応マウントはM42, OLYMPUS OM, CONTAX/YASICA, CANON FD, MINOLTA MD/SR, NIKON F, PENTAX K, KONICA AR, FUJICA X, ROLLEIとたいへん充実しており、同社は互換性と高いコストパフォーマンスで勝負するという明確な販売戦略を打ち出していたようだ。今回紹介するAuto Makinon 50mm F1.7は同ブランドの中でも例外的に入手難易度の非常に高い珍品レンズである。標準レンズが交換レンズとして認知されていなかった時代、サードパーティ製ということもあり殆ど売れなかったのである。設計構成については資料が公開されていないため不明だが、ガラス面への光の反射から推察する限りでは、4群6枚構成のダブルガウスタイプである。
1984年頃に撮影された戸越本社ビル(東京都品川区五反田)屋上の巨大ネオン看板。Makinonレンズを象徴する緑・赤・黄の3色線でデザインされている。この写真はマキナ光学元社員の市川様から提供していただいた

 マキナ光学

創業当時のマキナ光学はOEM製品の生産が中心で自社ブランドを持たなかったが、1974年にマキナ・トレーディング・カンパニーを設立し、橋詰社長、元ヤシカ技術者の花里設計顧問、ジミー中川海外営業部長らの体制で自社ブランドMakinonの輸出販売に力を入れるようになった。1983年には社員数400人、日本各地に9箇所の支社を持つほどにまで事業規模を拡大し、北米や欧州を中心に世界55ケ国で自社製品を販売していた。北米での販売には特に力を入れており、イリノイに拠点となる支社(Makina USA)を置き、独自の販売網とサービス体制を確立していたそうである。
MAKINONに関する貴重な資料本である"MAKINON LENS PHOTOGRAPHY" (Stephen Bayley著)にはレンズ工場の生産ラインの写真が収録されている。写真をよく見ると働いている労働者はパートタイムの主婦ばかりと、いかにも昭和の時代を象徴する工場風景である。日本の光学機器メーカーは低賃金のパートタイム労働者達に支えられ、1970年代から1980年代初頭にかけて黄金期を迎えていたのである。しかし、マキナの経営はその後長くは続かなかった。日米貿易摩擦を発端とする1985年の「プラザ合意」により円の為替相場は急騰し、1985年に1ドル240円あたりを推移していた為替レートは僅か1年で150円辺りまで上昇してしまった。外需に大きく依存していたマキナ光学は大打撃を受け、その後間もなく倒産に追い込まれている。
本ブログで過去にAuto Makinon 28mm F2.8を取り上げてみたところ、ブログの掲示板(こちら)にマキナ光学の元社員の方々が集まり、ミニ同窓会のような雰囲気となった。元社員の方の証言によると、米国ロサンゼルス郡南部Gardena市にあったマキナ光学のサービスセンターは会社倒産後もサービス事業を継続し、1990年中旬頃まで健気にも修理等の対応を続けていたそうである。

入手の経緯
本品は2012年5月にeBayを介して英国の中古カメラショップKNIGHT CAMERAから送料込みの総額58ドル(送料は38ドル)で落札購入した。Makinonブランドは広角レンズや望遠ズームレンズが海外の中古市場に多く流通しているが、今回手に入れた50mmの標準レンズは例外的に入手の非常に困難なレンズである。2010年9月頃にeBayでアラート登録をしてみたものの、その後出品される気配はなく、本品に出会えるまでに1年9ケ月もの歳月を要してしまった。しかも、出てきた個体は不人気のminolta MDマウント(フランジバック長43.5mm)である。予想どうりに入札したのは私だけで、開始価格のまま私の手に落ちてきた。いくら珍品でもマキノンのようなマイナーブランドには誰も注目しないのだろう。商品に対する解説は「中古品。光学系にカビはない。フォーカスリングはスムーズで絞りは正しく動く」と簡素ではあったが、届いた品は全く問題のない良品である。安く入手できたので、こりゃラッキー。
フィルター径 52mm, 絞り値 F1.7-F16, 絞り羽 6枚, 最短撮影距離 0.45m, 重量 205g。ガラス面にはマルチコーティングが施されている。本品はminolta MDマウント
撮影テスト
  • Camera: minolta X-700
  • Film: Kodak ProFoto XL100 カラーネガフィルム
  • Lens: Auto Makinon 50mm F1.7 + Pentaconレンズフード (50mmレンズ専用)
1975年頃のダブルガウス型レンズは画質的に成熟期を迎えており、口径比のやや控えめなF1.7クラスの製品であれば、テッサーやゾナーに勝るとも劣らない安定した描写力を備えている。私が過去に試したレンズは廉価製品から一流ブランドの品まで、どれも素晴らしく安定感のあるレンズであった。大衆向け廉価製品という位置づけにある本品も例外ではなく、高いシャープネスとコントラスト性能、癖の無いノーマルで鮮やかな発色など現代のレンズに近い描写力を備えている。
レンズの収差設計は開放から一段絞ったところで最高の画質が得られる過剰補正である。その証拠に開放絞りではピント部の像がややソフトになり、後ボケには近距離から中距離あたりで2線ボケ傾向がみられる(前ボケは綺麗)。また、ハイライト部の周囲には残存球面収差に由来する美しいフレアの滲みが纏わり付く。コントラストは低下気味で発色はやや淡くなる。開放から一段絞ると解像力は急激に向上し、フレアはすっかり消えてヌケの良い画質となる。近接でも周辺部までスッキリとシャープな描写で、コントラストは良好、発色も鮮やかである。アウトフォーカス部の像は開放から常時安定しており、グルグルボケや放射ボケなどが顕著化することはなかった。
開放絞りで近接撮影をした場合の画質(シャープネス)は実用レベルとは言い難く、ここらあたりにはまだ改良の余地を感じる。同クラスのパンカラーなら解像力が低下していても像の甘さを全く感じさせない絶妙な描写設計を実現しているが、まぁ、ツァイスと比較するなんてマキナには悪い気もする。せめてコントラストの低下だけでも食い止められていれば、さらに完成度の高いレンズだったのであろう。
F2.8 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100): 後ボケには高い安定感があり、周辺像が流れることは殆ど無い。ただし、距離によっては2線ボケ傾向になる事がある。前ボケは綺麗に拡散する
F2.8 銀塩撮影(Kodak Profoto100): 最近接撮影0.45mではこのくらいの距離となる。開放から一段絞ればコントラストが向上しヌケも良好、近接でも充分な画質が実現されている
F8 銀塩撮影(Kodak ProFoto100):  「よわよわカメラウーマン日記」に似てますが、こちらはリアルなジャンプです(笑)
F8 銀塩撮影(Kodak ProFoto100):  マルチコーティング時代のレンズらしく発色はニュートラルだ
F1.7 開放 銀塩撮影 (Kodak ProFoto XL100):  開放絞りではブワッとフレアが発生しハイライト部が綺麗に滲む

Makinonブランドの所有者には牧野さんや槇野さんが多いようで、以前、私が所持していた広角レンズのMakinon 28mm F2.8もヤフオクでの売却時には牧野さんの手に渡っていった。


マキナ光学の関係者の方へ
 マキナ光学元社員のtaniwaki様と市川様が本ブログの過去の掲示板にお知らせの書き込みを投稿されています。両者ともわざわざメールアドレスを公開されておりますので、ぜひご覧ください。こちらです。