ロシア製マクロレンズの決定版
MC VOLNA-9はロシア(旧ソビエト連邦)が1980年代中ばから1992年頃までモスクワの近郊都市リトカリノにあるLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)で製造した50mm/f2.8の単焦点レンズだ。光学系の構成は5群6枚のガウス型であり、近接時において高い描写力(解像力 etc...)が得られるように設計されたマクロ撮影専門のレンズである。近接撮影時の最大倍率は0.5倍(最短撮影距離は24cm)であり、花や虫を大きく写すことのできる。マクロ専門とは言うが、通常の撮影でも普通に使うことができ、普通レンズよりシャープな撮影結果が得られる。eBayでの実売価格は150㌦程度とマクロレンズとしてはかなり手頃な価格で取引されている。設計が新しく良く写く写ると評判であり、コストパフォーマンス抜群のレンズとして高い人気がある。
鏡胴は金属製のため重量感があり、手にとるとズシリと重い。また、バレル径が太くヘリコイドの繰り出し量が長いことから、ピントリングの回転にはかなりのトルク感を感じる。ガラス面に施されている光の反射防止膜はマルチコーティングとなり、内面反射を軽減することでフレアやゴーストなどが発生しにくいハイコントラストな描写力を実現している。5群6枚という設計は過去に取り上げたテッサータイプのマクロレンズ(マクロキラーやインダスター61)よりも豊かな階調変化と緻密な解像力を実現してくれそうだ。似たような構成(ガウス型)のレンズに本ブログで過去に取り上げたSteinheil社のMacro-Quinonという優秀なマクロレンズがあるが、反射防止膜がマルチコーティングである分、このレンズよりもVOLNA-9のほうがハイコントラストな撮影結果が得られるのではないかと思われる。いかにも良く写りそうなレンズだ。
なお、本レンズは星型の絞り羽根を採用したことにより、アウトフォーカス部に置かれた点光源の像が幻想的な星の形に姿を変える有名な星ボケを発生させることができる。
焦点距離 50mm, 絞り値 F2.8--F16, 重量340g , 最大撮影倍率 0.5 最短撮影距離 0.24m, 絞り羽根の枚数 6, フィルター径 52mm, 光学系 5群6枚で1983年に設計された, 絞り機構はプリセット式。コーティングの色は赤紫。対応マウントはM42に加え、PENTAX Kマウント(レアな限定版)のMC VOLNA-9Kも存在する
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VOLNA-9のガラス面にはINDUSTAR 61L/Z-MCのガラス面に対し1980年から1985年まで施されていた紫色のコーティング(つまり「お古」)が施されているようで、その証拠にINDUSTAR 61L/Z-MCのコーティングはVOLNA-9の生産が開始された頃の時期を境目に、紫色のタイプからゴールド色の新しいタイプに変更されている。また、VOLNA-9の絞り羽根にはINDUSTAR 61L/Zと同じ6枚構成の星形の羽根が使われており、製造ラインの一部を流用した生産体制だったと思われる。
★入手の経緯
VOLNA-9は海外の中古市場で常時出品されている流通量の多い品である。eBayでの相場は送料を含め150㌦程度のようで、主にウクライナの中古カメラ業者が売りさばいている。本品もウクライナの業者から2010年9月に送料込みの総額141㌦にて購入した。出品時における商品の状態はMINT(新品同様)との解説で、同じ業者がMINTと記し販売していた3本の同一レンズの中で鏡胴やガラス面の状態が最も良さそうに見えた。しかし、届いた品には運悪く中玉に製造時由来の小さな気泡が1つあった。
★撮影テスト
ピント面はたいへんシャープで解像度が高く、開放絞りからスッキリとクリアに写る。単色5収差と色収差は良く補正されているようで、ピント面・アウトフォーカス部ともに良く整った乱れの少ない結像である。色滲みもなく、これはもう現代的な描写力を持つレンズである。絞り羽根の形が星型となるF5.6からF8の間のボケ味は独特で、アウトフォーカス部にガサガサとした細かい濃淡変化がある場合にはその輪郭がザワザワとざわめき面白い作風が得られる。ただし、収差由来の2線ボケとは異なり、輪郭の結像自体が乱れるわけではないので、汚い感じにはならない。発色は癖もなく自然で、赤がビビットに表現される点が好印象だ。やや温調という噂を海外の掲示板で耳にするが、本ブログで検証するまでは至ってない。ガラス面にはマルチコーティングが施されており、シャープでハイコントラストな描写力と個性豊かな表現力を備えた優秀なレンズである。
F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: クセのない自然な発色だ。ガラス面はマルチコートされているので、晴天下でもフレアの発生は滅多にない。すっきりシャープに写るレンズのようだ
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F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: 出ました秘技「星ボケ」。絞り値がF5.6-F8で発生する。被写体に近付いて接写撮影することが星を引き出すコツだ。このような星型の絞り羽根を持つレンズとしては本品以外にINDUSTAR 61L/ZやHelios-40がある
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F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: 背景にガサガサしたものがあると距離によっては星形の絞り羽根の歪さがザワザワとした独特のボケ味を生む
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F8 Sony NEX-5 digital, AWB: アウトフォーカス部がこういったシンプルな場合(普通の場合)には絞りバネの歪さがボケ味に影響することはない
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上段/下段ともF8 Sony NEX-5 digital, AWB: マクロレンズの醍醐味はこういうものを大きく写せること。マクロ撮影時は被写界深度が薄くなるので、いつもより深く絞り込むのがポイントだ
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F5.6 Sony NEX-5 digital, AWB: 赤はたいへんビビットだ
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F8 Sony NEX-5 digital, AWB: 距離によっては絞り羽根の影響でボケ味がトゲトゲするが・・・
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F8 Sony NEX-5 digital, AWB: そうかと思うと、このように何ともないケースもある。ピント面から背景の被写体までの距離の問題なのであろう
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★撮影機材
INDUSTAR 61L/Z-MCを使用して以来、ロシアンレンズの高い描写力にすっかりと魅せられてしまった。今回注目したMC VOLNA-9も期待を裏切らない素晴らしいレンズであることがわかった。安価にマクロ撮影を楽しみたい方には、このレンズはオススメしたい。ついでに星ボケも楽しめるし。