おしらせ

2025/06/27

YASHICA Auto YASHINON 5.8cm F1.7 (pentamatic II)



1960年登場、時代を先取りした世田谷光機の大口径標準レンズ part 2

YASHICA (SETAGAYA Koki OEM Product) YASHINON 5.8cm F1.7  PENTAMATIC mount

前回の記事で取り上げたSEKOR 58mm F1.7は世田谷光機がマミヤの一眼レフカメラPrismat NP(1960年発売)と、Prismat WP(1961年発売)に搭載する交換レンズとして供給したマミヤブラントのOEM製品です。じつは、これとほぼ同時期に中身の同じ覆面レンズが、YASHINONの名称でヤシカにもOEM供給されました。ヤシカが1961年に発売したPENTAMATIC IIという一眼レフカメラに搭載する交換レンズのYASHICA YASHINON 5.8cm F1.7です[1]。光学系は同一なので写りもSEKORと全く同じですが、こちらのレンズで一つ残念なのはPentamaticマウントが特殊なため市販品のマウントアダプターが存在しないことです。レンズを現代のデジタルカメラで使用するにはマウント部分を改造するか、このマウント規格に対応したアダプターを自作する必要があります。レンズの設計構成は下図にしめすような、オーソドックスな4群6枚のガウスタイプで、開放F値1.7を実現するために分厚い正レンズを用いて屈折力を稼いでいます。このクラスのレンズであれば張り合わせ面を外し空気層を入れる構成が多いと思いますが、このレンズにはそれがありません。

設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。左が被写体側で右がカメラの側となります.構成図はPentamatic II instruction manualからのトレーススケッチです
 

入手の経緯

レンズは特殊なマウント規格ですので、レンズ単体での流通は少なく、カメラ本体とセットで売られているケースが大半です。カメラは国内の中古店やネットオークションに常に流通しており、取引額は1~2万円程度です。私はメルカリで故障したカメラとコンディション不明のレンズがセットになった商品を4500円で入手しました。カメラからはマウント部を取り出し、アダプターづくりの材料としました。レンズの方は幸いにもコンディションがよくガラスが綺麗でしたので、ヘリコイドグリスのみ交換して使うことにしました。レンズはずしりと重く、アルミなどの軽金属がまだあまり使われていない印象です。ヘリコイドを分解清掃しグリスを交換したのですが、ピントリングには依然としてトルク感があります。この時代のレンズは、こんなものなのでしょう。

 

撮影テスト

前回取り上げたMAMIYA SEKOR F.C. と同一設計のレンズですので、解説はそちらと同じです。開放では写真の中心部のみシャープでスッキリと写り、中心から外れたところでは微かなフレアが被写体の表面を覆っています。オールドレンズならではの柔らかい質感表現です。ただし、ピント部の像は四隅まで緻密に解像されており、線の細い繊細な描写となっています。開放でフレアが出るぶんコントラストは控えめで、トーンは緩くなだらかなため、味のある美しい描写を楽しむことができます。ボケはやや硬めで、輪郭を残したザワザワとしたボケ味です。反対に前ボケはフレアに覆われ非常に柔らかいボケ味です。過剰補正気味の設定にして解像力を優先させている事がボケ味から間接的に確認できます。後のカラー時代のレンズではコントラストを重視していますので、通常ここまで過剰補正にはしません。近距離では背後にグルグルボケが出ます。絞りはよく効き、絞り込むとキリっとしたメリハリのあるトーンとすっきりとした描写に変わります。

F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日陰)

F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 日陰)


F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)
F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)
F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 日陰)
F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)
F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

2025/06/15

Imaging of lens configurations with an X-ray CT system


X線CT装置で

レンズの構成を解明する

X線CTとはX線が物体を透過しやすい性質を利用し、内部構造を画像化することのできる撮影技術です。一般には人体内部の撮影に用いられる医療機器として認知されていますが、用途はもっと広範囲に及び、産業用に特化した装置もあります[1]。非破壊で内部構造を可視化できるため、よく知られている用途としては、貴重な仏像の内部を撮影し「像内納入品」を調べたり、ピラミットから出てきたミイラの撮影に用いた事例があります[2]。X線は物質の密度や組成によって透過度が異なります。密度が高くまた原子番号が大きいほど、X線は透過しにくくなります。この特性を利用して、X線CT法では異なる物質で構成された物体の内部構造を可視化することができます。ガラスと金属でできた写真用レンズはX線CT装置を活かすことのできるよい事例です。今回はガラスの部分を可視化してみることにしました。使用したレンズは長らく構成が不明だったアリフレックス版プリモプラン3cm F1.9です。

プリモプランと言えば、スチル用に供給された4群5枚(いわゆるプリモプラン型)が最も一般的な構成ですが、Cマウント用に供給された4群4枚のエルノスター型もあります。自分の知っているプリモプランはどれも収差が強く、グルグルボケがきつめに出るなどハッキリとした特徴がみられます。これに対し、今回取り上げるアリフレックス用プリモプランは収差による画質の乱れが殆ど見られず素直で高性能、業務用(映画用)の用途に耐えうる高い性能基準を満たしており、どこか毛色の異なる印象をうけます。おそらくガウスタイプかエルノスタータイプあたりではないだろうかと考えられますが、結果は後ほど。

 
レンズ構成が知りたければ、分解して直接確かめればよいではないかという意見もあり、ごもっともです。しかし、今回取り上げるような古い業務用レンズの場合には事情がやや異なり、鏡胴にレンズを収める組立工程において、レンズエレメントを光軸の周りで回転させ、ベストな描写性能が出る位置にレンズエレメントが固定されています。レンズの不用意な分解は性能を低下させてしまうリスクがあるので、できれば分解は避けたいところです。X線CT装置を用いる事には意味があります。それでは撮影結果を何枚かお見せします。
 





はい。プリモプラン型(4群5枚)です。どうもお騒がせしました🙇。レンズ構成が判明しスッキリしましたので、今回の記事はここで終わりです。撮影結果から構成図を起こすと、下のようになります。
  


参考資料

[1] ZEISS:  X線CT装置の内部構造と機能解説 

[2] 「X線CTスキャン装置を用いた仏像調査」文化財のトビラ084, 文化庁

 

謝辞

tailさんらのご協力に感謝いたします。