シャハトの一眼レフカメラ用レンズ part 2
ベルテレの広角ゾナー part 2
ゾナーから派生した
レトロフォーカス型広角レンズ
A.Schacht Ulm TRAVEGON 35mm F2.8
1945年にドイツは降伏し終戦を迎えます。ところが、シャハトは終戦後もナチ・イデオロギーを改めることはなく、そのことが原因でSteinheil社を解雇されてしまいます。経済的・社会的に孤立したシャハトは1948年に自身の光学メーカーA.Schcht社を興しますが、こんどはベルテレがレンズ設計者としてシャハトに助けの手を差し伸べることとなるのです。こうして生まれたのがシャハトのレンズ群で、今回ご紹介するTRAVEGONはその中でも、ベルテレらしさを放つ独創的なレンズでした。レンズ構成を下図に示しすが、設計はゾナー同様に3群構成で、SONNARの前玉を正の凸エレメントから負の接合エレメントに置換して生み出されたユニークな形態で、Carl ZeissのBIOGON同様に広角ゾナーの一形態と言えます。広く言えばこれはレトロフォーカス型広角レンズの仲間ですので、短い焦点距離でありながらもバックフォーカスが長く、SONNARファミリーでありながらも一眼レフカメラに適合しています。シャハトとベルテレの友情が生み出した他に類を見ない設計のレンズがTRAVEGONなのです。
[1] Marco Cavina, Le Ottiche Di Bertele Per-Albert Schacht --Retroscena
[2] Erhald Bertele, LUDWIG J. BERTELE: Ein Pionier der geometrischen Optik, Vdf Hochschulverlag AG (2017/3/1)
[3] 特許資料 (1956年)L.J.Bertele, Switzerland Pat.2,772,601, Wide Angle Photographic Objective Comprising Three Air Spaced Components (Dec.4, 1956/ Filed June 13,1955)
A.Schacht Ulm S-TRAVEGON 35mm F2.8 R: 絞り羽 6枚, フィルター径 49mm, 最短撮影距離 0.5m, 重量(実測) 202, 絞り F2.8-F22, 3群7枚TRAVEGON型, この個体はM42マウント |
★レンズの相場
A.Schacht社のレンズは近年、再評価がすすみ、ベルテレの件もあって国際相場は上昇傾向にあります。トラベゴンも既にeBayでは400ドル以上の値で取引されています。ただし、日本ではこのような情報の流通が遅く、ヤフオクなどでは今だに3~4年前の値段(1.5~2万円程度)で取引されています。安く手に入れたいなら流通量こそ少ないですが、日本の国内市場が狙い目です。
★撮影テスト
SONNARの形質を受け継いだ線の太い力強い描写が特徴で、欠点の少ない優秀なレンズです。開放からスッキリとヌケがよく、シャープな描写で発色も鮮やかです。フレアは開放でも殆ど出ません。ピント部の画質は四隅まで安定しており、レトロフォーカスレンズらしく周辺部の光量落ちも殆どありませんし、ボケも四隅まで安定しています。ただ、背後のボケはポートレート域でゴワゴワとやや固めの味付けになり、被写体までの距離や背後までの位置関係によっては2線ボケ傾向が見られます。もちろん近接では収差変動が起こり、ボケは綺麗になります。
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰)開放から充分なコントラストです。ボケが少し硬めですね |
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) 歪みは微かに樽形ですが、よく補正されています |
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 逆光にはそこそこ強いです |
★Travegon+Fujifilm GFX100S★
F8 Fujifilm GFX100S(35mmフルフレームモード 少し左右をクロップ, Film Simulation: Standard) |
F5.6 Fijifilm GFX100S(35mmフルフレームモード, WB:⛅) |
F4 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio: 16:9, FilmSimulation: E.B, Shadow tone :-2, Color:-2) |
F4 Fijifilm GFX100S(Film simulation E.B, Shadow tone:-2, Color:-2) |
F2.8(開放) Fijifilm GFX100S (35mmフルフレームモード, Film Simulation: Standard) |