おしらせ

2020/05/29

Yashica Auto Yashinon DS-M 50mm F1.7 vs Makina Optical Co. Auto Makinon 50mm F1.7


part 2 (1回戦B組)
マルチコーティングをいち早く導入した2社
富岡光学の底力を相手にマキノンの下剋上なるか!?
Yashinon DS-M vs Makinon
コーティングとはレンズのガラス表面を薄い金属の被膜で覆い、ゴーストとグレアの原因となる光の反射を抑え、写真のコントラストとシャープネスを向上させる技術です。コントラストが上がれば発色はより鮮やかになり、ピント部の解像感(シャープネス)もより強くなります。それが良いかどうかは別としても、高性能な現代のレンズの描写に近づくわけです。また、コーティング膜を層状に重ね、光の波長ごとに反射を防止するマルチコーティング(MC)という技術もあります。今回はMCをいち早く導入した2本のレンズの対決を楽しんでください。

1本目は現・京セラ(旧・八洲光学精機)のYASHICA(ヤシカ)から登場したAuto YASHINON DS-M(ヤシノン) 50mm F1.7です。このレンズは一眼レフカメラのYashica TL Electroに搭載する交換レンズとして1969年から市場供給されました。レンズを製造したのは富岡光学(こちらも現・京セラ)で、同社はYASHINONブランドに多数のOEM製品を供給しました。富岡光学と言えば後にYASHICAがCONTAXブランドでカメラを製造を始めた時代にCarl Zeissブランドのレンズの生産を請け負った伝説のメーカーで、同社にはZeissも認める高い技術力がありました。富岡光学が製造したレンズには今でも大変な人気が集まります。レンズの構成図は手に入りませんが、F1.7クラスとしては最も一般的な5群6枚の拡張ガウスタイプです。前群の貼り合わせを分離し球面収差の補正効果を高めることで、F1.7の明るさながらもF1.8クラスのレンズと同水準の画質になるよう工夫されています。ただし、6枚のレンズ構成でこの0.1の差を詰めるのは富岡光学といえども容易なことではなかったはずです。同社がこの難所をどう攻略したのか、想像するだけでもワクワクします。
 
これに対するのはAuto Makinon 50mm F1.7(オート・マキノン)で、東京・品川区五反田に本社のあったMakina Optical Co.(マキナ光学)が1970年代半ばに市場供給した標準レンズです。同社のレンズは一眼レフカメラの主だったマウントに対応しており、私が確認した限りでは少なくともM42, OLYMPUS, CONTAX/YASICA, CANON, MINOLTA, NIKON, PENTAX, KONICA, FUJICA X, ROLLEIに対応した製品個体が存在しています。マキナ光学は北米を中心に海外での販売に力を入れていたため国内では影の薄い存在となっていますが、eBayなど海外の中古市場には今もMakinonブランドの製品が数多く流通しています。レンズの鏡胴にはMCをイメージさせるグリーンのロゴと緑・赤・黄の三本線のデザインがあり、マルチコーティング(MC)をいち早く導入していたことが同社の製品の売りだったのは間違いなさそうです。最短撮影距離も0.45mと短く設計されており、レンズ専業メーカーらしい意欲的な製品仕様となっています。構成図は手に入りませんが、設計構成はF1.7クラスのレンズにしては珍しい4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。



 
入手の経緯
今回のYashinonはメルカリにてカメラ(YASHICA AX)とセットで5000円で購入しました。レンズのコンディションは「チリ、ホコリのない美品」とのことで状態のよいレンズが届いたのの、ピントリングのローレットにべた付きがあったので交換しました。このレンズは流通量がとても多いので、状態のよい個体を安く購入することも可能です。
Auto Makinonの方は2020年3月にドイツのショップからeBayを経由し即決価格5800円+送料で購入しました。オークションの記載は「ペンタックスKマウントのとてもコンディションの良いレンズ。鏡胴に僅かにスレ傷がある」とのこと。ガラスは拭き傷すらない状態の良いレンズでした。Makinonブランドは主に海外で販売されたため、国内のショップなどで見かけることは、ほぼありません。手に入れるなるとeBayなどを経由し海外からとなります。時間をかけて探せば5000円以下(送料込み)でも買えると思います。
 
撮影テストAuto YASIHNON DS-M 50mm F1.7
開放からコントラストは高く発色は鮮やかでスッキリとしたヌケの良い描写、まるで現代レンズを使っているような感覚をおぼえます。ピント部のシャープネスは高く、細部まで緻密な像が得られます。コレが本当に1969年製のレンズなのでしょうか。富岡光学の底力をまじまじと感じます。マキノンにはかわいそうでしたが、これは間違いなく優勝候補です。シードに入れるべきだったかな・・・。
 
YASHINON @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)開放でこの描写・・・。全く滲みませんしフレアも出ません。笑ってしまいました

YASHINON @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)

YASHINON @ F4 sony A7R2(WB:日光)

撮影テストAuto MAKINON 50mm F1.7
開放からコントラストが高く発色は鮮やかで、とても良く写ります。ただし、開放では解像力があまりないのか緻密な描写表現は苦手のようです。せっかくのコントラストも細密描写がなければ解像感(シャープネス)には連動しません。まぁ、フィルムで撮るにはこの位の解像感でも十分だったのかもしれません。写真を大きく引き伸ばす必要がないのであれば、かなり綺麗な現代レンズ的な写真が撮れます。
 
Makinon @F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)
Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)
Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)
Makinon @ F2.8 sony A7R2(WB:日光)

Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)

Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光 APS-C mode)



Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)  解像力はせいぜい、こんなもんです。フィルムで撮るにはこのくらいでも十分だったのかもしれませんが

 
両レンズの描写比較
写真全体の印象を決めるコントラストや発色の鮮やかさは両レンズともたいへん良好で大差はなく、マルチコーティングの効果がよく出ていると思います。ただし、シャープネスはYashinonの方が高い結果となりました。
Makinonはピント部を拡大すると被写体の表面を若干のフレアが覆っており、背後の玉ボケの輪郭部の強度分布に大きな偏りがあるなどコマ収差が多く発生しています。一方でYashinonは拡大してもスッキリとクリアに写り、細部まで解像感の高い描写です。背後のボケは写真の中央から四隅に向かう広い領域で綺麗な円型になり、玉ボケの輪郭部は均一な強度でした。Makinonのフレアが過剰補正の兆候である場合、1段絞ると解像力とシャープネスが急向上し、Yashinonを追い抜く可能性もあります。しかし、F2.8での比較時もYashinonの描写力はMakinon追撃を寄せ付けませんでした。富岡光学の設計力をまじまじと感じる結果です。私個人はマキナ光学の信者ですのでMakinonには下剋上を期待していましたが、今回の対決はYASHINON DS-Mの圧勝で予想どおりの展開になってしまいました。
 
Makinon @F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光 Speed:1/640 ISO:100 三脚使用) 


Yashinon DS-M: F1.7(開放) sny A7R2(WB:日光 ISO:100 speed:1/640 三脚使用) 



 

 
富岡光学が素晴らしいと世間で評判なのはZeissに技術力を認められた経緯があってのことです。ただし、それがどう素晴らしいのか、私自身は正直なところ、よくわかりませんでした。でも、今回の比較テストで富岡光学は本当に超一流メーカーだったのだと認識することができました。Makinonのハッとするような高いコントラストにも驚くべきものがあます。当初から何かやらかしてくれるものと個人的にマキノンを応援していたのですが、対戦した相手が強すぎました。

2020/05/05

試写記録: SANKYO-KOKI KOMURA 105mm F2.5 (M42 mount / Komura Uni M48/0.75 mount)

F2.5(開放)sony A7R2(WB: 日陰)シャープで線太の力強い描写です。背後のボケは柔らかく綺麗な拡散です

F2.5(開放)sony A7R2(WB: 日陰)距離によっては少しグルグルボケが出ます。新型コロナウィルスによる外出自粛期間のため、写真作例が少ししかありません・・・

試写記録:これもあれもエルノスター!三協光機の望遠レンズ
SANKYO-KOHKI KOMURA 105mm F2.5(M42 mount)
三協光機の明るい望遠レンズは海外で人気があり、珍しいエルノスター型の構成を積極的に導入していたため、マニア層から一定の支持を得ています。本ブログでは過去に100mm F1.8と133mm F2.8の2本をご紹介しましたが、同社の望遠モデルにはまだまだ種類があります。今回は一度も取り上げた事のない焦点距離105mmを手に入れましたので、試写記録を残しておきたいと思います。
焦点距離105mmのモデルには、やや背伸びをした分だけ画質的に粗のあるF2、徹底して安定感のあるF2.8、構成枚数の少ないトリプレットタイプのF3.5があります。F2.5まで入れると絞り半段ごとにF2, F2.5, F2.8, F3.5と、実に4種類のモデルが犇(ひしめ)き合っており、望遠レンズに対する三協光機の執念を感じます。そもそもエルノスター型とは少ない構成枚数で諸収差を合理的に補正でき、しかも、かなり明るいレンズが作れるコストパフォーマンス抜群の設計です。解像力は廉価モデルでトリプレットタイプのF3.5より劣りますが、明るさとスッキリとしたヌケの良さ、安定感のあるボケ、シャープで線太な力強い画作りが特徴です。今回紹介する105mmF2.5にも確かにこれらの性質がみられ、開放から全く滲まずに線の太い力強い描写で、ボケも柔らかく綺麗です。距離によっては背後にグルグルボケが少し見られますが、フツーに良く写る優等生。これは好みの問題ですが、この描写をつまらないと感じる方は廉価モデルの105mm F3.5をお勧めします。こちらは3枚構成のトリプレット型で、高い解像力と歯ごたえのあるボケ味を兼ね備え持つ、性格の異なるモデルです。
  
   
入手の経緯
焦点距離105mmのモデルはポートレート撮影にもギリギリで使えるため、中古市場では焦点距離135mmの望遠モデルよりも人気があり、高値で取引されています。105mm F2.5の場合、国内では7500円~10000円程度、海外では20000円程度の値がつきます。私は2019年12月にヤフオクでカビ入りの個体を5500円で落札、人気の無いKONICA Fマウントだったこともあり、安い値段で手に入りました。届いたレンズはクモリやバルサム剥離など深刻な問題がなく、前玉に拭き傷がありましたが、内部の清掃のみで十分な状態となりました。KOMURAのレンズは各社のマウントに対応させるためのアダプターが初めからついており、アダプターを取っ払うと48mm径のKOMURA UNIマウントになります。どうも、このマウントはネジピッチがフィルターネジと同じようなので、ここにステップダウンリングとステップアップリングを取り付け、M42スクリューマウントに変換しました。

  
KOMURA 105mm F2.5の構成図:設計は4群5枚のエルノスター発展型