おしらせ


2020/04/23

特集:オールドレンズ世界大戦。決戦の舞台はF1.7に!



0.1のアドバンテージを巡りチキンレースを繰り広げた
日本の中堅光学メーカー
6枚構成の明るい標準レンズと言えば戦前に登場したXenonやBiotar、Summar、1950年代に登場したUltronやFlexon /Pancolarが有名で、明るさ(口径比)はいずれもF2でした。一方、1950年代中半になると高性能なガラス硝材が登場し、更に明るいレンズが設計できるようになります。市場での人気は少しでも明るい製品に集まるため、僅か0.1刻みの差を競い、各社レンズの明るさをF1.9、F1.8と変えてゆきます。この流れに警鐘を鳴らしたのはライツとニコンでした。ライツは戦後にF2のSummicronを発売し、現在までレンズの明るさを変えていません。ガラス硝材の進歩によるアドバンテージを明るさではなく画質の向上に費やすことに努めたのです。ニコンもF2からの離脱が明るさの倍化ルールを乱す愚行であると警鐘を鳴らしています[注1]。ニコンやツァイスは1960年代半ばまで、標準レンズをF2の明るさで供給していました。
明るい標準レンズを巡る闘争の中心は血気盛んな中堅メーカーでした。1960年代にはライツを除く大方のメーカーが標準レンズをF1.8の明るさで出すようになります。F1.8のレンズは銘玉揃いなのも事実で、6枚構成でもピント部の性能をどうにか維持することができました。ところが、ここから0.1明るくするというのは簡単なことではなく、技術力やガラス硝材の優劣がレンズの性能に大きな差を生みました。構成枚数を7枚に増やせば明るいレンズを無理なく作れますが、製造コストは高くつき、市場で競争力のある製品にはなりません[注2]。
コストを抑えた6枚玉で技術力を争うというのは、いかにも日本のメーカーが得意とするチキンレースですが、各社一歩も譲らず市場での優位性をかけ、1970年代に決戦の舞台をF1.7へと移行させます。ドイツ勢はF1.8まで日本勢に対抗するも離脱。最終決戦は日本の中堅メーカー達によって繰り広げられたのでした。以下に口径比F1.7の交換レンズの一覧を発売年ごとに列記します。

注1・・・口径比をF1/F1.4/F2/F2.8と√2倍で区分けしたルールで、1段変わるごとに明るさが倍となり、シャッタースピードも倍になります
 
注2・・・Carl Zeiss PLANAR 50mm F1.7(Y/C mount)が7枚玉です
 
(0)Mamiya Sekor F.C. 1.7/58 for Mamiya Prismat NP(1961年) EXAKTAマウント
(1)Minolta MC Rokkor-PF 1.7/55 for SR-T101(1966年)MCマウント
(2)Yashica Auto Yashinon DS-M 1.7/50 for TL-Electro(1969年)M42マウント 富岡製
(3)Konica HEXANON AR 1.7/50 for Autoreflex T3 (1973年) ARマウント
(4)PETRI CC auto 1.7/55 for Petri FTE(1974年) Petriマウント
(5)AUTO-ALPA MACRO 1.7/50 for Si2000(1976年) M42マウント
(6)Auto Chinon MCM Multi-coated Macro 1.7/55  M42マウント
(7)Tokyo-Kogaku RE TOPCOR 1.7/55 for Topcon RE200(1977年)EXAKTAマウント
(8)Ricoh XR Rikenon 1.7/50 for Ricoh XR-1(1977年) M42マウント
(9)Pentax smc PENTAX-M 1.7/50 for Pentax ME/MX(1977年) PKマウント
(10)Makina Opt. auto Makinon 1.7/50 PKマウント(1977年?) 
(11)KMZ Zenitar-M 1.7/50 for Zenit cameras(1977年)M42マウント
(12)Mamiya Sekor CS 1.7/50 for Mamiya NC1000S(1978年) Mamiya CSマウント
(13)Minolta MD 1.7/50 MDマウント(1981年)
(14)鳳凰光学 Phenix 1.7/50 for Phenix DC303(1992年)PK/AI/MD mount
(15)Carl Zeiss Planar 1.7/50 AEJ for Y/C(1975年) ヤシカ/京セラ

今回から毎回2本のレンズを取り上げ、レンズの性能をピント部のシャープネスで比較し、良いほうに軍配を上げます。これは、1965年~1970年代に登場したレンズが像の緻密さを表す解像力よりも写真全体の印象に作用するコントラストを重視した設計になっているからです。コントラストが高ければ発色も鮮やかですし、スッキリとしたヌケの良い描写のレンズとなります。ただし、コントラストが高いだけではシャープな像にはなりません。高い解像力(分解能)とコントラストが両立した時に、はじめて解像感の富んだシャープな像が得られます。
オールドレンズの性質の評価にはシャープネスよりも解像力やボケ味、滲み具合、フレア感、軟調性などを重視する場合が多いので、ここでの性能評価はオールドレンズ選びの参考になりません。むしろ敗北するレンズの中にこそ素晴らしい製品が見つかります。しかし、素晴らしいオールドレンズを発掘することは、本企画の趣旨ではありません。
 
組み合わせを考える際は「中国PHENIX vs ロシアZENITAR-Mの対戦が見たい」「TOPCOR vs SEKORが見たい」「PENTAX-MとMinolta MDは前評判から強豪であることは確実なのでシードにする」「Macro CHINON vs Macro ALPA(COSINA?/CHINON? OEM)が見たい]など他の方のご意見を取り入れました。また、同一メーカーのOEM製品は可能性も含めて直接の対戦を避けています




 
対戦は上のトーナメント表に沿って行い、最後にチャンピオンを決定します。とりあえずアダプターが準備できたレンズから始めますが、組み合わせにアイデアやご要望がありましたら是非お寄せください。ジャッジは自分以外にも何人かのカメラマンに参加してもらい、なるべく複数で行います。まぁ新型コロナウィルスの影響もあるので、どうなることやら先のことはわかりませんが・・・。注意事項として(0)のSekor F.C.は時代的に早すぎる製品ですのでトーナメントからは除外します。4群6枚の背伸びをした柔らかい描写のレンズでしたので出しても初戦敗退となるでしょう。(14)のPhenixは最近まで生産されていた中華ブランドのレンズですが、面白そうなので特別参加させます。ダークホースかもしれませんね。(15)のPlanarは7枚玉ですので参加資格はありませんが、7枚玉にステップアップする時の威力をみるため、最後に6枚玉のチャンピオンと比較してみたいとおもいます。繰り返しますが、評価はシャープネス(コントラスト)一発勝負です。それ以外のレンズの良さについてはレンズの作例紹介の中で取り上げていきたいと思います。


6 件のコメント:

  1. あのPHENIX 50mm f1.7はCIMKO 50mm f1.7を基に設計しました。
    ガラス:ZBaF5-ZBaF20-ZF3-ZF4-LaF3-ZNbF1

    吴俊.DC-303单镜头反光照相机光学设计[J].江西光学仪器,1992,(第1期).

    返信削除
    返信
    1. ご連絡ありがとうございます。
      噂のレベルなのか事実なのかを判断できるような、なにか参考になる資料や文献はありませんでしょうか。サポートしていただけると嬉しいです。

      削除

    2. 吴俊.DC-303单镜头反光照相机光学设计[J].江西光学仪器,1992,(第1期).
      (吴俊, DC-303一眼レフの光学設計, 江西光学儀器, 1992, 第1期)
      江西光学儀器工場(後、鳳凰光学PHENIX)の雑誌に自社の技師の文章です。
      PDFファイル
      https://drive.google.com/file/d/1H0KLe0tofO4B1PMI4pABXCZynwJkat3X/view?usp=drivesdk

      シムコCIMKO=摄美(日本語漢字:撮美)
      “由于我们厂引进了技术条件相同,结构型式与我们选定的初始 结构相同的摄美f/50F1.7标准镜头的技术资料及样品,且经测试,样品成像质量优良,能达到国家I级镜头标准。因此,我们采用上述第二种方法,以摄美f50/ F1.7标准镜头的结构参数作为初始结构参数进行优化设计。”


      Google翻訳の結果を添削したもの:
      「当社の工場では、シムコ f / 50F1.7標準レンズの技術情報とサンプルを導入しました。これは、選択した初期構造と同じ技術条件と同じ構造であり、テスト後、サンプルで撮った画像の品質は優れており、国のI級レンズ基準に到達できます。
      したがって、前述の2番目の方法を採用して、シムコf50 / F1.7標準レンズの構造パラメーターを初期構造パラメーターとして設計を最適化します。 」

      削除
    3. 資料のほうダウンロードできました。ありがとうございました。Phenixをブログで紹介する際の資料にさせていただきます。感謝いたします。

      ところで、私は最近、PHENIXを分解し、設計構成を確認しました。
      設計構成は6群6枚で、後群は3枚のレンズが分離しており
      いただいた資料の構成図とは違う設計でした。

      なにか不可解です。何か、わかることはありませんか?

      削除
    4. PHENIX の50mm 1.7は
      絞り優先ができない一代目と
      絞り優先ができる二代目の区別が有ります。
      もしかしたら、資料の構成図は一代目の設計ですが、二代目レンズの構成が変更されたかもしれません。

      削除
    5. はい。バルサム剥離では絶対にありませんので、二代目のレンズ構成が変更されているのかもしれません。

      削除

匿名での投稿は現在受け付けておりませんので、ハンドルネーム等でお願いします。また、ご質問を投稿する際には回答者に必ずお返事を返すよう、マナーの順守をお願いいたします。