おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2016/09/25

Hugo Meyer Doppel-Plasmat 12cm F4(Plasmatlinse 20cm F8 x2)



歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part 1
ルドルフ博士の手でブラッシュアップされた
分離型ダゴール
Hugo Meyer Doppel-Plasmat (ドッペル・プラズマート) 
12cm F4 (Plasmatlinse 20cm F8 x2)
古典レンズ愛好家の知人からフーゴ・メイヤー(Hugo Meyer)社のドッペル・プラズマートを試写させていただく機会を得たので、軽くレポートすることにした。ドッペル・プラズマート[以下プラズマートと略称]のルーツは1903年にドイツのポツダムを本拠地としていたシュルツ・アンド・ビラーベック社(Schultz and Biller-beck) [以下SBB社]の設計士E.アルベルト(E.Arbeit)が、ダゴール(Dagor)の内側の張り合わせをはがし明るさを向上させたオイリプラン(Euryplan)であるとされている[1,2]。SBB社は協力関係にあったフーゴ・メイヤー社に1914年に買収され、これ以降のオイリプランはフーゴ・メイヤー社から供給されている[5]。オイリプランは1918年に同社のレンズ設計士パウル・ルドルフ(P.Rudolph)博士の手で改良(再設計)され、口径比をF4/F4.5まで明るくしたドッペル・プラズマートおよびザッツ・プラズマート(Satz Plasmat)を生み出す原型となった。なお、プラズマート発売後もオイリプランの供給は続き、同社の1936年と1938年のカタログにはオイリプランF6~F6.8とプラズーマートF4/F4.5のそれぞれを確認することができる[5,6]。プラズマートはルドルフの名声とともに人気を博し、実際にとても良く写るレンズであったが、第二次世界大戦後は供給が途絶えてしまった。大判撮影や複写・引き伸ばし撮影の分野ではそれなりに需要のあるレンズであったが、突然供給を打ち切ってしまった理由は伝わっておらず、メイヤー社のミステリーの一つとして海外の掲示板等では今も議論が絶えない。
DagorからDoppel-Plasmatへの構成図の変遷:左はダゴールF6.8(E.フーフ, 1882年)[4]、中央はオイリプランF6 (E.アルベルト, 1903年)[2]、右はドッペル・プラズマートF4(P.ルドルフ, 1918年)[3]の構成図(見取り図)。オイリプランはSBB社のカタログからではなくHugo-Meyer社のカタログ[5]からのトレーススケッチである。オイリプランとドッペル・プラズマートはダゴールの内側にある張り合わせを外し空気層を設けることで球面収差の膨らみ(輪帯球面収差)を劇的に抑えることに成功したレンズである



オイリプランをルーツとするプラズマート型レンズは写真の四隅まで解像力が良好なうえ、色ずれ(カラーフリンジ)を効果的に抑えることができ、広いイメージフォーマットの隅々までフィルムの性能を活かしきることが求められる大判撮影や中判撮影にも余裕で対応することのできる[7]。また、絞っても焦点移動が小さいため、引き伸ばし用レンズとしての適性にも富み、この分野ではワンランク上の高級モデル(テッサーの上位モデル)に使われることが多い。明るさはF4程度までのため高速シャッターで手持ちによる撮影を基本とする35mm判カメラの分野で広まることはなかったが、画質には定評があり、プロフェッショナル製品の分野では現在も活躍を続ける優れた設計構成として認知されている。同型構成(プラズマート型)のレンズとしてはツァイスのオルソメタール(Orthometal) F4.5、ポアイエ(Boyer)社のサファイア(Saphir) 《B》、ロシアのRF-240 (LOMO製)やルッサー・プラズマート(Russar-Plazmat)などが古くから知られており、現行レンズではシュナイダー社(Schneider)のコンポノンS F4とジンマー F5.6がある。
Doppel-Plasmat 12cm F4(前後群にPlasmatlinse 20cm F8を配置): フィルター径 34mm, 重量(実測) 225g, シャッター Compur #1, 絞り羽根 10枚, 絞り値 F4-F18.25, 構成 4群6枚, 推奨イメージフォーマットは3x4 inch




★参考文献
[1]Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens, Academic Press(1989); 写真レンズの歴史 ルドルフ・キングスレーク(著) 雄倉保行(訳) 朝日ソノラマ(1999年)
[2] Euryplanの特許:DE Pat.135742(1903); UK Pat.2305(1903)
[3] Doppel-Plasmatの特許:DE Pat.310615(1918); UK Pat.135853(1918)
[4] Dagorの特許:DE Pat.74437(1892); US Pat.528155, UK Pat.23378(1892)
[5] A Catalogue of Photographic Lenses, Hugo Meyer & Co. (1936)
[6] The British Journal Almanac Advertisements (1938) pp.567
[7] レンズ設計の全て 辻定彦著 東海大学出版会

撮影テスト
プラズマートは柔らかい像の中にも芯があり、線の細い緻密な開放描写を持ち味とするレンズである。解像力は高く、大判で撮るとギッシリと詰まったきめの細かな写真になる。基本的に軟調系のレンズではあるが、ゴーストやハレーションが少ないため発色は濁らず、開放でのしっとり感と相まって、ポートレート撮影においても大きな力を発揮できる。絞るとスッキリとヌケのよいクリアな描写が得られ、コントラストも向上するが、階調が硬くなることはない。像面特性は良好で、ピント部、アウトフォーカス部とも四隅まで画質に安定感があるため、定格より一回り大きな大判イメージフォーマットにも余裕で対応することができる。そのぶん写りは平面的で立体感は乏しい。グルグルボケや放射ボケ、2線ボケ等の乱れは全く見られず、柔らかく上品なボケ味である。
このプラズマートの特徴について設計者ルドルフは「通常のレンズよりも被写界深度が深い」(つまりボケにくい)と述べており、キングスレークは著書[1]の中でそのことを真っ向から疑問視している。ルドルフが言いたかったのは像面が平坦なためにおこる立体感の欠如(ティルト・シフトを行う時のように像面が傾いたり曲がったりすると見かけ上では被写界深度が浅いと感じてしまうが今回はその逆のケース)だったのではないだろうか。

大判4x5フォーマットでの写真作例
メーカーが推奨するイメージフォーマットは3x4インチであるため大判4x5インチは一回り大きいが、実際に使ってみると四隅の像にも乱れはなく、安定感のある素晴らしい画質であることがわかる。イメージサークルに余裕がれば、もう一つ上の大判5x7フォーマットにも対応できそうな感触だ。
 
 CAMERA:  PaceMaker Speed Graphic
 FILM: FUJICOLOR Pro160NS(4x5 inch) 銀塩カラーネガ
  SCAN: EPSON GT-9700F フラットヘッドスキャナ
絞り: F6.3, 大判4x5フォーマット(Fujifilm Pro160NS 銀塩カラーネガ), Camera: Pacemaker Speed Graphic, Scannar: EPSON GT-9700F: 軟調で緻密、濁りのない発色が美しく、とても好きな階調描写だ。強い日差しの下でも階調が硬くなることはない。画質の平坦性が高く絵画的な描写傾向はこのレンズの大きな特徴である

中判6x6フォーマットでの写真作例
中判6x6フォーマットはメーカーの推奨する規格よりも小さなイメージフォーマットであるが、迷い光による写真画質への影響はみられず、中判カメラでも無理なく使えそうだ。
CAMERA: Bronica S2
FILM:  FUJICOLOR Pro160NS(4x5inch) 銀塩カラーネガ
F4(開放), 中判6x6フォーマット(Fujifilm Pro160NS 銀塩カラーネガ): 開放ではしっとり感の漂う上品な描写で、ポートレート撮影でも十分に通用する。背後のボケはとても美しい。セコニックの露出計を娘に奪われ、仕方なくスマートフォンの露出計ソフトでシャッタースピードを決定した

F8(開放), 中判6x6フォーマット(Fujifilm Pro160NS 銀塩カラーネガ): 絞ればコントラストは向上し、スッキリとヌケのよい描写だ。四隅まで画質の均一性が高い












0 件のコメント:

コメントを投稿

匿名での投稿は現在受け付けておりませんので、ハンドルネーム等でお願いします。また、ご質問を投稿する際には回答者に必ずお返事を返すよう、マナーの順守をお願いいたします。